あなたのパートナーを紹介してください

■イベントシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:48人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月23日〜02月23日

リプレイ公開日:2009年03月03日

●オープニング


 あなたはバレンタインデーというものをご存知でしょうか。
 そう、聖バレンタインの活動を讃え感謝する日ですね? あぁ‥‥ジャパンの方はご存知無いかもしれませんが、この国では子供も知っている話ですよ。
 えっ‥‥? その日はもう終わっているって‥‥? えぇ、そうですね。各地のお祭りは行ける範囲で参加させて頂きました。村中でゲームをしたり、バレンタインカードに力の限りを投入して作ったり、贈り物交換会があったり‥‥。占い師の方々もあちこちに引っ張りだこな日でした。
「っつーか、何で今頃そんな読み物書いてるんだ?」
「ポールさん。その前にひとつ良いですか?」
「おう、何だ」
「酒場に入る前に、出血は何とかしたほうがいいですよ。良い教会紹介しましょうか?」
 酒場の片隅で、一般人用読み物を書き続けているヨーシアなる娘が、頭から血を流して傍に立っているポールなる男にそう返事した。
「はっ! 教会なんてもう親友を通り越して眩友の仲だ!」
「何ですか、その造語」
「まばゆいばかりの友達って事だ! それよりヨーシア。面白そうなパーティの話、知ってるか」
「はい。主催者がクレティエ卿になっているパーティですよね。バレンタインデー当日では無いけれど、『バレンタインデーパーティっぽいもの』を行うとか‥‥」
「あのな。あれ、2人1組なんだよな。誰か連れて行かないと入れないんだよ」
「成程。つまり、マルクさんとフローラさんがセットでお出かけするから、ポールさんはあぶれてしまったと」
「うるさ〜い!」
 がたーん。テーブルを倒そうとしたポールは、その重さに両肩を負傷した。
「いたい‥‥いたいよぅ‥‥俺はもうダメなんだぁ‥‥」
「はぁ‥‥。まぁ、頑張ってくださいね」



 このパーティが行われるきっかけは、聖夜祭の終わり頃にあった。
 聖夜祭の期間、貴族の屋敷でパーティが行われるのは珍しい事ではない。その日、ブランシュ騎士団橙分隊副長フィルマン・クレティエの屋敷がパーティ会場として開放された。と言っても、招待客は橙分隊のみ。それも短時間だったと言う。パーティを存分に楽しむ情勢では無いから仕方の無い事である。だがその場に、彼らは珍客を見る事となった。正確には客ではない。
「これはこれは、フィルマンの母上でしたか‥‥。お若いとは聞いておりましたが、まさかこれほどとは」
「あら。分隊長様も十分お若いですわよ」
 そう笑う淑女は、相応の年頃の貴族女性にしては随分気さくであった。いや、気さく過ぎた。
「ところで分隊長様は、ご結婚のご予定ございましたわよね?」
「えっ‥‥、いや、それはかなり昔の話で‥‥」
「存じておりますわ。まだ引き摺っておられますの? 女は度胸。ど〜んと突撃するべきですわよ。それに‥‥イヴェット様がご結婚なさらないと、うちの息子もその気になってくれなくて‥‥」
「フィルマンにもうそのような話が?」
「えぇ‥‥。でもほら、うちの子‥‥照れ屋でしょう? 恥ずかしがり屋だから紹介してくれないんですの」
 そう嘆く彼女の後方には頭部が埴輪。胴体部が大仏の着ぐるみを着ている息子が突っ立っていたが、誰も敢えてそれを指摘しなかった。
「だからイヴェット様‥‥。ご協力して頂けないかしら。そうですわね、バレンタインデーの頃が宜しいですわ。バレンタインパートナーを決めると称して、ご参加下さる皆様に、パートナーを連れて来て頂くんですの。勿論バレンタインパートナーですもの‥‥。むしろ、『ご近所お誘いあわせの上ご参加下さい』かしら。でも、こんな時ですもの。一方的に想いを募らせている相手に気持ちを遂げたいと、お誘いするのも宜しいと思いますわ。パーティ内で意気投合して恋人同士、友人同士になるという関係も素敵ですわね。‥‥如何かしら?」
「そうですね‥‥。しかし、フィルマンが意中のお嬢さんを連れて来ない可能性もありますが‥‥」
「あら。私の息子は親に恥を掻かせるような真似は致しませんわ」
 おほほほと笑う母親を後方で見ていた着ぐるみに、同僚がそっと近づく。
「‥‥で、大丈夫なのか?」
「‥‥何とか出来なかったら手は打つよ‥‥」
 やはり息子というものは、母親に弱いのである。


 そんなわけで、クレティエ邸にてバレンタインデーを過ぎた頃にパーティが開かれるという事になった。
 出来る限り門戸を開き一般人も楽しんでもらいたいという趣旨で、貴族への招待は一切されず、むしろ招待客というものを作らず、あちこちにこのパーティについて触れて回る。勿論、この機に乗じてデビルや悪党が侵入する可能性もあったが、警備係の騎士達を増やして対応する事とした。
 内容はこうである。

 『バレンタインデーは過ぎたものの、未だ今年のバレンタインパートナーを見つける事が出来ないあなた! バレンタインパートナーは幸福の証。今年一年のパートナーとめぐり合う事で、あなたのこの1年を幸多きものへと変えてみませんか? クレティエ卿主催の『ちょっぴり遅れたバレンタインデーパーティ』では、籤引きでバレンタインパートナーを決めるイベントも行います。意外なお相手があなたの1年を変えてくれるかも? 勿論、将来を誓い合ったお相手が居る方も参加可能。生涯のパートナーを誘っての参加はいかが? この機に、お2人の仲を認めてもらい、祝福‥‥なんて事もあるかも? パーティ会場では皆さんが芸や仕事を披露したり鑑賞したりする場も提供。美味しい食事と酒、歌や踊りもご提供致します。蕾ほころぶ春も近い今、あなたの春を探し求めてみませんか?』



 このパーティ会場に入る為には、ひとつの条件がある。
 2人1組で入場する事。相手は互いに知り合い同士でさえあれば問わない。会場内で別行動しても構わないし、出て行く時は他の人と一緒でも構わない。だが、このパーティには橙分隊員が何人か参加すると言う。彼らに自らの連れてきたパートナーを紹介する事は、互いの価値と絆を深めてくれる事だろう。多分。


「‥‥お忙しいですかねぇ‥‥あの方は」
「余計な事はするなよ、マルセル」
「本当に‥‥余計な事なのでしょうか? 気持ちを確認なされた事は?」
「終わった事だ」
 そして、パーティも近づいたある日、もう何度となく繰り返された会話を橙分隊長はまた繰り返していた。
「それに‥‥新しい出会いもある。過去にばかりしがみ付いては、今という時間に失礼だろう。今度のパーティ‥‥。今まで会った事の無い人にも会えるかもしれない。去年のバレンタインパートナーには大した事をして差し上げる事も出来なかったが、今年はどうなるかな‥‥。楽しみだ」

●今回の参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ リーディア・カンツォーネ(ea1225)/ リル・リル(ea1585)/ ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)/ 西中島 導仁(ea2741)/ ユリゼ・ファルアート(ea3502)/ ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)/ シェアト・レフロージュ(ea3869)/ レティシア・シャンテヒルト(ea6215)/ マミ・キスリング(ea7468)/ 壬護 蒼樹(ea8341)/ ラファエル・クアルト(ea8898)/ リリー・ストーム(ea9927)/ 若宮 天鐘(eb2156)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ アリスティド・メシアン(eb3084)/ イリアス・ラミュウズ(eb4890)/ エレイン・ラ・ファイエット(eb5299)/ ウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)/ イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)/ リディエール・アンティロープ(eb5977)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ マリアーナ・ヴァレンタイン(eb7019)/ スズカ・アークライト(eb8113)/ レア・クラウス(eb8226)/ サクラ・フリューゲル(eb8317)/ セイル・ファースト(eb8642)/ 尾上 彬(eb8664)/ ライラ・マグニフィセント(eb9243)/ アニェス・ジュイエ(eb9449)/ ラヴァド・ガルザークス(eb9703)/ ディエミア・ラグトニー(eb9780)/ レシーア・アルティアス(eb9782)/ クルト・ベッケンバウアー(ec0886)/ オルフォーク・ザーナル(ec1004)/ ヴィメリア・クールデン(ec1031)/ アリア・ラグトニー(ec1250)/ ミシェル・サラン(ec2332)/ アイシャ・オルテンシア(ec2418)/ アイリス・リード(ec3876)/ マーリア・バルテス(ec4366)/ エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)/ エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)/ レリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)/ ユーア・シェリーズ(ec6139)/ シャールーン・アッラシード(ec6148)/ 文月 太一(ec6164)/ 岸辺 影則(ec6166

●リプレイ本文

●入場
 様々な人々が、パートナーを連れて会場内へと入っていく。
「貴女のような可憐なレディとご一緒出来るとは光栄だな。今日はお付き合い戴き有難う。どうぞ宜しく」
 エレインの穏やかな微笑に、レティシアは彼から受け取ったホワイトスノーコートを手に、似たような笑みを浮かべる。
「こちらこそ。パートナーになってくれて有難う。それからこれも」
 プレゼントを交換し合う光景は、会場前でも会場内でも多く見られた。その姿は、見ているだけでも微笑ましい。
 一方で、パートナーをシフール便で呼ぶ者、家まで迎えに行く者も居た。蒼樹は離れた所に暮らす娘に手紙を送り、再会を果たした。呼びつけられたほうは、手紙などのやり取りはあるものの、会うのは2度目である。実に複雑そうな表情で、それでも素直に笑顔を見せる。その姿に大喜びした蒼樹は、彼女にエンジェルドレスを渡した。
「お久しぶりです、あの‥‥今日はお誘いを受けていただきありがとうございます。まずは‥‥どうしましょう‥‥?」
「まずは、中に入って食事、でしょ?」
「はい!」
 アニェスはアンジェルの家に行き、パーティに誘う。目を大きく見開き、一瞬躊躇った後に頷いたアンジェルに、アニェスは大喜びで彼女を飾り立てた。
「あーもう、可愛いじゃないの〜。綺麗な格好すると、嬉しくならない? すきな人に見て貰いたくなるよねー」
 むぎゅむぎゅしながら言われ、アンジェルは頷く。
 だが、両思いで望んでやってくるわけでは無い者達も居た。
「‥‥何で私が‥‥」
「い〜カラ行くのデスヨ〜♪」
 アリアは妹のディエミアに引っ張られて、仕方なくやって来ている。シフール2人が並んで飛んでいく様は愛らしく、一般入場者の視線を浴びていた。
「‥‥で、何でお前ぇさんなんだ?」
『文句言わないの』
「ったく、色気のねぇ奴と一緒でも面白くも何とも」
 どすっ。オルフォークは、筆談で会話していたヴィメリアに脚を蹴られている。
 そして、入場整理用の卓の前では。
「あぁ?! 恋人かって? 冗談じゃねえ!」
 天鐘が卓を叩いて、受付員に食って掛かっていた。
「確かに顔は良いしスタイルだって文句無えけどよ。中身が最悪なんだよ、このクソ女は‥‥さっさとこの腐れ縁切っちまいてえ位だっつーの!」
「‥‥は? 何言ってんの?」
「いってぇー!」
 その後方に腕を組んで立っていたマリアーナは、天鐘の足を思いっきり踏みつけて笑った。
「あんたこそ顔だけは女の子みたいにカーワイーイけど? でも教養は無けりゃ品も無い、背丈も無けりゃ、〇〇〇〇」
 以下、聞くに堪えない罵詈雑言の為、自粛させて頂きます。
 一部ではそんな騒動もあったが、概ね皆は穏やかに入場を済ませる。
 だが、現地前で待ち合わせをしている者達も居た。
「‥‥いらっしゃらないですね‥‥」
 狙っていた相手を待ち伏せていたマーリアが、柱の影で呟く。そう。上手く行かない事だってある。
「‥‥お前も現地派か?」
 そこそこでかい図体を晒しながらも雨に震える子犬のような目で門前に立っていたジラルティーデは、会場内に入るべくパートナーを探していた。だがようやく声を掛けてきた相手は。
「‥‥赤と橙の袴。まさかその巫女服はっ‥‥!」
「目立てばパートナー捕まえれると思ったんだけどなぁ。仕方ない。とりあえず、一緒に中に入らねぇ?」
「この際、性別種族趣味嗜好に関しては、どうでもいい事だな」
 ジラルティーデも頷き建物へと振り返った瞬間、2人の男の目に、おろおろしているマーリアの姿が映った。
「こ、これはっ‥‥!」
「千載一遇の機会っ‥‥!」
「お前には負けねぇっ!」
 明らかに独り者の空気を漂わせている娘に突撃しようとした男達の視界の先に、実にするりと自然な流れで別の男が割って入ってきた。
「待ち人来たらずかな。それとも擦れ違ってしまったか‥‥。中に入りたいなら、ご一緒しようか、お嬢さん」
「あ、はい‥‥。宜しくお願いします」
 そうしてマーリアは、橙の剣帯を付けた黒髪の騎士に連れ去れてしまった‥‥。
「‥‥」
「‥‥うわっ。何をするぅっ!」
「これは運命だ。もう俺達は赤い糸で結ばれているのだ」
「ぎゃ〜首が絞まる〜っ」
 ジラルティーデによって、赤い糸の指輪を3個使った赤い糸の首輪を嵌められそうになった男、ポール。2人は門前でしばらく、命を掛けるような戦いを繰り広げた。

●橙分隊
 一般人、ブランシュ騎士団橙分隊員含め、70人近い人々が会場内に入る事となった。冬であるから外でと言う訳にも行かず、会場は1階、2階共に開放される。
 1階は広間。ここでは簡単な食事と飲み物を楽しめ、音楽や踊りや企画事に花を咲かせる場となる。広間内が窮屈な場合も考えて、廊下にも椅子が設置され、寒さ防止に羽織りものや毛布が渡された。2階は客室などもあるが、扉は全て開かれている。中にはきちんと食事をしたい人の為の卓と椅子が各々の部屋に設置され、料理は料理人達が運ぶ手筈となっていた。
 橙分隊員達は、一般客や冒険者客の間に紛れている。その為、彼らに挨拶しようと思った者達はなかなか一苦労だった。ブランシュ騎士団の正装ないし準装の鎧でも着ていれば遠くからでも判別が付くが、公ではないパーティの場ではいつ踊る事になるとも知れない為、きちんと礼服姿である。
 だが橙分隊員と共に入場した者達は別。わざわざ探す必要も無く。
「ダンスはきちんとお誘いしてあげて下さいね」
 フィルマンと共に入ってきたアニエスは、ジュールと共にやって来たユリゼを見ながらそう言った。一瞬苦笑を浮かばせた男はすぐに頷いたが、アニエスの目は、ファイゼルと共にやって来たイヴェットへと注がれている。そして、無意識に目を会場内へと向けた彼女は、見つけてしまった。
「‥‥本当に、いらっしゃるとは思いませんでした」
 ファイゼルは、イヴェットに自分の想いを告白して1年と少し。泥に足を取られているかのような歩みの遅さながらに、何とか少しは関係が改善‥‥いや、進んでいるかなと思っている。今日もちゃんとドレス姿だ。これは大きい。だが指輪はまだ渡せないし焼き菓子でも、と差し出した彼は、ふと女が別の方を見ている事に気付いた。
「‥‥ルゥ‥‥エフォール‥‥。何故ここに、いや、マルセルが呼んだのだな」
「少し、時間を空ける事が出来た。‥‥久しぶりにお会いする」
 彼女に過去の男が居た事はファイゼルも聞いている。黙って見守ったファイゼルだったが、イヴェットは振り返り来訪者にその場に居た者達を紹介した。アニエスは作法に則ってお辞儀し、ファイゼルは挨拶の後に、男と少し話が出来ないかと考える。
「‥‥心配ですか?」
「あ、いや‥‥そうさね。イヴェット卿の事は、やはり心配さね」
「僕は、過去に婚約者を持った事はありませんから」
 微笑んだアルノーに、ライラは頬を染めた。それから近付いてきたシェアトとラファエルを見、彼に紹介をする。
「うん。シェアト姉とラファエル兄のような関係をあなたと共に築いていきたいのさ」
 彼らから少し離れた所では、ウィルフレッドとギスランがその光景を眺めていた。
「それにしても‥‥あの二人、結婚計画依頼ではお芝居じゃなかったのかな」
「若いからその気になったか。‥‥バレンタインパートナー計画は、概ね悪い方向には行かなかったようだな」
「あれ。でも、ギスラン卿のお相手はどうしたのかな」
 言われて男は、ちらとアーシャを見た。離れた場所で彼女は。
「さすがリリアさん。その格好よく似合ってますよ〜」
「アーシャだって」
「‥‥それでリリアさん的には、そのカップリング、どっちが受けですか?」
「ん〜、あたしの好み的には、鬼畜ツンデレ受け」
 メイドドレス『リトルデビル』を着て、他人が入り込めない妖しげな結界内に篭っていた。
 
●?
 受付用の卓を片付けようとしていた受付員の前に、金髪の男が2人やって来た。
「‥‥」
「やぁ。楽しそうなパーティにお招きありがとう」
「‥‥招待状をお出しした覚えは」
「あるよね?」
「ございます。‥‥それで、お隣の方とはどう言ったご関係で」
「ん〜‥‥。複雑過ぎて一言では言い表せない関係」
「‥‥」
「若様。長居は出来ません。あちらへ」
 
●演奏会
「お相手をどうしようかと思っていましたけれど‥‥声を掛けて頂きありがとうございます」
 ラヴァドに誘われて中に入ったマミが、嬉しそうに話している。
「‥‥明らかに場違いな気がしてきたな‥‥」
 エスコートして会場内に入ったラヴァドは、想像以上に賑やか且つ華やかな社交の場である事に、思わず呟いていた。
「あ、見て下さい。演奏会もするようですわよ。社交ダンスをするようでしたら、ガルザークス殿のアシストも出来ますわ」
 これは良い食材だなとテーブルの料理を眺めていたラヴァドは、積極的なマミの誘いに頷きを返す。
 マミが指した先では、『演奏会』の準備が行われていた。
「サクラちゃんとコンビ組んで演奏会するよ〜♪」
 リルが笛を手に橙分隊員へと宣伝をしている。
「リルさんが楽器を奏で、私が歌を披露する形ですわね。リルさんの足を引っ張らないよう、いつか歌姫と呼ばれる位になるよう頑張ってみます」
 2人が言い出した演奏会は、その場に居る者たちも巻き込んだ。バード達が一緒に賑やかしく演奏したり、舞踏会に相応しい曲を奏でたりする中で、それらの音に乗って踊りだす者達や、音の流れを汲んで個別に楽器を構える者も居る。アリスティドもその一人だ。連れて来たエリザベートが恋歌を望んだので、それを奏でる。アニエスもいつの間にか少し離れた所でそれを聞いていた。
「みんな、踊りだしたね。‥‥素人で良ければ、ダンスを一曲、お願いできる?」
 自然な動きで手を取り、指に口付ける。エリザベートは赤くなりながらも嬉しそうに頷いた。

●舞踏会
「また一段と大人になられて‥‥」
 シェアトはローズヴェールの下、優しくジュールに微笑んだ。
「ご紹介しましょうね。昨年の夏に、結婚しました。教会に名前は刻めませんが、私のお日様、大切な旦那さまです」
「いつも話を聞くので、なんか会ってた気がしてたけど、ゆっくりははじめてよね。宜しく、お姉さんのお相手でっす!」
 ラファエルが笑顔で挨拶すると、ジュールも大人びた笑みを浮かべる。
「僕も、近いうちに結婚という話になるかもしれません」
「結婚‥‥?」
 音楽が絶えず流れる中、不意に歓声が上がった。見ると。
「レ、レシーアさんっ‥‥! あの、私は男ですよっ?!」
「ん〜? あたしと踊るのが嫌ぁ?」
「そうではなく‥‥これはお姫様抱っこですっ‥‥私が抱き上げるならともかく‥‥いえ、出来ませんけれども‥‥」
「ひどいっ!」
 突然、レシーアはその場に泣き崩れた。泣き落とし術におろおろするリディエール。
 そんな2人とは少し離れた場所で、別の注目を浴びている者達も居た。
「私に隠れて、色々な女性とダンスのお相手をしてきたのかしら? 酷いわ‥‥」
 社交の場に相応しく、優雅な円を描きながらセイルとリリーが踊っていた。セイルはかつて初心者だったが、少しは練習してマシになったらしい。リリーも驚いたように目を瞬かせていたが、拗ねたようにふいと顔を逸らす。慌ててその顔を覗き込んだセイルに、リリーはそっと口付けた。セイルは笑い、悪戯をやり返すかのように深く口付ける。ご馳走様です。



●ここに在る幸せ
 リーディアは、演奏会や食事や皆のラブを見て回ってパーティを楽しんでいた。
「カンツォーネ様。日頃の感謝の意味も篭めまして、これをお送り致しますわ」
 レリアンナに呼び止められ、贈り物を交換すると、彼女は後方でぼやっとしていた娘を紹介した。
「お姉さまですわ。今日のパートナーですの」
「レ、レリアンナサンハ、ト、トッテモイイコダヨ」
 エラテリスは何故か片言風だ。紹介する度にこんな光景が繰り広げられているらしい。
「‥‥あ」
 そんな2人を見送ったリーディアは、うっかり見つけてしまった。
「あれ。‥‥貴女は確か、聖夜祭の時の踊」
「ヨ、ヨヨヨ‥‥陛‥‥は、はわ‥‥」
 『本物ヨシュアス様』の隣に『自称ヨシュアス様』も見つけてしまったリーディアは、慌てふためいて転んだ。まさか居るとは思っていなかったのである。 
「ほぅ‥‥」
 香草茶を持ち、アイリスは息を吐いた。パリに来たのは初めてである。パートナーであるエレェナは、彼女の姉と友人同士。
「ノルマンは、どうだい? 海隔てた英国とは異なる点も多いだろうが、好きになって貰えると嬉しい。私も、ここへ来たのは最近なのだけれど‥‥とても、居心地の良い所だよ」
「隣人愛の記念日。人が、いつもより少し、より優しくなれる、なろうとする日。その空気が伝わってきて楽しく思います」
 ゲルマン語が分からない彼女だったが、イギリスから来た者たちは他にも居た。彼らを見つけて近寄る。
「彼女は俺にとって、とても大事な人です。己の誇りとも言えるほど」
 そこではマナウスが、レアを連れていた。レアが彼を紹介する度に、実に真摯な堂々たる振る舞いで挨拶を交わすのだが、彼女が如何に大きな存在かを伝える事も忘れなかった。
「あ、ヨーシア。久しぶりね」
 レアはマナウスが来なければ、ヨーシアを誘おうと思っていた。そのヨーシアは、同じくイギリス出身のイレクトラに連れられている。そしてイレクトラはライラの後方に回り込んでいた。
「ヨーシア殿、これがあたしの娘さ。でも、また、随分と良い連れ合いを見つけたものだね。二人で幸せになってくれると良いんだがね」
「ほえー‥‥。これは、なかなか良い話です。質量ドン、な『読み物』を書けそうですね!」
 レアとマナウスも視界に入れながら、ヨーシアは皆の恋愛模様をメモしているようだ。
「それでレアさん。その紳士のどこを好きに‥‥」
「えぇ? それ、今ここで言わないと駄目なわけ?」
 くっついて来ていたアイリスとエレェナも次の標的にされていたが、
「こ、この人は私の友人であって、別に特別な人とかじゃないわよ〜」
 みっちーさんに誘われたから断るわけにはいかない、と実に張り切ってやってきたスズカも、知り合いに挨拶回りをしていた所、ヨーシアに捕まった。
「あぁ。俺の勝手でわざわざ来てもらって申し訳ない限りだ」
 導仁が尤もらしく頷く。
「違うわよ。私は好きで付いてきているんだから」
「好きで‥‥」
「きゃー! そ、そういうんじゃないというかそうだというか」
「ふむふむ」
 2人の実に良いシーンにも首を突っ込む女、ヨーシア。
 一方で、純粋な挨拶回りとは言えない場面もある。
「お姉〜」
「あれ。アイシャじゃないの〜」
「見て見て〜。男連れ〜♪」
「!?」
 アイシャは、彬の腕にしがみついて少しもたれかかって見せた。踊りの場で『見違えるような淑女になったな』と褒めたばかりの彬は、照れながらも彼女にコートを着せる。
「アイシャに男が出来て、何故私にはー!」
「へぇ。結構イイ男じゃない。苛め甲斐がありそうな」
「でっすよね〜♪」
「そんな事より、フィルとこっそり蜜柑と餅を用意したんだ。食べないか?」
「あ、食べる食べる〜」
 近くに居たスズカと導仁も誘って、テーブルに毛布を被せ、ぬくぬくとジャパンの冬を過ごす一行。
「‥‥ねぇ、私‥‥お母様に挨拶してないんだけど‥‥」
 その卓にはユリゼとフィルマンも居た。振袖姿でぬくぬくしていると着崩れしないか気になってしょうがない。
「あら。私はフィル君のお母様の前でダンスを披露してきましたわよ」
「あ、見たわ。セイルさんとのダンス、息もぴったりでさすがだなぁって」
「おほほほ。褒めても何も出ませんわよ」
「お茶が美味しいです‥‥」
「リーディア総司令官、お疲れ様♪ はぁい、お酒あるわよ♪」
 ミシェルが何故か、その『ジャパン風冬卓』の周囲で飛び回ってお酌をして回っていた。
「おぅ。酒くれや」
 一人で居る女性に軽くちょっかいを掛けようとうろついていたオルフォークだったが、そんな女性は殆ど居なかったので仕方なく酒に走っている。
「あ。じゃあ、アンジェルにジャパン風飲み物でも。何かある?」
 楽しく2人踊り終えてきたアニェスが、汗を拭きながらミシェルに声を掛けた。
「えー、『古ワインお茶割り』がありますが〜」
「やめとく」
「私も‥‥宜しいですか? 何やら‥‥懐かしいような場所になっていますね。『ハレの日』のような‥‥」
 ふわりとリディエールが座って、卓の上の蜜柑の横にちょんと置いてある簡易手作り人形をそっと手に取る。
「あぁ、それね。少し早いけどどうかなってフィルが作ったみたい」
「何て言うか、破壊的な人形だよな」
 『雛』と書かれてあるがどう見ても化け物の類に見える人形を見て、ファイゼルがあっさり言った。
「‥‥少しは、何か進展はありましたか?」
 それにそっとアニエスが近付き尋ねる。
「ん〜‥‥。黒分隊の副長はすぐ帰っちまったしなぁ‥‥。あ、イヴェット! ここ。ここ空いてる」
「窮屈極まりない場所は遠慮する」
「ぴ〜ぴょろり〜だよ〜。まったりな音楽鳴らすよ〜」
「私、サクラも頑張りますっ」
 『音楽は世界を救う』を掲げて奏で続けていたリル&サクラもやって来て、楽しく体を揺らし始める。
「よっし。もう1回踊っちゃう?」
 ラファエルがシェアトに手を伸ばし、卓の周りで踊り始めた。
「私もフルートで参加しようかな」
 エレェナが楽器を取り出し柔らかな合奏が始まった所へ、レシーアがひらひらやってきた。
「リーディア〜。踊らない〜?」
「ふえっ‥‥。私ですか‥‥?」
「さぁ、一緒に踊りましょ〜踊りましょ〜」
 リルの鈴を奪い取るようにして借りたミシェルが、くるくる回っている。
「あ、ラナさん。餅を喉に詰めないように気をつけて下さいね‥‥」
「うんうん。蒼樹、踊る?」
「ど、どど‥‥踊‥‥」
「エレイン‥‥。歌と踊りで、伝えたい事があるんだけど‥‥」
 気の利いた話しか出来なくてすまないと告げたエレインに、レティシアが周囲の音に合わせるようにして楽器を奏で始めた。それを優しげに見守ったアリスティドも竪琴を爪弾き傍らのエリザベートへと微笑む。
「じゃ、そろそろ籤でもしようか」
「参加するですよ〜」
 すくっとエラテリスが立ち上がった。
 籤を行う者は少なかったが、フィルマンが用意した箱から各々木板を取って、中に書いてある番号を確認する。
 そうして、パーティの締め括りを今年1年のパートナー決めで終えた人々は、それぞれ挨拶を交わし合った。尚組み合わせは、リーディアとアニェス、リディエールと彬、エラテリスとエレェナである。仲良くすれば今年1年良き年を送れるとの事だ。
 恋愛や友情が進展した者もあり、周囲から祝福された者もあり、逆に悩みを抱えた者もあり、様々な事を内包しつつ、パーティは終宴を迎えた。
 皆は夜まで盛り上がり、その日初めて出会った者達同士も、楽しく語り合ったり飲み明かしたりしたと言う。

●?
「‥‥?」
 太一は、きょろきょろと辺りを見回した。
「あら〜、ちょっと可愛い子じゃないのよ〜」
「『パーティーに行きたいです拾ってください』だってぇ。飼っちゃう〜?」
 彼の上方では、形容し難い女装ジャイアントが3人立って、箱の中の太一を見下ろしていた。
「おねーさん、ありがと〜」
 美醜感覚が無い太一は、嬉しそうに礼を言っている。
 
 その後、彼がどうなったのかは定かでは無い。