【凍る碑】避難作戦〜師匠と探索〜
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月28日〜02月02日
リプレイ公開日:2007年02月05日
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●オープニング
その日、パリに1人のドワーフが再訪した。
シャンゼリゼ前で馬車を下ろしてもらい、その辺をうろうろし、辺りをきょろきょろ見回している。
「‥‥何かお探しですか?」
そんな彼とほとんど目線の変わらない少年が声をかけた。黒色と茶色の斑模様の髪が印象的だ。
「待ち合わせをしておるのじゃ。でも、なかなか来ないんじゃ‥‥」
「一緒に待ちましょうか?」
初めて見るドワーフに興味を覚えたのか。少年も一緒に人を待つことにした。だが待てども来ない。
いい加減体も冷えてきた少年は、ふとドワーフが手に持っている木板に気付いて尋ねた。
「それは?」
「おぉ。これは、シフール便で手紙を出す前に、同じ物をここに写してもらったものじゃ。わしは字が書けんから、穴掘り仲間のドビンに書いてもらったんじゃ。でも、ドビンも最近字が書けるようになったと言うておったから、間違っとるかもしれんのじゃ。読んでもらえんかの?」
言われて少年は頷き、木板を受け取ってから一瞬固まった。
「どうかしたかの?」
「‥‥えっと‥‥読みますね。『あいしんなるへーえ。いくパリあした。たのしいほるむら。まつまえさけ』」
「‥‥」
「‥‥」
「待ち合わせ場所が分からんのじゃ!」
「‥‥多分、日にちも分からないと思います‥‥。それに、宛先が‥‥」
「んむ?」
「『どこかパリ。へー・ろー』になってます‥‥」
どう考えても相手に届いていないだろうその言葉に、ドワーフはうーんと唸り。
「冒険者じゃから、ギルドに行けば会えるかもしれないのじゃ!」
叫んで、重そうな荷物を小さい体にかつぎ、てけてけと走り出した。少年も少し物持ちを手伝おうとしたが、見るからに重そうだったので言うに言えず。
そして2人は冒険者ギルドの扉を開いた。
「すごい人ですね‥‥」
ギルド内はたくさんの人で賑わい、慌しく走り回る人や何かを言い争っている人、緊張した面持ちで壁を見つめる人々などが見受けられた。
「何があったんじゃろ?」
てくてくとカウンターまで出向くと、以前彼の世話をした受付員が気付いて声をかける。それへと2人は何があったのか尋ねると。
「一般の方を守るため‥‥我々は、やらなければならない事があるのです」
真剣な表情でそう返された。だがふと、気付いたようにドワーフを見つめる。
「そうだ、ドミルさん。確か、あなたのご趣味は穴掘りでしたよね? 実は冒険者の方から、例年に無い寒さから人々を守る為、山や土の下に穴を掘って、そこに一時だけ避難するのはどうか、という案が提出されておりまして。例えば‥‥広い洞窟とか、そういう所に」
「今からたくさんの人が入れるような穴を掘ったら、春になっても終わらんのじゃ」
「‥‥そうですよね‥‥」
がっくりと肩を落とした受付員。だがドワーフは少し経ってから口を開いた。
「わしは昔、ノルマンのあちこちで穴掘り修行をしとったんじゃ。その時、あちこちで洞窟とか掘った跡とか見つけたんじゃ。結構大きい所もあったぞ。先に住んどる事もあったが」
「‥‥人がですか?」
「熊とか、怖い顔した人間が、きーきー鳴きながら襲ってきたのじゃ」
それは人間じゃなくモンスターじゃないのかと受付員は思ったが。
「その時にわしが掘った所もたくさんあるのじゃ。それで、どこの話なのじゃ? 冬の間、そこで人間が暮らすというのは」
問われて意を決し、彼は告げた。
暴風が襲っている地帯の人々を避難させる為、冒険者と共に行って欲しいと。
預言の事、モンスターの事は言わずに。
●リプレイ本文
●再会
「むっ。師匠ではありませんか!」
依頼を受けた一同は、何故かエチゴヤ前に集まっていた。
「ケイなのじゃ!」
喜び駆け寄ってきたドミルとケイ・ロードライト(ea2499)が再会を喜び合っているのを見て、羽鳥助(ea8078)は首を傾げた。
「あれ。じーさんの名前ってドミルじゃなかったっけ」
ケイなのじゃ、ケイなのじゃとドミルは喜び跳ねている。自己紹介をしている風に見えなくもない。
「お久しぶりです、ドミルさん」
「皆さん、宜しくお願いしますわね」
師弟の弾む会話が一段落した所で、アリスティド・メシアン(eb3084)とポーラ・モンテクッコリ(eb6508)が声をかけた。ドミルは振り返り、アリスティドの防寒服を彩る、バラの花が美しいブローチを眺めて嬉しそうに笑った。
「大事にしてくれとるんじゃな。職人冥利に尽きるのじゃ」
言われてアリスティドも微笑む。そんな皆の様子を眺めていた羽鳥は、ぽんと手を打った。
「そか。みんな知り合いか〜」
「前にドミルさんとパリ観光をしたのよ」
「あ、それいいな。俺もやりたい」
「パリに居るならいつでも出来るだろう?」
「違う! 大勢で観光したいんだよぉ〜」
「皆でわいわい言いながら回るのは楽しそうなのじゃ」
「ふむ。では、機会があったら皆で大観光を組みましょうぞ」
出発前から盛り上がりつつ、彼らはエチゴヤに入った。
何故そこが集合場所だったのかと言うと、せっかくパリに来たのだから記念にとドミルが寄りたかったらしい。そこで皆はドミルに付き合って、まず買い物を行う。
そうして買い物を済ませ、一行はパリを出発した。
●避難所探し1
最初にドミルが向かった洞窟は、最もパリから近い場所にあった。
「では、私が地図を書きますぞ」
そう言いつつ筆記用具を忘れてきたケイは、慌ててポーラから借りて書き始めた。
ランタンを持ち、一行は暗く静まり返った洞窟に入る。先頭を羽鳥。次をドミルと地図描きのケイが続いた。どちらにせよ小さな集団である。余程狭い道で無い限り戦闘になっても入れ替えは可能だ。
「異臭は‥‥なし、と」
音だけではなく臭いにも注意しながら進むが一本道は続き。
「‥‥あれ。もう行き止まり?」
行く手を遮られて羽鳥は皆へと振り返った。
「崩れた跡がありますな。これは‥‥危険ですぞ」
ふむふむと真剣な表情で壁を見つめたケイが言い、ドミルはぴょんと跳びあがった。
「おぉ。勉強したのじゃな!」
「独学ですが、必要な知識と技術は習得致しましたぞ」
「素晴らしいのじゃ」
再び喜ぶ師弟を見つめるアリスティドの口元が緩む。それに気付いたポーラが彼を見上げて笑った。
「何か思い出したの? 少し嬉しそうだわ」
「あぁ、いや‥‥。そうだね。同じ物を見つめて同じ事に夢中になれるのは、やはり良いなと思ってね」
「同じ趣味とかあると盛り上がるよな」
うんうんと頷く羽鳥。避難する人々が暮らす場所を探そうかという風には見えない穏やかさで彼らはしばしその場に留まり。結局、長年この辺りには来ていないから崩れていたりする洞窟は結構あるだろうというドミルの言葉に納得して、その洞窟を出ることにした。
●避難所探し2
次の洞窟は、少々深い森の中にあった。
「何か出そうね」
「出来れば穏便に済ませたいですぞ」
「モンスターじゃなくて動物とかなら、アリスさんの穏便な魔法で何とか出来るんだろうけどなぁ」
「テレパシーが通じる事を祈るよ」
再びランタンに火を灯して、彼らは鬱蒼とした洞窟へと入って行った。
今度も道は分かれておらず、彼らは順調に進んで行ったのだが。
「‥‥何かいる」
声を潜めて、羽鳥が皆に合図した。そうして1人そろそろと奥へと向かい‥‥。
「‥‥」
暗闇の中に光る2つの目と、目が合った。
「くっ‥‥くま〜っ」
戦闘態勢を取った熊から慌てて逃げ出した羽鳥に代わってテレパシーで話しかけようとしたアリスティドだったが、見た瞬間、これは無理だなと察知する。かなり気が立っている様子だ。
「別の冬眠場所になるような‥‥洞窟はありませんか」
熊から目を離さず尋ねたアリスティドだったが、ドミルは近くに無いと答えた。
「私が盾になりますぞ! 一旦ここは引いたほうが良いでしょう」
「多少の傷ならリカバーで回復可能だわ。がんばって」
刀を構えて熊の注目を集めたケイの後ろに下がり、アリスティドは片手で印を結ぶ。熊が居たということは、この洞窟は安全である可能性が高い。出来れば場所を譲ってもらいたい所だったが、だからと言って罪の無い先住者を当ても無く追い出すのは気が引けた。
結局スリープで熊を眠らせ、皆はその洞窟を後にする。なかなか避難所探しは簡単には終わらないようだ。
●避難所探し3
野宿は次の洞窟前で行った。まだ安全は確認されていなかったが、森の中はモンスターが危険。平地は強風が危険とあって、結局どこでもあまり変わらないと思われたからである。
翌日、彼らはその洞窟へと入った。ポーラは最初の洞窟から入るときは必ず布を口に当てており、皆も彼女から布を貰って進んだ。最も手に持っていたのではランタンも持てないので、羽鳥は自分の越後屋手ぬぐいを巻いている。傍目には怪しい集団にも見えるが、彼らは真面目に探索を開始した。
「ここは‥‥結構良さげな洞窟では無いですかな? 適当な広さ、温度、特に変な生物を住み着いていないようですし」
「でも、何か‥‥変な臭いしない? 俺だけ?」
皆が首を振ったので、羽鳥は首を傾げて辺りを見回す。
「助は嗅覚が鋭いようだし、注意したほうがいいな」
「まぁ俺、忍者だしねっ」
「どんな臭いなのかしら」
皆が話す中、ドミルは周囲をうろうろしている。そして、一箇所で立ち止まった。
「これは‥‥触ると危険なのじゃ」
「どれです?」
弟子が覗き込み、ドミルは色の違う岩を指す。
「でも臭いはほとんど無いと思うのじゃ」
「ん〜? じゃ、何だろ?」
言いながら、ふと羽鳥は振り返った。臭いが近付いてくる。
「何か来‥‥っ」
その時には、彼らにもその姿は見えていた。黒光りする巨大な‥‥。
「蟻〜っ」
「冬なのに蟻っ」
「あ、そういえば前もこういうの居たのじゃ〜」
「そういう事は先に言っていただけるとっ」
「忘れておったのじゃ」
ドミルよりも大きな蟻が2匹。彼らに向けて頭を上げた。相手が虫ではアリスティドの魔法も使えない。ケイと羽鳥が前に出て戦うが、ドミルも担いでいた荷物を下ろしてつるはしを取り出し、えいやと攻撃を始めた。
そうして時間がかかったものの、何とか彼らは巨大な蟻を倒す。待っていたポーラに傷を癒して貰い、しかし先ほど探索した時は何も居なかったのにと皆は首を傾げた。
「気付かない場所に横穴でもあったのかしらね」
「蟻は1匹見れば100匹なのじゃ。この洞窟の下に、巣穴があるのかもしれんから危険なのじゃ」
言われて彼らはその洞窟を後にした。
●清掃開始
そうして彼らはその後も探索を続けた。ある場所は壁や天井が崩れて鉱毒が発生しており、慌てて解毒するという事もあった。比較的近い場所に幾つか洞窟があったものの、ゴブリンの住処になっていたり、ほとんどが水に埋まっていたりしてなかなか良い場所が見つからない。
だが遂に、彼らはその場所を発見した。
「ここは地下も深いし、なかなか暖かくて良い場所だと思うのじゃ」
一通り回ったが決して広い洞窟ではない。だが適度に広い空間があり、蝙蝠もモンスターも住み着いていない。おまけに。
「これは‥‥誰かが住んでいたようだね」
あちこちの広間に確かに人が居た気配を感じ取って、アリスティドは呟いた。
「この椅子、もう一回座れるように出来ないかな」
壊れた椅子を無理矢理起こして何とかしようとする羽鳥に苦笑を返しつつ、アリスティドも使える物が無いかを探して回る。一方ケイは。
「師弟の証のつるはしですぞっ」
バックパックからつるはしを取り出し、ドミルの目を輝かせていた。
「素敵ね。私もスコップは持って来たわ」
「ふむ。崩れた箇所などを補強するのじゃ」
ドミルの指示で、3人は洞窟内の危険区域と思われる場所には木の板を置いて封鎖して周り、少し補強が必要な場所はロープも使って壁が崩れないようにした。
「これ。エチゴヤで欠けた植木鉢もらってきたけど、燃やして炭にした木とか入れてあったかくなるかな」
「お。それはいいですな」
「ケイさんが言ったんだよな? ジャパンの暖の取り方って」
「おぉ、そうでしたな」
ぽむと手を打ったケイを見ながら、似たもの師弟だなと密かに思う羽鳥。
やがて彼らは近くに小川がある事と、付近にモンスターの巣が無い事も確認した。
「じゃ、大体掃除済んだかな?」
人が住んでいたとしても10年以上前だと思われる、彼らが残して行った壊れた物を再利用できるかもしれないからと一箇所に固める。それから、山の逆斜面まで真っ直ぐ繋がっていた洞窟の向こう側は風が弱い事を確認し、そちらにテントを張ったり火を焚くと良いのではないかと話をまとめた。出入り口が2箇所では風が通って寒いだろうから、洞窟の形に切った木製の臨時扉をつけるのもいいかもしれない。だが下に下りれば風はそこまで通らず、それなりに快適かと思われた。
「よし。じゃあ、鳴風。がんばろうな」
愛馬に乗って、羽鳥は洞窟を出て行った。避難する人々が強風と寒さから耐える為に設けた避難所が出来たと、仮に彼らが避難した場所に行って伝える為に。
後に残った皆は、その後も作業を続けることにした。
●酒宴
「では、師匠。ワインを飲みましょうぞ」
一通り作業が済んだ後。羽鳥と避難する人々を待ちながらケイがワインを取り出した。
「おぉ。飲むのじゃ!」
「今度は潰れませぬぞ〜。シャンゼリゼの時のリベンジですな」
「じゃあ、僕も少しだけ付き合おうかな」
「絶つのは得意だけど飲むのは得意じゃないのよね。でも一緒に楽しもうかしら」
「がんがん飲む必要はないのじゃ。楽しく飲むのが一番なのじゃ」
「そうですぞ!」
言いながらワインを注ぐケイの指には、塗れたような木製の指輪がはまっている。実は酒にちょっと強くなる指輪なのだが、元よりさほど強くない彼に、どれだけ効果があるものか‥‥。
「む。そう言えば、セーラ様に祈りを捧げる場所を作り忘れてましたな」
「あら。先ほど奥の間に作ると言ってたわよね? あたし、だから台になればいいと思って壊れたベッドを運んだのだけれど」
「‥‥そんなに力があるとは思わなかったよ」
「無いけど頑張ったのよ。礼拝所は大切だわ」
「全くその通りですな。女性にそのような事をさせるなど、私も騎士としてまだまだです」
話しながら飲み続ける彼らの耳に、馬の嘶きが聞こえてきた。
「ただいま〜っ。もうすぐ騎士の人が来るって‥‥あ〜っ。何で宴会してるんだよっ。俺は? 俺の分は?」
洞窟内に駆け込んできた羽鳥は、目の前で繰り広げられていた光景に落胆して膝をつく。
「そういえば‥‥もう無いな」
「保存食ならたくさんあるのじゃ。たくさん食べるといいのじゃ〜」
「‥‥肉が食べたいな‥‥」
「あ、そうです。実はさきほど捕った兎がですね‥‥」
「やった。にく〜っ」
喜ぶ羽鳥を笑いながら皆は出迎えた。
そうして様子を見に来た騎士達が洞窟にやって来た時には、一部の冒険者はすっかり酔っ払って倒れており、また他の冒険者は食べ過ぎて倒れており、残る冒険者達が出迎えてくれたものの、あまりの和みぶりに彼らは笑いつつも呆れていた‥‥らしい。