それゆけ、巫女レンジャー!

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月30日〜08月04日

リプレイ公開日:2008年08月10日

●オープニング


 その日、男は衣装が入っている木箱を見つめていた。
「これは‥‥お前からの救出要請かな‥‥」
 呟き、その蓋を取る。中には綺麗に折りたたまれた衣装が何枚か入っており、男はその中の一枚を取り出した。
「待ってろ、リリア‥‥。必ずお前を助け出してやる」
「庭の水やり終わったぞ、伯父」
 しかし突然背後から声を掛けられ、男はがくりと肩を落とした。
「おい、ガキ。俺は伯父じゃない。俺の事は『お兄様』と呼べ」
「母親の兄貴なんだから伯父で間違いないだろ? 兄貴は既に2人居るからこれ以上要らない」
「生意気なガキだな〜、おい。いいから『お兄様』と呼べ!」
 両頬をつねられて、少年は実に嫌そうな顔をする。だが自分をとりあえず養っている人物である事と、自分の立場や置かれている状況を考えて、彼は仕方なく口を開いた。
「‥‥ほひーさま」
「よし、リシャール。いや、弟よ。お前に使命を与える」
 すっかり気を良くした男は、少年の頬を解放して手に持っていた衣装をばっと広げる。
「急ぎ冒険者ギルドに向かい、依頼を出して来い! そしてお前も冒険者に混ざり、任務を遂行するのだ!」
「‥‥任務」
 低く呟いた少年に、男はその衣装を押し付けた。
「これはお前の母親の従妹が大事にしてきた衣装だ。お前の母親とはかなり懇意の仲だった‥‥。これを着用し任務に就け! そして、無事達成するのだ」
「‥‥何をすればいい」
 鮮やかな色の衣装を見ながら、少年は冷たくも聞こえる声で尋ねる。だが対照的に明るい声を出していた男は、大きく頷くと箱の中の衣装をまとめて床に置いた。
「自称『巫女レンジャー』なる者達を、配下に加える。配下が無理なら協力を要請する。奴らを何としてでも味方に加えるのだ!」


 巫女レンジャー。
 巫女服を身に纏ったレンジャー男達の集団の名前である。悪しきを倒し、弱気を助ける一味らしいが、日々レンジャーとして切磋琢磨し、腕を磨き続ける事を自らに課しているストイックな集団‥‥らしい。中でも彼らが熱を上げているのは、『罠』。敵の仕掛けた罠をいち早く察知し、逆に自分が仕掛けた罠を作動させる。その事に人生を注いでいると言ってもいい。
「しかも、かなり鮮やかな色合いの巫女服を着ていて、全員色違いでした」
 彼らを目撃した冒険者達の話によると、森周辺を拠点とするに実に相応しくない色合いの巫女服姿であったと言う。
 ジャパンの風習を知らなければ、巫女服を男性が着る事に違和感など感じないだろう。だが、たとえ生粋のノルマン人でジャパンの事など全く知らなかったとしても、立ち昇る雰囲気が異様だと感じるに違いない。
 しかし冒険者達が目撃したのは5人だけだった。
 5人のちょっと変な男達が森に潜んでいただけだった。
 だが。

「あぁ‥‥彼らの話なら最近よく聞きますね」
 受付員にとりあえず依頼人からの要望を告げた少年リシャールは、バックパックいっぱいの服を取り出してそこに並べ、皆の注目を集めていた。
「これを着て仕事をしろと言っていた」
「‥‥対抗、ですか?」
 それは巫女服。様々な色がご用意されている。受付員は苦笑したが、リシャールは真面目な顔でそこに立っていた。
「敵の懐に入る為にはまず敵と同じ格好をしろという事だろうと思う」
「敵?」
「交渉が失敗すれば敵になるかもしれないって事だろ」
「まぁそうかもしれませんが‥‥」
 受付員は資料を取り出し、該当する名前を探す。
「『巫女レンジャー』。パリ周辺を根城とし、人々を困らせている悪徳商人の屋敷に罠を仕掛けて自滅に追いやる事2回。モンスターを1箇所に誘い込んで囲い、罠に掛けて全滅させた事1回、半壊させた事2回。貴族の家の令嬢をご本人の了承を得て攫い、追っ手を罠に掛けて半壊させ、令嬢の要求を両親に飲ませた事1回‥‥。やっている事は間違っているとも正しいとも言い切れないのですが、20人以上から成るレンジャー集団で、特に罠に特化している事を考えれば‥‥真っ向から挑むのは危険かと」
「だからこの服を着て、仲間になると言って協力を持ちかけるのが筋だと思う」
「彼らと対等以上の立場から協力を要請するのは、かなり厳しいと思いますよ。彼らに負けたと思わせなければならないでしょうし‥‥その事から考えると、確かに仲間になってから持ちかけるのが良いかもしれませんね。ただし‥‥」
 冒険者用に用意された巫女服を片付け、受付員はリシャールの目をじっと見た。
「仲間になってからも、素直に協力するような者達ではないでしょう。彼らの助力を得たいならば、彼らに勝たなければならない‥‥そんな試練がきっとあると思いますよ」
「分かった」
 だが少年は短く答え、踵を返す。
「冒険者には、その事も伝えておいてくれ。冒険者なら‥‥手間取る相手でもないと思う」
「分かりました。では、確かにお預かりしました」
 大き目の巫女服を着て去っていく少年の後姿を見送り、受付員はちらと片付けた巫女服を見やった。
「‥‥さて‥‥どうしてくれようかな‥‥」
 そして、薄く笑う。

●今回の参加者

 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3692 ジラルティーデ・ガブリエ(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb9226 リスティア・レノン(23歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec2332 ミシェル・サラン(22歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)

●サポート参加者

アーシャ・イクティノス(eb6702

●リプレイ本文


 ざざざ‥‥。草原の中を強い風が通り過ぎていく。
「待たせたな、入隊希望者共」
「‥‥あぁ」
 ロックハート・トキワ(ea2389)は目の前横一列に並んだ色とりどりの袴を身につけた男達を見やり、特に表情も浮かべず答えた。だが実にシリアスな場面を醸し出す彼も、男達同様巫女服着用である。
「‥‥我々と共に戦うならば、まず入隊するに相応しいか見極めさせてもらおう」
「分かりました」
 同じように桃色の袴を履いたデニム・シュタインバーグ(eb0346)が真剣な表情で頷き、のそのそとコゾウガメとは名ばかりのスモールシェルドラゴンに乗って参上したエーディット・ブラウン(eb1460)も、嬉しそうに皆を見回して声を上げた。
「レンジャーさん達、女装が大好きなのですね〜。さすがノルマンの人たちです〜♪」
「えぇっ‥‥女装っ?!」
 勿論巫女服は一見女装には見えない。言われてデニムは自分の格好を確認した。パリを出る前に、『騎士には絶対に巫女ピンクが似合うですよ〜』と勧められて着たのだ。
「そうか、これ女物なのか。動きにくいはずだな」
 彼の隣でリシャールが呟く。
「‥‥そ、そうだね。‥‥貴方達がどのような信念で巫女服を着ているのか‥‥是非教えていただきたいです。普通に考えれば、レンジャーには不向きな服ですから」
「よくぞ聞いてくれたな! 我々の活動を世に知らしめる為、如何に目立つかを考えた結果だ」
「‥‥罠かける奴らが目立ってどうするんだ、この馬鹿どもが」
「ん? 何か言ったか、赤い袴のお前」
「別に何も思ってない」
 ロックハートの呟きを耳ざとくレンジャー達は聞きつけたが、彼は何食わぬ顔でそう返した。
「私もお話をお伺いして良いですか? あ、私は水のウィザード、リスティア・レノン(eb9226)と申します。どうぞよしなに‥‥。それからこちらは『鱗で四足』くんと『ミドリガメ』くんです」
「『ノルマンコゾウガメ』とお揃いですね〜♪」
 とりあえず、一見無害そうに見える名前の『鱗で四足』君もスモールシェルドラゴンである。確かにその名は間違ってはいない。
「ふむ。貴様らは亀軍団というわけだな」
 人4人、『亀』4体という構成に、レンジャー達は大いに頷いた。
「すまない、遅れた!」
 そこへジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)が走ってくる。その袴は確か元は白だったはずだが、今は色んな色がぐちゃらと塗られてあった。
「染色していたら時間が‥‥」
 浴衣帷子にカラフル袴、その上からふりふりエプロン、髪にはレインボーリボンを身につけた騎士様に、さすがのレンジャー達も。
「なかなかの目立ちっぷりだ、友よ!」
 泣いて喜んだ。


 ともあれ、入隊試験の説明が行われた。
 森の中にある彼らの拠点まで辿り着ければ、その実力を認めて入隊させてやろう。ただし罠はふんだんに用意させてもらうぞ、というわけで、皆は草原でまったり待機した。真夏の巫女服は非常に暑い。脱いで近くの川辺で涼みつつ、冒険者達も基本的な打ち合わせを行った。
 そして翌朝。
「待たせたな!」
「待たせすぎだ」
 試験が開始された。

「よし。ではレッドをゴールさせる為に、俺達一丸となって戦うぞ!」
「1人ずつ犠牲になって罠を潰していく強行策ですね〜」
「‥‥そ、その、かなり恥ずかしいですが‥‥頑張ります!」
「‥‥仕事だからな」
「‥‥あら? そういえばミシェルさんは‥‥」
 リスティアがきょろきょろする。
「ミシェルさん? どちら様ですか〜?」
「あら?」
 リスティアに、『レンジャーさんと仲良くなる事から始めるのが良いと思うわ』と助言したミシェル・サラン(ec2332)の姿が見当たらない。
「‥‥シフールの事か? そいつなら‥‥」
「なら?」
「何でもない」
 ちらとリスティアを見たロックハートは、彼女が着ている巫女服の後ろ襟の間からそっと目まで覗かせている物体を目撃したが、見なかった事にした。

「ゾウガメ大行進です〜♪」
 どすどすどす。エーディット率いる『ゾウガメ』団が草原を越えて森の中を進んで行く。些細な罠は踏み潰しての大行進だが、時折木の幹も削っていた。
「華麗なるゾウガメの王、巫女ゾウガメブラック参上です〜」
「おのれ、卑怯な!」
 罠を仕掛けていた敵が、悉く蹴散らされる罠を見て木の上で叫んだ。
「リック。他に罠は?」
「その木だ」
 デニムはリシャールと連携してバーストスマッシュで罠を粉砕。大掛かりなものだけロックハートが解除する‥‥という作戦に出る。
「そこかっ!」
 地団駄を踏んでいた敵にジラルティーデが小型大仏像を持って回りながら突撃し、その勢いと大仏像の打撃で相手を跳ね飛ばした。
「この装束は長官の愛の塊。超えられるか? お前達に!」
「あら? ジラルティーデさん、長官さんをご存知なのですか?」
「何となく!」
「この服は、その長官さんとおっしゃる方が用意したものなんですか?」
 飛んできた棒切れを剣で弾き、デニムも問う。
「俺にこの任務をやるよう言った伯父の婚約者の持ち物らしい。前にも、巫女服を着せて修道院で仕事をさせたと聞いた」
「そのお仕事、私もやりました。‥‥でも、今回の巫女服は何だか重いですね‥‥」
 リスティアが汗を拭うと、デニムは相槌を打って次の罠を壊しにかかる。人生、知らなくてもいい事がいろいろあるものだ。
 とりあえず順調に罠を潰していったかと思われた矢先。
「あ〜ら〜」
 エーディットが、乗物ごと突然落ちた。
「エーディットさん!」
「ウォーターボムの水で穴をいっぱいにして脱出しますね〜」
 乗っているのが『亀』なので溺れる事は無いだろうが、時間はかかる。
「後は任せましたよ〜。1人は皆の為に〜♪」
「くっ‥‥ゾウガメブラック! お前の事は忘れない!」
 せっせと魔法を放つ彼女を一先ず置いて、皆は先を急いだ。
「‥‥無駄に多い」
 ロックハートが思わず呟くほど、森の中は罠だらけだった。中には発見させて喜ばせた所に打ち込まれる罠もあって、リシャールの手を借りても捌ききれるとは思えないほどである。
 そして。
「3連か‥‥周到だな」
 彼らの足元に、長いロープが置かれていた。躓きそうな高さで固定されているが、それを越えた所にも草で隠すように罠があって、踏めば左右の木から何かが飛んでくる。ではと木を上って移動すれば、木の上から網が降ってくるという仕掛けだ。それをひとつひとつ解除していたが、途中で彼はその中にも罠が潜んでいる事に気付いた。
「4連か‥‥!」
 突然、思ってもみなかった方角から、細い丸太が飛んできた。それは途中でふたつに分かれ、避けきれない勢いで迫り‥‥。
「ぐはっ‥‥」
 ロックハートの前に飛び出したジラルティーデに時間差で2本共激突した。
「ジラルティーデさん!」
「うっ‥‥星が‥‥星が見える‥‥」
「お前、そこに出ると連鎖が来るぞ」
 ふらふら前に出た男は左右から振子のようにやってきた枝に打たれ、頭上から網を被せられる。更に彼はリスティアの悲鳴を聞き、敵の姿を視認して気力でそちらに向かってタックルした。
「さぁ! 範囲魔法で俺ごと撃てー」
「アイスブリザード!」
 容赦なく至近距離で撃たれ、ジラルティーデはごろんごろんと転がる。
「‥‥変態だな」
「び‥‥びっくりしました‥‥」
 朦朧とした頭で敵の姿を誤認してしまった男は、間違ってリスティアに抱きついた挙句魔法の餌食となってしまったのであった。
「くっ‥‥お、俺達の‥‥長官を‥‥頼む‥‥」
「はい。仇は必ず討ちます!」
 そしてジラルティーデの遺志は、デニムへと受け継がれた。

「わ、私の名はリスティア・レノン。人呼んで、巫女探偵アクア。水溜りに呼ばれて推参です!」
 進むうちにレンジャー自身の妨害に遭うこともあった。ロックハートやリシャールが罠解除で手が離せない時は、デニムやリスティアが戦うのだが。
「あら? ここ何処でしょう」
 さりげなく散り散りにさせられたりもした。
「ははは。騙されたな!」
 そこに、木の上から男が現れる。アイスブリザードを唱えようとリスティアも身構えた瞬間、背後から変な声が聞こえてきた。
「あぁ〜ん、いやぁ〜ん、罠で服が破れちゃう〜♪」
「えっ、えぇっ?」
「敵を誘い出す作戦よ。困ってるフリして!」
 今までずっとリスティアの服の中に潜んでいたミシェルが、やっとの出番と声を出したのであった。言われてリスティアはおろおろする。
「やだ〜、どんどん破れちゃう〜♪ 誰か助けて〜♪」
「仕方のない奴だなぁ〜!」
 男が近付いてきたので、充分引き寄せてミシェルはぽんと背中から出、羽を伸ばした。
「アイスコフィン!」
 敵を固め、ミシェルはくるりと一回転。びしっと決めポーズを取る。
「愛と勇気の隠しキャラ、巫女抹茶グリーン参上!」
「ミシェルさん、ずっと巫女服の中に居たのですね」
「騎士様のタックルの所為で、さっきは危うく死に掛けたわ」
 ともあれ、2人は合流すべく来た道を戻っていった。

 数十分後。
「あら〜? こんな所に氷漬けになった人がいますね〜」
 『亀』に乗ったエーディットがそこを通りかかり、それを見上げた。
「‥‥ん〜‥‥どこかで見た顔だと思ったら、ポールさんですね〜♪」
 と話しかけても、当然塊は何も言わない。
「パリに戻ったら、マルクさんとフローラさんにポールさんの勇姿を伝えておきますね〜」
 そう言いながら、彼女は去って行った。


「きゃあああ」
「リスティアさん!」
 合流こそ出来たものの、罠と敵の攻撃を耐えつつ先に進むのは至難の技。早々にリスティアが倒れ、駆け寄ったデニムはうっかり罠を踏んで空中に吊り上げられてしまった。それを落とそうとリシャールがナイフを構えたその表情を見、デニムは叫ぶ。
「リック! 人を傷つけたら駄目だ!」
 我に返ったようにナイフを持ち替え、リシャールはそれを投げる。そのまま飛び掛ってきた敵を素手で相手する少年を見ながら、落とされたデニムは足首に嵌まっていたロープを切った。
「もう! どうしたのよ、私と貴女は一心同体でしょ? 私を置いて逝っちゃいやぁ」
 気絶しているリスティアに取りすがっていたミシェルは、新たな宿主を求めてロックハートの近付く。
「‥‥そういえば貴方、前口上は?」
「レンジャーに決め台詞はいらん。話す暇があるなら手を動かせ‥‥!」
「でも必殺技くらい」
「必殺技?! レンジャーにそ」
 言った瞬間、デニムが倒した敵が何かを踏んでしまったらしく、飛ばされる2人が見えた。
「ちっ‥‥こんな所で足止め食らってる場合じゃないな‥‥!」
「えっ‥‥あれ? 助けないの? 見殺し?」
「見殺し? ‥‥いや、違う! 俺は、仲間がこれくらいの窮地を乗り越えられると分かっているんだよ‥‥!」
「‥‥そうね! 巫女アクア! 私、貴女が復活する日を待ってるわ!」
 ロックハートの動きに合わせて共に飛んでいたミシェルが、後方に向かって叫ぶ。
 そして、2人は遂に敵の拠点に辿り着こうと‥‥。
「ふぎゃ」
 して、木の間に入念に張り巡らされたトリモチにミシェルは体をぶつけた。
「アレ? あれ‥‥と〜れ〜な〜いぃ〜!」
「トリモチ程度じゃ死なん。じゃあな」
「ええええ‥‥置いていかないでくださいよぉ〜〜〜」
 哀れクモの巣に掛かった獲物のようにじたばたするミシェルだったが、それが尚更状況を悪化させている事には気付かない。そんな彼女を置いて、ロックハートは森の更に奥へと進んでいくのだった。

「あら? デニムさんとリスティアさん発見ですね〜♪」
 のそのそ進んでいたエーディットは、気絶していたリスティアを起こしてから、別の罠に引っかかって木の幹にぐるぐる巻きにされているデニムに近付いた。
「すみません。僕は‥‥恥ずかしいです。騎士として皆さんを守れず、リックとも逸れてしまうなんて‥‥」
「気にしちゃ駄目ですよ〜」
 言いながら『亀』に彼に巻きつくロープを引っ張らせていたエーディットだったが、『亀』にあまり器用さを求めてはいけない。いつの間にか巫女服を引っ張っている『亀』だった。
「あ。あんまり強く引っ張ったらダメですよ〜」
「エ、エーディットさん! 服が破‥‥」
 びりびり。
「あら〜♪」
「あらあら‥‥」
「み‥‥見ないでください!」

 途中でトリモチぐるぐるなミシェルも回収し、皆は解除されてあちこちに放置されている罠を見ながら進んだ。
 そして。
「お主‥‥なかなかやるな!」
「はっ‥‥レンジャーたるもの、放つ攻撃全てが姑息!」
 しゅぴーん。ロックハートが手に持っていたロープを放ったように見せかけて、尖った枝を投げる。対峙していた男はそれをかわしナイフを返したが、ロックハートもそれを回避した。
「かつ‥‥必殺なり得るからな‥‥!」
「同感だ。だが‥‥これで終わりだ!」
 男が足元のロープに手を掛ける。だがその刹那。
「とう!」
 ゆらゆらとジラルティーデが空から降ってきた。そして気合の声を出した数秒後、彼は戦う2人の傍の大地に足をつける。
「巫女‥‥それは人と神とを繋ぐ心の架け橋!」
 何故か左手に大仏、右手に西洋人形を持って両手を挙げた状態で落ちてきた彼は、慈愛の微笑を浮かべてそう叫び。
「邪魔」
「うわあぁぁ」
 男が仕掛けた罠により再び丸太を頂戴し、くるくると飛ばされて行った。
「‥‥彼の背中に『俺に続け』って書いてあった気がするわ」
 トリモチを落とそうと頑張っていたミシェルがそれを見送ったが、エーディットとリスティアは最早それを見ていなかった。
「デニムさん。出番なのですよ〜♪」
「‥‥こんな格好で、人前には出れません‥‥」
 しかし、デニムは皆に背を向けて落ち込んでいる。
「袴が無くても、単衣がミニスカートみたいで可愛いですよ?」
「‥‥騎士に、可愛さは不要です‥‥」
 落ち込んでいるデニムに2人が構っている間にロックハートは長い戦いを制し、男にナイフを突きつけていた。
「さぁ‥‥最初に言った通り、仲間として協力してもらおうか」
 皆の拍手を受けながら、ロックハートはレンジャー達に告げる。
「そうそう。素敵に倒し甲斐がある悪党がいるのよ。血沸き肉踊る活躍をしてみない? 巨大な悪に囚われたお姫様を助け出すなんて、ロマンじゃないの」
 ミシェルが素早く近付き説明した。
「勿論お姫様は美人よ」
「敵を倒す為に協力し合うのって、如何にも正義の味方っぽいですよ〜」
 エーディットも後方からそう言い、レンジャー達はふむと顎に手をやる。
「良かろう。その巨悪とやらの話を詳しく聞こうじゃないか」


 そして、彼らは依頼人リシャールの伯父、エミールが居る館へと向かった。
 無神経な事をリシャールに言ったエミールに対してデニムが怒る場面もあったが、その他は概ね順調に話が運び、レンジャー達は協力を約束した。そして冒険者巫女達もその任を解かれ、任務を全うしたのである。

 尚、虹色巫女の行方は、定かではない。