巡会

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月20日〜01月25日

リプレイ公開日:2010年01月30日

●オープニング

 あなたに会いに行こう。その時あなたはどうなっているか解らないけど。
 もう言い尽くしたかもしれない。そうじゃないかもしれない。
 でも、胸を締め付けるもの、心に痞えるものが少しでもあるなら。
 どんな形でも良い。あなたに、会いに行こう。 


 蒼と碧の双眸を揺らし、ユリゼ・ファルアート(ea3502)は窓の外を見つめた。
 空より降り注ぐ白い雪は、まだなにものにも染められず、なにものにも揺るがされる事なく、ただ、静かだ。
 彼女は窓を閉めてからフードをしっかり被った。そのまま扉を開くと、冷たい風に曝される。


 例えば。
 通り過ぎる時に擦れ違うその人にも、会いたいと焦がれる人がいるかもしれない。
 それは家族かもしれないし、友人かもしれないし、恋人かもしれないけれども、その思いに差異は無いのだ。


 望む人に会う事が出来ればいい。
 皆、等しくその機会を与えられれば、きっと‥‥もっと‥‥この世界は幸せであれるのだ。


「‥‥会いに、来たわ」
 そして、彼女は言葉を紡いだ。

●今回の参加者

 ea1662 ウリエル・セグンド(31歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb8664 尾上 彬(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 ありがとう。
 皆、会いたい人と笑顔でいられますように

●ウリエル・セグンド(ea1662)
「‥‥ピクニックに、行かないか?」
 いつもの酒場で床掃除をしていたアンジェルは、来訪者の突然の申し出に目を見開いたが、ややしてから頷いた。
「‥‥花の種を、植えようと思う」
 冬の日の穏やかな午後だった。2日弱掛けて2人はアンジェルの故郷に着いた。そのまま教会跡に向かい、外壁の前にしゃがんで袋から小さな種を取り出した。
「ここに植えるの? もう‥‥誰も居ないのに」
「‥‥嫌、か?」
「嫌じゃないけど‥‥でも、喜んで見てくれる人は‥‥居ないから」
 彼女は驚くほどに死者に対して執着しなかった。
「俺‥‥も、ほんとの家族は‥‥いない」
 外壁の周囲で種をひとつひとつ土の中に植えながら、ウリエルは小さく言葉を紡ぎ始める。ひとつひとつ埋めていく作業が、自分の心の声を整理しながら言葉にしていく作業と似ていたのかもしれない。
「‥‥凄く、家族ってものが‥‥憧れで。だから‥‥恋をした時、種族とか、形振りかまわず、貫いた」
 ふとアンジェルが顔を上げ、その人の横顔を見つめた。
「だから‥‥かな」
 きちんとそちらへ顔を向け、呟く。
 一途に遠くを見る眼差し、状況に負けず前を見る姿。静かだが、胸の内にある芯の強さが大切だと思うようになっていた。こうして同じ時を過ごしたいと思うほどに。
「やりたいように‥‥望むように、と言ったのは‥‥な。どこへでも、会いに行くし‥‥一緒‥‥だから」
 アンジェルは黙って聞いている。その双眸に揺れるような色は見えない。
「考えたんだ‥‥」
 橙分隊に仮入隊しようかとも考えたが、分隊長から言われた言葉。彼女は恐らく見透かしていたのだろう。目にも映らない大勢の人よりも、今、目に映る人を救いたいと思うウリエルの心を。国の為全てを取って死ぬ事は選べない。ならば、何処へでも駆けて行こう。助けを求める人の為に、何処までも駆けれる脚となろう。
 その決断を持って、彼はアンジェルをここに連れて来ていたのだった。
「毎年‥‥一緒に、花を埋めないか?」
 片手を握ると、アンジェルは一瞬瞳をさざなみのように揺らす。だがすぐに微笑った。
「いつか‥‥ここが花畑になるといいね」
「又、人が住めばいいと思う‥‥」
 土のついた手で頭を撫でようとしてその手を離し、ウリエルも微笑う。
「‥‥アンジェルと言う花の、過去と、今と‥‥開いていくその先も。時間が続く限り護ると、誓おう」
「‥‥」
「ありがとう。愛しているよ。深い‥‥親愛で、大事な『家族』」
「ありがとう、ウリエルさん」
 彼女はその告白に、変わらぬ笑みを浮かべた。
「私達の『家族』がみんな‥‥幸せでありますように」

●ケイ・ロードライト(ea2499)
「師匠〜! 会いたかったですぞぉ」
 がしっ。
 師弟は真冬の寒空の下、暑苦しく抱擁していた。その後、再会の乾杯をしつつ互いの近況などを報告し合う。
 シャトーティエリーとドーマン領の黒い霧が最近晴れ、一通りの調査が終わり次第、村に戻るつもりだと言うドミルに良かった良かったと頷きつつ、ふと気付いてケイは姿勢を正した。
「師匠。しばらくぶりに稽古を付けて下さい」
「おぉ! 最近趣味の穴掘りが出来なくて寂しかったのじゃ! 早速掘ろう、掘ろう」
 師弟は穴掘り装備に身を包み、近場の山につるはしを突き刺す。
「‥‥思えば、ノルマンにはとある少女の助命嘆願募金をしに来たのが縁でした。ギルドの依頼を受けるようになり、そのまま居ついてしまったのです」
「ケイはイギリスの騎士じゃったかぁ。馴染んでいるから忘れてたのじゃ」
「こうして師匠と出会い腕を磨くことになるとは思いもよりませんでした‥‥」
 ざっくざっく。順調に掘り進めながら、師弟はやがて懐かしい話に花を咲かせた。
「初めて会ったのはパリじゃったの‥‥。わし、パリで弟子志願者が見つかると思ってなかったのじゃ‥‥。嬉しくてのぅ‥‥」
「は。師匠! こんな所で泣いては土と埃で益々前が見えなくなりますぞっ」
 お〜いお〜いと泣き出した師匠を励まし(?)つつ、ケイはその頃より遥かに逞しくなった腕を土の具合に合わせて振るう。
「師匠。いつか師匠と弟子達で、ドーマン領の地下遺跡の修復なり再利用の仕事、受けれるようになったら良いですな」
「おぉ! あそこは掘り過ぎなのじゃ! もう少し埋め立てねば今に地上が落っこちてしまうのじゃ」
「そ、それは大変な事ですぞ!」
「大変なのじゃ! 領主様には昨日言っておいたのじゃ。領主様の体が良くなれば、きっと言ってくると思うのじゃ。‥‥その時はケイもバリバリ掘るぞ!」
「勿論ですとも! それまで、精進せねば」
 そうして楽しそうに師弟は日が暮れるまで掘り続け‥‥。
「飲むのじゃー!」
「飲みますぞー!」
 更に楽しそうに宴会に突入した。
 翌日、ケイはもう一つお願いが、と申し出る。
「以前から希望しておりましたが‥‥細工物の手解きもお願いできますかな?」
「そう言えばそうじゃった。ちゃんと教える機会がなくて申し訳なかったのじゃ」
「とんでもない。私も今まで色々多忙でしたが、これからはもう少し師匠に付いて学んで行きたいと。そして少しずつ研鑽を積んでいけば‥‥『流石、ドミルについて修行した、騎士で細工師で穴掘り職人』と、呼んで貰えるようになりますかな?」
「勿論なのじゃ! ケイは、わしを越える事間違いなしなのじゃから!」

●ラシュディア・バルトン(ea4107)
「今朝見た夢が、非常に意外なものだったんで‥‥ちょっと占ってもらえないかな」
 パリの路地裏で、ラシュディアは粗末な椅子に腰掛ける。
「‥‥あれ。どっかで会った事」
「ありません」
「‥‥だよな。実は祖母に会ったっていう夢なんだけどさ」
 そして、彼は占い師に向けて語り始めた。
 彼は元々騎士家の出身である。若い頃は女傑で鳴らしたという祖母に育てられたのだが、彼曰く才が欠片も無かった為出来損ないと呼ばれ続けた。剣の才を持って評価するという環境だった為、耐え切れずに故郷を飛び出し名を変え新しい場所で再出発したのだが‥‥。
 その祖母が、先日倒れたと聞いたのである。
 その直後、彼は夢を見た。やけに立派な魔術師用の装備を着、病室を訪れたのだ。その道で成功した事を言外に告げたかったのだろう。剣でなくても身の証は立てられる。見返してやるような気持ちで‥‥。
「でも‥‥いざ会ってみると、凄く小さく感じられて、弱っていて、以前の姿が見る影もなくて‥‥。その姿を見た瞬間、いろんな感情が溢れてきて、何も言えなくなってしまってね。怒鳴り込んでやろうかとも思ってたんだが‥‥」
「えぇ」
「向こうも何かを言いかけて、結局何も言わず。そんな風に、言葉も視線も交わさず、でも立ち去る事もできなくて、ずっと傍に立ち尽くしていた‥‥。多分、どちらかが『お帰り』か、『ただいま』を言わなければいけないんだろうな‥‥」
「‥‥それで、何を占って欲しいのです?」
「え?」
 遠くを見るような目つきだったラシュディアは、きょとんと占い師を見やった。
「いや、だから‥‥何でそんな夢見たのかなって‥‥」
「答えは既に貴方の内にある。そして貴方は言うべき言葉も持っています。過去と決別する事は、過去を引きずる事。受け入れて差し上げなさい。貴方の為にも、その為に捨ててきたもの達の為にも」
「‥‥そう、だな‥‥」
 占い師の持つ小石を眺めながら、ラシュディアは苦笑する。
「やっぱ、俺の望郷の念の表れだったかな‥‥。今更で認めたくなかったけどさ。不本意だが、一度顔でも見に行ってくるよ」
「ご武運を」
「あぁ。ありがとな。お代はここに置いておくよ」

●アニェス・ジュイエ(eb9449)
「‥‥いいの?」
 アニェスの言葉に、ポールは眉を上げた。
「去年の花見の頃から、何も変わってないんじゃない? お節介は承知の上よ。でも、言わなきゃ始まらないし‥‥終わらないんじゃない?」
「お、お前っ‥‥何を知っているっ‥‥!」
「見てれば分かるわよ。もし振られたらきっぱり諦めるか、追い続けるか、それはあんた次第。諦めるなら旧聖堂においでよ。仲間に入れてあげるから」
「待つのは慣れてる」
「格好つけても無駄。‥‥上手く行くと、いいね」
 ポールをけし掛けた後、アニェスは真っ直ぐアンジェルと共に旧聖堂へ向かった。聖堂内で堂々と酒盛りとは良い根性ですねと言われたりしたが気にしない。
「素直になってみたんだけど、フラレちゃった。でも、泣かないわよ。そう決めたから」
 アンジェルは勧められても酒に手を付けなかった。酔うと狂化するものと思っているらしい。
「今はちょっと‥‥どころじゃなく‥‥痛いけど、ここで立ち止まるつもりは全ッ然ないし!」
「‥‥うん」
「ねぇ。次は幸せな恋がしたいなー」
「‥‥うん」
「‥‥あ、でもきちんと言えたから、後悔はせずに済んだ、わよ?」
 多少酔ってテーブルにでれ〜んと頭を置きながら、アニェスは呟いた。
「‥‥ウリエルはイイ男よね。アンジェルは見る目あるからそのうち凄いアタリ掴まえると思う。そん時は教えてね。‥‥あ、そだ。アンジェルの話が聞きたいな。どこが好きだった、とか、前どんな恋してた、とか」
「優しい人が好き。‥‥そっと、咲いてくれるの。そっと、手を伸ばしてくれる。‥‥届かないから、優しく見えるのかも」
 ばんっとアニェスはテーブルを叩く。
「あたし達まだ若いしこっからよ! 芸も女も、まだ伸び代があるんだからっ!」
「‥‥アニェス‥‥飲みすぎ」
「あんたがこの太陽の下に居る限り、何処だって会いに行くんだから〜っ」
 ぐびぐび。
 勢い良く転がる空の器を見ながら、アンジェルは微笑った。
「‥‥私も‥‥何処に居ても、会いに行く、から。ずっと‥‥『家族』で居てね」

●尾上彬(eb8664)
「1日早かったな、すまん」
 開口一番、彬は頭を下げた。
「分かっちゃいたんだが、人目のある所は俺も苦手でな‥‥。で、少し旧聖堂で会う前に二人きりで話したいと思ったんだ。イヴェットもそう得意な方でもないとみたんだが、勘違いだったらすまない」
「‥‥まぁ、構いませんが」
 じろりと睨んだ後に、イヴェットは軽く息を吐いた。それへ何か食べに行くかと誘い、2人は酒場『甘党』へと入る。イヴェットは特に甘党と言うわけではないが、冒険者達に色々教わって甘い物好きにもなったらしい。
「俺は3年前来たばかりの新参だからな‥‥。復興戦争にしろその前の事にしろ話を伝え聞くばかりなんだが、もし気が向くようなら、その頃の事を教えちゃくれないかな? 仮入隊したからって訳じゃないが、この国の事をもっと深く知りたいと思うんだ」
『焼肉蜂蜜掛け』を頂きながら、イヴェットは話を聞いている。
「以前フィルに聞いた事があるんだが‥‥いつのまにかジャパンの話になってたんだよ」
「成程。あの頃の事よりも‥‥恐らくノルマンの民は、その前の時代の事のほうが鮮明に刻まれている事でしょう。深い傷として」
「そうか‥‥」
「私はまだ歳若く、ノルマンの手に取り戻すのだと熱く心に誓っていました。騎士として生きる事を寸分疑わず戦い続けて‥‥ここまで来たと」
 彼女は多くは語らない。彬は店主に網焼き用の網を貰い、その上で餅を焼いていた。
「イヴェットの嫌いなジャパン製だが‥‥」
「食べ物に罪はありません。頂きます」
「ん‥‥。あのな、イヴェット‥‥」
 どう頃合を見計るか悩みつつ、彬は一息ついてからイヴェットを見つめる。
「俺は、この地に生きる人達を守りたいと誓った。だから、俺はお前の為だけには生きないし、お前の為にも死ねない。だが、お前より1日でも長く生きそして、お前がこの世を旅立つその日まで傍にいよう」
「貴方が先に旅立つ可能性のほうが高いわけですが」
「‥‥まぁ、そこは言葉の綾だ、うん」
「ブランシュ騎士団に初のジャパン人が属するかもしれない。その者が我が隊に入隊した際には、存分にノルマン式を教えて差し上げようと思います。今出せる答えは、それだけです」
 女は立ち上がり、店主に礼を言った。それを見ながら彬は苦笑する。
「同じ隊に入れば‥‥確かに、共に生きる事になるけどな‥‥」

●ユリゼ・ファルアート(ea3502)
「フィル‥‥会いに、来たわ」
 深呼吸の後、ユリゼはそっと扉を開けた。何時もの格好のほうが良かったかなと思わず呟いたのは、夜会で着るようなドレス姿だからだ。
「起きてるよ。退屈だから剣でも振ろうかと思ってた」
「病み上がりなんだから無茶しないでよね。‥‥誕生日、お祝いし直そうと思って」
 言いながら、彼女はチーズケーキと茶葉をテーブルに置く。
「初めて会ったのはアデラさんのお茶の口直しにデコチを食べさせたの‥‥。覚えてる?」
「勿論。無理矢理お茶を注がれて死ぬかと思ったよ」
「埴輪だったからでしょ‥‥。それが2年前の聖夜祭の頃。去年が‥‥。どうして貴方の誕生日付近はいつもいつも」
「ごめんね、ユリゼ」
「‥‥そうじゃ、ないの」
 茶葉に湯を注ぎながら、呟くように彼女は告げる。
「答えは、一度だしたけど。状況は変わってきてるし、私はどう変わったかなって思ってた」
 少し前の事を思い出す。
 離れてみないと分からない事がある。この男が相当な格好付けだと知ったのも極最近。
 今まではずっと、旅鴉のように生きるのだと思っていた。でも縛られてもいい。この男の馬鹿に突っ込めないのが寂しくて。離れても良いけど居ないのは嫌で‥‥。
 素直になりたかった。素直になる時間が欲しいと思っていた。行かないで欲しいと強く願っていたのだ。
 傍に、居るから。
「‥‥変わった?」
「少しは。色々鍛えられたし‥‥」
「私はね。もし君が私の立場だったらどうしただろうかと考えていた。‥‥そうしたらやっぱり‥‥俺もギスランと変わらないなと思ってね。良かったよ。君が、無事で居てくれて。傍に居てくれて、有難う」
「‥‥ほら、口開けるっ」
 チーズケーキを切り分け、ユリゼはフォークをフィルマンの口元へ突き刺すかのように突き出した。
「大丈夫。香草茶もチーズケーキもまともなんだから。‥‥あーん」
「‥‥あーん」
「これで、いい?」
「‥‥いいけど‥‥珍しい? 何かいい事でもあった?」
 確信犯的笑みだったが、ユリゼは心の底から開き直る。
「‥‥好きだからに、決まってるでしょ」