アナスタシアポイント〜年末くじ引き大会〜
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 44 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月28日〜01月02日
リプレイ公開日:2007年01月05日
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●オープニング
彼女の名はアナスタシア。冒険者ギルドの受付員の1人である。
赤色の巻き毛が魅力的だと本人は言うが、それは若造りだろうと指摘した同僚をぐるぐる巻きにして、セーヌ川に投げ入れようとした経緯を持つ。
彼女が受付員になったのは比較的最近だ。だが彼女自身は、この仕事はあまり好きではないと言う。仕方なくやっているのだと言う彼女と喧嘩になった同僚や冒険者もいるということだが、今のところ辞める気配はない。
そして彼女は、今日もカウンターの中に立つ。ある思いを心に秘め、そうと見て取れる表情をして。
「お仕事、お疲れ様でした」
ほぼ無表情で冒険者を労わりながら、赤い巻き毛の受付員は報酬を彼らに手渡した。依頼の報酬は依頼人から直接貰うこともあるが、ギルドに預けてあったりする関係で受付員から貰うこともある。その時に下手な者が応対に当たると、せっかくの達成感も台無しになること請け合いなのだが。
「お仕事が終わったばかりでお疲れでしょうけど、少し話を聞いて行きませんか」
珍しく彼女のほうから、冒険者達に話しかけた。とは言え、雑談の雰囲気ではない。
それでも一応、何人かが足を止めると、彼女は彼らを手招きして声を潜めた。
「あのね。少し考えている依頼があるのよ。参加してみない?」
アナスタシアは、元冒険者である。
昨年まで冒険に明け暮れていたが、どちらかと言うとギルドを通さない冒険ばかりをしてきたのだと言う。
つまり、人助けだとか援助だとか人命救助だとかお手伝いだとかそんな依頼を受けたことは。
「無いわね」
血沸き肉踊る冒険でなくては、冒険者になった意味が無い、というのが彼女の持論らしい。
というわけで。
「あなた達は、結構レベルの高い冒険者よね。当然、いろんな冒険をして来たと思うわ。いろんな修羅場もくぐり抜けて、いろんな知恵も身につけたわよね。そんなあなた達に、私からひとつ。依頼というか、一種の宴というか、こんな話はどうかしら」
そう言いながら彼女は、短く切った布の切れ端を数枚取り出し。
「この中から一枚選んでもらって、書いてある数字の順番に敵と戦ってもらうの。1対1で」
「1人で敵と?」
「1人で敵と。場所は、最近見つけた迷宮があってね‥‥」
その迷宮に、この話にのった者全員で入り、一匹ずつ敵を誘導してきて1対1で戦えるようにするらしいのだが。
「そんな簡単に行くものか‥‥?」
敵というのは、つまりモンスターである。確かに強さはピンからキリまであるが、しかし。
「まぁ誘導失敗で2、3匹来ちゃった場合は、敵の数だけこっちも順番に出て、あくまで1対1にするってことよ」
「ファイターとかはいいかもしれませんけど、戦闘職じゃないバードとか、1対1なんて向いてない職業はどうするんです」
「そうね。倒さなくてもいいのよ、とりあえずは。形勢的に勝てれば『勝ち』。他の人に助けを求めたら『負け』。魔法で相手を足止め30秒とかね。まぁ完全戦闘職の人は、倒してもらわないと話にならないけどね」
「曖昧な判定だなぁ」
「判定するのは、あたしよ。他の人に助けを求めた時点で負けなんだから、負けたくないなら一人でがんばればいいのよ。死んでも責任は持たないけど」
軽く言い放つ。
「いちお、友達の元冒険者クレリックも連れて行くから、ある程度までは面倒見れるわ。でも面倒見るのは戦闘後ね。戦闘中は他の人が手出ししたら、どっちも負け扱いよ。そういうことで戦いは真剣勝負だけど、まぁ気楽に、宴気分で参加してもらえればと思うんだけど」
宴気分なのは彼女1人だけかもしれないが、そこまで気は回らないらしい。
「だから、こういうのにあなた達が興味ないなら、年明けまで暇してる友達にでも話してもらえない? 勝っても負けても報酬は出すわ。もちろん、敵が強めなら多めにね。どう?」
顔を見合わせた冒険者達に、挑戦的な目を向ける彼女だったが。
「あの〜‥‥順番待ってるんだけど、まだ?」
彼らの後方から、依頼書を持って並んでいた冒険者の言葉に、慌てて表情を消して声を上げた。
「はい、空いてますよ。どうぞ」
●リプレイ本文
●くじ引き
「くじ引き‥‥って‥‥もっとウキウキ感があるものじゃ‥‥」
ウリエル・セグンド(ea1662)がぼそりと呟く。多少の差はあれ、その場に居る者は皆同じ気持ちだっただろう。
「今年最後の‥運試しです‥」
アルフレッド・アーツ(ea2100)はそう言いながら、依頼人が出した布の一枚を手に取った。
「血沸き肉踊る冒険でなくては、冒険者になった意味が無い‥‥か」
「わざわざ1対1とは変わった趣向ですね」
天城烈閃(ea0629)もジャパン語で話し、テッド・クラウス(ea8988)が次のくじを引く。
「志士の水無月冷華です。剣も魔法もいまだ未熟ですが、自分の腕前を試す意味で参加しました」
その中で丁寧に依頼人に挨拶をしながら、水無月冷華(ea8284)が一礼した。
「戦闘系は久しぶりやわ。腕、鈍ってないとええんやけど」
クレー・ブラト(ea6282)も残る布を順番に指差し、どれにするか悩んでいる。
そして皆がそれぞれに布を引き、最後に『残り物には福が』とウリエルが引いた所で、同時に全員に数字をお披露目する。
「よし、順番は決まったわね。じゃ、早速出発するわよ」
依頼人アナスタシアが声をかけ、一行はパリを出発した。
●1人目 クレー
迷宮内は、この季節の外気よりは少々冷えも少なかったが、ぼーっと歩いていればたちまち滑って転びそうなくらい、じめじめと湿り気を帯びていた。
「最初って、緊張するわ‥‥」
ランタンを持っている者は火を灯し、辺りを窺いながら進む。1番手を引いてしまったクレーは、広めの場所に出るまでは敵が出たら即座に戦闘ということで、一番前を歩かされている。
やがて彼らは広間へと出た。広間と言っても、ランタンを3方の壁に吊るせば充分に明るさを確保出来る程度の広さだ。だがランタンは6人で3個しか無かったので、
「ランタンくらい持ち歩きなさいよね。冒険する者の必須アイテムでしょ。まぁシフールは仕方ないけど」
とアナスタシアに文句を言われながらも、予備の2個も借りて敵の追いたて役も持って歩くことにした。何せ最近見つけたらしい迷宮である。光源など存在しない。
では敵を探しに行こうかと部屋を出ようとした彼らの耳に、かしゃかしゃと何かがぶつかり合うような音が聞こえてきた。
「‥‥向こうから‥‥来たようです」
アルフレッドの声に、クレーはレイピアを抜く。
だが。
「骨ですね。大した強さではありませんが、突き用の武器は当たらないと思います」
かしゃかしゃとやって来たスカルウォリアーを見ながら、冷静に冷華が助言した。クレーは一瞬自分の武器を見やり。
「あかんやん」
慌てて予備の短刀に切り替える。そして、まだ充分に距離がある間にホーリーを唱えた。だが威力は弱い。そのまま接近戦となり、クレーは短刀を奮った。
だが外野から見てもクレーは劣勢だった。クレーの武器やコンバットオプションは、この敵とは相性が悪い。敵の攻撃は回避出来るが、こちらの与える傷は微々たるものだ。このまま永遠と続きそうな戦いに、アナスタシアが手を振った。
「クレーの負けね。はい、みんなでそいつ倒しちゃって」
言われて皆は襲い掛かり、たちまちスカルウォリアーは動かぬ骨となった。
「‥‥本当に、運‥‥だな」
ぼそりとウリエルが呟き、落胆の気配を背負っているクレーの背中をぽんぽんと叩いて慰めた。
●2人目 冷華
次の敵を探す為、2番手の冷華とアナスタシア、クレーを残して皆は部屋を出る。さほど広くないが天井の高い通路を抜け、やや広めの部屋に出たところで、うろうろしている敵を見つけた。
「連れて‥‥来ました」
真っ先に部屋に飛び込んできて報告するアルフレッド。それへと頷いて、冷華は刀の柄に軽く手を置く。そして、まだ見えぬ敵へと一礼した。
「敵は何ですか」
「多分‥‥ホブゴブリンです」
再度頷き、部屋に飛び込んで来た皆の後ろから何かわめきながら走ってくるホブゴブリンを見つめる。そして、刀を抜かずに手を動かした。
次の瞬間。武器を上げながら走ってきた敵は、その姿のまま凍りつく。
「‥‥盛り上がりには欠けますが、これが私のやり方です」
ぐらぐらと揺れる氷塊を見ながら、冷華は静かに告げた。
●3人目 アルフレッド
氷のホブゴブリン像を観客の1つに加え、敵の誘導係は次の獲物を求めて通路を進んだ。
「‥‥あれは‥‥何だ?」
目の良い烈閃が、通路を転がる黒い物体を見つける。
「多分あれは」
冷華が言いかけた所で、黒い巨大まんじゅうは方向を転換した。
「来ます」
テッドが短く告げ、皆は一斉に走り出す。その後ろから、ころころと黒い物は後を追いかけてきた。
一方ダガーを持って待ち構えていた3番手のアルフレッドは、逃げるようにして走り込んで来た皆の後ろから黒い物体が転がってきたのを見て、一瞬動きを止めた。
「ブラックスライムです」
言われて距離を保ち、ダガーを投げる。とは言え、身長50cmほどの彼の4倍近くあるスライムだ。もしもぺたりと貼りつかれてしまったら。
だがアルフレッドの攻撃は的確だった。飛んでくる酸をかわし、きちんとダガーを飛ばして当てて行く。そのダメージで敵の動きが鈍る気配は無かったが、体当たりを仕掛けてくる敵の攻撃も避け、その都度ダガーを投げ続ける。
「倒すのは無理だろうけど、勝ち扱いかな」
それを見ていたアナスタシアが指示を出した。
「レンジャーは‥‥完全戦闘職じゃ‥‥ないということですね‥‥」
ブラックスライムを皆で倒した後、額の汗をぬぐいながらアルフレッドが確認をする。
「戦闘だけのレンジャーなんて必要ないわよ」
それにあんたシフールだしと付け加えて、アナスタシアはアルフレッドの頭をぽんと軽く叩いた。
●4、5人目 烈閃、ウリエル
その場所には、奥の扉の前で見張りをしているホブゴブリンが2体立っていた。
「どないする? あれ、1匹ずつは難しいんとちゃうかなぁ」
クレーの言葉に皆も頷く。魔法などで足止めしても良いのだが、下手に援軍を大量に呼ばれるのも困る。2匹とも追いかけて来るならそれで良し。来なければ様子を見るということで誘導を開始した。
もしも烈閃がそこに居たならば、扉の奥に宝か迷宮の守護者でも居るんじゃないかと興味を示したかもしれないが、彼はその頃、氷漬けのホブゴブリンを眺めながら弓と矢のチェックをしていた。
「来ましたね‥‥」
見張りの2体は何も考えていなかったのか、侵入者の姿に怒って追いかけて来る。そのまま誘導して2匹居ることを再度確認してから広間に飛び込むと、既に烈閃は矢を番えていた。そしてそのままそれを放ち、見事それは1体の鎧の隙間に突き刺さる。
「お前は‥‥こっち」
烈閃目掛けて突進しようとした2体に一瞬会釈した後、ウリエルはその内の1体へと踏み込んだ。怒った相手の攻撃を軽くかわし、フェイントアタック。次いで。
「ここっ‥‥」
ポイントアタックを素早い動きにのせて打ち込むと、途端に相手は戦意喪失した。
「‥‥あれ」
あっさりと慌てて逃げ出す相手を見送っていると、アナスタシアが倒せと怒鳴った。仕方無く追いかけるが、後ろでテッドが、
「逃げる相手を倒す必要は無いのでは?」
と尋ねる。だが。
「あれはホブゴブリンの戦士よ? 奴等の棲家があるに決まってるじゃない。放っとくつもり?」
それでも、ただ暮らしているだけの彼らの居住区を脅かしたのだからと説得され、アナスタシアは渋々頷いた。どちらにせよホブゴブリンが束にでもなって来ない限り彼らの敵ではない。
そして烈閃は、距離を保ちながら次々と矢を番え放っていた。彼の矢は次々と鎧の隙間や首筋などをとらえ、たちまち相手の動きは鈍くなる。それを充分見極めた上で、彼は3本の矢を番えた。そして弦を引き絞り、しっかりと急所を狙って放つ。
結局一度も近寄らせないまま相手を倒した烈閃は、ゆっくりと武器を下ろした。
「たとえ限られた空間での戦いであっても、射手が剣士に劣るとは限らないと証明出来たな」
ジャパン語が分からないアナスタシアの為に冷華が通訳すると、彼女は軽く笑った。
「まぁ、ジャパンの撃ち手は優秀だって聞いてるわよ。でもそんな大層な武器持ってるんだもの。倒してくれなきゃ話にならないわよね」
そう言いながらも彼女は満足そうに手を打った。
●6人目 テッド
ゆっくりと武器と盾を手にし、テッドは前を見据えた。
「‥‥牛頭鬼」
真っ先に気付いたのは烈閃。だが、姿を見るより先に皆、辺りに響く足音である程度の見当はついていた。
「‥‥逃げたホブゴブリンが‥‥呼んできた‥‥?」
逃がしたウリエルが言い、アナスタシアにじろりと睨まれる。
だがテッドは落ち着いて剣にオーラを付与し、しっかりと構えた。
「腕試しには、充分ですね‥‥」
呟く。そして、自らの倍近くはあろうかという敵に向かって、攻撃を仕掛けて行った。
初手に衝撃波を飛ばし、確実にダメージを与えようとしたが、相手はミノタウロスである。その程度では分厚い肉を通すことさえ出来ない。
飛び退って2撃、3撃と撃ち込むが、痛みもなさそうだった。対して相手は巨大な斧を奮う。それを盾で受け止めると腕に衝撃が伝わった。相手の動きは早くない。確実に攻撃を止める事は出来るだろう。だが。
テッドは戦法を変えて武器を大きく振り下ろした。ハーフエルフである彼は、いつ高揚による狂化を起こしてもおかしくない。長期戦はあらゆる面で危険だ。努めて冷静を保とうとしながら、彼はいちかばちかでスマッシュEXを放った。
「おおっ」
思わず観客と化した一同から声が漏れる。初めて敵の腕から血が噴きあがり、ミノタウロスはやや動きを弱めた。そこへ立て続けにコンバットオプションを繰り返し。
皆が見守る中、長い戦いは続いていた。もういいのではないかと皆がアナスタシアを見るが、彼女は何も言わない。だがその間も彼らの激しい攻防が繰り広げられ、そして。
「やった‥‥」
遂に、ミノタウロスは血まみれの状態でその場に膝をついた。そしてそのまま何とか体勢を立て直してふらふらと逃亡を図ろうとする。そこで初めてアナスタシアが指示を出し、皆は瀕死のミノタウロスを倒した。
「大丈夫?」
同じく倒れかけたテッドを慌てて支え、クレーが魔法をかけて癒そうとしたが、特に外傷は無い。
「‥‥大丈夫、です」
荒い息を吐きながら何とか答え、微かな笑みを作ってみせて、テッドは身を起こした。
「面白いもの見せてもらったわね」
大きく拍手しながらアナスタシアも褒める。
「よし。じゃ、帰りましょ」
凍っているホブゴブリンは無視して、彼らは帰途についた。
●アナスタシアポイント
「じゃ、これ。報酬ね」
酒場の1卓を陣取り、ワインなどを頼みまくって打ち上げ宴会を始めようとしながら、アナスタシアは皆にそれぞれ金貨の入った袋を手渡した。
「勝った人と負けた人じゃ金額違うから。後、テッドは『頑張りましたで賞』分を増やしといたから」
満足げに笑いながら言い、皆にグラスを配る。
「受付でもそう‥‥笑ってるほうが‥‥いいのにな」
ぼんやりとグラスを受け取りながらウリエルが呟いたが、あっさりと聞かなかったふりをされた。
「後、あたしからの依頼はね。ポイント制なのよ」
「点数?」
通訳の言葉を聞きながら烈閃が聞き返すと、彼女は頷き。
「そう。ポイントと交換で、いろいろ景品をあげるわ。あたしも以前は冒険者だったから持ってるのよ、お宝とか。それをあげようってわけ。まぁ、経験の浅い人と深い人とが同じ景品ってわけには行かないけどね」
そう言って、彼女は小さく切った木の板を何枚か取り出して。
「はい、これ『肩たたき券』」
クレーを除く皆に手渡した。
「これは『ワイン引き換え券』ね」
そして、テッドには追加で違う板も渡す。
「‥‥何ですか‥‥?これは」
少々大きい板を受け取りながらアルフレッドが尋ねると、彼女は平然と答えた。
「クレーが1点。テッドが5点。後のみんなは3点ね。2点が『肩たたき券』。4点が『ワイン引き換え券』。6点以降が景品よ。あ、肩たたき券は、あたしが日頃疲れてるあなた達の為に、1度だけ肩を叩いてリラックスさせてあげようっていうご奉仕権よ。これを使ったら、手持ちのポイントから2点消費というわけ」
微妙な顔の皆を見回しながら、アナスタシアは満面の笑みを浮かべる。
「ま、頑張ってポイント貯めてちょうだい。景品との交換は、あたしが依頼を出した時にしか受け付けないからそのつもりでね」
ワインを飲み干し、皆の顔を見回した。
そうして彼らの打ち上げ&年明けパーティは、明け方まで続くのだった。
新たな依頼を練っている彼女の思惑を、ひしひしと感じながらも。