【名も知れぬもの】アナスタシアポイント

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月20日〜02月25日

リプレイ公開日:2007年03月01日

●オープニング

 アナスタシア。彼女は、冒険者ギルドの推定年齢30歳受付嬢(?)である。
 元冒険者の彼女の趣味は、冒険者達に戦わせてそれを見て楽しむ事。しかも、毎回何かしら制限させている。少々過酷な条件でどこまで行けるのか、どこまでやってくれるのか。血沸き肉踊る冒険が好きだと言うが、彼女は見物するだけでも血沸き肉踊っているようだ。

 そんな彼女の今回の依頼は。

「レブラ村に虫が山ほど押し寄せているらしいのよ」
「‥‥リブラ村です」
 仮にもギルドの受付員ともあろう者が、開口一番地名を間違った。
 最も、彼女は先月の預言調査依頼でも調査場所を間違って教えている。そろそろ受付嬢も解雇されるのではないだろうか。
「それで、貴方達。自分がどれだけ戦えるか、試してみたくない?」
 目を輝かせながら言う彼女だが、その場所はギルド建物外裏手である。ギルド内はリブラ村を救う為の依頼などで大忙し。人の入れ替わりも激しく、建物内で話すと邪魔になると思ったのか、それともいい加減個人依頼をギルド内で話すなと釘を刺されたのか。
「あたしからの依頼は簡単よ。虫でも何でもいいわ。たくさんいるなら好都合よ。大きいのも小さいのもいるわよね、きっと」
 真剣に村やパリやノルマンを救おうと考えている人が聞いたら目を剥いて怒りそうな言葉をさらっと言って、彼女は冒険者達を見回す。
「1人1人、倒した数と大きさを競いましょう。敵が小さいからって必ずしも弱いわけじゃないけど、そんなの関係なしね、今回は。大きいのを倒したほうが点数が高い。たくさん倒したほうが点数が高い。そういうことよ」
「点数とは‥‥?」
 1人が尋ね、彼女は軽く胸を反った。
「あたし個人の依頼を受ける人には、いつもポイントをつけてるのよ。それが貯まったら景品と交換ってわけ。昔あたしが冒険してた頃に手に入れた物でいらない物だから、まぁあんた達それなりのレベルの冒険者からすれば、大した物じゃないかもしれないけど。ま、景品だと思っておまけ程度に考えてもらえばいいわよ」
 後。と、彼女は思い出したように付け加える。
「個人行動厳禁ね。個人行動されたら、どんだけ倒したか分からないし。それから、あたしを守るようにして戦ってよね。数数えなきゃいけないから、いちいち戦ってられないし」
 預言騒ぎに乗じてどこまで楽しむつもりかと見つめる冒険者達の視線も気にせず、アナスタシアは壁にもたれかかった。
「まぁ、こんな感じかしらね。どうする? 参加してみない?」

●今回の参加者

 ea0346 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea2554 ファイゼル・ヴァッファー(30歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea4470 アルル・ベルティーノ(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ジュエル・ハンター(ea3690

●リプレイ本文

●挨拶
「どうも、初めてお目にかかります、マドモワゼル・アナスタシア」
 開口一番、パン職人パトリアンナ・ケイジ(ea0346)が依頼人に恭しく挨拶した。それに応じて依頼内容を話したアナスタシアに対して。
「ははははは‥‥楽しそう、ですか。虫退治、受けてたちましょう」
 可愛らしい顔つきのミカエル・テルセーロ(ea1674)が声を立てて笑いながらアナスタシアを見つめた。しかし目は笑っていない。
「虫の大量発生か〜。まぁ害虫は駆除してこうや!」
「‥‥ノルマンの一大事も、アナスタシアさんには楽しみの素ですか。流石と言うか‥‥」
 からっとした表情で笑顔を見せるファイゼル・ヴァッファー(ea2554)と、呆れたような言葉ながら、それに乗った自分に対しても苦笑を浮かべたテッド・クラウス(ea8988)。そして。
「報酬が出るなら仕事は仕事。その上で制限無しの見敵必殺か。分かりやすくていいじゃないか」
「一匹でも多く倒せるように‥‥がんばります‥‥」
 シャルウィード・ハミルトン(eb5413)とアルフレッド・アーツ(ea2100)も応じ、
「がんばりましょうね」
 アルル・ベルティーノ(ea4470)が最後に微笑んで、その場に居た全員が依頼を受けることになった。
「じゃ、用意とかいろいろあるだろうし、出発は20日朝にするわよ。ペットはまかせるけど、猫連れてきたらそこの川に流すから」
「猫なんて可愛いもんじゃないか。こいつは大丈夫かい?」
「‥‥殺すわよ?」
 ペットのチーターを指したファイゼルを脅すと、アナスタシアは皆を見回す。それ以前に町中で猛獣は、と誰かの心の中では呟かれたかもしれないが、生憎彼女はそんな事は気にしない。
 そうして彼らは一旦別れたのだった。

●20日
 リブラ村を巡る情勢は、日々変化し続けていた。
 アナスタシアが『虫の大量発生』を知って依頼を出すと決めた時は、確かにリブラ村は虫に脅かされていた。だが今は。
「虫っ子一匹居ないそうですよ?」
「どこかに居るかもしれないでしょ。探すのよ!」
 突っ込んだパトリアンナを睨みつけ、アナスタシアは皆に明後日の方向を指示した。20日の時点で、リブラ村周辺から忽然と虫が消えた事が分かっている。
「じゃあ、私はギルドで情報を集めてくるわね」
「ちょっと。あたしは一応ギルド員なんだけど?!」
 アナスタシアの言葉には応じず、アルルは冒険者ギルドへと去って行き。
「虫は移動しているらしいから、あちこちで状況聞かないとなぁ」
「リブラ村で情報を集めるのも良いと思いますよ」
 ファイゼルとミカエルが進言し。
「‥‥ダウジングペンデュラムで‥‥探しますか‥‥?」
 アナスタシアが用意していた地図に、アルフレッドが振り子を下ろした。
「虫がたくさん居る所を探したほうがいいよな」
 それを見ながらシャルウィードも口を挟む。そして。
「アナスタシアさん。敵の探索や引きつける為に魔力を使ったり、或いはパーティの目になった方へはポイントを加味していただけるよう、お願いしますね」
 どこか苛々しているアナスタシアに、テッドがそっと声をかけた。
「分かってるわよ」
「それにしてもいい天気だよなぁ。ほんと前回は大変だったんだぜ? 鎧の手入れが完了するのに一日かかってさぁ。やっぱ晴れた日に干すのはいいもんだよな‥‥」
 同じように隣にやって来て、どこか遠くを見ながら言うファイゼルを見て。ようやくアナスタシアは機嫌を直したようだった。

 大量の虫がいる場所。
 振り子が指した所は、やはりリブラ村の近くだった。そこで皆は予定通り、リブラ村へ向けて進む事にした。

●21日
 村の内も外も、随分と慌しい。
 村人達のほとんどはパリへ避難しており、残っている村人は10人いるかどうかと言った所だったが、城壁の修理や今後の計画、付近の調査などで人々が頻繁に村を出入りしていた。
「まだ虫の遺骸は残っているのですね」
 大量すぎて纏めて片付ける事が出来なかった虫の山を見つつ、パトリアンナは近くに落ちていた棒で突いた。
「少々痛んでますかねぇ‥‥。もう少し新鮮なほうが宜しい。違うのにしましょう♪」
 謎の言葉を呟きつつ、彼は別の場所へと去って行く。
 村の中では各自情報集めに走ったが、調査に出ている騎士達でさえ、まともに虫を発見していない状況である。特に目ぼしい情報は無かった。
「笛が盗まれて、それを追って行った冒険者達がいるみたいね」
 その日の晩。アルルが入手した情報を皆に伝える。
「空から‥‥遠くを探してみました‥‥。でも‥‥虫は見えなかったです‥‥」
「光源でおびき寄せようにも、近くに居ないのでは難しいですね」
「どこ行ったんだろうなぁ」
 相変わらず苛々しているアナスタシアを放置して、皆は作戦会議を立てた。アルフレッドが再び、今度は盗まれた笛を対象に振り子を垂らす。だがそれには反応が無く、仕方なく虫の大群に対して占ってみたものの、やはりリブラ村周辺へと振り子は動いた。
「どうする? 俺達も周辺探すか?」
「そのほうが良さそうですね」
 その日、彼らはリブラ村に泊まり、翌日村を出発した。

●22日
 笛を追って行った冒険者達が北上した事、そして村から大分離れた北東の地点で虫を数匹発見したという報告が上がったことから、彼らは北から東にかけて探索する事にした。
 平地も森の中も山の中も駆け抜けて、虫大捜索は続いたが。
「ハル。見つからないか?」
 シャルウィードとアルフレッドの鷹も、見つける事は出来なかった。
 仕方なく、情報収集も目的としてリブラ村に戻った一行の元に、新たな情報が舞い込む。
「行方不明?」
 調査隊の騎士が帰らず、そして。
「北でも虫の群れが飛んでいるのが目撃されたようです」
「洞窟もあるそうよ」
「洞窟の中なら、虫が大量に隠れていても気付かれにくいですね‥‥」
 再度、村人達に洞窟の位置などを聞いて重点的に探索しようということで、話が纏まった。いい加減、そろそろ虫の一群でも見つけないと、依頼人の怒りも爆発しそうだったのである。
 だがそこへ、アナスタシアが袋を持って現れた。
「‥‥何です? それは」
「薬草を分けてもらったわ。ちょうど、パリから薬師が来ていたみたいなのよ。こっちは大量に虫を倒す予定なんだから、無いと困るでしょ」
 まだ虫と一匹も遭遇していないのに、よくも貴重な薬草を貰ってきたものだ。中には冷たい視線を送る者も居たかもしれないが、アナスタシアはそれをアルルへと渡し。
「じゃ、これ使えるようにして」
 そのままどこかへ行ってしまった。
「使えるように、って‥‥このままでも使えると思うけど」
「より効果を出す為に、手を加えましょうか」
 にっこり微笑みながら、ミカエルが近付いて袋を手に持つ。そんな彼を見ながら。
「誰とは言いませんが、憤る方がいらっしゃいますね」
 さて自由奔放なアナスタシアに釘を刺すべきかどうか。パトリアンナが思案していた。

●23日
「何なんだ、こいつら! キリがないぞ!」
「小物狙いだったけど、ここまで小物揃いだとはな!」
 ファイゼルとシャルウィードが叫ぶ。その後方で、アナスタシアの上方で彼女を守るようにしてアルフレッド。盾を構えてがっちり彼女の前でレイピアを操るパトリアンナ。離れた所にたいまつを置き、ファイアーコントロールで敵の動きを変えようとするミカエルと、ファイヤートラップで敵を焼くアルル。焦らず落ち着いて戦うよう心がけながら、魔術師達を守る位置で、テッドも大斧を奮った。
 そもそも暗い洞窟内で戦闘になってしまったのには理由がある。
 一行は、早朝村を出て北東を目指した。やがて、森の中に半分隠れたような洞窟を発見。そこから突入した所、アルルの唱えたブレスセンサーに反応があり‥‥。離れた所にたいまつを置いて、ファイアーコントロールで火力を大きくし、そこに敵をおびき寄せたミカエルだったが、洞窟の奥からやって来た虫の量は、彼らの想像数を超えていた。
「おっと。きちんと無力化しませんと♪」
 洞窟内の通路は広く、前方も後方もあったものではない。彼らは互いに背を向け合い、敵に背後を見せないようにして戦った。打ち漏らしの無いよう、アナスタシアの周辺も含めてきっちり、傷を負っている物までレイピアの餌食としているのはパトリアンナだ。その上空でダガーを投げていたアルフレッドだが、敵も空中。少々分が悪い。勿論一匹の強さは彼の足元にも及ばないが、問題は数。
「こいつは‥‥きついな」
 敵をカウンターで撃墜しつつ、シャルウィードも呟く。倒しても倒しても、一向に敵の数は減らない。
「もう一度‥‥使うわ」
 慌てて用意した、だが元々計画に練りこんであった、たいまつの近くの薪に向けてアルルがファイアートラップを放った。ちょうど虫の進行方向だ。たちまち飛んで来る虫達にそれは燃え移り、そこにミカエルのファイアーボムが飛んだ。
 それらが何度か繰り返された後、虫の襲撃は収まった。
「きっつ‥‥って、うわ。鎧が‥‥」
「虫の体液でべとべとですね‥‥」
 さすがに気持ち悪そうに言うテッドと、軽くショックを受けているファイゼルだったが、ふとファイゼルはまだ数を数えているらしいアナスタシアに気付き、近付く。
「暗いし、計算面倒そうだな〜。俺の称号メモに書いてみるか?」
 誰かに栄誉ある呼び名を付けられた時の為に、その名を書き込む木札を用意していたファイゼルが、それを取り出して見せた。しかし。
「‥‥いいわね。その白い鎧に書かせてもらおうかしら」
「へ?」
「そのローブでもいいわよ」
「ぎゃ〜、ほんとに書くなぁ〜っ」
「‥‥遊んでいるのは結構なんですけれど、そろそろ行きませんか?」
 控えめにテッドが声を掛け、じゃれ合っているように見えた2人は我に返って歩き出した。
 その後、敵らしい敵に遭遇する事もなく、やがて奥へと進んだ彼らは。

「‥‥」
 その光景を見た瞬間、何かと場を和ませたり盛り上げようとしていたアルルが口を閉ざした。
「‥‥この量は‥‥危険です‥‥」
 かつて地下の貯水池として使われていたが今は水も枯れ、その場所さえ知る者もほとんど居なくなってしまった、その場所。そこが、今や虫達の養殖場と化していた。
 彼らの目の前で、次々と卵が幼虫に、幼虫が蛹に、蛹が成虫にとあちこちで成長して行く。幾つかに分かれた全ての穴はそれらでびっしり埋め尽くされ、しかもモンスターと呼んでもおかしくないような大きさの物もいる。
「まさか、先日のブリットビートルは」
「かもしれません」
 リブラ村を襲った、通常よりも大柄なブリットビートルの群れ。それは、ここで生まれた物かもしれない。
「燃やすか?」
 シャルウィードが尋ねる。
「敵が来たわ。ここで戦うのは‥‥不利よ」
 成虫になったばかりの虫を見ないようにしながら、アルルが皆を見回した。彼女のブレスセンサーには、こちらに向かってきている虫の一群が引っかかっている。
「この人数では、どちらにせよ掃討は無理です」
「‥‥リブラ村へ。報告に行きましょう」
 さすがにアナスタシアも文句ひとつ言わなかった。腐っても元冒険者である。無茶かどうかの判断はつくらしい。
 そうして一行は、虫の群れから逃げるようにして洞窟を走り出た。

●23日
 彼らの報告によって、掃討作戦が計画された。同時に、虫の大群がリブラ村に向かっている事も確認されたらしい。
 にわかにリブラ村内は忙しさを増し、冒険者達が再び集結を始め出した。
「とにかく、お疲れ様。まさかあんなものを見つけることになるとは思わなかったけど」
 ここに残り、作戦に参加する者もいるだろうとアナスタシアは、村内の一画で彼らを労う。
「じゃ、ポイント出すわよ。虫の数と大きさだけど、多すぎて分からなかった所もあるから、全体的な活躍度から出してみたわ。まぁアルルが中では目立ってたと思うから、アルル4点。後のみんなは3点ね。前回までの累計で、テッド11点、アルル8点、ファイゼル7点、アルフレッド6点、後は3点、で間違いないと思うけど。で、貯める方向で行くの?」
「肩たたき券を使います」
 受け取った木板を、即座にミカエルが差し出した。変な顔をしたアナスタシアに、この世のあらゆる花を背負ったような笑顔を見せたミカエルが、
「労っていただけますよね?」
 恐ろしく華やかな声で確認する。仕方なくアナスタシアはミカエルの細い両肩を叩き始めた。
「‥‥15点の武器に‥‥シフールの礫はありますか‥‥?」
 それを見ながらアルフレッドが問う。
「いらないから昔の冒険者仲間にあげちゃったわ。でも、欲しいなら取り返しとくわよ」
「武器の内訳は、分かりますか?」
 今度は、15点も近いテッドが尋ねた。
「武器は、ライトソード、ラージクレイモア、セントクロスソード、ニードルホイップ。後、銀製のスピアとダガーがあったわね。スクロールは忘れたから、また見とくわ」
 そうして彼らは解散した。
 村の片隅で、持ち帰った虫の遺骸をせっせとあらゆる方法で調理するパトリアンナを見て、数人の騎士達がメモしていたとか、後日ギルドを訪れたファイゼルが何故かギルド員達に笑われたとかあったが、アナスタシアが帰る間際、彼女の職務態度にミカエルが忠告と脅しをかけたらしい。
 その結果は‥‥また次回。