盗賊王の秘宝〜襲撃〜
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月16日〜03月21日
リプレイ公開日:2007年03月27日
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●オープニング
盗賊王の秘宝。
それは、伝説の盗賊王が持っていた宝。
盗賊王は多くの盗賊達を束ね、遂には1国を築き上げるかと思われた。
だがその直前に暗殺され、野望は適わなかった。
盗賊王が多くの者達を纏め上げる事が出来たのは、『秘宝』の力を借りていたからだ。
『秘宝』は人心を操り思うがままに動かす力を持つ。
そうする事で、戦わずして巨大な力を手に入れる事が出来るのだ。
今でも、盗賊達の間で密かに語り継がれている伝説の秘宝。
真実存在するかも分からない、伝説の宝。
それでも彼らは求め続ける。
力を。
求め続ける。
●パリ郊外の森
「よぉ。久しぶりだな」
森の中。不意に上方から声をかけられて、冒険者達は顔を上げた。
「‥‥そうでもないか。見知った顔が居るとも限らないしな」
軽やかに木から飛び降りると、背の低い男は一同を見回す。
「俺はシャー。山猫傭兵団の一応団長だ。こんな所まで呼びつけて悪かったな」
話は少し前に遡る。
冒険者達はその日、冒険者ギルドを出た所で見知らぬ男に呼び止められた。男はボロの服をまとい、木の器を出して食糧や金を恵んでくれと言いながら近付き、そっと囁いたのである。
「とある傭兵から、貴方達に依頼を。詳しい話はここで」
そのままパリ郊外の簡単な地図を記した木片を渡し、彼は去って行った。そうして訝りながらも彼らは森までやって来たのだが。
「頼みたいのは、盗賊退治と秘宝の探索。盗賊王の秘宝を探してるんだけどな」
「それよりも、こんな所に呼び出して信用出来るのか? ギルド通してないんだろう?」
問われて男は頷いた。始めから、彼らの依頼は冒険者ギルドを通してはいない。だがそれは表向きの話で、実際は後からギルドに話を報告しているらしい。
「俺は見張られてるからな、盗賊共に。動きが悟られると困るからさ」
歩きながらシャーは冒険者達に話を始めた。
伝説の秘宝。今までに2度、それを追って冒険者達に協力を求めたが、未だに見つかってはいない。巨大な力を持つ秘宝だから、盗賊達に盗られて利用されては困るというのが彼の言い分で、見つかったら破壊しようとは言うものの、それが本意か定かでは無い。
「前に盗られた銀の笛‥‥。秘宝だと思って追ったけど、あれが本当に秘宝なら確かに悪魔とかが放っておくわけないんだよな。結局虫を操る笛だったんじゃないかって話だけど、現物が見つかってない以上、本当の所は分からない」
それを追っていってもいいが、相手がデビルなら自分達の手には負えない。盗賊達の手にも負えないだろうから、無理はしないのだと彼は笑った。
「盗賊達の動きを仲間が探っていたんだが、こっちの幹部は1人死んでるし、あまり無茶もしたくないんだ。で、あんたら冒険者の力を借りたい。微妙‥‥な強さの冒険者とは言わないけど、パリに名が広まってるような冒険者だと、逆にやりづらいんだよ。盗賊達もそんな奴ら相手に何か仕掛けても来ないだろうしな。尻尾出してもらわないと」
「つまり、我々の顔が知られていない可能性があるから、やり易いと」
「そーいう事だ。奴らはすぐにアジトも変えるし、先にぶっ叩いとこうかと思ってさ」
盗賊達を倒せば、秘宝を急いで探す必要も無くなる。シャーはそう言って皆へと振り返った。
「じゃ、用意出来たらまたここまで来てくれ。盗賊団は、赤月、妖虎、雷道、闇森の4つ。分かったアジトから先に叩く。一旦俺達山猫傭兵団の家で作戦を立てるけど、出発したらパリには戻らないから用意はしっかりな。それぞれの盗賊団の人員は、20人から50人程度だと思う。雷道は、前に結構数を減らされたみたいだから、奴らは後回しでもいいかな」
「我々が、まだ分かっていないアジトを見つける必要はあるのか?」
「探したいなら探してもいいけどな。詳しく調べれば攻めるとき楽だっていうのもあるだろうし。ただ、こっちの動きが筒抜けになってる可能性もあるし、そうすると迎撃も考えたほうがいいな。俺達山猫傭兵団は24人だけど、家を守ることも考えると、連れて行けるのは4、5人ってとこだ。幹部連中は全員アジト探しに出払ってるから、下っ端しか残ってないけどな。その辺はあんたらが決めてもいい」
そう言うと、彼は皆に準備するよう促した。
●パリ
「貴方がたは、本当にあの傭兵団が何も企んでいないと信じているのですか?」
それは、冒険者達がパリに戻ってすぐの事。
先ほどシャーの伝言を告げた男が近付いてきて、彼らの傍で声を潜めて語りかけた。
「盗賊達が守り続けてきた秘宝を、その存在を知った傭兵団が取り上げる為に依頼を出したのだとしたら? そもそも、急にそんな伝説の秘宝の話が出てくるのは、おかしい事だと思いませんか?」
「お前も充分怪しいと思うが」
言われて男は低く笑う。
「確かに。ですが、聞く価値はあると思いますよ。4盗賊団全てが等しく秘宝を狙っているとでも? 等しく盗賊行為を働いているとでも? 本当の盗賊は、傭兵団と名乗る彼らなのかもしれませんよ?」
そして、男は冒険者達に古い羊皮紙を手渡した。
「お話を聞くなら、どうぞこちらにいらして下さい。その代わり、情報を流されては困ります。今後、彼ら傭兵団に近付く事は避けていただきたいと思いますが」
顔を見合わせた冒険者達に、男は人好きのする笑みを浮かべて頭を下げた。
「冒険者の皆さんが、向こうとこちらとに分かれて敵対するのは、私達も望みません。皆さんが全員、我々の味方となって下さると。信じております」
●リプレイ本文
冒険者達が、草むらの中から顔を出していた。辺りは深い森。そして彼らの視界の先に鋭い木の柵に覆われた敷地内。中には木作りの家が数軒と見張り台があった。
4人は後方で同じように隠れていた傭兵達へと振り返り、黙って頷く。それを合図にコルリス・フェネストラ(eb9459)が弓を下ろして、用意した油を手にした。周囲は森に囲まれている。よく注意しなくては大変な事が起きるだろう。たいまつに火をつけながら、スズカ・アークライト(eb8113)も剣を抜いた。その後方では、本多風華(eb1790)がスクロールを用意し、ヤード・ロック(eb0339)がバイブレーションセンサーで視界の先にある気配を読む。
「情報は大事だよ〜♪ ん〜‥‥地上を動いている人数は15人くらいかな」
「では、行きましょうか」
コルリスの号令に、皆は頷いた。
●選択
盗賊団から誘いを受けた4人は、それを断ってシャーの元へと戻った。
「実は、盗賊団からもスカウトが来たのよ」
スズカが笑いながら彼にそう告げる。
「仲の良い盗賊団という存在はありませんよ。一時手を結んでも、彼らの本音は相手を叩き潰すことです。山猫傭兵団もそうかもしれませんが、今は盗賊団よりは信用がおけるはずです」
「えぇ。盗賊団と組むくらいなら、傭兵団と組んだほうがマシでございましょう。盗賊団を潰したのならば感謝されこそすれ、罵られる事はありますまい」
シャーと合流する前に、4人は今後の相談をしていた。
コルリスの発言に風華も同意し、ヤードも大きく伸びをする。
「ま、どっちも胡散臭いならどっちについても同じだしな。それなら早いもの勝ちってことで、傭兵団につくさ」
「相変わらず胡散臭い傭兵団よねぇ。それにしても、もう3回目なんだから、そろそろこっちを信用してもらいたいものだけど」
スズカが最後に締めて、一同は傭兵団に協力することで同意した。
「まぁ、生憎誰も盗賊を手伝おうって人はいなかったけどね」
そんなわけで、スズカが簡単に盗賊からの話内容を伝え、さらに彼に忠告する。
「こっちの動きは向こうにある程度バレてるって考えたほうがいいわね。気をつけましょ?」
「まぁ、分かってたけどな。でも‥‥」
言いかけて、とりあえず4人を自分達の『家』に案内しようとシャーは歩き出した。
●傭兵団アジト
山猫傭兵団の『家』は、森に囲まれた少し小高い場所にあった。
まるで隠すかのようにひっそり作られた『家』が2軒。そして、周りを囲むのは鋭い柵。木で覆いかぶせているようなその場所は、『傭兵団』というよりはむしろ。
「お帰りなさい、団長」
「変わったことはなかったか?」
軽装の男達が建物の中から出て来て彼らを出迎えた。
「4人しか応援は頼めなかったけどな。まぁ何とかなるだろ」
「何とかしましょう。皆さんとも考えて」
コルリスが言いながら、襲撃する盗賊団が所持している、盗賊団を表す印が用意できないか尋ねる。
「出来ない事はないな。そういう用意はしている」
偽物だが、彼らの印を描いた旗があるらしい。それをもって行くということになった。
足りない物資の幾つかは、傭兵団が提供したりしたが。
「何も持って来なかったのかよ‥‥。野宿になるって言っただろぉ? 食糧くらいもってこいよなぁ」
うっかりあらゆる準備を忘れてしまったヤードが、シャーに呆れられていたりした。
「いやいや、これが俺の初依頼になるわけで‥‥。まぁ、何用意すればいいか分からなかったというか。いやでも、頑張ろうと思っていたとか‥‥まぁ適当に」
「お前、やる気無いのか無いのかどっちだよ」
「どっちも無いことになってるけど!」
互いに突っ込みあう2人を遠目に眺めつつ、皆はあれこれ準備物をバックパックに詰め込んだ。共に向かう傭兵達も軽装のまま準備を行っている。
「貴方が私達に隠し事をしてるのは最初からだし、貴方達にも何か都合があるとは思ってるけどね」
そんな中、スズカがシャーに話し掛けた。
「信用できるのは自分だけって事なんでしょうけど、依頼される側としてはプロとして信頼して欲しいと思うわ。要は、そろそろ差し支えない部分は聞かせて欲しいわねってこと」
「そういや前にも聞かれてたっけな、他の奴に。どうして秘宝に興味を持つのか。その存在をどうして知ったのか」
「秘宝なる物がどのような物かも分かりませんが、あって良い物でも無さそうでございますね。そのような物をどうなさろうと?」
風華の問いにも軽く頷く。
「理由はひとつだ。秘宝が存在するならそれを見てみたい。そしてそれは、利用されないよう封印すべきだ。壊せるなら壊してもいい。かつて、この大地の下には地下帝国があった。いや、地下帝国を作ろうとしている集団があった。そいつらと盗賊王に因縁があったように、俺にも因縁がある。そいつがこの国に自らの国を建てようとしている事は明白だ」
「何故そのような伝承を知っているのですか?」
コルリスが問うた。
「俺の育ての親が、その地下帝国を作ろうとしていた奴らの子孫だったからさ。多分盗賊王を殺したのは、そいつらだったんだろうな」
●襲撃
「襲撃には、借りられるだけの人員をお借り致しましょう」
風華がそう言い、皆は傭兵団と共に最初の襲撃場所を訪れていた。冒険者は4人。対して潰さなくてはならない盗賊団の数は4。人は多いに越したことはない。そこで、傭兵団から5人も共に来ている。
だが、この選択を後に後悔することになるとは、この時誰も知る由がなかった。
ともあれ、作戦通りに行動することを改めて確認する。敵のアジトに風向きなどに注意しつつ火を放ち、迎撃に出て来た者達をヤードのプラントコントロールで足止めする。風華がスクロールを使って仲間との連携を行い、コルリスが火矢を放ちながら移動を繰り返す。
「旗を」
用意された別の盗賊団の旗を置き、一定以上の盗賊を倒した後に引き上げる。
そう上手く行けば良いのだが。
「落とし穴?!」
入り口から出て来た敵を倒したものの、どうやらアジトの周りには穴が掘ってあったらしい。それを草などで偽装してあったのだ。日中ならばともかく、夜襲である。とっさにそれには気付きにくい。何人かの傭兵達が落ちたらしくもがいている所を助け出し、火から逃げるように出て来た盗賊達と切り結ぶ。敵も必死だ。その上、風が出て来て火が流れ始めた。
「これ、まずくない?!」
「一旦、撤収しましょう!」
慌てて火を消し始めた盗賊達を放って、皆も一旦離れた所に引き上げる。傷ついた傭兵達、それに冒険者達も無傷とは言えない。敵の数はこちらより少々多かったくらいだったが。
「ポーションが足りると宜しいのですけれど」
自分のバックパック内を確かめながら、風華が呟いた。
●襲撃2
次の目的地も、同じような造りになっていた。
「男に近寄られても嬉しくないんでね。あんまり近寄らないでくれよ、っと」
逆上して攻撃してきた盗賊をプラントコントロールで足止めしながら、ヤードは辺りを見回す。狂化を避ける為に冷静に行動しているつもりだが、初めての依頼がこんなに体力と気力を使う事になるとは、彼自身思っていなかったことだろう。
「ストームは‥‥火の動きに注意して使わなければなりませんね」
1つ目の襲撃時のような、火の勢いを激しくさせ過ぎるような真似は避けたい。風華は注意深く火の動きを気にしながらスクロールを開き、魔法を唱えて行く。
「突出しちゃだめよ〜っ」
他の傭兵達に注意を呼びかけながら、スズカも剣を奮った。先走って相手の罠にはまるのは避けたい。
「それにしても」
矢を放ちながら、コルリスは注意深くアジトを見つめた。
「これが盗賊団。‥‥こんな、火に怯えて逃げ惑い、切羽詰まって攻撃してくるような。弓矢での応戦も無く、罠と言えば落とし穴のみ。‥‥他にも罠は用意してあるのかもしれませんが、このような立派な柵と見張り台を用意しておきながら、さも統率された風を見せておきながら‥‥」
いや、盗賊団はしょせん烏合の衆の集まりなのかもしれないが。だが、外から見た2箇所のアジトは、兵士達が詰めるような小さな砦に見えない事もなかったのだ。それ故に気も引き締めた。しかし。
「‥‥貴方達の『家』も、こんな風でしたね」
2箇所目の襲撃も大体の成功を収め、同じように旗を残しながら去る獣道で、コルリスがシャーに話し掛けた。
「外側だけがとても立派で」
「立派か?」
「もしも間違っていたらごめんなさい。貴方達は元々は盗賊団だったのでは?」
コルリスの言葉に、皆も傭兵達へと注目した。
勿論、傭兵というのは重装備ばかりの戦士だけではないだろう。
「そういえば初めて一緒に洞窟入った時も、動きが軽かったわよね」
「まさか、傭兵団と名乗って盗賊団同士の抗争に、わたくし達を巻き込んだという事でございましょうか?」
だから、パリで声をかけてきた盗賊は言ったのだろうか。『本当にあの傭兵団が何も企んでいないと信じているのですか?』と。
「うーん‥‥。元、ならどうかな」
「盗賊団じゃねぇよ。俺達は物を盗むのが仕事じゃない。人を殺すのが仕事だからな」
それへとあっさり答え、シャーは彼らに背を向けて歩き出した。
彼の本意は、まだ見えない。
●襲撃3
この人数では2箇所が限度だろうということで、彼らは傭兵団の『家』へと向かった。ポーションなども傭兵団が用意したものもあったにせよ、全て底をついている。森の中にはモンスターも徘徊していたし、手負いの盗賊達も手強かったのだ。
「2箇所だけにしても、これで疑心暗鬼に陥って互いに戦って壊滅してくれると助かりますね」
コルリスが言いながら先を進む。彼女が行きも帰りも先導していた。
「そうなってくれることを願いたいよな」
ヤードも頷く。だが、そんな彼らの視界の先に、不意に黒い煙が立ち上って見えた。
「あれ!」
素早く彼らは辺りを警戒した。そのままその煙の先へと急ぐと。
周囲から隠すようにして作られた『家』は、既に跡形も無くなっていた。
「おい、どうした!?」
燃やされた家と柵。周囲の木々も焦げて倒れてしまっている。そんな中、1人の男が焦げた木の根元で呻いていた。傭兵団の1人だ。
「‥‥」
だが男は最早声すら出せない。力なく手に持っていた物を渡すと、そのまま目を閉じた。
「奴らか」
「‥‥盗賊団の襲撃が、あったのね」
渡された物。それは、皆が他の盗賊団の所に置いてきた旗と同じもので。いや、それが恐らく本物の。
「妖虎。間違いないな」
だがシャーは静かに立ち上がり、皆を促した。
「中に入って、生きている方をお探しにならないのですか?」
「そうですよ。まだ、生きている方がきっといらっしゃいます!」
風華とコルリスの言葉にも首を振る。
「奴らは残虐だ。どんな罠を張ってあるか分からない。それに」
生き残りは居ないだろう。彼は『家』を眺め、そう呟いた。
そして、シャー達山猫傭兵団は、しばらく身を隠す事にすると冒険者達に告げた。
又、力を借りることになると思う。彼はそう言い、冒険者達と別れて去って行く。
こうして、『盗賊王の秘宝』探しは、新たな方向へと動き出してしまったのだった。