アナスタシアポイント〜6人制限〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 44 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月25日〜04月30日

リプレイ公開日:2007年05月11日

●オープニング

 それは、春の嵐を思わせる強い風と共にやってきた。
「久しぶりね、アナスタシア」
 つかつかとカウンターまでやってきた女性が、腰に片手を当てて嘲りに似た笑みを浮かべながら口を開く。本人は色気たっぷりの口調と表情のつもりだが、アナスタシアより頭ひとつ分背の低い彼女では、今ひとつ迫力もない。
「相変わらずね、イライダ。その子供趣味、何とかならないわけ?」
 挑発に真っ向から乗り、受付嬢も肩をそびやかす。
「何ですって! これが今の流行なのよ。この肩から腰に流れるレースのラインがいいんじゃない!」
「どうでもいいけど」
 そしてあっさり相手をかわした。
「もういい歳なんだし、やめれば?」
「あんただって、顔に似合わない若作りな髪型しちゃって。銅鏡でちゃんと自分の顔を見ることね」
「何ですって!?」
 結局似たもの同士だったらしい。睨みあう2人を皆は遠巻きに見ていたが、後方から咳払いされて受付嬢は我に返った。
「‥‥で? 今更何の用なわけ? ここは冒険者ギルドよ。困った人が来る所なの。あんたが来るような所じゃないのよ」
「見に来てやったんじゃない。あんたが本当に、『約束』を守ってるかどうかをね」
 言われて、受付嬢は口を閉ざす。それを見てイライダは笑みを浮かべた。
「聞いた話じゃ、冒険者と一緒に冒険に行ってるそうじゃない。この話を聞いたら、あの人はどう思うかしらね?」
「終わった話だわ」
「でも『約束』は有効よ」
「あたしは戦ってない」
「イライダ」
 不意に、第3者の声が割って入った。振り返ったイライダの傍に、30歳に入ろうかと言う風貌の穏やかな雰囲気を纏った男がやって来る。彼はアナスタシアを見て、優しく微笑んだ。
「久しぶりだね、アナスィ」
「‥‥何しに来たの?」
「イライダが、君の仕事ぶりを見に行かないかと言うから。パリに来たのも本当に久しぶりだけどね。でもやっぱり君は女の子なんだから、剣を奮って戦うよりもそうやって人を影で支えるほうが合ってるよ。冒険に出てるって聞いたけど、危ない事を君がする必要は無いんだよ」
「イライダは冒険に出てるわよ?」
「あたしはウィザードだもん。成秋が守ってくれるから問題ないの。ね?」
 男にべったりのイライダにアナスタシアは一瞬険しい表情を見せたが、すぐに無表情の仮面を被って彼らから目を逸らした。
「そう。仲良くて結構な事ね。じゃ、そろそろあたしを解放してくれるわよね?」
「いいわよ」
 あっさりイライダは応じて、男に見えないように心持ち後ろに下がり嘲笑を浮かべる。
「じゃ、ゲームをしない? 貴女が頼みにしている冒険者達と、あたしと成秋が一緒に組んでいる冒険者達とで競うの。こっちは7人だから、貴女のほうは6人、冒険者を用意するのね。7人で戦う。それがルールよ。‥‥戦うって言っても、場所はこのパリ。パリの端と端に陣を作って陣の中に人質を置くの。最初に1人。あたし達のほうでは、アナスタシア。貴女を人質に取るわ。頭に血が上って人を傷つけたりしないか心配だし」
「‥‥で、残り6人でパリを走り回れって話? いろいろと迷惑ね」
 イライダの挑発には乗らず、アナスタシアは平然とそう答えた。
「‥‥そういう事になるわ。貴方のほうは、誰を人質に取るの?」
「成秋にしておく。で、先に人質を解放したほうが勝ちって事ね?」
「そうなるわ」
「‥‥ノルマンは今、預言で未曾有の危機に晒されていると言うのに、下らない遊びを思いついたものね」
「アナスィ。君がノルマンを出たいと言うなら、いつでも協力するよ。故郷に帰りたいんだろう?」
「結構よ」
 この男は、アナスタシアを一生理解する事が出来ないだろう。心配そうな表情で見ているが、男が自分の考えを押し付けているだけだと言うことにアナスタシアは気付いている。
 そしてゲームの日時とルールを簡単に話すと、2人は冒険者ギルドを出て行った。

「ゲームの期間は3日で、夜明けから日没まで。敵の陣地から人質を先に奪ったほうが勝ち。奪われたら負けになるわね。だからと言って人質の周りに全員3日間詰めるとか、下らない真似はしないでよ。‥‥で、ここからはあたしの予想なんだけど。イライダが絶対何も罠を仕掛けないで攻めてくるとは思えないのよね。あいつを人質に取ったら変な魔法でも使うんじゃないかと思って、敢えて外したけど。後、あいつは6人で、って言ったけど。こっそり増員してそうなのよね。確実な弱みを握れればいいんだけど、まぁそれは二の次」
「‥‥でも何で、そんなゲームをする事に?」
「下らない奴らに、これ以上付きまとわれない為よ」

●今回の参加者

 ea0346 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea2554 ファイゼル・ヴァッファー(30歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ ルカ・インテリジェンス(eb5195

●リプレイ本文

 某日(26日)某時(夜明け前)パリ中心部(大通りの中心部)。
 ひゅるりと一陣の風が通り過ぎた後に、東と西からそれぞれ横一列に並んだ集団がざっざっとやって来た。
「逃げなかった事だけは褒めてあげるわ。アナスタシア」
「うるさいわよ、イライダ。とっとと始めましょう」
 その列の真ん中に立っていた2人の女が火花をばちばちと散らす。
「こら〜っ。道の真ん中塞ぐな!轢くぞ!」
 そんな彼らの後方から馬車を操る御者の声が聞こえてきたが。
 2人は黙殺した。
「じゃ、アナスタシアはいただくわ。成秋。変な人に変な事されないように気をつけてね」
 後半はうるうる目で訴えると、イライダとその一味は来た方角へと去っていく。
 そうして戦いの火蓋は切って落とされたのであった。

「ひょっほぉう! 皆様のレンジャー、パトリアンナ・ケイジ(ea0346)でございます。今回の相手は随分いけ好かない奴らのようですね。遠慮なくパリから叩き出してあげましょう♪」
 ゲーム開始前日。
 小さな姿で軽いフットワークを見せながら、パトリアンナは皆に挨拶した。
「料理人は廃業かい?」
 そんな彼に声をかけたのはシャルウィード・ハミルトン(eb5413)。パトリアンナがゲテモノ料理を作るべく腕によりをかけていた姿は記憶に新しい。
「いえいえまさか」
「しかし、因縁と腐れ縁はしつこいからなぁ‥‥。珍しく同情できるぞ、アナスタシア」
 シャルウィードが何かを思い出すようにぼやくと、その後ろでほわんとした笑みを浮かべていたミカエル・テルセーロ(ea1674)も頷いた。
「預言依頼が入り始めた頃に全く関係ないゲーム。不謹慎ですね。僕自身気に食わないから参加します」
 既に春は来たはずなのに、何やら冷気を後ろに背負っている。
「本当に‥‥預言騒ぎで大変な時に‥‥何をしているのかな‥‥」
 ぱたぱた飛びながらアルフレッド・アーツ(ea2100)がぽつりと呟くと、彼らを見渡したテッド・クラウス(ea8988)も小さく息を吐いた。
「そうですね‥‥。しかも市街。‥‥徐々に自分が不良騎士になってきているような気がします」
「まぁ、気にするな♪ とりあえず『御主人様』が捕まるとなると、『下僕』は助けに行かないとな〜♪」
 そんなテッドの肩にぽんと手を置き、かなり楽しげにファイゼル・ヴァッファー(ea2554)が声をかける。アナスタシアを知る者達は彼を『ほら、あれが下僕らしいわよ』と噂しているようだが、最早彼も慣れてしまったようだ。哀れ。
 ともあれ6人は、ゲームが始まる前に出来る準備を開始した。

 人質監視場所とメンバーの顔は、ゲーム前に知らせることになる。
「好きな場所に陣地を設定できるなら、パティさんの棲家とも思いますが‥‥」
 改めて曖昧なルールを聞き直し、ミカエルは皆を見回す。
「あいつらが攻めてきて家の中をかき回されてもいいならね」
「それは困りますねぇ」
 そう言いながらも彼らの相談場所はミカエルの棲家だ。情報かく乱作戦である。敵はどうやらパリではあまり活動していないらしいので、冒険者達の住処を言葉で教えられてもすぐさま見つける事は出来ないだろうという事なのだが。
 その頃、シャルウィードの手伝いでやってきたルカは、密かに行動していた。初日の段階では相手の顔は分からないが、一部アナスタシアが知っている者もいるかもしれないということでリシーブメモリーで特徴を得、町の中を動いている。一方テッドは、パリの西側の裏路地などの道を把握し、相手が詰めそうな場所を探っていた。
 とりあえず彼らは味方同士の暗号を決め、周囲に偵察する者が居ないか充分に確かめた後、パトリアンナの棲家へと移った。
「なぁアナスィ。アナスィの匂いがついてそうな布かスカーフとか無いか?」
 陣の場所は知らされるが、果たして最初から最後まで人質がそこに捕らわれたままかどうかは分からない。そこで、ペットを使ってアナスタシアを追えるようファイゼルは尋ねてみたのだが。
「変態」
 誤解された。
「ち、ちがっ!」
「‥‥ファイゼルさん‥‥。そんな趣味が‥‥」
「いけませんよぉ? レディに対して紳士でなくては」
 周囲の目とレンジャーのレイピアに突かれる。
「まぁ、げぼく遊びはこれくらいにして、宜しく頼むわね。明日から」
 アナスタシアにそう言われ、皆は頷いた。

 敵の陣は月道近くの酒場。
 夜中にアルフレッドがダウジングペンデュラムで調べた場所とほぼ一致している。そして彼は、空からその場所を偵察していた。ペットの鷹と隼に手伝わせ、空中から相手がやってこないかも確認しておく。そして、そのまま相手の陣近くまでゆっくり降下して行った。
「‥‥打ち落とされませんように‥‥」
 ペットを連れて下りれば逆に目立ってしまう。ゆっくりと近くに下りて、その宿屋周辺に罠が無いかを探った。
 とりあえず罠は無い。そろりと上空から宿屋の上へと降り、中の様子を探ろうと窓へと移ったその時。
「み〜ぃつけたぞ〜!」
 突然真下から声が聞こえた。はっと見下ろすが、とりあえず人の姿は見えない。だがそんな彼の目の前で、宿屋の隣に生えていた木が‥‥。
 どろん。
「出会え〜! 敵だ〜!」
 人間に変化した。
 慌てて飛びあがったアルフレッド目掛けて、遠慮なく矢が飛んで来る。それを振り切るようにして彼は空へと逃げて行った。

「‥‥忍者と‥‥多分レンジャーが‥‥います‥‥」
 何とかかすり傷だけで済んだアルフレッドからの報告に、皆は顔を見合わせた。忍者はこういう作戦に強い術を多く持っている。ミカエルが定期的にバイブレーションセンサーを使っているものの、その効果時間も短い。
「イライダがウィザードだったな。これ、相手が魔法使いだらけだったらきついな〜」
 防衛組のシャルウィードがペットの鷹と忍犬に索敵と警戒をさせる事でバイブレーションセンサーの弱点を補っているものの、攻めるほうも個別に攻めたのでは難しそうだ。
「アースダイブ対策はしましたけど‥‥さて忍法ですか‥‥」
 人質が座る椅子の下には木の板や毛布を敷き詰めている。だが他の対策は? ミカエルが考え込み、シャルウィードが立ち上がる。
「外見てくるよ。一応な」

 初日だけ馬で哨戒していたパトリアンナが戻り、犬を連れて偵察に行っていたファイゼルも戻り、最後にテッドが戻った。初日は状況に変化は無く、敵もこちらの陣付近に現れない。
 戦いは翌日に持ち越された。

「何で道にこんな罠が仕掛けてあるんだ?」
 パリの道に獣用の罠が置いてあるのを見て、ファイゼルは首を傾げた。町なかにあるべきものではない。
「あっちもある‥‥何だ?」
 誰の目にも明らかな罠だ。鼠捕りには大きすぎる。
「‥‥この道は‥‥やめとこ」
 長年の冒険者の勘で、彼は道を引き返した。簡単な罠の向こうに待ち構えている物は、悪質な罠に決まっている。
 そうして彼は別の道でも同じ物に遭遇して頭を抱えることになった。

「ノルマン騎士、テッド・クラウスです」
 颯爽と名乗る少年の手に握られているものは、太い棍棒だ。騎士の名乗りには少々似つかわしくない。だがそれは、流血騒ぎにしないようにと敢えて選んだ武器だった。
「‥‥ロゥ‥‥シュレー」
 相手は侍の姿をしている。手に持つのは刀。顔もジャパン人に見える。だが相手は一旦刀を抜いたものの、すぐに収めて背負っていた木刀を構えた。
 アルフレッドは矢で思い切り攻撃されたらしいが、全員が相手を深く傷つけても良いとは思っていないようだ。僅かに笑みを浮かべて、テッドも棍棒を握り締める。
「宜しくお願いします」
「‥‥よろしく」
 刹那、2人は同時に動いて相手の間合いへと踏み込んだ。乾いた音を立てて2撃、3撃打ち合った後、離れる。だがそれだけで相手の実力は読めた。純粋に勝負するだけならテッドのほうが強い。その差は歴然。だが。
「こら〜! お前達そこで何をしている!」
 突然そこに第3者の声が割って入った。どう見ても巡回中の衛兵が2人。こっちに向かってやって来る。慌てて戦っていた相手へと振り返ると。
「‥‥」
 男は、はるか彼方まで逃げ去っていた。
 本当は逃げたくないのだが仕方無い。どんどん不良騎士になって行くことを嘆きながら、テッドもその場を後にした。

「ムシュー・成秋」
 3日目。
 人質の周りを囲みながら、パトリアンナが声をかけた。正直暇なのである。全く敵が攻め入ってくる気配が無いのだから。
「僕、自分を疑わない人間は糞だと思ってます。デビルさえ、人間の心理を理解してから手を打ちますよ?」
「何の話?」
「彼女の事です」
 ミカエルも応じる。
「少なくとも、僕は今ある仕事を軽んじなければ彼女は嫌いじゃない。好きな事を全力でやる破天荒な所は魅力かもしれないと思いますけれど」
 アナスタシアと成秋。全く相互理解が成っていない。それは成秋に原因があるのだろう。2人は話を続けた。
「相手が望んでいる事を聞きもしないで、自分の意見ばかりを押し付ける。そういう奴が僕は一番大嫌いです」
「うん、そうだね」
「アナタの事ですよ」
 レイピアの先でつんつんしながら、パトリアンナは言い放った。
「彼女の話を一度でもきちんと聞いてあげた事があるんですか? 彼女の望みを知っていますか?」
「知っているとも」
 だが成秋は大きく頷く。
「冒険者をやめると言い出したのは彼女だし、故郷に帰ると言ったのも彼女だよ」
「さて‥‥」
 どう料理してくれようかとパトリアンナが成秋を見下ろした時。不意に外から声が飛んできた。
「敵だ!」

 最初に流れてきたのは、気持ちを落ち着かせるような匂いだった。
「何だ‥‥?」
 呟いたシャルウィードの近くを歩いていた人が、突然倒れる。飛んでいたペットが妙な動きをしたから先にオーラエリベイションを唱えていた事に気付き、彼女はとっさに叫ぶ。敵が来たのだ。
「ファイターに効かないとは思わなかったなぁ」
 どう見ても忍者という格好をした男が呟き、その横に立っている女も頷いた。
「どんなファイターも、魔法には勝てないはずなのにね」
「悪いけどあたしはナイトだ」
 言われて目を丸くした2人に、忍犬が飛びかかる。叫び声を上げながら男のほうが逃げ、女はシャルウィードに魔法をかけようとして。
「遅い!」
 間に合わずに攻撃を受けて悲鳴を上げた。
「この人‥‥イライダさん‥‥」
 痛い痛いと叫んでいる女の下へアルフレッドが降りてくる。
「他にも1人‥‥近くに居ました‥‥」
「こっちに帰って来たって事は、助け出したのか?」
 アルフレッドは救出側である。だが彼は首を振って僅かに苦笑した。
「それが‥‥」

 そもそも彼らが陣地としていた酒場は、山ほど客が入っていたらしい。しかもどうやら彼らは妨害役として、ただ酒を条件にそこに入り浸るよう言われていたようで、全く道を譲ってくれないのだ。2階にはアナスタシアの姿は無く、1階を通してもらえない事から恐らく彼女は地下なのだろうと予想出来たのだが。
「酒場の主人も‥‥倉に入れる事は出来ないと‥‥言うので‥‥」
 まさか一般人を気絶させて強引に入るわけにも行かない。そこで敵の防衛側の人を捕まえて、その人に指示をさせようかと企んだのだが、肝心の敵が周囲におらず。
「戻って来たってわけか。でももう時間が無いな」
 既に日は西に沈み始めている。恐らく敵は総攻撃をこちらに仕掛けるつもりだったのだろう。家の中からも音がしていたが、やがて静かになった。
「‥‥引き分け‥‥でしょうか」
 しくしく泣いているイライダにポーションを渡しながら、アルフレッドは広がる藍色の空を見つめた。

 結局。
「頭痛い‥‥」
 古いワインをさんざん飲まされて酒倉に閉じ込められていたアナスタシアは、打ち上げどころでは無く酒場の隅で突っ伏していた。
「ま‥‥負けたわけじゃないからいいよな‥‥。いいんだよな‥‥。何もされないよな‥‥」
 その様子を窺うファイゼル。
「肩たたき券を使える状況じゃないみたいですね‥‥」
 前回、意外と良かった肩たたきを再度味わうべく彼女に近付いたミカエルも、そのまま静かに引き下がった。
 結果として、彼らは互いの人質を救い出す事は出来なかった。引き分けとして、全員にポイント3点が与えられ、パトリアンナ6点、ミカエル4点、アルフレッド9点、ファイゼル10点、シャルウィード6点、テッド14点となったわけだが、テッドが夜闇の指輪を交換して欲しいと告げた為、テッドのポイントは4点となった。
 密かに自分もそれが欲しいと思っていたアルフレッドだったが、どうやら全てのアイテムは1点物らしい。早いもの勝ちというわけだ。
 が。
「あ、居た〜」
 不意に酒場の扉が開いてイライダが入ってきた。
「探したわよ〜。アルフレッドくん」
「‥‥え‥‥。僕ですか‥‥?」
 いきなりのご指名に驚くアルフレッドに近付き、イライダはにっこり微笑んだ。
「そうそう。ね、あたしと来ない? あたし、アナスタシアよりずっと役に立つわよ?」
「‥‥あの‥‥何の話‥‥」
「うるさい。イライダ‥‥」
 状況がよく飲み込めていない皆の奥から、アナスタシアの地を這うような声が聞こえてきた。
「アナスタシアはシフール贔屓なの。これからは付き合わないほうが身の為よ?」
「アナタもこれ以上ここに居ないほうが身の為ですよ?」
 しかし、にっこりとおじさんに笑顔を向けられ、イライダは思わず半歩下がる。
「まぁ‥‥分かったわ。じゃ、今回の勝負は無かったことにしましょ」
「成秋連れて、とっとと帰れ‥‥」
「いいの? ほんとに未練ないのね。じゃ、それでいいわ」
 あっさり言うと、イライダは歌いながら去って行った。
「未練?」
「‥‥未練?」
 皆は疑問を口に乗せながら、再度アナスタシアに振り返る。
 しかし、彼女の口からは体調不良の言葉しか出てこなかった。

 後日、彼らは成秋とアナスタシアが、かつては恋人同士だった事を知る。
 その過去が今の彼女を作り上げていることは、間違いが無いようだった。