あなたと私、私達のお茶会
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:4
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月04日〜04月08日
リプレイ公開日:2009年05月05日
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●オープニング
又、春がやって来る。
「あ‥‥。この花、蕾が膨らみ始めてますね」
鳳双樹(eb8121)が嬉しそうに声を上げる。それは小さな花。咲けば美しい紅色を見せるだろうと思わせる色合いの花。
「あら‥‥本当ですね。もうすぐ、ここも満開のお花畑になりますよ」
「楽しみですね〜」
旧聖堂。かつて、このノルマンを救う為に人々が集まった場所。その場所は、かつてのように静けさを取り戻している。だが、以前とは大きく違う点があった。
人の手が加えられ、人の手によって世話された花畑。建物を覆うようにして咲く花々は、冒険者達、そしてパリの民が持ち寄った種が植えられた成果だ。その場所に冒険者達のペットや、野良猫、野良犬が集まり、一種の楽園と化している。今は花も咲かないこの季節。人々が訪れる事は少ないが、暖かくなれば再びパリの民の心を潤す憩いの場所のひとつとなるのだろう。
そんな穏やかな場所で、双樹はリーディア・カンツォーネ(ea1225)の手伝いをしていた。リーディアは何かとここに立ち寄り、こまめに掃除や世話をしている。時には一般人が逃げ去るようなペットも居るので、彼らが勝手に行動しないよう監視する役目も兼ねていた。この場所には、季節毎に集まる人が異なる。何かを行う為にやって来る人々も居る。誰が来ても良いように、誰が来ても和むように。リーディアはその場所を守り続ける。勿論、守り続けているのは彼女だけではない。
「そう言えば、ジャパンでお花見をしてたんですよ。毎年。何だか‥‥懐かしいです」
「お花見‥‥ですか。そうですねぇ‥‥ノルマンにもお花見はありますよ?」
「この前、アーモンドの花は見ました。桜に似ていると思いましたけど、ノルマンではアーモンドの花で花見が一般的なんですか?」
「いぃえ〜‥‥あまり、木に咲く花だけを愛でる習慣は無いように思います。どちらかというと、花壇や整備された庭を愛でるのが一般的でしょうか?」
「花壇ですか〜」
「そうですね。小規模なお茶会とかが多いように思います」
「お茶会ですか‥‥」
双樹は少し考える。
「そう言えばあんまり作法とか知らないですね‥‥。リーディアさん。ここでお茶会とかします?」
「えっ‥‥と‥‥どうなんでしょうか‥‥。去年はやったと思いましたけど‥‥」
ブランシュ騎士団が何度かここを使っていた記憶がある。そして自分も参加していた記憶がある。
「ここで、咲き始めたお花を見ながら仲良くお茶会してみたいです。リーディアさんもご一緒にいかがですか〜?」
そして双樹は、彼女におってのお姉さん的存在、シェアト・レフロージュ(ea3869)とリリー・ストーム(ea9927)にも声を掛けた。ほわほわと、ただ楽しむつもりのお茶会。のはずなのだが。
「ただのお茶会‥‥。そんなの勿体無いわよ、双樹」
と、お姉さんの1人、リリーが彼女に告げた。
「勿体無い‥‥ですか?」
「緑分隊、橙分隊もそこでお茶会した事があるんでしょう? だったらそこに、王様も呼べばいいんじゃないかしら?」
「えぇっ‥‥」
「そうですね‥‥。王様のご結婚のお話‥‥。伸び伸びになってますものね‥‥」
シェアトがほぅと息を吐く。
勿論、王様だ。何と言ってもノルマンの頂点に立つ王様である。しかも多少お体が弱くていらっしゃる。そう簡単に呼び出せる相手ではないが。
「やはり、ご本人がお相手を決めるのが一番良いのではないでしょうか‥‥」
何も進まなければ、勝手に誰かに相手を決められてしまうかもしれない。王様というのはそういうものなのかもしれないが、好きになった相手と添い遂げて欲しいと望む。
「リーディアと進展‥‥。そういう可能性もあるわけよね。可能性は‥‥咲かせないといけませんわよね‥‥?」
リリーの笑みに、双樹とシェアトは思わず微笑を浮かべた。
●リプレイ本文
あなたが何者であっても。
私がどんな明日を迎えるとしても。
あなたと共に。
●
「ようこそお越しくださいました」
旧聖堂。春の花が咲き始めた庭に、1人の男性が姿を見せた。
リリー・ストーム(ea9927)は淑女らしく優雅に礼をする。男性‥‥ノルマン国王その人は、礼服と普段着の間のような格好で、ケープを羽織っていた。新緑を思わせる色合いに白いケープが映える。
「ささ、どうぞ此方へ」
ジャパンでは花冷えと言われる事もある、肌寒さが少し残る季節。微笑んだその人を席まで案内した後、リリーは失礼して、そっと『炎の指輪』を指に嵌めてあげた。
「これで、お風邪をひかれる事も無いと思いますわ」
淑女の微笑みに、国王は似たような笑みを返す。
「『自称ヨシュアス殿』。お初にお目にかかる。私はエメラルド・シルフィユ(eb7983)。神聖騎士だ」
神聖ローマ帝国出身の、とは付けない。このお茶会での出会いを密かに楽しみにしていた彼女は、挨拶を受けて頷くその人を見つめた。
「ジャ、ジャパン出身の侍、鳳双樹(eb8121)です。来ていただきまして光栄です!」
エメラルドの後方に隠れるようにしていた双樹が、わたわたしながら緊張気味に挨拶する。その後方でぷら〜んとしていたリア・エンデ(eb7706)が、てってれやって来た。
「はう〜♪ (自称)ヨシュアス様なのです〜。本当に本物さんなのです〜」
彼女達より奥に佇んでいたのはシェアト・レフロージュ(ea3869)。竪琴を携えたまま椅子から立ち上がり、そっと一礼した。
「‥‥あわわ‥‥何故自称さんがっ‥‥」
そして1人。
お茶会当日のゲストについて聞いていなかったリーディア・カンツォーネ(ea1225)が、歩行中の姿勢で固まっていた。
「では私は、端に控えさせて頂きます」
「うん。帰りも頼むよ」
国王の付き添いでやって来たブランシュ騎士団橙分隊長は、静かに脇に退く。それを見て色んな事を察知し、ようやく我に返ったリーディアは、自称ヨシュアス様の傍へと早足でやって来た。
「お忙しい中、来て頂きまして‥‥本当に申し訳なく思うのですけれども、でも、ありがとうございます」
そんな2人を、皆はそっと見守る。
「‥‥イヴェット様もご一緒にいかがかしら」
皆よりも遥か後方に控えている橙分隊長に、リリーが声を掛けた。
「‥‥お茶会の席をぶち壊してはいけないと、きつく上から言われておりますので」
「まぁ。そのような心配事が? イヴェット様に限ってそのような事、あるはずありませんのに」
「いえ、食糧が」
「あぁ。餌はあげなくてもいいよ」
「餌っ‥‥!」
春風のような爽やかな声で、自称ヨシュアス様はそう言葉を投げかける。
「猛獣扱いなんでしょうか‥‥」
「冗談だよ」
そうして、和やかにお茶会は始まった。
●
思えば3日前の事だ。旧聖堂に柔らかな風が吹き込んだのは。
旧聖堂でお茶会を、と決まってから、双樹に誘われて皆がやって来た。リーディアには当日まで裏目的は内緒だが、その日に万全の体制を作る為、やらなければならない事は幾つもある。
まずはお茶会会場の掃除。お茶会の度に掃除と花壇の手入れをやっている気がするが、気にしてはいけない。お茶会シーズン(?)には付き物の準備事項である。日頃せっせと旧聖堂の管理に勤しんでいるリーディアは、花が咲き揃い始めた花壇の短い雑草をせっせと抜いていた。聖堂内にある古いテーブルを外まで運び、それも綺麗に磨く。
「リーディアさん。力が入るのは分かりますけれど‥‥」
持ってきた桜の盆栽をどこに置こうかと迷いつつ、シェアトが声を掛けた。春先に似合わぬ汗だくな姿で、リーディアは眩しい笑顔を見せる。
「いえっ。何事も修行。修行ですっ。どんどん出来上がって行く様を見るのも楽しいですし」
「そうですね。でもそうではなくて‥‥」
一瞬言い淀んだ後、シェアトはにっこり微笑んだ。
「お支度も‥‥ね?」
「お支度ですか? 当日の格好でしたら、私はいつもと同じ服のつもりですけれど‥‥」
「ふふ。いつもの姿も素敵ですけれども‥‥少し、おめかししてみませんか?」
「は? はい? あれ?」
にこにこしながらシェアトがリーディアの背を押す。そんな2人の上方から、細い声が流れてきた。
「た〜すけ〜て〜く〜ださ〜い〜〜〜〜」
「ん? 何だ、楽しそうだな、リア」
そこに椅子を担いだ状態で通りかかったエメラルドが、声に気付いて上方を仰ぐ。
「リリリリリアさんがっ! おおおおお落ち、落ちっ‥‥!」
「ファ〜ル〜く〜ん〜、た〜すけ〜てく〜ださ〜いな〜」
リアは、鐘撞き堂辺りからぶら下がっていた。一生懸命階段や床やを掃除していたが、うっかり足を滑らせたらしい。暢気な声とは裏腹に、状況はかなり危険であった。彼女の妖精が周囲をぱたぱた飛び回っている。シェアトが慌てて階段を上り始めたが、幾らリアがエルフで軽いからとは言え、非力な彼女一人では引き上げるのは難しいだろう。むしろそこまでリアの腕力が持つとは思えない。
「仕方ないな。リア。私の胸に心行くまで飛び込め!」
エメラルドが椅子を下ろし、両手を広げた。その声をきっかけに、リアはそのまま両手を離す。ひゅーとまっすぐ落ちたリアは。
「ぐっ‥‥」
その言葉通り、大きな胸に激突した。
「良いクッションがあって助かったのです〜」
「‥‥エメラルドが鎧着てたら‥‥骨を折ったかもしれませんね‥‥。リアさんが無事で良かったです」
「ちょっと待て‥‥。少なからずダメージを受けた私の胸の心配はっ!」
「今、回復しますねっ」
リーディアが呪文を唱え始めた後方では、双樹のペットの埴輪君が、箒を手にそれを見ていた。穴の開いた黒い目で見ていた。
「すまない。助かる。そろそろ胸の維持にも気をつける年頃かと思っているんだ。ここで、リアの蹴りによって万が一へこんだりしたら‥‥」
「色々ご苦労があるんですねぇ」
「はう〜? 膝の跡、残ってますか〜?」
「膝蹴りか!」
「靴の踵は刺さるのですよ〜。ざっくりになったら大変なのです〜」
「あらあら‥‥賑やかだ事」
わぁわぁ言っていると、リリーがどこからか帰ってきた。危うく階段を踏み外しそうになったシェアトも戻ってきて、裾の埃を叩く。
「救出は無事済んだようで‥‥本当にほっとしました‥‥」
「そうですね‥‥。エメラルドも無事なようですし」
双樹もこっくり頷いた。何気に参加しているメンバーは、所謂『ドジっ子』系統に分類されそうな人が多い。うっかり足を踏み外しそうな人がもれなく他にも居るが、リアほどでは無さそうだ。油断は出来ないが。
リリーはさらりと全員を見渡し、少し考える。
「‥‥柵を付けたほうがいいのかしら」
「冒険者の皆さんが放し飼いにしているペットさんの為にですか? 皆さん大人しいですから、大丈夫だと思いますけれど‥‥」
「違いますわよ。柵を付けても飛び越えてでも落ちそうな人の為に設置するんですわ」
「ヨシュアス様もうっかり落ちてしまうかもしれないのです〜。でも、ノルマン王国が大、大、だ〜い好きなリーディア様とヨシュアス様がお2人でお話するには、とっても良い場所だと思うのです〜♪」
「‥‥リア」
「‥‥はっ! 言ってしまったのですよ〜」
うっかりリーディアの近くで裏計画をバラしてしまったリアだったが、実に運の良い事にリーディアは気付かなかったらしい。双樹と一緒に、階段に柵を付ける時間があるかどうかを話していた。
「鐘は撤去されてるけれどな」
「パリが見渡せる高い所、というのが大事なのですよ〜♪」
「素敵な時間になりそうですね」
その日の事を思って、シェアトが嬉しそうに微笑む。
「そう言えば、リリーさんは何処に行っていたのですか?」
双樹が気付いたように問うと、リリーは頷いた。
「えぇ‥‥。ちょっと、実家に」
リリーが持ってきた紅茶は、出来る限り良い葉をと実家で選んだものだった。何と言っても王様が来るのである。王宮で飲むものよりも劣るだろうが、いつもと違う味を、王以外の皆にも楽しんでもらえるように、用意したのだ。それには多少時間は掛かったが、茶葉を用意できたとなると、次はそれに合う菓子の準備である。
ジャム作りは、双樹やシェアトも手伝った。季節の果物やドライフルーツや季節の花々を使って各々煮詰める。様々な味、香り、彩り。それらがテーブルに並べば、実に見事な競演となる事だろう。シェアトが鉄人の鍋を用意し、取っておきのエチゴヤエプロンを‥‥。
「シェアトお姉ちゃん、微妙に似合っているのです‥‥」
「‥‥いえ。やはり控えめのエプロンが良いですよね」
「うん、似合ってる。この上なく良い感じがする」
「‥‥」
実は冗談でしたとも言えず、シェアトは販促用エプロンで動いた。
隠し味用に、と酒を用意したリリーとシェアトだったが、
「これなんかどうかしら? まさに大人の味ですわ♪」
並べたワインなどの中から、『魅酒ロマンス』を取り出して鍋に入れたりもする。
「こんな風に作るのですね」
双樹の故郷ではあまり見かけない物だ。興味津々覗き込みつつ、双樹もへらを回す。故郷を離れてからはジャムなども美味しく食べていたのだが、作り方など全く知らなかったのだ。この機会に覚えてみたいと思い、彼女は積極的にジャム作りに参加した。リアはちょっとだけと言って味見をしている。
他の菓子は、主にシェアトが作った。クレープに、シャンゼリゼにかつてあったスズランパンのアレンジ品。ドライフルーツを蜂蜜で薄めたシロップで煮込んで戻し、薄く延ばしたパン生地でスズランの花の様に包み込む。薄い色に焼き上げた後は皿に載せ、ジャムを飾るのだ。クレープはワインで色を付けたりチーズを挟んだりもする。
リアは、保存用とペットを使って氷室を作っていた。ワインやジュースを半凍させて食べるにはまだ寒い季節だが、溶け具合では良い食感になるだろう。
リーディアとエメラルドが設置した椅子やテーブルのセットには、綺麗に布が掛けられていた。その上に、双樹が花を飾る。花壇の花も含めて自然な香りが楽しめるように、香りの強いものは置かない。最もこの季節、香りの強い花は殆ど無いだろう。
そして、皆はじっくりお茶会の準備を進めた。
素敵なお茶会を過ごす為に。
●
柔らかで優しい音が、その場を包み込んでいた。
シェアトが奏でる竪琴の音。リアが持ってきた菓子を並べ、エメラルドがシェアトが作った菓子を運ぶ。リリーはポットを持っていた。
「大切な人へは自分でお茶を出してあげられるようにと母に教え込まれましたの。料理は殆ど出来ませんけれども」
皆のカップへと澄んだ茶色の液体が注がれていく。
「もっとも、母や使用人ほど上手くは淹れられませんけれど‥‥どうぞ」
「ありがとう」
「やはり、それも年季が物を言うんじゃないのか?」
「心籠めれば、大切な人にとっては他に変える事の出来ない味になると思います」
「私も、そんなお茶を淹れられるようになってみたいですね」
双樹はカップを持って上品な香りと味わいを楽しみつつ、ちらとリーディアを見た。
まだ微妙に固まっている。
「リーディア様も飲むとすっきり幸せほわほわな気分になるのですよ〜♪」
言われてカップを持ったリーディアは、穏やかな笑みでこちらを見ている男と目が合った。ここで目を逸らしたら失礼に当たる‥‥と、リーディアは気合を入れて笑みを浮かべ返す。
「このジャム、美味しいな。何が入ってるんだ?」
「エメラルド、貴女、そう言えば料理の手伝いしてませんでしたわね」
「何を言っている。出された物を有難く平らげるのももてなしの一つ。大丈夫だ。皿洗いなら任せろ」
「ぴちゃ」
「冷たっ」
「リアさん、それ氷果ですか? 美味しそうですね〜」
「ジュースを溶かしたのです〜」
「温かい紅茶と冷たいお菓子。この組み合わせも美味しいと思います」
穏やかで楽しい時間が過ぎていく。その間、リーディアはのんびりと旧聖堂や花壇を眺めながら‥‥その人と時折目を合わせ、その度に赤く染まる頬を意識しながらも微笑んだ。
こんなささやかな時間が、愛しい。
勿論皆は、2人きりにさせる計画も立てていた。
片付けを、ペットの様子をなどと言ってその場を一人ずつ離れ、後はそっと遠くから見守る。2人はその場を動く事なく、静かに座っていた。
「あの‥‥」
ようやく、リーディアが言葉を搾り出す。男は花壇の花を眺めていたが、その声に彼女を見つめた。
「何度もお会いして、随分と色んな面を拝見したと思うのですが‥‥もっと知りたいと、思いました」
彼女の声は大きくは無い。細く消えそうになってしまう声を張り上げようと、リーディアは空を仰ぐように一瞬顔を大きく上げる。その顔を再び男のほうへと向けて彼女は震える心を抑え、紡ぎ出した。
「貴方が何者であろうと、傍に居れたら‥‥。人間としての人生を歩めたらと、思いました。‥‥人って、不思議なもんですね。ヤな所見ようが、大して問題にならないもんなのですね」
男は何も言わない。黙って聞いている。
「‥‥貴方には。好きな人は‥‥出来ましたか?」
その問いに、初めて男は苦笑に似た笑みを返した。
「さぁ‥‥どうだろうね」
曖昧な答えだが、その響きは、何者も含んでいない。まだ、彼にとっての答えは出ていないのだ。だから、彼は言わない。好意に対して、明確な答えは返さない。
「あの‥‥これを。これならいつでも身に付けられるかなぁと思って‥‥貴方を守ってくれるようにと、祈りを籠めました」
そんな男に、リーディアは『聖なる守り』を差し出した。
「実は、前からこれを渡そうって思ってたのですよ? 舞踏会の練習があった頃から‥‥。でも、結局渡せなくて。今になってようやく‥‥です」
苦笑する彼女の手にある物を男は自然な仕草で手に取る。それへそっと祈りを捧げ、リーディアは顔を上げて笑みを浮かべた。
「暫くはこちらからお呼びする事は無いかと思いますが‥‥又、お会い出来たら幸いです。今日は‥‥」
「ありがとう」
男は珍しく女の言葉を遮って、ゆっくり頷く。
「君達の心遣い、感謝する。私は、君達も知っての通り、余り長い命を持たないけれども‥‥」
「そんな事ありません。大丈夫です。御心一つで、変わりますから」
「こうして楽しみに来ているけれども、いつも励まされてばかりだな。ありがとう」
再度感謝の意を述べると、未だ若いこの国の王は、遠くで見守る者達へと目を向け、軽く手を振った。
私達は、あなたを支えましょう。
あなたの肩に、どんな重責が載ろうとも。
共に分かち合えるよう、私の肩を差し出しましょう。
あなたは1人ではありません。
苦しい時、悲しい時、辛い時、いつでもいらっしゃい。
泣き言も、愚痴も、優しく聞きましょう。
時には、激励もしましょう。
私達は。
あなた方の幸せを願っています。