盗賊王の秘宝〜山猫傭兵団〜
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:02月02日〜02月07日
リプレイ公開日:2007年02月11日
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●オープニング
彼は冒険者ギルドの向かい側の壁に寄りかかり、ギルドを出て来た冒険者達を値踏みしていた。
別に、念には念を入れて実力を推し量っていた、というわけではない。勿論彼には1人1人の実力と経験が大体読めていたけれども。どちらかと言えば、彼は自分の勘に頼って冒険者達を観察していた。
「‥‥何か用」
時には彼の眼差しに苛立ち、或いは気に掛かり声をかける者もいたが。彼は黙って首を振って彼らから目を逸らした。
そうしてどれくらいの時が過ぎただろうか。ふと彼は体を起こしてギルドのほうへと足を進めた。決して足早では無いが、すぐにギルドを出て来た者達に追いつく。
「あんたら、冒険者だよな。依頼ってわけじゃないけど、ちょっと話、聞いてみないか?」
振り返った冒険者達に、彼は口の端を上げて笑いかけた。
彼に連れられ入った店は、裏通りに面した大きくない酒場だった。だが、酒場内は既にほぼ満席状態である。
「ここは俺達の溜まり場だ。こいつらは俺の仲間」
2卓しかないテーブル席の1卓には、4人の男達が座っていた。
「右から、シアン、ワゾー、シュヴァル、セルパンだ。俺はシャー」
そう紹介された名前は、明らかに偽名だった。
「いや、偽名じゃないけどな。呼び名だ。他にも仲間はいるけど、今はアジトにいるからな」
「団長。アジトなんて呼び方。何か俺達が悪い事してるみたいじゃないですか」
「『団長』は止めろって言ってるだろ、シアン」
言いながら用意された発泡酒を飲み干す。そして、冒険者達に空いた席を勧めた。
だが、この席に居る者達も、周りで飲み食いしている者達も、はっきり言って見るからにガラが悪い。酒場内も薄暗く、女性の姿は全く無かった。
「‥‥それで、盗賊王のひ」
「大声を出すな」
標準的な大きさの声で問いかけようとした冒険者の1人に、シャーが鋭く注意を促す。そして追加注文した発泡酒を皆に勧めた。
「‥‥秘宝の話を聞きに来たんだ。飲みに来たわけじゃない」
「あぁそうだろうとも。だがな。物事には順序ってもんがあるんだ」
無理矢理冒険者達に酒を飲ませながら、男達は世間話を始める。隣の家で時期外れの山羊が生まれただの、今年は寒くて腰が痛いだの、実にたわいない話を。そうして彼らの周りに居た客達が外に出て行った所で、シャーがグラスを置いて冒険者達を真っ向から見つめた。
「じゃ、『盗賊王の秘宝』について話そうか」
見つめると引き込まれそうな双眸が、子供のようにきらきらと輝いた。
『盗賊王の秘宝』。
それは、遠い昔。伝説の盗賊王が持っていたとされる宝の事だ。
盗賊王は多くの盗賊達を束ね、遂には1国を築き上げる所まで上り詰めたと言う。だがその直前に暗殺され、野望は適わなかった。しかし盗賊王が多くの者達を纏め上げる事が出来たのは、『秘宝』の力を借りていたからなのだと言う。
『秘宝』は人心を操り思うがままに動かす力を持ち、それによって戦わずして巨大な力を手に入れる事が出来た盗賊王は、身の程知らずにも1国の王になりたいと野望を持ち、それによって殺されてしまった。だが、秘宝は人の手の間を点々と渡り歩き、今は。
「どこにあるか分からないんだよな」
「伝説なんだろう? 本当に存在するかどうかも分からない秘宝を探しているのか?」
「あぁ。面白そうじゃないか。伝説の秘宝だぞ」
彼らは笑って言い。
「けどまぁ、どちらかと言うと秘宝は後からついてきたんだけどな」
と妙な言い回しをした。
「盗賊団の間で、ずっと言い伝えられてきた『秘宝』。これを狙って最近盗賊団同士の抗争が始まっている。あいつらが勝手にやり合う分にはいいんだけどな。けど、関係無い村に押し入って秘宝探索ついでに強奪したり、森に住むエルフ達と騒動をやらかしたり、はっきり言って迷惑だ。それで俺達が雇われたわけだ」
「お前達は盗賊じゃないのか?」
「俺達は『山猫傭兵団』。あちこちの領主や町やらに雇われて日銭を稼いでる。まぁ、お前ら冒険者とあまり変わらないけどな。でも、盗賊団とは因縁もある。それにもしも、あいつらに『秘宝』が渡ってみろ。最近流行りの『預言』と変わらない厄介事が起きるかもしれないよな」
預言が今ブーム、と言うのは何とも嫌な響きだが、冒険者達も話を聞いて頷いた。
「盗賊共を何とかするのに俺達だけじゃ心もとない。後、『秘宝』を探す手伝いもしてもらいたい。頼まれてくれないか?」
そう言って、シャーは革袋をテーブルの上に置いた。
秘宝は緋色の玉のような形をしている。
そしてそれは、地中深くに眠っているのだと言う。
「盗賊達を出し抜いて、盗って来ようじゃねぇか。目をつけてる洞窟があるんだよ」
その場所は。
●リプレイ本文
●聴取
パリを出て洞窟までは徒歩である。
「ところで、秘宝の情報はどちらで入手されましたの?」
戦女神をイメージした格好のリリー・ストーム(ea9927)が、傭兵達に脇から近付きながら尋ねた。礼儀正しく接しているが、妙に艶かしい。
「リリー。もう少し離れたほうが‥‥」
思わず注意してしまったのは、神聖騎士のエメラルド・シルフィユ(eb7983)だ。依頼に参加希望しつつも事情があって集合場所に遅刻し、旅立てなかったりする事が最近多かった彼女である。今日は気合が入っているようだが注意する彼女も充分傭兵達の目を惹きつけている。
「皆さんは、秘宝が見つかったらどうするんですかぁ?」
無邪気に傭兵達の後ろからひょこっと現れて尋ねるのは、パラの紫堂紅々乃(ec0052)。彼女は子供に見える事を生かして、相手に警戒感を与えない話し方をしていた。
「雇い主の方にお渡しなさるのでは? 傭兵団なのですから、雇い主の方がいらっしゃるでしょう」
紅々乃に話しかけるようにしながらも実は傭兵達の反応を見ようとしていたエルディン・アトワイト(ec0290)に、辺りを飛んでいたディエミア・ラグトニー(eb9780)がぴたっとくっついた。
「飛ぶの疲れたデスヨ〜」
しかし飛びながら傭兵達の様子を探っていた彼女である。とりあえず間近で探りを入れようと何気ない機会を窺っていた。
「秘宝ねぇ‥‥」
「秘宝かぁ‥‥。ホントにあるのかなぁ?」
皆の話を聞きながら思わず呟いたのは、セイル・ファースト(eb8642)と鳳双樹(eb8121)。眉唾ものだが宝探しは嫌いじゃないセイルと、あったほうが夢があっていいなと思う双樹の心の声が表に出たのだが。
「あったらあったで厄介よねぇ。まぁ、でも面白そうではあるわよね」
1人セブンリーグブーツで先を進み辺りの安全確認を行っていたスズカ・アークライト(eb8113)が、戻って来て軽く言い放った。最も彼女も面白そうだと思ったのは宝探しのほうで、実際にとんでもない秘宝ならば壊したほうがいいと考えているのだが。
冒険者達が傭兵達から話を聞きだしながらも警戒を解かず、しかしそれを見せないよう努力しているのは、どうにも彼らが怪しいからである。話をした場所が怪しい。話の持って行き方が胡散臭い。分け前の話をしないのが気になる。微妙に胡散臭い。秘宝を持ち逃げしそうだ。とにかく注意。彼らのほとんどが抱いた印象は概ね似通っており、ここまで怪しいと逆にいい人達かもとスズカなどは思わなくも無い。
彼らは普段、酒場でも卓を囲んでわいわいやっている仲なので、概ね気心は知れている。ディエミアは後からやって来たのだが、すんなりと彼らの中に溶け込んで冒険者同士そつなく動いていた。
そして、傭兵達の答えだが。
「俺達には雇い主はいない。毎回、仕事の度に雇い主は変わるからな。傭兵なんてそんなもんだろ?」
逆に軽く尋ねられた。また、今回雇い主に雇われて動いているわけではなく、秘宝を得た時は。
「それは見つけた時に考えるさ。盗賊達が先に手に入れたら、それこそ壊すことくらい考えないと駄目だろうけどな」
「あんたらも秘宝、欲しいのか? でも秘宝を分けるなんて出来ないんじゃね? 盗賊達が溜め込んでる宝でも見つければそれは分けるけどさぁ」
と、微妙な答えが返って来た。どちらかと言えば、軽い感じなのがまた気になる。
そうして、一行は洞窟の前に着いた。
●潜入
たいまつやランタンに火をつけて、辺りに見張りが居ないかなどを確認した後、皆は洞窟へと入って行った。
とはいえ、たいまつを持って来たつもりでバックパック内を探しまくったセイルが、慌ててスズカから借りたりする些細なハプニングもあったが。
「セイル君ってば、忘れんぼさんですわね〜♪」
「歌うな!」
リリーが突っ込みながらも、皆は隊列を決めて洞窟内を進んで行く。
比較的穏やかに接するようにしていた冒険者達だったが、リリーは話の中で傭兵達の人物像を大体把握していた。セイルは双樹も人を見る目があると分かっていたので印象を尋ねていたが、
「‥‥ちょっと怖いけど、明るい人たち?」
あまり頼りにならない返事を貰っていた。
しかし、彼らには気になる事があった。それは、何人かの冒険者は馬を荷物持ちに連れてきていた、ということである。近くに町でもあれば預けることも出来ただろうが、残念ながら野外の冒険では叶わない事も多い。ましてや今回は洞窟である。入り口が広くても中は狭いという事は有り得るし、充分に訓練されていない馬は途中で逃げ出すかもしれない。だからと言って置いて行った所を盗賊に見つかって連れ去られては困るわけで。
「連れて入るしかないデスカネ〜?」
結局彼らは大所帯で洞窟を進んでいる。
「この先‥‥子馬、入るでしょうか」
どんどん細くなっていく道を不安げに見回しながらエルディンが呟き。
「錺丸が入れるから大丈夫ですよ」
同じく子馬を連れた紅々乃が笑顔でそれに答える。が、彼女の馬のほうは少々怯え気味だ。
「それで、セイルの馬はどうするんだ?」
とても幼い駿馬を連れていたセイルに、エメラルドが一応尋ねた。
「連れて行くに決まってるだろ。‥‥ついこっちに食料とか積んで連れて来たんだよ。迷惑かけて悪い」
「俺達が馬だけ見張るって言ってもなぁ。盗賊達が集団で来たら、馬は守りきれないしなぁ」
傭兵が笑いながら言う。彼らは比較的軽装で、身軽に洞窟内を進んでいた。
「洞窟内に入るときは要注意なんですね」
苦労している皆を見ながら、双樹は納得したように頷く。
とにかく彼らは予想外の守るべきものを抱えながら、先を進む事になった。
●戦闘
傭兵達も、この洞窟のどこに目的の物があるのかは当然知らない。傭兵の1人が地図を描きながら進み、隈なく洞窟内を歩き回った。
「無いわねぇ」
怯える子馬たちを宥めながら一通り見て回った一行だったが、それらしき物は見当たらない。
「宝探しって結構大変なんですね」
紅々乃が苦労しているのは宝探しだけではなかったのだが、そろそろたいまつや油も心もとない。一旦引き返すかという所で、ふと団長のシャーが顔を上げた。
「あの先かもしれないな」
「水があった所ですわね?」
リリーが確認をする。深さも分からない水の溜まった場所があったが、何が居るかも分からないので引き返していたのだ。
「あまり無理をしてはイケナイのデス」
「誰か泳げる人はいるのですか? 私は無理ですよ?」
エルディンが言うまでもなく、誰も水中で自在に泳げる技術は持ち合わせていない。傭兵達も潜るのは苦手らしく、結局引き返すかという結論が出たその時。
ふと子馬達が何かに反応した。
「あれ? どうかしましたか?」
首を傾げたエルディンだったが。
「しっ。敵デスネ」
動物に詳しいディエミアが皆に注意を促した。
素早く彼らは馬を後方に追いやり、武器を構えて相手が来るのを待つ。だが。
「来ないわね。‥‥弓か」
姿の見えない相手に、スズカが僅かに苛立った。盾を持つ者は盾を構え、少し前に出る。すると、ややしてから矢が数本飛んできた。
「魔法かけマスヨ!」
素早くディエミアが前に出て、トルネードを唱える。それを盾を持つ者達が矢から守るようにし、竜巻が道の向こうで回った。巻き込まれた敵は2人。そのまま落下するのを見計らって、冒険者達は攻撃を仕掛けた。
「貴方たち、女性の扱いがなってませんわよっ!」
剣を持って飛びかかってきた敵にカウンターで攻撃し、剣を振り下ろす。そんなリリーの横でたいまつを敵に向かって投げつけ、派手に剣を振り回すのはセイルだ。敵の意識を自分に集中させ、仲間が戦いやすいようにとの考えだった。そのまま弓矢を持った相手にも斬りかかる彼の後方では。
「双樹さん、そっちお願い!」
「はい!」
敵の攻撃をサイドステップでかわし、後方から相手を切り伏せたスズカと連携するように、双樹は小太刀を奮っていた。そして子馬の近くには、エメラルドと紅々乃。少し前ではエルディンがコアギュレイトを唱えて、主にスズカ達のサポートをしていた。
「しかし、皆強いな‥‥」
子馬を守る為に残ったエメラルドだったが、彼女の出番はなさそうである。だが皆が強すぎるのではなく敵が弱すぎるのだろう。やがて敵は皆倒れ伏し、怪我をした者にはエメラルドがリカバーを唱えて回った。
傭兵達は別方向からやって来た敵を倒していたらしい。倒した敵が何か持っていないか確かめていた。
「それで、敵は盗賊団だったのか?」
冒険者達が倒した相手の持ち物も探っている彼らにセイルが声を掛けると、そうだという返事が返ってくる。
「おい。こっちに道がある」
ややしてから、どこかに行っていた団長が戻って来て皆を促した。その道というのは、天井付近に空いている穴らしく。
「どうやって登るのでしょう‥‥」
皆はそれを見上げる事になった。しかし身軽に団長がロープを引っ掛けて登り、エルディンが持ってきた縄はしごを上から垂らす。馬はさすがに無理なので、冒険者、傭兵共に半分が残る事になった。
穴は狭く這う事しか出来なかったが、しばらく進むと。
「外、ですわね」
その穴は崖の途中が出口になっていた。崖には幾つか鳥の巣のようなものが見える。
「あれ、そうじゃない?」
スズカが指差したのは、ひとつの巣。言われて団長がひょいと巣に向かって降り、中から何かを取って戻ってきた。
「それが秘宝ですか?」
興味津々の双樹も覗き込んだが。
「こいつは違うな。ただの石だ」
「あら。どうして分かりますの? 試してみました?」
少々物騒な事をリリーも言った。そして。
「セイル君が私に激しく求愛したくな〜る‥‥」
「それは‥‥厳しくないか?」
思わずエメラルドが呟く。
「だからですわ」
一応笑いながらリリーも答えた。だが団長は、この石はそれなりに珍しい石で高く買う者もいるが、この辺りにはそこそこあるということで、到底秘宝だとは思えないのだと告げる。なので、この辺りで目撃情報があってもおかしくはなく。
「では、戻って確かめてみましょうか」
子馬と留守番していた者達の元へ戻り、皆はセイルをじっと見つめた。
「な、何だよ‥‥?」
いきなり注目を浴びてたじろぐセイルだったが、結局皆は理由を明かさず首を振る。
「おい、何なんだよ?!」
「結局、秘宝は無かったデスカ〜?」
ぱたぱた飛びまわって尋ねるディエミアにも頷いて、一行は洞窟を出た。
●帰還
結局、リリーがこっそり購入した緋色の玉の偽物の出番は無かった。そして傭兵達が自分達のアジトを皆に紹介する事も無く、彼らとは別れ。
「少し拍子抜けでしたね」
優しく子馬を労わりながら、紅々乃が皆を見上げて言った。
「秘宝‥‥。無いのはちょっとだけ残念でした」
双樹も困ったように笑いつつ話す。
「あるなら見てみたかったですが、物騒な物ですし、存在しなくて良かったのかもしれないですね」
エルディンも頷いた。
皆で打ち上げをしようと言う事で酒場の扉に手をかけたエメラルドだったが、ふと立ち止まって皆を振り返る。
「あれで、盗賊は全部だって言っていたか?」
洞窟内で戦った敵。だがその問いにはディエミアが首を振る。
「盗賊団は全部で4つくらいアルと言っていたデスヨ〜」
「他にも似たような偽物の秘宝の話があるんでしょうね。大変ね」
「でも、どうして誰にも雇われていないのに、盗賊を倒そうとしているのでしょうか? 報酬は出ないのに」
紅々乃の問いに皆は振り返った。
「それは簡単ですわ」
「何ですか?」
「秘宝を狙っているから!」
数人が一斉に声を上げ、皆は笑いながら酒場へと入って行く。
そうして秘宝探しは偽物ということで終わったように見えた。
だが、これは始まりの話に過ぎなかったのである。