花宴の時〜あなたに夢を〜

■イベントシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:30人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月17日〜03月17日

リプレイ公開日:2009年03月28日

●オープニング


 昔々、フローラとマルクとポールという名の子供達が居ました。
 3人は所謂幼馴染でした。フローラは優しいお姉さんタイプ。マルクは物怖じして人に付いていくタイプ。ポールはお山の大将タイプでした。3人は一緒によく遊び、笑って泣いて時には怒って暮らし、成長して行きました。
 時は流れ、フローラに結婚話が持ち上がりました。フローラに何時しか恋心を抱いていたマルクとポールは、各々冒険者を巻き込んで戦略(?)を立て、フローラに告白。結局フローラが選んだのはマルクで、その時から2人は交際を始めました。フラれたポールは紆余曲折を経て、冒険者となりレンジャーとなり時には演芸団員になったり果ては巫女服レンジャーになったり、実に凝縮した人生を送る事となりました。
 ポールがフローラにフラれてもうすぐ2年になります。この季節になると、何時も彼は思い出します。
 大好きだった人、大好きだった幼馴染、そして後3ヶ月程で結婚してしまう2人の事を。


 けれども同時に今年は。
 別の人の事も思うのです。


 ポールはアーモンドの花を見つめていた。
 この2年間、毎年この季節は、マルクの向かいの家の爺さん所有『さくらんぼ農園』で春のパーティを過ごしてきた。1度目はフローラに告白する為。2度目はマルクを焚きつける為。しかし例年借りていた『さくらんぼ農園』は、『カップル誕生を約束する木』と農園主が宣伝し始めた為、花が咲く季節はカップルだらけになってしまうのだと言う。それはそれで楽しいのだろうが、日頃せわしなく生きているポールでも、幼馴染達と一緒にここで過ごすならしんみり渋く男っぽく行きたいよな、と思っている。だからあの場所を借りるならば、まだ蕾の硬いこの時期しかない。運が良ければ蕾が色付く頃だろう。
 一方、このアーモンドの木は、既に咲き誇っている。白い波が柔らかな日差しの中に揺れ、煌めく湖畔に花びらが舞う。ようやく薄っすらと大地を染め始めた若い緑の草の上にも、白い花が風に乗って降って来た。こちらは、パーティをする日にはかなり散っているかもしれないな、とポールは思う。まぁまだ何本かは残っているから、どれかは咲いているだろう。湖畔でピクニック気分の花見もいいかもしれない。
 根元にどかっと座り、ポールは愛用のレザーアーマーから花びらを落とした。これは、マルクお手製の品だ。『仕方ないから俺が使ってやる!』と言って、1年半ほど前に半ば強引に貰った。足元に置いてあるバックパックは、1年前の旅立ちの日、マルクとフローラ2人の共同作業で作られ贈って貰った品だ。革工職人マルクが作り、それに刺繍や飾りをフローラが施した。パリを出て数ヶ月の間の冒険で飾りの多くは無くなってしまったが、千切れてしまった飾りのひとつは紐と合わせて首から提げている。
 旅立つ前は、弓矢ひとつ扱えなかったなぁと、背中から弓を下ろして彼はそれを見た。『不適合』と認定されて、まぁ元々不器用だから仕方ないけれども、巫女服大好き巫女レンジャーなる者達と意気投合して一緒に行動していた間に、射撃技術を叩き込まれたのだった。罠については、冒険者になるきっかけとなった『女装ジャイアントからの襲撃』から逃げる為に色々独学で勉強したが、それも巫女レンジャー達から更に叩き込まれている。
 1年前は、2年前に比べると随分成長したなと思っていた。この1年の間に、自分はもっと成長したと言える。最近は格上の冒険者達と一緒に出かけた。尤も、大して役にも立たなかったけれども。っていうか、何でみんな目が飛び出るくらい凄い装備とアイテムを持っているんだろう。命中度が上がるアイテムのひとつやふたつあれば、もうちょっと矢の命中率もあがると思うのに。
 そもそもレミエラなんて気軽に作って持って歩いたり、武器防具強化してるのが凄い。あの改造費、生活費の何ヶ月分なんだ。
 ポールは、ごろりと寝転がって空を見つめた。
 もっと強くなりたいなと彼は思う。強くなって、そして‥‥。


『冒険者と一緒に冒険して、冒険譚‥‥ですか? はい、書いた事は何度かありますよ?』
『なぁなぁ。じゃあ、俺の事。俺の事っ! 書いてくれよ。俺、すっげぇ強くなったんだぞ!』
『そうですか〜。それは良かったですね〜。頑張ってくださいね〜』
『何だその無茶苦茶興味ない反応っ!』


 彼女に書いてもらうのだ。今は全く相手にされていないけれども。いつか。



 依頼じゃないけれど、と前置きして、ポールはギルド員に『花見パーティ』について話し始めた。
 『さくらんぼ農園』か、『アーモンドの花咲く湖畔』で、『花見パーティ』をしたいのだと言う。尤も、前者はまだ咲いていないし、後者は大分散っているだろうとの事。そこに、6月に結婚予定の自分の幼馴染、フローラとマルクを呼ぶ。最近はデビルだ何だと世間は騒がしく、物々しい雰囲気が漂う事もあるパリだが、おかげでマルクの家の工房もそれなりに繁盛しているらしい。結婚前の2人だが、フローラも手伝うことがあると言う。結婚準備もあって何かと忙しいかもしれない二人だが、その日の為に時間を空ける事くらいは出来るだろう。結婚したら、もうこんな事も出来なくなるのかもしれないのだから。
 ギルドに話をしたその足で、ポールは酒場へと出かけた。
 よくこんな賑やかな所で書けるな、と彼はいつも思う。そこにはバードが被るような羽のついたつばの広い帽子を被ったヨーシアが居た。ヨーシアは、一般人の為に『読み物』を書いたり、店や祭り、イベント事の宣伝の為の文を手がけたりしていて、最近は文字が読めない人の為に、金持ち達で構成された『慈善会』と合同で読み聞かせも行っているらしい。20歳でパリに初めてやってきたこの娘も、既に23歳になった。もう良いお年頃である。
 いつもの如く挨拶すると適当にあしらうような返事が返ってきたが、ポールは彼女に『花見パーティ』について話した。途端、彼女は目の色を変える。そこに物書きとしての本能、『面白そうな事に首を突っ込む』が働いたのだ。いそいそと具体的な内容についてメモを取ろうとするヨーシアだったが、ポールが一言『内容は未定!』と言った為、大仰にため息をついた。そして少し考える。
「フローラさんとマルクさんの結婚前お祝いパーティ‥‥。ペットと共に花を愛でる‥‥ピクニック気分で夢の世界‥‥木の下で繰り広げられる、酒宴の乱舞‥‥」
「‥‥最後のは何なんだ‥‥?」
「それはもう、あなたみたいな人が傍に居たら、ばちこーん、どっかーん、と飛ばされる事請け合いな感じの酒乱の戦い?」
「何だとっ! 俺は負けねぇ!」
「どんなパーティになるんでしょうねぇ‥‥。書くほうとしても、とっても楽しみです」
 笑顔で言う娘に、ポールは言いかけた言葉を飲み込んだ。


 本当はもう少し。
 夢のある台詞を言って欲しいものだ。

●今回の参加者

アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ ディーネ・ノート(ea1542)/ ラテリカ・ラートベル(ea1641)/ ウィンディオ・プレイン(ea3153)/ ユリゼ・ファルアート(ea3502)/ シェアト・レフロージュ(ea3869)/ フレイア・ヴォルフ(ea6557)/ 井伊 貴政(ea8384)/ リリー・ストーム(ea9927)/ デフィル・ノチセフ(eb0072)/ エーディット・ブラウン(eb1460)/ エイジ・シドリ(eb1875)/ 八代 樹(eb2174)/ フレイ・フォーゲル(eb3227)/ 藤村 凪(eb3310)/ 鳳 令明(eb3759)/ クリステル・シャルダン(eb3862)/ イリアス・ラミュウズ(eb4890)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ 鳳 双樹(eb8121)/ レア・クラウス(eb8226)/ ジャン・シュヴァリエ(eb8302)/ セイル・ファースト(eb8642)/ アニェス・ジュイエ(eb9449)/ エルディン・アトワイト(ec0290)/ アイシャ・オルテンシア(ec2418)/ ミシェル・コクトー(ec4318)/ ファラーリア・プレイン(ec5096)/ 安藤 北斗(ec6132)/ 桂木 涼花(ec6207

●リプレイ本文


「素敵な眺めですね‥‥」
 白き花が咲く湖畔。風に乗って花びらが舞えば、それは月道で繋がりし隣国の面差しを思い出させる。
「去年はジャパンでお花見したのよね」
 アニェスも軽く仰ぎ見て呟いた。
「あれから‥‥1年近く経つのねぇ‥‥。色んな事があったもんだわ」
「本当に。異国で似た花を見つける事が出来るとは思ってもみませんでした」
 旅の途中でこの催しを知った涼花が、ジャパン語でアニェスと会話する。ゲルマン語の分からない彼女だが、ジャパン語の出来る冒険者は結構多い。何とかなるだろう。
「ほんと。ノルマンで『花見』出来るなんて思わなかったわよね」
「ふぅ‥‥はぁ‥‥よいしょ‥‥」
 のんびりと広がる光景を鑑賞していた2人の横手を、クリステルがよろよろしながら通り過ぎた。見れば、巨大な籠を両手で持って歩いている。その胸元にあるアーモンドブローチが光を反射して一瞬輝いた。
「手伝いましょうか?」
「あ‥‥。ありがとうございます。ありがとうございます」
 手を出したのは涼花だったが、クリステルは2人に向かって交互にお辞儀する。その度に籠が動き中から音が漏れ本人もふらふらした。
 3人が荷物を分け合って持ち、少し開けた場所に向かって歩いていくと、途中でのそのそ歩くスモールシェルドラゴンと遭遇した。3mの巨体に涼花は5歩後退する。こんなモノと戦う羽目にでもなったら、死の宴一直線に違いない。
「あら〜。皆さんもパーティに参加ですか〜?」
 しかし、それは毛布を甲羅に乗せていた。そしてその上に3人の人が座っている。『ノルマンコゾウガメ』と名づけられたそれの飼い主エーディットは、冒険者ギルドまでポールとヨーシアを迎えに行ったのだった。
 合流し、そのまま共にのんびり歩く。一羽の鳥が一声鳴いて羽ばたいていくのに目をやると、淡い色の空がどこまでも広がっている中に複数の声が飛んできた。
「ひゃぁ! つっめたっ! ディーネちゃん、あかんって!」
「あっはは〜♪ 次はクリエイトファイア〜」
 開けた場所に、人々が集まっている。ディーネと凪はお茶係りだ。ディーネが焚き火にクリエイトファイアーで火を点けクリエイトウォーターで作り出した水を鍋に入れる。ディーネがうりゃと水をかけて遊んでいたが、その攻撃の被害をちょっと受けた貴政が、鍋を持って近付いてきた。
「やっぱり屋外だと、調理設備は整ってないですね〜。家でスープやごった煮作ってきたんですけど、火貸してもらえませんか〜?」
「あ、いいよ。火の後始末は忘れずにね〜」
「分かりました〜」
 いそいそと鍋を焚き火の上に吊るす貴政。
「美味しそうな匂いですね〜」
 そこへ、アーシャとアイシャ。双子姉妹がやってきた。アーシャは手に竹製の竿を持っている。
「よ〜っし。釣りがんばりますよ〜」
「お姉、がんばってください〜」
「アイシャもやるのっ」
「竿持ってないんですよねぇ‥‥。あ、そうだ。エルディンさんを餌に‥‥」
「エルディンさんを餌にするなら、巨大な竿がいるよね」
「魚用の火、残してあるから釣れたら言ってね〜♪」
 ディーネがひらひら手を振って声を飛ばした。
「分かりました〜」
「竿とか餌とか何の話ですか‥‥」
 気合を入れている双子の後方からエルディンがやって来て、何かを企んでいそうな姉妹を交互に見る。
「まぁ、3人で出かけるのも滅多に無い事です。存分に楽しみましょう」
「は〜い」
「は〜い♪」
 昼食を準備する者あり、遊ぶ者ありの中へ、6人とカメがやってきた。
「そういえば‥‥マルクさんとフローラさんは、誰か迎えに行ったのでしょうか〜?」
「はわわ‥‥。行ってないのです!」
 皆さん、笑顔キラキラですね♪ と喜んでいたラテリカが、エーディットの何気ない疑問に全身で驚きを表現する。
「あぁっ‥‥どうしましょう‥‥どうしましょうなのです‥‥」
 おろおろ。うろうろ。
「大丈夫ですよ‥‥。お2人は、必ず来て下さいますから」
 シェアトがラテリカの背にそっと手を当てて、微笑んで見せる。
 その言葉の通り、マルクとフローラはしっかり手を繋いでやって来た。
 柔らかな日差しが降り注ぐ、春間近なこの日。湖畔での宴が始まろうとしていた。


「少し早いですけれど、ご結婚おめでとうございますです」
 ラテリカがぺこりと2人に向かってお辞儀する。
「6月には、素敵な花嫁さん花婿さんにご挨拶させて頂けると嬉しいのです」
「えぇ。その時には是非」
 フローラが頷く。
「マルクさんフローラさんおめでとうございます」
 続いてシェアトが安堵したような表情で挨拶。
「良かったです‥‥本当に。挙式は6月でしょうか? 出来るならお式にお祝いの曲をお届けしたいものですね」
「6月の花嫁さん‥‥素敵なのです」
 ほわとした表情のままのラテリカの隣にユリゼがやって来て、フローラをそっと抱きしめた。
「そう、結婚‥‥。あの後はちゃんと手を離さずに居たのね。おめでとう。幸せな未来を二人で歩んでね」
「ありがとう」
 それからマルクと握手し、皆に振舞う為の香草茶を準備しに、彼女はその場から少し離れる。
「結婚するのか。‥‥目出度い事だな。」
 マルクとフローラが皆の中に入っていく途中、エイジとも遭遇した。自分自身思い起こせば、彼らの出した依頼に今まで3度参加している。何かと縁があった2人が幸せになるのは喜ばしい。
「何かとお世話になって‥‥ここまで、来れました。‥‥ありがとうございます、皆さん」
「え〜〜っと、おめでと〜なのじゃ〜」
 マルクが皆に礼を言っていると、まるごとわんこがやって来てその肩をぽむぽむした。
「マルクどにょとフローラどにょははじめましてなにょじゃ〜♪」
 わんこ姿の令明の挨拶は、ふよふよしているフェアリー達に負けず劣らず愛らしい。フローラの顔が綻んだ。
「初めまして‥‥宜しくね」
「そこのわんこさんっ!」
 だがそこに、別の声が割り込んで来た。
「ちょっとぎゅうってさせて下さいっ!」
「にょにょ‥‥潰れてしまうのじゃ〜」
「ふふふふふ‥‥ちょっとですから‥‥」
「おりはわんこの楽園をもとめてここまできたのじゃじゃ〜。楽園を見る前に潰れるのはいやなのじゃ〜」
 わきわきしているヨーシアから逃げていく令明。それを物凄い勢いで追いかけていくヨーシアだったが、途中で何かに躓いて盛大に転んだ。
「あれ‥‥ヨーシアさんじゃないですか〜。そこ、転んでると危ないですよ〜」
「えっと‥‥あなたは確か、井伊貴政さん‥‥お久しぶっ‥‥火っ! 火がっ」
「逃げないと燃え移りますよ〜」
「きゃー」
 鍋を両手で持っていた貴政はすぐには彼女を助ける事が出来ない。見守っていると、
「うりゃっ♪」
 ディーネが、火の後始末用にと鍋に用意しておいた水を盛大に掛けた。
「ふぅ。火の元には気をつけないとね〜」
「あ‥‥ありがとうございます‥‥」
「あの‥‥大丈夫ですか‥‥?」
 具だくさんのスープにホットワイン、甘酒を温めていたクリステルが、器を差し出す。毛布の持ち合わせが無い彼女に出来る事はこれくらいだったのだ。
「何ですか‥‥これ‥‥? 白くて甘くて‥‥」
「甘酒はジャパンの飲み物です。軽食も作って来ました‥‥良かったら、どうぞ」
「頂きますっ‥‥何か懐かしい味ですねぇ‥‥イギリスの方ですか?」
「はい。お口に合えば‥‥宜しいのですけれども」
「私もイギリスから来たんです。ここで祖国の味に会えるとは‥‥え〜ん」
「あら‥‥泣かないで下さい‥‥。今は月道も開いているんですもの‥‥。いつでも、祖国の扉は開いておりますから」
 一方、その頃ポールは。
「おししょさまが、助けて貰って有り難うて言ってました。ラテリカからも、ありがとございましたのです」
 と深々とお辞儀されたり。
「ポールさん 先日はありがとうございました。‥‥あの時は驚かれました? でも私も装備が揃い始めたのはポールさんのレベルからもう少し経った位でした。これからですよ」
 とやっぱり礼されて励まされたり。
「ポールさんにもまた春が?」
 と、ジャンに身に覚えが無い事を言われたりしていた。
「会った事もないのに、ずっと前から友達みたいな気がするのは不思議だね」
「友達っ‥‥? ぜんぜんそんな気しねぇ」
「一方的に、だけどね。‥‥僕も最近、惹かれ始めた相手がいるから他人事とは思えないんだ‥‥」
「ほ〜ぅ」
「頑張りたいね、お互いにさ」
 少年に言われ、ポールは首を傾げる。
 そこへ、ぬっとセイルが現れた。そして、頭のてっぺんから足の先までざっと見て一言。
「や、まあ男は腕っぷしだよな! ははは‥‥」
「何だ‥‥どういう意味なんだぁ!」
「言葉のままだ。あはははは‥‥」
「くっそぅ‥‥。そんなてかてかアーマーなんか着やがってっ‥‥! どうせ俺は貧乏だぁぁっ!」
 そのまま脱兎の如く泣きながら逃げ出そうとしたポールだったが、セイルの腕がにょきと伸びてマントを掴んだ。
「まぁ待て。俺の経験を踏まえて、告白する度胸をつけてやろう」
「はっ‥‥? いきなり何言ってんだ、っていうかマント離せぇっ」
 びりっ。
「俺の一張羅の冒険着が!」
「‥‥うん。まぁ気にするな」
「気にするわっ!」
「まぁ来い。どんどん来い」
「僕も行ってもいいですか?」
 見守っていたジャンが声を掛ける。セイルは頷き、ポールをずるずる引っ張って行った。


「紅茶が美味しいですわ‥‥」
 その頃、リリーは少し離れた木陰で持参した紅茶を飲んでいた。カフェテーブルとチェアを馬車で運搬して貰い、この場所にセイルに設置して貰い、テーブルには少し贅沢な焼き菓子を置いている。少し前まで、向かいの席には夫が座っていた。だが先ほど、
「あら? もしかして‥‥」
 くすくすと笑うリリーに、セイルは怪訝そうな表情を向けた。
「どうした?」
「ポール君ってば、ヨーシアをかなり意識していますわ‥‥。彼女の事が、好きなんじゃないかしら?」
「ほう?」
 言われてセイルは振り返った。
「そう言えば、お前の教え子だと言ってたな、ポールは」
「えぇ」
「そうか‥‥。じゃあ俺も応援してくるか」
 という経緯の後、セイルがポールを連れ去る事になったのであった。
「ふふ‥‥あまり大差ないかもしれませんけど‥‥」
 優雅に紅茶を楽しみながら微笑むと、近くで読書していたユリゼが身を起こす。毛布を折り畳んでクッション代わりにし、花見を兼ねた読書をしていたのだが、探していた本を譲って貰ったのでご満悦であった。
「‥‥リリーさん、どうかした?」
「えぇ‥‥。ポール君の恋を、ここで応援してますわ」
「恋の話があるの? 良い恋になるといいわね」
「恋は、男を逞しくさせますもの」
「‥‥そうなの?」
 その時、2人の傍に影が出来た。見上げると、そこに2人の男女がやって来ている。
「えと‥‥」
「あら、どうしたの? 双樹」
 尋ねると、双樹の隣に立っていた男が笑顔を見せた。
「俺の名はアシュレー。双樹の知り合いと挨拶させて貰いたいと思って来たんだ」
 敏感に察知するリリーと目が合った双樹は、頬を赤く染める。
「こういう間柄になった。宜しく」
 ぐいとその肩を抱き寄せたアシュレーに、通りすがりのシェアトが近付いてきた。
「双樹ちゃんにお相手が‥‥?」
「シェアトお姉ちゃん‥‥えっとですね‥‥」
「焦らずゆっくりと‥‥彼女を受け止めて下さいね」
 言われて、アシュレーは頷く。そのままシェアトは双樹に向き直り、そっと抱きしめた。
「幸せを祈っています‥‥」
「‥‥ありがとう‥‥ございます」
「双樹は大切な妹のような子ですの。泣かせたら、承知しませんわよ」
「うん、分かった」
 リリーにも言われ、アシュレーは幸せそうに微笑む。そのまま肩を抱いて去っていく2人を3人は見送った。
 恋は、どこに転がっているか分からない。つい先日までそんな気配も見せていなかったが、春が近い所為だろうか。この春を匂わせる風が、新しい恋を、想いを、運んでくれるといい。
「この先も、皆さんや記録係さん達が、ずっと幸せでありますように〜♪」
 それぞれの未来を思い、エーディットがそう呟いた。
 ‥‥あ。ありがとうございます。私達、記録係にまで声を掛けて下さって。しかし散る花と言うのはしんみりするものですね。何だか記録係の任を辞して郷に帰った知り合いを思い出して、涙が‥‥いえいえ、何でもございません。続きをどうぞ。
「シェアトさん〜」
「あ、はい何でしょう‥‥?」
 涙ぐんでいたシェアトに近付き、エーディットはぎゅうと抱きしめる。
「元気が出て幸せになれるおまじないですよ〜♪」
「‥‥はい。元気になれるおまじない、ですね」
 2人、顔を見合わせて微笑んだ。
 そんな2人の目に、対岸に咲く桜の花が映る。湖畔の対岸を淡い色合いの桜の花が、ぼんやりと辺りを包み込むような光を灯すように咲いている。
「‥‥綺麗‥‥ですわね」
 皆から離れた場所でそれを眺め、ファラーリアが呟いた。傍にはウィンディオが立っている。
「懐かしい故郷でこんな美しい光景を見る事が出来るなんて‥‥」
 そして湖へと跪き、彼女は祈りを捧げた。
「ノルマンの地の何処で眠るとも知れないお父様、お母様‥‥。ファラは今愛する家族と共に居る事が出来て、とても幸せです。どうか、安らかに‥‥」
 静かに祈りを捧げるファラーリアを見守り、ようやく立ち上がった彼女をウィンディオは抱き寄せた。
「御義父上、御義母上、彼女は私の宝。この先も必ず幸せに致します‥‥」
 湖へと誓い、彼は彼女へと笑いかける。
「さぁ、ゆっくり花見散策をしようか」
「えぇ」


「釣れませーんっ!」
「仕方ないですよ、お姉。私達、釣りはど素人ですし」
「嘘だっ! あちこちの川や海岸や海で釣りしまくってるのにっ」
「あれはですね〜。実はお姉は気付かなかったかもしれませんけど、下で魚を泳がせる役の人が居て‥‥」
「えぇ〜っ!? そうなの?!」
「そんなわけないじゃないですか〜」
 わぁわぁ言っている姉妹を、エルディンは父親のような温かい眼差しで見守っていた。だがそんな彼の額に‥‥。
「ぶっ!!」
「おっ。すまんのじゃ〜。勢い余ったのじゃじゃ〜」
 魚がべしと当たってぺたりと張り付いた。べりっと剥がし、飛んできた令明に渡そうとして彼の体には余るサイズなのでそのまま傍に居た涼花に渡す。アーシャからエプロンを借り、醤油持参で火の前に彼女は待機していた。そこへわらわらとディーネと凪がやって来る。
「塩味効いたお魚さんになりそうやな。ちょっと濃い目に淹れたろ」
 お茶を手に頷く凪。料理が出来る者たちもわらわらと集まって、達人級の釣り技を持つ令明が小さい体で次々釣り上げた魚を焼き始めた。だが時には大き目の魚も居て。
「引っ張られるのじゃ〜」
「危な〜い!」
 ばしゃーん。
 見事に湖に落ちたりした。令明は当然羽があるから無事である。
「この甘酒をどうぞ」
「お茶淹れよか?」
「香草茶もあるわよ」
「紅茶が欲しければ体を拭いてからいらっしゃい」
「ず、ずみません‥‥皆さん‥‥」
 そして、ヨーシアの隣で毛布を被って飲み物を飲みまくる羽目となった。
「ヨーシアさんは、普段何をされてますの?」
 ヨーシアは、ラテリカやレアやミシェルと共に居た。毛布を3枚被っている。ミシェルに尋ねられて、彼女は『一般人向け読み物』を書いている話をした。
「ラテリカも、怖い罠の話を聞いたです。愛する人が出てきて攻撃してくる罠なのです」
「浪漫な罠ね。興味あるわ」
「そなのでしょか‥‥。あ。お金や時間が無い時の、お屋台の美味しい匂いも怖いのです」
「太りたくない時に限って、パーティが多いとか‥‥」
「怖いですわね‥‥」
 女の子の会話になった所で、ふとレアが幾つかの妖しい仮面を取り出した。
「そうね‥‥。ヨーシア、こんな読み物はどう?」
「はい、どんなのでしょう」
「パートナー、エクセレント仮面が引退宣言してしまった為、我が美少女戦隊は最大の危機を迎えた‥‥」
 ちゃきとファントムマスカレードを装着し、レアは低音で語り始める。
「びしょうぢょせんたい‥‥」
「このままではパリの希望の火が消えてしまう‥‥! そう危惧した私はリリーの捨てた仮面を拾い、更には怪しげな露店商から幾つかの仮面を購入し、勧誘の旅に出るのだった‥‥」
「勧誘の旅‥‥」
「という訳で、我が『美少女戦隊かめれんじゃー』に入ってみない?」
 ずずいとレアが怪しげな勧誘をしている頃。
「『二人は幸せになれる』と出ました〜♪」
 エーディットは、マルクとフローラに占いをしていた。
「ポールさんは、『思いは届く、当たって砕けるべし』という結果です〜♪」
 そして、ゾウガメに頭をかぶりとさせる。
「これをやると、今年一年『無病息災巫女レンジャーに過ごせる』というお呪いです〜♪」
「呪いかよ!」
「‥‥で、どう‥‥?」
 ずずい。レアは3人に向かって膝を進めていた。だがそこに、ひとつの影が。
「あれ‥‥アーシャン、真面目な顔してどう‥‥」
「しっ。静かになさい、ジャン。大事な場面ですわよ」
 ミシェルに窘められたジャンも大人しく見守る中、無言でアーシャはレアの持っていた仮面を受け取った。
 こくり。2人は頷き合う。
 そしてここに、新たなるレアのパートナーが誕生したのであった。
 尚、ここで戻ってきているポールとジャンだが。
「リリー!! 愛しているぞー!!」
 やや高い所に連れて行かれ、実に恥ずかしい特訓を受けていた。
「好きな相手に『愛してる』と叫ぶんだ。よしやってみろ」
「お前って‥‥恥ずかしい奴だな」
「お前に言われたくない気がするぞ。‥‥よし、ジャン。お前もやってみろ」
「えぇっ! 僕がっ‥‥あの僕はですね‥‥その、えと‥‥最近気になっている人はいますけど、でも‥‥」
「男は度胸だ。さぁやれっ」
 夫婦揃ってスパルタ教育である。
 そうして、2人は実に恥ずかしい特訓を強制されたわけだが、成果は如何に。


「ま、まさか。まさかパリで伝説の至宝と言われた、あの『塩焼きの淡水魚』を口に出来るとは思わなかったわッ!」
 ディーネが感動に包まれる隣で、凪はアースソウルと一緒にまったりお茶を飲んでいた。
「うん。魚の塩焼きも美味しいですね〜」
 貴政も笑顔だ。
「こちらでは珍しいかと、お醤油も持って来てみました。興味があればお試しを」
 涼花が差し出したそれをがしっと受け取ったディーネ。まずはほくほくと塩焼き魚を食べた後にそれを垂らし‥‥。
「な、涙がっ。涙で前が良く見えませんっ!」
「ディーネちゃん、泣きすぎやわ」
「感動せずにいられるかッ。今度はジャパンでたっぷり醤油かけて食べてみたいわね〜」
「うん。せやね」
「こちらの魚も美味しいものなのですね」
 しみじみと涼花が味わっていると、隣にアニェスが座った。
「あたしも貰おっかな」
「あの桜。綺麗ですね」
「うん」
 対岸に広がる淡い色合いの、花霞のような光景。アニェスのマジカルミラージュが作り出した蜃気楼だ。効果時間が長くないので、度々掛けなおしている。
「あのお2人は6月に‥‥。もう一方の春は‥‥今、招き寄せている所でしょうか。素敵な花が咲くと良いのですね」
「そうね〜‥‥。春間近、か‥‥」
 シェアトが奏でる竪琴が、緩やかに 穏やかに音を伝える。春風に乗って遥か遠くまで届きます様に。
 その音、皆の歓声、ざわめき、春の香りと白い花。水色の空と、青い湖。煌めくような日常のひと時に祝福を受けたカップルはその将来を誓い合い、そして、願った。
 皆が笑う、喜ぶ、楽しむこの日々が、いつまでも続きますように。


 この国が、この場所が、皆の未来が、永遠の光に包まれますように。