真曲デビルロード〜最後の調〜
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■イベントシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 17 C
参加人数:20人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月19日〜01月19日
リプレイ公開日:2010年01月29日
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●オープニング
●
紫の塔に居たセザールは、シャトーティエリー教会に居た。ラティール教会のほうが人手もあるのだが、そこにはドーマン領主が居る。彼が死ぬ事を見越して敢えて呪いを受けたセザールを近くに置くわけには行かない。
彼の誤算は、ドーマン領主が死ぬ前に助けられてしまった事だろう。セザールは天盤を使って呪いの発動や条件をおよそ知っており、緑の塔でわざと宝石を4つ置き、呪いを発動させたらしい。
宝石の呪いは、4個と20個ではさほど変わらないように思えた。だが、実際は差があるのだと言う。それをバードギルドに教えたのは、フランカという名の黒髪のエルフである。つまり、一度発動した『選択』を『訂正』できるのは、20個の宝石と、他の2選択だけらしい。4個だけでは一度選ばれた選択を変える事が出来ないということだ。つまり、紫の塔にセザールが閉じ込められていた場合、20個に足りない分しかなかった宝石では、どうにもならないという事である。
「‥‥あんたが死んだら、あのじじいも浮かばれないわよ。もう、行かないでよね」
パリの教会に、アントニナは居た。傍らにはオデットが立っている。
橙分隊員達が救助されて、だいぶ時が流れた。その間、橙分隊が直接使っている騎士団を連れてデビルロードに行っている、という話は聞いている。アントニナも初回は同行したのだが、既に今は日常生活を送る事さえも困難になっていた。だが彼女は冒険者であり、高い自尊心も持っている。ここで弱みを見せる事はしなかった。
「でも‥‥私も戦える。じいじの分までも」
「なんでエルフって‥‥そんなにバカなわけ?」
「エルフ全体を指すような言い方は良くない」
「あんたは、あのじじいに育てられたのよ。ちゃんとそれを生かすように、生きるべきだわ」
シメオンの遺体は、パリに安置されていた。それを可能にしたのはオデットである。彼女は、アントニナがかつて共に冒険をしていた仲間達を何人か連れて、デビルロードに入ったのだ。そして、石壁を開いた。魔法で。
「‥‥充分生かしてる」
「そう言う意味じゃなくて」
「呪いは、必ず解くから」
「それ、分かってんの?」
アントニナの鋭い声に、オデットは一瞬目を伏せた。
「あんたは既に、『祝福』が完成してるのよ? それを解いたらどうなるか‥‥予想つくわよね?」
「このままの状態で私が生き続ける事が出来るとは、思ってない」
「どっちにしても、あんたが動く必要ないわよ」
言い放ち、彼女は窓の外へと目を向ける。冷たい風が室内に入り込む中、2人は黙り込んだ。
●
魔曲。譜は4つ。楽器は7つ。
それを奏でるべき人は、本来ならば7人居た。だが彼らの殆どは天へと召され、今、確実にそれと分かる姿で残っているのはセザールだけである。とは言え、セザールも元々紫の器を持っていたわけではない。そして恐らく、その内の一人が残した忘れ形見、アンジェルが持つべき器はラグエルと呼ばれる乳白色の笛だろう。最も、楽器演奏能力は皆無なのだが。
冒険者達が見つけた赤い机のようなものには鍵穴があった。これは、鍵を複製する事で開く事が出来たが、中には鍵盤が並んでいる。そして蓋の裏側に譜があった。その譜が『太陰』である事を、ざっと目を通したフランカが告げる。
「貴女‥‥一体、何者なの?」
「私は‥‥ただのエルフ、ですよ。本当に」
そう笑いながら、彼女は懐から一枚の羊皮紙を取り出す。
そこには‥‥。
「これ‥‥『譜』!?」
「えぇ。私が見つけた物よ。残念だけど‥‥これ一枚だけ。名は、『明時』」
「本当に、貴女一体‥‥」
「ある方に言われて、ずっと見ていたのよ。長い間‥‥あの土地の事。『魔曲』が眠るあの地をね」
彼女はまだ20代後半に見えた。3領地を見張るにしては、まだ若い。
「あの土地に伝承が残っていないのは‥‥そうね。私も協力したわ、昔。だって、あそこに魔曲があると知れたら、色々困るもの」
「‥‥どうでもいい事なのだけど‥‥貴女、本当にいきなり色々喋るわね」
「えぇ。私、お喋りなほうだから。バードだし、喋るのが仕事だものね。‥‥昔はでも‥‥私だけじゃなかったのよ。あの方に言われて一緒に動いて‥‥でも‥‥」
「この際だから、ずばっと洗いざらい言っちゃえばいいと思うの」
「私ね‥‥。双子の姉が居るの。でも、随分前に別れてしまったわ。‥‥彼女が、もう一枚の『譜』を持ってる」
「それって‥‥?」
「デビルロードに一枚ある、と出たそうじゃない? 占いで。そういう事だわ」
彼女はあっさり言うと、少し笑った。
「もう随分前の事になるかしら‥‥。彼女、『真曲』を見たいと言って、去っていったの。全ての楽器を揃え、全ての譜を揃え、全てを演奏する。その時‥‥『変わる』んだと言っていたわ。でも、本当は『魔曲』の『譜』は‥‥3枚なの。最後の『光陰』或いは『光明』と呼ぶその『譜』。彼女が持っているものだけど、あれは‥‥本当は、違うのよ。デビルが最初に作った物は1つの曲だった。それを3枚に分けて保管された。だから、彼女が持っているものは‥‥」
「ものは‥‥?」
「曲としては繋がっているけど、恐らく決定的に違うのよ。『魔曲』は、光に属さない魔法を強化する。本来ならば、デビル魔法を強化する為のものなの。けど、『光陰』は‥‥デビルさえも縛り付ける。そういう、歌なのよ」
「何故、それをお姉さんは持って行かれたのですか?」
「デビルに不利な『譜』だからじゃない? あの人は‥‥デビルの元に、下ったのだから」
確実とは言えないが、『光陰』は月魔法以外も増幅すると思われた。それも、恐らく正反対の‥‥例えば陽や、聖なる魔法を。
「一つの譜と一つの器。それだけでも魔法を増幅はすると思う。けどね‥‥本当の威力は、合奏よ。私がこういう話をぺらぺら話すのはね。それを望んでいるからなの。デビルの力が及ぶ場所であれを奏でる事は、大きな危険を伴うわ。でも、ただ一回。たった一回で全てが変わるとしたら‥‥?」
「それは、7つ揃っていなくても‥‥?」
「えぇ。でも5つは欲しいわ。奏者もね。‥‥私も行くけれども、その場面は‥‥『赤の塔』が地上に降りた時」
赤の器は、まだその状態では完成形ではないと彼女は告げていた。だが長年3領地を見続けてきた彼女が言う事には、分解した一部を別の場所で保管しているらしい。それは取ってくるという事で、先にデビルロード内に入って欲しいとフランカは言った。
「私が着くまでに、紫の塔を楽器以外の方法で何とかしておいて欲しいわね。赤の塔が降りれば、恐らく相当強化されたデビルが大量に出てくるはず。塔の条件を満たすということは、そういう事だから。だから、デビル達に器を取られる前に、合奏で撃退するのよ」
●リプレイ本文
昔々、ある所に双子の姉妹が居りました。
2人は仲睦まじく、月の女神の覚えもめでたく、美しい音に包まれてこの世を謳歌して居りました。見守る土地に数々の音を授け人々に慕われていた姉妹でしたが、ある日、事件が起こります。
「フランカ‥‥。貴女が、そんな事をするなんて‥‥」
「私が‥‥守る。フェデリカ。貴女を、ずっと守るから」
そして姉妹は愛した土地に残る彼女達の痕跡を全て消した後、決別したのです。
●準備
「あれ‥‥ギスラン様は?」
ユリゼ・ファルアート(ea3502)が首を傾げる。背中にある黒い痣の広がり具合を見せて貰おうと思ったのだが、橙分隊と共に行動していないらしい。
「まさか‥‥フラグか?」
イヴェットの傍に立ちつつファイゼル・ヴァッファー(ea2554)が呟いて、「フラグとは何です?」と尋ねられていた。
デビルロードに入る前に、シェアト・レフロージュ(ea3869)がエミールにリシーブメモリーをかけた。痣と門に刻まれた紋章が領内に関係あるのではと考えたのだ。答えは、魔器の紋章。器の裏や底に、門とは別の形で分けられた紋章の一部が刻まれている。合わせるとオデットの背にあるような黒い痣と似た形になった。
「領地の何処かに解呪の手掛かりが、ある気がするの。呪いは‥‥二人が一つになろうとしている事なのかなって。力も、記憶も‥‥若しかしたら魂も」
「知ってるのは叔父貴だろうな。もうあれじゃねぇ? セザール殺せばいいんじゃね?」
「そういう選択はしたくないわ」
ユリゼは金の指輪を転がしながらふと思う。『遺産』の使い道があればいいのに、と。
一方、デビルロードに入る前に皆は器で合奏の練習と、『光陰』の効果を試していた。
「こんなの、全然俺の本気じゃないんだからなっ!」
ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)が、ぜーぜー息を吐きながら言っている。その演奏で超越的テレパシーをギスラン対象で発動したレティシア・シャンテヒルト(ea6215)は、相手が既にロード内に居ると知って軽く溜息をついた。魔曲で増強したテレパシーは1日効果がある。
「やはり神聖魔法に効果があるようですね」
魔器を使わずシェアトが『光陰』を歌い奏でた所、エルディン・アトワイト(ec0290)の唱えた初級的ホーリーライトは、1時間近く光っていた。他の譜では効果が無かったから、やはり『光陰』は別物なのだろう。
「‥‥『魔器』を使わずに効果があるのはこの譜だけ‥‥。何故、占い師さんはこの譜を教えて下さったのでしょう‥‥」
「『真曲』を聞きたいという『欲』からだと思いますよ」
ミカエル・テルセーロ(ea1674)の表情は厳しい。
「シェアトさん。私にも教えて頂けますか?」
少しでも力になれるようと祈りながら、リディエール・アンティロープ(eb5977)が『光陰』を教えて欲しいと告げる。
「はい。ですがこの詩は途中までで‥‥」
「これで問題なく取れたはずだが‥‥どうだ?」
エイジ・シドリ(eb1875)が様々な道具を出し、武器などから宝石を外していた。時間が掛かったが、宝石には傷が付いていないように見える。
そして皆は準備を終え、デビルロード内へと入って行った。
●緑塔
「‥‥そう言えば、フランカの姉って名前何かしら」
ガブリエル・プリメーラ(ea1671)が自ら魔器を使ってテレパシーを放つ。
「ローランとは繋がったわ」
「本当か?!」
尾上彬(eb8664)が食いついた。
「『手繰りあうのは、飽いた。カードは持ち合ってる。出て来いや』。ミカエルの言葉、確かに伝えたわよ」
「それで、何と?」
「『塔の解放及びデビルロード崩壊への道筋感謝する』‥‥出てくるつもりないみたい」
「ローランは主人大好きっ子だもの。仕方ないわ」
「もしかしたら黒の塔辺りに居るのかもな。あそこに主人が眠っているし」
何故か微妙にローラン側の感想を述べるレティシアと彬は置いておいて、ミカエルはガブリエルへ目をやる。
「それから‥‥『シェアトさん、聞こえる? 体、大丈夫?』」
『‥‥はい‥‥聞こえます』
『交渉は貴女とって言ってるんだけど‥‥相手はデビルだし私が』
シェアトはデビルロードに入ってから常時具合が悪そうだ。だがシェアトは自分がと断り、テレパシーで交渉を始めたようだった。
「シェアトさんに話し合いで解決したいと伝えて、何としてでも目の前にきて貰います」
だが、結果は思わしくない。シェアトは光陰の全てをテレパシーで教えて貰っただけに留まり、器については他デビルが所持している為持ち出しは不可能だと告げたようだった。レティシアが教わった歌と他3譜の旋律と合わせて違和感がないか検討し、元々曲調が違う光陰である事から確信は持てないが、偽物ではない気がすると伝える。譜が手元に無い以上、これを全て記憶して歌う事が出来る者は限られるが、偽物かどうかは後ほど神聖魔法を使って確認すれば分かる事だろう。
「もう一度、テレパシーを。真曲を聞く為には全ての器が必要だと説得します‥‥諦めません」
緑の塔を強い眼差しで見上げながら、ミカエルは呟く。
●紫塔
紫の塔内には橙分隊員達が入っていた。
アリスティド・メシアン(eb3084)が内部の者達とテレパシーで話し、レティシアからは緑塔前から指示が飛んでいる。
「人手が足りないようでしたら、私が『祝福』の肩代わりを。これ以上、皆さんにご無理をさせるわけにはいきませんから」
リディエールがそう申し出たが、分隊員達は首を振った。彼らからすれば騎士以外の者に肩代わりはさせたくない。
「中には‥‥ローランもガストンも居ないみたいだね」
後の者たちは、赤の塔が下りると思われる丘から少し離れた所に陣取っていた。丘の上を彩る赤い花がかつて咲いていた丘は、今、赤黒い蔦が地面を這っている。
「シェアト姉さん。やはりこの場所は良くないのでは‥‥」
テントの中で座っているシェアトを、不安げにデニム・シュタインバーグ(eb0346)が見つめていた。
「心配して下さってありがとうございます。‥‥でも、最後まで付きあわせて下さいね。後、1回だけですから‥‥」
にっこり微笑むその姿が痛々しい。皆が皆、それぞれの決意を胸に抱き、この場に立っていた。
「それで‥‥本当に、『占い師』からは『光陰』以外の話は出なかったんだな?」
実はひっそり考古学者として塔の研究をしてみたかったラシュディア・バルトン(ea4107)の問いに、シェアトは頷く。フランカの姉はパリで『占い師』と呼ばれていた。
「‥‥ただ‥‥」
「ただ?」
「『全ては揃った』と‥‥」
「デビルの常套句ですね。そう言ってこちらを惑わせる、或いはさもデビル側が有利であるよう匂わせる。実際、全ての譜と器と弾き手は、このデビルロード内に集まっているわけですが」
最後に入ってきたエルディンがそう述べた所で、リン・シュトラウス(eb7760)が毛布をぱたぱた動かす。
「女性のテントにそんなに押し込まないで下さいねっ。非常時でもダメですからねっ」
言われて男性陣がぞろぞろ出て行った所で、シェアトをそっと横に寝かせながらユリゼがふと口を開いた。
「姉さん‥‥本当は、何か分かってるんじゃないの?」
「‥‥楽士のようにはなりません。私も‥‥あの方も、きっと」
一方外では、フローライト・フィール(eb3991)が上方を見上げている。黒い霧に覆われて全く何も見えないが、その向こうに赤い塔があるのだ。変化を見逃さないようにすべく、交代で皆は空を仰いだり‥‥或いはちょっと楽器の練習をしてみたりしている。
「‥‥エイジさん。霧の流れが変わった」
声を掛けられ、近くの赤岩に座ってダガーを磨いていたエイジも、顔を上げた。
彼らの上空で渦を巻くように動いていた黒い霧が、ゆっくりとその渦を大きなものへと変えつつある。
「今、紫の塔の選択が終わったようです!」
テントから出てきたリンの声に、待機していた一同は前もって相談していた通りに準備を始めた。
紫の塔から出てくる敵はさほど多くなく、外で待機していたアリスティドとリディエールは待つ以外にあまりやる事が無かった。だが、頂上に着いたという連絡が来ると同時に、アリスティドは身じろぎする。
「‥‥リディエール」
「はい」
「少しテレパシーに集中するから、敵が出たら頼めるかな」
「分かりました」
一呼吸置き、アリスティドは流れ込んできた声に言葉を返す。
『君から連絡が来るとは思わなかった‥‥ローラン』
『君達の仲間から報告を貰ってね。姉妹との交渉は決裂したようだと。相変わらず冒険者は甘いと伝えておいた』
『‥‥そんな事をするのは彬くらいかな‥‥。僕にわざわざ連絡を寄越した理由は?』
『君達の成功を祈る。それから‥‥妹の事を、ありがとう』
アリスティドは思わず咳払いをしたが、リディエールは微笑みながらそれを見ているだけである。勿論内容は聞こえていない。
『後は、これが最後だ。赤の塔に入る方法だが‥‥』
黒い霧の向こうに、薄っすらと赤色が見え隠れし始めた。『魔曲』の演奏は赤の塔が降りてから、と言う事になっているが、皆は注意深くテント内から魔器を運び出す。現在使える楽器は5つ。緑と紫の塔に行っている者が帰って来るまでに赤い塔が降りてきて敵が攻めてくれば、今居る者たちで奏でるしかないと思われた。
「‥‥ん? フランカか?」
ふと、こちらへやって来る人影に気付き、ジラルティーデが声を掛ける。
「いやぁ〜、久しぶりだな。どうだ? 変わりはないか?」
親しげにばんばんと腕を叩きながら挨拶すると、フランカは嫌そうな顔をした。
「‥‥痛いのですけども」
「ん!? そんなに強く叩いてないぞ?」
腕から血を流しているフランカだったが、ジラルティーデには構わずテントのほうへと向かう。ジラルティーデはフランカとは全く面識が無い。万が一入れ替わっている際の反応を見る為の行動だったが‥‥よく分からなかった。
「お待たせしました。赤の器の残り部分を持ってきましたよ。間に合ったようで良かったです」
「‥‥道先案内人が居たはずだけどな。そいつはどうした」
奏者の位置取りとそれを補助するアイテム等の配置を計っていたリュリス・アルフェイン(ea5640)が、やや鋭い声を投げる。テントから出てくるシェアトを支えて歩いていたラスティ・コンバラリア(eb2363)も、そちらへ目をやった。
「そのような方とは会いませんでしたけれど‥‥?」
だが彼女は微笑み、楽器の調律を始めた。
●呪縛
それよりも少し前の話。
「‥‥驚きました。このような所でお会い出来るとは」
レイシオン・ラグナート(ec2438)は、オデットと共に彼女とシメオンが暮らしていた森内に居た。そこには小屋のような家があり、2人はそこで研究を重ねていたのだ。
オデットにシメオンの知識も受け継いでいるのではないかと尋ねると、彼女は『呪い』についてこう告げた。呪いは相手の力を受け継ぐのではなく、自分の力が増幅されるだけなのだと。だがシメオンが残した資料は探せばあるだろう。彼女の元を訪れる前にアンジェルにも会ってラテン語の歌か詩を習っていないか尋ねたレイシオンだったが、彼女が伝えたものはどれも子守唄をラテン語にしたものだった。
「『双子の呪い』‥‥。これかな」
「ラテン語ですね。読んでみましょう」
難解な言葉も使われていたがレイシオンには問題なく読める。
「『旧領が地下帝国を滅ぼす時に双子の姉妹が歌と音で以って加担した事実は、後世に一切残されていない。アシル(ドーマン領主)曰く、領地を与えられた際にその音と器は地下帝国の遺産と共に封じられ、其れの知識さえも殆ど受け継がれる事なく全ては表舞台から姿を消してしまった。姉妹はこの時負った咎で道を違え、永遠の呪をその身に受けた。片方の死がもう片方の呪を解放する呪縛』‥‥成程、ここまで調べは進んでいたのですね」
他の資料も探した後に2人は小屋を出た所で、森の中で佇む女に出会った。黒髪のエルフは2人を待っていたのだと言う。
「でも丁度良かった、フランカ嬢。冒険者達は貴女の望みを叶えようとしています。テレパシーが使えるならば、少しお願いしたい事があるのですが」
「私も丁度良かったわ。小屋に入れなくて困っていたの」
そして彼女は手を差し伸べた。
「デビルロードなら『扉』で連れて行ってあげる。だから私にその資料をくれない?」
「来ない‥‥」
デビルロード入り口付近の岩陰に、ロックハート・トキワ(ea2389)は隠れていた。
仲間達が内部に入ってから随分経つ。彼は1人ここでフランカが来るのを待っていたのだ。双子の姉妹であるならば途中で入れ替わってもこちらが気付かない可能性も高い。姉がデビルに属する者である以上、道中でそれを実行するのではと思われた。
あらかじめフランカの容姿は聞いているし、ここに単独でやって来る者はほぼ居ない。まず見過ごすわけがないのだが、いい加減疲れてきた。その内、周囲を覆っていた黒い霧がゆっくり晴れ始め、遠方の上空に渦巻いている黒い霧も見え始める。
「始まった‥‥か?」
塔が降り始めたのかもしれないと腰を上げ、待ちぼうけになってもめげないぞ俺はと歩き始めてすぐに、彼は前方に人影を見つけた。
「内部に運んで頂きたいとはお願いしていませんが?」
「あら。貴方なら最後の戦いに参加してくれると思っていたわ。それにその資料、貴方には価値が無いでしょう?」
「‥‥レイシオン!」
一瞬だった。フランカが黒い霧のようなものに包まれると同時に、レイシオンの前に出て魔法を唱え始めたオデットがその場に崩れ落ちる。ふわりと浮かんだ白い玉がフランカの手へと下りた。
「やはり入れ替わっていましたか!」
「逃げろ!」
駆け込んできたロックハートの短剣が、女の首元へと伸びる。それをかろうじてかわした女に素早く短剣を繰り出している間にレイシオンからコアギュレイトが飛んだ。だがそれは効果が無かったらしい。一度でも相手に魔法を使う隙を与えれば終わりだ。正面から戦うと恐ろしく弱いと自称する彼の額から汗が零れた。
「やってくれる‥‥」
だが全てをかわす事は出来ず、女は腕から血を流して後ずさる。それへと間髪入れず短剣を刺し込んだロックハートだったが、不意に上空から複数の羽ばたき音が聞こえて意識を逸らす。インプが大群でもって向かってきていた音だった。
「レイシオン! 逃げろ!」
1人でもここを切り抜けられるとは思わない。インプに気を取られれば女が躊躇なく魔法を放つだろう。
だが、そうはならなかった。インプが一気に急降下してきたと同時に、女の姿はその場から消え失せたのである。
●真紅
ゆっくり開いて行く黒い渦の彼方に一瞬見えたと思ったのは、鮮やかな夕日の色だった。だがその空も鮮血を思わせる赤き塔の向こう側へと消え、鋭利な形へと姿を変えた塔の先端が、霧を裂くように降りてくる。先端部が屋上であるならば、その構造は他の塔とは違うものなのだろう。幾つかの黒い穴‥‥窓も見えたが、入り口らしきものは見えなかった。逆さになって空から生えていた塔である。それがゆっくりと降りてくる様は圧巻だったが、近付くにつれ黒い穴が膨張していくように見えた。否、窓から何かが湧いているのだ。
「塔が落ちる前に敵が来そうです!」
「塔組はまだ戻ってこないか‥‥」
「私がこの赤い器は奏でるわね」
「‥‥駄目だ。ここは俺が‥‥」
フランカの腕を、がしっとジラルティーデが掴んだ。口から血を吐いているように見えるが、それは先ほどちょっと自分で自分を刺しておいたからである。まぁ鎧に色々効果があるからこういう手段を選んだらしい。そしてレインボーリボンとピンクのスカーフを頭に巻きつけて気合を入れた。
「貴方程度の技量じゃ無理よ」
「‥‥フランカさん、お願いします‥‥」
『光陰』を奏でる分にはシェアトにも負担は少ないようだったので、塔が降りるまではとフランカに説明して皆は『光陰』を奏でる事にする。
「歌いましょう‥‥。それが、私の誇り」
「慈愛の神セーラよ、デビルに立ち向かう者達をお守りください」
シェアトが歌い始めるのを合図に、ユリゼ、ジラルティーデ、デニム、フローライト、リンがそれに合わせて音を奏で始めた。同時にエルディンがホーリーフィールドを唱える。
「よし‥‥リュリス、前は頼んだ」
ラシュディアは真紅の革が張られた書を片手に持った。ぱらりと風に煽られて開いた最初の頁を、朗々たる声で読み始める。『アッピンの赤い本』。この魔書は、大声で読み上げている間だけデビルの動きを著しく妨げるのだ。
「聞こえねぇぞ! もっと腹から声出せ!」
「出してる!」
「‥‥兄さん。発声練習はした?」
「忘れてた!」
「アイリス! 迎撃だ。飛ぶぞ!」
ファイゼルがひらりとペガサスの背に飛び乗る。リュリスが隙間なく効果があるよう配置した、聖なる釘、犬血、杏黄旗、エルディンのホーリーフィールド範囲内から出ないよう、上空へと舞い上がった。
赤い塔は。音も無く丘目掛けて落ちていく。
「人の記憶は、思い込みで簡単に塗り替えられる。それを見てどうする」
緑の塔の前には、ミカエルとガブリエルだけが残っていた。そこから10mほど離れた場所に、フランカそっくりの女が立っている。ミカエルが続けた呼び掛けに渋々応じたという場面だ。ガブリエルが放ったリシーブメモリーは抵抗されたが、代わりに女はそう告げる。だが楽器は持っていない。
「時に手段が必要なことも、貴女が一番知ってるでしょ?」
彼自身が炎に包まれて燃えるようだった。何かを押し殺すような怒り、そして挑むような目つきを女は真っ向から受け止める。
「お前は若い。故に、そこにある真実を受け止められぬ」
「いいえ。僕は全ての真実を明かします」
「真実は常に、お前が望む事実では無い。だがそれが望みなら見るがいい。人よ」
言われて、ガブリエルは女の記憶を読んだ。
それは‥‥愛情が憎悪へと変じて行く‥‥記憶。
●魔曲
「さあて、ラスティ、護衛の皆様方。夢の競演を邪魔する無粋な輩が、滅びのマーチをご所望だ」
奏者達の真正面の大地に直刀を突き刺し、リュリスは白銀に輝く槍を振るった。塔から溢れ出した黒い塊は、羽を持つモンスター達だ。だがその殆どはデビル。彼らと相対する前に動きを大きく鈍らせ、光放つ槍の前に次々と黒き大地に落とされていく。
「美しい音色に雑音を混ぜるのは好みじゃないわ。どうせなら私達も美しく奏でましょう」
リュリスの後方でラスティが弓を置き、弦を引き絞る。放たれた矢は一瞬の煌きを残して一撃で相手を撃ち落した。
「空だけでっ‥‥こんなに居るのかよっ」
ファイゼルは時折結界と化した範囲から外に出て上空の敵を倒していたが、とにかく数が多い。その視界にふと前進する1人の姿を捉えた。
「イヴェット! あんま前に出るな。危ない」
「私の事は気にせず‥‥奏者を守って下さい」
「分かった。でも無理するなよ?」
「貴方も、ペガサスに無理させないで下さいね」
そんな彼らの目前で、何もせずともデビル達が空から落ちて行く。『光陰』の力を得たエルディンのコアギュレイトだ。だが『光陰』が聞こえている限り、結界の範囲に入らずともデビル達の動きは鈍っていた。
『エルディン。ちょっと道開いてくれる?』
レティシアからのテレパシーに、エルディンは緑塔の方向目掛けてコアギュレイトを次々放つ。ものの数秒でそこに1本の道が出来た。
「お待たせ。交代するわ」
レティシアがデニムに声を掛ける。
「フランカ」
彬は、黙って塔を見つめるフランカへと近付いた。
「その‥‥こんな時に何なんだが、『あの方』の事、好きだったのか?‥‥いや、埒も無い事を済まない。だが相手は勝手な奴だろうと思ってな」
「アナイン・シーの事? そうね。好きだったけど‥‥」
彼らの後方では、紫塔組が帰って来て奏者交代をし始めている。最後にガブリエルが入れ替わってシェアトが休憩すると、ミカエルが彬に駆け寄った。
「フランカさん。いいえ、フェデリカさん。貴女の真意‥‥聞かせて貰えますか」
「‥‥姉に会ったのね?」
「塔が落ちます!」
デニムの声と同時に、地面が大きく揺れた。次いで四方八方へと飛び散る砂埃と衝動がもたらす風に煽られ、皆は一瞬動きを止める。
「目が! 目がー!」
「気を取られないで! シェアトさん達を‥‥守り抜くのよ!」
「皆、大丈夫か?」
フローライトが弓を手に立ち上がりながら、奏者達の状態を確認した。演奏は途切れたが、まともに砂埃を顔に浴びた者は居ないようだ。
「問題なさそうだ。‥‥奏で、歌おう」
喜びの歌、怨嗟の歌、どれであれ音自体には何の力も無い。それを聞く人が自分で変化しているだけなのだ。彼はそう思っている。魔曲には元々興味があった。けれども今は違う。全てを強制的に捻じ曲げるかもしれない魔曲の存在を終わらせる‥‥。
「その為に、俺は‥‥」
「私達は‥‥知っています。合わせ、歌う喜びを‥‥うねりを。命を授かった時から繋ぎあい律動を刻んでいます」
「最後の1回になるといいけど。大きく息を吸って〜‥‥目を閉じて、大切な人の笑顔を思い浮かべるの。きっと、上手く行くわよ」
丘に深く突き刺さった塔から、蟻のように次々と降りてくるのが見えた。デビルも居ればアンデッドも居る。他の方角からもその大群が押し寄せようとしているようだった。
「さ‥‥奏でてみようじゃない? 心を奪う歌の力を、こんな事に使う無粋なデビル達へ。魔の歌から‥‥『人』の音へと」
奏者達は心を合わせ、最初の一音を奏で始めた。
赤の塔。その上階から、女は静かに下方を見下ろしていた。その手には緑色のリュートがある。
「始まりましたね」
同じように見下ろしながら詩人姿の男が笑った。だが女は笑いもせずに弦に指を当てる。
「逃がしません!」
フランカの傍で炎の柱が噴き上がった。
「どういう事だ!?」
状況が掴めない彬の逆側で、エイジが素早くシルバーナイフを投げる。ミカエル達に気を取られていた女はそれを肩に受けて舌打ちした。
「言っておくけど‥‥デビノマニになったのは姉のほうよ? 私は悪くないわ」
「えぇそうですね。デビルに与するのは悪い事でしょう。でもそれは、貴女を守る為!」
エイジが更に投げたダガー2本は、今度は弾き落とされる。手元に戻ってきたダガーを持ち一気に距離を詰めたエイジに、女は微笑んだ。
「隙を与えるな!」
女の腕に、新たなナイフが突き刺さる。見るとロックハートが荒く息を吐きながら駆け寄った所だった。レイシオンは奏者達と共に居る。
「‥‥魂を奪われる」
「お前達に何が分かる! 人の為と思ってやった事で呪われて呪われてこのような姿になってアナイン・シーの庇護も喪い捨てられた上に私達の生きた証さえもこの地上から消された! 呪いは片方が死ねば成就する。私を守りたいと言うなら、あの女が先に死ねば良かったのよ!」
「‥‥呪いは、解ける」
ギスランに背負われたオデットが、呟いた。
「お前が落とした私の魂の全て‥‥。飲み込んだら背中の痣が消えた。力も無くなった。お前も魂を‥‥奪われているのだろう?」
「解けないわよ。あのデビルが居る限り。あの緋玉が塔の中にある限りはね」
「‥‥その事ですが」
アイスブリザードを全開で放ちつつ、リディエールが近付いてくる。
「アリスティドさんが伝えて下さいました。赤の塔に入る手段があると。あの中にこのデビルロードを作り上げたデビルと宝玉があるそうです。‥‥突入するならば、魔曲完成後ではなく、『光陰』が始まる前くらいが宜しいかと。恐らく‥‥ですが、魔曲完成後の『光陰』は、デビルに対して致命的なまでの効果があるでしょうと。但し、その前にデビル魔法が飛ぶ可能性はありますが」
「お前、一緒に来い」
一生懸命戦っているリュリスに、ギスランが声を掛けた。
「俺はな。命掛けてこいつらを守るんだよ! 突撃に人員割くと防衛ラインが割れる。ある程度までなら俺がカバーするけどな」
「僕が行きます」
デニムが素早く駆け寄る。歌は黄昏を過ぎ、大陰へと入っていた。
「俺も途中まで一緒に行って、空から援護するな。外の螺旋階段上るんだろ?」
「分隊長の突撃を止めれるのはお前だけだ。残れ」
「‥‥俺が、行こう」
エイジとデニムがギスランと共に赤の塔へと向かった。その道中を行き易くする為にリディエールとエルディンが魔法を放つ。
そして。
●真曲
「デビルに‥‥慈愛のオーラを!」
リンの声が高く響き渡った。夜明け‥‥それを指す『明時』。魔曲は月魔法を増幅したが、同時にデビル達の動きも活性化させていた。デビルの動きを阻害する様々な要素が無ければ、1匹1匹は弱いとは言え、防衛ラインを支えきれずに崩れていたかもしれない。
全ての夜明けを望む気持ちで、リンはメロディーを発動する。それと同時に他のバード達もその歌を歌い始めた。
メロディーは歌である。それは魔曲の歌詞とは違うものだ。魔曲で歌う歌はどれも不吉な暗示を伴うが、その響きを払拭すべく思いを篭めた。大切な人、今、皆を守ってくれている護衛の冒険者達、犠牲になった人々、今もどこかで成功を祈ってくれる人々の為に。
歌う。
歌には、力がある。
どのような魔法も人外の能力も必要ない。
その心が、その響きが、人の心を活気付け、そして癒すのだ。
「‥‥敵の動きが‥‥」
押し寄せる敵の大軍に、ラスティは弓を捨てアイスチャクラを生成した。自らの体を盾にしてでも守ると敵を睨み付けた所で、『光陰』へと変わり‥‥敵がぴたりと止まったのだ。
「やれるうちに存分にやっとくか」
リュリスの槍が微動だにしない敵を一斉に薙いだ。その上方が光に包まれる。エルディンのホーリーが発動したのだ。その光は眩しくも優しく人々を包むが、上空のデビル達を焦がして消し去った。
「黙示録の戦いを思い出します。あの時もこうして演奏部隊を護衛していました‥‥懐かしいですね」
「‥‥懐かしむのは後だな」
歌には、力がある。
一人一人の声は小さくとも。重なれば大きな力となる。
6人の声が、音が、聞こえないはずの遠い彼方まで響き流れて行った。
上空の黒い渦が晴れ、水色の空が顔を見せる。この異界には無いはずの空からの光が一条、彼らのもとへと差し込んだ。爽やかな風まで吹き込んでくるようだ。
「‥‥無事、帰ってこいよ」
縛り上げられたフランカ‥‥フェデリカをどこか寂しそうに見ながら、彬が呟く。
赤の塔の外周を上る螺旋階段は、敵で溢れ返っていた。
エイジは借りた弓矢も用いて空中から来る敵を倒し、先頭をギスラン、殿をデニムが務めて上っていたが、その動きはじりじりとしたものだった。だが突然、敵が階段からぼとぼと落ちて行く。同時にレティシアからテレパシーが飛んできた。『光陰』は他の譜よりも短い。一気に3人は螺旋階段を駆け上がり、入り口らしい大きな穴の中に飛び込んだ。
そして、見る。女の背から鋭い刃が突き出ているその光景を。
「‥‥フランカさん‥‥?」
姉妹の名が本当は逆である事は既に聞いている。そう呼びかけると、女は窓辺にもたれかかった。
「貴方達の相手は裏切者を始末してからに。少しお待ちを」
詩人の姿をした男がそう言って笑う。だがデニムは素早く剣を抜いて、男へと斬りかかった。
「塔の上から音がずっと聞こえていると思っていました‥‥。『真曲の完成には犠牲が必要だ。『人』の物語の為には』。そう、ミカエルさんに言ったそうですね。その犠牲は‥‥貴女なんですか!?」
「どけ、シュタインバーグ。お前が弾くんだ」
後方へ飛び退った男へ尚も追撃しようとしたデニムの前に、ギスランが出る。エイジはフランカに注意深く近付いたが、女は笑って楽器を投げた。とっさにそれを受け取ったエイジの目の前で、女の体が傾く。
「‥‥待て!」
掴もうとした手は空を切った。駆け寄ったデニムにリュートを渡すと彼は一息吸い、弦に指を当てる。そして、僅かに聞こえてくる歌に合わせて歌い始めた。男は途端、苦悶の表情を浮かべる。その隙にエイジは後方へ回り、壁に嵌めこまれている血色の巨大な宝石へと一気にダガーを突き立てた。跳ね返る事を警戒していたが、あっさり刃は宝石へと入り込んだ。
「やめろ‥‥!」
人の姿からデビルの姿へと変化した男がエイジへと手を伸ばしたが、ギスランに妨げられる。魔法を掛けようと試みているようにも見えたが、それは形にならなかった。二度目の『光陰』が終わる頃には宝石は完全に割れ、中から白い玉が次々と零れ落ち続ける。
『ホーリーを投げろ!』
「だそうよ!」
「私の目では全く見えませんが、当たる事を祈ります!」
苦しみながら窓から落とされたデビルに、聖なる光が直撃した。断末魔の叫び声を上げながらデビルは落ちる間もなく消滅する。だが同時に‥‥塔が揺れ始めた。
「崩れるかもしれません! ファイゼルさん、助けに参りましょう」
リディエールがペガサスに飛び乗り、2人は塔へと向かう。
だが、崩れるのは塔だけではなかった。助けに向かった2人は転がる白い玉を回収するのに必死な3人の手助けをしつつ何とか脱出したが、地面そのものが揺れている事に気付く。
敵は全てその場に倒れ伏していた。その塊を踏まないよう動くだけでも一苦労だったが、皆はデビルロードの崩壊に巻き込まれぬよう、必死で逃げ続ける。息も切れ切れで何とか全員が無事に外に飛び出してしばらくの後、その門はゆっくりと崩れ落ち‥‥異界への扉の役割を終えたのである。
「‥‥お久しぶりです」
金髪の男が、黒髪の女へと微笑みかけた。
「これからもずっと‥‥地獄でも御供致します」