聖夜に贈る白き花

■ショートシナリオ&プロモート


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月22日〜12月25日

リプレイ公開日:2006年12月27日

●オープニング

 聖夜祭が日に日に近付く夕暮れ時。
 1人の娘が手に籠を持って、一軒の家に入って行った。
「おばあ様、今年はツリーを用意するの?」
 籠の中から様々な色の蝋燭や蝋細工を取り出して1つずつテーブルへと並べながら、娘はベッドに寝ている老婦人へと振り返る。
「しませんよ。‥‥わたくしが自由に使えるお金も後少し。ツリーは高いですからね」
「じゃあ、この飾りは?」
 最後に籠の底から星型のメダルを出して、娘は小首を傾げた。
「勿論、飾ってもらうのですよ、行った先で。‥‥それにしても、今年も良い出来だこと。その、寄り添う2人の細工が素晴らしいわね」
 穏やかな笑みを浮かべながら娘が手渡した蝋細工を受け取り、そっと撫でる。
「それはバージルが、おばあ様とエルネストさんに、って」
「あらあら。わたくしには、マリーとバージルさんのように見えますよ」
「バージルとはそんな仲じゃありませんってば!」
 心なしか赤くなった孫娘に変わらぬ微笑を向け、老婦人は蝋細工をもう一度見つめた。
「‥‥今日はわたくしも体の調子は良いけれども、明日は、来年はどうか分かりませんよ」
「『だから、わたくしの元気なうちに、花嫁姿を』でしょ」
 娘は不服そうに言ってから、老婦人の背中に手を当ててゆっくりとベッドへ寝かせる。
「じゃあ、ギルドへ行ってくるから。ちゃんと寝ていてね」
 傍にある瓶の中に咲く花を一輪手にとり、娘は部屋を出た。5枚の花びらを持つ赤い花は恥ずかしそうに下を向いてしまっているが、これはそういう花なのだ。
 そして彼女は、いつまでも咲き続けるその花を持って、ギルドへと向かった。

「お願いしたいのは、身寄りを無くした子供達を育てる家や場所に行って、いろいろな御伽噺をしたり歌を歌ったり、踊ったりツリーの飾りつけをしたり、一緒にご飯を食べたり、そういうことも、なのですけれど」
「毎年行っている慈善会の活動ですね」
「今年は新しく、パリ郊外に『家』がひとつ出来たそうなんです。そこは冒険者さんを育成する事を目標としていると聞いたので、そちらには冒険者さんに行っていただきたいなと」
「なるほど」
 早速羊皮紙に書き始めようとした受付員を慌てて止めて、娘は首を振った。
「それよりも先に、お願いしたいことが」
「何でしょう?」
「実は、慈善会のメンバーがいろいろと‥‥。この前のセーヌ川付近での事で応援に行っていたり、今年は田舎に帰るわとか、子供が出来て‥‥とか。準備出来る人間が少なくなってしまったんです。一日なら空けられるけどとか。だからまず、演目から考えないと‥‥」
「演目?」
 慈善活動と演目との繋がりが分からず聞き返した受付員に、娘は苦笑を返す。
「子供達は、御伽噺が大好きです。だから、その内容を演じるんですよ。大道芸みたいなものです。勿論、詩人さん達のようにうまくは出来ないですが、それでいいんです」
「ははぁ」
「詩人さん達は聖夜祭は大忙しですからね。彼らに頼むのも悪いですし、それでは慈善会の活動にはなりませんし。‥‥この前、冒険者の方には祖母達の為にいろいろ作っていただきましたし、冒険者の方々はあちこち冒険に行かれていろいろ知っておられるでしょうし、だから、きっと演目を考えて演じることも出来ると思うんです!」
「はぁ」
「えっと、後お願いしたいのはそれだけじゃなくて、私の祖母も大道芸とか演目を見るのが大好きですから、降誕祭の日に、祖母にぜひお披露目していただきたいなとか、我が家で小さなパーティを開きますのでご一緒していただきたいなとか、後、後日に子供達にいろいろ持って行ってもらう時のために、ツリーの飾りを作ったり、パンケーキを作ったりしていただきたいなとか、えっと‥‥いろいろです」
「‥‥つまり、盛りだくさんなわけですね」
「そうです」
 しばらく沈黙が続いたが、ややしてから受付員は羊皮紙にペンを走らせた。それを娘はじっと見守っていたが、ふと手に持っていた造花をカウンターへと置く。受付員もそれに気付いて目を留めた。
「これは‥‥何の花です?」
「『聖夜の雪』。私たちにとって、大切な花です。これも依頼書と一緒に張っておいてください」
 娘は去り、受付員は赤色の造花をしげしげと見つめる。
「雪、ねぇ‥‥」
 これが雪だとしたら血生臭い話だと呟き、彼は羊皮紙に続きの文章を書き始めた。

●今回の参加者

 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ミフティア・カレンズ(ea0214)/ バデル・ザラーム(ea9933

●リプレイ本文

『白い白い雪が降る。
 ひとり、真っ白な世界にたたずむ王女を包む
 冷たく悲しい雪が降る』

「あの‥‥。こんな感じでいいでしょうか‥‥」
 その日、シェアト・レフロージュ(ea3869)は皆に羊皮紙を手渡した。ひょいと横から覗き込んだガブリエル・プリメーラ(ea1671)がそれをざっと読んで。
「いいんじゃない? 最後の歌はこんなのはどうかしら」
 別の紙にさらさらと書き始めた。
「子供達の為の演劇ですよね。敵が出たほうが盛り上がるとは思いますけど、僕達は4人しかいないですし、何人用とか作ったほうがいいかもしれないですね」
 人前があまり得意ではないガイアス・タンベル(ea7780)だが、人数が少ないので裏方は出来そうにない。ましてや今回のお話は。
「少女‥‥少年‥‥女王‥‥恋人‥‥で4人さね。敵を出したら1人が何人か受け持つ必要があるのさね」
 あたしは敵しか出来ないだろうがと付け加えて、ライラ・マグニフィセント(eb9243)は木の板を手に取った。
 今回の依頼は、子供達に見せる劇とツリーの飾りとパンケーキの作成である。3日と短い期間でどこまでやれるかが腕の見せ所となるのだ。その為、バードであるシェアトとガブリエルが主に劇作成、ガイアスとライラが劇の小道具やツリーの飾り作成をする事となった。勿論、パンケーキは全員で作る。
「じゃあ、衣装を探してみるわね。古着屋さんに行って見てくるわ」
「少しなら服も作れるから、着れなそうな物でも買ってくるといいのさね」
 早速出かけようとするガブリエルにライラが声をかけ、彼女は頷いて家を出て行った。
「ツリーの飾りは、蝶々結びのリボンを沢山作って、木の実に縫い付けて飾りにするのってどうかな? リボンだけもいいよね♪」
 シェアトの後ろからだきゅとしながら、お手伝いのミフティアも考えを述べる。
「道具や飾りは作れますけれど、演技や演出は教えてくださいね」
 既にツリーの飾りを作り始めながら、まだ何かを書き足しているシェアトに声をかけ、振り返る彼女にガイアスは笑顔を向けた。それへと同じ笑みを返しながら、彼女は思い悩む。
 どうしても、思いつかない場面があるのだ。
「この、女王なんですけど‥‥。良かったら、王女にしてもらえませんか? 同じ子供であるほうが、子供達も感情移入しやすいと思うので」
 羊皮紙を読んでいたマリーがそれへと声をかけた。
「はい‥‥。分かりました」
 それにも笑顔で応じながら、彼女はまだ悩んでいる。
 それは、今の自分に迷いがあるが故に。

 初日は台本作りと劇の道具と衣装、そしてツリーの飾り作りに追われた。パンケーキを作り始めた時にはすっかり夜も更けていて、皆は中に入れる物やソースを作ったり、形を考えたりした。
「あ、可愛い。これライラさんが作ったの?」
 木や布で作られた小さなおもちゃのような飾りを手に取りながらカブリエルが尋ねる。
「こう見えても、家事はそれなりに出来るのさね」
「ふぅ〜ん‥‥。あら、このスターは?」
「それはマリー殿が持って来たのさね」
 言いながらも手を動かし続けるライラを感心したように見ながら、ふとガブリエルは瓶に入れて飾ってある造花に目をやった。
「‥‥これの事よね。『聖夜の雪』って」
 今回の劇の題目ともなった花の名前だ。赤色の造花は、恥ずかしそうに下を向いている。
「なんでこれが『雪』なの? 赤いけど」
 首を傾げた彼女に、シェアトが説明をした。その花は白色が一般的で赤い花は珍しいという事。この家の主、アンヌの恋人であるエルネストが毎年彼女に贈る花であった事。しかし今年は取って来れず、冒険者達が彼女達の為に永遠に咲き続ける造花を贈った事。
「だから、劇の名前が『聖夜の雪』なのね」
 内容を知っているガブリエルの言葉に、シェアトは静かに微笑んだ。

 翌日はパンケーキ作りと劇の練習である。
「上手くないかもですけれど」
 そう言って歌の練習から始めたガイアスは、本人が言うよりはずっとさまになっていた。彼の役は、主人公である少女の友達の少年と敵の狼。その為に、わざわざ『まるごとオオカミさん』を持ってきている。実際にこの劇を各地で演じる人々は、そんな衣装を持っていない。だが彼らは出来る限りの準備を進めて行った。
「雪が降ってきましたね」
「劇にはふさわしいよな」
 そして静かに降り始めた雪を見ながら、ライラと言葉を交わす。演技も教わった。歌も練習した。後は明日の、老婦人に見せるために演じる本番のみだ。
「周りを見て‥‥手を伸ばして」
 最後の場面の歌を何度も歌いながら、ガイアスは家の外にある木を見やる。何の飾りも無い1本の木。
 しばらくそれを見つめてから、彼は外へと向かった。

『序幕。
 北の村に、仲の良い少年と少女がいました。
 ある寒い冬の日。雪の王女がやって来て、少年の心の半分を取って行ってしまいます。
 少女は少年を助けたくて、1人王女が住まう宮殿にやってきました』

 降誕祭の日の夜。
 皆とマリーで作った料理を食べ、アンヌの恋人エルネストも加わったその部屋で、静かに彼らだけの為の劇が幕を開けようとしていた。
「優しいお話になりそうですね」
 ベッドで身を起こし、アンヌは微笑む。それへと皆はお辞儀して、劇は始まった。

 第2幕。
「あの子の心を返して!」
 ガブリエル演じる少女が、心を取られて無表情になってしまったガイアス演じる少年を村に置いて、1人王女が居る宮殿へとやってきた。少女らしい愛らしい衣装を身に纏い、対するシェアト演じる王女は、凍えるような青白い衣装だ。
「壊れる前に 愛しさも悲しさも凍らせてしまえ‥‥冷たい永遠に閉じ込めて‥‥」
 澄んだ声で、だがどこか冷たい響きを伴って、王女は歌う。
「あの人はいるけど動かない。‥‥このお人形を動かす為にいるの。この子の心」
 光る何かを持って、王女は段の上から少女を見つめた。その後方に、雪だるまのようなものが居る。王女が人間の恋人を模して作った人形なのだ。王女は、この人形に心を入れて恋人の代わりにする為に、少年の心を奪ってこの宮殿に閉じこもっている。人間の恋人のほうは、永遠に傍に居たいと、先に死なれるのが怖いと凍らせてしまった。
 動かぬ恋人が傍に居ても、寂しさは募るばかりだというのに。
「私にとって、あの子はとても大切な人なの! お願い、返して」
 静寂。王女は無に近い表情で、正面へと指を向けた。
「赤い、『聖夜の雪』を取って来たら‥‥その時は、返してあげる」
「赤い‥‥聖夜の雪?」
 そんなものを見たことが無い少女は戸惑い、しかし。
「分かったわ。必ず、見つけるから!」
 少女は宮殿を後にする。自分の心まで凍らせたいと望む、王女を残して。

「シェアトさん、どうかしましたか?」
 少年の役も終わり、まるごとオオカミに着替えているガイアスが声をかけた。
「いえ‥‥。まだ最後に何を言うか、王女の台詞が思いつかなくて‥‥」
 両手を胸の前で組む彼女に、ふとエルフが近付く。そして、見上げた彼女に小さな袋を手渡した。
「落ち着かない時は、これを。常に持っているといいかもしれないな」
 渡されたそれは、淡い香りを漂わせている香り袋。心をどこか落ち着かせてくれる、そんな匂い。
 
 第3幕。
「なんだい、お前は。森を荒らしに来たのかい」
 赤い花を探して森まで入り込んだ少女の前に、ライラ演じる荒々しい姿の女戦士が現れた。
「違うの。お花を」
「森を侵す者は、許してはおけないよ」
「そうだ、そうだ」
 少女を挟むようにして、後ろから2役ガイアスの狼が現れる。
「さぁ、覚悟しな!」
 怖そうな扮装と化粧をした女戦士が、少女に飛びかかった。
「きゃあっ」
 悲鳴を上げながら、何とかそれをかわす。そこへ狼が「がおー」と言いながら跳ぼうとして止めて、腕を振った。しかし上背の差なのか届かない。
「えぇい、すばしっこい奴だね!」
 舌打ちして、女戦士は逃げる少女をぐるぐる追いかけ。少女は追い詰められて、女戦士と狼に向き直った。
「お願い! 赤い聖夜の雪を探しに来たの。ここを通して!」
「だめだね。お前はここで終わりだ!」
「ここでっ‥‥止まるわけには行かないのよ! 私はもっと。もっともっと、あの子と一緒に笑っていたいの!」
 笑う事を失ってしまった少年。もう一度、一緒に笑いたいから。
「だからお願い。通して」
 少女の言葉に、先に狼が踵を返した。そのまま2本足で去って行き、女戦士も少女へと頷く。
「その気持ちを忘れない事だ。強い気持ちが無ければ、何も救う事は出来ないのだからな」
 そして女戦士は、少女に道を指し示した。少女がその先を目で追っているうちに、女戦士も姿を消した。
「ありがとう‥‥。森を守る人」
 礼を言い、少女は奥へと進んだ。

『第4幕
 そして少女は花を見つけました。
 でもそれは、雪のように白い花。
 やっとの思いで見つけた花なのに、これでは少年の心を取り戻す事が出来ません。
 その場に座り込んだ少女は、悲しみのあまり泣き出してしまいました。
 涙がこぼれ、露のように花に降りかかります。
 すると』

「花が‥‥」
 白い花が赤く染まり、少女はそれを手に取った。
「『赤い聖夜の花』」
 呟いて、少女は宮殿へと向かう。森も川も山も越えて、今も凍える宮殿に着いた。
「持って来たわ」
 王女に見せ、そっと渡す。王女は不思議そうにそれを見つめた。
「ねぇ。代用品で済ませようとしちゃ駄目よ。その人じゃないと、眠ってる恋人じゃないと。意味がないんでしょ?」
 旅をする間に少し強くなった少女が、真っ向から王女を見て話す。その王女の後ろから雪だるまのようなものが飛んできて、彼女の背中に当たった。王女は振り返り、赤い花をそっとそれの上に置き。
「そうね‥‥この子じゃ駄目」
 光る玉を取り出した王女は、それを少女の両手へと乗せた。
 そして、いつの間にかやって来ていた少年が隣までゆっくり歩いて来る。振り返った彼女の前で、表情を失ったままの少年は赤い花を見つめた。
「僕は、心を取り戻したい。彼女と一緒にいたい」
 そのまま少年も涙を零す。少女は少年へと向き直り、その玉を少年に手渡した。すると見る見るうちに生気が宿り、少年は明るい笑みを見せた。
 王女も微笑み、女戦士もやって来て皆は輪になって手を繋ぐ。
 そして。

「素敵なお話でしたよ」
 微笑みながら、老婦人が彼らをねぎらった。
「こんなに上手に出来るかしら。ねぇマリー」
「バードさんがお2人いるのだから、上手なのは当たり前でしょ、おばあ様」
 言い合う2人に、ガイアスが窓を指差す。察したライラが、アンヌに毛布をかけてから窓を開いた。
「あら、いつの間に?」
 ガブリエルが思わず尋ねる。そこには、綺麗に飾られ星までついた木が、月光に照らされてきらきら輝いていた。
「僕達からのプレゼントです。今日は、一番の聖夜ですから」
「そうさね。雪が綺麗だ」
 皆は、淡く降り積もる雪を眺める。柔らかく心にふり積もる、そんな雪を。
「迷いは解けた?」
 何かを察しているかのように、エルネストがシェアトに声をかけた。彼女は香り袋を返しながら曖昧に微笑む。
「‥‥わかりません。でも、最後の台詞は浮かびました」
 こんなに綺麗な夜だから。
 その感動を、言葉に。

『終幕
 赤い赤い雪が降る。
 こんなに寒い冬の夜、1人でいたら凍えてしまう。
 さぁ周りを見て、手を伸ばして。
 指先が凍えるのは、きっと心がそこにあるから。
 寄り添わせ、重ねないとすぐに冷えてしまうでしょう。
 いつか手離す事に怯えないで。
 消えてしまう事を嘆かないで。
 1人じゃ別れのつらさも無い代わりに
 喜びも傍にないから』