薔薇の聖地〜楽園への道〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月15日〜03月20日

リプレイ公開日:2009年03月25日

●オープニング

 その村は、廃墟と化していた。
 数年前にモンスターの襲撃に遭い、滅ぼされた村。森を抜けた所にあったのだが、今や道も途絶え、立て札も撤去され、その場所を示すものは何も残されていなかった。


 さてここに、ニーニャという名の『娘』が居る。れいにも漏れず、その名は本名では無い。ジャイアントとして生まれ、ジャイアントとして育った『娘』は、他の多くのジャイアント同様、ノルマン出身では無かったのだが、物心ついた時にはその村に居た。そして15歳の誕生日の日に村を飛び出し、以降は職も場所も転々とし続けていた。その『娘』が、ようやく安住の地として見つけた場所。それが、パリにある『気高き薔薇亭』である。
 『気高き薔薇亭』はレスローシェにあるのが本店なのだが、『彼女』のようにパリに店を開いてからやって来た者も多い。そうして『彼女』は日々楽しく過ごしていたが、ある日、自分が育った村が滅ぼされていた事を知る。
 ここで嘆き悲しむのが一般的な反応だとすると、やはり『彼女』は少数派であった。
「‥‥決めた」
 普段、店では『大人しい』部類に入る『彼女』の決断は、それを聞いた仲間達さえも驚愕させるものであった。
「跡地を、『聖地』にしようと思うの」


『聖地』。聖なる場所。特定の信仰にとっての本山、本拠地、信仰の拠り所となる場所、或いは教会や信仰における重要人物に纏わる場所、或いは奇跡が起こった所。信者にとっては大変重要な場所であり、そこに行く事自体が大きなステータスともなり得る。
 とすると。
「‥‥何の?」
 素直にそういう疑問が出るのは当然の事である。
「勿論、あたし達の『聖地』よ。正確には‥‥あたし達のような人種が伸び伸び暮らせる場所を作る、って事かな」
 十分伸び伸び暮らしているだろうというツッコミをしてはいけない。
「ほら。この店の店員はジャイアントだけじゃない? でも実際は、『娘』になりたいと思ってる人、『女装スキー』な人って、ジャイアントだけじゃないと思うのよね。あたし達はジャイアントだからどうしても目立つけど、小さいパラやシフールにだって居ると思うの。そういう人達が、『あはは〜うふふ〜』って言って過ごせる場所、誰に何を言われる事の無い『聖地』を、作りたいって思ってたのよ」
「あぁ‥‥『楽園』ね」
 店員仲間のミナが頷く。
「そんな場所が本当にあれば‥‥素敵だわ」
「でも、モンスターに滅ぼされた場所でしょ。危ないんじゃない?」
 別の仲間、オコウの指摘は尤もだ。
「だから、冒険者に頼むつもり。家とかも夢いっぱいな形や色や柄にして、広場には噴水があったりして、女装天使像が飾られていたりするの。あたし達は神様の加護を得る事は出来ないけれど、だからこそ、結束したい。ちゃんとね。神様の彫像とかも置きたいなって思ってるのよ。教会とか」
「大丈夫? それ」
「祝福も加護も得る事は出来なくても、神様が見ていて下さっているのは同じでしょ? いつか、あたし達の事も、神様が認めて下さればなぁって思うの」
 ニーニャは、神に対して肯定的になれないこの店の多くの店員達の中にあって、熱心な白の教義における信者でもあった。異端である事は承知の上で、それでも何とかなるんじゃないかと思う前向き思考は、他の店員同様持ち合わせている。細かい事を気にしていたら、こんな人生を送っていたりはしないだろう。
「『聖地』までは、まず道が無くなっていると思うのよね。まぁでも、堂々と立て看板立てて『聖地こちら』ってわけには行かないじゃない? だから目印は分かりにくいものがいいと思うのよね。『聖地』の整備は‥‥森から直接木を運ぶとして、建物とかがどれくらい原型を留めているか、っていうのもあるわよね‥‥。オークの巣とかになってるかもしれないし、モンスターの襲撃もあるかもしれないけれど、そこは冒険者の本領発揮でしょ。周囲のモンスターを一掃してもらえばいいわけだし」
「そうね‥‥。こっちは、どれだけの子が戦えるの?」
 乗り気のミナが振り返ると、ぱらぱらと手を上げる『娘』達。
「オコウはウィザードだったのよね、昔」
「10代の頃の話だけどね。まぁ水には困らないと思うわよ」
「すっかり『目覚めちゃった』ユキさんは‥‥今、どうしてるかしら」
「森に篭って修行してるって聞いたけど」
「呼んだらどう? 『聖地』が出来たら、描く絵にも不自由しないわけだし」
「そうねぇ‥‥。あの子、ああ見えてかなり力持ちさんだし‥‥」
 そういう相談がしばし続いた後、皆はギルドに依頼を出すべく準備を始めた。

●聖地予定地情報
パリから馬車往復2日の森の奥。森には道が残っていないが、ニーニャは場所を覚えているとの事。
村跡地がどうなっているかは不明。モンスター有無も不明。

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3120 ロックフェラー・シュターゼン(40歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3277 ウィル・エイブル(28歳・♂・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec2332 ミシェル・サラン(22歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 ec4491 ラムセス・ミンス(18歳・♂・ジプシー・ジャイアント・エジプト)
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ラシュディア・バルトン(ea4107

●リプレイ本文


 楽園への扉を開く道。
 それはまず、冒険者街の一角から始まった。
「さて。積んだはいいが‥‥」
 棲家前で、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)は涙目の驢馬と対峙していた。彼の後方には山となった木材。驢馬の上にも丘のような木材。
「ドウブツギャクタイにも程があるよね〜」
 駿馬に乗ったウィル・エイブル(ea3277)の言葉に、驢馬は目をうるうるさせた。
「ワインドも使って下さい」
 デニム・シュタインバーグ(eb0346)が馬を引いて走ってきた。そしてせっせと木材を積み始める。
「お。これは有難い。すまないなぁ、デニムさん」
「いえ。困っている人がいるならば、それを助けるのが騎士です」
 きらーんとデニムの白い歯が輝いた。
「『まるごとメリーず』もお手伝いしますよ〜」
 意外と人並みの速度で進むノルマンコゾウガメという名の(以下略)に乗ったエーディット・ブラウン(eb1460)が、カメ達に木材を積ませようとして甲羅に苦戦する。
 そこへ。
「姐さん達、宜しく」
「か弱いあたし達に何させようってわけ〜?」
 一番体格の良い『娘』が、桃代龍牙(ec5385)に連れられてきて文句を言った。店前集合だったのだが、木材運搬の為にぞろぞろ『娘達』がやってきている。その集団を初めて見たミシェル・サラン(ec2332)が、びくっと体を震わせた。
「えぇ‥‥背が高くてビックリしただけよ。だってわたくし、シフールだもの」
 本当は山のようにそびえ立つ女装姿のジャイアント集団に驚いたとは言えない。この雰囲気では決して言えない。
「ユキ殿もご到着ですぞー!」
 ケイ・ロードライト(ea2499)の声と、馬車が走ってくる音が聞こえた。振り返るとそこに。
「燃えよヒート! 熱きビート! 今、必殺の」
「おぉ! まだ殺してはいけませんぞ、ユキ殿!」
「ぎゃー! 轢かれるー!」
「本当の楽園に行くのはイヤー!」
「‥‥アイスコフィン!」
「ユキ殿ーっ!」
 とまぁひと悶着あったが、凍ったユキが御者台から落ちたくらいで済んだ。
『新しい時代を作る仕事です。私と共に名を残しに行きましょうぞ!」
 キラーンと輝きながらケイがユキにそう告げた為、興奮してこういう事態になったらしい。
 しかし、そんな騒ぎの中。
「ぱ、ぱりきゅあさんデス‥‥。夢と希望の使徒デス〜‥‥」
 物陰に、憧れビームを放つ少年ラムセス・ミンス(ec4491)が居た。手に『禁断の指輪』を握り締めている。
「守り神の像のモデルに‥‥。あ、でもぱりきゅあさんはパリを守るのに忙しいデス‥‥」
「‥‥猪突猛進型熱血愚弟を見送りに来たんだが、何か寒気がする‥‥。気のせいかな‥‥。いや、これはきっと、お前の行く末が心配だからだ」
「偏見は良くないよ。自分達の夢を叶えようと前向きに頑張っている人たちだよ? 出来る限り応援したい」
「いや、うん。‥‥まぁ、色んな意味で無事に帰って来いよ」
 弟の10倍以上こういう事には敏感な兄は、複数の波状視線に晒されながら弟を心配した。
「ラシュディアさんも、夫妻像のモデルはいかがでしょう〜♪ 素敵な奥さんになれるですね〜」
「何? ラシュディアさんもイヴ候補? じゃあドレス2着用意しないとな」
「ぱりきゅあさんがモデルに‥‥」
「嫌だー! 俺は行かない! 絶対行かないからなーっ!」
 泣きながら兄は去っていった。
 何はともあれ、皆は楽園への道を作り始める為、出発したのである。


 さて。守り神とか夫婦像とか言っているが、一体何の話なのか。
「村の名前ですが‥‥『青薔薇の村』ではどうかと。『この世に無いもの』の比喩として使われますが、この村では『集いし奇跡』と読み替えますかな」
 荷馬車と馬が用意され、馬持参の者は馬に乗り、持たない者は木材に挟まれながら馬車に揺られていた。その旅の間にケイが語った案は満場一致で迎えられる。
 その村に象徴となる『夫婦像』を置くのだが、祠内に入れて祀り上げるらしい。一見男女の夫婦像と見せかけて実は男同士が寄り添う図とするようだが、男はアダムさん。女はイヴさんと名が付けられている。男はロックフェラーがモデルになると決まっているが、女はまだ決まっていない。男性は全員イヴさん候補の為、ケイが涙ながらに棲家に眠っていた『禁断の指輪』を持ってきたり、ロックフェラーはドレスを用意したり、デニムが、
「僕は女装というものをやった事が無いのですが、像の候補の1人としては、どうすればいいのか分からなくて‥‥」
 薔薇亭の『娘達』に相談したりしていた。
 目的が目的なだけに、『一般人』が紛れ込むのは避けたい。そこで様々な案が採られた。
「はぁ‥‥。道を整備するのは大変な作業ですね‥‥」
「広くて大きな道は村に繋がらないようにして、小さな道を繋げるようにしたらどうデス?」
「でもそうすると、馬車が入れなくなりますね‥‥。目立たないように、でも道として機能するように‥‥。なかなか難しい問題です」
 そもそも廃村まで馬車を入れる事が一苦労だった。倒れた木をどかし、突き出た根を掘って捨て、これが夏だったら草刈りから始めるだろうなと思わせる作業を重ねた上だったのである。
「道は、使われなければすぐに失われてしまうのですね‥‥。守って行かないと」
 デニムが決心したその時。
「ヴォーパルでバニーな一撃〜。略してヴォーバ!」
 うさみみが横方から跳んできてデニムの上半身にめり込んだ。
「デデデデニムさんが、うさみみさんにやられちゃったデス〜!」
「あれぇ? おかしいなぁ‥‥首を狙ったはず‥‥じゃなくて、敵だと思ったんだけど」
 ラビットバンド姿のウィルが小太刀を両手に持って立ち上がる。
 廃村に入ってまず皆が始めた事は、村内外の探索である。それはもう真面目に皆は取り組んだ。モンスターに滅ぼされたとの事だから、村作成と同時進行で警戒と掃討も行わなくてはならない。冒険者が居なくても平和に過ごせるよう、モンスターは徹底的に‥‥。
「さぁ、貴方も『とぶレンジャー』に入らない?」
 『まるごとしろわしさん』にラビットバンドのミシェルが、くるりと回って翼を差し出した。
「『飛翔戦隊☆とぶレンジャー』は常に勇士募集中ですぞ。仕事内容は警戒、探索、障害の排除。隊員は『飛ぶ』や『跳ぶ』心意気があれば、どなたでもOKですぞっ」
 『まるごとハトさん』姿のケイも羽を伸ばす。平和と愛の象徴、ハト。この仕事の象徴とも言える姿だろう。
「一体何が‥‥。皆さん、その姿は‥‥」
 気絶から復活したデニムが皆を見回す中、ラムセスはとってもうるうるしていた。
「やるデス! 『飛翔戦隊』の一員になるデス!」
 こうして、少年も憧れの『戦隊物』の一員となれた。おめでとう、ラムセス!


 ロックフェラーが用意した木材は、苦労した甲斐あって色々使えそうだった。
 『娘達』も楽園を作る為に普段の姿を止め、実に『海の男って感じよね』という姿で働いている。尚、この姿は森の外に漏らしてはいけないと『彼女達』に言われている。これは『妖精さんが見せる偽りの姿』であるらしい。一方的に自分達の所為にされたラムセスと龍牙のフェアリー達だが、危うきに近寄らずを守る者あり、ただ能天気に飛び回る者ありで、平穏が保たれていた。
 木材は、次々と建物修繕に使われていく。
「像なんだけど、周囲に椅子とテーブルを置いて屋根を付けて、カップルの休憩所なんてどう?」
 ミシェルの提案は、実に女の子らしいものだった。花畑を作り、ピクニックで楽しい気分になれるよう季節ごとに咲く花を植える。川から小川を引いてせせらぎを作る。釣りも出来ると尚良し。
「薔薇園も作りたいですね〜♪ 少し時間は掛かりそうですけど〜。お土産物屋さんも作れば有名になりますね〜」
「生活するのデスから、畑も作るのデス」
「ひとまず、理想の形ってのを描いてみようか」
 龍牙が地面に図を描き始めた。他人が見てもモンスターのような絵だが、解読のし甲斐はありそうである。
「祠を中央に置いて、エーディットさんが言うように見晴らしが良いように設計して、石か青銅で像を作る。水が引ければ噴水以外にも水車も置けるな。井戸なら風車か。‥‥祠は水力で時間が来たら像が入れ替わる位はしてみたいな」
「そんな事、出来るんですか?」
「出来る出来ないじゃなくて、どこまで出来るかを試してみるのが一番だな。鯨のヒゲが手に入りそうならゼンマイを作って‥‥からくりは、歯車も命だ。定期的に交換が必要だろうけど、噛み合わせはこっちがいいかな‥‥」
 と、龍牙が考えていると。
「おぉ‥‥ここに、良さそうな岩肌がありますぞー!」
 ケイが遠くから声を上げた。
「これを切り出して像を作るのはいかがですかな」
「良さそうだ。俺も手伝うよ」
「‥‥そう言えば、イヴさん役は決まったのでしょうか?」
 ぴたり。皆の動きが止まる。
「‥‥あれ? 僕、変な事言いましたか‥‥?」
 ぺにょり。デニムは不意に背後から肩を掴まれた。反射的に身構えながら振り返ったデニムだったが、視界が暗い。
「デニムさんは餌じゃないデスー!!」
 頭だけノルマンコゾウガメさんに食われたデニムを、必死でラムセスが引っ張った。
「デニムさんの事、すっかりお気に入りですね〜♪」
「じゃあ、イヴ役はデニム様でどうかしら〜」
 とても遠くからミシェルが声を張り上げる。とても遠くなのは亀(?)から逃げたからだ。それはもう、脱兎の如く。
「いいんでない? カモフラージュにはなるだろうし」
「うんうん、そうだね。僕も賛成〜」
「よっし。じゃあ俺は、森の中に道標用の彫刻でも彫ってくるよ」
「いってらっしゃい‥‥あ、義父さん、そこ、罠」
「ぎゃー! 何故道に仕掛けるー!」
「敵が道から来たら危ないからね〜」
「さすがウィル殿。手抜かりありませんな」
「森に、捕獲セットと殺傷力抜群セットを仕掛けておいたよ〜」
「カメさん、デニムさんを離すデスー!」
「捕獲セットに何か掛かったら、それを晩飯にするのもいいな。俺は飯の準備してくるよ」
「あ、そうだ! 井戸は使えるようにしておいたから! って、また罠!」
「甘噛みだから大丈夫ですよ〜♪ でもそろそろご飯の時間ですね〜」
「おぉ。ならば私は簡易テントを張りますかな。森からは離しておきますぞ。色々危ないですからな」
「そうだね〜」
「‥‥混沌としてきたわね‥‥」
 目の前で繰り広げられる光景を遠くから眺めつつ、ミシェルはぼそりと呟いた。


 元より薔薇亭に纏わる一連の依頼。混沌としなかった事は殆ど無い。
「それにしても、女物の多い村だな」
 廃村は、意外と建物の崩れが少なかった。中には住人達の物が残っていたのだが、男物は殆ど残っていない。
「だって女しか居なかったもの」
 ニーニャがあっさり言った。
「男性は出稼ぎに?」
「‥‥あぁ‥‥成程」
 何となく把握した龍牙が頷く。
「つまり、薔薇亭の女版と。俺達の事は理解されても居づらいなぁ、それは」
「でしょ。村のあちこちで女達が楽しそうにしてるのを見ると、女の姿をしてる自分が惨めになるわけ」
「そうねぇ。イイ男が居ないのは難点よねぇ」
「では、再び新たなる楽園がここに作られるわけですな」
 ケイが何度も頷いた。
 村内に作る予定の物の図案は大体出来上がった。ユキに描かせると凄い物が出来上がるのだが、意外とユキが描いた『夫婦像』は良い出来栄えだったのでそれを採用する事にする。まずは生活を第一になのでそちら優先だが、ケイが切り出した石はなかなか立派なものだった。ロックフェラーが作った道標は、青銅製薔薇模様。罠避けの目印を作って完成である。
 一方、村周辺にはモンスターが見当たらなかったので、一通り落ち着いた滞在最終日、皆は少し遠出する事にした。尚、エーディットは亀達と村を守る為にお留守番。龍牙は炊事に追われている。
 歩く事、3時間。
「‥‥テントですね」
 小さな野営地のようなものを見つけた。そこをうろつくオークの姿も。
 皆は黙って頷きあった。そう、今こそ『飛翔戦隊☆とぶレンジャー』の出番なのだ!
「恋する心は縛れない。蒼穹高く舞い上がる! 飛翔戦隊ただ今参上〜!」
 ばばん。ハト姿のケイが飛び出す。
「兎だってきっと飛べる! ヴォーパルレンジャー!」
 ばばん。うさみみ姿のウィルが後に続く。
「乙女の夢を守る為、白鷲のミシェル参上! わたくしが退治して差し上げますわ!」
 ばばん。森の中でとりもちにちょっぴり引っかかった白鷲姿のミシェルが、びしっとポーズを決める。
「HAHAHA! とぶれんじゃーが1人、とぶいったん、見参!」
 ばばん。妙に肉厚な一反妖怪のロックフェラーが、槍を両手に持って森から出た。
「とぶすふぃんくすさんデス〜。‥‥すふぃんくすびーむ!」
「ちょっ‥‥必殺技はやっ!」
 じゅう。通りすがりのオークが、サンレーザーでこんがり部分的に焼けました。
 さすがにそれだけ騒げば敵も気付かないわけがない。わらわらテントや森からオークが出てきて‥‥。
「‥‥オーク?」
「オークよね」
「多分オークですな」
「オークも色々居るんだよ〜」
「オークさんデス〜?」
「‥‥あの、僕の目には『女性の服を着たオーク』に見えるんですけど‥‥見間違いじゃないですよね‥‥?」
 最後に出てきた通常の格好のデニムが、皆にそっと尋ねた。
「あ。きっと村に残っていた服を盗んだんですね。寒さ避けにそれを着ていて」
 気付いたように彼は続けて言ったが。
「自分を着飾りたい気持ちは分からないでも無い」
「そうですなぁ‥‥。オークにも、色々事情はあるかもしれませんな」
「波紋のようにこういうのって広がるものなのかしら」
「本人が良ければそれでいいんじゃない〜?」
「オークさんもぱりきゅあさんに憧れたんデス〜」
「えっ‥‥そ、そうなんでしょうか‥‥」
「でもイーグルアイス!」
 ミシェルのアイスコフィンが、ひらひら桃色ドレス姿のオークを凍らせた。
「うむ。盗みは良くありませんぞ! 鳩胸アタック!」
 どふ。盾を胸の前に構えたケイが突撃を敢行。
「‥‥どんな格好をしていても、これは騎士の務め!」
 皆が次々必殺技を繰り出す中、デニムも剣を構えて飛び出した。


 そして、再び皆は馬車に乗りパリへと帰って行った。
 女装オーク集団は滅んだ。尚、彼らが村を滅ぼした犯人だったかは分からない。村の基礎も出来上がった。像も形は出来た。村には交代で『娘達』が行く他、手伝いも呼ぶらしい。一先ず脅威も去った。しばらくは安全だろう。


 だが。悪夢は忘れた頃にやって来る。
「ロックフェラーさんに新しい奥さんが出来たのですよ〜♪」
 某蜜蜂亭にエーディットが新ネタを持参して訪れた事など、この時の彼らは、知る由も無かったのである‥‥。