『収穫祭』男なら拳だ!女だって拳だ!祭

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月21日〜10月26日

リプレイ公開日:2006年10月25日

●オープニング

 収穫祭を目前に控えたある日の昼下がり。
 それは、酒場の壁にぺたりと貼られた。
「・・・・何これ?」
 端のほうで奥ゆかしく貼られてある羊皮紙に、1人の冒険者が近付き。
「『拳祭り』?」
 手にとって首を傾げる。
 いわく。
『皆さん、そろそろ収穫祭ですね! 皆で踊って飲んで食べての大騒ぎの季節ではありますが、それだけでこの祭りが終わったら、ちょっと勿体無いですよ! そう。どうせ騒いで暴れて、某所から注意を受けたり捕まったりするのなら、楽しくみんなでわいわいと戦いませんか?』
 冒険者は、さらに読み進める。
『戦うって言っても、冒険者の皆さんの日常となっている戦いとは、少し違いますよ? 武器は一切なし! 武器は己のコブシのみ! ・・・・え、何? 蹴る? だめだめ! コブシのみです! 別に手の平でもいいですけどね。あ、頭突きもだめですよ! 目つぶしもダメですよ! 隠し武器もだめですからねっ』
「・・・・制限多いな」
『それから、皆さんの戦いを彩る衣装ですが、金属製の鎧はだめです。だって、コブシで殴ったら痛いじゃないですか。後、頭とかも、せっかくの晴れ舞台に無骨なものをかぶって来ないでくださいね。そして、ここが重要。相手に深い傷を負わせてはいけません! 当たり前ですよね。楽しいお祭りですから。後、魔法もだめですよ。拳祭りですから!』
「・・・・」
『勿論、ただ騒ぐだけのお祭りじゃ、ありません。ちゃあんと賞金も用意してあります。それから、祭り出場者以外にも、見物客も大歓迎。ぜひぜひ、皆さんでお越しください。 拳祭り実行員より』

 再び、羊皮紙は壁の隅に貼り付けられる。
 収穫祭は、もう目前に迫っていた。

●今回の参加者

 ea6492 李 紅梅(27歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb6675 カーテローゼ・フォイエルバッハ(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb7990 アルフ・レッド(24歳・♂・ファイター・パラ・ノルマン王国)
 eb8196 ルウラ(24歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

 収穫祭。それは年に一度の、秋の実りを感謝し祝う祭りである。
 故に、どの町でも華やかさには違いがあるものの、執り行われていた。
「お〜、賑やかだな」
 ましてやパリは国の中心部。あちこちで盛大な催し物も行われている。李紅梅(ea6492)は、酒場で見つけた『祭り』に参加しようと、広場にやってきていた。
 広場内からは、歓声、怒号、悲鳴などが混ざり合って聞こえてくる。
「賞品は何やろな〜♪」
 中丹(eb5231)は、そんな中、立て看板を見上げつつ、その場でスキップをしていた。この祭りはどうやら景品が出るらしい。だが、スキップする河童が珍しいのだろうか。人々に指を指されている。
「・・ここで、名前を書けと言われたのだけど」
 その後ろから、カーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)が近くのテーブルにやって来て、差し出された羊皮紙にサインを始めた。
 そして。丸く円状になっている観客達の隙間から、行われている乱闘を見るフリをしながら、美女がいないか素早くチェックしているアルフ・レッド(eb7990)の姿もあった。
 ともかく、広場は大賑わいである。そして、ここに1つの戦いが始まろうとしていた。

 『拳祭り』。それは、己の拳のみで戦いあうというシンプルな祭りである。しかし。
「ルールは分かったけど、ちょっと聞いていいか? 蹴り無し、って話だけどさ。足払いとかはどうなんだ?」
「原則として、足技は無しということになっておりますねぇ・・」
 紅梅の質問に対して、係員が答えているその後ろで。
「あ! 今、足使ぉた。なぁなぁ、あれ、使ぉとる、って」
 目の前の試合で、下手な跳び蹴りを相手に食らわしている者の指摘を、中丹が他の係員にしていた。
「えーと、貴女は次の試合になります。そこで勝ち残った者だけが、最終試合に進めるようになっております」
「分かったわ。ところで、身に着ける装備だけど、手袋はいいわよね。このバックルはO.K?」
 出場者の控え場所前で、カーテローゼは携帯品を幾つか係員に見せる。
「はい、大丈夫です。明らかな武器とか、マジックアイテムでなければ」
 では、一見武器に見えない物ならば、持ち込んでも良かったということなのだろうか。カーテローゼは首を傾げながら、毛糸の手袋を両手にはめる。どちらにしても、パンクラチオンの集団戦みたいな物だと思って参加したわけで、乱戦をこなしてこそのレオンの騎士である。規則として決まっているものの隙をついてまで、勝つ意味はあるだろうか。
 そして。
「女の子は2人かぁ・・」
 そんな3人(視界に入っているのは2人)を見ながら、アルフはにやにやとしていた。

「さぁ、お待たせしました! 次は、第5試合。何と次の出場者は! 冒険者の皆さんです!」
 歓声と拍手が上がる中、4人は比較的広めの円内に案内された。円、と言っても、観客達が円の形に囲んで見物しているだけなので、下手に相手を飛ばしでもすると、とんでもないことになるだろう。
「え〜・・と。本当は5人の予定でしたが、まだいらっしゃってないので、4人で始めたいと思います。皆さん、宜しいですか?」
 4人は互いに距離を取って、待機位置に付いた。パラが2人に河童と人間。今ひとつ迫力に欠ける組み合わせだが、観客の数はどんどん増えているようだ。彼らはざわつきながらも、試合の開始を今か今かと待っている。
「では・・始め!」
 係員の合図と共に、皆の期待がかかった試合が始まった。

 真っ先に動いたのは、紅梅だった。
「いっちょ、気合入れていくか!」
 素早く中丹との間合いを詰める。そのまま、怪しげな蓑に緑の身体を包んで、隙がありそうで無さげな構えをしている河童へと拳を振るう。
「はいはいはいはいっ!」
 それを受ける中丹の磨かれたクチバシが、一瞬太陽の光を受けて光沢を放った。それへ、一撃、二撃と紅梅は拳を叩き込み、最後の三撃目を中丹の腹へと食らわせる。
「・・何や・・軽いわ・・」
「まぁ、素手だからな! でもいい機会だ。いろいろ試させてもらう!」
「そぉは行かへんで」
 ゆらりと太め河童の身体が揺れた。そして。
「型だけ龍飛翔!」
 謎の技名を叫びつつ、飛び上がった。紅梅はとっさに後退しようとしたが間に合わず、ぼよんとねじりながら飛んだその身体に当たって、後ろにひっくり返る。
「いっ・・てて・・」
 見上げると、クチバシをきら〜んと光らせている中丹が、余裕のポーズで紅梅を見下ろしていた。

 紅梅の次に動いたのは、アルフだった。
「拳で男を見せる一大イベントだけどっ・・」
 さささとカーテローゼの背後に回る。しかし気配を感じた彼女は、素早く左足を軸に振り返って構えた。勿論アルフも真剣な表情でカーテローゼへと跳びかかり。
「たぁ〜っ」
 右手で腹の辺りにパンチを繰り出した。
「・・っ」
 想像以上の速さに避けきれず、カーテローゼはそれをまともに身に受けて、体勢を落とした。が。想像以上に威力が無い。まともに腹に入っていない。・・と言うよりも?
 しかし考える間もなく次々と攻撃が振ってきて、かわす事も出来ずに全ての拳を身体に受けてしまい、カーテローゼは実力の差を感じた。この男は強い。だが・・何か違和感がある・・?
「へへっ」
 そして、笑顔を見せながら、アルフは左手をにぎにぎしていた。その心中はと言うと。
(「だって、手による攻撃なら何でもいいってルールだし…!」)
 人一倍女性に目が無いアルフは、真面目に戦うフリをして、『あわよくば女性の身体に触れちゃおう作戦』に出ていたのである。
 だがそんな事とは知らないカーテローゼは。
「(左右のコンビネーションをメインに攻撃を組み立てて、隙を窺うしかないわね・・)」
 体勢を立て直し、素早く戦略を練っていた。

「てやあっ」
 紅梅と中丹の戦いは、紅梅劣勢で進んでいた。
 この不利な状況を立て直すには、禁止されている足技しかないか、と紅梅が低く身体を落とし。
「次で決めたるわ」
 余裕の表情で、スタンアタックを当てて次の戦いに行こうと中丹も構え直した。
 その時。
 ころころころ。2人の間に、何かが転がり割って入った。
「・・・・」
 今にも踏み込もうとした足を止め、2人はそれを見る。赤いそれは2人の間を抜けた後に止まり、少しよろけながら立ち上がった。そして。
「・・・・覚悟しなさいよ・・」
 マントを翻しながら、彼らの横手からゆっくりと、カーテローゼが歩いて来る。何やら怒りの炎を背後に背負いながら・・。
「な・・何?」
 尋常では無い気配に1歩退いた紅梅に、カーテローゼはきっ、と目をやり。
「その男、変態よ・・・・」
 実に無表情に、静かに告げた。感情を決して表に出そうとしないカーテローゼだが、それだけに怖い。
「変態?」
「・・触ったのよ」
「何に?」
「・・言いたくもないわ」
 言い放ち、目まいから立ち直ったアルフを睨みつける。だが。
「触ってないよ。ぜんぜん、全く。真面目に戦ってたよ」
 平然とそう返し、近くにいた紅梅に拳を振りかざした。
「隙ありっ」
「なっ・・!」
 とっさに反応したものの、明らかにかわせる速さではない。殴られるのを覚悟した紅梅だったが、その攻撃は僅かに逸れて肩に当たる。衝撃で身を引いた紅梅だったが。
「・・触っとるやん」
 見学していた中丹の目には、攻撃していない左手の平で、何だか触っているアレフの動きがばっちり見えていた。
「あんな男がいたら、戦いに身が入らないわ。まず・・沈める」
「おもろいけど、こんなとこでやったらあかんわ」
 中丹も頷き、まだ戦っている紅梅とアレフへと近付いた。

 最初に攻撃を仕掛けたのはカーテローゼ。
 ダブルアタックでアレフに拳を叩き込むと、その身体は紅梅に当たりそうになりながら飛んで行く。
「・・貴女にも触っていたわよ」
 そう教えると、紅梅も顔色を変えた。何やら思う所があったらしい。そのままその場を離れ。
「こぉんのぉ・・・・おんなの敵ぃっ!」
 そしてようやく立ち上がったアレフに、後ろから突進して容赦無くトリッピングをかけ、せっかく立ったばかりの彼を転倒させた。
「最後はおいらやね」
 それを見ながら軽く体操をしていた中丹。何とか立ち上がろうとしているアレフの横に近付いて。
「せやっ」
 首筋にスタンアタックをかけ、遂に『女の敵』を倒した。
 
 アレフが係員達に運ばれて行った後。
「邪魔者はいなくなったし、続きだな」
 素早く紅梅が構え、2人の動向を窺った。3人になったという事は、寸分の油断も出来ないということだ。もしも2人が組んでしまったら、残った1人は圧倒的に不利になる。だが、気が張り詰めたのも一瞬。紅梅はカーテローゼへと拳を向け、3撃を打ち合った後、跳び退って間を取った。そこへ。
「形だけ龍飛翔〜」
 ぼよんと中丹が飛んできて、紅梅にスタンアタックを当てる。
「うっ・・」
 油断していたわけではないが、まともにそれを食らって、紅梅はその場に倒れた。
 残されたカーテローゼは向き直り、まだきちんと体勢を整えていないと思われる中丹の横方から、ダブルアタックを仕掛ける。しかし一撃目は当たったものの後をかわされ、逆に。
「てやっ」
 『形だけ龍飛翔という名のスタンアタック』が飛んできて、避け切れずにカーテローゼも倒れ伏した。

「かっぱっぱ〜、優勝や〜」
 クチバシを光らせながら、中丹は全身でポーズを取っていた。輝く頭の上の皿が、この上なく眩しい。
「・・えーと、河童さん」
 そんな彼に、後ろからそっと声をかける人が。
「・・すみませんけど、次の試合が決勝となっています・・」

 結局、中丹は目指していた優勝を勝ち取った。
 彼には、賞金と黄金酒。そして、『河童な貴方にぴったりだ』と、『ジャパン物愛好家』である主催者から謎の褌を与えられた。他の出場者達にも、参加賞として少しばかりのお金を渡され、『拳祭り』は幕を閉じた。
 
 そして数時間後。
「どいつもこいつも、オイラの強さに恐れをなして逃げやがったな」
 夕陽の綺麗な夕刻時。
 やっと目覚めたアレフだったが既に広場には誰もおらず、1人寂しく勝ち誇るのだった。