にび色の村
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:12月14日〜12月21日
リプレイ公開日:2006年12月22日
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●オープニング
その日、1人のシフールが冒険者ギルドを訪れた。
彼は一通り壁の依頼書を見て回ると、そのままカウンターまで行って受付員に一枚の手紙を差し出し、名を名乗った。
「すみません。この依頼、お願いできますか?」
とある領地を我が物顔で荒らし回る、山賊の一団があった。山をまるごと根城に、街道を通る商隊や人々を襲い、金品商品は勿論の事、人間まで連れて行ってしまう山賊達に領主は困り果てていた。そして遂に、自らが持つ兵の中でも最強の者達を集め、討伐へと向かわせたのである。
ところが。山賊達は彼ら兵士が敷いた陣の付近に罠を張り巡らし、それらの発見や解除が苦手な彼らをじわじわと追い詰める作戦を取ったのである。見事その作戦は大当たりし、兵士達はまともに戦う事さえ出来ず、食糧なども底を尽こうとしていた。
領主達が住む村側は、山賊達が厳しく見張りを立て罠の数も多い。そこで伝令係のシフールは、遠く離れたパリまで飛んで応援を頼む事にした。パリには冒険者ギルドがある。そこに助けを求める為に。
そうして冒険者達が、兵士を助ける為に出向く事となった。物資を運び、兵士と共に山賊の一団を殲滅した彼らに領主は感謝の意を伝え、山賊達が集めた財宝は大した物は無いだろうが、どれでも好きな物を持って行くと良いと告げた。
こうして全ては解決し、かの領地内は平穏さを取り戻したかのように思えた。
しかし。
「それから僕達は、彼らの拠点内を隈なく探し回りました。でも、いなかったんです」
がたごと揺れる馬車の中。依頼を出したシフールは、依頼を出すまでの経緯を話していた。
「山賊達は、たくさん、とまでは行きませんが、十数人は確実に拠点へ連れて行っていたはずなんです。奪った金品と一緒に。襲撃したその場で殺さず連れて行ったということは、利用するつもりだったのか、仲間にするつもりだったのか。どちらにせよ、生き残りがいるはずなんです。でも、山賊の中にそれらしい人はいませんでしたし、死体もありませんでした。‥‥隠すようにして埋めてしまったなら、分からないですけれど」
「つまり、その人間を探せと?」
1人が問い、シフールは曖昧に頷く。
「それもあります」
冒険者達が帰った後、兵士達は山賊の拠点内、見張り台などありとあらゆる建造物を隅々まで探し回った。山賊が奪った金品と、一緒に攫われた人々を見つけるために。だが金品はあったものの、それらしい人々は結局見つからなかったのだ。
「ですが、先日‥‥。これは、先ほどギルド内でお話しましたね。もう一度お話すると‥‥」
それは数日前の事。
領主に呼び出されたシフールは、非常に難しい表情で座っている彼のもとへとやって来て、跪いていた。
「リン。パリの冒険者ギルドへ行ってくれないか。もう一度、彼らの力を借りたい」
「何かあったのですか?」
「つい先ほどな」
悩みに悩んだ顔つきで、彼は小さく嘆息する。
「村がひとつ、消え去ったのだ」
「は?」
「村人が全員消えた。使いの者の報告だ。つい10日前は、確かに何事も無く生活していたはずなのだが、とな」
そこは小さな村だった。セーヌ川周辺での水難も預言の話も、この領地までは聞こえて来ない。無論、災難があった事は領主達は知っているものの、平凡に過ごしている人々には関わりの無い話だ。川が近くて皆が事故に遭ったとか、そういう話でもない。
いつ消えたのかは分からないが、この10日の間に全員が姿を消すというのは尋常では無いだろう。しかも、誰にも何も連絡は無く。
「では、村人を、冒険者の方々に探してもらう、ということですか?」
「1ヶ月前、お前から報告を受けた山賊の幹部、『ジャッシュ』の事だが」
不意に、領主は話を変えた。リンが変な顔をした事も無視して、彼は話を続ける。
「山賊の幹部の中で、ただ1人取り逃がしたというその名前に覚えがあって、長い間考えていたのだが‥‥。ふと、思い出したのだよ。数年前になるか。イギリスからジャックという名前の神官がやって来て、1年ほど滞在した。だが奴はジーザス教黒の神官であり、当然この村に黒派の教義を広める教会は無い。その上、奴はかなり極端‥‥というか、少々手に負えない性格で、人々を傷つける事も教義だと言って憚らん。対立が激しくなったので追放したのだが‥‥」
冒険者の1人が、『ジャッシュ』が十字の飾りのついた短剣を持っているのを見たと告げた事から、ジャックかもしれないと考えたのだと領主は言い。
「奴は村を出て行く時、我々を呪うような言葉を吐いて行った。もしもそれを実行しているのだとすれば、山賊を陰で取りまとめていたことも納得出来る。そしてそれが失敗したからと言って、簡単に逃げ出すとも思えん。奴が、村ひとつをどうにかしたのではないか‥‥。杞憂ならば良いのだが」
馬車は速度を増し、激しく揺れていた。
「その後、その村に行って戻らなくなったと他の村から連絡があったりもしました。もしもそのジャッシュが山賊達の拠点から人々を連れ去り、更にその村に関与しているのだとしたら。何か不吉な事を企んでいるんじゃないかという気がしてなりません。だから、何としてでも村に手掛かりが無いか調査して、人々がどこかに囚われているなら助けたい。‥‥先の見えない、本当に解決出来るのかも分からない話ですけれど、皆さんならきっと。‥‥心強く思ってます、皆さんの事。よろしくお願いしますね」
リンはそう言って、皆へと笑顔を見せた。
そうして馬車は、誰も居ない村へと向かう道を進んで行く。灰色に覆われた空の下で。
●リプレイ本文
「最初は、ただの‥‥自意識過剰って言うのか? 魔法使えるだけで、使えねぇ奴だなって思ってたんだ。でも、金持ちの女を攫って来てから、あいつは変わったんだ‥‥」
●到着
辺りは昼間だと言うのに、どんよりとした雲に覆われて薄暗い。パリで数日分の天気を予測したレアの言うとおりだ。
「不気味‥‥ですね」
アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)が辺りを見回し、表情を引き締めた。
「廃墟でも、もう少しマシじゃねぇか?」
セイル・ファースト(eb8642)も、馬車からバックパックを下ろしながら感想を述べる。
「しっかし、リンが俺らのトコに来る時ってのぁ、いっつもヘヴィーな依頼ばっかだな。たまにはキレーなネーチャン達と酒飲むような、景気のいいのを頼むぜ」
「そんな事言ってたら、葉巻あげませんよっ」
陰気な空気を払いのけるように冗談を言ったスラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)だったが、リンに突っ込まれて慌てて冗談である事を強調した。どちらにしても領主の手元にある葉巻は少ないので、少ししか持って来られなかったそうだが。
「今度こそ、乗りかかった船から降りれるようにせんとな」
何だかんだとスラッシュと共にリンの頼みを聞き続けてきたパネブ・センネフェル(ea8063)も呟く。その後ろでライラ・マグニフィセント(eb9243)が、馬車を中心にキャンプを設営し始めたユーフィールド・ナルファーン(eb7368)を見やった。
「よろしく頼むのさね」
村人の全てが消えた村とは言え、皆が荷物を馬車に置いたまま出かけてしまっては不安が残る。その為ユーフィールドが、主にそれらの見張りと情報伝達係を引き受けたのだった。
そして馬車の中で荷物を整理しているリンの隣で、アリスティド・メシアン(eb3084)は笛を出してきていた。村人等の捜索の為、彼らは二手に分かれる事にしたのである。その時の連絡用に用意したものなのだが。
見ていたリンがふと言葉をかけた。
「そのローブ。山賊がため込んでた物の中の1つですよね」
「あぁ、他に欲しい物が無かったからね。でも、悪くはないかな」
「それ、名前が刺繍してあるの知ってました? とても綺麗な服だから気になって、最初に見たんです」
目立たない所に小さく刺繍されていたらしいその名前は、エリザベート。女性の名だ。
「作成した人の名か」
女性が着るには少々大きめのローブの袖を上げながら、アリスティドは呟いた。
●探索
パネブ、アーシャ、セイルは村の周辺を。スラッシュ、ライラ、アリスティドは村の中の探索を始めた。
「何か見えるか?」
視力の良いアーシャとセイルだが、小高い山の上から見えるのは鬱蒼と茂る森ばかりだ。
「パネブさんがいれば‥‥」
パネブは単独行動である。レンジャーである彼は、1人のほうが何かと良いのだろう。
「あれ、借りてくれば良かったよな」
セイルは、パリを出る前に双樹に書いてもらったジャッシュの似顔絵を出しながらぼやいた。レミアが持っていたダウジングペンデュラムで、『村に15日前まで住んでいた人間』を指定した結果は、広範囲の地図だった為に大まかにしか分からなかったのである。
「でも、村の中じゃなかったですよ、指してたのは。多分、この山か向こうの森です」
同じ頃。
村から少し離れた場所に墓地を発見した村探索組は、そこを調べていた。
「あたしには分からんが、何か変わった所は無いかい?」
見て回って荒らされた気配が無いことを確認しつつ、ライラが問う。
だがスラッシュとアリスティドの目から見ても、変わった様子は見受けられない。そして村内へと戻り井戸を確認。だがやはり最近使われたような形跡も無かった。
そこで一軒一軒、家の中を確認して行く事にする。出来る限り物音を立てずに入り、中に人が居ないか、争った様子は無いかなどを確かめるのだが。
「ねぇな‥‥」
やはりそれらしい形跡はない。村は最近雨が降ったらしく地面にも足跡ひとつ残されていないし、家の中は整然としている。こうまで乱れた様子が無いのは逆に不気味とも言えるが。
「教会も無い。村長の家らしき中も、特におかしな所はない、か」
「もうすぐ日が暮れちまうね」
仕方なく引き上げると、1人夜営の準備を着々としていたユーフィールドが出迎えた。焚き火の上で鍋を温めていた彼が、近くの森の中に細い小川があった事を告げる。
「小さな魚も泳いでいましたし、毒が流れている気配はありませんでした」
「だったら、井戸を使わなくても水の補給は出来るのさね」
「それにしても」
山を下りてきた2人の話も聞いて、ユーフィールドは静かに呟く。
「一体、どこに行ってしまったのでしょう。村ひとつが空になるならば、何らかの痕跡が残されているはずだと思っていたのですが」
皆も思いは同じだ。
そして夕食も食べ、夜の見張りの準備に取り掛かった時、遠くから馬の走ってくる音が聞こえた。
「少し遅くなりましたね。今、戻りました」
パール・エスタナトレーヒ(eb5314)を皆で出迎えると、彼女は領主から貰ってきた地図を地面に置いた。彼女は村に来る途中、単独馬で領主の館へ行っていたのである。
「話、聞いてきましたよ。‥‥行って良かったです。山賊頭領からも話を聞けましたから」
そう言って、パールは領主宅での事を話し始めた。
●目的
詳細では無いものの村周辺の地図を借りたパールは、以前捕らえた山賊の頭領が居る檻の前に来ていた。
様々な事を領主に尋ねたパールだったが、概ね返事は貰っている。裏の山に湧き水が出る場所がある事。村人の数、村長の名前や人相。ジャックが追放されたのは、村人に鞭打ったり攻撃的、非協力的だったりした為で、魔法による攻撃があったわけではない事。山賊に攫われたまま行方不明になっている人は、報告を受けた限りでは12名で若い者が多いという事。そして。
「リンをパリへ行かせた後、山賊共から興味深い話を聞けた。君も尋ねたい事があるなら聞いてみるといい」
領主に許可を貰い、檻の前から話しかけたのだが、山賊の頭領は嘘のように協力的な態度だった。
ジャッシュが山賊達の間で頭角を伸ばしたのは、商隊に居た、とある娘を攫って来てからの事だった。変貌してからの彼は、日を追うごとに狂気じみて行き、攫った人々を。
「洞窟、ですか」
今回の目的の村と、近くにある洞窟に連れて行ったらしい。ジャッシュは変貌した後、数々の作戦を立てて貢献したが、彼は財宝よりも人が欲しいと望み、攫った人間の扱いは全て彼にまかせていたのだと言う。
「‥‥娘?」
ふと気にかかったアリスティドが自分のローブを見つめる。そしてパールが出した攫われた人を書いた紙の中に、聞いた名前を見つけ。
「じゃ、その娘に惚れておかしな事始めた、とかそんな話か?」
尋ねたセイルに、パールは首を振った。
「その娘さんは亡くなっていると言っていました。彼女が大事にし過ぎるあまり激しく抵抗したので、殺してしまったと」
「そりゃ女は自分のていそ」
「違いますよ。高そうな、金の指輪をしていたそうなんです。それをジャッシュが欲しがって、殺してしまったと」
黙りこんだスラッシュの代わりに、ユーフィールドが口を開く。
「では、人を殺した事で変貌してしまったという事でしょうか」
「村に攫った人を連れて来たってことは、ここの村の人も仲間だったのかしら」
「山賊ではなかったみたいですけど、ジャッシュがこの村を指定したみたいです」
もしも村人が協力していたのならば、痕跡も無く村から消えた事は納得出来る。だが、その後村を訪れた者も行方が知れないならば。
とりあえず探索は明日ということになって、一同は見張りを立てつつ眠りについた。
●襲撃
翌日。同じ班分けで彼らは探索を再開した。
村の中では家を細かく探す作業が行われ、スラッシュは単独で、アリスティドとライラは2人で行動する。
「お決まりだけど、日記さね」
ライラはぼろぼろの羊皮紙に書き綴られた日記を見つけた。ジャッシュが村に来た2年前、庶民に財を分け与えない領主の代わりに、自分が村を少しでも楽な生活が出来るようにしようと告げた所から始まっている。
「『大いなる父の為、新しい世界をここに築こう』か‥‥」
「なんかやな感じだねぇ」
ざっと目を通し、ふと顔を上げたライラは一瞬固まった。
「なんっ‥で、昼間っからっ‥‥!」
ライラの声に目を上げたアリスティドの視界にも、玄関のほうからやって来る明らかにおかしな動きの人型のものが。だが家の中で戦うのは少々つらい。とっさにアリスティドは笛を鳴らし、そのままライラが窓を開けて2人は外へと飛び降り。そして愕然とした。
村の中央に、明らかに様子がおかしい人型の物が5体。ふらふらと歩いている。
「ご無事ですか?!」
笛の音に気付いて駆け寄ってきたユーフィールドに頷き返す。だが隣の家に居たはずのスラッシュが来ない。急いでそちらに向かうと、丁度一体のズゥンビを倒した男の姿が見えた。
「こいつはズゥンビじゃねぇな」
さらりと言って、彼は山の方角を見つめる。
「弱すぎる。クリエイトアンデッドか」
見ただけではズゥンビとクリエイトアンデッドで作られたアンデッドの区別はつかない。だが。
「もしかして、周辺探索組も襲われているかもしれません」
「合流しよう」
まだふらふらしているアンデッドから目を逸らすと、先ほどライラ達に向かってきていたものが、再びこちらに迫って来ているのが見えた。
「あれは‥‥ズゥンビかね」
やれやれと武器を構え、ライラがぼやいた。
それよりも後の事。パネブは、山の裾に木の枝で隠されている洞窟の入り口を発見していた。
「小さいな」
呟き、離れた所にいる仲間達を呼びに行く。
「裏口でしょうか」
小声で言いながらアーシャが覗き込み、ぴったりくっついていたパールも同じように目を凝らした。
離れた所には人間が2人並んで入れる広さの入り口があったが、ひとまず辺りを探索し、ここを見つけたというわけなのだが。
「俺はぎりぎりだなぁ」
大柄なセイルがぼやいた所で、パネブが静かにして隠れるよう合図した。
素早く皆が木の間に隠れると、表の洞窟のほうから人が数人出て来て辺りをうかがった。そして再び洞窟の中へ戻って行く。
「戦闘になりそうですね」
柄に手をかけたアーシャだったが、それをパールが制した。
「ボクは、裏口から突入しようと思います。危険ですけど、人工的に隠してるなんておかしいですし」
「俺も行こう」
パネブも言い、村組と合流を促す為にリンが村のほうへと飛んで行く。だがすぐに村組のメンバーと戻って来た。
彼らは簡単に森の中で現状を話し、裏口と表とに分かれて突入する事となった。
●突入
「くたばれ!」
笑うように叫びながら、アーシャが剣を奮う。その横で、セイルがスマッシュを放った。前方ではスラッシュとライラが迫り来るズゥンビを倒し、後方では、アリスティドを守るようにユーフィールドが辺りに気を配っていた。それぞれ深い傷はないものの、無傷で通れはしない。
だが。
「さっきの奴らだ」
ズゥンビを全て倒し少し行った先で、3人の男が倒れていた。爪で深く刻まれた痕がある。そして更にその先に、頑丈な鉄の扉が見えた。
「閉じ込めておいたズゥンビを開放した時、真っ先に襲われてしまったというわけか」
「服装から見ると、村人かもしれませんが‥‥」
「そう言えば村でうろうろしてたアンデッド。あいつらも」
一瞬沈黙が降りる。だがすぐに彼らは動き出した。元凶を止めなければ、益々被害は広がるばかりだ。
奥まで進み梯子を降りて扉の先で服を着た骨を発見し、その先でうずくまっていた男から娘の救出を頼まれた一行は、再び梯子を上った。
そして。
そこは祭壇になっていた。だが血塗られた祭壇だ。辺りに何かが転がっているのが見えるが、最早怒りは頂点に達そうとしている。
「てめぇ! そこをどきやがれ!」
セイルが叫ばなければ、誰かが飛び出していただろう。だがその声に、祭壇の上に寝かされている娘の前に立っていた男が、ゆっくりと振り返った。
「何だ‥‥貴様らは」
多勢に無勢は明らかだが、男は全く動じない。
「ジャッシュ、だな」
アリスティドの言葉に、男は薄ら笑いを浮かべて手に持っていた斧を軽く振り上げた。そして。
一瞬の出来事だった。男が斧を娘へと振り下ろした所へスラッシュとアーシャが駆け寄る。だが男が振り下ろすほうが早いと思われた時、その腕にナイフが刺さった。そこへ2人の斬撃が襲い掛かり、男は膝をつく。
「殺せ‥‥殺せ‥‥」
更にそれへ剣を奮おうとしたアーシャを、セイルが後ろから抱えて止めた。だがうわ言のように彼女は呟き。
「魔法が来ます!」
あさっての方向からパールの声が飛んできて、皆は血まみれの男が何かを呟いているのに気付いた。だが魔法が発動する前に、男は不意に倒れる。
「‥‥かかったか」
高速詠唱でいちかばちかスリープを唱えたアリスティドが、ほっとしたように手を下ろした。そこへパールとパネブもやって来て、寝ている男を見下ろす。
「‥‥どうしますか」
ユーフィールドが皆に問うた。生かして捕らえるのが目的ではあるが、ここまでの惨状を引き起こした事を赦すわけにはいかないし、生かしておけば‥‥繰り返すだろう、この男は。
「じゃあ、念の為に本人かどうか、ムーンアローで確認してみよう」
まだぶつぶつ言っているアーシャを抑えたままのセイルは動けないが、彼らは決断した。
「‥‥悪いな」
パネブが呟き、そして皆は。
●禍根
裏から入ったパネブとパールは、囚われた人々を既に見つけていた。
彼らの多くは村人達であり、残念ながら攫われた人々はほとんど殺されてしまっていたらしい。村人達は、どんどんおかしくなって行った男に恐怖し、逆らえなくなっていたのだと言ったが、彼らにどのような裁きを下すかは領主が決める事だろう。
「‥‥これか」
村人と共に何体かを埋葬しながら、ジャッシュの亡骸が身につけていた金の指輪に目を落とし、パネブが触れようとした。だがそれへ、スラッシュが鋭く言葉を投げる。
「やめとけ。そいつは‥‥見覚えがある。同じモンなら、埋めとくのが一番だろ」
「その指輪が原因だって言うのかい?」
「さぁな。けど、触らぬ神になんとやら、だ」
葉巻の煙を揺らめかせながら、スラッシュはその場を離れた。他の皆もそれぞれに、村人をポーションで癒したり、ワインを振舞ったりしている中で。
すっかり元に戻ったアーシャを見ながらパネブは再度、ジャッシュの死体を見下ろした。
「まさかな‥‥」
ジャッシュと対面した時に聞こえた声。まるで自分だけに囁くかのように、誘うかのように‥‥。
『指輪を奪え』と。