俺様天使隊お仕事開始!

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月09日〜05月14日

リプレイ公開日:2007年05月18日

●オープニング

 シャトーティエリー領、レスローシェ。
 町の歴史は非常に浅いが、周囲では最も活気に満ちた町である。遊興の町、娯楽の町、芸術の町。様々な呼び方があるが、その華やかさとは裏腹に陰では多くの人々が泣きを見ていると言う。その町の、余りの物価の高さの所為で。今までに数多くの人々が、町で遊び歩いた挙句全財産を失って路頭に迷ったと言う。
 だがそもそも、何故この町の物価がそれほどまでに高いのか。その高さに町で暴動が起きたり陰で町の支配者を倒すべく暗躍があったりしなかったのか。
 それはやはり、無かったのである。
 何故ならこの町に住む人々もまた、娯楽大好き娯楽で金儲け大好き「どうせ金を落とすのは余所から来た客だ」という考えだったからだ。例え税金が高かろうとそれ以上に満足の行く生活が出来るなら、不満など無いわけである。

 そんなレスローシェを作った人物は、名をエミールと言った。
 シャトーティエリー領領主の息子で、歳は20代後半。レスローシェを新たに作ろうとしていた父親が病気で寝込んだ為、後を引き継ぎ娯楽の町にしてしまった人物である。彼の兄はあまりその事を快く思っていないという噂だが、現在領主代行を務めているのだから、税金が多く入ってくる事に関して文句など付けようはずは無い。

 という真面目な説明を踏まえて、彼の日常をどうぞ。

「なぁ、オルガ」
「私の名前はオリーヴです、坊ちゃん」
「オリーヴなんて顔かよ。どっちかって言うとオーガだよな」
「外見で人を差別してはいけません。そして、その台詞は今日で105回目です」
「語彙が少なくて悪かったなっ」
 くすんだ金の髪を持つ男は、豪華な椅子に座って粗末な机に両腕を投げ出していた。身につけている服は高価なものだが、それをだらしなく着込んでいる。
「いい事を思いついた。これ、結構いい案だぞ」
「はぁ、何です」
「俺の指示を聞き、その通りに任務をこなす影の組織だ」
「はぁ。派手好きな坊ちゃんが、地味な影の組織を作れるとは思いませんが」
「表立って俺の手下だってばれたら困るだろ。だから影の組織。地味なのは趣味じゃねぇ」
 楽しそうに話しながら、坊ちゃんは紙とペンを用意して汚い字で何かを書き始めた。
「よし、出来た」
 満足げに書き終え、それを広げる。
「『俺様の天使隊』だ」
「却下です」
「俺の組織なんだから、好きな名前でいいだろ!」
「却下です」
「うるさい奴だなぁ‥‥。じゃ、『俺様の小悪魔隊』」
 どかっばきばき。
 坊ちゃんは壁まで飛んで行った。
「ノルマンにデビルの影ありと噂されているこの時期に、小悪魔とはどういう事ですか。私はそのような危険思想の持ち主に育てた憶えはありません‥‥」
 悲しみの影を背負いながら、主人をぶっ飛ばした女性がそう嘆いた。女性ではあるが、体格がっしり惚れ惚れするほどの筋肉を携えたジャイアント女性である。
「‥‥それを言うなら、報酬貰って主人に仕えてる身分で主人殴るっていうのは、どーいう思想なんだ?」
「悲しみの鉄裁です」
「分からん」
「愛の鞭です」
「それは嫌だ」
 立ち上がって再度椅子に腰掛け、男は汚い字が踊る紙を手に取った。
「仕方ないから‥‥やっぱ『天使隊』だよな。神の御使い。聖職者っぽいのはイマイチだけど、ちょっと色気が足りないとも思うけどな」
「必要なんですか、色気が」
「要るだろ、色気は!」
「そうですね。天使という名の筋骨隆々な男性がいらっしゃるといいですね」
「そんな色気はいらん!」

 というわけで。
 パリの冒険者ギルドに1人の愛らしいメイド服を着た女性がやってきて、依頼をして帰って行った。しかしその内容が張り出される事は無く、受付員がやって来た冒険者の中から個別に話をして依頼を勧めたのだと言う。
「まず、世間に顔を知られていない方々が理想的です。それから女性を望みますが、男性でも構いません。綺麗な方ならきっと上手に化けて下さると思いますし」
「化け‥‥?」
「どこをどう見ても男性な方は、『天使隊』を影で支える役になるのかしら。地味な役回りですね。『天使隊』のお仕事は、ご主人様からの指示で初めて発生します。今回はパリで働いていただきます。集合場所は、『華麗なる蝶パリ亭』という名前の酒場になります。これはとても秘密なお仕事なので、他に漏らさないようにして下さいね」
「はぁ‥‥」
 愛想笑いの眩しい女性は、その後も着々と話を進め。
「衣装も同じほうがいいのかしら。貸し出しは出来ますけれど。でも衣装は何着か着替えるのが鉄則だと思うんです。個性溢れる衣装も素敵ですよね」
 何故か衣装について熱く語った後、去って行ったと言う。
「‥‥金持ちの道楽依頼かな‥‥」
 彼女が去った後、受付員は小さく溜息をついて冒険者に話すべき内容を書き始めた。

●今回の参加者

 eb7804 ジャネット・モーガン(27歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb9226 リスティア・レノン(23歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec2018 サラ・シュトラウス(33歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec2152 アシャンティ・イントレピッド(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec2418 アイシャ・オルテンシア(24歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●まずは試験
「ご主人様。冒険者の人達を連れて参りました」
「おう、入れ」
 『華麗なる蝶パリ亭』内は、まだ営業を始めていない酒場で、室内はがらんとしていた。依頼を受けてやって来た4人の冒険者達は、出迎えたメイド服の女性に連れられて奥の部屋へと入る。
「5人だと聞いてましたけど、お1人は体調不良でお休みだそうです」
「そいつは残念。じゃ、端から自己紹介と、せくしーぽいんとを言ってみて」
 派手な赤色に包まれた室内で、依頼人はジャネット・モーガン(eb7804)を指差した。一瞬指されたほうは眉を潜めたが、軽く咳払いをして口を開く。
「私はジャネット・モーガン。高貴にして至高なるこの私の全てが、チャームポイントであり特技! 神の使いの如き存在たる私に相応しい称号である『天使』の名をいただきに来たわ」
「はは。ナイトか。お前面白いな」
「ただのナイトではないわ。気品溢れる」
「じゃ、次」
「あ。‥‥イギリスより参りました、リスティア・レノン(eb9226)と申します。どうぞよろしく‥‥」
 おろおろしながら、隣に立っていたリスティアが名乗った。
「えぇと‥‥私にチャーミングポイントやセクシーポイントがあるでしょうか‥‥? 得意な事は‥‥」
「事は?」
「水溜りと話せます」
 魔法で、という説明をすっ飛ばして、リスティアは笑顔で答える。
「‥‥で?」
「あ。料理で火傷などをしても大丈夫です」
 更に眩しいくらいの笑顔。
「‥‥よく分からん。じゃ、次」
 指されてリスティアの隣に居た娘が、慌てて姿勢を正した。
『キャメロットの騎士、アイシャ・オルテンシア(ec2418)です。宜しくお願いします』
『おう』
『‥‥あれ‥‥。イギリス語、分かるんですか?』
 母国語しか喋れないアイシャの言葉に、依頼人は頷く。
『でも調査対象の貴族は分からないだろうな』
「あ。それは私が‥‥アイシャ様とは主従という形で通訳もしますので‥‥」
 リスティアのフォローが入り、アイシャはイギリス語で話を続けた。
『私のチャームポイントは、長い艶やかな銀髪と、貴族出身故の育ちの良い仕草ですね。流し目で色気も出せますよ』
「それは悪くないなぁ。じゃ、最後」
「ルーアブルーのアシャンティ・イントレピッド(ec2152)。通称アーシャよ、よ〜ろしくねっ」
 明るく弾むような声でアシャンティが名乗る。
「特技は、未熟だけど大小よりどりみどり。船を動かせるの」
「へぇ〜。そいつは使えるな。何かしてたのか?」
「それは乙女の秘密だよっ♪」
 実は海賊やってますとは言えない。笑顔でアシャンティは持っていた槍を振り回した。
「後は槍をぶんぶんと。礼儀作法の嗜みも基礎くらいは、かな」
「まぁ分かった。じゃ、リリア。衣装を用意してくれ」
 言われてメイド服の女性が部屋を出て行く。
「私達、調査対象の屋敷への潜入は、メイド候補という触れ込みで行くわ」
 それを見ながらジャネットが依頼人に述べた。
「ま、妥当な線かな。でもお前、メイドになんてなれるの?」
 にやにや笑いながら言う依頼人に、ジャネットは胸を反らして見せる。
「高貴なる者は、目的の為ならどんな事でも出来るものよ」

●メイド隊潜入開始
 意外とあっさり『天使隊』の隊員に任命された4人は、リリアの用意した様々な衣装を選び、身につけてから貴族の屋敷へと向かった。今回の目的は、とある貴族が裏で何か良くない事を行っているらしいので、その情報を掴んで来いというかなり大まか過ぎる内容だった。
「あの‥‥これ、少し窮屈なんですけど‥‥」
 馬車で運ばれる中、リスティアが不安げに自分のメイド服を見つめた。
「でもリリアさんが採寸も合わせてくれたよね? あたしが行くお屋敷のお仕着せ、持って行く?」
「お願いします‥‥」
 それぞれが別々に目的地へと入る。アシャンティが選んだ方法は、まず最初に依頼人から別の貴族の屋敷を紹介してもらい、そこから更に別の貴族の屋敷を紹介。そうして最終的に目的の屋敷に紹介してもらうという、少々手と時間の込んだものだった。とは言え時間はかけていられないから、実際にそれらの屋敷で働く事は無い。
 そしてアシャンティが馬車を降りた後、まず最初にジャネットが目的の屋敷内へと入った。
「あのぅ」
 そっと見守る2人の前で、ジャネットが鼻にかかった声を出す。
「私、ジャネットと言いますぅ。この立派なお屋敷のメイドになりたくって来ましたぁ」
 さすが高貴なる神の使い(ナイトだが)。この程度の演技、彼女の前に広がる栄光の道を進むためには何という事は無いのだろう。
「え‥‥メイド? 今、募集してたっけ?」
 門番達が顔を見合わせたが、それへと出来る限りのうるうる視線を向け。
「実家には病気の母と、呑んだくれでぐうたらの父、それに10歳の弟を筆頭に12人の兄弟がいるんですぅ。私が頑張って働かないとダメなんですぅ」
 と訴える。背の低い彼女には、はまり役だったようで、見事同情を買うことに成功した彼女は中へと案内された。

「おい。お前達、何をしている」
 ひっそり茂みに隠れて様子を窺っていた2人は、突然背後から声をかけられた。
『わっ‥‥私達は、こちらで働かせて貰えないかと思って』
「そ、そうです。えと、こちらは私の御主人様のアイシャ様。私達、イギリスから来たんです!」
 わたわたしている2人を怪訝そうに見ている男。このままだと屋敷に潜入どころかどこかに突き出されかねない。
「あの‥‥あの、メイドとして雇って貰えないでしょうか。私達、イギリスからの旅でお金を使い果たしてしまって‥‥」
『お願いします‥‥』
 アイシャが誘うように微笑みかける。言葉は分からないが、笑顔は万国共通。しかし一瞬男は呆けたように彼女を見たものの、険しい表情は崩さなかった。
『仕方ないですね‥‥』
 小さく呟き、まだ必死で男を説得しようとしているリスティアの背後へと回る。そして。
『えい』
 背中から出ている紐を軽く引っ張った。
「ですから‥‥あら?」
 ばたっ。不意に男が倒れ伏す。
「あの‥‥だいじょう‥‥きゃあああ!」
『さすがティアさん。殺人的ですね!』
 後ろで爽やかな笑顔を見せるアイシャ。
「な、なんでむ、胸が‥‥服から出ちゃうんですか‥‥」
『それは細工してあったからです!』
 とは言わず、穏やかにリスティアを慰めるアイシャ。実は密かにリリアと結託して、胸が大きい点を活かそうと衣装を改造していたのだった。勿論本人には内緒で。
 そうして心に傷を負ったリスティアと共に、アイシャは屋敷内へと入ったのだった。

●調査開始
 遅れてやってきたアシャンティから別の衣装をもらったリスティアは、一応復活した。
「あれ、知らないんですか? 天使のメイド隊と言って、今流行ってるんですよ〜」
 同じ時期に別々に来たとは言え、使用人希望者がぞろぞろ現れるというのもおかしい。そこでアシャンティが屋敷の主人に説明をした。
「花嫁修業も兼ねてメイドになっちゃおう、って。そういう会があるんです。ね?」
「私は本当にお金に困ってるんですけどぉ‥‥でも、素敵な方と結婚出来ればしたいですぅ」
 嘘泣きをしつつ、ジャネットも応じる。
 4人の内の2人はハーフエルフだったが、この家の主人は特に気にしていないようだった。むしろ。
「背徳の徒と恋仲になるのも良かろう‥‥」
 と怪しげな笑みを浮かべていたので、アシャンティとアイシャは自分の身を自分で守らなければならなかった。
 ともあれ4人は使用人達から基本的な仕事の手ほどきを受け、働き始めた。リスティアなどはすっかり笑顔を取り戻し、時折失敗しつつもぽやっとした所が気に入られたのか、皆に可愛がられている。
「‥‥天然には勝てないわね‥‥」
 ドジなブリっ子演出で注目を集めようとしていたジャネットが負けを認めるほどだ。
『ティアさん、ティアさん。仕事仕事』
『はい? お仕事してますよ?』
『違う違う。調査でしょ』
 そして、アイシャにそう注意されるまで、自分の本当の目的を忘れていたリスティアだった。
「やはり、怪しいのは執務室や私室かしら」
 一方、本来の目的を忘れず何か書かれた紙や石版や木板が残ってないか、あちこちの掃除の合間に探っていたジャネットとアシャンティは。
「他の人が出入りする部屋には無かったもんね。床下とか壁とか絵の裏とかは?」
「絵の裏は無かったわね。床下は‥‥開けてじっくり探すのは危険かしら」
「夜にこっそり‥‥する? でもあたし達じゃ、音も立てずにやるのは厳しいかもっ」
「とりあえず、掃除のフリをして飛び込むしかないわね」
 幾ら何でも絨毯を引っくり返して探すわけにも行かず、執務室と私室を掃除のフリをして探ろうという事になった。勿論、リスティアやアイシャと手分けして。
 アシャンティのほうは、こっそりどこからか捕ってきた鼠を取り出していた。そしてそれをこっそり厨房の床に放つ。
「きゃぁ〜。ねずみ〜っ♪」
 どこか楽しげに叫びながら、彼女は棒を持って走り出した。
「は、早く捕まえて!」
 慌てる使用人達の間をすり抜けながら、わざと鼠を避けて棒で床を打つ。とにかく鼠が下ごしらえしてある鍋にでも入ったら大変だ。皆は必死で追いかけ回した。

 厨房で大騒ぎになっている間に、素早くジャネットは執務室に忍び込んでいた。掃除をしつつ、棚の上、机の上を見て回る。
「これは‥‥?」
 無造作に置いてあるゴブレットの下に、それを置く薄い板のような物があった。だが、そこには確かに文字が綴られている。
「『確かに品は頂きました。早急にご確認の上、こちらにサインを‥‥』」
 途中で割ったような切り口。文章も途中で切れているが、聞いたことの無い名前なども幾つか並んでいた。
「半分じゃ証拠として不十分じゃないの‥‥」
 どこかに無いかと辺りを見回したその時、閉じてあった扉が開いた。
「お前‥‥」
「きゃぁぁ〜ん!」
 慌てて近くに積んであった巻物を床に落とし、わざとらしくジャネットは叫ぶ。
「落としちゃったぁ‥‥。ごしゅじんさまに叱られちゃう‥‥」
「おい。誰がここに入っていいと言った?!」
 見ると、この屋敷の主人が険しい表情で室内に入ってくる所だった。
「ごっ‥‥ごめんなさぃ‥‥。誰もお掃除しないって言うからぁ‥‥お掃除しなきゃって思ったんですぅ‥‥」
「何か見たんじゃないだろうな?!」
 問い詰められ、反射的に後ろへ下がるジャネット。
「何かって‥‥何をですか‥‥?」
『御主人様!』
 緊迫した空気の中、突然イギリス語が割って入った。
『隠れて他の子に手を出すなんて酷いです!』
 ジャネットも貴族もイギリス語は分からない。だが声の主、アイシャが怒っている風なのは読み取れた。
『ハーフエルフが好きだっておっしゃった癖に‥‥』
 ありったけの演技をする彼女に追いついたリスティアが慌てて通訳し。
「すまないアイシャ。でも違うんだよ。この子が粗相をしたから注意を‥‥」
『こんな隠れた場所で他の子と2人っきりにならないで下さい〜。私、私っ』
「あぁ、すまなかった。向こうに行こう。な?」
 貴族が口を割るよう、始めから言い寄っていたアイシャが一緒に去り、残された2人はほっと胸を撫で下ろした。
「私は怪しまれてしまったし、あまり長居しないほうが良さそうね」
「そうですね〜‥‥。このままだと、アイシャ様の身も危ないですし‥‥」
 とりあえず他に怪しげな物を持って、早い内に逃げたほうが良さそうである。
 翌日、4人はそれぞれの事情を話し、屋敷を出て行った。

●お疲れ様。でも禍根?
「はい。ごしゅじ‥‥さま」
 アシャンティが依頼人にぼろぼろになった紙を手渡した。暖炉の中を漁って、持ってきた証拠品である。
「‥‥よめねぇぞ」
「そんな事ないよ? ほらここ」
「薬草の名前が書いてありますね」
 ジャネットが入手した木片にも同じ名前が記載されていた。植物にはちょっと詳しいリスティアが、その名前が全て薬草として使われるものである事を告げる。しかし薬草の取引をしているだけであるならば、到底裏で取引するような物とは言えない。
「大きい稼ぎになるんだって言ってました」
 しかしそこはアイシャが聞き込んでいた。
「あいつは確か、薬品の商人証は持ってなかったはずだ。傘下の商人達も。まぁ商人ギルドに入ってれば大抵の取引は出来るにしても‥‥」
 再度字を眺めていた依頼人が、ふとある場所で目を止める。
「これは‥‥」
「どうかしたの?」
 ジャネットに尋ねられ、依頼人は顔を上げた。
「筆跡に見覚えがある。どこかで見たんだよな‥‥」
「そう」
「まぁいい。ご苦労だったな。後はこっちで調べる。オリーブ。報酬を」
 言われてジャイアント女性が1人1人に報酬を手渡す。
「ところでお前ら。今回使った偽名はもう2度と使うなよ」
「はい?」
「偽名?」
 帰りがけ。ふと思い出したように声をかけられ、4人は顔を見合わせた。
「だから、目標の屋敷で使った偽名‥‥」
「使ってないわ」
 しかし。あっさり彼女達はそう答え。
 依頼人ではなく、お付のオリーブに、皆はぽんと肩を叩かれた。

 後日。
 アイシャ・オルテンシアという名前のメイドを探す依頼が冒険者ギルドに入ったが、その人物を探す依頼を受ける冒険者が居なかった為、残念そうに帰って行く身なりの良い男の姿が目撃されたと言う‥‥。