私とあなたと酒場の未来

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月28日〜01月02日

リプレイ公開日:2010年01月13日

●オープニング

 アンジェルという名の娘が居る。
 生まれはハーフエルフ。育ちもハーフエルフ。狂化しないよう自己を律する術を教育され、子々孫々まで残す情報の為ラテン語を学び、ゲルマン語のほうがあまり得意ではない、ごくごく普通のノルマン出身少女である。
 年齢は13歳。誕生日は12月25日。性別女。性格は惚れっぽい。種族人間ばかりを好きになる、困った娘。貰い物を大切にしすぎて、季節の移ろいを感じさせない装いをしている。一時、極貧生活を送っていたが、今は人並みの生活を送れているようだ。お金の使い方が分からなくて、今でもあまり所持品は増えていない。
 でも、大切なものは増えた。


「そう言えばそうですよね。変わらないですよねぇ、格好」
 こちらはイギリス出身の娘、ヨーシア・リーリスが、エプロン姿に箒を持って、酒場内の床を掃除していた。正直言って、雑だ。
「貰った物、大切だから‥‥」
「アンジェルさんって、話し方がたどたどしい時ありますよね。それも、ラテン語ならぺらぺらなんですか?」
「‥‥そんな事、無いと思う」
 同じように箒を持ったアンジェルが、テーブルを拭いている。やけにフリルひらひらの黒と白のドレス‥‥のようなものを着ているが、勿論自前ではない。同じようなヘッドドレスも付けているが、勿論。
「その服も、すっかり着こなしてますね〜。まるで大きな人形みたいです」
「気持ち悪いって事‥‥?」
「違いますよ。可愛いって事です」
「確かにアンは可愛いわよね。もう少し、我が儘言って欲しいんだけどなぁ」
 厨房から、アンジェルの後見役の1人である女性が出てきた。名はベアトリス。夫が居るがハーフエルフと同居するのは難題であるらしく、未だアンジェルを引き取る事は出来ていない。
「我が儘‥‥。貴女の料理は、美味しくなったと、思うの」
「言ってくれるじゃない」
 笑いながら、ベアトリスは料理を器に装う。家事が余り得意で無い事は、彼女自身、自覚していた。というよりむしろ、ここに3人も女性が居ながら、あまり家事が得意とは言えない状態だった。ヨーシアは時々致命的に不器用である。彼女は読み物を書いて酒場に貼り付けたり、商売の宣伝をしたりして生計を立てていたが、最近はずっとここに入り浸っていた。自分が書いた物も、今はこの酒場に張っている。元々の理由は、ベアトリスとは友人関係にあるから。なのだが、何時の間にか住み込みになってしまっている。
「何か、放っておけないんですよね〜」
「俺の事かーーーーーーーっ!!!」
 突然、壁に当たって跳ね返るくらいの勢いで扉を開けて、男が入ってきた。
「シネ」
「ぐおおおおおやられたあああああ!!!」
 箒で抉られて、男は悶絶している。恐ろしいほど騒がしい。
「アンジェルさん、ほんとごめんなさいね。いっつもこいつが煩くて」
「‥‥楽しいから、好き」
「なにぃぃぃぃ! 俺の事が、好きだとぉぉおおおおお!?」
「あんたの事じゃないから」
「苦節○十年、俺は告白された事なんてっ! 一度もっ! 一度もないんだあああああ!」
「アンって、必要な時はハッキリ言わない癖に、どうでもいい時だけハッキリ言うわよねぇ」
「でも‥‥楽しい事は、好きだから」
 せっかく掃除したのにまた埃が舞っている。闖入者ポールと戦っているヨーシア、それを生温く見守っているベアトリスを見ながら、アンジェルは笑った。
 本当に、大切なものが増えた。
 それは、人との間に生まれた、心。


 彼女が今のような生活を過ごせるようになったのは、冒険者のおかげである。
 沢山の、沢山のものを貰い、人は一人では生きられないのだと知った。彼らには未来の可能性のいくつかと、人生には様々な楽しみがあるのだということを教えて貰った。そしてそれを自分の将来のひとつに出来るのだという事を。まだ、彼女は自分の将来をはっきりとは決めていない。だがそれでいいだろう。未来はひとつと決めても、その先には無限の道が広がっているのだ。
「冒険者を招待するんですか?」
「うん、そう‥‥」
 言いながら、彼女は木板にラテン語で何か書いている。招待状のつもりらしい。
「それから‥‥旧聖堂で、子供たちの為に‥‥『劇』がしたいの」
「歌や踊りもいいですよね。あの場所は‥‥」
 言いかけて、ヨーシアはにっこり微笑んだ。きっともうすぐ、あの場所は華やかで晴れやかな場所として、新しい門出を祝う場所として花開き、皆に賞賛されるのだろうけれども。まだ、公にはされていない事なので、内緒である。
「つまりアンジェルさんは、冒険者の皆さんと聖なる夜を過ごし、そして皆さんと旧聖堂で身寄りの無い子供たちの為に何か見せてあげたい、ということですね?」
「そう」
「じゃあ、腕によりを掛けて料理しなくっちゃですね〜」
「うん」
「では、私も招待状作り、お手伝いしますね。ゲルマン語で」
 楽しそうにその作業に入った2人を、遠巻きにポールが見ていた。
 何となく。数日間は試作料理の犠牲になる予感がするのだが、それも仕方無い事だろう。


 一方で、アンジェルもひとつの決意を心に秘めている。
 赤いリンゴ型のブローチを目立たない場所に付けながら、彼女は思う。
 自分と、大切な人達と、これからの未来の事を。

●今回の参加者

 ea1662 ウリエル・セグンド(31歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3759 鳳 令明(25歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec0828 ククノチ(29歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

「‥‥あなたの事が‥‥好き、だから」
 手作りの花びらが、冬の雪の中へと舞い降りて行く。扇でそれを煽っていたアニェス・ジュイエ(eb9449)の手が一瞬止まったが、そのまま笑みを零した。傍で見守っていたククノチ(ec0828)へと頷き返し、2人は花びらを両手いっぱいに抱え込む。
「‥‥ありがとう‥‥」
 そして、相手の男が優しげな笑みを浮かべた所へ、2人は舞いながら飛び込んで行った。


「よ、ヨ〜シアどにょ〜〜」
 酒場の扉を開いたヨーシアに、鳳令明(eb3759)が飛び込んだ。ぶわぁと両目から涙を流している。
「わぁ‥‥お久しぶりですね〜っ」
 まるごとわんこ姿の令明をもふもふと抱きしめながら、後から入ってきた人々にふと彼女は目をやった。
「お招きに預かりにきたわ〜」
 アニェスの声に、アンジェルがひょこと顔を出す。
「や、久しぶりー、アンジェル」
 こちらでもむぎゅと抱きしめていると、ククノチがその脇をつんつんと突いた。
「相変わらず可わぃ‥‥ひゃっ‥‥」
「アンジェル殿、誕生日おめでとう。この一年も良き巡り合わせに恵まれるよう‥‥祈っている」
「あ。あたしからも、誕生日おめでとー。あんたがここに居てくれる事が、凄く嬉しい」
「‥‥」
「2人共。奥に入ったらどうかな」
 入り口前で待たされたウリエル・セグンド(ea1662)の手には、小さな木箱がある。アリスティド・メシアン(eb3084)が声を掛け、皆は酒場内へと入った。
「招待‥‥ありがとう‥‥」
「来てくれて‥‥ありがとう」
「アンジェルどにょ、お誕生日おめでと〜なにょにょ〜♪」
 がさごそと令明がプレゼントを取り出す。
「じゃじゃ〜んだにょ〜」
 ひらひらりんと翻る純白のドレスに、アンジェルの目が丸くなった。思わず視線をアリスティドに向けたアンジェルに、彼は微笑む。
「貰っておきなさい。貰う事も、優しさだよ」
「そうだな‥‥。私からは‥‥これを」
 ククノチが、見様見真似で作ったデコレーションチーズケーキは、夜の『誕生日祝いパーティ』で食べる事として、彼女はアンジェルにそっと羽の生えた猫のペンダントと人形を手渡した。
「ペンダントは‥‥ハーフエルフの友人同士が結婚式を挙げた時の引き出物で‥‥私も同じ物を持っている、から。アンジェル殿にもそんな未来が来ると良いと‥‥思う」
「‥‥ハーフエルフ同士で結婚、な未来?」
「あぁ、いや‥‥同種族同士と限定しているわけでは無い、が‥‥」
 本来ならば当たり前の事を敢えて否定しているのは、アンジェルが片恋を抱いている相手が人間だからだ。
「あたしは衣装一式ね」
 アニェスが出したものは、踊り子の衣装一式だった。アニェスとは色違いのお揃いである。この季節、非常に寒々しい。
「‥‥」
 皆の視線を一身に浴びて、アニェスはあはははと笑った。
「露出の事? 大丈夫よー。まだ若いんだもの、肌綺麗だし」
 そういう問題ではない。
「‥‥着て、みる」
 だが当事者は素直だった。緋色の衣装が彼女の白い肌によく映えるが。
「‥‥」
 黙って彼女は暖炉の前に移動した。
「ショール羽織るとか、パレオ穿くとかすればいいのよ。それにこれは仕事。見栄えってほんと大事なんだから。ま、踊り子の勝負服だし、気が向いたら使ってね」
「僕からは、これを」
 アリスティドは理美容品一式とビーナスシザーをテーブルの上に置く。
「もう、子供じゃあなく‥‥女の子、だからね」
「化粧‥‥したこと、ない」
「教えて貰うといいよ。踊り子が化粧をするのはよくある事のようだから」
「そう」
 だが興味はあるのだろう。じっと中を見ているアンジェルに、ウリエルが歩を進めた。
「少し遅れたけど‥‥おめでとう」
 彼が手渡したのは、自作の小さな兎の置物だった。それを受け取ったアンジェルが瞬きする。
「アンジェルがしたいこと、もの‥‥沢山ある。俺も‥‥今だって、まだまだ、ある」
 じっと聞いている彼女の頭を撫で、ウリエルは話した。沢山の事を見聞きして感じたい事。冒険も止めずに続けるだろう事。けれど根はノルマンに埋めて、この国の行く末を見て生きたい事。
「そう思える人達と、出会ったから」


 夕食作りにククノチが加わり、美味しい料理が運ばれてきた。ククノチが居なかったら‥‥と思わせる恐ろしくなりそうな料理もあったが、味はきちんと美味しかった。
 令明がジャパン旅行土産と言って、かすていらや兎餅を出して並べる。やっぱりアンジェルは目を丸くしたが、それへと令明がちょっぴり可笑しく話をして、みんなの夢があればそれを教えて欲しいと言った。
「夢‥‥。私も‥‥いや‥‥」
 ククノチの脳裏には一瞬愛する人の姿が映ったが、それをアンジェルに言うべきか迷って俯いてしまう。アンジェルが真っ直ぐウリエルを見ている事。そしてウリエル自身が全くその想いに気付いていない事。以前の恋の時も伝えるべきか、皆は迷った事だったろう。そして、その恋が実るはずが無い事。アリスティドには分かっているが、だが皆は見守ろうと決めていた。
「前に‥‥『星鏡の泉』に連れて行ってくれたお礼、きちんと言っていなかったね」
「‥‥願いは、かなった?」
「まだ叶っていないけれど‥‥もう、一人じゃないからね」
 どこか幸せそうに微笑むアリスティドから、アンジェルはククノチへと目をやる。
「‥‥あちこち恋の花よねぇ‥‥」
 それを同じようにアニェスも見ていた。アンジェルと目があって笑う。
「想える事が幸せ。そんな風に想っていた時代があったかな‥‥覚えてないけど」
「アニェス‥‥片思い?」
「そうね〜‥‥。やっぱ、もちょっと素直に‥‥なりに行こうかな」
「?」
「アンジェルも、そこのポールも‥‥私も。後悔の無い恋が出来ると、いいね」
「‥‥後悔」
「素直に言っちゃったほうが、後悔はしないかもね。どう思う?」
 問われてアンジェルは真っ直ぐアニェスを見つめる。
「‥‥言ったら‥‥相手が、困るから」
「そうかなぁ?」
 こくりと頷き、アンジェルは後片付けの為に立ち去った。それを見送りつつ、アニェスは軽く息を吐いて椅子にもたれかかる。
「ね‥‥どう思う? アンジェルって、こういう所‥‥やっぱ変えられないのかな」
「どのような選択であっても‥‥見守ると決めた。アニェス殿の事も‥‥祈っている」
「あはは‥‥ありがと」


 アンジェル主催の『ありがとう会』だったが、結局冒険者達があれこれ酒場内の仕事を手伝うことになってしまっていた。それと同時に、旧聖堂で開かれる会の劇を行うべく、準備も行われている。
「みんなたにょしい。おりしあわせ」
 令明がせっせと何か作っていた。劇の脚本はヨーシアが担当する事になり、いくつか注文を受けて書き上げる。それに合わせて彼が舞台上に置く道具や背景を作っていたのだ。
「わんこさ〜ん。ちょっとそちら曲がってますよ〜」
「おりょ。こっちを押してみるにょ〜」
「‥‥なんか、ばきと音がしたような‥‥」
「気のせいだにょ〜」
 ヨーシアは物体作成に於いては致命的に才能が無かったので、ウリエルも作成に加わっている。
 そして、劇の宣伝などもポールと共に行った。各々別行動だが、令明はホワイトハットを被ったまるごとわんこ姿である。はっきり言って可愛い。ヨーシアが「ふふふふ‥‥可愛い‥‥可愛すぎる‥‥」と、変な目つきで見ていたくらいだ。
 彼はパリの新名所、奇跡のツリーに向かい、うろうろしつつ宣伝を行った。ターゲットは主に子供や動物(特に犬)好きである。入場料もかからない無料の催し物なので、子供たちは「尻尾掴んでやれ!」「犬耳さわっていい?」など楽しみつつ、その話に興味を示したようだった。
 劇の内容は、『竹取物語』のノルマン版とでも言うべきか。天からの授かり物が実は天使だった‥‥という内容である。勿論そこで帰って貰うと悲恋なので、
「主役は‥‥地上で人々と触れ合う事で‥‥残る‥‥選択をした、みたいな感じに‥‥できない、かな‥‥。踊りは、必要な場面で‥‥入れる、感じで」
 その主役をアンジェルにさせようと言うのだが、アンジェルはそれを聞いて首を傾げる。
「‥‥ラテン語でなら少しはちゃんと‥‥喋れる」
「それはダメ」
 実際、彼女が親から教わってきた歌の殆どはラテン語で出来ていた。だが歌ってもらっても音程がよく分からない。
 歌は専門家が居るので任せておく事にして、皆は実際に旧聖堂の舞台に行ってみた。そこでは、例年ここで劇などを披露している人達が既に練習していたが、皆に練習場所を譲ってくれる。ここでは譲り合いが必須であるのだと言う。春に一面覆う花のように、人々に優しさを届ける役目を負うのだ。
 そして。


「進行役を担当する、わんこだにょ〜」
 令明は、始まる前から子供たちに大人気だった。さんざん抱き締められたり蹴られたり色々した後で、ちょっとボロボロになりながら舞台に上がる。子供たちの間からは喝采が上がった。
 何時の間にか全体の進行役をする事になったわんこは、それぞれの劇を面白おかしく紹介しながら進めていく。
「‥‥ねぇ。この台詞、どうしても言わなきゃダメ?」
「はい! 皆さんがアンジェルさんに伝えようとした言葉、とっても素敵でしたよ〜。これは是非、市井の皆さんにもお聞かせしないと!」
「‥‥んん〜‥‥なんかこれ、すっごく恥ずかしいんだけど‥‥」
「大丈夫だよ。脚本と思えば」
「何でそんなイイ笑顔なの‥‥」
 肩にぽんと手を置いたアリスティドを見上げ、アニェスは大きく溜息をついた。
「次は〜『てんしの物語』だにょ〜。ある日〜天使が〜こぉ〜んな大きなリンゴの木から生まれてくるんだにょ〜」
「始まった‥‥行こう」
 ウリエルに促され、ククノチがこくりと頷く。
 それは林檎を取りにきた夫婦から始まる物語である。森の中で見つけた大きな林檎。それを手に取ると、突然ぱかっと割れて中からエンジェルドレスを着たアンジェルが出てくる。
「うちに来るといい‥‥。玉ねぎスープをご馳走しよう」
 ククノチが両手を広げ、天使はこくりと頷いた。その手を片方引き、もう片方の手の指だけをアリスティドが握る。
「そして〜ふ〜ふの家で愛をうけて〜めきめきせいちょ〜したてんしは〜、年頃の女の子にせいちょ〜したんだにょ〜」
 くるくるんと回転しながら、わんこが話の流れを説明した。そのわんこの動きに子供の目が綺麗に回転方向へと向く。
「アンジェルも、もう‥‥結婚しても可笑しく無い歳‥‥」
「可愛いからね。あちこちから求婚の話が出ていて‥‥。でも正直‥‥」
「まだ早い‥‥かな」
「どこに行っても、僕達の子供である事に変わりは無いんだけど‥‥」
 そして夫婦は、箱の中からそっと羽を取り出す。何故か取り外し可能な天使の翼なのである。
「アンジェル。君が言ってた宝石、持ってきたよ」
 そこへ、華麗に舞いながら王子様がやって来た。アニェスである。男装だが踊りやすい格好をしていた。
「次は、何を持って来ようか?」
「‥‥河童さん」
「河童!? え〜‥‥そちらにどなたか、河童さんはいらっしゃいませんか〜」
 客席へ声を掛けたが、残念ながら河童さんは居ない。
「んん〜‥‥ちょっと待って。向こうで聞いてくるから」
「どうして‥‥色々‥‥してくれるの?」
「それはね」
 アニェスは目線を天使と合わせ、笑顔を向けた。
「君はね。皆の希望だと思う。存在が、幸せを運んでくれる‥‥。私にとっての、君、みたいな」
「私は‥‥私も‥‥みんなの事‥‥」
「大丈夫。今すぐ決めなくてもいいんだよ」
 アンジェルは少しあがっているようだ。紅潮した顔に、アニェスはぽんとその背を軽く叩いた。そして舞台を降りてから、盛大に脱力する。自分が言った言葉を台詞として皆の前で公表する事は、相当恥ずかしい。勿論踊り子である彼女は舞台の上では完璧なのだが。
「そうだな。今すぐ決める必要は無い。ずっと私達の元に居てくれても‥‥いい。アンジェルが望む未来を、決めればいいから」
 ククノチに布を渡され、2人は軽く踊った。アリスティドが鳴らす音に乗って。その音が佳境に入った頃、舞台の袖にウリエルが立った。
「てんしは〜まよっていたんだにょ〜。天へかえらないといけないにょに〜帰りたくないとおもってたんだにょ〜」
「‥‥ウリエル、さん」
「‥‥綺麗な踊りだね‥‥。話があるって‥‥聞いたから来たけど‥‥」
 天使が地上に残る理由。それは人々の温かみに触れたからである。ここの天使の台詞はこうだ。『みんなと一緒に居たいから、ここに残りたいの。貴方も一緒に居てくれますか?』
「‥‥ウリエル、さん」
「‥‥うん」
 舞台の袖ではらはらと見つめる人々も含めて、皆はアンジェルの動きを見守った。
「みんなと一緒に居たいから‥‥ここに、残りたい、の。でも‥‥それよりも‥‥」
 そして、彼女は告げる。
「‥‥あなたの事が‥‥好き、だから」


 ウリエルは、アンジェルの告白を劇の台詞だと思っていたようだった。どちらにせよアンジェル自身分かっている事だ。だから、前に進む為に劇の中で告白したのだろう。
「‥‥誘われてる‥‥?」
 とある領地の領主から来ないかと誘われているのだと告げたアンジェルに、ウリエルは少し考えた。
「自分の望むように‥‥するといい」
「アンジェル‥‥」
 その両肩に触れ、ククノチがアンジェルを見つめる。
「これからも時は流れる。真白の道が人との交わりで鮮やかに彩られる様‥‥」
「どう選択するのであれ、この酒場を、思いが集まる場所にしたい、と思っていたよ。物語や手紙を張り出したりとかもいいね。‥‥皆と会える場所。会えなくても、心が繋がる場所に。そうなれば」
「とりあえず行って来ればいいと思いますよ」
 ヨーシアが首を突っ込んだ。その隣で令明がシェリーキャンリーゼをあけている。新年を祝うのだと実に楽しそうだ。ヨーシアも楽しそうだが、それを少し離れた所で寂しくポールが見ている。
「私も少し、旅に出ようと思いますし」
「‥‥何処へ?」
「彼があちこち旅してるらしいので、私も御供できたら嬉しいなぁって。あ、出来なくてもジャパンには興味ありますし」
「俺よりその駄犬がいいって言うのか!」
「煩い黙れ」
 酷い‥‥と心の中で思った者も何人か居ただろうが、ヨーシアは令明をもふもふしていた。
「酒場は私が見ておくわ。行ってらっしゃい」
 ベアトリスの笑顔を受けて、アンジェルは頷いた。


 壁には何枚もの手紙が張られている。誰かが描いた似顔絵が、その中央に飾られていた。
「いつまでも‥‥思いは、永遠、よね」
 最後の一枚を張り、ヨーシアは帽子を被り直す。
 そして、微笑んだ。

●ピンナップ

ククノチ(ec0828


PCパーティピンナップ
Illusted by 龍胆