何でも通りの新年市〜年明けくじ引き大会〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月03日〜01月08日

リプレイ公開日:2007年01月11日

●オープニング

 それは、皆が降誕祭、聖誕祭を祝って楽しく過ごしている陰で、密やかに行われていた。
「た、足りないっ‥‥!」
「こ、こっちも足りませんっ‥‥!」
「足りないなら、農家回って買ってきな!」
 うわ〜んと泣きながら、誰かが家から走り去る。
「ボス! この糸、粗悪品です!」
「なんだって! そんなもん掴まされたお前の眼力が甘いんだ! 商人追いかけてきなっ!」
 また1人、うわ〜んと泣きながら、別の方角へと走り去って行った。

 それは、その年も終わろうとする年末時。静かに道を往来する人々の陰で、少々激しく行われていた。
「大変ですぅ〜っ! 大鍋の底、穴あいてます〜っ」
「いちいち報告するんじゃないよ! 鍛冶屋行って、直してもらうか買ってきな!」
「でも〜。こんな時期にやってる鍛冶屋さんなんて〜」
「つべこべ言うんじゃない! お前を鍋の具材にしてやろうか!」
 きゃ〜と言いながら、誰かが鍛冶屋へ向かって飛んで行く。
「ボス〜‥‥。やっぱり、年明けまでに革袋100枚なんて、無理じゃないでしょ〜か〜‥‥」
「まだ後4日もあるじゃないか! 終わったら死んでもいいからやりな!」
「ひぃ〜‥‥」
 消えそうな声を出して倒れそうになりながら、1人が部屋へ戻って行った。

 そして、実に清清しく年も明けた。なぜかジャパンの風習に倣って日の出を見ている人々の陰で、それは‥‥。
「‥‥もう、だめです‥‥」
「うぅっ‥‥バスカル、後は頼んだよ‥‥」
「同士エリトンよ‥‥私も最早、その意志を継げそうにない‥‥」
「何、遊んでんだい! 明後日にはもう、新年市が始まるんだ。倒れてる暇なんてありゃしないんだよ!」
「‥‥」
 びしばしどか。
「‥‥」
「‥‥ったく、軟弱な奴らだねぇ。仕方ない。おい、リック!」
「‥‥」
「ナターシャ、エレン、シノック、フェリ‥‥」
「‥‥」
「ローラ、モリガ、ラ‥‥あぁ、ちったぁ骨のある奴が残ってたみたいだね、ランバート」
 呼ばれてびくりと男の両肩が動いた。
「明日までに、これとあれとそれをやりな」
「‥‥ボス‥‥。このままじゃ、間に合ったとしても物を売る奴が残りませんぜ‥‥」
 言われてボスは辺りを見回す。
「それもそうだ。よし分かった」
 ぽむと膝を叩き、ボスは男に指を向ける。
「冒険者かっさらって来な」
「‥‥は?」
「奴らなら、少しの事でくたばったりしないだろ」
「‥‥俺1人で、どうやって攫って来いって‥‥」
「じゃ、お前1人で仕事をやるんだな」
 間。
 しばらくの後、泣きながら冒険者ギルドへと男は走り去って行った。

 ギルドに猛烈な勢いで飛び込んで来た男は、涙と鼻水と汗と何かでぐちゃぐちゃになった顔で、カウンターにへばりついた。
「たすけてくださいよ〜‥‥。このままじゃ、みんな殺されちまう‥‥。いや、俺が真っ先に‥‥」
 さすがに人も疎らな新年初日。その年初めての客を出迎えた受付嬢は、半歩後ろへ下がったまま営業スマイルを振り撒く。
「国民の皆さんを助けるため、我々ギルドはありますからどうぞご安心ください。それで、内容は?」
「俺達は、『何でも通り』の職人なんでさぁ‥‥。いや元は、エゲ‥‥イギリスから来たんですけどね。それで、明後日には新年市が始まっちまう。手伝いを頼みたいんで」
 訛りのあるノルマン語で喋りながら、男は身振り手振り訴えた。
「もう10年ずっと、あの通りに軒並べてる職人達で毎年、市開いてるんス。すっげぇ人でぐちゃぐちゃで、すげぇのなんのって、そりゃ、大騒ぎで」
「依頼内容だけをもっと詳しくお願いします」
「‥‥んあ? ん〜‥‥。だから、その準備と売り子をやって欲しいんスよ。後、片付けも。もう何日も徹夜で働いて、みんな倒れちまって、俺も腹減ってるし、喉は乾いたし」
「分かりました。では、明日からの依頼ということになります」
 男は情けない顔になったが仕方なく頷き、前金を置いてとぼとぼ出て行った。

 そして、体力と精神力と根性の限界に挑む、『新年市』が始まる。


 追記。
『何でも通りの新年市は、通りをまるごと使って店先に屋台を出して行われます。
 それぞれ職人達が腕を奮って作り上げた傑作を、新年早々皆さんに低価格で売ってしまいます!
 このご奉仕価格は他にはない! また、みんなで作った温かい鍋、ほかほかのパンも売り出し。
 その上、一定価格以上お買い物下さった方には、その場で手作りメダルをプレゼント。持ち帰らずに、景品と交換の運試しも行えますよ。
 ぜひ、新年のお買い物は何でも通りで!                  筆者ヨーシア=リーリス』

●今回の参加者

 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5391 サラ・フォーク(22歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea7216 奇天烈斎 頃助(46歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea9855 ヒサメ・アルナイル(17歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

グリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)/ 黒 者栗鼠(ea5931

●リプレイ本文

●挨拶
 『何でも通り』は、どちらかと言えば裏通りにある。勿論『何でも通り』などと言う名はそこで商いをする者達が勝手に付けた名称だが、それなりに浸透してしまったらしい。
「新年最初の依頼ですわね。よろしくお願いしますわ」
 クレア・エルスハイマー(ea2884)が皆と依頼人達に挨拶をした。もっとも依頼人は。
「ふぉ〜」
 変な声を出しつつ床に倒れていたが。
「イギリス出身なのですね。私もイギリスで商売と冒険者の仕事をしていたのですよ」
 何か別な生物になっていそうな人々の中で唯一元気そうな恰幅の良い女性に、アクテ・シュラウヴェル(ea4137)が話しかけた。それへ、おぉそうかいと嬉しそうに応じながら、女性は一同を見回す。
「手伝いが来ると聞いたけど、何か細っこい子ばっかりだねぇ。‥‥あんたはでかすぎだよ」
 でかすぎと言われた奇天烈斎頃助(ea7216)だったが、ジャイアントなのだから仕方が無い。
『我輩は肉体労働が中心也な。荷物運びはまかせる也』
 そうイギリス語で話すと、女性も同国語で頼もしいねと話した。
「結構倒れてるみたいだけど、存分に頑張ってやろうじゃねぇか。多少の徹夜も覚悟の上だぜ!」
 そのままイギリス語会話が主流になりそうな気配に、ヒサメ・アルナイル(ea9855)がどんと気合を入れたゲルマン語で威勢の良い声を出す。この中で唯一イギリス語が分からない彼だ。ノルマンにいるのに言葉の孤島に追いやられる事になろうとは。
 そんな中、1人大宗院奈々(eb0916)は。
「いい男は‥‥っと」
 倒れている男達を1人ずつ見ながら、『いい男』を探し回っていた‥‥。

●準備
「ねぇボス。序盤でいきなり大当たりが連発しないよう調整も出来るけど、どうかしら?」
 サラ・フォーク(ea5391)はくじ石の色塗りを手伝っていた。手伝うと言っても他に誰もする人はいないので指示も無い。
「あぁ、そうしとくれ。あんた商売が分かってるねぇ」
 ボスがにやりと笑い、サラもふふと笑って返した。もっとも彼女の知っている商売は、頭に『泥棒』とつくのだが。
 そんな彼女達の後方では、クレアが効率的な動きが出来るような5日間の予定を組み、アクテが職人達の道具に破損が無いかを調べている。
 外では、露天の準備を頃助が行っていた。既に出来上がった商品、どこかからか買い入れた商品、そしてそれらを入れる革袋を着々と露天間際まで運んで行く。勿論外には出さず、しかしすぐ出して準備出来るよう、戸口付近に固めた。
 一方厨房では。
「よっしゃ、頑張れ俺!」
 気合を入れながら、ヒサメが食材に魂を注ぎ込んでいた。その達人技は見事と言うより他はない。冬では食材も限られてくるが、鍋を2つ用意して煮込み始めた。
「こら。それ食うな!」
 匂いに釣られてふらふらやって来た人々を追い返しながら、次はパン作成である。何も入っていないシンプルな物から、木の実、干果実入りまで様々な物を作って行く。
「めし‥‥めし」
「賄い分は作りますわね」
 家事に自信は無いが、クレアがやって来て隣で簡単な料理を始めた。それを生き返ったような目で職人達が見つめる。
 そんな中、奈々は。
「ほら、ここが違うぞ。何なら、あたしが夜もずっと手伝おうか?」
 細工物に色を塗っている、なかなか男前の職人に体を近づけて、仕事ついでにナンパをしていた。
 いや、ナンパついでに仕事なのかもしれないが‥‥。

●新年市開始
 くじを引きたがっていたが準備段階ではそれも叶わなかった手伝いの者栗鼠が帰り、遂に新年市の朝がやって来た。
「よし、ヤロー共、気合入れていくんだよ!」
 ボスの一声で、多少生き返った職人達がわらわらと持ち場につく。
「並びはこれで良いですわね?」
 アクテは鍛冶屋と細工屋の売り子担当を申し出ていた。彼女も武器屋。様々な案を職人達に話して実行していた。ごちゃごちゃに置いてあるだけだった台の上は、実に見事な『お客心理』を突いた並びになっている。目玉商品は放っておいても売れるので離れた場所に置く。客の視線が集中する場所は目玉じゃないけど目を引く商品と、単体ならば目も向けない商品を隣り合わせにする。そして関連のある商品同士はセット販売を提案するのだ。こうして思わず手に取ってみたくなる売り場が完成されていた。
 頃助は、主に外から買い集めた妙な物ばかりを集めて売っている店の担当を。サラはくじ引きと古着屋の売り子を。クレアは食器と木工品の売り子を。奈々は人の足りない所を回る事になった。そしてハーフエルフである事から、売り子では無く裏方を希望していたヒサメは。
「んなもん、隠せば分からんだろ」
 飾り布で耳を隠しているその上から大きすぎる真っ白の帽子を被せられ、無理矢理鍋とパン販売露天へと強制連行された。
 そして遂に、通りを塞いでいたロープが切って落とされた。

「ぎゃああああっ! それ、あたしんだよ!」
 たちまち通りは混沌のるつぼと化す。冒険者達は、客同士がもみくちゃになりながら、争うようにして目的の露天に酷い形相で飛び込んで来るのを見た。
 あまりの惨状に一瞬動きが止まった冒険者達だったが、その後の行動は早い。
「割り込みはいけませんわ! きちんと並んでいただかないと」
 クレアがにっこり微笑みながら鋭い声で、群がる客に注意を促した。
「しかし、いつもよりはマシかね。あんたのおかげか」
 くじ担当は最初は暇である。そんなサラにボスが声をかけた。
 売上金を安全な箱にきちんと入れる事、客の流れが滞らないよう通りに不要な物を置かない事、ごちゃごちゃ並べると盗みやすいので綺麗に並べる事、などを徹底させたのはサラである。
 褒められてサラはふふと笑い、早速くじ引き用のメダルを持って来た客へと声をかけた。
 一方アクテは隣同士の鍛冶と細工屋の売り子に忙しい。さりげなく前日に目をつけておいた武器を奥のほうに隠すようにして並べていたのに、目ざとい客が見つけて買ってしまった。さすがにがっかりしたものの、そんな事を言っている余裕もない程である。
 ヒサメも目が回るくらいの状況だ。白い巨大な丸いもこもこを遠くから発見した人々も集まって、外気の寒さと体の熱を程よく落ち着かせてくれる鍋の匂いに誘われ、ついつい美味しい鍋料理をいただいてしまう。
「どこかのレストランの料理人かと思ったよ。何て美味しいんだい」
 本当は仕立屋をやっているヒサメなのだが、鍋料理をべた褒めされていた。
『さぁさぁ、らっしゃい、らっしゃい也。安いよ安いよ也〜』
 謎の掛け声をイギリス語で叫ぶジャイアントに、皆の視線も自然と集まる。そもそも客の中にジャイアントは居ない。どうしても目立ってしまうのだ。
 そして奈々はと言うと。
「これなんか、なかなかの掘り出し物だがなぁ」
 見事に男中心の売り込みを進め、達人技のナンパ仕込み話術で、たくみに相手を陥れ‥‥上手に買わせていた。そしてイイ男には当然。
「あたし、今夜暇なんだよ。どうだい?」
 しっかりとお誘いを仕掛けていた。
 そうして1日目は怒涛の内に終わった。

●買い物
 2日目も後半になると、少し余裕も出てくる。
 皆は売り子の合間に各店を回って買い物をし始めた。
「お酒と‥‥後、パンかお鍋は残りそうです?」
 クレアは、皆と打ち上げする為の酒や食べ物を買い込もうとしていた。
「パンは足りねぇなぁ。鍋は今日も作るから余るかもな」
 食べ物担当ヒサメの言により、ではそれは明日にでも、と次なる場所へ。
「あら。この服の仕立て。素敵ですわね」
 古着屋担当サラの出して来た服に、クレアの目が輝いた。
「古着と言っても部分的にデザインも直しがしてあるのよ。お買い得だと思うわ」
 しっかり仲間にも売り込みをするサラ。
 その頃、アクテは革工屋に来ていた。
「このブーツ、可愛いですわね」
 ホワイト・ブーツが目に入り、試しに履いてみる。
「お嬢ちゃん、こっちのマフラーはどうだい?」
 ふわふわのマフラーを隣店の職人が出して来た。
「そのブーツに良く似合ってるよ。お嬢ちゃん可愛いし、おまけするよ?」
 それが商人トークと言うものだと分かってはいるのだが。
 アクテはにっこり微笑んだ。
「丈夫な弦が欲しいのだけど、あるかしら?」
 サラが買い求めたのは、細工用の針や金属など、少々女性購買理想図から離れた品物だった。そして弓を売っている露天で弦を探す。弓の弦は切れやすい。いざ戦闘となった時に予備が無いのは困るし、丈夫であるならそれだけ長持ちだ。なかなかこれと言う弦にめぐり合える事は無いのだが。
 そんな彼女の後方で、頃助は適当に目についたものを買っていた。敢えて運試しでやっているらしい。
 ヒサメが買ったのは、切れ味抜群調理用ナイフ。そして愛馬用の手綱、愛犬用の首輪である。
「俺もステラもレグルスも、新年で新調な♪」
 上機嫌でそれらを古い物と交換し、自分用に買った腕輪と指輪を眺めて音符を振り撒いた。残念ながら軽量防寒着は見つからなかったが、なかなか良い買い物である。
 そして。
「だーかーらっ。こーいう形のだなぁ」
 ノルマンで干支根付を買い求めようとした奈々は、根付って何だと問われ、まず形状から説明をしていた。
「こーいうふさふさがついていて」
「これか?」
 出されたのは、うさぎ尻尾がついたスカート。
「違うっつーの。だから、こーいう‥‥」
 話は平行線のまま、しばらく続く‥‥。

●くじ引き
 3日目。買い物を終えた一同は、それぞれ空き時間にくじ引きに挑戦していた。
「残念、はずれだねぇ〜」
 唯一3回しかくじをしなかったアクテが真っ先に外れて、残念賞の甘い食べ物を貰い。
「気合を入れて引く也!」
 頃助が気合充分、ぐいと石を引いて。
「食器賞だね。これでも持って行きな!」
 大きい贈答用のスプーンを貰っていた。
「いい男が当たりますように」
 ぱんぱんと拍手を打って、奈々も石を引く。ちなみに景品に『いい男』は用意されていない。
「何だ、外れか‥‥」
 アクテと同じ物を2個貰って、1個はその場で開けてばりばりと食べてしまった。
 そして次にヒサメが挑み。
「海で会いま賞だよ。ほら、持っていきな」
 拳大の大きさの貝殻を貰って、早速耳に当てて音を楽しんでいた。
「何か‥‥宴会で楽しめそうな物が当たると良いですわね」
 終了間際の時間。クレアがそう言いながら引いた物は。
「この色、王様賞だわ」
 サラが横から覗いて声を上げた。ちなみに最も良い賞は、『ボス賞』らしい。
「王様賞は幾つかあるんだけどね、ここから選びな」
 言われてクレアは、自分が使えない武器や鎧が入っている木箱の間に紛れ込んでいる巻物を発見した。
「こちらをいただきますわ」
 開いて眺めて、にっこり微笑む。
「残り物には福があるかしら?」
 そして最後に打ち上げ様の酒を持ちつつ、サラが近くに居たクレアに引いてもらったくじは。
「ごめんなさい。外れでしたわ」
 そうして、彼らの戦いは終わった。

●片付け&打ち上げ
 最終日。露天の片づけを終え、皆で打ち上げを行う事となった。
 3日の死闘とそれまでの地獄の準備で、職人達は1杯目の酒を空けた時点で皆、床と友達になっている。
「結構外れ多かったなぁ」
 奈々がぼやく。くじを作ったサラは微笑みつつグラスを空けていたが、勝率調整をした張本人が外れてしまったのだから何とも言えない。
「そう言えば、この通りの方々」
 ふと、アクテが思い出したように口を開いた。
「暗器が欲しいと言いましたら、出して下さったのですわ。ジャパン製の物が欲しいけれど、ここではなかなか手に入らないとおっしゃって」
「そう也な。ジャパン製の物は滅多にこちらには無い也」
「お話を聞いたら、暗器はたくさん持っているとおっしゃっていましたわ」
 はっきりと彼女は言わなかったが。
 皆は倒れ伏している職人達を見つめた。
「まさか、こんな隙あり過ぎの人達が?」
「幾ら何でも間抜けすぎだろ?」
「いい男で暗殺者って言うのはありがちだけどなぁ」
「廃業なさってからの期間が長すぎて、腕が鈍ってしまわれたのですわね」
「元盗賊が金を盗まれそうになったとは、聞いた事が無い也」
 危うくスリの子供達に売上金を盗まれそうになった店の顛末を話しながら、皆は笑った。
 
 実際に彼らが過去に何をやって来たのかは知らないが。
 本当にイギリスから団体でやって来た職人達なのか、それともイギリスから逃げてきた裏稼業の人達なのかは分からないが。
 痩せこけながらもどこか幸せそうな顔で眠っている彼らの姿は、平穏な生活を夢見る一般人にしか見えなかった。