【花宴の想い】ポールとフローラ
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月30日〜04月04日
リプレイ公開日:2007年04月09日
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●オープニング
長かった冬も終わり、春の兆しが訪れ、いよいよ全てが芽吹き始めるかと思われる頃。
1人の男が、そんな情緒も吹き飛ばす勢いで冒険者ギルドの扉を開いた。
「俺はポールだ!!」
開口一番の名乗りに、皆は見ないふりをする。受付員の前で叫んだならばともかく。
「あの‥‥他の方のご迷惑になりますので‥‥」
控えめに案内員が横から声をかけ、受付員の所まで誘導した。
「大変なんだよ、聞いてくれよ。俺達の憧れの的、フローラが見合いするって言うんだよ!」
「それは残念な事でしたね」
「馬鹿野郎! 止めやがれ! フローラが、あの可愛くて優しくて気立てが良くて穏やかで料理裁縫洗濯何でもござれなフローラが! 笑顔が最高に最高に最高に! 目が飛び出るくらい可愛いフローラがだぞ!?」
笑顔くらいで目が飛び出るんですかとは突っ込まず、受付員は愛想笑いを返す。
「それは最高の奥様になられる事でしょう」
「ばっか! 他人の奥さんになられちゃ困るんだよ! 俺の! このポールの! 生涯の奥様になってもらわないと困るんだからな!」
「では、そうおっしゃれば宜しいのでは」
当たり前の事を言われ、男はカウンターに突っ伏した。めり込みそうなくらい、でろーんとその上で伸びてみせる。
「‥‥出来たらこんな所こねぇよぉ‥‥。小さい時からずっと見てきたんだぞ‥‥今更言えるかよ‥‥」
「なるほど」
「フローラに近付く男は全部追っ払ってやったのに、マルクだけはどうしても諦めねぇんだよぉ‥‥。あいつも小さい時から一緒だったからなぁ‥‥。でもさぁ、何で見合いなんか‥‥」
「何か理由があるのかもしれませんよ。お尋ねになっては」
言われて、男は海溝くらい深い溜息をついた。
「昔、聞いたんだよなぁ‥‥。俺とマルクとどっちが好きか、って」
「えぇ」
「そしたら、『どっちかなんて選べないわ。2人とも好きだもの』って言ったんだ‥‥。あの時はまだもっと若かったけどさぁ‥‥」
男はだらりだらりとカウンターの上で上半身を転がしたが、ふと起き上がって受付員に顔を近づけた。
「とにかく! 見合いなんてぶっ壊したい。でも、その前に俺を選んでもらえばいいわけだ! だから、俺とマルクで賭けに出た。別々に、プレゼントとパーティを用意するんだ。丁度、さくらんぼ農園をやってるじじいが俺達と同じ通りに住んでてさ。場所は貸してやるって言ったんだ! 花を見ながらパーティしようぜ、って話だな! どんな花もフローラの前じゃ霞むけどな!!」
「そして?」
「そして、俺達が別々に告白するのさ! まぁ、俺を選ぶだろうけどな!!」
そんな自信はあるくせに、今の今まで告白もしてこなかったらしい。いや、彼女に見合い話が持ち上がったので慌てたということか。
「だから、冒険者を味方につけて、よりでっかい、すっごい、かんど〜もののパーティとプレゼントを、用意するって話だ。俺1人でも自信はあるぞ? あるけどな。でもなぁ‥‥もっと喜んで欲しいからさ」
ならば合同で催したほうが彼女は喜ぶのではないかとは思ったが、いつまでもそういうわけには行かないのだろう。
「そうですね。フローラさんの本心が聞けると良いですね」
頷いて、受付員は依頼書を書き始めた。
果たして、彼女の本意はどこに‥‥?
●リプレイ本文
ずっと、3人だったね。
いつも、真ん中で君は笑っていた。
その笑顔が鮮やかな色を成す瞬間を。
僕は、知っていたんだ。
「殴りクレリック、ノリア只今参上〜」
集合場所は酒場。入るや否や名乗りを上げたノリア・カサンドラ(ea1558)だったが、既に皆集まり終えていたらしい。依頼人であるポールから、話を聞いている所だった。
「この人じゃないとダメ言うお気持ち、とっても分かりますです」
ラテリカ・ラートベル(ea1641)が頬を染めながら明るく笑っている。
「しかし自信はあるのに、今まで告白してきた輩を追っ払うに努めていたとはこれ如何に。あなたは今の今まで、追っ払ってきた虫達より尚、度胸が無いということになりますね♪」
対して、パトリアンナ・ケイジ(ea0346)が依頼人を煽る。
「そうですわね。恋愛の事なら私にお任せ‥‥と言いたいところですけど、ずばり今の貴方に勝ち目は無いですわね」
そして、その場に居た誰もが思っていた事を、ずばっとリリー・ストーム(ea9927)が告げた。
「まぁ、玉砕覚悟で行ってはどうかな」
これは、マルク共々振られてしまうのではないかと考えていたライラ・マグニフィセント(eb9243)の言葉だ。
「でもまずは、フローラさんの心情を配慮した行動をお願いしたいですね」
アニエス・グラン・クリュ(eb2949)が最後にそう進言した。
ライラとラテリカは、パーティ会場である農園から桜桃の花びらを集めてきた。勿論、咲いている花をもぎ取ってしまうわけには行かないので、出来る限り落ちている花びらの中から綺麗な物を選ぶ。それを洗い、2日かけてジャムを作ろうという計画なのだ。
「手作りの焼き菓子など如何でしょうか。手作りというものは、『自分の為に苦労して作った』という思いが滲み出るものですからねぇ」
超越料理人パトリアンナが作れば、どんな料理でもお菓子でも美味しく仕上がるに違いなかったが。プレゼントに関しては、作成方法の助言だけを行う。
「そうですね。フローラさんの笑顔を想って作れば、きっと素敵な物になると思いますよ」
アニエスもにっこり微笑んだ。そんな彼女が作っているのは、木彫りの髪飾だ。本当はこれも手作りを勧めたかったのだが。
「俺は不器用だからなぁ‥‥。料理で人を殺せる自信もあるぞ!」
と無駄な自慢を聞かされたのだった。
「本当は勝てないかもしれない、マルクを選ぶかもしれない。そう思っているのでしょう?」
菓子作りの準備をしながら、パトリアンナが問う。その言葉に、ポールは思わず彼を見下ろした。
「でなければ、とっくの昔に彼女を攫っていた。そうに違いない」
「‥‥分かんねぇんだよな‥‥。本当は」
「ほぅほぅ、何がです?」
「ずっとフローラと一緒に居たいと思ったんだ。ずっと」
「ならばその正直な気持ちに従えばよろしい。さ、分かったらパンを焼きなさい!」
「何? その下品な行動は! その言葉遣いも駄目!」
飴と鞭。
「駄目駄目、今の貴方は屑よ! 虫以下よ!」
びしっとロッドで殴られて、ポールが呻いた。
「てめぇ、何様のつもりだ!」
「何か文句がありまして?」
高圧的に、リリーは床に崩れているポールを見下ろす。
3日と短い期間ではあるが、その間に礼儀作法と話術をポールに叩き込む為、リリーはスパルタ教育を施しているのだった。優しく彼を支える一同の中で、それに甘えて増長させるだけでは依頼を受けた意味が無い。徹底的に弱者の気持ちを身体に覚えこませ、他人の心も理解できる一回り大きい男に成長させようと言う魂胆である。
「この‥‥暴力冒険者が! てめぇなんか」
どすっ どかばき。
容赦なくスマッシュEXで叩きのめされたポールは沈黙した。幾ら武器がロッドとは言え、軽く軽傷を超えている。
「お〜、これは酷い事になってるねー」
様子を見に来たノリアが、一見虐待とも見える現場を発見して頷いた。
「少し苛めすぎたかしら。傷を癒して‥‥いえ、何でもありませんわ」
「あははは〜」
ノリアはクレリックだが、魔法は一切使えない。神官としての知識も初歩のままだ。見事なまでの殴りクレリックである。
そんなわけで、ポールの傷は日に日に深くなって行くのだった‥‥。
パーティの準備は着々と進められていた。
ラテリカ発案の桜桃刺繍入りのショールをライラが作り、ラテリカやアニエスは会場設置に取り掛かる。フローラへの招待状を作ってアニエスがそれを運び、共に向かったライラは彼女用に礼服を仕立て直した。
一方、ノリアがポールに教えるのは踊りである。ペアで踊れる、収穫祭などの祭りでもよく踊られるような、簡単な踊りだ。フローラはどうか分からないが、不器用なポールは踊りも全く出来なかったらしい。もたもたと動く。
「かっこ良く踊る必要はないよ。相手の事を考えて踊れば充分」
「なぁ‥‥でもこれ、変じゃねぇ?」
確かに不恰好だが。
「いいの、いいの。彼女の為に踊るんだよ? まぁ楽しませるのが大事よ」
『自分の気持ちだけではなく、相手の事も考えてあげて下さい』
ふとポールはアニエスの言葉を思い出す。
彼女は作成と準備の合間に、時間を取ってポールと話をしたのだった。
「無邪気に好意を押し付けて許された子供時代は終わり。フローラさんは大人になり、自分とお2人の幸せを模索しています」
自分もまだ子供と言える歳なのだが、大人びた表情でアニエスは告げる。
「ポールさん。今のあなたは子供ですか? 大人ですか? 例え彼女が他の男性やマルクさんを選んでも、それが彼女の望みならば‥‥笑顔で祝福できますか?」
フローラの家に行った時、彼女は真相を聞いてきたのだった。フローラが見合いを決めた理由。彼女の迷いを。
「その時になってみないと分からないだろ?」
しかしポールの答えは簡単なものだった。
もっと深く考えて欲しい。彼女の為に。自分の為に。アニエスはそう願う。
「ま、あんまり小難しい事は言わずに、どーんと告白したほうがあたしは好きかな? さりげない心遣いとか、そういうのも嬉しいけどね。真っ正直に正面から言われるのも嬉しいものよ」
対して、ノリアはポールに自分の意見をそう告げた。だがギルドで話も聞いてきたが、細やかな心を持つマルクのほうが勝ち目がある気がしてならない。フローラのような優しい女性は。我が道を行けてしまうような男性よりも、迷いのある男性に気が向くのではないか。
だが結果が予想できても、冒険者達は彼らの出来る事を精一杯行った。
手を尽くし、見守り、最後に支えになってあげる事こそ、彼らの役目なのだから。
「よぉくフローラさんの事を考えて下さいですね」
パーティ当日早朝。ラテリカとポールは花を摘みに行き、花籠を作った。でたらめな入れ方をする彼に、敢えて何も言わないでおく。
そしてパーティは始まった。
パトリアンナが作った絶品料理が運ばれ、ライラが作った桜桃のジャムを添えたクレープが出てくる。
「恋愛成就のお守りさね」
キューピットタリスマンを事前に渡しておいたライラは、更にマントも手渡した。フローラが寒そうにしていたら、それを掛けるという気遣いを見せる。細かい所まで気がついてこその男というものだ。
「皆さん、今日はありがとうございます」
少々ぼろぼろになっているが、リリーのスパルタ教育の甲斐あってポールがフローラをエスコートしてきた。2人の身につけている礼服は、踊りやすいようライラが加工したものだ。
「うん、この料理美味しいよね」
席についたところで食事をしながらの歓談が始まった。早速、ノリアがパトリアンナ特製料理に舌鼓を打つ。
「本当‥‥美味しい」
「フローラさんの料理も美味しいと聞きましたわ」
「そんな‥‥。この料理に比べたらまだまだだけど、私も何か料理を作って来れば良かったわね」
そう言いながら、彼女は皆に焼き菓子を渡した。前日に皆の分を焼いたらしい。
「じゃ、俺からはこれ」
いびつな形の焼き菓子を、ポールも取り出してフローラに渡す。
「これ‥‥ポールが?」
驚いたように見つめるフローラに頷くと、アニエスが作った髪飾、ライラが作ったショールも手渡した。
「これは俺が作った物じゃないけどさ」
正直にそう告げ、『紳士らしく振舞いなさい』視線を鋭く送るリリーから目を逸らす。
「良いお天気ですし、お散歩すると気持ち良い思うですよ」
ラテリカに言われ、2人は立ち上がって園内を回り始めた。木の根に躓かないようにフローラの手を取るよう、あらかじめ言ってある。
「お。良い雰囲気ですな。私はダンス後のジュースでも作ると致しましょう♪」
パトリアンナが厨房から出て来て、皆の動きを見ながら再び引っ込んだ。
「さくらんぼの花言葉は、『小さな恋』です。‥‥こんなお歌はどでしょうか」
戻って来た2人に、ラテリカがにっこり微笑んで竪琴を手にした。そして歌いだす。高く、空まで届きそうな晴れやかな声で。桜舞い散る暖かな日差しの下で。
真白の花弁、そのままに。想い清く、ひたすらに。
緑の葉影、その奥に。心の証、実を結ぶ。
ただ1人に捧ぐ為。ただ貴女に捧ぐ為。
「ありがとな」
明るく男はそう言った。
「夜からはマルクだよな。俺、知りたかったんだよ」
ゆっくりと2人は踊る。その髪に、服に、花びらが落ちては離れた。
「いつも3人でさ。いつも一緒で。俺、フローラの事無茶苦茶好きだった。独り占めしたいっていっつも思ってたなぁ」
「ふふ‥‥ポールはいつもそんな事ばかり言ってたわ」
「本気だけど。俺はいつも」
言い、止まる。
「今も、本気だけど。フローラの事が好きだ。見合いなんかするなよ。俺と」
一呼吸、置いた。
「結婚しろよ」
視界が揺らいだ。女の、いつもと変わらない笑顔さえ、揺らぐ。
「‥‥明日、待ってる。明日に返事。‥‥出せるだろ?」
男は、女に時間と場所を告げた。それは、友人とあらかじめ示し合わせていた、同じ時間。別の場所。
見上げると、桜桃の花が煌きながら下りてきた。
その日、男は静かに待っていた。
黙って待っていた。
「ポールさん‥‥」
声をかけられて振り返ると、4日間お世話になった冒険者達が、ずらりと並んでいた。
「何だ、もう時間かよ」
軽く言い、男は大きく伸びをする。
「ポールさん‥‥ポールさぁん‥‥」
ほろほろとラテリカが泣いていた。
「あなたは頑張りましたよ。よくやりましたよ。あの焼き菓子も、なかなかのお味でしたよ?」
パトリアンナが腕を組みながら頷いている。
「じゃ、今度はあたしが作ろっか、料理。腕によりをかけてね。そして!」
手に持っていたワインを突き出し、ノリアが笑った。
「このワインのように、じっくり男を熟成させて、これからも生きていきなさーい」
その場で器に注いで回るノリアの横で、ライラがたくさんの酒をテーブルに並べる。
「これは自棄酒大会になるかな」
「ポールさん、少し大人になられましたか?」
アニエスがそっとポールの顔を覗きこんだ。その隣で、同じようにリリーが見つめる。
「友人として彼らを祝福してあげましょう。今の君なら出来ますわよね?」
「‥‥俺、知ってたんだ」
皆の励ましの言葉の中。ぽつりと彼は言った。
「いつも笑顔だった。でも、マルクに向ける笑顔だけ少し違ってた。凄く可愛くて綺麗で、その笑顔が欲しいと思ってたんだ、ずっと」
「ポール君にも、きっといい相手が見つかりますわよ‥‥」
スパルタ教師が、そっと彼を優しく抱き締めた。反射的に逃げようとしたポールだったが、大人しくなされるがままになる。
「飲むです‥‥飲むです‥‥」
まだ泣いているラテリカの頭をぽんと叩いて、ポールはリリーからも離れて酒を手に取った。
「よし、飲むかぁ!! 俺様の飲み比べについてこれる奴はついて来い!!」
「あたしで良ければ相手になるさね」
「じゃ、酒のつまみ作ってくるよ」
「あぁ、僕も何か作りましょうかね。それが仕事ですからね♪」
「お酒はほどほどにしましょうね‥‥ほどほどに‥‥」
たちまち自棄酒大会となった酒場の片隅で。
1人の男の恋は終わりを迎えたのだった。
だがそれが、本当に終わってしまった恋なのか。
それは誰にも予測できない。
この春に舞い散る花の如く、人の気持ちは揺らぐ物だから。