聖夜に贈る夢のうた
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:呉羽
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月30日〜01月04日
リプレイ公開日:2007年01月07日
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●オープニング
暖炉の中から薪が燃える音が聞こえる。それだけが支配する静かな部屋の中で、穏やかな笑みを浮かべる老婦人がゆっくりと口を開いた。
「では、お願いしますね‥‥」
部屋の戸口の辺りに居た冒険者達は頷き、彼女の傍に立っていた娘からそれぞれ籠を受け取る。
「ケーキは厨房のほうでお渡ししますね」
娘はそう言い、彼らの為に部屋の扉を開いた。
「では、おばあ様。行ってきます」
笑顔でそう言い部屋の外に出て、娘は冒険者達に向き直る。その笑みは幾分翳りを帯びたものに変わっていたが、彼女はそのまま彼らを厨房へと案内した。
「今回お願いしたいのは、身寄りを失った子供達を育てている『家』の訪問です。先ほどお渡しした籠の中に、ツリーの飾りや歌って踊る為の楽器が入ってますから、子供達と一緒に遊んだり話したり飾りつけしたり盛り上がったりしてあげて下さい。‥‥それから、こちらがパンケーキです。子供達へのプレゼントですけれど、一緒に食べてもらって構いませんよ」
両手で抱えるほどの大きさのパンケーキを籠に入れて、一番力がありそうな者に手渡す。
「後、これもお願いしたいのですが、先日冒険者さん達に作ってもらったお話を、子供達の前で演じて喜ばせてあげて欲しいんです。ここに演目の内容が書いてありますから。題は『聖夜の雪』で、聖夜の雪と呼ばれる花を探しに行く女の子の話です。‥‥えっと、これです」
更に玄関の脇に置いてあった籠を持ち、中から2本の造花を取り出した。
「雪の王女に捕まってしまった男の子の為に、女の子がこの花を探しに行くというお話で‥‥。この花は白が一般的なんですけれど、王女が赤い花を取って来いと言うんです。結局白い花しか見つからないんですけれど、最後にこの花が赤く染まって、無事女の子は男の子を返して貰う事が出来た、というのがあらすじですね。‥‥少し切ない話ですけれども、ちょっと戦う場面もありますから、子供達も喜ぶと思います。別に、上手に演じる必要はありませんよ。子供達が時には乱入したりするかもしれませんけれど、その時はちょっと巻き込んで一緒になって演じるのも‥‥私は好きなんです」
そして造花と小道具が入った籠も渡し、彼女は皆を見回す。
「皆さんに行っていただく場所は、最近出来た『家』です。冒険者さんを育てるために作られた家だそうですから、皆さんが行けばきっと大喜びされると思いますよ。この前ご連絡したら、大きなツリーも用意した、ということですし。どうか‥‥子供達を喜ばせてあげてください。そして、貴方達も願わくば、楽しい聖夜をお過ごしくださいますよう」
彼女は静かに頭を下げ、荷物を持って出て行く彼らを見送った。
「なぁなぁ、ジョエル〜。偽善会ってなんだ?」
「てめぇ、呼び捨てにすんなって言ってんだろーが。それに、偽善じゃねぇ。確かにやってる事は偽善と言う奴もいるだろうけどな。『慈善会』だ。ま、金持ちとかの仕事ってヤツだな」
「へ〜。じゃ、今日来るヤツラって、金持ちか〜。何せびろっかな〜」
「来るのは冒険者だけどな」
小さな中庭で、男と少年が喋っていた。男は40歳を過ぎたくらいだろうか。ツリーを見上げながら2人は話を続ける。
「え。冒険者って、んなめんどい事すんの?」
「やりたい奴はな」
「ジョエル。もう少し真摯に話をしてくださいね」
建物の中から粗末なローブを着た男が出て来て、2人に注意をした。
「冒険者の方々は、みんなの為に美味しい食べ物を持って来てくださるそうですよ。それに、この木に飾り付けをして下さるそうです。パリの家々のような、少し贅沢な楽しみ方だと思いませんか」
「なぁ、カルヴィン。冒険者って、冒険の話とかいっぱいしてくれるかな。どっかーんと、ドラゴン倒したりするカッコイイやつ!」
「頼めばして下さいますよ、きっと。でも、あまり無茶な事を言ってはいけませんからね」
少年は楽しそうに歌いながら去って行き、それを見送りながらカルヴィンもツリーを見上げる。
「‥‥主よ。全ての子らに、救いが訪れますよう‥‥」
それへとそっと祈ると、ちらりとジョエルも建物のほうを見やった。
「‥‥あいつか」
「薬で自らを律する事を、当然と考えている子供です。自分が犠牲になる事も厭わない。私にもっと力があればと、いつも」
「お前には厳しさが足りないんだろ」
「でも、薬に頼らず彼が生きていく事は出来るのでしょうか」
呟いた時、外のほうから彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
「そろそろ時間だけど、歓迎の準備とかしなくていいのか?」
言いながら中庭に入ってきた少年は、一瞬固まったカルヴィンから視線を外し、ジョエルを見上げる。
「‥‥何かあったのか?」
「なんもねぇよ。お前も用意してこい、リシャール」
言われてリシャールは頷き、そのまま立ち去った。その後姿を見ながら小さく溜息をついたカルヴィンだったが、やがてその後を追って歩いて行く。
残されたジョエルは、手に持っていたスコップで土をならし始めた。
どんな子供であろうとも受け入れると決めて作った『家』。子供達が生きる為の希望と夢を与える為、望まず不幸に育った子供達を、少しでも幸せにする為に。
「あいつを何とか出来ねぇなら、ここを作った意味もねぇ。いつだって、力不足とか言ってる暇はねぇんだよ」
吐き出すように言いながら、彼は1人中庭の整備を続けていた。
●リプレイ本文
その『家』は、長閑な田園風景の中にあった。他の家々とは離れている為、あまり人も来ないのだろう。だがその日は違った。
「こんにちは、皆さん。楽しく過ごしましょうね」
アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)が子供達に向かってにっこり微笑む。
「飾りつけが終わってないなら手伝うぜ。大人2人じゃ大変だろ」
子供達を相手にしている皆の横手で、スラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)が大人2人に声をかけた。小さな中庭を通って部屋に入ったが、確かに木も飾りつけは終わっていない。むしろ飾る物がこの家には無いのだ。
何故かたくさんの子供達が荷物運びをしていたルーロに群がるのを1人ずつ剥がしながら、ジョエルは冒険者達に簡単に説明をする。見ての通りの貧乏暮らしで、大したもてなしも出来ない事。人手も足りているとは言えないので、いろいろ手伝って欲しい事。後は適当に子供達と過ごしてやって欲しい事。
「いろいろと持って来たから大丈夫さね。後で、お菓子も作るのさね」
「一緒に作りましょうね」
ライラ・マグニフィセント(eb9243)が大人達に言い、シェアト・レフロージュ(ea3869)は子供達に声をかける。その後ろからだきゅっとしがみついているミフティア・カレンズ(ea0214)も、こくこく頷いた。
「占いもしてあげるね」
占いの知識は無かったが、ピリル・メリクール(ea7976)がタロットを彼らに見せる。知識が無くても子供達を楽しませる事は出来るのだ。
そして。
「ここに居るって聞いて、話がしたくて来たんです」
子供達の輪からやや離れた場所に立っていた少年に、デニム・シュタインバーグ(eb0346)が声をかけた。
「何だ、俺には連絡よこさなかったじゃねぇかよ。デニムだけか? デニムにだけ連絡しやがったのか?!」
すすと横からやってきたスラッシュが、少年の頭をぐりぐり拳骨でこする。
「僕も、手紙を貰ったのは本当に最近で」
「別に、1人でいいかなと思って」
あっさり少年が言ったので、ぐりぐり攻撃はしばらく続いた。
そんな皆を見ながら、刈萱菫(eb5761)は落ち着き払った笑みを浮かべつつ髪結道具を出す。
まず飾りつけを行った後、劇を子供達に見せる。その準備の為に。
シェアトが始めに作った話は、登場人物を増やして内容を少し変えて子供達に見せる事になった。この辺りを即座に変更するのは、バードである彼女には造作も無い事である。
「女の子らしい事が出来るのですね。剣ばかり振るっていると、自分の性別を忘れてしまいそうで‥‥」
今回の主役であるアーシャが笑って言いながら、渡された可愛すぎる衣装を身に纏った。
「しかし、スラッシュ殿の腕前は凄いな」
化粧をスラッシュ、髪型を菫が担当し、子供達に見せる劇は、非常に手の込んだものになる。その横でピリルがリュートの弦を調整しながら、子供達に時折にこと微笑みかけていた。
「では、はじまり、はじまり〜」
ミフティアが子供達に劇の始まりを告げ、『聖夜の雪』が始まった。
「おう、お前ら。誰に断ってこの森に入った」
恋人の代わりにする為に、雪の王女が奪っていった少年の心。その心を取り戻す為、少女は少年を連れて王女の城に出向いたが、赤色の『聖夜の花』と交換だと言われてしまう。そこで、2人は野を越え山を越え花を求めて旅をし、遂に花があるらしい森に入ったのだが。
「侵入者は生かしておけないよ」
森の番人に行く手を阻まれてしまう。
「ここを、通してください」
負けまいと対峙する少女。だが。
「‥‥やっぱり、子供には怖かったようですわ‥‥」
ただでさえ迫力のあるスラッシュとライラである。その2人に施された化粧は彼らの凄みを増し、子供達の半数は泣き出してしまっていた。その中で、勇敢な子供が半べそをかきながら、えーいとスラッシュに向かって行こうとしているが、じろりと見られて硬直し。
「あの‥‥ごめんなさい」
王女役のシェアトが居たたまれず泣いている子供達の涙を拭って回り、逆に抱きつかれて身動きが取れなくなっていた。
「ほら。子供達が注目してますよ」
少年役のデニムが、番人達を睨み付けているアーシャに小声で囁く。演技とは言え、戦闘の緊張で狂化してしまわないように。それへと頷いて幾分緊張を解いたアーシャは、ゆっくりと切りかかってきた番人の剣先から逃げ、自分の想いがどれだけ強いかを告げた。
番人達が去った事で安心したらしい子供達の様子を見ながら、劇は次幕へと移る。
ピリルが奏でる静かな音色の中、少女と少年は白い花を見つけた。少女が流した涙を受けて白い花が赤く染まった時には、子供達の歓声が上がった。だが花を摘もうとした時、ミフティアと菫演じるいたずら好きの妖精が現れ、彼らの邪魔をする。
「いいな〜、珍しいお花。ねぇ頂戴?」
だめだよ〜と子供達の中から声が上がり、ミフティアは子供達の中に入って指を口に当てた。
「あの子達に帰り道を教えちゃだめだからね?」
その近くで、菫が笑顔で少女達の周りをぐるぐるしている。台詞が無い役なので、表情と仕草で勝負だ。
結局道を譲った妖精達は、何故か子供達の輪の中に迎え入れられ、一緒に劇を見る事になった。そのまま少女と少年は王女の城へと帰り着き、花を渡す。そこで王女は改心し、最後に皆で集まって歌を歌う場面では、子供達も一緒に輪になって歌った。
「これは、ジャパンのお菓子ですわ」
ぐつぐつと何かを煮込んでいる菫に、それ何と子供が尋ねる。
「こっちはあたしの故郷のケーキさね」
その横で、数人の子供達が辺りに小麦粉を撒き散らしながら、ライラのケーキ作りを手伝っていた。
「えへへへ、パンケーキだぁ♪」
パリから持ってきたパンケーキを広げ、ミフティアが嬉しそうに声を上げる。子供達と一緒に先に食べ出しそうな気配に、
「これ飲んで待ってようね」
ピリルがハーブティと甘酒を出して、子供達に少しずつ入れて回る。
「これでいいですか?」
家事は出来ないアーシャだが、シェアトが作る鶏の香草焼きを手伝う。デニムは子供達に竪琴を弾いてやり、スラッシュは大人達と話をしていた。
やがて出来上がったご馳走を見て、子供達は目を輝かせて喜んだ。美味しい美味しいと素直に言いながら食べる彼らに、皆も自然笑みがこぼれる。
そうして穏やかな時が過ぎて行った。
「アリアちゃん、元気でやっているかな?」
和やかに過ごす中で、ふとピリルは呟いた。こうやって子供達と過ごしていると、過去の事を思い出す。
「振り返ったら、目の前にズゥンビが居やがって」
「おじちゃん、ずぅんびって何?」
「腐ってどろどろしたモンスターだな」
「その頃、私は洞窟を見つけて見張っていました」
そんなピリルが見ている前で、スラッシュとアーシャが山賊退治とズゥンビ退治の話をしていた。一応は冒険者を目指す子供達である。皆、夢中になって2人の話しを聞いていた。
「んっとね〜。宴会とお酒と脱ぐのが大好きな人でね〜」
少し離れた場所では、ミフティアがジャパンの話をしている。その隣で話を聞きながら、シェアトが子供達に膝を貸していた。
「何か考え事かい?」
それを眺めているピリルに、ライラが近付き声をかける。
「ちょっと、ドレスタットでの事を思い出しちゃって」
「あぁ、なるほど。あたしの聖夜と新年の思い出は、船の上ばかりさね。こういう聖夜も悪くないものだ」
それぞれの思い出を胸に、2人は再び子供達の輪の中に入って行った。
「随分強くなったじゃねぇか」
そしてスラッシュとデニムは、かつて彼らが命を救った2人の少年と話し込んでいた。
「劇でも泣いてなかったしよ」
「だって、僕より下の子もいるもん」
アンリはそう答え、お兄さんだからと威張った。
「リシャール。話を聞きました」
デニムが静かに本題を告げる。大人達に、リシャールが薬を使い続けているという話を聞いたのだ。
「辛いなら辛いと訴えていいんです。今のリシャールには手を差し伸べてくれる人がいるのだから」
「あのな、リシャール。俺が何で葉巻を吸うかっつーとな。ただ葉巻が好きだからだ。負い目はねぇ。で、お前のその薬は使いたいから使ってんのか? もしお前が倒れでもすりゃ、悲しむ奴がいる」
「あの劇は。通じる物があると思うんです」
周りの人達に支えられて、大切な物を取り戻す。それが暗殺者として育てられ、心をどこか失ってしまった彼らと似て見えて、デニムは進んで少年の役を演じたのだった。だから衣装も、初めて会った時のリシャールが着ていた服と似せている。
『僕は自分なんてどうでもいいと思ってた。だけど、泣いている彼女を見ると胸が苦しい。だから僕は心を取り戻したい、彼女と一緒に生きたい』
少年が最後に王女に向かって言った台詞。思いを込めて。
スラッシュ土産の梨をアンリに剥いてやっているデニムの横で、スラッシュも黙っているリシャールを真っ向から見た。
「お前が薬使ってんのは、誰の為だ?」
「絶って、倒れたほうが迷惑だろ」
「馬鹿か、お前は」
沈黙が流れる。確かに薬を絶つのは簡単な事ではない。だがこの先常用を続けては命が無い。
「‥‥ま、せっかくの宴だ。お前も楽しめよ」
スラッシュは席を立ち、葉巻を銜えた。
「後よ。お前名前長ぇよ。何かいい渾名考えとけ」
「おひかえなすってぇ〜」
謎のジャパン語を言いながら、ミフティアが子供達に別れを告げる。子供達も同じように謎のジャパン語を次々と返していた。
「あのね、おねーさんの作ったジャパンのお菓子、すっごく美味しかったよ!」
菫も『美味しいお菓子のお姉さん』として別れを惜しまれている。
「雪がとけたらどうなるの〜。一緒に見ていたい。雪の‥‥次、なんだっけ」
「『雪の美しさも、その先も。‥‥あなた達みたいに』」
劇が気に入った子供達は、シェアトから台詞指導を受けていた。最後に雪の王女は心の氷を溶かし、氷の城と大地も溶けて一面を花が覆い、彼女は春の花の王女になったというのが、最終的に彼女が王女に付けた設定だった。
「でも、自分の心が感じる言葉でいいのですよ」
王女の最後の台詞を繰り返し教えながら、彼女は微笑を浮かべる。それは、彼女自身が時間をかけて導き出した彼女の答えだったから。他の人は、他の決着をつけるかもしれないのだから。
そんな彼女の傍で、デニムは少し落ち込んでいた。それを感じ取って彼女もリシャールに近付く。
「『夢の歌』。歌いますから、一緒に歌いませんか?」
突然歌いだしたシェアトに、ピリルが察して伴奏をする。リシャールは目を丸くして止まっていたが、後方で子供達が一緒に歌いだした。
「歌は気持ちがほぐれるものだな」
「そうですね」
ライラの言葉に頷きながら、アーシャもその光景を見つめる。
「私、今度の事で自信が持てました。いつも狂化してしまうけれど、自分の中にもちゃんと女の子の部分があると分かりましたし、前に狂化した時は他に変な声まで聞こえてきて、私の狂化はどんどん酷くなってしまうのかなと思いましたから」
「でも克服できるかもしれないなら良かったさね」
応じながら、ライラも流れる歌に合わせて声を出した。アーシャも頷いて、歌声を乗せる。
上手い下手は関係なく。ただ楽しげな歌声が辺りに広がって、皆は笑顔に包まれる。
子供達だけではなく、冒険者達にも様々な過去があっただろう。苦楽を繰り返した事だろう。だがそれらがあるからこそ、今があるのだと。今こうして笑っているのだと。
それを、この家の子供達がいつか感じてくれる事を願いつつ、彼らは別れを惜しみつつパリへと帰って行った。
後日。
『渾名はリックにする』
とだけ書かれた手紙が届いた。
デニムの元に。