【名も知れぬもの】盗賊王の秘宝〜銀笛〜
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:02月20日〜02月25日
リプレイ公開日:2007年03月01日
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●オープニング
盗賊王の秘宝。
それは、伝説の盗賊王が持っていた宝。
盗賊王は多くの盗賊達を束ね、遂には1国を築き上げるかと思われた。
だがその直前に暗殺され、野望は適わなかった。
盗賊王が多くの者達を纏め上げる事が出来たのは、『秘宝』の力を借りていたからだ。
『秘宝』は人心を操り思うがままに動かす力を持つ。
そうする事で、戦わずして巨大な力を手に入れる事が出来るのだ。
今でも、盗賊達の間で密かに語り継がれている伝説の秘宝。
真実存在するかも分からない、伝説の宝。
それでも彼らは求め続ける。
力を。
求め続ける。
●パリ〜冒険者ギルド外
ギルド内では、人々が慌しく動いていた。
ノストラダムスの預言。2月の預言が指し示す場所が判明し、しかもその場所リブラ村から助けを求める村人がやって来たのだ。それに応じて冒険者達や騎士団達がパリを出発し、村へと向かっている。
「よぉ。リブラ村に向かうのか」
そんな冒険者達の一団に、1人の男が声をかけた。あまり背の高くない、見つめると惹きこまれそうな目をした男だ。
「虫退治? やめとけ。お前らの実力じゃ、肉食虫に手足をかじられて終わるぞ」
「そいつらを見たことがあるのか?!」
「無いさ。けど、想像はつく。しかも数は増えてるって話だろ? それより頼みがあるんだ」
「こんな時に?!」
リブラ村を救えなければ、次はパリかもしれないともっぱらの噂である。まさしく『こんな時』に、どんな頼みがあるというのか。
「こんな時だからだ。あの村に、混乱に乗じて盗賊団が入ろうとしている。勿論、村中の物を盗んで回ろうって事じゃない。奴等には目的の物があるんだ」
そこまで言ってから、男はゆっくりと辺りを見回した。
「『盗賊王の秘宝』。それが奴等の狙いだ。‥‥まぁ、続きは酒場で話そう」
くるりと踵を返して歩いていく男に、冒険者達は顔を見合わせた。
●パリ〜裏通りの酒場
薄汚れて暗い酒場には、他に誰も客は居なかった。
「‥‥今日は見張り無し、か。もう動いたな」
男は呟き、冒険者達に適当に座るよう勧める。
「おい。シアン達はどうした?」
カウンター内にいる店員に声を掛けると、彼は静かに首を振った。
「もう行ったか。仕方無い奴等だな」
「それで、秘宝とは?」
椅子に座った冒険者の1人に尋ねられ、男は振り返る。
「伝説の盗賊王が持っていたという伝説の秘宝だ。人の心を自由に操る」
話しながらカウンター席に座ると、男は全員分の古ワインを注文した。
「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺は山猫傭兵団のシャー。まぁ本名じゃない。呼び名だ。他にもシアン、ワゾー、シュヴァル、セルパンのちょい偉い奴等と、下っ端が15人くらいいる。俺達は依頼の度に依頼主を変えてる傭兵団だ。まぁ、お前ら冒険者と似たようなもんだな。違うのは、金さえ積まれればある程度の依頼はどんな事でも引き受けるって事だけどな」
意味深に笑いながら、男はワインを飲み干した。
「で、俺からお前ら冒険者に頼みたいのは、その秘宝を狙っている盗賊達を倒す事だ。俺と因縁深い盗賊団も居るけど、知っている限りじゃ4団くらいの盗賊団が秘宝を狙ってる。奴等の中のどれが手にしても不味いことくらい分かるよな? だから秘宝が本物なら奪い取って破壊。‥‥国に渡したら結構な額の報酬は貰えるだろうけど、国が秘宝を利用したら、デビルよりも怖い事になるかもしれないしな」
軽く言いながら、男、シャーはテーブルに革袋を置いた。
「あぁそうだ。今回の秘宝の事は、俺達が誰かに雇われてやってるんじゃない。前に疑われたからな。秘宝が本物だったらこっそり持って逃げるんじゃないかとか。‥‥まぁ、俺達が怪しい集団に見える事は承知してるからいいけどな。あ。お前達のような微妙な冒険者を雇う理由は、実力者以上クラスを雇ったらこっちの金が無くなるからだ。金積むんだから、こっちの期待には応えてくれよ?」
そしてシャーは革袋の口を開いて見せる。中には金貨が入っていた。
「というわけだ。秘宝は、伝承では緋色の玉の形をしている。でも、今回聞いた話によると、リブラ村にあるという秘宝は銀色の笛らしい。その笛の音を聞いた者を意のままに操るという話だ。あの村は古い村らしいからな。何かが眠っている可能性は充分にある。その話につられて盗賊達が動いてる事も間違いないしな」
実際に行くまでリブラ村がどういう状況かは分からない。もしかすると、村に入れる状況では無いかもしれない。
それでも、行って盗賊達と秘宝を探してみないかと、男の目が冒険者達を見つめる。
「何事も経験だろ? 秘宝。見てみたくないか?」
ランタンの光を受けてきらりと輝く瞳が、彼らに笑いかけた。
●リプレイ本文
●リブラ村へ
「前回の珍しい石。偶然にも『願い』が叶いましたの〜♪」
挨拶の後、真っ先にリリー・ストーム(ea9927)が嬉しそうに告げた。
「珍しい石? 何ですか?」
それへとコルリス・フェネストラ(eb9459)が不思議そうに尋ねる。
「『秘宝』と似た石を、前に見つけてな‥‥」
エメラルド・シルフィユ(eb7983)が説明する隣で、鳳双樹(eb8121)も頷いた。
「もしかしたら、本物だったのかもしれませんわよ〜」
「だったら、捨てたの取ってこなきゃ駄目じゃない?」
スズカ・アークライト(eb8113)の言葉に、捨ててないとシャーが答える。
「ふぅん。取っておいて、悪用するんかねぇ?」
にやりと笑ってレシーア・アルティアス(eb9782)が突っ込みを入れた。
「ノルマンの事情はとんと分からんが、人の手に余る道具など存在せぬ方が良かろう」
大蔵南洋(ec0244)が静かに言い。
「そうですね。見つけても、下手に壊さずひとまずギルドに預けるのも良いと思います」
ユーフィールド・ナルファーン(eb7368)が最後に締めて、皆はパリを出発した。
唯一徒歩のレシーアに、シャーはセブンリーグブーツを貸し出す。
「あんたはどーするのさ」
「俺は別口で行く。リブラ村で落ち合おう」
「疑っているわけではないが、ここで別行動というのは‥‥誤解を招くかもしれないぞ?」
前回『要らぬ疑い』とやらを持ってしまった、その侘びを入れた直後だったが、思わずエメラルドは注意の言葉を口にしてしまう。
「村に行く途中、いろいろお話を聞きたいです」
双樹も言ったが、彼は笑って去って行った。
結局一行はパリを出て早々にシャーと別れ、馬とセブンリーグブーツでの移動となった。
●リブラ村
道中、リブラ村から避難してくる人々と数回出会った。村人の数が多いので数家族ずつの班に分かれて移動しているらしい。
彼らから村の様子などを聞きつつ、一行はリブラ村を目指した。
「15日に笛が奪われた‥‥のは間違いないですね。問題は、それを奪ったのが盗賊団なのか、それ以外の勢力なのかですが」
ユーフィールドの話に、皆も頷く。
「リブラ村の吊橋は、どうやら無事みたいですね」
吊橋を通る馬や人々を見ながら、彼らは避難していく村人達を励ました。護衛がついているが、やはり住み慣れた場所を離れるのは不安だろう。
馬車は通れないようだが馬は通れるので、皆は馬も連れてリブラ村の城壁をくぐった。既に夕刻だが、まだ避難を始めていない人々も居て村内は慌しい。その中を彼らは進み、馬を厩に預けてから情報収集を始めた。
レシーア、リリー、エメラルド、双樹の4人がまず村の外周を調べる。見張りの騎士などは居たが、念のためである。その間に残る4人が村人達から話を聞いて行く。
「赤月盗賊団が宝を手に入れたらしいが」
そんな中、南洋は偽の情報を村内に流していた。頑として避難に応じない10人足らずの村人の中に、入り込んだ盗賊がいるのではないかと考えたのである。そして、今もどこかに潜む盗賊達がいるのであれば、この情報に食いつくかもしれない。前もって4つの盗賊団の名前は、皆聞かされていた。赤月、妖虎、雷道、闇森。どれが来ていてもおかしくないと言う。
「でも、もう5日も経ってるのよね。盗まれてから」
村長に案内され家の中も探ったが、特に手掛かりになるようなものはなかった。
「あ、シャーさん」
一方、罠や人影は発見出来ず村に戻る途中の4人の前に、森から人影が飛び出てきた。
「遅かったですわね」
「走ってきたからな」
「走って‥‥って、パリからここまで走り通すのは無理だろう」
「それより俺の仲間には会ったか?」
問われて皆は顔を見合わせる。そのまま村内の4人と合流したが、やはりシャーの仲間、山猫傭兵団の者達は居なかった。
「この村に残っている方々は、村の方と騎士団の方ですね。お話を聞いてみましたが、誰かが変装している風でも無かったです」
コルリスが竪琴を抱えたまま報告すると、
「銀製の笛って言っても、村長の話だと、笛らしくないみたいね」
村長と話をしたスズカが続けて話した。
「笛じゃないのに、『笛』かい?」
「10センチくらいの長さの筒状の物らしいわ。でも使い方が分からなくて、保管されていただけみたい」
「昔、この村に来た害虫の群れを追い払うのに使われた、という記録が残っているようです」
「害虫を追い払う『秘宝』ねぇ‥‥」
外れじゃ? という視線をシャーに向けつつ、レシーアが呟く。どちらにせよ笛は盗まれ、傭兵団も盗賊団も姿を見せない。だが、不意にシャーは立ち上がり、印を見に行くと言って出て行った。仲間同士の合図に使う印が残されているかもしれないと言う。
南洋とリリーは既に村の出口を見張っている。双樹が慌ててシャーについて行き、他の皆は出口とシャーとに分かれた。
「まだ、お話を聞いていないです」
早足のシャーに置いていかれないよう小走りになりながら、双樹はシャーに話しかける。
「前にご一緒させてもらった時から気になってました。シャーさんは、どうして秘宝に興味を持つんだろうって。どうしてその存在を知って、興味を持って、手に入れたらどうしたいんだろうって。秘宝の伝承について、面白い名前だから由来とか内容とかもっと聞いてみたいです」
「知ってどうする?」
歩みを緩めず尋ねられ、双樹は一瞬ためらった。
「えぇと‥‥。もっと仲良くなれる‥‥かなぁと思います」
「じゃあそれは今度だ。‥‥あった」
歩みを止めたシャーに皆は近付く。城壁の一部分に、何かで削ったような痕があった。
「どう書いてあります?」
「まずいな」
シャーは皆に説明をする。それは、長い追撃の始まりだった。
●追撃
「これは、何の噛み痕だろうか」
南洋が、注意深く死体を引っくり返した。
「小さいのは‥‥虫だと思います」
唯一動物の知識がある双樹が答えるが、心もとない。
リブラ村を出て2日。最初は北へ、続いて西へ、更には東へと追撃の向きを変えつつ、一行は走り続けていた。途中、モンスターに出くわしたりしたものの、虫にも盗賊にも会えずに2日。遂に出会った盗賊達は、既に死体と化していた。
「死んでから時間は経ってませんね」
「近くですわね」
リリーは、しっかり胸のペンダントを握りながら強く言い放つ。
「愛の力で何とかしてみせますわ!」
「いいですね〜」
コルリスの応援(?)を受けて、リリーは更に燃え上がった。一方それより後方では。
「やはり虫か。操る者も居るとなれば、激しい戦いになるな。‥‥悪いが、お前だけを護ってやるわけにはいかない」
「エルは前を向いて戦いなさいな。背中ぐらいは守ってみせるわよ」
神妙な顔つきのエメラルドに、レシーアが軽く笑って声をかけていた。
「何かいるわ!」
平原の向こうで何かが揺らめく。それをスズカが見つけて注意を促した。皆は瞬時に戦闘態勢に気持ちを切り替え、走り出す。
そして彼らは遂に、目的のものと出会ったのである。
「こいつら、ただの虫ね!」
「少し大きいですけれども!」
スズカの剣が虫を叩き切った横で、コルリスの矢が近くの虫を貫く。南洋が鮮やかにスマッシュを決めると、ユーフィールドの霊剣も美しい線を描いた。
「愛しい彼の顔を思い浮かべればっ! うふふふふふっ」
リリーも叫びながらカウンターを決めて次々と虫を撃墜し、その後方ではレシーアが油を撒く。枯れ草の上に撒くと自分達も危ないので、他に燃えるものの無い場所だ。そして、そこにたいまつの火を投げ入れた。
数匹が運悪くその場を通りかかって犠牲となったが、他の虫はそちらに見向きもせず、綺麗な列を作って冒険者達に襲い掛かる。
「この動きは、おかしいですね」
「操っている輩が近くに居るのかもしれん」
「探しましょう!」
虫と戦いつつも他の敵を探す。それは容易いことではないが、このまま戦い続ければいつかは疲労で傷つくし、目的はこの虫達ではないのだ。
「セルパン!」
その時、森の中から1人の男が出て来てその場に倒れた。素早く駆け寄ったシャーが、皆に目で合図する。それに応じて森へとコルリスが矢を放ち、声にならない声を聞いた。
「何かいます!」
「人間共め!」
突如、森の中から聞こえてきた声に、皆は注意深く声の方向へと進む。だが。
「死体かっ?!」
盗賊だったと思われるものが何体か森の中から襲い掛かってきた。それらを倒し、更に奥へと進んだが。
「‥‥いないわね」
殺気さえも感じられず、何人かが森の外へと戻る。だがそこに群れていたはずの虫達も、いつの間にか忽然と姿を消していた。
「おかしな事もあるものだ‥‥」
思わず呟く南洋の横で、シャーは倒れ伏したままのセルパンをかつぎ上げた。
「すまない。今、治す」
「いや、こいつはもう死んでる」
近寄ったエメラルドにあっさり答え、シャーはそのまま歩き出す。
「他の人は‥‥どこへ?」
「見当はついてる。又‥‥力を借りないとな」
「今回の『秘宝』は追わないんですの?」
「あれが人間を操るとしたら、多分死体だけだろうな」
「そうですね。きっとあれは‥‥」
どこからともなく現れた虫の群れは、僅かな時間のうちにまた、どこかへ消え去った。それが『操られている』以外の何だというのか。
そして帰り道、シャーも仲間達が残して行った印について語った。それらは何十箇所にも残されており、傭兵達は盗賊達を追い続けていたらしい。そして、はっきりと。敵が銀色の筒を持っているのも見たのだという。その敵とは。
「人間じゃない、ねぇ‥‥」
「デビルだろうな、恐らく」
「笛。取り返さないといけないわね」
この時の彼らには分からないことだったが。
その翌日、虫の大群がリブラ村に襲い掛かった。見事に統制された動きと、想像を超える量の虫。それら全てを撃退し、大元である貯水池を燃やす事で、全ては解決したように思えた。
だが。
「毎回、秘宝に当たらないわね。本当にあるのかしら」
シャーとも別れ、皆は帰り道を進んでいた。
「そう簡単に当たるものでもないのだろう。それにしても、一度奴には『微妙な冒険者』の見解を改めて貰わねばならんな」
「ま、微妙じゃないと言い切れない所がつらいところよねぇ」
「『愛の力は無限大』だと思っていたのに、笛を奪還できませんでしたわ〜」
「愛が少し不足していたのでしょうか」
「‥‥傭兵団の皆さん、無事だといいんですけど」
「気にしな〜い♪ 何とかなってるわよ、きっと」
てんでバラバラに喋る女性陣を後方から眺めつつ、南洋がぼそっと呟く。
「‥‥郷に入っては郷に従えと言うが、随分‥‥。いや、旅人に過ぎぬ身としては、意見は控えさせて頂くが」
「いえ」
同じく後方を歩いていたユーフィールドが、穏やかに微笑んだ。
「でもこんな時だからこそ、明るく生きなければならないのでしょうね、きっと」
沈み行く太陽の光を浴びながら、彼らはその道を進んで行く。
その向こうに、希望の光を捉えようとしながら。