聖ナル夜ノ為ニ〜薔薇の恋道〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月18日〜12月23日

リプレイ公開日:2009年02月17日

●オープニング


 聖なる夜、聖夜祭。
 聖人ジーザスの降誕と、旧年を振り返りつつ新年を祝う時。
 本来それは厳か且つ落ち着いた趣を感じさせるものであり、決して、派手に装飾したり大騒ぎが過ぎたりするものではないはずである。
 ないはずである。

 況してや、
『カミサマが恋を熱烈歓迎応援してくれる期間なのよ!』
 なんてことは。

 無いはずである。


 というわけで、本日もいつもの『気高き薔薇亭』にて。
「そろそろあたしもぉ、子供がほし〜ぃお年頃になってきたわけぇ」
 いつもの如く、むさ苦し‥‥いや、多少大きめの『娘達』が仕事の為に集う酒場内で、一際正視し難い容姿と格好を兼ね揃えた『娘』が、ごわごわウェーブにした髪の先を触りながら口を開いた。
「あら‥‥リリンちゃん。『大衆の世界』に戻っちゃうの?」
 この『娘』を見た後だと何となく可愛く見えてしまうかもしれない他の娘が、眉を顰めて尋ねる。
「えぇ〜。まっさかぁ。なんていうかぁ〜、ジャイアントって他の種族に比べてちょっと大きいじゃなぁい? ってことわぁ、子供も気合で産める気がするわけぇ〜」
「気合で産めたら苦労しないわよねぇ」
 周囲に居た『娘達』が、井戸端会議中のおば様方のような笑い声を上げた。
「ジャイアントがおっきぃのってぇ、ぜぇったいっ! 理由があると思うわけぇ。子供くらい入るスペースあると思うしぃ」
「リリンちゃん、好きになる男、人間かエルフばっかりだもんねぇ。そりゃ、人間やエルフの子供なら、あたし達のお腹に入るくらいのスペースあるかもしれないけど」
「でしょぉ?」
「でしょぉ、じゃないわよ。あたし達ジャイアントが、人間やエルフの子供産めるわけないじゃない」
 突っ込みを入れるべきはその部分ではない。
「えぇ〜、そぉなのぉ? やだぁ、あたしの野望が無くなっちゃうわけぇ?」
「リリンちゃん、一般常識無さすぎでしょ〜」
 そう言って朗らかに笑う『娘達』。
「でもそ〜ねぇ‥‥。あたしも、好きな人と結ばれたいって思うわよ」
「カミサマに祈ったら、何とかならないかしら」
「カミサマが、あたし達に何かしてくれた事があった?」
「あら。この店に導いてくれたじゃない〜♪ 私はそれだけでも、神様に感謝しているのよっ」
「オコウはいいわよ。メゲナイ性格だから」
「私達は、簡単に負けちゃ駄目なのよ。人生にも、勝負にも、恋にも。しぶとくがめつく生きる事! それが私達の生き方じゃない?」
 オコウはそう言って、椅子に座って膝を組んだ。『ジャイアント界の王子』と『彼女』の事を呼ぶ者も居る。それはかつて、『彼女』がまだ『彼』だった頃、一夜にして女性を12人口説き落とした事に由来していた。
 この店は、女装ジャイアント酒場である。客が女装をするかは自由だが、店員は全員女装したジャイアント。筋肉隆々な者が多く、その迫力に気圧される客も多い。勿論、中身も外見に負けず劣らず迫力物である事も多い。その中にあって、リリンとオコウは対極にあった。リリンは、『最も近寄りたくない店員』の頂点として。オコウは、『この店内では最も親しみやすい店員』の頂点として。それぞれ注目されている。
 『心は乙女』と言い張る店員も多いが、オコウは最近『娘』の格好をし始めた。店員の中では限りなく新米に近い。一方、リリンもこの店では新米であるが、『彼女』の『女歴』は長い。長いが故に気合が入ったその格好は、相当な人相の悪さと相まって、実に不気味である。

 今回は。
 そんな2人を含めた店員のおはなし。


「聖夜祭に、好きな人と一緒に居れたらなぁって思うじゃない?」
 ここでは、毎年店員の間でそんな話題が出る。
「好きな人と新年を迎える事が出来たら、『もうこの人は一生! あ・た・し・の・も・の(はぁと)』って思うわよね〜」
「やっぱり、あたし達が好きな人を捕まえる為には、並ならぬ努力をしなきゃいけないわけよ」
 とか何とか。
「並ならぬ努力ね‥‥。ねぇ、こんな話知ってる?」
 その時、オコウが他の『娘達』に話題を振った。
「ある所に居た姫に、求婚者が次々と現れたの。困った姫は、無理難題を求婚者達に告げるのよ。それを持って来た人と結婚しましょう、って言うわけ。それで思ったんだけど‥‥」
「なにを?」
「私達は、外見だけでハンデを背負っているわけでしょ。でも、一度しかない人生だし恋は謳歌したい。だから、やっぱり努力すべきなのよ。つまり」
「つまり?」
「恋の為に、いろいろ挑戦してみるべきだと思うのよ。それを成し遂げる事で自分に自信がつき、堂々と告白も出来る。そこでフラれても、それまでの努力が新しい自分を作ってくれる。美談じゃない?」
「そぉねぇ‥‥。自分に自信ない子も少なくないしねぇ」
「だから、こういう企画を考えてみたんだけど」
 そして、オコウは皆に告げる。
「名付けて。『恋の為に、今までの情けない自分と決別するコーナー』」

「あたしわぁ〜、つよくなりたいなぁって思うわけぇ」
 真っ先に、面倒そうにリリンが手を上げた。
「あたし、か弱いからぁ。襲われたりしたら怖いしぃ。告白したら、殴られそうになったこともあるしぃ。そーいう凶暴な男が多いなぁって思うわけぇ。だからぁ、女もつよくならないとだめじゃなぃ?」
 実に素晴らしい筋肉を保持しながらも、リリンは口を尖らせる。
「あ。そーいう事なら、あたしは精神修行がいいなって思うのよ。雪の積もった平原や山を乗り越える。その厳しい環境に、人は一回りも二回りも成長できる、ってわけ」
 そう続けたのは、ユキ。違う方向に絵心開眼している人物である。
「あら。ユキさんは過酷な道が好きなのねぇ‥‥。あたしは、好きな人に告白する為の言動を修行したいわぁ」
 いつの間にか、修行コーナーになっている。
「そういうテクニックも欲しいし、当たって砕けろ、的なのはちょっとねぇ‥‥」
「ミナさん、そういうのズルいわよ!」
「別にいいんじゃない? それもある意味挑戦でしょ。でも、1人でやるものじゃないわよね。どれも」
 大きく頷き、オコウは皆を見回した。
「協力者或いは教師役或いは同行者或いは生贄役として、冒険者に依頼を出そうかと思っているんだけど、どう?」
 その問いに、『彼女達』は一斉に頷く。

 かくして、恋に生きる『娘達』と共に戦うべく。
 勇者派遣要請が、冒険者ギルドに張り出された。

●今回の参加者

 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3120 ロックフェラー・シュターゼン(40歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3277 ウィル・エイブル(28歳・♂・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec3299 グリゴーリー・アブラメンコフ(38歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ロシア王国)
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


「おぉぉぉぉぉ!」
 毎度お馴染みいつもの『気高き薔薇亭』。その店内に一歩足を踏み入れた桃代龍牙(ec5385)が、歓喜の声を上げた。その表情は、実に生き生きとしている。
「恋愛とは戦いと見つけたり‥‥。その心意気買った! とにかく大事なのは、『何事も一直線!』じゃなくて、恋の駆け引きが出来る『大人のヲンナ』を目指す事よ」
「恋愛の修行なのですね〜♪ 私とゾウガメ達も応援しますよ〜♪」
 ガブリエル・プリメーラ(ea1671)が、がしっとケイ・ロードライト(ea2499)曰く『漢女(ヲトメ)』達と手を組んだ。その後方で、エーディット・ブラウン(eb1460)が、白旗を振りながらノルマンゾウガメに乗っている。
「最初から白旗ですかとか色々突っ込みたい所はありますが、修行は、恋愛と戦闘と冒険だそうですよ、エーディット殿」
『今日の私は聖職者ではありません』という貼紙を背中につけたエルディン・アトワイト(ec0290)が、神妙な面持ちでエーディットに頷いて見せた。
「ふむむ〜。でも、どれも極意はひとつですよ〜」
「ほほう?」
「『押しで駄目なら押し倒せ』ですよ〜♪」
「なるほど」
 メモする、毎回聖職者の枠を外れそうになっているエルディン。
「極意かい‥‥。巨人族はとかく体当たりになりがちだが、色恋こそ全能力を総動員し、戦略を駆使する必要があると思うぜ」
 グリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299)が腕組してそう言いながら、エルディンの背中の貼紙をぺらと捲った。
「で、これは‥‥」
「あ。しーっ。内緒だよ」
 そこにひょいとウィル・エイブル(ea3277)が顔を出して、笑みを浮かべる。
「でもほんと、最近は縁があるね〜。もうすぐ顔馴染みかなぁ?」
「もうすっかり顔馴染みだろう」
「義父さん、今日も一段とカッコイイ姿だね」
「そうだろう! 皆がくれた御守を全身に装備しているんだぜ!」
 と、札ミイラが言った。
「これでどんな苦境も、ラッキーで乗り切れるぜ!」
「ふ〜ん」
 ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)の装備の中からかなりはみ出ている見るからに呪われていそうな札100枚の一部ををちらと見、ウィルは大きく頷いた。
「義父さん、頑張ってね!」


 今回、冒険者達はおよそ2組に分かれる事になった。冒険と、恋愛、戦闘指導を分ける事になったのだ。
「では、行って参りますぞ」
 戦闘や恋愛修行は色んな意味で危なそうなので、と早々に野外活動班引率に立候補したケイ。だが‥‥この選択が正しくなかった事を、彼は後に思い知る事になる。
「同行はユキ嬢でしたな。その格好では野外活動は厳しいですぞ」
 というわけで、エーディットに『男の子風』な服を見立ててもらい、ウィルを含めた3人は、近くの森へ行こうと‥‥。
「さぁ! 馬車にハコ乗りで行っちゃうわよ!」
「えっ‥‥馬車など必要な‥‥」
「乗りな!」
「‥‥ハコ乗りって何?」
「さぁ行け暴れ馬! 地上の果てへ!」
 何かの血に目覚めたユキによって馬車に詰め込まれた2人は、そのまま連れ去られて行った‥‥。


「さて。彼らの葬式の手配は済ませましたし‥‥」
『今日の私は贈り物に最適』という貼紙を付けたエルディンが、爽やかな笑顔のまま振り返った。
「‥‥エーディット殿、それは‥‥」
「格好可愛い衣装を見立ててます〜♪」
「エーディットさーん。一緒にやるわー」
 ガブリエルも衣装の束を持ってきてそこに下ろす。
「ガブリエルさんは、この衣装です〜♪」
「わ〜。露出度たっか〜」
「女神風ドレスです〜。とってもお似合いですよ〜」
「エーディットさんはどれ着るの?」
「えーと‥‥」
 ゾウガメ用に蝶ネクタイを用意していた彼女は、それを自分の首元に当てた。
「これを〜」
「何気に似合うけど、芸人に見えるわよ」
 せっせと衣装を繕いながら、エーディットはこっそり男性陣の衣装の中に護符と『聖夜デート券』を貼り付ける。
「‥‥それ」
「はい〜。実践に勝る練習はありませんものね〜。熱烈な告白をする毎に一枚取って、デート券が当たった人は、告白相手と聖夜にデートが出来る、というゲームをしましょう〜。本当にデートが出来るなら、実戦同様の熱意が持てること、間違いなしですよ〜♪」
 そうして、皆に衣装が振り分けられた。


「いいか? 女装ジャイアント男は第一印象で強烈な印象を与える」
 黒と銀で整えられた衣装を着込んだグリゴーリーが、落ち着いた心持で話し始める。『恋愛修行』はミナが対象なのだが、彼らの周りで他の店員達も離れた所に群がっていた。
「が、姐さん達もある種の固定観念に囚われちゃいねェかい?」
「固定観念‥‥?」
「勝利への道は、『相手に関する情報を収集し整理して分析』。『自分に関する情報を提示し興味を抱き続けて貰うよう働きかける』。コレだ。まず親しくなる為には会話からだが、序盤は話題の選択に注意だな。相手の話を遮らない、批判しない、相手の言葉を繰り返す。これ基本」
「そうですねぇ」
 エルディンも頷きながら、さりげなくメモしている。
「それから質問だ。はい、いいえで答えやすいモノよか答えにくいほうが印象に残るぜ」
「俺の国では古来より『男は胃袋でつかめ』という格言がある。どんな美人でも世帯を長く続かせるには食事って大事って事で、男を口説くのにもかなり有効だ」
 龍牙も『彼女達』に助言を行った。初対面早々に『宜しくな。素敵なお嬢さん方』と満面の笑みで挨拶したこの男。デカい人なら男女問わずらぶらぶらしい。だが同族(?)は同族同士(?)分かるというもの。『彼女達』も龍牙にべったりする事なく、しかし気安く話しかけていた。
「あ〜、わっかるぅ〜。あたしもぉ〜、料理って大事って思うわけぇ〜」
「リリンの料理は、料理じゃないの。『餌』か『悪魔の餌』よ」
「それは〜‥‥うん、見た目も大事。男は見た目で味覚まで変わってしまうくらい、左右される生き物だ! でも、練習も大事な修行のひとつだから、リリンさん以外の人も一緒になって、俺らの為に滞在中、食事を作ってくれないか?」
「まっかせといて〜」
 とにかく『恋愛修行講座』は大盛況となった。冒険者達も各々『先生』となったし、お手本を見せたり実践に突入したり‥‥。
 例えば、ガブリエルの場合。
「押しても駄目なら引いてみな、って言葉があるけどあれはほんとでね。好きな人には他と差をつけて接するの。一途に気持ちを伝える事は勿論大事。グリゴーリーさんが言うように、相手の話をよく聞いて会話を広げていくことも勿論よ」
 エーディットの『押してダメなら押し倒せ、ですよ〜』発言が皆の脳内に広がっていたが、それを染め直すべくガブリエルは気合を入れる。
「でも、それを経て突撃した後、相手の反応が悪ければ‥‥。あ、ちょっとロックさん、こっち〜」
「ん? 俺?」
 ひょことやってきたロックフェラーを指定位置に立たせ、ガブリエルは両手を胸の前で合わせ、上目遣いで見上げた。
「『あ‥‥困らせてごめんね。気持ち‥‥抑えられなくて。伝えたかっただけ‥‥。でも、私なんて‥‥。き、気にしないでね』」
「ん〜‥‥」
 前振りもなく相手役にさせられたロックフェラーは少し考え込む。
「あぁ、ガブリエルさん。腹減ってる? ちょうどそこに」
 どすっ。
「とか、引いてみるのも手よ。『そんな事ないよ』と来た日にはこっちのもの。後はがっちしそこをチャンスと絡め取る!」
 腹を押さえてごろごろ転がるロックフェラーを放置して、彼女は引き続き視線向き指導やどきっとする所作指導を行った。
 エルディンの場合。
「優雅な立ち振る舞いも大事です」
「エルフとジャイアントじゃ難易度に差があるぜ」
 グリゴーリーから指摘を受け、ではと、口説き文句講座に移行する。
「あぁ、ロック殿、ちょっとこちらへ」
「ん? また俺?」
 腹痛から復帰したロックフェラーは再び指定位置に立たされた。
 本当なら愛を囁かれたいのは自分のほうとガブリエル達を横目で見つつ、札がかなりはみ出ている男を見つめる。
「初めて会った時から、逞しくて素敵だと思っていました。その腕で私を包み込んでくれたなら、どんなに幸せか‥‥」
「よし来い、エルディンさん!」
 2度目なので慣れたロックフェラーと、自分の言葉で深く心に傷を負ったエルディン。そのまま首に両手を回そうとして‥‥。
「ピュアリファイ!」
 しゅぼぅっ!
「あちーっ!」
 ロックフェラーの札の一部が燃えた。
「な‥‥なんだか退治したくなりまして‥‥。清いロック殿が出来上がりましたね〜」
「そんな事より消火でしょ!」


「こ、腰が‥‥」
 暴走馬車は物凄い速度で一日半走り続けた末、ようやく停まった。
「見てみて〜。頭にコブ〜」
 修行前から全身傷だらけのケイとウィルが馬車を降りると、既に準備万端なユキがそこに立っていた。
 そこは、森と山が広がる場所だが一面雪が積もっている。
「え〜‥‥、『冬眠の熊さんの生態観察』を修行にするつもりだったのですが‥‥」
「生温い!」
 びしいっとユキは鞭を振るう。
「貴様それでも冒険者か! 冬山に篭らずして何が冒険か!」
「いえ、冒険と言うのは派手なばかりでは」
「えぇぃ、そこに直れぇ!」
「‥‥ケイさん、ケイさん」
 パラである為目立たないウィルが、つんつんとケイの背中を突いた。
「好きなようにさせたほうがいいと思うよ〜。道を外れないように監視はして」
「そ、そうですな‥‥」
「ユキさん。冒険を過酷にしたいのだったら、不幸になる装備一式貸すよ〜。あまりにも危険だからお勧めはしないけど」
「うむ、借りよう」
「‥‥」
 そして、冒険修行班は雪の森へと行軍を開始したのである。


 恋愛修行講座、龍牙の場合。
「さぁっ。だ〜れだっ」
 世にも怪しげな桃色の煙を上げて『禁断の指輪』で女性に変身した男性陣が、舞台の上に立っていた。グリゴーリーは、指導役としてミナの傍に留まる。
『姿を変えられた恋人を探す、真実の愛の修行』と題して、ミナ達に当ててもらうというわけだが、ガブリエルとエーディットが大慌てで(何せ変身時間に制限があるので)化粧しドレスを着せたその姿は、『どこのおてもやんですか?』を尋ねたくなるような風情を漂わせる者を出す結果にもなった。
「あいつ、美人すぎ〜。ムカツクぅ〜」
 リリンが真っ先にエルディンを指差し当ててみせるが、問題はそこからだった。
「はっ‥‥。デート券っ‥‥!? 何時の間にっ‥‥!」
「ドレスにも仕込んでおきました〜♪ エルディンさん、ロックフェラーさんがお相手じゃなくて残念でしたけど、これも経験なのです〜。頑張ってくださいね〜♪」
「ちょっ‥‥エーディット殿?! いえ、違いますから! ロック殿とは何でもありませんから!」
「あ、そうです〜。秘密のお付き合いでしたね〜♪ 大丈夫です〜。教会に伝わらないようにしておきますから〜」
 デビルはこんな所にも潜んでいた、とがっくりするエルディンの腕をがっしりリリンが掴む。
「くっ‥‥コアギュレ」
 ぶちゅ〜〜〜〜。
「人が嫌がることやるの大好きだしぃ〜」
 リリンは確信犯的笑みを浮かべ、半ば気を失っているエルディンを連れ去った。そんな彼のドレスからひらりと何枚か『呪われし札』が落ちる。
「‥‥エーディットさん、あれ‥‥」
「はい〜。さっきロックフェラーさんが落としたので、エルディンさんのドレスに付けておきました〜♪」
 一方、ミナはと言うと。
「‥‥どうした? ミナ姐さん」
 ぼろぼろ泣いていた。
「あたしだってぇ〜、あたしだって、女になりたいのに!」
「‥‥そうか。でも、あれは偽りの姿だ。短時間だけしか効果が無いンだぜ?」
「それでもいいの! あたしは女になりたいのぉぉー!」
 おいおい泣くミナに、グリゴーリーは頷いて舞台へと上がる。
「その指輪、ミナ姐さんに貸してやれないか。一時の夢でも叶えてやるのが男ってモンだろ」
 それからしばらく、『禁断の指輪』は店員達の間を転々とした。


 その頃、雪山では。
「くっ‥‥酷い雪嵐でっ‥‥ごほごほ」
「うわ〜‥‥飛ばされそぉ〜」
 在りえない勢いで強行軍が行われていた。
「このままでは‥‥危険ですな‥‥」
 スコップを雪の中に挿し、ケイが汗を拭う。
「ウィル殿、とりあえず‥‥ぅうううう〜?!」
「と〜ば〜さ〜れ〜る〜よ〜」
 振り返ると、折れたつりざおを雪に挿してそれにしがみついたが足が宙に浮いてしまっているウィルの姿があった。
「ウィル殿! 今助けに参りますぞ!」
「わぁ〜」
「ウィル殿ぉおおおお!!」
 ウィルは飛ばされてくるくる回った。
 だが、3人はロープで体を固定して繋いでいた。よって。
「わぁ〜」
 ケイも倒れて引き摺られる。
 そして。


「ん‥‥? お札が落ちた‥‥。ちゃんと貼り直さないとな」
 ウィルなら『向こうで何かあったのかな〜』と不吉さを感じ取る所だが、ロックフェラーは全く気付かなかった。
「相撲ってのは、俺の国では女性をめぐり神が競った神事でもあるんだ、昔は」
 戦闘修行では、龍牙が相撲について教える。
「‥‥と言う風にやるんだ」
「よぅし! こんな事もあろうかと『そこそこ』鍛えたこの身体! 力こそパワーな戦いではそうそう遅れを取らんぜ!」
 褌一丁で登場したロックフェラーが気合を入れた。褌の中に山のようにお札が詰め込まれている。
「負ける気しないしぃ〜」
 リリンは別の意味で悩殺できそうなレースふりふりの際どい格好で登場した。
「おぉ‥‥素晴らしい〜。とっても綺麗だ〜」
 龍牙が感動しながら応援する。
 1分経過。
「折れる! 折れるぅ!」
「じゃぁ〜、この格好でぇ、愛の告白してぇ〜」
「あぁっ‥‥貴方のような方っ‥‥肩外れるぅ〜」
「外しちゃおっかな〜」
「やめてぇ〜。きょ、今日は‥‥人生さいりょうの日ですぅ‥‥私とっこれからしょ、しょくじなど‥‥」
「じゃ、リリンがご飯作ってあげるねぇ〜」
 終了。
 その後、『世にも悪魔的な何か』を振舞われたロックフェラーは、エルディン共々しばらく再起不能になった。



「只今帰りましたぞ〜!」
 最終日夕刻。冒険組が帰ってきた。
「熊! 熊だ!」
「タイヘンだったんだよ〜」
 実は飛ばされた後、熊の谷に迷い込んで熊に追い回されたり倒したり熊運びにミナが凄い力を発揮したり、色々したのだった。それはもうボロボロな3人だったが、実に輝かしい顔で笑っている。
 それは、男の熱い友情が芽生えた旅であった事を物語っていた。


「住み込むのはいいけど女装必須だからね」
 店に留まると告げた龍牙に、グリゴーリーと話していたオコウが告げた。
「コレといった理想像が無いのが本音なんだよな」
「理想の異性ねぇ‥‥」
 ワインを傾けながら、2人はそんな話をしている。
「好きになった人が『理想』。あたしはいつもそう。それが一番波風立たないわよ」
「ははっ、なるほどなぁ」
 時にはこんな時間もいいだろう。
 『乙女』と2人、語り合う夜があっても。