素敵読み物を蜜蜂色に作ってみましょう
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月25日〜03月30日
リプレイ公開日:2009年04月03日
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●オープニング
「エルディンさん。これ、何ですか?」
ある日の冒険者街。
アーシャ・イクティノス(eb6702)は、エルディン・アトワイト(ec0290)の家で不思議な写本を見つけた。妖しい紫色のオーラを発しているように見えるそれは、大切そうに隠すようにして奥の奥に置いてある。そう、この雰囲気は知っている。禁断の愛の書と同じ気配だ。ぱらぱら開き、彼女は首を傾げる。
「ん〜‥‥。何だか難しいですね。ゲルマン語の難しい文字使ってるみたいですけど‥‥エルディンさん、読んでください〜」
「読みません」
と、あっさりエルディンは答えた。そして奪い取るようにしていそいそと仕舞いこむ。
「え〜‥‥あやしい‥‥」
「あやしくありません。あやしくありませんよ」
大事な事なので2度言ったエルディン。心なしか顔が赤い。
結局追い出されてしまったアーシャは、とりあえず帰って行った。
そう。それだけで終わるはずの、何気ない出来事だったのだ。
「‥‥あやしい‥‥」
数日後。
アーシャはある酒場の前に潜んでいた。
「人間の彼女とデートなんてっ‥‥こんな面白そうな話、見逃すわけないじゃないの〜」
偶然、彼女はエルディンが女性と出かける姿を目撃したのである。しかもエルフではなく人間女性。これは怪しい。真相を確かめなくてはといそいそ尾行した先は、一見何の変哲もない酒場。
「『蜜蜂亭』‥‥?」
看板を読んで、アーシャは酒場の扉を開いた。
「いらっしゃいませ〜」
「あ、ちょっと‥‥この隅貸して下さい‥‥」
こそこそとデート現場付近に潜むアーシャの耳に、男と女の会話が飛び込んでくる。
「‥‥ここは、もうちょっと叙情的に書いてもいいと思うのよね」
「‥‥ならば、こちらはもう少し夢のある展開で‥‥」
「‥‥遺跡の、崩れ落ちそうな白い神殿の前で‥‥」
「‥‥森に入るとモンスターが‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
話は着々と進んでいるようだ。しかも何だか真面目だ。これはきっと仕事の話に違いない。そう思ったアーシャだったが、彼女の目は別のものを捉えていた。
そう。2人の間に仄かに立ち上る紫色のオーラと、2人を見る店員達の背後に立ち上る同じようなもの。この空気は知っている‥‥。確かに知っている。
「‥‥あ、そっか。リリアさんなんだ」
ぽんと手を打ち、アーシャは即座に行動した。
知人である娘、リリアの元を訪れたのである。
「あぁ、うん。知ってるわよ。蜜蜂亭でしょ。その筋じゃそこそこ有名よね。あたしもこの前行ったわ」
リリアという娘は、少々変わっている。領主の娘だがメイド服が好きでメイド服姿が彼女の普段着だった事もあった。趣味が高じて冒険者を巻き込み、巫女服を着せて色々させた事もあった。その過程で星になった事もあった。誘拐された事もあったがタダでは済まず、情報を入手してきてそれを『蜜蜂亭』の店員達に話したのだとも言う。その内容というのが、
「殺しあう運命にある2人。でも実は、敵のボスは主人公を愛して止まないの。でもでも愛しても振り向いてくれないから、何とかして手に入れようと躍起になってるわけ」
と、既に物語調である。
そんなリリアから、アーシャは以前にパーティ会場で『あやしい世界』についての知識を入手済であった。
「金髪の‥‥? あぁ、カーラね。あの子の話、面白いわよ」
「読み物書いてるんですか?」
「そうみたい。あたしは話を聞いた事があるだけで、実際に読んだ事は無いんだけどね。勿論内容は、男同士の愛と青春と葛藤の物語よ。麗しい事この上ないはず」
「そんな読み物があるんですか〜‥‥。あ、そういえばエルディンさんが持っていた写本‥‥」
「うんうん? お姉さんに話してみなさい?」
「実は‥‥」
1時間後。
「ふぅん‥‥。男でもこの世界に理解があるとは、なかなか見上げた奴ね。興味があるわ。ちょっと引っ張ってらっしゃい」
「それはいいんですけど、あの写本、エルディンさんどこかに片付けちゃったんですよね〜」
「そこはそれ、女の武器でも何でも使って奪ってくるのよ!」
「え〜‥‥。こっそり入って探してみますけど」
「読み物を書きたいなら、お手本は必要よ。まぁ無くても何とかなるけどね。というか、あたしが読んでみたいだけなんだけどね」
「私もちゃんと読んでみたいです〜。よし! 協力者も見つけて、読み物を書けるよう頑張ってみます!」
そして、アーシャは協力者となる友達を探し始めた。
『男同士の愛と青春と葛藤とその他もろもろ』な話を書いてみたい。しかしゲルマン語での読み書きも不自由な身の上。1人だけではまともな読み物など書けそうにない。
内容はともかく、物語作りには興味があるかも、と告げたのは、エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)。シュネー・エーデルハイト(eb8175)は、蜜蜂亭について知っていた。これは強力な助っ人となりそうだ。
しかし協力者は多いほうがいいだろう。
そのまま冒険者ギルドに向かいながら、アーシャはこれからの数日間を思って心躍らせるのであった。
●リプレイ本文
●一幕
デビル達が、ノルマンにやって来た。目では数え切れないくらいたくさんいるので、ノルマンの人たちはパリから逃げようと相談している。
「敵は大群。どうする‥‥? 団長」
「どうもこうもない。我々はノルマンが誇る『白銀の騎士団』。最後の一兵卒に至るまで迎え撃つ」
●
「う〜ん‥‥う〜ん‥‥」
アーシャ・イクティノス(eb6702)は悩んでいた。
「はい、そこ。間違ってます。そういう言い回しはしません!」
指導役のエルディン・アトワイト(ec0290)に言われ、首を傾げる。
「満足の行く読み物にしたいならば、もっと勉強しなければなりませんね」
「ん〜‥‥アーシャ。この読み物、読むのは子供では無いのだろう?」
エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)に問われ、アーシャはこっくり頷いた。
「えーっとですね‥‥ゲルマン語でどういうか分からないって言うのもありますけど‥‥あまり難しい言葉は分からないって言うか‥‥」
書いてみたい! その熱意だけで言語力を上達させるのには、多少時間がかかる。又、読めても意外と書けないものである。文章と言うものは、読んで聞かせるのと自分で読むのとでは印象も異なるものだ。用途によって言葉を使い分ける事が出来れば言う事は無いが、アーシャはその入り口に立ったばかりである。
「えぇ、そうね。アーシャに必要なのは、文章力じゃないわ」
しかし、皆の背後にシュネー・エーデルハイト(eb8175)の影が伸びた。
「大切なのは、人の心。人の心と書いて『萌』と読む!」
「読みませんよ、シュネー殿」
「お黙りなさい。そんな事を言うと、貴方が達人的ラテン語で書いたその書、教会に持ち込んで翻訳して貰うわよ」
「ななな、何て事をっ‥‥!」
「そんなに大層な書なのか?」
エレェナも、エルデインがアーシャの闘志を燃やす為に書いた『ラテン語の書』を覗き込む。中を見ても文字のひとつも分からないわけだが。
そもそもの始まりは、アーシャから蜜蜂亭の話を聞かされたシュネーが、小一時間、説教と言う名の『男同士の麗しい世界』の薀蓄を彼女に語った所からである。その世界の素晴らしさを既に感じ取っていたアーシャは、益々自分で書きたいと熱く告げた。するとシュネーは、
「え? 何? モデルが欲しい?」
くわっと目を見開き、人材探しの旅(パリ内)に出かけたのであった。
その成果は。
「まずはフィルマンね。ユリゼ、行きましょう」
「え‥‥本当に本人、呼ぶの‥‥?」
ユリゼ・ファルアート(ea3502)を半ば強引に引っ張って騎士団の屯所に向かったシュネー。
「大事な話なの。聞いて」
ユリゼの名で呼び出し現れたフィルマンに、正直に目的を話そうとしたシュネーだったが。
「‥‥何よ、けちけちしてるのね」
突如現れた彼の『同僚』が、『悪いが我々も忙しいので』と2人を追い出したのであった。『同僚』は妙に勘が良い。
「イギリスでは、円卓の騎士の書物が出回ったとか回ってないとか言うのに‥‥」
しかし貴重な人材を手に入れる事が出来なかったシュネー。密かに安堵しているユリゼなど気にも留めず、彼女はぽんと手を打った。
「仕方ないわね。冒険者でまかなうわ。やっぱりリディとかは外せないし‥‥アガリアレプトなんか似合いそうね」
「シュネーさんっ、声が大きいっ」
そのままシュネーは物凄い勢いで、冒険者ギルドの扉を開いた。
「そうよ。シーナやゾフィーも巻き込めば後々色々ありそうだわ」
近寄り難いマーブル模様のオーラを発しながら、シュネーは真っ直ぐカウンターへと向かい。
「あら‥‥シーナは?」
「えっと‥‥」
「大人の事情で来れない?! なんでよー」
一回り広がったオーラに気圧された人々を置いて、彼女はギルドを飛び出した。
そして、見た。
「‥‥『ひろってください』‥‥」
大きな箱が、道路の隅に置かれている。そこに文月太一(ec6164)が入って昼寝していた。
「ふふふふふ‥‥拾うわよ‥‥拾ってあげるわよ‥‥」
色の濃いマーブルを新たに生み出しながら、シュネーは太一に声を掛けた。
「ねぇ貴方。モデルにならない?」
一方、パリ内某甘味処。
リディエール・アンティロープ(eb5977)とジャン・シュヴァリエ(eb8302)は甘味を満喫していた。
「このお菓子、蜂蜜たっぷりで美味しいですね!」
「そうですね。‥‥この位の蜂蜜を取るのに、蜂の巣はどれくらい必要なのでしょうか‥‥」
「考えてみたら、蜜蜂さんも可哀想ですよね」
「蜜蜂っ‥‥!」
ぴくっ。リディエールの肩が動いた。蜜蜂と言えば蜜蜂亭。最近名を聞かないので油断していたが、どうやら密かにその名が特定のルートを辿って広まっていたらしい事を小耳に挟んだ所であった。
「蜜蜂に何かあったんですか?」
「いっ、いえっ‥‥な、何もありません」
「‥‥怪しい‥‥」
結局、隠し通すことが出来なかったリディエールは、ジャンに店の説明をする事となる。行ってみたいというジャンに説得され、仕方なく彼は重い腰を上げて蜜蜂亭へと向かった。
そして。
「あ。リディーさんだ〜」
入った瞬間、そこに店員以外の冒険者達の姿を見る事となった。
「デビル役が決まらないのですよ〜。美形悪魔って萌えません? お願いしますってば〜」
「‥‥はい‥‥?」
ぱかっ。レイヴンクラウンをアーシャによって頭に被せられ、リディエールの思考が一瞬止まる。
「似合いますよ〜。かなり受けっぽいですっ! それとも攻めがいいですか〜?」
「‥‥」
頭痛がしてきた。リディエールはその格好のまま椅子に座り、店員に声を掛ける。
「‥‥ワイン、お願いします‥‥」
一切の説明を聞く前に、何となく察してしまった。蜜蜂亭で『役』とか『萌』とか『受』とか聞けば、蜜蜂亭に関わってきた者としては嫌でも察してしまえる。
「え? リディさんがデビル? 女顔だから誘い受け? ‥‥ユリゼさんが騎士様? エルディンさんが背徳の神父‥‥? 最後のは納得だけど、何の話なんですか?」
素面ではやってられないとリディエールがワインをあおる中、ジャンは説明を聞いていた。
「最後のは納得って、どういう意味ですか! 私は至極真面目な神聖騎士ですが!」
「そう。エルディンの昼寝は長いわね」
「昼寝などしませんが!」
「う〜んと‥‥? 御館様がこんな本持ってたな‥‥」
「何でジャパン人っぽい貴方が、ラテン語の本を読んでるんですかっ」
「読めてないよ〜。何だろ‥‥もわもわってした感じがするから」
「さぁアーシャ」
びしっとシュネーが彼女を指差す。
「雑用は任せて、貴女は本業に集中しなさい!」
「はいっ」
「‥‥本業‥‥」
ぼそりとユリゼが呟いたが、それへと頷いたのはエレェナだけだった。
●二幕
「ふふっ‥‥。私の手に掛かれば、『白銀の騎士』を手に入れるなど容易い事‥‥」
黒色のローブを着たデビルが、塔の上に立っていた。
「さて‥‥。誰を堕とそうか‥‥」
たくらんで笑う。悪そうだけど誘惑されそうな笑顔だ。そして、そのまま鳥みたいに飛び降りた。
●
「何だろう‥‥。こう、色香が足りない気がする」
アーシャが作った設定は、騎士団とデビルの戦い。ぱらぱらと書かれた文を読み、エレェナは口元に手をやった。
「そうなんですよね〜。だからっ! ここは実践あるのみっ。『禁断の指輪』も持ってきました! さぁっ、さぁっ!」
「指輪使用は時と場合によるかな‥‥」
「どう? 似合う?」
そこへ、颯爽と男装したユリゼがやって来る。それを見て、エレェナは目を細め微笑した。
「とても良く似合ってるよ」
騎士風の格好だ。続いて人遁で化けた太一が。
「フィルマンさんってこんな感じ〜?」
アーシャが描いた似顔絵を元に化け続けている太一。何度目かのやり直しの後、『まぁ、ジャイアントだったらこんな感じかもね』なフィルマンが出来上がった。
「さぁ! 脚本通りにやらなくてもいいのよ。自分の心のままに、全てを曝け出しなさい!」
何故か監督役となっているシュネーに促される。尚、脚本はアーシャとシュネーの合作である。台詞は殆ど書かれていない。
物語は、デビルが攻めてくる所から始まる。
「団長。これ、僕が育てた花です」
団長エレェナには、少年執事ジャンがついて回っていた。侍従と言った所か。執事が差し出した赤い花を受け取り、団長は微笑む。
「綺麗な花だ。お前は植物を育てるのが上手いな」
「団長が褒めて下さるから、花達も頑張って綺麗になってるんです」
無邪気な笑顔。だが、団長は知らない。その少年の笑顔の裏には、純粋だからこそ生み出される残酷さが潜んでいると言う事を。
「やれやれ‥‥貴方も『禁断の恋』ですか。神に背くような真似を」
そこにやって来たのは神父エルディン。金髪を揺らし、大仰に手を振る。
「‥‥『も』って‥‥あいつの事?」
小さく執事が呟いた。
「何? 僕の噂?」
神父の少し後を、騎士ユリゼが歩いてきた。何か企むような笑みを浮かべているが、戯れにあちこちに誘いを掛けては結局触れさせない、そんな男である。騎士団の結束を乱す元だと言う者もいるだろう。だが、その色香に惑わされ‥‥爽やか成分が強くも見えるが、その色香は相当なものであり‥‥あり‥‥。
「色気が足りないのは分かってるわよ。そこは『ふぃるたー』で何とかする部分なのっ」
「ユリゼさん、ここは禁断の指輪でぐっと色っぽい男性になりましょう!」
ともあれ、騎士はゆっくりと皆の周囲を回り、それから神父へと近付いた。
「‥‥分かってるんでしょ? 僕らの事。でも諦めないんだ‥‥?」
「なっ‥‥何を‥‥」
「そう言うの‥‥好きだよ? ねぇ‥‥?」
瞳を覗き込み、騎士は誘うような笑みを浮かべる。
「私はっ‥‥」
言い澱んだ神父は、団長を横目で見た。一瞬、その表情に翳りが浮かぶ。
「私は‥‥」
「はくぎんのきしだんっ! かくごっ!」
唐突に、顔から首から手の先まで真っ赤になったリディエールが現れて、ヘルメスの杖をきゅっと掲げた。
「えいっ」
ぱたっ。
一歩踏み出して、そのまま倒れた。
「‥‥」
「‥‥」
「大丈夫〜?」
つん。太一が床に突っ伏しているリディエールを突く。
「誰‥‥? 強い酒飲ませたの‥‥」
「今のうちにっ! 今のうちに襲うのよっ!」
監督がここぞとばかりに皆に指示を出したが。
「寝込みを襲うのは、色々と問題があるように思う」
エレェナが真面目なのかわざとなのか分からない答えを返し、とりあえず皆は彼が回復する為に色々行動しつつも、待った。
●三幕
「僕は、一番大切な人がこの世を去ったら、蒼い棺に閉じ込めて、真っ赤な花を浮かべたいな‥‥」
執事が、天使のように笑いながら騎士に言った。
「狂ってるね‥‥君は。いや、君も、かな‥‥? この世は狂気に満ち溢れている‥‥。けれども、あの人の傍に居る時は、そんな事も忘れてしまえるんだ」
「これを」
執事は、騎士に花を渡す。くさいので騎士は逃げた。
「貴方の武運を」
執事は、花に心をこめて笑う。
●
「貴方が彼と親しくしている時、私の心は掻き乱された」
デビルがパリ内にまで侵入している。それは分かっていた。だがそれでも神父は団長を薔薇園へと誘い、ようやく気付いた自分の気持ちを吐露していた。
「やっと気付いた。貴方が好きだという事を」
「君が分からない」
団長は少し笑い、神父から離れる。
「興味が無いのかと思えば、そんな視線を向けてくる。想われているのかとちらりと思った直後には、君は魔性に誑かされている」
「この気持ちはっ‥‥決して、魔性に囁かれたものではない」
迫るほどの勢いでエレェナに近付くエルディン。その気迫は、演技とは思えない程だ。尚、男性相手では男装ではなく禁断の指輪を使うという事を、女性陣は決めている。
「いいよ。君も私も等しく狂った『あの夜』を今一度と言うのなら‥‥ご希望に添おうじゃないか」
壁際に追い詰め、団長が微笑んだその時。
「敵襲ですっ‥‥!」
執事が飛び込んできた。神父を一瞥もせずに状況を伝える。
そして。
貴方の為なら、悪魔の戯れに乗ったつもりで囮になっても良いと思った。でもそう思うのは、自分だけではない。
「無事かっ‥‥?」
副長太一が、騎士を抱き上げた。デビルとの戦いで囮役となり負傷した騎士。抱き上げれば存外に軽い。お姫様抱っこしつつ戦場を駆けると、目の前に黒衣の人物が降りてきた。
「おや‥‥? 私の姫を連れ去る悪い子は、誰でしょうね‥‥」
「副長フィルマンだけど‥‥」
「そう。私の可愛い姫。引き取らせて貰えませんか?」
丁寧な口調だが有無を言わせぬ迫力がある。天使のように微笑みながらも近付く悪魔リディエールに、副長は呆然と立ち尽くした。いや、見とれたのだ。かつては正真正銘の天使として賛美されたであろう、その悪魔に。
「いや、でも‥‥」
逆らえない程魅惑的な悪魔。けれども彼が望むのは自分の仲間である。くねくねと動きながら悩みぬいた副長が取った行動は。
「やっぱりだめー!」
逃亡を図る事だった。
「狭間に揺れる男心‥‥。いいわよ‥‥いいわよ‥‥」
監督もぐっと力を入れる所である。その隣で執筆者アーシャは、目を輝かせながら見続けていたのだが。
「あ‥‥。でも最後‥‥。やっぱり団長×副長で終わらせるべきですか?」
ふと気付いて監督に尋ねた。
「それはね‥‥。読者の想像にお任せという手もあるわ。初めての執筆活動なんだから、濃厚である必要はないわよ‥‥」
「なるほど〜」
モデル達が捧げる演技と言葉をメモしつつ、2人は存分にマーブル模様的な会話を繰り広げる。
●
「出来ましたー!」
オーラエリベイションを掛けて書かれた読み物が、遂に出来上がった。
「まずはリリアさんに読んでもらわないとっ」
「居るわよ」
壁をぺらんと捲り、リリアが姿を見せる。後は修行次第と言われ、アーシャはその読み物をシュネーに託した。
「写本になって、たくさんのフジョシに読んでもらえますよーに」
祈り付きで、カーラの元に届けてもらうのだ。
その後、皆は打ち上げパーティと題して飲み明かした。
『リディ×フィルはマニアックじゃないか』とか、『フィル×ギスラン様は出回っているのだろうか』とか、『次は自分達も出演者に』とか、『もうやりませんからねーっ』とか、様々な感想と展望を話しつつ、夜は更けて行くのであった。
その一方で。
「あれは演技ではありません。私の本当の気持ちです」
静かな場所に2人。エルディンがエレェナに密かに告白していた。
「‥‥嫌いではないよ」
それに対して、エレェナは深く響くような声を発する。
「けれども、本気にだとも思えない。君の心は『見えない』」
「心を見せる術はありません。‥‥貴女の返事は待ちます」
そう言い置き去っていく男を見送り、女はリュートに指を当てた。