素敵すぎるオモテナシ
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月08日〜03月13日
リプレイ公開日:2007年03月20日
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●オープニング
その日、1人の若い娘が冒険者ギルドの扉を開いた。
「聞いてください〜っ」
ばん、とカウンターを叩き、彼女は受付員を見上げる。
「彼ったら酷いんですよ! あたし達の結婚資金、女に使ってるんです!」
やれやれ。色恋沙汰か‥‥。最近とんと縁の無い話に、こっそり受付員は溜息をついた。
「それもいろんな女に! 金髪エルフの髪が綺麗だとか! エルフはスレンダーだからいいなとか! 何よ、あたしが太ってるって言いたいわけ?!」
「‥‥まぁ、エルフに比べれば」
「うわ、むかつく〜っ! ちょっと! 受付員交代して!」
「細身のエルフより人間のほうが体格いいの当たり前でしょ。厚みがある分、力もあるしいいんじゃない?」
隣から、なだめるような言葉を受付嬢らしき女性がかけたが、全く慰めになっていない。
「力なんていらないわよ〜っ! 厚みって何よ! パラのほうがよっぽどむっちむちじゃないのよ!」
「別にむちむちじゃないと思いますが」
「そんな事より! 彼を何とかして。痛い目に遭わせてやって! あの馬鹿男の目を、がつーんと覚まさせて欲しいのよ」
「分かりました」
どんな理由であれ、金を出す以上は依頼人である。明らかに、善良な誰かに損害を与えると分かりきっている内容以外は。しかし娘の訴えは尤もだったし、きーきー言いすぎだがそれも仕方の無いことだろう。
「それで相手の男性と、念のため、女性達の名前は?」
「女の名前なんて知らないわ。レスローシェの『妖艶なる蝶亭』の店員達だもの」
「‥‥はい?」
「あの店に、あいつったら! 金を使いまくってるのよ! 最低!」
その町の名前は、この受付員でも知っている。
遊興の町、レスローシェ。比較的最近出来た町で、娯楽の町とも呼ばれる。領主自らが『娯楽無き人生ほどつまらぬものはない』と、芸術や武術も含めて奨励しているという話だが、実際にその町を作ったのは領主の息子らしい。とにかくその町に行って全財産を使い果たす者も多く、食事をするでも宿に泊まるでも、パリよりも遥かに高い料金に目が飛び出るという噂だ。
だからこそ、貯めた金を持ってその町で豪遊したいという夢を持つ者も少なくなく、それなりに金を持っている者達は、一度は行ったことがあるという話だ。
ちなみにパリから周遊馬車が毎日、運行されている。
「分かりました。しかし正面から駄目だと言っても、無理でしょうね」
受付員はあっさり言いながら、依頼文を書くためにペンを動かした。
「当然そうでしょうね。だから、現場をおさえるしか無いと思うの」
「現場」
「『妖艶なる蝶亭』に乗り込むのよ」
「まぁその辺は、冒険者が何とかするでしょう」
簡単にそうまとめ、受付員は娘を見つめる。
「では、報酬額をお聞かせください」
その日の午後。
「聞いてくださいよ〜っ」
1人の男がギルドの扉を激しく開け放った。
「恋人が、俺達の金をこっそり使ってたんです!」
聞いた話だなと思いながら、受付嬢は男に落ち着くことを勧める。
「落ち着いてられませんよっ! あの女、よりにもよって男共に激しく金を使いまくってたんです! 信じられます? 結婚まで約束してるって言うのに!」
「‥‥それは大変でしたね」
受付嬢は、棒読みで男を労わった。そして、隣に立っている受付員と目を合わせる。
「それで、依頼の内容は?」
「もちろん! あの女を痛い目に遭わせることですよ! もう2度と男遊びなんてしないように!」
「その男遊びですが、それはどういった内容ですか?」
問われて男は嫌そうな顔をした。
「どう、って、男共に担がれていい気になったり、褒められまくって調子に乗ったりするんですよ。レスローシェ。知ってますよね? あの町の『華麗なる蝶亭』の店員達に、金を注ぎまくってるんです」
「なるほど」
無表情に頷き、受付嬢は依頼文を書き始める。
「では、その店に乗り込んで現場を押さえてしまえということですね?」
「店員になりすまして、あいつにがつんと言ってやればいいんだ。冒険者達は怖い顔の奴も多いからな。脅せばあいつだって‥‥」
「分かりました。では、そのように」
「頼んだぞ」
そのまま去っていこうとする男に、受付嬢は後ろから静かに声をかけた。
「‥‥念の為、身辺を整理する事をお勧めしますよ」
ぎくりとした表情で振り返った男に、何事も無かったような笑顔を見せ受付嬢は手を振る。
「お気をつけて」
「あいつら、続かないだろうな」
静かになったギルド内で。受付員の男が呟いた。
「まぁ、経済的に破綻するでしょうね」
「お前もハマるクチだよな。男に褒められた事もモテた事もないんだろ?」
「人の事言えるわけ? まぁ、あたしにベタ惚れで、今も付きまとってる男はいるわよ?」
「あぁ、あいつな。お前って変な奴に好かれるよな」
「‥‥一回、ハルバードでざっくりやられないと気が済まないようね‥‥」
殺気だった2人の背後で、静かに誰かが立ち上がる。
「ハイエル君。アナスタシア君。今月の給金の事だが、2割カットで構わないね?」
「真面目に職務に就きます!」
やんわりと脅されて、2人はおとなしく受付員の仮面をかぶった。
●リプレイ本文
シャトーティエリー領、レスローシェ。
遊興の町で知られるが、かなりの物価高でも有名で全財産を使い果たす者も少なくない。
そんなこの地に、初めて8人の冒険者が降り立った。
今、この町に呑み込まれようとする恋人達を救わんが為、彼らの挑戦が始まる。
●門出の時間
「わぁ、色っぽい方がいっぱいなのです」
目標物は通りを挟んで向かい合わせに建っていた。建物は酒場とは思えないほど煌びやかな装飾が施されている。店の前では、昼間から客をもぎ取ろうとする店員達の声掛けが行われていた。
ラテリカ・ラートベル(ea1641)が目を丸くしてきょろきょろ辺りを見回す。目の前には、妖艶な女性達。背後側には、艶のある男性達。この2店が8人の目標物である。
「そんじゃま、ひとつ。商談的交渉からはじめましょ〜か」
可愛い顔で、にやりと笑うリュリュ・アルビレオ(ea4167)を先頭に、『妖艶なる蝶亭』店員希望冒険者達が、ぞろぞろ中に入って行った。
「じゃあ、俺達も行くか」
覚悟を決めた顔で店を見上げたロックフェラー・シュターゼン(ea3120)が、今回の相方となるセイル・ファースト(eb8642)へと振り返ると。
「セイル君〜」
甘えた声でリリー・ストーム(ea9927)がセイルの胸をつんつんしていた。
「私は、セイル君以外の男性に興味は無いんですからねっ。これは依頼だから仕方なく演じるの。セイル君も、他の女の子と必要以上に仲良くなっちゃダメよ」
道行く人が注目するほど甘え倒している。
「‥‥えーと、リリーさん。そろそろ‥‥」
控え目に声を掛けたロックフェラーは、もう一方の相方サラサ・フローライト(ea3026)が町並みを感心したように見回している光景も目撃した。今にもどこかへふらりと蝶のように舞って行きそうである。
ともあれ『華麗なる蝶亭』組も行動を開始した。
●面接の時間
「おにぃちゃんっ」
腕を後ろで組み、小首を傾げて男を下から覗き込む少女。
「おとーさん言うのもイケてるって教わったでした。ラテリカみたいな子は、逆に珍しくてお客様が喜んで下さるかもです」
一方、エーディット・ブラウン(eb1460)は。
「初めてですけど、一生懸命憶えます〜。特技は4ヶ国語を話す事ですよ〜。どこの国のお客様が来ても、馴染み深い言葉で話せる事請け合いです〜。りーちいっぱつつも」
「で、君は?」
店主が、見るからに怪しげな占い師風の格好をしている人間に声をかける。結構背が高い。
「わ、わたくしは占いが出来ますわ〜。少々変わった趣向も取り揃えて宜しいんじゃないかしら」
妙に高い声でそう言った。
「ふむ‥‥。まぁ1日だけと言う事だし、いいだろう。今日は『特別デー』ということで、大々的に宣伝しようじゃないか」
店主が頷き、3人は採用となった。
しかし背の高い占い師風の女性の名は、森羅雪乃丞(eb1789)。正真正銘の男である。
果たしてこれは、どうなる事やら。
一方こちら、華麗になるべく頑張る蝶2名は。
「他人よりもガッシリしている身体が自慢だが‥‥駄目かな」
「即興で針金細工を作れます。お客さんに合う細工物を作って余興に使えるのではないかと思います」
キラキラしている男性達の中で、明らかに浮いていた。が。
「貴方達、元傭兵か何かでしょう。その筋肉がいいわね。うちはそういう子が少ないのよ」
くねくねした動きの店主に採用すると言われ、準備の為に奥の部屋へと案内される。
その店に客として行く予定のリリーとサラサは、適度な値段の宿屋を探して(それでも充分に高かったが)部屋を取り、サラサ持参のマスクやリボンなどと買い物で手に入れた豪華な衣装を、あれこれ合わせていた。
「一応、変じゃない格好で行きたい所だが、こういうのはよく分からん」
恋だのお洒落などには無頓着なサラサを、まかせなさいとリリーが実に素晴らしい姿へと仕上げる。
そうして客達も準備は万端。ショーの始まりである。
●陰に潜む人
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
その頃。
愛らしい顔をしたエルフ少女リュリュは、店外の物陰に潜んで壁から半分顔を出し、出入りする人々の様子を探っていた。
今回の目標である恋人達は、冒険者達がパリを出ると同時に出てきたらしい。互いの牽制の為か、依頼が成功する様を見る為か。
「該当者の支払い能力が限界に達し、このままだと最後まで料金を回収できないかもしれないという情報が、あたし達の耳に入っています」
さらりと商人身分証を取り出して話を持ちかけた彼女に、店主は大層驚いた事だろう。まさか少女に脅されるとは。
「ですから、こちらにも協力を願いたいのですが。勿論、悪いようにはしませんよ。‥‥あ、それとこれはささやかなお土産です。この件は、どうぞご内密に」
にやりと笑いながら『迷惑料5G』をそっと渡す少女に、店主は軽く頷いて見せてからそれを受け取り、次いで面接志望者達の面接に入った、というわけである。
「あ、来た」
そんなわけで唯一蚊帳の外待機のリュリュは、ターゲットを発見して店の裏口から店内に入り込んだ。
●華麗なる時間
「私達、こういったお店は初めてですの」
『華麗なる蝶亭』に、一目見ただけで目が離せなくなるほど色っぽい女性と、その陰に隠れてしまうほどひそやかな女性の2人組が入ってきた。
「この子ったら、今まで男っ気がなくて‥‥友人として心配で」
即座に店員を次々指名する羽振りのよさに、何時の間にやら彼女達の周りは煌びやかな男性達で埋め尽くされている。
もっともこれは計算。客として来た依頼人の女性が指名する店員を、1人残らず自分達の元へと呼び寄せることで。
「どうかなさいましたか。浮かない顔をして」
2人の新人筋肉店員を呼ぶしか無い状態に持っていく作戦なのである。
「初めての仕事で、君のような素敵な女性の相手が出来て嬉しいよ」
挨拶こそはたどたどしかったが酒を少し飲んで落ち着いたのか、セイルも声をかけた。
「でもみんな、あっちに行ってしまったわ」
リリー&サラサを囲む男性達に目をやり、依頼人が目を落とす。それへとロックフェラーが花を針金で作り、すっと彼女の前に差し出した。
「貴女の美しさには劣りますが、それを引き立たせる手助けとなれば‥‥」
それを受け取り、心奪われたように彼女は大きいほうの筋肉新人を見つめた。
一方お客様は。
「貴女は月の精霊のように、儚げで本当にお美しい方だ。どうか私にその潤んだ瞳をもっと見せてください」
「ん? 月の精霊‥‥。ブリッグルか? ブリッグルは確かに儚い思いを応援すると言うが」
「え、えぇ。貴女は月夜に清らかなる羽を広げ、優雅に舞う蝶のようで‥‥」
「月夜に徘徊する6枚羽を持つ精霊と言えば、ララディだな。ララディは親切な精霊だ。物語を話す者の力になると言う」
「そ‥‥そうですか」
褒められてもよく分かっていないサラサに、百戦錬磨らしい店員も僅かに顔をしかめた。
「精霊に詳しいご様子ですね。何か深いご縁でも?」
それへと他の店員がすかさず助け舟を出す。
「そうだな、精霊は」
「サ・ラ・サ♪」
そのこめかみを、えいとリリーが思い切り突いた。
「んもぅ、この子ったら。もっと色っぽい話をしましょうよ」
声も無く横に倒れて痛みに耐えるサラサを笑い飛ばしたリリーは、ふと依頼人と目が合った。嘲笑を色濃く乗せた視線を返し、これ見よがしに近くの店員に体を寄せる。
「もう耐えられない!」
だが依頼人が席を立とうとし、慌ててロックフェラーがその腕を掴んだ。
「俺達じゃ‥‥やっぱり不足?」
視線が交差し、彼女はおとなしく再び席に着く。
ほっと胸を撫で下ろしたセイルが、彼女の心を更にひきつける為に口を開いた。
「あの、さ。‥‥聞いてもいいかな? どなたか、付き合っている方はいらっしゃいますか?」
驚いたようにセイルを見つめる彼女を同じように見つめる。その後方では、リリーがちらちら様子を窺っていたが。
「い‥‥いないわ」
「そうなのかい? 君のような人がフリーだなんて‥‥信じられないな。もし許されるなら‥‥立候補しようかな」
ロックフェラーの視界の端でも耳を巨大化しているリリーの姿は映っていたが。
この際無視した。
「お前もなのか。俺も立候補しようと思っていたんだが」
「それは困る」
「あたし‥‥また、来るから」
はにかみながら、彼女は2人にそう告げた。
●妖艶なる時間
「おにぃちゃん♪」
そしてこちら『妖艶なる蝶亭』。
ラテリカが覗きこむようにして声を掛け、にこっと微笑んだ相手は、男性依頼人だ。
「素敵なお洋服ですね〜」
依頼人を挟んでラテリカの横に座ったエーディットが、ほんわかとした笑顔で話しかける。最後に雪乃丞が座って、男は驚いたように3人を見回した。
「落ち込んでました〜? とても素敵な方ですのに、そんな表情はなさらないで欲しいです〜」
「うんうん。おにぃちゃんはとっても素敵だもん」
ちなみに彼が落ち込んでいた理由とは。
「影で店員さんに悪口言われているイリュージョン〜」
「きゅきゅきゅきゅきゅ〜。だぶるぱ〜んちっ」
ラテリカとリュリュが、イリュージョン魔法で延々と依頼人に不幸な幻想を見せていた所為である。
「でもラティ、ちょっぴり悔しいな。きっとおにぃちゃんには素敵な彼女がいるよね」
ちなみにラティとは、世を忍ぶラテリカの店員名で、エーディットはエリィ。雪乃丞は雪子。名付け親は不明。
「居ないわけじゃないけど‥‥」
「私達で宜しければ聞きますよ〜? 何でもお話しください」
エーディットが体を密着させて酒をついだ。愛らしいエプロンドレス姿のラティとエリィ(エーディットさん作)に、どきどきしながらも依頼人は恋人の愚痴をぶちまける。
「占ってさしあげますわ。恋人さんとのこと‥‥」
そっとその手を取りながら、雪子がタロットを出して占いを始めた。
「あまり良くない運勢が出てますわ‥‥。何か、深い‥‥」
「そうだとも! あいつは酷い女なんだ!」
「でも好きなんだよね?」
小首を傾げるラテリカに、男は一瞬息を止める。
「んとね。嘘の言葉を話す人よりも、真実の心を話す人のほうが、本当はずっと素敵なの」
そっとその耳に顔を近づけ囁いた。その言葉に振り返る男の口がラテリカの頬にぶつかって、「ひゃあ」と声をあげ退いた彼女の代わりに、エーディットが両手を胸の辺りで斜めに合わせて男を潤んだ瞳で見つめる。
「最近‥‥可愛い子猫を飼いたいなって思うのです〜。ふわふわで、もこもこで、ぎゅってしたくなるのです〜」
「え? 子猫かい?」
「だめ〜ですか〜?」
「子猫は厳しいかもなぁ。あ、大人になった猫じゃダメかい? いい猫がいるんだよ。この前、そこの角の店で見つけてね」
「ほんとですか〜?」
ラッキ‥‥と内心言いかけて、エーディットは笑顔のまま気を引き締めた。このまま本当に高価な猫を買ってもらうわけには行かない。本物の店員ではないのだから。もとい。これは依頼なのだから。
「でも、あなた様の未来は薔薇色ですわね。占いでも、素晴らしい未来が見えていますわ。あなた様は、とても魅力的な男性。自信をお持ちになって」
雪乃丞の声に、依頼人はすっかり気を良くして追加の酒を注文した。
●目覚めの時間
「ありがとうございました」
「貴女のような方と知り合えただけでも、この仕事を選んだ意味はありました。是非ともまたお越しください」
華麗なる店の前で。2人の体力系店員が依頼人を見送っていた。
「えぇ。また来ます。今日はありがとう」
笑顔で帰って行く彼女が離れきらないうちに、店の中から本日の上客2人組みが出て来た。店内で一斉のお見送りを受けるほどに使い込んだ2人である。
「セイルく〜んっ。一緒に宿にかえろっ♪」
リリーの声に、依頼人が振り返った。それへと見せ付けるようにリリーがセイルに抱きつく。
「あぁ、一緒に帰ろうか」
「サラサ。事情が事情なんだ」
一緒に出て来たサラサに、ロックフェラーが声をかけた。
「こんな事だってやらないといけない自分に嫌気が差すよ。‥‥でも、それも耐えられる。君の為だからな」
「ロック‥‥」
依頼人が『こんな遊びはもう止める』と思うようにする為の、最後の彼らの演技(一部違うようだが)である。だが、サラサはこういった事がさっぱり分からない。参考にする為にセイル&リリー組をちらと見ると。
「何言ってるんだ。‥‥勘違いするなよ。今日のはあくまで仕事なんだからな」
道の真ん中で思い切り抱き合っていた。とは言え、語りかけているほうのセイルの表情はいろいろ複雑だったが。
「今回、初めてこんな仕事をしてみて思ったよ。‥‥やっぱり俺は‥‥お前がいい‥‥」
「‥‥セイル君‥‥」
きらきら世界を作っている2人は、そのままそっと口付けを交わそうとして‥‥。
「いやあああああ!!!」
女の悲鳴によって、その野望は打ち砕かれた。
そして。
「お兄さん、本当に素敵ですわ」
一方、こちら物陰。雪子さんが依頼人を店の隅へと誘い出していた。
そして、店内からは見えない位置に着くや否や。
「残念だったな兄さん。俺は男だぜ!」
がばっと服を脱ぎ捨てて、上半身を見せつけようとして‥‥勢い余って褌一丁になった。
「なっ‥‥!!」
いきなりの事で腰を抜かした男の前で仁王立ちし、雪子さん改め雪乃丞は大仰に笑う。
「はははは、どーだ。驚いたか!」
「な、な、何が目的でっ‥‥!」
「驚くのはまだ早いぜ。さっきの2人。なかなか可愛かっただろ? でも残念だな! あいつらも男だ!!」
「何だとぉんもごもご」
危うく店中に響き渡るような叫び声を出しかけた男の口を塞ぎ、にやりと笑みを浮かべる雪乃丞。
その頃、『女装男』扱いされた2人は。
「おと〜さん、お疲れ様ですっ♪」
「いやぁ、君は本当に可憐で、おじさん、娘にしたいくらいだよ〜」
「えへへへ。ラティもなってみたいな〜」
とか。
「こちらのお酒で良かったですか〜?」
「勿論だよ。君みたいな癒され美人に相手して貰えるなんて、幸せだな〜」
「私も嬉しいです〜。あ。そう言えば、角のお店で可愛くてふわっふわの猫を売ってるって聞いたのですけど‥‥」
とか調子良くやっていた。
そして、絶望に打ちひしがれた男に、店の所為では無い事と、この事を誰かに話したら末代まで祟る事をよく言い置いて、雪乃丞は彼を解放した。
「もう、こんな事は止めよう」
叫んで地面にうずくまった女に、男が声をかける。
「ふふふふ〜♪ 思い出して悶えてみろーっ」
イリュージョンで恋人の笑顔を見せ続けたリュリュの働きにより、海より深く傷ついた男の心は慰められたらしい。
「男なんて‥‥もう、信じられない!」
「俺も全ての女がまがい‥‥いや、君だけだ」
ひしと抱き合う2人を遠巻きに皆は見つめる。
こうして事件は解決した。
ありがとう冒険者達。君達の残した禍根が、後々嵐とならない事を祈る!