●リプレイ本文
収穫祭。それは年に一度の、秋の実りを感謝し祝う祭りである。
故に、どの町でも華やかさには違いがあるものの、執り行われていた。
「お〜、賑やかだな」
ましてやパリは国の中心部。あちこちで盛大な催し物も行われている。李紅梅(ea6492)は、酒場で見つけた『祭り』に参加しようと、広場にやってきていた。
広場内からは、歓声、怒号、悲鳴などが混ざり合って聞こえてくる。
「賞品は何やろな〜♪」
中丹(eb5231)は、そんな中、立て看板を見上げつつ、その場でスキップをしていた。この祭りはどうやら景品が出るらしい。だが、スキップする河童が珍しいのだろうか。人々に指を指されている。
「・・ここで、名前を書けと言われたのだけど」
その後ろから、カーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)が近くのテーブルにやって来て、差し出された羊皮紙にサインを始めた。
そして。丸く円状になっている観客達の隙間から、行われている乱闘を見るフリをしながら、美女がいないか素早くチェックしているアルフ・レッド(eb7990)の姿もあった。
ともかく、広場は大賑わいである。そして、ここに1つの戦いが始まろうとしていた。
『拳祭り』。それは、己の拳のみで戦いあうというシンプルな祭りである。しかし。
「ルールは分かったけど、ちょっと聞いていいか? 蹴り無し、って話だけどさ。足払いとかはどうなんだ?」
「原則として、足技は無しということになっておりますねぇ・・」
紅梅の質問に対して、係員が答えているその後ろで。
「あ! 今、足使ぉた。なぁなぁ、あれ、使ぉとる、って」
目の前の試合で、下手な跳び蹴りを相手に食らわしている者の指摘を、中丹が他の係員にしていた。
「えーと、貴女は次の試合になります。そこで勝ち残った者だけが、最終試合に進めるようになっております」
「分かったわ。ところで、身に着ける装備だけど、手袋はいいわよね。このバックルはO.K?」
出場者の控え場所前で、カーテローゼは携帯品を幾つか係員に見せる。
「はい、大丈夫です。明らかな武器とか、マジックアイテムでなければ」
では、一見武器に見えない物ならば、持ち込んでも良かったということなのだろうか。カーテローゼは首を傾げながら、毛糸の手袋を両手にはめる。どちらにしても、パンクラチオンの集団戦みたいな物だと思って参加したわけで、乱戦をこなしてこそのレオンの騎士である。規則として決まっているものの隙をついてまで、勝つ意味はあるだろうか。
そして。
「女の子は2人かぁ・・」
そんな3人(視界に入っているのは2人)を見ながら、アルフはにやにやとしていた。
「さぁ、お待たせしました! 次は、第5試合。何と次の出場者は! 冒険者の皆さんです!」
歓声と拍手が上がる中、4人は比較的広めの円内に案内された。円、と言っても、観客達が円の形に囲んで見物しているだけなので、下手に相手を飛ばしでもすると、とんでもないことになるだろう。
「え〜・・と。本当は5人の予定でしたが、まだいらっしゃってないので、4人で始めたいと思います。皆さん、宜しいですか?」
4人は互いに距離を取って、待機位置に付いた。パラが2人に河童と人間。今ひとつ迫力に欠ける組み合わせだが、観客の数はどんどん増えているようだ。彼らはざわつきながらも、試合の開始を今か今かと待っている。
「では・・始め!」
係員の合図と共に、皆の期待がかかった試合が始まった。
真っ先に動いたのは、紅梅だった。
「いっちょ、気合入れていくか!」
素早く中丹との間合いを詰める。そのまま、怪しげな蓑に緑の身体を包んで、隙がありそうで無さげな構えをしている河童へと拳を振るう。
「はいはいはいはいっ!」
それを受ける中丹の磨かれたクチバシが、一瞬太陽の光を受けて光沢を放った。それへ、一撃、二撃と紅梅は拳を叩き込み、最後の三撃目を中丹の腹へと食らわせる。
「・・何や・・軽いわ・・」
「まぁ、素手だからな! でもいい機会だ。いろいろ試させてもらう!」
「そぉは行かへんで」
ゆらりと太め河童の身体が揺れた。そして。
「型だけ龍飛翔!」
謎の技名を叫びつつ、飛び上がった。紅梅はとっさに後退しようとしたが間に合わず、ぼよんとねじりながら飛んだその身体に当たって、後ろにひっくり返る。
「いっ・・てて・・」
見上げると、クチバシをきら〜んと光らせている中丹が、余裕のポーズで紅梅を見下ろしていた。
紅梅の次に動いたのは、アルフだった。
「拳で男を見せる一大イベントだけどっ・・」
さささとカーテローゼの背後に回る。しかし気配を感じた彼女は、素早く左足を軸に振り返って構えた。勿論アルフも真剣な表情でカーテローゼへと跳びかかり。
「たぁ〜っ」
右手で腹の辺りにパンチを繰り出した。
「・・っ」
想像以上の速さに避けきれず、カーテローゼはそれをまともに身に受けて、体勢を落とした。が。想像以上に威力が無い。まともに腹に入っていない。・・と言うよりも?
しかし考える間もなく次々と攻撃が振ってきて、かわす事も出来ずに全ての拳を身体に受けてしまい、カーテローゼは実力の差を感じた。この男は強い。だが・・何か違和感がある・・?
「へへっ」
そして、笑顔を見せながら、アルフは左手をにぎにぎしていた。その心中はと言うと。
(「だって、手による攻撃なら何でもいいってルールだし…!」)
人一倍女性に目が無いアルフは、真面目に戦うフリをして、『あわよくば女性の身体に触れちゃおう作戦』に出ていたのである。
だがそんな事とは知らないカーテローゼは。
「(左右のコンビネーションをメインに攻撃を組み立てて、隙を窺うしかないわね・・)」
体勢を立て直し、素早く戦略を練っていた。
「てやあっ」
紅梅と中丹の戦いは、紅梅劣勢で進んでいた。
この不利な状況を立て直すには、禁止されている足技しかないか、と紅梅が低く身体を落とし。
「次で決めたるわ」
余裕の表情で、スタンアタックを当てて次の戦いに行こうと中丹も構え直した。
その時。
ころころころ。2人の間に、何かが転がり割って入った。
「・・・・」
今にも踏み込もうとした足を止め、2人はそれを見る。赤いそれは2人の間を抜けた後に止まり、少しよろけながら立ち上がった。そして。
「・・・・覚悟しなさいよ・・」
マントを翻しながら、彼らの横手からゆっくりと、カーテローゼが歩いて来る。何やら怒りの炎を背後に背負いながら・・。
「な・・何?」
尋常では無い気配に1歩退いた紅梅に、カーテローゼはきっ、と目をやり。
「その男、変態よ・・・・」
実に無表情に、静かに告げた。感情を決して表に出そうとしないカーテローゼだが、それだけに怖い。
「変態?」
「・・触ったのよ」
「何に?」
「・・言いたくもないわ」
言い放ち、目まいから立ち直ったアルフを睨みつける。だが。
「触ってないよ。ぜんぜん、全く。真面目に戦ってたよ」
平然とそう返し、近くにいた紅梅に拳を振りかざした。
「隙ありっ」
「なっ・・!」
とっさに反応したものの、明らかにかわせる速さではない。殴られるのを覚悟した紅梅だったが、その攻撃は僅かに逸れて肩に当たる。衝撃で身を引いた紅梅だったが。
「・・触っとるやん」
見学していた中丹の目には、攻撃していない左手の平で、何だか触っているアレフの動きがばっちり見えていた。
「あんな男がいたら、戦いに身が入らないわ。まず・・沈める」
「おもろいけど、こんなとこでやったらあかんわ」
中丹も頷き、まだ戦っている紅梅とアレフへと近付いた。
最初に攻撃を仕掛けたのはカーテローゼ。
ダブルアタックでアレフに拳を叩き込むと、その身体は紅梅に当たりそうになりながら飛んで行く。
「・・貴女にも触っていたわよ」
そう教えると、紅梅も顔色を変えた。何やら思う所があったらしい。そのままその場を離れ。
「こぉんのぉ・・・・おんなの敵ぃっ!」
そしてようやく立ち上がったアレフに、後ろから突進して容赦無くトリッピングをかけ、せっかく立ったばかりの彼を転倒させた。
「最後はおいらやね」
それを見ながら軽く体操をしていた中丹。何とか立ち上がろうとしているアレフの横に近付いて。
「せやっ」
首筋にスタンアタックをかけ、遂に『女の敵』を倒した。
アレフが係員達に運ばれて行った後。
「邪魔者はいなくなったし、続きだな」
素早く紅梅が構え、2人の動向を窺った。3人になったという事は、寸分の油断も出来ないということだ。もしも2人が組んでしまったら、残った1人は圧倒的に不利になる。だが、気が張り詰めたのも一瞬。紅梅はカーテローゼへと拳を向け、3撃を打ち合った後、跳び退って間を取った。そこへ。
「形だけ龍飛翔〜」
ぼよんと中丹が飛んできて、紅梅にスタンアタックを当てる。
「うっ・・」
油断していたわけではないが、まともにそれを食らって、紅梅はその場に倒れた。
残されたカーテローゼは向き直り、まだきちんと体勢を整えていないと思われる中丹の横方から、ダブルアタックを仕掛ける。しかし一撃目は当たったものの後をかわされ、逆に。
「てやっ」
『形だけ龍飛翔という名のスタンアタック』が飛んできて、避け切れずにカーテローゼも倒れ伏した。
「かっぱっぱ〜、優勝や〜」
クチバシを光らせながら、中丹は全身でポーズを取っていた。輝く頭の上の皿が、この上なく眩しい。
「・・えーと、河童さん」
そんな彼に、後ろからそっと声をかける人が。
「・・すみませんけど、次の試合が決勝となっています・・」
結局、中丹は目指していた優勝を勝ち取った。
彼には、賞金と黄金酒。そして、『河童な貴方にぴったりだ』と、『ジャパン物愛好家』である主催者から謎の褌を与えられた。他の出場者達にも、参加賞として少しばかりのお金を渡され、『拳祭り』は幕を閉じた。
そして数時間後。
「どいつもこいつも、オイラの強さに恐れをなして逃げやがったな」
夕陽の綺麗な夕刻時。
やっと目覚めたアレフだったが既に広場には誰もおらず、1人寂しく勝ち誇るのだった。