薔薇色の(必殺?)着ぐるみ仕事人

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月06日〜09月11日

リプレイ公開日:2008年11月30日

●オープニング

 お前さんは聞いたことがあるかい?
 この町に、最近広がる噂の事を。
 この世には、いろいろ理不尽な事も多いよな。
 貧しい奴が毎日汗水流して働いて、やっと稼いだ金で精一杯生きてるってのによ。
 金だけ掛けた、センスも何も無い格好でうろちょろする貴族とか商人とかって奴らが。
 そんなナケナシの金も奪っていきやがるのさ。
 なぁ‥‥こんな世知辛い世の中。
 貧乏な奴らはどうやって生きていけばいいんだい?
 泣き寝入りするしかない奴らは、一生救われないままかい?

 なぁ‥‥。
 お前さんは、どう思う?


「と言うわけなのよ」
 パリ某所。誰が見ても一目瞭然のその店の名は、『気高き薔薇亭』。女装ジャイアント達がお客様を熱くもてなしてくれるお店である。
「と言うわけ、って‥‥マリアさん、その話引き受けちゃったの?」
 問われて、その店に居る誰より小柄なジャイアントは、胸を張って頷いた。
「だってこの世のアクを切る仕事よ? 見せしめにするわけなのよ? 日頃、世間の弱者として生きるしかないんだ、ってお姉様達嘆いているじゃない。そんなあたし達でも、同じ弱者を護れる! これって劇的な事じゃない?」
 か弱い一般庶民の方々は、恐らく『同じ』弱者扱いはされたくないだろう。どう見ても、『彼女達』は実にたくましく生き抜いているように見える。
「でね。悪者を成敗するには、正体がバレたら困るわけなのよ。だから、正体を隠して仕事をこなさないといけないのよ。‥‥と言うわけで、『これ』を着てこの世のアクに立ち向かうわけ」
「あら。これって、冒険者の間で流行ってるって噂の『まるごとさんシリーズ』でしょぉ? やぁだ、あたしこれ欲しかったのよね〜」
 別の『娘』が間に入り込み、巨大サイズの白い防寒具を手に取った。
「この前、ドワーフがこれ着てるの見たのぉ。すっごく可愛くてぇ、グリグリ抱きしめたいくらいだったわぁ」
「エレンはちょっぴり他の子より力が強いんだから、手加減しなくちゃダメよ」
「ドワーフだってタダじゃ潰されたりしないわよぉ」
 と、ひとしきり笑った後、『彼女達』は、しげしげと真っ白防寒具を広げて見つめる。
「でも‥‥この季節暑くない?」
 真夏の暑さは和らぎ秋の気配を感じる季節になったというものの、もこもこ防寒具は見るからに暑そうだ。
「あ、でも痩せるかもぉ?」
「何者かバレたら騎士団に追い掛け回されるから、仕方ないのよ。全身防寒具を着て仕事を行う。これが鉄則みたい。マスカレードがあったら尚、いいかもなのよ」
「ん〜‥‥マスカレードくらいならお店にあるわよね。でもマリアさん。悪に立ち向かう、って‥‥暴利貪る金持ち達を懲らしめるって事なんでしょ? ちょっと危険じゃない?」
「悪徳貴族の所為で病を治すお金も薬草も買えず、苦労している親子が居るとか、そのうち、娘さんが借金のカタにその貴族に売られそうだとか、病気がちのお父さんを支える為に借金したのに、騙されて借金倍にされた挙句、妹が屋敷の使用人としてタダ働きさせられそうだとか、そんな話が蔓延っているそうなのよ? 勿論、お姉様達に危険な目に遭って欲しいわけじゃないの。でも、あたしはその悪徳貴族が許せないのよ。だから戦うんだわ」
「言いたい事は分かるんだけど‥‥」
 ドレスを脱いで、無理矢理真っ白防寒具を着用しようとしているマリアを見ながら、彼女のお姉様格、キャサリンは首を傾げる。
「‥‥マリアさん、破れそうよ」
「き、に、し‥‥ちゃいけ‥‥く、くるし‥‥」
「エレン。脱出させてあげて」
「はぁ〜い」
「痛ー! 曲がる! 折れる! 抜けるぅぅ!」
 なにやら格闘している2人から目を逸らし、キャサリンは窓の外を見やった。
「‥‥冒険者に頼もうかしら」
 悪徳貴族を放っておくわけにはいかない。彼らに何らかの制裁を加えるのは、本来ならば騎士団の仕事だろう。だが、それが領主であるならば? 領民の誰もが逆らえない権力と権威を握って好き放題やっている、馬鹿貴族だとすれば?
「‥‥知ってしまったんだもの。後には引けないわよね‥‥」
 そう呟くと、まだわぁわぁやっている2人を置いて、キャサリンは店を出て行った。

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3277 ウィル・エイブル(28歳・♂・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec4004 ルネ・クライン(26歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文


「市井レベルでも正義は貫けますぞ!」
「えぇ、そうよね!」
 とても平和な或る日のパリ。の、昼下がり。
「ささ、これをご覧くだされ! この『まるごとおおがま』の曲線美!」
「あたしの『まるごとさん』も麗しい事この上ないのよ!」
 『気高き薔薇亭』で、真夏も過ぎる半袖半ズボン姿のケイ・ロードライト(ea2499)と、白いモコモコから手足を出した状態のマリアが、自らの防寒着について褒め称えていた。尚、マリアの防寒着は内側から力でもって破って手足を出しており、殺伐感が漂っている。
「まるごとは一度着たいと思ってたんだよね〜」
 そのうち筋肉自慢に発展しそうな2人を尻目に、ウィル・エイブル(ea3277)が用意された防寒着を手にとって裏返した。
「しろやぎくろやぎがいいね〜」
 まったり物色している彼の後方で、エーディット・ブラウン(eb1460)がふむむ〜♪ と頷いている。
「悪い貴族をやっつけるのですね〜。ではまず、悪い事をしている証拠を掴まないと〜」
 と言いながら、ゾウガメ用の付け毛を掴んでいる。付け角は彼女のペット、ゾウガメとコゾウガメ(と言う名のスモールシェルドラゴン)に既にセットされており、更にコゾウガメに椅子を取り付けようともしていた。
「これで、『ゾウメリー』さんと『コゾウメリー』さんの出来上がりなのです〜♪」
 エーディットは実に満足そうだ!
「そうね。悪徳貴族をやっつけて、町の平和を護るのよ!」
 ルネ・クライン(ec4004)は『まるごとウサギさん+1』を片手に、ふりふりひらひらエプロンドレスをもう片方の手に抱えて、ぐっと気合を入れた。
「というわけで、はい、これ」
「これはこれは、目にも鮮やかな真紅の衣装ですね」
 ルネは、どこからともなく赤い服を取り出し、エルディン・アトワイト(ec0290)に渡す。
「これは、エルディンさんにお似合いな雰囲気満点なのです〜」
「ははははは。‥‥聖職者の私にこれを着ろと!」
「今更ですぞ、エルディン殿」
「だよね〜。この前の絵画依‥‥もごもご」
「教会からの極秘抹殺指令の標的になりたくなければ、その件については黙っている事です」
「神サマに仕える人が、脅しなんてしちゃ駄目だと思うな〜」
「あら。これは仕事でしょ? 私事じゃないんだから、細かい事は気にしないの」
「そうですぞ、エルディン殿! 私など、このいでたちでの出陣ですぞ!」
「お髭に似合ってない気がするわ、おじ様」
 賑やかに準備をしている4人から離れ、エーディットがにこやかにマリアに話しかけた。
「‥‥というわけで、今から行くお店に話を通してもらいたいのです〜。お礼として、ケイさんとエルディンさん1日無料貸し出し券をお配りしますね〜♪」
「任して頂戴!」
 必要以上に別の『店員』達が反応したが、幸運な事に、その取引現場を当の標的達は聞いていなかった。
「では〜、現地に向かって出発です〜♪」
「お〜」
 

 作戦はこうだ。
 まず、件の領地へ行き、件の貴族が遊びに行きそうな店に向かう。あらかじめ、マリア達に話を通してもらっておき、そこで働く。一方で、被害者を探したり貴族の屋敷に忍び込んだり働かせてもらったりする。最終的には悪徳貴族の身柄を確保し、お仕置きを加える。以上。
「ふふふふふ‥‥いくら私が『エルフ』だからって、身長180cm標準体型の男に『スカーレットドレス』とは、勇気がありますね、皆さん‥‥」
「パリでは特に珍しくないですからな」
 露出の高いドレスを着たエルフ男と、半袖半ズボン蝶リボン姿の髭男。そう、パリでは珍しくないかもしれない。こんな奇姿は。しかし。
「いらっしゃいませ〜」
「ぎゃー!」
 出迎えた瞬間、田舎町の田舎育ちのお客様方は、硬直したり腰を抜かしたり逃亡しようとしたりした。
「まぁまぁ、お待ち下さい。私は肉体派給仕。これは、最新の給仕ファッションですぞ」
「うそだー!」
「嘘だと思うならパリへいらっしゃい。この最新の流行服が分からないなんて、嘆かわしい‥‥」
 冒険者は開き直りが早い。客を両脇から挟み逃亡を防ぎつつ、客席に案内した。本家薔薇亭とは比べ物にならないながらも、充分客に恐怖を与える2人の将来が楽しみな一場面である。
 一方、『麗しの仕掛け人』の異名を、『元祖恐怖の仕掛け人』と変名させたい程、津々浦々恐怖をばら撒いてきた娘、エーディットは。
「大丈夫です〜。きっと、『正義のまるごと』が、悪人をやっつけますよ〜」
 悪徳貴族の被害者を見つけ出し、元気付けていた。ただし、椅子付コゾウガメに乗った姿で。
「ありがとうございます‥‥。あの、でも‥‥その椅子‥‥傾いてますけど‥‥」
 突っ込む所はそこでは無いはずなのだが、斜めになっているエーディットを娘が指摘する。
「椅子の脚が長くてぐらぐらするのです〜♪ 乗るときも実は大変なのですよ〜」
「そ、そうなんですか‥‥」
 ぐらぐら振子のように揺れながら、エーディットは去って行った。


 さて。その頃、件の悪徳貴族のお屋敷では。
「ん〜‥‥、やっぱり屋根裏かなぁ」
 白くてもこもこのウィルの姿がそこにあった。日中である為、さほどは目立たない。
「よっ、と‥‥」
 パラであるウィルのしろやぎさん姿は、思わず抱きしめたくなるほどの愛らしさを漂わせていた。だがその愛らしさにあるまじき怪しい動きで、もこもこさんは屋敷内を縦横無尽に駆け巡る。
「罠はっけんー。‥‥じゃ、ぽちっ、と」
 設置されていた落とし穴を発見し、作動しないように鎖を切っておく。その上で、その場所に新たなる罠を設置した。
 一方。
「貴方様の徳高いお噂を聞き、遠い町からやってきました」
 ルネは目をうるうるさせていた。
「家事には自信があります。精一杯働かせて頂きますので、どうか哀れな田舎娘をお救い下さいませ」
 正直演技力は微妙な線である。だが、悪徳貴族はルネの全身を一瞥し、ふむと顎に手をやる。
「胸は無いようだがまぁいいだろう」
「ちゃんとあります!」
 いきなり失礼な物言いをされたが、ここは言葉で突っ込むだけでぐっと我慢である。
「だが、年頃の割には全体的に」
「あっ‥‥あまりの粗食に痩せ細ってしまったのです!」
 一応彼女の名誉の為に言うが、彼女の体型はノルマン人の標準に近い。
「そうかそうか。では我が家で存分に肥えるといいぞ」
「はいっ。ご厚情、ありがとうございます〜」
 気安く肩に手を回してくる男にそのまま裏拳を叩きつけてやりたくなる気持ちを抑えつつ、ルネはにこやかに微笑んだ。
 
 ルネ持参の鉄人の大包丁におたまは、厨房で大いに力を奮った。掃除や洗濯も積極的に行い、屋敷の見取り図や衛兵の配置等を掌握する。そうしながらも、他の使用人達から彼らの主人の話を聞きだす。悪徳貴族の悪徳ぶりは、使用人達の間でも尾びれをつけた噂話となっており、塔からお相手の女性を突き落としただの、隣町から女性を抱え込めるだけ攫ってきただの、時には人間離れした内容にもなっていた。
「とにかく、一通りの悪い事はしているって感じね」
 度々潜入しているウィルとルネは情報を交換し合う。
「これは、しっかりお仕置きしないとダメだよねー」
「そうね‥‥。全てが終わったら、私‥‥何をするか分からないわ‥‥」
「いろいろ大変なんだねー」
 言いながらも、汲んであった井戸水にウィルは顔を突っ込んだ。
「‥‥あ、まるごと濡れちゃったよ」
「‥‥暑さは人を狂わせるのね」
 ともあれ。


「‥‥もう、お婿に行けません‥‥」
 スカーレットドレス姿のエルディンが床に両手を突く中。
「今更ですぞ、エルディン殿」
「聖職者ってお婿に行けるのかなぁ」
「エルディンさんと悪徳貴族さんは、もう深い仲なのですね〜♪」
「不快な仲です!」
 店にやって来た標的にいろいろされたらしいエルディンが落ち込む中、皆は情報を揃え、準備を整えた。
「では、いざ参りましょう!」

 時は夜。
 草木も眠る、なんとか時。
 寝静まった町の界隈を、ぷぎゅぷぎゅと何かが歩いていた。
 尚、音は実際の音とは異なる効果音です。
 屋敷の裏門が静かに音も無く開き、中からウサギがそっと手招きした。鉄製の門の開く音がしないのは、あらかじめ少し開けておいたからである。その招きに従って、丸い物体がぴょいーんと飛び込んだ。その後を、白いひらひらした何かが続く。
 門の中では、見張りが複数人悶絶していた。
「‥‥何をしたんですか」
「腐敗味がしそうな古食材の差し入れをあげただけよ」
「よくそんなもの、食べましたね」
「ハーブで匂いは消したし、あらかじめお酒の差し入れをしておいたもの」
 さらりと言って、まるごとウサギ姿のルネは、鉄人のおたまを握り締めた。鉄人エプロンを身につけたウサギはなかなか可愛い気がするが、どこか鬼気迫るものがある。
「では! 必殺の! 体当たりですぞー!」
 まるごとおおがまを着てぴょいーんと準備運動をしていたケイが、勢い良く表扉に体当たりした。物凄い音がして、ケイは扉と共に屋敷内へと‥‥。
「な〜ぜ〜さ〜か〜に〜!」
 ごろごろごろとなだらかに下る廊下を転がっていく大釜らしき物体に、使用人が何人か轢かれた。慌てて逃げ出す兵士も跳ね飛ばし、どんどん加速していく大釜の猛攻に、屋敷中は大騒ぎとなった。
「必殺の〜まるごとメリーさん大行進です〜♪」
 一番最後に裏門をのそのそとくぐってきたのは、エーディットとゾウガメさん達による、『まるごとメリーさんズ』である。1人と2匹は、屋敷内をマイペースに奥を目指し、向かい来る兵士をエーディットのウォーターボムで蹴散らして進んだ。最も、コゾウメリーことスモールシェルドラゴンに向かっていく勇気のある者は非常に少なかったが。
「シーツを引っ張らないでください!」
 まるごとおばけを着たエルディンは、敵を引き付ける役目だった。だが意外と動きづらい。
「ぎゃー。頭はやめてください! 頭は!」
「ギャー!」
 防寒着の頭部を掴んで剥がしかけた兵士は、中からのっぺらぼうの顔が出てきたので腰を抜かした。
「だからやめて下さい、って言ったのに‥‥」
 のっぺらぼうの面を付けたまま、エルディンは颯爽とその場を去る。
 一方、暴走大釜となっていたケイは奥の扉を破壊し、その衝撃で動きが止まったものの室内に倒れ伏していた。
「なっ‥‥何だ! 敵襲か?!」
 室内の奥のほうで、貴族が立ち上がって辺りを見回す。2人の間にはテーブルが横たわり、皿や食事が床に散らばっていた。
「‥‥こっ‥‥」
「こっ‥‥?」
 魂が抜けそうな声が、うつ伏せのままの大釜からひゅる〜と伸びた。
「のよの‥‥あくを‥‥てっ‥‥てんがゆる‥‥しても‥‥わっ‥‥」
「‥‥何を言っているんだ? こいつは」
「さぁ‥‥」
 室内に居た友人貴族が首を傾げる。
「メェ〜」
 その2人の上方から、不意に声が聞こえてきた。
「なっ‥‥何奴!」
「隙だらけの標的発見〜」
 ぷすっ。
 天井からロープでぶら下がってきたウィルが、ブローチの針をぷすりと友人貴族の首筋を刺す。
「あ〜、間違ったかも〜」
「何だお前は!」
「『灼熱の! フライングおたま』!」
 ウィルに気を取られている悪徳貴族の後頭部を、突如激痛が襲った。
「あちーっ! 痛―っ!」
「厨房に目ありよ! 覚悟なさい!」
 更にもう一撃。だがその時には、男は床に崩れ落ちていた。
「ウサギさん、遅かったね〜」
「おたまを熱するのに時間がかかるのよ」
「ばばーんとメリーさんズ登場なのです〜♪」
 そこへ遅れてきた最終兵器ズがやって来て、ひとまず片付いているのを見、首を傾げる。
「あら〜。意外と簡単でしたね〜」
 ぷぎゅ。
「‥‥メリー殿‥‥。踏んでますぞ‥‥」
「あ。こんな所におおがまさんが落ちているのです〜♪」
「もう片付きましたか。では早速とんずらしましょう」
 最後にエルディンが入ってきて、気絶している悪徳貴族を見下ろす。
「‥‥おばけ殿‥‥できれば‥‥リカバーを‥‥お願いしたいですぞ‥‥ぐふっ」
「ケイ殿が名誉の戦死をっ!?」
「大釜も持って逃げるの? 大変だね〜」
「最後は証拠を残さないよう立ち去るのです〜。おおがまさんは窓から落として回収するのが良いと思うですね〜♪」
「‥‥まだ殺さないで欲しいですぞ‥‥」
「遊んでいる場合じゃないわ。さっさと『お仕置き部屋』に向かいましょう」


 『お仕置き部屋』。またの名を、『気高き薔薇亭臨時支部』。
「『修行中』っと‥‥」
 ウィルが、かりかりと書いた看板を貴族に取り付けた。
「実に良い眺めですな‥‥」
「邪悪なる外套を、ずーっと外せなくなる方法ないかなぁ‥‥」
「それは鬼ですな」
「不幸って、倍増したら具体的にどうなるのかしら」
「きっと、落ちなくてもいい穴に落ちたりするんじゃないでしょうか」
 メイド服を着せられ、呪いのデーツを食べさせられ、看板を提げさせられた上に、呪いの外套まで取り付けられそうになった悪徳貴族は、ワケが分からないまま床に転がされていた。
「では、最後に騎士団詰め所前に放置ですな」
「待って」
 妙に晴れやかで爽やかな笑顔のルネが、小屋(実は小屋の中だった)の扉を開く。
「お姉様達を呼んだの」
「あら〜。悪者を成敗したってホント〜?」
「‥‥」
 ケイとエルディンは、反射的に2歩下がった。薔薇亭の店員達が3名、狭い小屋の中にどかどかと入ってくる。
「良かったね〜。騎士団詰め所で社会的に死んじゃう前に、いろいろ死ねちゃうね〜」
 ウィルが笑顔で貴族の肩をぽんと叩く。
「ふふ‥‥。めくるめく愛の世界に酔いなさい‥‥さようなら」
 ルネが実に良い笑顔でそう言い放ち、いそいそと小屋を出るケイとエルディンの後に続いて出て行った。
「悪徳貴族さんも、これで一人前ですね〜♪ 応援してますよ〜」
 最後にエーディットが謎の言葉を残し、そして。

「悪を成敗するのって楽しいわね。癖になりそう」
「いや〜、良かったですな‥‥。良かったですが‥‥」
「‥‥ケイ殿もこれ、貰ったんですか‥‥」
「なになに〜? ん? 『1日無料貸し出し予約券』?」
「‥‥さっきの薔薇亭の店員さん達に渡されたのですが‥‥」
「ふ〜ん‥‥。頑張ってね」
 ウィルはちらとエーディットを見てから、2人の犠牲者に温かな言葉を投げかけた。
 そう。
 作戦の遂行には、時として犠牲が付き物なのである。