何を知り、何を求めるか

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月26日〜03月05日

リプレイ公開日:2007年03月06日

●オープニング

●某領地内 豪華領主館
「それで、何だ‥‥。奴等は見つかったのか?」
「いえ‥‥。依然、足取りは掴めず」
「えぇい、もう良い! この役たたず共が!」
 派手すぎて目がちかちかするような部屋で、でっぷり太った領主は部下の兵士達を手で追い払った。
「全く‥‥。私としたことがうっかりしたわ。あの眩いばかりの金色の装飾品を手放してしまうとは。しかも7つも!」
 冒険者達の手によってパリに運ばれてしまってからもう一月になる。最早それを手に入れる事は叶わないだろう。
「‥‥奴等さえ見つけることが出来れば‥‥」
「でもお父様。あのアクセサリーを身につけた事で、皆はおかしくなってしまったのでしょ? 呪われているって聞いたわ」
「エリザベート。いいか? 何事も、ここ次第なのだよ」
 領主は自分の頭を指で軽く叩き、にやりと笑う。
 そんな父親を、娘は不安そうに見つめた。

●パリ郊外 孤児の『家』
「え〜い、と〜っ」
 古い建物の外で、子供達が剣を動かしていた。決して綺麗な動きでは無いが、それなりに素早い。
「よし、だいぶ上手くなったな」
「えへへ。僕、立派なファイターになりたいんだ」
 褒められた子供が嬉しそうに笑う。かつて大人に利用され、そして殺されかけた子供だとは思えないほど、無邪気な表情だ。
「おう、その意気だ。てめぇさえ諦めなきゃ、何にでもなれるからな」
「うん!」
 その『家』には2人しか大人がいない。彼らも含めた子供達は、他の孤児達を育てる『家』と変わらない貧しい生活を送っているが、文句を言う者はいなかった。
「‥‥リシャール」
 剣の稽古を行っている子供達から少し離れた場所で、1人の少年が立ち上がる。隣で同じように座っていた男が、不安げに彼の名を呼んだ。
「‥‥カタキを取るわけじゃない。でも、あれがたくさんあるって言うなら、放っておくわけには行かない」
「冒険者にまかせておきなさい。あなたが動いても、かえって‥‥迷惑になりますよ」
 少年は黙って男を見つめる。
「‥‥カル。俺は、冒険者になりたいって思ってた。俺達を助けてくれた奴らみたいに。冒険者の中には、俺よりも年下がいる。俺より小さい奴が、人を守る為に戦ってる。俺は今すぐ冒険者になる事は出来ないかもしれない。だから」
「リシャール、駄目です。封印した物を開放してはいけません」
「そんな大したものじゃない。でも、俺が今簡単に使える力だ。人は殺さない。約束する」
「あなたが殺されるかもしれないのですよ?」
「気をつける」
 少年は足音も立てずその場を走り去った。カルヴィンはそれ以上引き止める事も出来ず、小さく溜息を吐く。
「‥‥薬と決別しなければ、あなたの人生に勝つことも出来ないというのに‥‥」
 静かに彼は神に祈りを捧げ、全てに幸が訪れる事を願った。

●とあるドワーフ村
「おいドミル〜。なんか、変な奴らが来てるぞ〜?」
 隣家の者に呼び出され、宝飾職人ドワーフは家を出た。
「何かわしに用なのじゃ?」
「お前に聞きたいことがある」
 大仰な態度で、鎧を着た者達は彼を取り囲んだ。
「この腕輪に、見覚えがあるな?」
 そして金色に輝く腕輪を取り出し、首を傾げたドワーフに答えを迫る。
「う〜ん‥‥? わしはこんな腕輪は作らんのじゃ」
「覚えがあるな、と聞いたのだ」
 低く脅されて、ドワーフはきょとんとした表情で彼らを見上げた。

●パリ 王宮前広場
「全く。リブラ村の事で忙しい時に、何だ?」
 1人の騎士が、広場の隅で男に声を掛けた。
「いえ。昨年、ご依頼下さった事で」
「昨年?」
 怪訝そうな顔をする騎士に、男は小さく頷く。
「暗殺者達の一味のうち、逃げた者がいると」
「あぁ、あれか」
 騎士は思い出したように呟いたが、やがて首を振って男に小さな皮袋を手渡した。
「生憎、あれについてはある程度解決している。その女が持っていたであろう指輪も教会に保管してあるしな」
「そうですか。それは宜しゅうございました」
「ご苦労だったな」
 騎士は踵を返し、王宮へと去っていく。
 後に残された情報屋は皮袋を服の中にしまい、教会の方角へと歩き始めた。

●?
「‥‥で、私に何をせよと?」
「調べて欲しい事があります。あらゆる迷宮を調べているという、あなたに。あの場所の事を」

●今回の参加者

 ea8407 神楽 鈴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5486 スラッシュ・ザ・スレイヤー(38歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb7368 ユーフィールド・ナルファーン(35歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

シェアト・レフロージュ(ea3869)/ ヴィメリア・クールデン(ec1031

●リプレイ本文

●グリー村
 ドーマン領。領土のほとんどが山地の小さな領地。
「これは『救いし方』ではありませんか」
 ユーフィールド・ナルファーン(eb7368)は、相棒の狩猟犬、グラシャラボラスと共にその領内を訪れていた。
「あれから何も大事はありませんか?」
 穏やかに村人達に尋ねると、彼らは顔を見合わせる。
 ここはグリー村。かつて彼も含めた冒険者達が救った小さな村である。誰が付けた定かではないが、別名にび色の村。それはジャパンでは喪色とされる凶色を指す名だと言う。
「墓を掘り返されたり、変な洞窟が見つかったり‥‥いろいろありました」
 洞窟の奥に閉じ込められていた村人達。救われた後も彼らの上に降りかかる災難は終わっていないようだ。
「その洞窟に案内していただけませんか。調べたい事があるのです」
「お1人でですか?!」
 驚愕する村人達を安心させるように微笑み、彼は愛犬へ目を向ける。
「無理はしません。それに1人ではありませんから」
 言われて村人達も短足の犬を見下ろす。主人の傍で懸命に尻尾を振っていたグラシャラボラスは皆の注目を浴び、「ワン」と一声鳴いて存在をアピールした。

●孤児の『家』
「よぉ、久しぶりだな」
 土産を両手に抱えるほど持ってきたスラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)と、デニム・シュタインバーグ(eb0346)、シェアトの3人は、孤児達が育てられている家を訪れた。
「リックの野郎、相変わらず人を頼るって事を覚えねぇな」
「責任感が強すぎるよ‥‥」
 リシャールが出て行った顛末を聞き、彼らは顔を曇らせる。だがそれも束の間。彼らはすぐに情報を収集し始めた。リシャールの最近の調子、絶てずにいる薬の量、彼がかつて居た組織から共に抜けた子供達から連絡が無かったか。
「パリですか。‥‥組織があった建物に向かったのでしょうか」
「多分な」
 リシャールが何処に行くか。その手掛かりを掴めなければ追うことも出来ない。他にもシェアトが、薬が切れたときの様子や対処法を尋ねたが。
「薬を何とかして止めさせないといけませんね」
 彼が暗殺者だった頃から常備していた『薬』。その使用量は徐々に増えているのだと言う。薬が切れた時の様子は見せないし、どこで新たな薬を入手しているのかも定かでは無いのだが、クレリックであるカルヴィンが、それを止めることの出来なかった自分を悔やみつつ皆に頭を下げた。
「僕は、絶対に友達を見捨てたくありません。必ず、リックを連れ戻します!」
 それへとデニムが力強く告げ、落ちこむカルヴィンを励ます。その隣でスラッシュは。
「こいつは情報料代わりだ。大した額にゃなんねぇが、リックとアンリの家族なら俺の弟分だ。精々ガキ共に、美味いモン食わせてやってくれよ」
 大金をジョエルに渡していた。それは、庶民の何ヶ月分の給金かというほどの額だったが、ジョエルは頷いてスラッシュの背を叩いた。その足元にアンリがやって来て不安げに彼らを見上げたが、それへもスラッシュは「家を守れよ」と声をかけ、小さな少年の笑顔を引き出す。
「‥‥心から願えば乗り越えられると。‥‥願っています。お気をつけて」
 シェアトがそっと、デニムに白い造花を手渡した。それは、彼らがかつてこの家で演じた劇に使われた小道具。強い想いで願えば叶う。頑なな心でさえも、いつかは花開く。そんな意味も込められた花。
 そして、デニムはスラッシュと共にパリへと向かった。

●ルー村
「初めまして。侍の鳳双樹(eb8121)と申します。アリスティドさんより紹介を頂き参りました」
 ドミルに宝飾品の事などを尋ねる為、双樹はルー村に来ていた。職人ドワーフたちが住まう村である。
「え‥‥いらっしゃらないんですか?」
「どっか連れてかれちまったんだよ。わしらも、どうすればいいのやら‥‥領主様に馬は出したんじゃが」
「相手の方は知らない方ですか?」
「どっかの兵士みたいだったなぁ。あっちに向かって行ったよ」
「詳しく‥‥教えてもらえませんか?」
 彼女はドミルに装飾品について尋ねた後、他の冒険者達と共に行動する計画を立てていた。だが、ここで大変な事が起きているのに見過ごすわけには行かない。例え頼れる仲間が傍に居なくても、急いで行動しなければどうなるか分からないのだ。
 そして、双樹は残された手掛かりを元に、ドミルを追って村を出た。

●ポムグレン村
 リリー・ストーム(ea9927)とセイル・ファースト(eb8642)は、ラティール領に来ていた。小さな領内ながら、やたら町や村が点在する人口密度の高い領地である。
「セイル君と旅行〜。何かが起こりそうな‥‥よ・か・ん☆」
 馬上で不吉そうな言葉を口にするリリーをちらと見上げるも、セイルは何も言わなかった。セブンリーグブーツを借り、馬の手綱を引く2人の姿は、高速で移動する騎士様と従者の関係に見えなくも無い。
 やがて彼らはポムグレン村に着いた。村内は慌しいが、2人を見つけて村人達が近寄って来る。
「は? 死んだ?」
 そこで、彼らは思いがけない話を聞かされた。セイルを含めた冒険者達が子供が攫われる事件を解決し、その犯人達を捕らえて村に引き渡していたのだが、全員死んでしまったらしい。
「ちょっと死体を見せてくれ」
「牢に携わった方々から話をお聞きしたいですわ」
 馬上に輝く白い騎士様に魅了されたのか。村人達は慌てて2人を案内した。
 話によると、犯人である旅芸人達は余裕に満ちた態度で牢に捕らわれており、そのふてぶてしさに怒り狂う村人達が、彼らを見せしめの為に残酷な刑を処すと決定していたらしい。牢を見張っていた兵士達以外に接触した者も無く、又、旅芸人達の所持品の中に装飾品や不審な物は無かったと言う。
「1体は胸を一突き。後は‥‥傷、ねぇな」
 牢に倒れたままになっている死体も確認したが、後の3体の死因は分からなかった。
 以前助け出した子供達にも尋ねようとしたが、この村には女装させられていた1人の少年しか居ない。少年を含めた村の子供達にも話を聞こうとしたが、大した情報を得ることは出来なかった。だが。
「そうだ。囮のお姉ちゃんを連れて行こうとした時」
 別れ際、思い出したように少年が呟いた。
「お姉ちゃんなら悪くないって。『この娘なら良い人形になれる』って言ってた」
「人形?」
 2人は顔を見合わせる。しかし特にその言葉に心当たりは無い。
 そして彼らは次の目的地へと向かった。

●ラティール町
 ラティール領領主の住まう町。それがラティールの町である。
 神楽鈴(ea8407)とアリスティド・メシアン(eb3084)が町を訪れたのは、3日目の夕刻の事だった。即座に宿を取り、2人は派手な領主館を見上げる。
 パリを出て最初に2人が向かったのは、アクセサリーを大量に所持していたボニファスが居た村だった。まず彼の家に踏み込み再度手掛かりになりそうな物が無いか探したが、特に見当たらない。幾つかジャパン製の物が見つかったが、それも恐らく彼が買った物だろう。
 その後、ボニファスの人相を聞いた鈴が絵を描き、ボニファスと似ているかどうかを村人達に確認した。それを使ってボニファスの行方を突き止めるつもりである。
 結局村でそれ以上情報を得ることは出来なかった2人は、次にこの町にやって来たのだが。
「確かにあんまりあの家に行きたくないよね」
 旅人風の地味な格好になった2人は、領主に見つかることを避けていた。以前歓待された時、居心地がすこぶる悪かったのである。
「エリザベートに話しかけてみようと思う」
 館に近付き、外からエリザベートの部屋に向かってテレパシーを放つ。当初は宿から話しかける予定だったが、館を囲む土地が広すぎて届かない。仕方なく、警備兵達に見つからないよう注意しながらの交信となった。しかし彼女は。
「父が、問題を起こしたアクセサリーを探しているの。綺麗で高価な物に目が無くて」
 テレパシーを受けて裏からこっそり出て来た上、2人の居る宿屋にやって来たのだった。どうしても直接話をしたかったらしく、彼女も地味な格好をしている。
「あれを使って、何かするつもりなの?」
「分からないわ。でも、最近腕の良い細工師を集めているの」
「‥‥まさか、同じ物を作らせて本物とすり替えを?」
 嫌な考えが過ぎり眉をひそめたアリスティドに、エリザベートは小さく首を振った。
「どうか父を止めて下さい。私に出来る事なら何でもします。だから」
 アリスティドの手を取って必死に訴える。とりあえず曖昧に微笑を返すが、今すぐ何か手を打つならば館に乗り込まなくてはならないだろう。最もそれはそれで嫌な予感がするが。
「商人達が宝飾品の事で家に出入りしたりしないの?」
 横から鈴が尋ねた。商人達は頻繁に出入りしているらしい。
「では、ピールと言う名の商人と、金髪の、薔薇の香料を使っている男については」
「兄は、薔薇の花がとても好きだったわ。兄の手掛かりが?」
「見かけたという話があったんだ。彼が駆け落ちしたという女性について、詳しく教えてもらえないかな」
 問われて、彼女は一瞬沈黙した。だがすぐに口を開く。
「‥‥怖い位綺麗な女だったわ。黒くて長い髪が、闇のように広がってたの」

 翌日。
 リリーとセイルもラティールの町にやって来ていた。
「あれは嫌な事件だった。あの装飾品は呪われている。近付く者を悉く不幸に誘う危険な品だ。アイツは大丈夫かな」
 リリーがここぞとばかりに飛びきりの色香を使って門番を落とし、2人はすんなり領主と面会していた。セイルは一度ここに招かれた事があるのだが、領主は顔も覚えていなかったらしい。しかし以前依頼で招かれたという話をすると、彼は身を乗り出した。
 晩餐の席にも招かれ、その席でセイルが不吉な話を口に乗せると案の定領主は飛びつき、その人を紹介してくれとせがんだ。だが、それに対してとぼけ続けるセイルに業を煮やしたらしい。テーブルの上に金貨の詰まった袋を置いた。
「取引をしようじゃないか。私は君達の欲しい情報を教えよう。だから君達も私の欲しい情報を置いていきたまえ」
「私、領主様が呪われた装飾品に捕まってしまうのが怖いですわ。こんなに男らしくて素敵な方なのに呪われたりしたら、私‥‥」
 色っぽい仕草で悲しむリリーに悪い気はしなかったようだが、領主は引き下がらない。だがちょうど来客が来たらしく、呼ばれて出て行き。
「‥‥おかしいですわ。女好きの領主という話ですわよね?」
「よっぽど強欲なんだろうな。リリー。あんま無理するなよ」
「セイル君、心配してくれるのね。でも大丈夫。私はセイル君のも」
 不意に咳払いされる。使用人達が隅で控えていたのだ。
 だが、翌日。

「ドミルさん‥‥ですよね?」
 双樹は片手にマント留めを握り締め、牢越しにそっと囁いた。後方には、4人の冒険者達も居る。今この町に居る4人だ。
「誰じゃ?」
 牢内に居たドワーフが怪訝そうに皆を見つめ、アリスティドに気付いて笑みを浮かべた。
「お久しぶりです。まさかこんな事になっているとは」
「いきなり捕まったんじゃ」
 それは、双樹が偶然アリスティドと鈴に会った所から始まった。彼女は1人、ドミルを追ってあちこちの村をめぐりながらやって来たのである。町に入ってすぐに彼の名前が刻まれたマント留めを拾い、ここに居るのは間違いないと確信したのだが、手掛かりは領主館で止まっていた。入ろうにも門前払いを食らい途方に暮れていた所、2人に出会ったのである。
 その後の展開は早かった。話を聞いて普段の格好に戻した2人と共に館を訪れると、すんなり通して貰え、その上滞在中のリリー、セイルにも出会えたのである。彼らも、情報を話すまでは外に出さないと言われて軟禁状態にあったので、この機会に逃げ出そうという事になった。勿論逃げる事が出来なかったわけではない。情報を集め続けていたのである。
 エリザベートに地下牢を教えて貰った5人は、見張り達を色気と交渉とスリープで切り抜け、牢の鍵を見張りから奪い取ってドミルを救い出した。
「お前さんが助けてくれたのじゃな」
 話を聞いたドミルが双樹に礼を、続いて皆にも感謝の言葉を述べる。
「いえ‥‥皆さんが居なかったら。私1人じゃとても‥‥」
「でもどうして捕まっていたの? 何か話は聞いた?」
 館を出た後、鈴がドミルに尋ねた。ドミルは頷き、金の装飾品を作るよう言われたと告げる。
「やっぱり‥‥偽物を作るつもりだったわけね」
「偽物?」
 それぞれの持つ情報を交換し合い、彼らは派手な屋敷を遠くから眺めた。
「ボニファスはパリに居るかもしれないし、探してみようと思うんだけど」
 鈴の提案に、皆は賛成してパリに戻ることにした。ドミルをすぐに村に帰すのも不安なので、一緒にパリに行くことになり、彼はその道中気になる事を告げた。
「金髪の宝飾職人なら、わし、会ったことあるのじゃ」

●パリ
「リック!」
 スラム街にある粗末な小屋の中で。デニムはリシャールを見つけた。
「今度は逃げんじゃねぇぞ。てめぇにゃ頼りになる兄貴分が何人もいるだろうが」
 小屋の外から、スラッシュも声を投げつける。
 2人は何日もかけてリシャールを追い続けていた。パリ内で細かく動くリシャールは元暗殺者。彼の足取りを掴むのは容易では無かったのである。
 2人に見つかったリシャールは少し驚いたようだった。自分を追っている者が居ることは知っていたが、敵か兵士だろうと思っていたらしい。
「1人で出来る事ぁ、先が見えてんだよ。本気でどうにかしてぇなら、知り合い頼りやがれ」
「そうだよリック。もっと自分の事を大事にして欲しいんだ」
 その小屋は、暗殺者達がかつて使っていた集合場所のひとつだと言う。そういう場所をひとつずつ調べ続けていたのだ。
「リックがまず戦うべきは、自分自身なんだと思う。リックが自分と戦っている間、今抱えているものは、僕が代わりに背負う」
「薬の事か」
 察してリシャールは呟いた。
「分かってんなら止めやがれ。ま、言って聞くようなら俺も苦労しねぇや」
 バックパックからエペタムを取り出してリシャールに渡しながら、スラッシュもぼやく。護身用に渡したそれを受け取り、彼は2人を見上げた。
「人に頼る、か。努力する」
「リックの事、大事に思ってるのは僕達だけじゃない。ジョエルさんやアンリさんや、他にも」
「簡単に他人を信用出来ねぇのは分かる。けどな。いい加減にしねぇとマジでゲンコツ食らわせっぞ」
 スラッシュの言葉にリシャールは笑う。
「努力する。俺も、あんた達の事。大事に思ってるからさ」
 ようやく子供らしい表情を見せた彼に、2人も笑って見せた。
 
 そして皆は、それぞれの情報、経験を交換し合った。
 様々な事が少しずつ符合して行く中、教会に向かった彼らは、驚愕する事件と遭遇する。
 それは、数日も前の出来事だった。