【預言前調査】結婚は○○の墓場

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月16日〜01月21日

リプレイ公開日:2007年01月24日

●オープニング

 瓶の水も沼も人の血も凍りつくだろう。
 死者のよりの手紙は前触れなく届き
 村の中の栄光に包まれた碑(いしぶみ)は凍りつく。
 人々の願いは天に届くことはないだろう。

 穏やかな午後の日差しが降り注ぐ中。厳重な警戒をしている警備兵が見えるコンコルド城前の広場に、1人の女性がやって来た。緩やかに波打つ黒髪を揺らして、何気なくベンチに腰掛ける。
「このような所にお呼び立てなさらずとも、使いの方をよこして下されば宜しいですのに」
「せっかく貴女に会える機会が出来たというのに、それを他の者に譲ろうとは思わないよ、フロランス」
 背後の木に寄りかかっている男が、穏やかに話しかけた。金の髪が光を浴びて煌き、見る女性を虜にする微笑を浮かべている。最も、誰もその現場を目撃している者はいなかったのだが。
「情報がね」
 そして、彼は穏やかな口調はそのままに話し始めた。
 何者かの策謀で情報の流れが停滞しており、国王の元にそれが届くのが遅れかねない。迅速な対応が求められるのに、そんな事になれば致命的だ。だから正規のルートだけではなく、別ルートでの情報源も欲しい。
「君と繋がっている事が分かると困るからこっそり来てみたのだけれども、迷惑だったかな?」
「秘密裏にいらっしゃったのでしたら、そのようにおっしゃって頂かないと」
 辺りを窺うように目を配りながら、冒険者ギルドのギルドマスター、フロランス・シュトルームは答え。
「それで、何の情報を?」
「ノストラダムスについては、どこまで情報を?」
「ジーザス教白の神学者ですわね。預言書を記す前は、ノルマンに居なかったようですけれども」
「各地を転々としていたようだ。今は行方が知れなくてね。探している所だが」
「えぇ」
「他にも、復興戦争時に私が居た町村の石碑なども確認させている。ノルマン各地の直属の者も含めて動くよう指示を出しているが、足りている状態ではないな」
 フロランスは黙って頷いた。それは長年の経験で勘付いていたので。
「別ルートの情報源と、人手不足と。動いてもらえるかな?」
「承りました」
 静かに頭を下げた所で、男は頷きその場を去った。
 木の根元に、羊皮紙の包みを置いて。

 その夜。
 冒険者ギルド内の様々な係の責任者が集まり、会議を行っていた。
「では、お願いします」
 皆に事の次第が記された石版を配り、それに一同が目を通した所で、フロランスが号令を出した。
「必ずこれらの調査条件を満たす形で、足らぬところがないように依頼を出してください。これは、国からの依頼です。遅れれば、ノルマンに、引いては我々ノルマンの民にも甚大な影響を及ぼす事でしょう。良いですね?」
 皆は真摯な表情でその指示を聞き、しっかりと頷いた。

 俄かにギルド内は慌しくなった。
 ギルド員総出で様々な対応、分析。或いは書庫を漁って文献を取り出している者もいる。
「えぇと、この村は‥‥」
 ノルマン全土の簡易な地図を見ながら、受付嬢がペンでチェックを入れて行った。その後ろを通るギルド員は、大事な書物を運ぶのに忙しい。
「どーんと行って、ばーんとデビルでも何でも居て、すぱっと解決出来れば楽なのに」
 ぼそっと不謹慎な事を言った受付嬢と言うには少々年かさが増している女性は、皆に凄い顔で睨まれて仕方なく自分の仕事に取り掛かった。
「ん〜と、ここは‥‥国王が居た事がある教会、っと‥‥」
 細かい仕事が死ぬほど嫌いな彼女は適当に書き込みつつ辺りを見回し、ふと預言の文章を見やった。そして偶然同じものを見ていた男性受付員と目が合う。
「‥‥言っとくけど、デートの誘いは要らないわよ」
「誰がお前なんか誘うか」
 瞬時に一触即発の状況が出来上がったが、周りから鋭い視線でたしなめられて再び椅子に座り直す。
「‥‥で、何よ」
「『村の中の栄光に包まれた碑は凍りつく』。なぁ、いしぶみってさ。墓碑や墓石も言うんだよな」
「そんな事、計算に入ってるでしょ。復興戦争時に活躍して亡くなった人の石碑も調査対象に含まれてるんだから」
「そうじゃなくてさ」
 男は真剣な表情で呟くように言う。
「栄光って過去の物だけじゃないよな。今現在進行形の可能性もあるよな。それに、名誉とかすっごい事だけじゃなくて」
「すっごい事って何よ」
「うるさいな。とにかく、栄光って幸いをあらわす光でもあるんだよな。おめでたいしるしを表す光」
「それが何」
「最近、子供が生まれた村とか」
 男の必死の推理は軽く無視された。
「ちょ、何か言えよ」
「そんな事、どうやって調べるのよ。今からいちいちあちこちの領主に聞いて、どこの村に子供が生まれたか聞くわけ? 大体、おめでたいって言ったら結婚でしょ」
「何だと。結婚は人生のはか」
「‥‥依頼書は提出出来たのかな? アナスタシア君、ハイエル君」
 2人の背後から、静かな声が届けられる。2人はそのままかちこち堅い動作でマダデスと答え、大人しく席についた。
 ギルド内は再び張りつめた空気と慌しさを取り戻し、依頼を見に来た冒険者達も緊張した面持ちで壁を見始める。特別な、国家を揺るがすような、そんな大事な依頼ばかりが並ぶ特別な一角には、既に幾つかの依頼書が並び始めていた。
「‥‥『国王が幼少時に過ごした教会がある村へ行き、手掛かりが無いか探ってきてください』と。‥‥『幼少時に隠れ住んでいた村のひとつです』それから‥‥『この一帯はパリから北東に位置し、辺りに点在する村には石碑がそれぞれあるようですが、目的の村はそれらの中ではもっともパリから遠く、背後を森と山に囲まれた奥深い場所にあります。雪も深い場所ですから、足を取られないように注意してください』。‥‥これでいいか」
 ひとつ伸びをしてから立ち上がり、受付嬢(?)はそれを壁に張り付けた。そして一応誤字脱字が無いか確認して。
「‥‥『結婚は人生の墓場』か。‥‥まさか預言書を皮肉入れて書くわけないわよね。馬鹿馬鹿しい」
 呟き、彼女は休憩を取るために、部屋の外へと出て行った。

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea4757 レイル・ステディア(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ダセル・カーウェル(ea4066)/ ラーバルト・バトルハンマー(eb0206)/ ミラン・アレテューズ(ec0720

●リプレイ本文

●到着
 暴風や雪に注意するようにと言われて道中を進んだ冒険者達だったが、比較的苦労する事なく目的の村に着いた。
「少し風が強かったですけれど、無事着きましたね」
 愛驢馬を労わりながら、ミカエル・テルセーロ(ea1674)が皆を見上げる。
「まずは村長の方に事情を説明しましょう」
 同じく馬の手綱を引きながら、デニム・シュタインバーグ(eb0346)が村長の家を探して辺りを見回した。
「教会に宿を借りれないかも聞いてみようよ」
 やはり駿馬の首を撫でながらパトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)が言い、皆はまず村長の家に向かった。
「何や、この程度の風やったら、うま丹連れてくるんやったわ」
 妖しげな蓑を着た太めの河童、中丹(eb5231)は、村人達に遠巻きにされている。「化け物がいるよ!」と子供達に指差しまでされ、「東洋のこうゆう種族や」と説明するも、逃げられてしまっていた。
「毎回、説明しとる気ぃするわ‥‥」
「終わり良ければすべて良しですよ〜。活躍すれば、きっと皆さん見直してくださるですよ〜」
 エーディット・ブラウン(eb1460)が、横から間延びした調子で彼を一応励ます。そんな彼らを後方から護衛するように見守っていたレイル・ステディア(ea4757)も、ゆっくりと辺りを見回した。
「平和そうな‥‥村だな」
「ここが預言で指している場所だとは思えませんわね」
 天津風美沙樹(eb5363)も応じた。
 そうして彼らは村長の家へと向かう。だが、とても当てにならない受付嬢が出したこの依頼は、そもそも始めから間違いだらけの内容だったのだ‥‥。

●再出発
「え‥‥違う、んですか?」
 思わずまばたきして問うデニムに、村長は大きく頷いた。
「どういう事でしょう。僕達は、ここで国王陛下が幼少時過ごされたとお聞きしたのですけれど」
 ミカエルのきらきらした目に何故か動揺しつつ、村長はうむと唸る。
「確かに陛下がここを訪れたことはある。だが幼い頃と言うならば、ここから更に森のほうに行った所にある隣村の事だ。あそこには陛下を讃える碑もあるし、肖像画もしっかり教会に飾ってある。この村にも石碑はあるが」
「依頼書が間違っていたようですわね」
「‥‥ありえない受付員だな‥‥」
 あまりやる気の無い調子で説明をしていた受付嬢を思い出し、レイルは顔をしかめた。帰ったら2、3言、毒舌をかましてやらなければなるまい。
「一応、石碑と教会と調べようか」
「お墓もやな」
 一行は村内を回り、各々思う場所を調べた。見たところミストラルの被害もさほど無く、また石碑も、どこにでもありそうな国と王を讃える言葉が書いてあるだけで特別変わった様子は無い。
「‥‥行くか」
 一通り書き留めたりしたものの、『ここは違うな』感を感じ、一行は村を出る事にした。
「では、宜しくお願いします」
 愛驢馬を預け、ぺこりとミカエルが頭を下げる。その後方では、皆がせっせと美沙樹の馬に荷物を載せていた。とは言え、必要な物だけである。
「ここ数日行き来も出来ないなんて、どんな吹雪なのかしらね」
「ロープで縛って、はぐれんようにせなあかんな」
 この先は風も強く吹雪になる事もあるらしいので馬は1頭と決め、後は村で預かって貰う事にした。ここから隣村までは徒歩で半日もかからないと言う。だがそれも暴風次第。
 そうして彼らは目的の村に向かって出発した。

●預言
『瓶の水も沼も人の血も凍りつくだろう』
「これは‥‥どう言う事だ」
 思わずレイルが声を上げた。
 暴風と吹雪を交互に浴びながらようやくたどり着いたその村は。
『死者よりの手紙は前触れなく届き』
「こっち見て。凍ってる」
「どうして‥‥」
 雲の切れ間から光が注ぐ中、村の中を細かい雪が舞っていた。だがその下に広がる村の半分は凍りつき、氷像が織り成す輝きが、彼らの視界を埋めて行く。
「生きている人を探しましょう〜」
 間延びした調子の中にも緊迫した思いを込めて、エーディットが皆を見回した。そこで素早く彼らは4人と3人に分かれる。
「これ、血文字やわ」
 一軒の家の外で、ばら撒かれたまま凍りついた羊皮紙を中丹が発見した。
「『巨大な生物が飛来した。村の半分を凍結し立ち去った。吹雪は止まず、他に知らせる事も出来ない』。ここまではペンで書いてありますね」
 見える所をデニムが読み、赤く滲んだ言葉に目をやる。
「『やつらがきた。ふぶきのなかから。もう‥‥』。吹雪の中から‥‥?」
 同じように覗き込んでいた美沙樹も怪訝そうに首を傾げた。
「‥‥確か、他の調査依頼では村人が不自然に凍りついたという報告もあったようです。犬のような物の氷の彫像も。同じ、ですね」
 静かにミカエルが呟く。
「生存者が居ないか探しましょう!」
「この様子やったら、おらんかもしれへんわ。それより合流したほうがええんとちゃうかなぁ?」
 日が翳り、村内を寒冷たる風が吹き荒れた。4人は狭い村の中を注意深く進む。
「これ‥‥碑じゃないかな?」
 その頃パトゥーシャは、凍って傾いた石碑を見つけていた。
「国王様を讃える碑みたいですね〜」
「‥‥凍りついた碑」
『村の中の栄光に包まれた碑は凍りつく』
「これが預言‥‥なのか?」
 レイルの呟きが風に乗った。
「この村だけ預言の被害に遭ったですか〜?」
「もしかしたら、現在進行形‥‥?」
 エーディットの問いに答えたパトゥーシャの言葉に、3人は沈黙する。
「『人々の願いは天に届くことはないだろう』。この村を凍らせた生物がいて、それが今も動いて他を凍らせてたら。もう止めて欲しいのに聞いてくれなかったら?」
「全ては‥‥破滅に向かっていると言うのか‥‥?」
「それは困りますよ〜」
「村が寒波で壊滅するという読み方も出来るなと思ってたの。預言」
 話しながら、パトゥーシャはふと建物の裏へと入って行った影を見た。明らかに人ではない、獣の何か。彼女は皆に目配せし、3人は一斉に臨戦態勢を取った。

●墓場
 美沙樹の馬を一旦馬小屋に入れるべきかと凍結していない馬小屋を訪れた4人は、表面を霜に覆われた藁草と、何かを見つけた。
「‥‥あら。動物の子供がいるわね」
 藁の中でふわふわの逆立った毛玉のような物を見つけた美沙樹が、思わずそれに触れようとして獣の子と目が合う。
「まだ小さいですね。でも人が居ないのに動物だけ‥・・でしょうか」
「それ、狼やで」
 中丹に指摘され、皆の動きが止まった。そして、声は出ていないが威嚇体勢を取っている獣の子を再度見つめ。
「狼が村に住み着いて‥‥子供まで居るという事は‥‥」
「狼は群れで動くさかい、1匹や2匹や無いやろな」
「でもどうして、こんな寒い所に狼が」
 皆に意見を求めかけたデニムが、不意に殺気を感じて入り口の方を振り返った。その瞬間、何かが風のような勢いで飛び込んで来る。
「どうします?!」
 とっさにそれを避けようとするも腕を爪がかすめ、デニムは慌てて槍を構えつつ皆に訊いた。
「動物は出来れば‥‥とも言っていられませんね」
「外も何かいますわね」
 ただの野生の狼一匹など、勿論彼らの敵にもならない相手だが。問題は。
 横殴りに吹く風に雪が乗って視界が悪い中、その雪風の向こうから何かがやって来るのが見える。
「白い狼・・・・ですわ」
 馬小屋に入ってきた狼は倒して、彼らは外を窺った。取り囲むようにして歩み寄ってくる狼達、そしてその中央には雪に溶けるかのような白狼。
 彼らは武器を構えて、狼の集団を睨んだ。

「‥‥狼の巣になっていたか」
 一方その頃。3人は馬小屋とは逆側から狼の集団を見つめていた。
「あの白い狼はリーダーか何かかな?」
「雪から生まれたように真っ白ですね〜」
 間近で見ても、それが何であるのか彼らには分からなかっただろう。モンスターの知識に長けた者はいない。
「‥‥この狼を何とかしなければ、調査は進まない、か」
「生きている人がいないかも探すですよ〜」
「風が弱まってきたよ」
 様子を窺う3人の前で、突如狼達が動き出した。数匹が馬小屋の扉と窓から飛び込んで行き、唸り声と悲鳴とが混ざり合う。
「挟み撃ちだね」
 小屋の中で戦うには狭かったか。仲間達が出てきたのを見計らって、パトゥーシャが弓を構えた。先ほどまでの強い風は動きを緩め、矢の軌道も計算出来るようになったのだ。
「あたれ〜っ」
 矢は放たれた。その後を追うようにエーディットのファイアーボムが飛んで行く。
 一方馬小屋を出た4人だが、真っ先に出た美沙樹は白狼に襲われていた。とっさにそれをかわしクルスダガーで攻撃を仕掛けるが、相手は素早い。
「オーラパンチや!」
 横手から殴りかかった中丹の攻撃もひらりとかわされる。
「ただの狼じゃないですわね!」
 再度構えなおした2人だったが、そこへもう1匹の白狼が襲い掛かった。
「危ない!」
 デニムの声だけが飛んできた。彼は何とか白狼に向かおうとしたのだが、大変な事に、ほとんどの狼に襲われまくっていたのである。さすがに全ての攻撃は避け切れないし、着ているのは防寒服だ。それでも彼は必死で仲間の手助けをしようと2人を視界に入れていたのである。
「デニムさん。お酒、投げてください」
 唯一誰にも襲われていなかったミカエルがふと気付き、デニムに声をかけた。言われてデニムは地面に置いたパックパックから酒が見えているのに気付く。言われるままに酒を明後日の方向に投げると、大部分の狼がそちらに走って行った。
「‥‥?」
「犬を呼び寄せるお酒、でしたよね。『犬饗宴』」
 博識な彼の言葉に、デニムも気付いてそちらを見やる。狼達は競うようにして酒を舐めているようだった。
 一方、レイル達も狼達と混戦になっていた。中丹達を襲った白狼の1匹を相手にするが、レイルの攻撃は当たらず逆に傷を負う。パトゥーシャが狙いすまして撃った矢は刺さったものの。
「血も出ないなんて‥‥」
 一向にダメージを受けた気配も無かった。
「ファイアーボムを撃つです〜」
 そこへエーディットが皆に注意を促す。だが既に混戦状態。白狼と距離を置く事も出来ない。
「ほな。鬼さんこっちやで〜」
 足止めが出来ないなら誰かが囮になるしかない。とっさに最も移動力がある中丹が駆け出した。既に通常の攻撃では全く効果が無い事は分かっている。傷は付くのだが、すぐに癒えてしまうのだ。走る中丹と白狼の距離を見ながら、エーディットは素早く詠唱した。火の塊が飛び、中丹のすぐ後ろで爆発する。
「はい〜っ」
 衝撃で少々飛ばされた中丹だったが、白狼は炎に包まれて動きを鈍らせた。
「僕も‥‥マグナブローを。離れてください」
 ミカエルが詠唱を始め、皆はもう一匹を相手にする。やがて白狼を地面から吹き上げる炎が襲った。
「火は効果ありですわね!」
 明らかに動きの衰えた白狼を見、美沙樹が叫ぶ。それを聞いて慌ててデニムは狼が群がっていたバックパックへと駆け寄り、松明と油を出した。そして油を力任せに白狼に投げつけたが、それは大きく逸れて地面に落ちる。
「火をつけます!」
 火のついた松明を持って白狼に駆け寄ると、相手はデニムを避けるようにして動いた。そんなもう1匹の白狼へとファイアーボムが飛ぶ。
 それはぎりぎりの戦いだった。いつの間にか彼らは魔術師を守る組と囮組に分かれ、ひたすらウィザード達は魔法を打ち続けた。合間に襲い掛かってくる狼にはレイルのディストロイなどが飛んだが、やがて狼達はその場を逃げるように去って行った。だが、白狼は逃げない。
 魔術師の魔力が先に切れるか或いはという所で、1体が倒れた。もう1体へとひたすらファイアーボムを打ち込んでいたエーディットは、息を吐いて座り込む。休む間も無く魔法をひたすら撃ち続けていたのだ。当然だろう。
「もう‥‥後1回だって魔法は使えないです‥・・」
 座り込む2人をレイルが守り、後の皆は相当弱っている残り1体に油をまいて火をつけた。
 一体どれだけの間戦い続けていたのだろうか。いつの間にか差し込んできた光も、西に落ちようとしていた。

●帰還
 疲労と傷でしばらく休息を取った彼らだったが、日が落ちる前にと村の探索を再開した。
 教会を含めた半分以上の建物が凍り付いていた為、中に入ることも出来ないが、凍った羊皮紙などを持ち帰る事にする。
 村人は見つからなかった。骨や服の残骸は、凍結しなかった家の中から見つかったが。
「狼の村になってしまっていたとはな‥‥」
「生き残った人も、食べられてしまったのですわね‥‥」
 馬小屋で見つかった狼の子供の処遇は彼らも迷った。ここで生活し子供を産んだ親狼は、生きていれば必ず戻って来てまた住み着くだろう。
「ごめんね‥・・」
 親が来なかった場合も。その子に生きる術はなく。
「この村を凍らせたのは、何やったんやろ」
 そして帰り道。村を振り返りながら中丹が言った。
「白い狼は魔法も使わなかったですわ」
「‥‥向こうの森」
 ふとレイルが気付き、風に揺れる森の木を指した。
「凍ってないか?」
 言われて皆もそちらを見つめる。確かに部分的にだが木々が凍っているようだ。
 彼らは不思議に思いながらも隣村へと歩いて行く。
 
 それが何なのか。
 数日後。彼らはギルドで張り出された依頼書を読んで知る事になる。