石榴のあそびうた

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月09日〜02月14日

リプレイ公開日:2007年02月19日

●オープニング

「わーい、旅芸人だ〜」
 子供達が、はしゃぎながら広場へと駆けて行く。
「仮装させてくれるってさ!」
「あたし、お姫様〜」
 わいわい言いながら集まった子供達は、華やかな衣装を着て踊ったり芸をしたりしている旅芸人の一行を見つめた。
「じゃあそこの坊ちゃん。君を魔法少女にしてあげよう〜」
マスクをつけた男が1人の子供に近付き、あっという間にその子供に衣装を着せてしまう。手には子供用の杖を持たせ、頭にはリボンまでついていたりする上に、ミニスカートだ。他の子供達は大笑いし、魔法少女仮装をさせられた子供は真っ赤になって男に食ってかかった。
「楽しまなきゃ損だよ、お坊ちゃん」
 しかし軽くそう言われ、憤りを他の子供にぶつける。
 その後も、子供達は実に様々な仮装を楽しんだ。全身猫になってみたり、騎士になってみたり、王様になる子供までいたが、皆一様に心の底から楽しく時間を過ごしたようだった。‥‥魔法少女少年を除いては。
 そして日も暮れ、子供達はわいわい言いながら自分の家へと帰って行った。この日の事は、一生の思い出になるだろう。子供達が主役になれた、その日の事は。
 だが。

 冒険者ギルドの相談用のテーブルに座っている男は、痩せ細って暗い顔をしていた。
「子供を‥‥探してもらえませんか」
 消え入るような声で、彼はそう言う。
「もう10日も前の事です‥‥。旅芸人達が私たちの村を訪れたのは」
 彼は目線を下げたまま、話を続けた。
「翌日には村を出て行ったのですが、子供が‥‥同時に行方をくらまして」
「その旅芸人達が連れて行ったと?」
 向かい側に座っていた冒険者の1人が尋ねると、彼は小さく頷いた。
「多分‥‥。その後、他の村からも、同じように旅芸人達がやって来た後子供が消えた、という話を聞きまして‥‥。私は、代表で来ました‥‥」
「では、旅芸人達を探して子供も見つける、という事ですね?」
「もう2度と‥‥このような事が起こらないようにと‥‥。奴らはきっと、子供達を自分達の家に閉じ込めてるんだと思います‥‥。だから、奴らを徹底的に‥‥滅ぼしてください‥‥」
 男の言葉に、冒険者達は怪訝な顔をする。だが男は全く表情も口調も変えずに、言葉を続けた。
「まだ、回ってきていない村があります‥‥。だから、そこに行って‥‥子供達のフリをして‥‥ヤツラに攫われてみてください‥‥」
「はい?」
「囮になって‥‥ヤツラを内側から破滅に追いやってください‥‥」
 村人にしては随分淡々と恐ろしい事を言うものだと、冒険者達は男を見つめる。
「でも‥‥子供でなければならないわけですよね。攫われたのは何歳くらいの子ですか?」
「12、3歳までなら大丈夫かと‥‥。身長が低くても大丈夫かもしれません‥‥」
 そして男は報酬を提示し、ふらふらとその場を立ち去って行った。
 後に残された冒険者達は、歩み寄ってきたギルド員を見て微妙な表情を浮かべる。
「ん? どうかしましたか?」
 何も知らないギルド員は、不思議そうに彼らを見回した。

●今回の参加者

 ea0214 ミフティア・カレンズ(26歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea8063 パネブ・センネフェル(58歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 ea8898 ラファエル・クアルト(30歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)
 eb5486 スラッシュ・ザ・スレイヤー(38歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 静かな部屋で、真白な小鳥がさえずっていた。
「飽きたわ‥‥」
 椅子に座り眺めていた女性が、ゆっくりと音も無く立ち上がる。そして。

●囮作戦
 村に、旅芸人の一座がやって来ていた。
 子供達が群がり、彼らの芸に見入っている。その中には、少し大きめの女の子も混ざっていた。
「見事に来たな‥‥」
 陰に潜んでそれを見守っているパネブ・センネフェル(ea8063)が呟き、少し離れた所に同じように隠れていたラファエル・クアルト(ea8898)も頷いた。彼らはあらかじめ酒場などで旅芸人の一座がどこに来るかなどの情報を得ていたが、依頼人が指定した村に見事やってきたとあっては。
「まるで計ったようですわね」
 身を隠す為の偽装を行った場所で同じように潜伏している天津風美沙樹(eb5363)も、動向を監視しつつ小さく囁いた。やはり近くには、彼女の偽装方法を真似して作った潜伏場所で様子を窺うセイル・ファースト(eb8642)の姿がある。
 彼らが見つめるのは、旅芸人達と子供達、そして彼らの中で唯一囮役となったミフティア・カレンズ(ea0214)だ。子供ばかりを攫う旅芸人の一座の尻尾を掴む為、彼女は自ら囮になったのである。‥‥少々背は高いが。
「旅芸人さん、おもしろ〜い♪」
 しかし子供達とはしゃいでいる姿は確かに愛らしい。やがて旅芸人達は子供達に様々な服を見せ、着せ替え始めた。ミフティアも一緒に混ざって服を借りる。
「‥‥遅いな」
 セイルがそっと振り返り、まだ姿の見えない3人を思った。共にこの村に来て、今は依頼人と話をしているであろう3人の事を。

 依頼人に言われた村は幾つかあったが、最初の村で情報収集をした時点で次に旅芸人達が訪れるのがこの村と分かった。
 一行は大急ぎで見張り用の潜伏場所を探して確認し、囮の際の打ち合わせを再度行って今に至る。
「‥‥ここでは攫わない気かしら」
 一通り子供達と盛り上がった後、旅芸人達を乗せた馬車がゆっくり動き始めた。囮が攫われなくても後を追う事は出来る。だが突然見失わないとは限らない。しかも、まだ冒険者達は全員その場に揃っていなかった。
「見失うのは痛いですわ」
「だな。追うか」
 元より囮、潜伏組、陽動組とに班分けはしてある。陽動組の美沙樹を残し、3人は素早く動き始めた。
 既に頃は夕刻過ぎ。馬車は村を出てしばらく進んだ所で止まり、潜伏組は村の中から様子を窺った。セイルはともかく、パネブとラファエルにはしっかり馬車周囲の様子が見えている。さすがに幌を被った馬車内部の様子は窺い知れないが。
 やがて日は沈み、馬車から旅芸人達が出て来た。そのまま辺りを窺い村に入って行く。見張り役の3人は目配せし合い、ラファエルがミフティアの元に向かった。恐らく彼らは直接家に入って子供を攫って行くのだろう。子供達が借りた衣装は明日朝受け取りに来る、と彼らが告げていた事は知っている。
「危ない役でごめんね‥‥。ちゃんと助けるから。お願いね」
「平気だよ♪ がんばるね」
 依頼人の元から戻って来ていた3人の所からミフティアを連れ出し、男達が侵入した家へと向かった。そして男達が出た所にミフティアが居合わせる。攻撃される可能性もあったが。
「‥‥大丈夫でしょうか」
 無事ミフティアは男達に攫われて行った。それをつかず離れず追って行ったラファエルを遠くで見送りながら、アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)は呟く。それは、自分自身にも向けた言葉だったかもしれない。
 辺りに満ちる闇の中。彼女の腕にはめられている物が、僅かに光を放った。

●疑惑
 ミフティアが攫われる数時間前。
 アーシャ、スラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)、エメラルド・シルフィユ(eb7983)の3人は依頼人と話をしていた。
「徹底的に滅ぼすって物騒な言い方です」
 依頼人の前の席に座り、アーシャが詰め寄った。攫われた子供達は無事なのか。何よりそれが心配だったのだ。
「我々は冒険者としてどのような事があろうが依頼は果たす。私達を信じて詳しく話してもらえないか?」
 それを制するように、エメラルドが冷静に話を持ちかけた。彼女達は、依頼人が子供の救出ではなく、徹底的な殲滅を頼んだ事を訝しく思ったのである。そして、それには理由があるのではないかとエメラルドを中心にやって来たのだが、スラッシュは部屋の隅で護衛として待機していた。だが依頼人達の観察は怠らない。
「何をですか」
 依頼人は疲れきった様子で顔も上げずに問い返す。
「子供の救出を依頼しなかった理由。何か‥‥知っているのではないのか?」
「そんな事より‥‥冒険者は言われた依頼をこなせばいいんです‥‥」
「でも納得できません!」
 思わず叫んだアーシャの腕に光るものを見つけ、ふと依頼人が顔を上げた。
「それは‥‥?」
「これは、パリで流行ってるのですよ。同じ物、見たことあるのですか?」
 素早く両腕を後ろに回し問うアーシャから目を逸らし、依頼人は軽く息を吐く。そして。
「ある」
 呟き、彼はゆっくりと話し出した。

 馬車は森の中の小屋付近に止まった。
「小さい小屋だな‥‥」
 パネブが呟く。攫った子供達を全員収容しているとは思えない。とりあえず陽動組を迎えにセイルが走り、2人はその場で待機した。見張りは居ないが中から見ている可能性もある。彼らは注意深く動きながら様子を探った。
「‥‥気配が無いわね」
「地下だな」
 窓の無い小屋に突入するには扉から入るしかない。とりあえずラファエルが見張り、パネブが周囲に何か無いかを探しに出た。そして、ふとバックパックから金の指輪を取り出す。いつの間にか知らぬ間に袋に入っていたそれ。見つめるが‥‥何も感じない。
「これは‥‥違うのか?」
 何度目かの確認の後、彼はそれを再びしまい込んだ。

 陽動組が到着し、彼らは小屋の中へと踏み込む。
「いねぇな」
 スラッシュが呟き、罠などが無いか調べつつ結局皆で進むことになった。作戦では敵を陽動組が外へおびき出し、その隙に潜伏組が子供達を助けるという予定だったのだが、地下に居るのでは厳しい。
仕方なく奥の梯子を使って降りると、中は掘ったような洞窟になっていた。だが道はすぐに終わり広間前で彼らは様子を窺う。
「‥‥ミフティアさんの猫が来ないですわ」
 美沙樹の言葉に、皆は奥を見つめた。彼女が目印に投げた糸玉は途中で切れ、彼女が糸やタロットに託すはずのメッセージは来ない。
「踏み込むか」
「‥‥よし、行きましょう」
 武器を確かめたセイルと、息を吸って気持ちを落ち着かせたラファエルが同時に合図し、彼らは奥へと飛び込んだ。

●偽声
 エメラルドは思い出していた。
「娘が攫われ、そして死んだ」
 ずたずたに切り裂かれ、四肢が部分的に破裂したような状態で依頼人の娘は見つかった。旅芸人から貰った金の腕輪を身につけたまま攫われたはずの彼女だったが、見つかった時にはそれは何処にもなく手掛かりは何一つ残っていなかった。旅芸人達が今もあちこちの村を訪ねているという情報以外には。
 アーシャも思い出していた。
 だったら尚更、何故子供達が20人も攫われるまで放っておいたのか。泳がせていたと言うのか。詰問しかけた彼女に彼は一言、復讐だと告げた。旅芸人達だけではなく、娘が攫われた時に全く動かなかった人々に対しての。
「憎悪は連鎖するぜ? もう遅いけどな」
 恨みは恨みしか呼ばない。そしてその心には悪魔が住み着く。スラッシュは苦々しげに言い捨てて村を出た。
 もっと早くに男が動いていれば。或いは村人達が察していれば。こんな大事にならずに済んだのではないか。
「子供達ですわ!」
 不意に美沙樹が声を上げた。奥のほうで身を寄せ合って倒れている子供達に駆け寄り、慌ててエメラルドがリカバーをかけようとして。
「くそっ‥‥許せねぇ」
 痩せ細り冷たくなっているその姿に、思わずセイルは壁を殴りつける。食事も毛布も与えられず、ここに閉じ込められていたのだろう。
「まだ後‥‥15人位居るはずだ」
 そしてミフティアも。
 彼らは探索を続ける。

 ミフティアの金の髪が大きく揺れた。
「助けは絶対来るよ。静かに待ってお手伝いしよう」
 攫われ、同じように捕らわれていた子供達を励ますように声を掛けていたミフティアだったが、子供達は随分弱っているようだった。その中から聞けた話でも、何人かはここから出て行って帰って来ていないとか、与えられる食事も僅かだという事ばかり。フォーノリッヂで見えた未来も、次々と運び込まれる子供達や連れ去られる子供達しか見えなかった。
「何もここでしてない‥‥のかな」
 自分の縄を短剣で切断した時、不意にその狭い部屋に男達が入って来た。そして黙って彼女を立ち上がらせる。愛猫が近くに居るかと探すが見当たらず、彼女はそのまま男達に連れられ違う部屋へと移された。
「なるほど。この娘なら悪くはないな」
 1人の男がそう呟き、部屋の隅に座っていた子供へと目を向ける。そこには、ひらひらのスカートを履いてリボンを付けた子供が座っていた。
「あれも連れて来い」
 仲間が来る前に自分達は連れ去られてしまうのだろうか。出来る限り現状を知らせる合図は落としてきたが間に合うだろうか?
 早々に動きそうな彼らの動向を見つめながら、ミフティアは祈るより他無かった。

 ミフティアが残した糸とタロット、そして弱っているがまだ生きている子供達を見つけた7人は、ひとまず分かれる事にした。子供達を助ける班と、ミフティアと敵を追っていく班と。
「ミフティアさん‥‥無事で居てほしいですわ‥‥」
 走りながら美沙樹が呟き、隣を走るエメラルドも頷いた。
 一方、元潜伏班は子供達の救出に追われる。そこに居た子供達は全部で10人。まだ足りないが歩ける者には歩かせ、動けない者は背負って走る。
「ミフティアさん!」
「俺ぁ教会から派遣された異端審問官だ‥‥上がらせてもらってるぜ!」
 更に奥へと進む男達と一緒の子供とミフティアを見つけ、彼らは先手必勝でかかった。なるべく生かして話を聞きたかったので、狙いをつけて切り結ぶ。スラッシュの言葉に慌てた男達だったが、武器を抜いて構える暇もなく次々と捕らえられる。
「大丈夫か? ミフティア」
「よく頑張りましたね、もう大丈夫ですよ」
 子供のほうに声をかけたアーシャだったが、少女に見えた子供はどうやら少年だったようだ。小さな声で礼を言った。
「俺を『おじさん』呼ばわりした報いを受けてもらわねぇとな‥‥ククク‥‥」
 緊張の糸が解けてよろめいたミフティアを抱きとめ、スラッシュがにやりと笑う。
「‥‥えへへ‥‥。簀巻きぐるぐるは嫌だよ‥‥?」
 青白い顔をしながらも、彼女は気丈に言って笑った。
 
「ミフちゃん!」
 無事地上に戻って来たミフティアを、ラファエルが抱えて額に手を当てる。
「良かったわぁ‥‥無事で‥‥。もし、と思ったらもう‥‥」
「おい。どこに子供を連れて行こうとしてたんだ?」
 捕らえた者は全部で4人。それへとセイルが威圧するが大した効果は無い。
「助かった子は‥‥11人でしたのね」
 それを多いと見るか、少ないと見るか。ともあれ小屋の傍に置いてあった馬車に子供達を乗せる。捕らえた者達を運ぶ為に近くの村から別の馬車を借り、皆は村へと向かった。
「尋問はじっくりやらねぇとな」
「そうだな。依頼人に話をしてこよう」
 スラッシュとエメラルドは村の中心部へと歩いていく。それについて行こうとして、ふとアーシャは足を止めた。一瞬、体が重くなった気がして。そして。
『お前では話にならんな‥‥』
 声が。真後ろから聞こえた気がして。
「アーシャ?!」
「てめぇ、言いたい事があるなら言いやがれ!」
 とっさに後方へと振り返りざま聖剣を奮った。瞬時に狂化した彼女を、近くに居たパネブが止める。
「どうした?」
「止めるな! 居やがった。剣がかすった!」
「何?!」
 騒ぎに集まって来る人々の事など気に留めず、アーシャは叫ぶ。
「『声』は腕輪からじゃない。誰かが、唆してるだけだ!」
「どういう事なの?」
 その叫びに、仲間達は彼女を見つめた。

●遊戯歌
「次の子が欲しいわ」
 美しいさえずりも聞こえなくなったその部屋で。
 椅子に座る女性が壊れた鳥籠を見つめていた。
「今度はもっと綺麗な声で歌ってくれるかしら? ねぇ?」
 ゆっくりと手を差し伸べる。
 彼女の指の先で跪いていた男は、深く頭を下げて応じた。