初めての冒険者譚

■ショートシナリオ&プロモート


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月15日〜10月20日

リプレイ公開日:2006年10月21日

●オープニング

 夕刻過ぎの酒場。
 扉が開いて、涼しい風と共に1人の女性が入ってきた。歳は20歳目前、くらいだろうか。帽子に羽をつけ、軽やかな足取りで颯爽と歩いてくる。
「歓談中、ごめんなさい〜。ちょっといいですか?」
 1つの卓に割って入ると彼女は、羽が真横に来るように帽子を直した。
「貴方達、冒険者ですよねぇ? お願いがあるんです」
 カウンターから空いている椅子を持ってくると、無理矢理その卓に椅子を入れる。
「私は、ヨーシア。いつか、あちこちを旅して旅行記を書きたいなぁ、と思っているんです。それで、書いた読み物を酒場なんかに貼らせてもらえたらな〜、って。と言っても。今日がその出発点なんですけどね!」
 古いワインを頼んで、ごくりと飲み干すと彼女は更に続けた。
「それで、まずはやはり、日々旅と冒険に明け暮れている冒険者の方から、いろいろお聞きして学んだり、読み物のタネにさせてもらったりしようかなぁ、って思ってます。そ・れ・でっ」
 端がぼろぼろになった羊皮紙を取り出し、ヨーシアはぐるりとそこに座る人々を見回した。
「貴方達の、今までに経験した冒険の中で。一番印象に残る、ど〜んとかっこ良かったやつを、私に話してもらえませんか? 報酬は、とっても少ないですけど、お支払いしますので!」
 そして彼女はペンを手に取り、にっこり微笑んだ。

●今回の参加者

 ea7191 エグゼ・クエーサー(36歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9412 リーラル・ラーン(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2321 ジェラルディン・ブラウン(27歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785

●リプレイ本文

 秋風薫る宵闇頃。まだ混雑するには早いからだろう。酒場内の客は幾分まばらだったが、たまたま4人の冒険者達が、その卓には座っていた。
「・・他人に武勇伝語れるほど、歳食ったのかな、俺も」
 ヨーシアの言葉に、エグゼ・クエーサー(ea7191)が呟く。
「印象深い冒険は幾つかあるが・・・・」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)も頷いた。
「初めましてヨーシアさん。私はジェラルディンよ。よろしくね」
 ジェラルディン・ブラウン(eb2321)がにっこり笑うと、リーラル・ラーン(ea9412)が立ち上がり、落ち着いた佇まいで、
「初めまして。水のウィザード、リーラル・ラーンと申します。本日はよろしくお願いします」
 と、お辞儀して椅子に座りかけ、何かに躓いて額をテーブルにぶつけた。
「・・・・」
 派手な音も相まって、傍を通り過ぎる人々も振り返るほどだったが、リーラルは何事も無かったかのように微笑む。

「・・えーと、では、お1人ずつお話を聞いて行こうと思います〜・・」
 敢えてリーラルの行動には突っ込みを入れず、ヨーシアは一同を見回した。とりあえず貴方から、と指されたエグゼは、黒い双眸を柔らかく細めながら少し考えた後、まず自己紹介をしてから話しを始めた。
「もう一年半以上前の事件になるのかな。リアンコート領の領主の屋敷から使用人の女の子が解雇されたんだ。原因は屋敷のワインを盗み出したことなんだけど・・なんで宝石みたいな高価な物を無視してワインを盗んだのか。そういう不審な点があったからシャンティイ領の領主・レイモンド卿が所有する騎士団?メテオール?所属の騎士・フェールと一緒に調査に出かけたんだ」
「ふむふむ。ワイン大好きな子だったんでしょうかねぇ?」
 メモを取りながら頷くヨーシアに、エグゼは苦笑しながら首を振る。
「顛末は後から。・・調査した森は不思議な森で、霧に包まれると幻覚を見るって噂があったんだ。実際フェール君は幻覚見て、危ない状況になっちゃったんだけど」
「どんな状況に?」
「戦闘中に、いきなり1人で森の奥に走って行ったんだ。意識を取り戻すのに、しばらく時間がかかったよ」
「ははぁ、なるほど」
「でもその霧は、妖精だの悪魔だの人外ものの仕業じゃなくて、その正体は・・・・」
 少し言い淀んだエグゼに、ヨーシアは身を乗り出した。
「大麻だったんだ」
「はい? 大麻? こっそり植えてたです?」
「いや、森に始めから生えてたみたいだよ。それをリアンコートの領主が利用してた。前々からリアンコートの領主には悪い噂があったんだけど、それが大麻の密売って形で現実のものになったんだ。解雇された女の子は、偶然その断片を知ってしまったから森に放置され、大麻の幻覚症状で口封じされていたんだ」
「はぁ〜・・・・。それで、その女の子は無事だったのです?」
「うん、最初は中毒で顔色も悪かったけどね。でも何日か後にはすっかり元気になっていたよ。その後数々の調査で、領主と大麻の件が悪魔崇拝団体?フゥの樹?と関わっていることが分かった。それで、領主を捕縛しに彼の屋敷へ乗り込んだ」
 そしてエグゼは顛末を語る。途中までは上手く行っていたが悪魔が現れたこと。そして領主の命を奪って姿を消してしまったこと。悪魔は消えてしまったけれど、事件は解決したということ。
「なるほど。ワイン1本から大きな話となったわけですね。ありがとうございました」
 ヨーシアはメモを取り終えると、その右隣に座っているデュランダルへと向き直った。

「俺か・・。印象深い冒険は幾つかあるが、一番と言えるのは黄泉大神との戦いだろうな。余り格好の良い話ではないが」
 デュランダルは、その身に包む漆黒の衣装に相応しい静かな佇まいで、話し始めた。
「あれはちょうど一年前になるか。当時俺はジャパンの京都を拠点にして依頼を受けていた。その頃京都は、死人の群れが民を襲う黄泉人騒動のさなかにあった。討伐軍が立ち上げられ、大規模な討伐が行われていた」
「ははぁ・・。死者の分まで、住む家は用意出来ないですもんねぇ」
 ヨーシアの変な反応は無視して、デュランダルは話しを続ける。
「敵の本拠地は突き止めたが、そこは石舞台古墳から繋がる黄泉比良坂の最下層だった。場所柄、大軍を送るには向かず、かといって並の兵では古墳を突破することもかなわない。そこで当時最強と謳われた新撰組一番隊と、熟練の冒険者数名から『黄泉比良坂決死隊』が組織された。俺はその一員として黄泉比良坂に乗り込んだ」
「おぉ〜。どきどきしますねぇ」
「戦いは熾烈を極めた。一番隊の隊士は大半が戦死し、俺の持つ魔剣でさえ、ガタがきて切れ味が鈍るほどのものだった」
 魔剣と聞き、ヨーシアはそろりとデュランダルの腰の辺りを覗き込んだ。だが柄の部分だけを見て、慌てて首を引っ込める。
「そして、何とか最下層に達し、敵の親玉、黄泉大神に戦いを挑んだ。だが、さすがに「神」と名乗るだけの事はあって、黄泉大神の力は想像を絶するものだった」
「具体的には?」
「・・力の差が有り過ぎた。咆哮も、振り下ろした一撃も、戦いが長引けば、確実に我々が全滅するだろうと思えるほどに。一時は死を覚悟したが、一番隊隊長、沖田総司殿の助けもあって何とか勝利を得ることが出来た」
「おぉ〜」
 ヨーシアは、ぱちぱちと手を叩いた。
「いや正直な所、総司殿と彼の持つ剣の力で勝つことができたというべきだろうな。後に判ったことだが、彼が振るった刀こそ、あの伝説の『シープの剣』だったそうだ」
「シープの剣。何です?」
「破壊の剣、天空の剣などと呼ばれる伝説の剣の事だ」
「伝説! 何か格好いいですね!」
 すっかり感嘆した面持ちで、ヨーシアはメモをテーブルに置いた。

「次は私、ですね?」
 そして。まだ額に丸い痕を残しながら、リーラルが頷いた。
「もう一年以上になりますね。伝説のうさみみを作りたいというお嬢さんと一緒にうささんを探しに出かけたのは。伝説の兎さんがいることを願ってですねぇ、こうして」
 言いながら、リーラルは頭の上に両手でうさ耳を作って見せる。
「した後、その兎さんがいると言う噂の場所にいったんですよー。うささんは首狩り兎という種類のうささんでして、皆さんのご協力の下なんとか捕獲成功したんですね〜」
「首狩り・・ですかぁ・・」
 首を押さえながら、ヨーシアは泣きそうな顔になった。
「しかしですよ。その後、獣耳は猫耳だ! と主張する人に職人さんが連れ去られまして」
「ふむ」
「色々あって、みんなでにゃんこ仮面さんたちを捕まえまして」
「はぁ。にゃんこ仮面さん」
「『獣耳はどんなものでもかわいいと思いますよ』と私の考えを述べさせて頂きました」
「・・まぁ、そうですけど」
「その時にですね。友人に『まるごとうさぎ』をもらいまして」
「・・まるごとうさぎ? 食べ頃の兎です?」
「これです」
 嬉しそうにリーラルは、いそいそと『まるごとウサギさん』を着込んだ。巨大ウサギに変身したリーラルだが、明らかに防寒着なので多少暑そうに見える。そして、突然酒場内に現れた巨大白ウサギの背後では、店内に入ったばかりの客が、モンスターかと一瞬逃げかけたり、子連れの客が、背後から蹴りを入れようと企んでいる子供を必死で止めたりしていた。
「これを着て、その職人さんを助けに行ったんです。その後、無事伝説のうさみみが出来上がりましたよ」
 そんな後方の小さな騒ぎには気付かず、そのまま窮屈そうに椅子に座り直しながら(又、頭を打たないか皆をはらはらさせたが)リーラルはにっこり微笑んだ。

「あなたは新人なのね。私もそれほど熟練しているとは言えないけれど、経験した幾つかの冒険のうちの一つを話させて貰うわ」
 最後に、ジェラルディンが口を開く。銀髪に赤い瞳が印象的な娘だ。
 いつの間にか、夜もすっかり更けたのだろう。店内を喧騒が取り巻き始め、最早小声では互いの会話もままならない。彼女はやや声の高さを上げて、語り始めた。
「そうね。パリ近郊のとある村を震撼させた、恐怖の誘拐魔『RUNデブー』の話をしようかしら」
「ランデブー・・です?」
 ジェラルディンは頷き、話しを続ける。
「あれはもう去年の話になるのね。近郊の村で、若い女性が次々と攫われる事件が起きたの。私達の調査の結果、犯人は異様に湿っぽくて脂肪分の多い、かつて人間フォアグラと呼ばれた凶悪な男『RUNデブー』という事が判ったわ」
「それは・・何とも嫌な話ですねぇ・・」
 大仰に顔をしかめて、ヨーシアは首を横に振った。
「奴は首が無くて、宿の入り口につっかえてしまいそうという体型に似合わず、足も速くて魔法まで使う上に、衝撃を脂肪で吸収してしまう強敵だったの」
「うわぁ・・」
「そこで私達は、彼の女好きという性質を利用して、普通の村娘を装った囮作戦で誘き出して捕まえる事にしたのよ。作戦通りRUNデブーは現れたんだけれど、さすがに強敵だけあって、とても苦戦してね。捕獲は困難を極めたわ」
「捕まえるのは大変そうですよね。掴んでも、お肉の脂でつるっと行きそうな・・」
「そうね」
 あっさりとジェラルディンは肯定した。 
「でも、私達が額に肉って書いたり、『体型が歩く非常食なんて事は気にしない』と、心を込めて説得したら判ってくれてね」
「額に肉」
「額に肉」
「体型が歩く非常食」
「『人間フォアグラな体型でも誰も食べたりしないから』と慰めたら、彼も最後は涙を流して改心してくれたの」
 隣のテーブルまでを静寂に包みこんで、ジェラルディンは手元のグラスに口を付けた。

 後日。
 酒場の壁に、一枚の羊皮紙が貼り出された。
『冒険者に聞く! 貴方の心に残る冒険とは?!』
 一行目にはそんな文句。そして。
『いつも私達の平和を守る為、日夜冒険に身を投じている冒険者の皆さんに、聞いちゃいました。
そう、沢山の冒険をこなしている彼らにも、心に残る大切な冒険があったに違いありません。今でも忘れられないような。
そんな冒険譚を、冒険者を代表する4人の方々に聞いて参りました。一生懸けても私達が聞くことも、体験することも出来ないようなお話を、是非貴方も読んで、体験してみてください・・・・』