アナスタシアポイント〜受付嬢最後の依頼〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月08日〜08月13日

リプレイ公開日:2008年08月18日

●オープニング

「これが‥‥冒険者ギルド員受付嬢としての、最後の、依頼」
 その日、もう娘とは言えない年頃の女が、静かに冒険者を前にして告げた。
「長い間‥‥みんなには世話になったわ。いろいろ我侭も言って困らせたりして、悪かったわね」
 そう続けて、目の前に居る冒険者達が変な表情になっているのに気付く。
「‥‥何よ。あたしだって立派な大人の女なんだから、きちんと謝ったり感謝したりするわよ」
 しかし過去を鑑みるに、この女が歳相応の淑女として振舞った事は恐らくほぼ無い。
「まぁでも‥‥これが最後と思って、あたしからの依頼を受けて貰えると嬉しいんだけど」
 そう呟くように言うと、彼女はひとつの話を始めた。
 それは‥‥遠くて近い、昔話。

 ロシアの或る所に、1人の女の子が居ました。
 彼女の名は、アントニナ。赤毛の可愛い女の子でした。
 アントニナには一緒に暮らす両親が居ました。美女と名高かったハーフエルフの母親と、ごく普通の人間の父親です。
 しかし、父親は商売に失敗し、多額の借金を作った挙句、家出してしまいました。
 残された母親は、女手ひとつで幼い娘を育てながら借金を返す為にひたすら働き続けます。
 そんな苦労を見て育った娘は、10歳になると同時に決心をしました。
『冒険者になって、お金を稼ごう』。
 それが、借金を返す一番の早道だと娘は考えました。そして、その足で冒険者ギルドに向かったのです。
 でも。
 娘は誰にも言わなかったけれど、もうひとつ決心をしていました。
 それは。

「有名になって、妻子を置いてとっとと逃げ出した男を探し出してぶん殴る。一発殴ったくらいじゃ気は済まないけれど、とにかく殴る。力いっぱい殴る。道の端まで飛んでいくくらい殴る。そう神に誓ったのよ」
 受付嬢は静かにそう言い、冒険者を引退した後も密かに修業を欠かしていないらしいと噂の両腕をカウンターに置いた。
「‥‥アントニナはファイターとして実に才能があって、20歳になる前には世界中を飛び回るようになってたわ。その頃には母親が背負ってた借金も返すことが出来ていたし、財産も名誉も仲間も手に入れて、順風満帆だった。でも‥‥ずっと探していたのよ。何度殴っても気が済まない、憎い男の事を」
 そして最近‥‥アントニナは、今までどれだけ望んでも手に入らなかった父親に関する情報を手に入れた。
「それはまぁ‥‥彼女の祖母、占い師のアデライドが教えてくれた事なんだけどね。アデライドにとっては娘の子供。可愛くないわけがないわ。孫としちゃ、借金まみれの母親を手助けにきてくれればいいのに、と思わないでもなかったけど、あの人はエルフの夫とも若い頃から離れてそれぞれ好き勝手に暮らしてるらしいし、期待しても仕方のない事だったかも。それに、その血がアントニナにも混ざってるのかもね。‥‥アントニナは‥‥」
 一瞬言い淀み、受付嬢は冒険者を見つめる。
「父親を探す為の手段として、その名を捨てた。母親の名を名乗ったわ。それが‥‥アナスタシア」
 そう告げると、受付嬢アナスタシアは、いつになく真剣な表情で皆を見回した。
「‥‥私からの最後の依頼目的はただひとつ。『父親を見つけて』」

 父親に似た男が、最近パリの酒場に現れたらしい。
 では父親はパリに居るのだろう。いや、もうパリから出て行ってしまっているかも。どちらにせよ、手掛かりが欲しい。今度こそ、何としてでも見つけ出す。
 20年の歳月、冒険の合間に父親を探し続けていた。もう、そのような人生にケリをつけたいのだと、アナスタシアは呟いた。

●アナスタシアポイント景品一覧表

2点 ワイン 
4点 肩叩き券
6点 毛糸の靴下、毛糸の手袋、毛糸のマント、毛糸の敷物、毛糸の褌からどれか1つ
10点 ピグマリオンリング、マジックプロテクションリング、ブラックリングからどれか1つ
    スクロール初級:ウインドレス、ファイヤーバード、クーリングからどれか1つ
    防具:トワイライト・マント、ウルの長靴、タートルシールド、ブリガンダイン、ヴァイキングヘルム、刺繍入りローブからどれか1つ

今回でポイントと景品との交換は終了です。余ったポイントは以後消滅しますのでこの機会にご利用を。

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea2554 ファイゼル・ヴァッファー(30歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 決着を付けたいのはいろんな事。
 でも、終着点は見えて来ない。
 結婚や夫婦や親子って、一体何なのかしらね。


「最後まで、お引き受け致しますよ」
 パラであるから人間にとっては少年に見える、綺麗な碧の双眸を持つミカエル・テルセーロ(ea1674)。伸びやかな少年らしい声に、アナスタシアはその姿を見下ろした。初めの頃はいろいろ言い合いもした気がするけれど、嫌いじゃなかった。この柔らかな金の髪を持つ少年の事は。
「アナスタシアさんの父親捜索との事ですが‥‥どんな方を探せば宜しいのでしょうか? 現在の容姿は分かりますか?」
 陰守森写歩朗(eb7208)のジャパン人らしい爽やかな印象は、今も変わらない。どちらかと言えば縁の下の力持ち。今もこうして真摯な表情で真っ直ぐにこちらを見てくれて、以前に自分の事を褒めてくれたりして。イイ人なんだろうと思う。本当に。
「自分の親父をぶん殴る、か。やってみたかった事のひとつであるのは間違いねーな」
 シャルウィード・ハミルトン(eb5413)。同じ年代のファイター。元ナイト。褐色の肌に金の髪が似合っていて羨ましくさえあるけれど、さばさばした性格は結構好きだと思う。現役時代、一緒に冒険出来ていたら楽しい旅になっただろう。
「ひとつのケリね。父親探し、手伝うぜ」
 いつからだろう。男のくせにペガサス乗り回して(注:アナスタシアの偏見)、生意気な事ばかり言う年下のファイター、ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)の事が気になったのは。
「うわっ‥‥いきなり鞭か! 手伝うって言った奴に鞭振るうかぁ?!」
「‥‥何となく、ムカついたから」
「まぁ、やれるうちにやっとけ」
「シャルまで言うかっ」
「‥‥ありがとね」
 ぽつりと呟くと、森写歩朗を除いた3人は驚いたように彼女を見やった。
「でも‥‥父親が見つかるまでは、家に帰らせないわよ‥‥」
 笑い声がトグロを巻きそうな執念の笑みを見せる彼女に、4人は何かに押されるようにして頷いた。


 アナスタシアから聞いた父親の情報を、ミカエルが絵にしてまとめる。それを4人が各々持って探索する事になった。
「それにしても、占い師のアデライドが祖母とはなぁ‥‥。ちなみに祖父母が今どこでどうしているのか、知らないか?」
 ファイゼルに問われ、アナスタシアは肩を竦める。祖母はいつもの場所で辻占いをしている事が多いが、いつでもいるわけでは無いし、祖父については。
「あぁ、あいつならパリを離れてどっか行ったらしいわよ」
 というわけで、ファイゼルと森写歩朗はアデライドが露店を開く通りにやってきた。
 森写歩朗は、アナスタシアの思い出の中で父親が常に身につけていた物が無いか尋ねたが、青色が好きで青の服や物を好んで身につけていたくらいしか記憶が無いと言う。容姿や体格も告げたが、20年も経っていれば少しは変わっているだろう。
「アデライドさんならば、今の彼の姿を一番良く分かっているかもしれないと思いまして」
 森写歩朗の説明を聞き、アデライドは白色の球を覗き込んだ。
「ふむふむ‥‥お前さん、近いうちに新たな道が開けるかもしれんのぅ‥‥」
「いえ、自分の事を占って欲しいのではなく‥‥」
「そっちのあんたは‥‥ふむ。女難の相が出ておるのぅ‥‥」
「なにぃ!」
 ふぉふぉと笑うアデライドの性別不明な外見からは、全く意図が読み取れない。
「そうじゃの‥‥。今の奴の顔は、『こんなん』じゃ」
 そう言うと、アデライドは水晶球を取り出してそこに映った顔を2人に見せた。特に際立った特徴の無い平凡な人間の男が酒を煽っている姿だ。
「こんなに簡単に分かるなら、ミカエルさんを連れてくるべきでしたね」
「気合で憶えるんだ!」
「‥‥連れてきます」
 というわけで、市場でうろうろしようとしていたミカエルは、強制的に連行された。
「ふむ‥‥お前さんも女難の相が出ておるのぅ‥‥」
「女難‥‥ですか? でも僕は人口の少ないパラですし、女性で困った覚えは」
 しかし『ふぉふぉふぉ』と笑って誤魔化されるミカエルであった。
 ともあれ再度似顔絵を描き、3人はアデライドに別れを告げる。
「あ、そうだ。アナスィ‥‥アナスタシア‥‥じゃないんだっけ。まぁいいや。彼女の誕生日って知らないか?」
「8月15日じゃよ」
「では父親が見つかったら、冒険者復帰祝いも兼ねて、ささやかにお祝い致しましょう」
 森写歩朗の言葉に他の2人も頷いた。
 そして去り際‥‥。ふとミカエルは振り返る。
「‥‥アデライドさん。大変失礼な事かもしれませんが、シメオンさんの事‥‥宜しいのですか?」
「あたしはもう、あの男の歳を越えてしまったからねぇ‥‥」
 そう言って、アデライドは簡単にミカエルに説明した。エルフであるシメオンには前妻が居たが病死。その後、自分が15歳の時にロシアまで行って結婚。娘を産み、彼女が15歳になるまで共にロシアで暮らしていたが、シメオンもアデライドも定住は向いておらず、結局娘を置いて別々に旅立ってしまった。アデライドはちょくちょく娘に会いに行ったが、2人揃って良い親では無かった為、娘が夫に逃げられた時は後悔したと言う。
「この歳になれば、夫の事より孫の事が気になるもんさ。あんた達のような友達が居て支えてくれて、それが何より嬉しい事じゃな」
 エルフ、人間、ハーフエルフ。それぞれ生きる長さの違う3種族がひとつの家族として長い時を過ごす事は難しい。それ故の悲しみもある事だろう。この世に生きるハーフエルフの多くが同じ思いを抱いているかもしれないが、ここにそのひとつの例があった。


 さて。ハーフエルフであるシャルウィードはこの件を聞いてどう思うだろうか。
 勿論特に珍しい話でもないので、感慨深く感じる事など無いかもしれないが。
「問題は、来たのが最近なのか、まだ居るつもりなのか、もう定住する気でいるのかって所だな」
 父親が出没したという酒場には森写歩朗が潜り込んだ。手伝いをしながら張り込みと情報収集する役割である。
「10年もパリに定住してりゃ見つかるからな、フツー」
「‥‥あの男はロシア出身だから、当然国教は『黒』なのよね。黒教会の少ないパリだから、定住してれば当然早くに見つけれたと思うわ」
「じゃあ、黒教会も回ったほうがいいか。‥‥あちこち転々としてるなら、滞在場所は安宿か野宿。パリで野宿ってなると目立つし、追い出されずに住める場所ってのも限られてくるよな。安宿って限定すると‥‥結構な数があるよなぁ‥‥」
「あいつ、酒場で名を名乗ったのよ。それを偶然知り合いが聞いてて教えてくれたんだけど、名乗ったって事はまだ商売やってる可能性が高いと思う。パリでひとつ商売をやってから移動するつもりなら、市場に場所を借りなければならないから手続きも必要ね」
「そうなると、すぐに移動はなさそうだな‥‥。出没した酒場付近から始めてみるか」
 地図を睨み、シャルウィードはアナスタシアに指示を出した。1人で宿周りは大変だ。アナスタシアも進んで分担を申し出た。
 情報を提供してくれた者には一晩の宿代を渡す、という提案をしたシャルウィードだったが、さすがにそれは本人が懸念するように赤字になりそうな気配である。酒場なら酒一杯か二杯で充分だろう。酒場に入り浸るような連中ならば、それだけで口も軽くなるというものだ。
 一方ミカエルは、露店や酒場や宿屋などを巡った。そこで出会う大小様々な人々に『父親を探し続けた娘の話』を多少大袈裟に切々と語りかける。人間にとってみれば、少年にも見える彼が切々と語る事自体哀れであり、同情を感じる者も居た。そうと分かれば、出来る限り持ちえる衣装の中でみすぼらしいものを着用するのが正しいやり方である。勿論彼は嘘を言っていない。ものは言い様。多少演出をしてみただけである。
「‥‥と言うわけなんです。お父さん、お母さん。そんなお嬢さんの為にも、ご協力いただけませんか?」
 うるりと目を潤ませてみれば時には違うお姉さんが引っかかったりもしたが、そこはかわして似顔絵を見せ、似た人物を見かけたら教えてくれるよう頼む。お友達にもこの話をしてくださいと伝え、じわりと話が広まるのを待ちながら、実際に父親が出没しそうな場所を彼自身でも巡った。
 ファイゼルが向かったのは、パリ近隣の町村である。ペガサスで飛び、降りるときは町村から見えない場所に降りて待機させ、一人で町村に入った。ペガサスは天の使いとも言えるから、ほいほい人前で乗り回すものではないのである。
「こういう男捜してるんだけどさ」
 似顔絵を見せつつ店員にも声を掛けた。仕事柄、彼らが一番客の顔を覚えているからである。
 森写歩朗は料理や給仕、掃除などを行っている。特に掃除は細やかに行い、店が繁盛する事を目論んだ。評判になれば標的が客として訪れる事があるかもしれないし、人が集まる場所には自然と情報も集まるからである。
 フリーズフィールドで食糧の保存や氷作成を行い、酒場のメニューも冷涼さを売りにしたものに変更するよう頼み、自らその一角を担う。酒場としても、この暑い季節に氷を使った飲食物は最適だから、進んでそれに従った。更に森写歩朗は市場、エチゴヤ、港にも買出しを兼ねて顔を出し、男の目撃情報が無いか似顔絵を見せて回る。
 又、一日に何度か、サンワードを行った。サンワードは早々に反応があり、彼は休憩時間にフライングブルームに乗ってパリの東西南北それぞれに移動する。しかしサンワードが教えてくれるのは漠然とした距離のみだ。どこに行っても『近い』というので、更に下がって『遠い』という方角は外したり、様々な試みを行った。
 そうして、彼らはそれぞれに父親探しに力を注いだのである。


「市場近くの酒場で見た人が居たそうです」
「港近くの安宿に泊まってたみたいだな」
「自分が働いている酒場に再度顔を出したようです」
「パリ周辺の町村では見たって話なかったな」
 4日も経つと、彼らの周りに様々な情報が集まってきた。それを取捨していくと、男の足取りが徐々に見えてくる。
「宿に踏み込むのが一番か‥‥? 酒場じゃ他の客が邪魔になるしな」
「自分が働いている酒場なら、通用口などの封鎖は可能ですよ。酒場内の勝手は分かっていますから」
「逃げる前に確実に見つけましょう」
「んじゃ、森写歩朗の酒場と、泊まってる宿屋、二手に分かれようぜ」
 珍しく神妙な顔つきでアナスタシアも頷いた。そして酒場に張り込む。緊張した顔つきの彼女をシャルウィードが背中から叩き、笑いながら宿屋へと向かって行った。振り返ると、ミカエルと森写歩朗も頷いている。
「20年ぶりに、会えるといいですね」
 ミカエルが囁いた時、酒場に客が入ってきた。森写歩朗が応対に出て、潜む二人のほうを見る。
 標的が、来た。
 森写歩朗が注文を聞いている間にミカエルは裏手に回り、アナスタシアは立ち上がった。そして真っ直ぐ男のほうへ向かっていく。そして森写歩朗とは逆側に立ち、逃げ道を封じた。
「‥‥久しぶり」
 声を掛けられ、50代後半と思われる男は不思議そうな顔をする。
「アナスタシアの事、覚えてる?」
「アナスタシア‥‥? あぁ、美女に多い名前だな。懐かしい名前だ」
「‥‥懐かしい?」
 しゅぼーと彼女の背後に炎が吹き上がる幻を、森写歩朗は見た気がした。
「故郷に置いてきた人の名でね。子供も可愛い盛りだったが‥‥。借金を返し終わったら帰ると約束したが、返したと思ったら増え‥‥なかなか上手く行かないものだねぇ」
「はぁ?!」
 アナスタシアの声に、ミカエルもそっと戻ってくる。
「そんなの、夫婦で力を合わせて返していけばいいじゃない! 何で別々に返す必要があるわけ?!」
「何故って‥‥彼女にそれ以上の苦労を負わせ」
 ぎゅー。アナスタシアは、父親の両頬を思い切り引っ張った。
「アナスタシアさん‥‥。そのくらいで‥‥」
 一発殴るより哀れな光景に見えて、つい森写歩朗は声をかけてしまい、その横顔が目に入る。
「あんた馬鹿じゃない?!」
 ぎゅうぎゅうつねりながら、彼女は泣いていた。


「何だ、殴らなかったのか」
 残念そうに、シャルウィードがワインの入ったゴブレットを手に取った。このワインは、ミカエルがポイントを使って交換したものである。
「ま、ぶん殴る前に死んじまってなくて良かったな」
「本当に‥‥」
 ミカエルは、不機嫌そうなアナスタシアを見ながら呟く。
「憎いと思うのは、愛しているから‥‥ですよね」
 誤解もあっただろう。母親ばかりが苦労していると彼女は思っていたから。
「うちは、どうやら夫婦仲云々の前に離れ離れになる家系らしいわね。あたしは、結婚を終着点になんて絶対しない。幸せになれそうにないし」
「そんな事は無いと思いますが」
 森写歩朗が皆に菓子の差し入れを配りながら、あっさり言った。
「そーいや、誕生日だってな。もう祝ってもらうのも微妙な歳かぁ?」
「そこ! 何笑ってるわけ? あんただって同い年くらいじゃない!」
「まぁ、あたしは歳なんて気にしてねーし」
「誕生日がお目出度いのは確かですよ」
「あんたもね! 何で肩たたき券2枚と交換してるわけ?! そして傷心のあたしに肩叩きをさせるのって鬼じゃない?!」
 ぶつぶつ言いながら、アナスタシアはミカエルの肩を叩く。
「‥‥お小言ばかり言ってた気がしますけど、僕は一部以外は貴女の性質は嫌いではない。友達だと思ってます」
 一瞬黙り込んだアナスタシアに、ファイゼルも近付いて指輪を渡した。
「前にプレゼントを‥‥何であれ、貰ったからな。そのお返しだ。誕生日おめでとな」
 貰った指輪をしげしげと見つめるのを他の皆が見守る中、ファイゼルはもう少し彼女に近付いて声を落とす。
「‥‥俺は、あの人の事が好きだから、頑張るから‥‥」
 その言葉に、女は僅かに肩を震わせた。
「アナスィも男運が上がるように、アメジストのリングを。な?」
 ばきっ。
 次の瞬間、ファイゼルは渾身の一撃を食らって床を転がって行った。
「‥‥興味の無い女に指輪を贈るって‥‥いい根性してるわね‥‥。あんた、女心を100年勉強するといいわ‥‥」
「ハハハハ。違いねぇな」
「では自分からはこれを。冒険者に復帰すると聞きましたので」
 森写歩朗は、用意しておいた耳飾と簡易テントを渡す。それを嬉しそうに受け取って、アナスタシアは早速耳に付けてみる。
「冒険者に戻っても、パリには残るんだろ?」
 それへシャルウィードが声を掛けた。
「なんかいい仕事があったら噛ませろよ」
 ミカエルもシフールのぬいぐるみを渡し、実に嬉しそうなアナスタシアを見つめた。
「今度は、冒険先で会いましょう。アナスタシア」

 そして、アナスタシア。本名アントニナは、冒険者ギルドを去っていった。
 だが、彼女の第3の人生は、始まったばかりである。