遅れてしまった誕生日パーティ

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月20日〜05月24日

リプレイ公開日:2007年05月30日

●オープニング

 それは、いつもと変わらぬ光景だった。各々が各々に課せられた仕事をこなす為、忙しく執務室内を行き来している。或いは外に出て行く者、部屋に入って来て他の者と相談する者もいた。そんな中。
「あ!」
 部屋の片隅に置かれた机の傍らで、男が突然短く叫んだ。
「おい、今日何日だ?!」
「17日ですが」
「何て事だ!」
 男は大仰に机に向かって倒れこみ、その上に載っていた仏像に頭をぶつけた。
「‥‥笑ったほうが宜しいですか。それとも慰めたほうが?」
 そのまま頭を抱えてうずくまった男へ、話かけられた初老の男が生真面目に尋ねる。
「‥‥笑って貰えると嬉しい」
「では、そうすると致しましょう」
 真剣な表情でそう応じ、はははと笑い始めた同僚を恨めしそうに見ながら、男は体を起こした。
「なぁ。誰か、分隊長に贈り物したか?」
「しましたよ」
「勿論です」
「それはそれは美味しそうに平らげていらっしゃいましたよ」
「忘れたのはお前だけじゃないか? 副分隊長殿」
 室内の同僚達に相次いで言われ、男は大きく溜息をつく。
「最近忙しかったからなぁ‥‥」
「言い訳にはなるまい? 我々の中で、1人でも暇な者が?」
「仕方ないな‥‥」
 男は立ち上がり、とりあえず仏像にエチゴヤ印入りの手拭いを掛け、よいしょと背負った。
「‥‥その格好でどこへ行くつもりか、尋ねていいだろうな?」
「神を背負って行く場所なんて決まってるだろ」
 呆れる同僚達を置いて、男はそのまま部屋を出て行った。

 冒険者ギルドの裏から訪ねて来た人物を見て、応対したギルド員はさぞ驚いた事だろう。ここノルマンでは仏像の存在を知らない者は多いが、それでもそれを背負って歩いている姿は異様だ。
「これ、預かっておいてくれないか」
 しかも開口一番そう言われては、どう返事するものか困ってしまう。
「‥‥何故、馬車をお使いにならなかったのです‥‥」
 何とかそう尋ねると、『私的な用事で使う物じゃないだろう』と笑顔と答えが返って来た。
 個室に男を案内し、とりあえず仏像をお預かりして香草茶を出す。
「本日は個人的な依頼だとお伺いしましたが、一体どのような‥‥?」
「実は、大事な人の誕生日を忘れてしまっていてね」
 穏やかに男は話し始めた。
「勿論そんな事で怒るような方では無いのだけれども、忘れて居た事はやはり心苦しい。せめてもの罪滅ぼしに、ささやかだけれど盛大なパーティをして差し上げたいと思ってるんだ」
「ささやかだけれど、盛大なパーティ‥‥」
 矛盾していないかと内心首を傾げながら、ギルド員は頷く。
「それで、冒険者の中には一流の料理人も居ることだし、詩人もいれば踊り子もいる。様々な余興には事欠かないだろうし、剣闘なども面白いと思ってね。何かを贈るとしても、職人も商人も居る冒険者の事だ。素敵な贈り物を作る事も出来るだろうね。まぁ私は‥‥大体、贈る物は決めているのだけれども」
「‥‥あれですか」
 ちらと部屋の片隅に目をやったギルド員に、微笑を返す。
「あれは前、返却されたんだ。だからパーティ会場の飾りにでもしようかと思っているよ。或いは‥‥」
「或いは?」
「あれを元に、何か作れれば‥‥とも思ってるけれどね」
 にこやかにそう言われて、ギルド員は眉を下げた。
「あれを貰って喜ぶような女性が居るとは思えませんが‥‥」
「まぁいいじゃないか。ジャパンの文化は素晴らしいよ」
「はぁ‥‥」
「私は、また明日からパリを離れないといけない。すぐに戻ってくるけれどね。でも忙しいからパーティの準備は冒険者にまかせたいと思うんだ。イヴェット様に至っては、しばらくパリに戻られないようだし、何とか一日‥‥午前か午後、どちらか半日は空けて貰えるよう努力してみるよ。我々がその分働けばいいという部分もあるしね」
「ではそのように、冒険者には伝えると致します」
「頼んだよ。‥‥ノルマンが預言の影に怯える中、冒険者諸子も気苦労は耐えないだろうけれども、少しでも払拭出来るよう尽力を尽くして貰う一方で、時には心身共に休む必要もあるだろう。心から楽しめるような会になれば。そう願っていると伝えて貰えないかな」
「‥‥額面通りのお言葉と受け取って宜しいのですか?」
「何も企んでいないよ、私は」
 笑って男は立ち上がった。
「フラン様ならどうか分からないけれども」
 自分とは関わりの無い上司の名を上げて、男は仏像を手拭いで一撫でし、去って行く。
 後に残されたギルド員は、さてそれをどこに保管しようかと小さく溜息をついて彼を見送った。

●今回の参加者

 ea0346 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea5242 アフィマ・クレス(25歳・♀・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ 天津風 美沙樹(eb5363)/ 雀尾 煉淡(ec0844

●リプレイ本文

●会場調達
「お久しぶりです、お姉さん」
 屋敷内に通されたライラ・マグニフィセント(eb9243)は、明るく弾んだ声に出迎えられた。
「元気そうだね。積もる話もあるけれど、今日は頼みがあって来たのさね」
 ライラは早速用件を話し始める。非公式の目立たない場所での分隊長の誕生日会。その会場を探すのにパリの港も訪ねた後、この貴族の屋敷にやって来たのだった。
「別邸ですか? はい、大丈夫だと思います」
 会場はパリ郊外にあるマオン家別邸。普段は使われていない場所だが、パーティの内容が内容なので使用人達が大勢掃除と準備に向かう。
「パーティ用の資材をお願いしたいのですが‥‥」
 会場が決まったということで、冒険者達もそこに集まる事となった。コルリス・フェネストラ(eb9459)は、主催者であるフィルマンに木材を調達してもらおうと思っていたが、本人はパーティ当日までほとんど来る事が出来ないらしい。仕方なく彼女はマオン家の使用人に調達を頼んでいた。
 既に皆はそれぞれ今回のパーティの準備をするべく動き始めている。
 さて、どんなパーティになるのだろうか。

●着物調達
 『じゃぱーん屋』。ストレートな店の名前だが、『何でも通り』の端に最近出来た店らしい。ノルマンではジャパン物を扱う店や場所など限られているから、貴重な店とは言えるのだが。
「‥‥この統一感の無さは何かしらね」
 店内を眺めた美沙樹が一言感想を述べた。共に来たライラはジャパン製の武器を。セレスト・グラン・クリュ(eb3537)は反物の棚を眺めている。
「橙分隊の色に因んで、オレンジが最良ね。帯は白かクリーム、アクセントに淡い緑を‥‥と考えているけれど」
「何か作るものがあるなら手伝うのさね」
 横からやって来たライラも反物を手に取った。
「そうね。髪に花を使って髪飾。襦袢と襟、足袋と下駄‥‥。下駄はあるかしら?」
「かんざしなら持っているのさね」
「ではそれも使いましょう。時間があれば帯に刺繍もしたいわね‥‥」
 決して安い買い物ではない。しかし彼女達は、あらかじめ高額な経費を貰っていた。ついでに、この店で買うと安くなるからここにしてくれと庶民のような発言まで貰っている。
「後は‥‥」
 皆に頼まれた買い物一覧を見ながら、セレストは周りを見回した。
「紙と墨ね」

●献立調達
「パン屋さん、魚を買うなら港は向こうですよ?」
 買ったばかりの荷物を馬に乗せながら、アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)がパトリアンナ・ケイジ(ea0346)へと振り返った。
「いえいえ、魚はライラ様が何とかして下さるようですよ」
「‥‥自分で釣るのでしょうか」
「大物がかかると良いですねぇ♪」
 勿論漁師に頼んでいる事をパトリアンナは知っていたが、楽しげに彼は酒場へと向かった。というのも。
「ふむふむ。なるほどなるほど」
「もう4軒目ですよ〜? 日が暮れちゃいますよ〜」
「まぁまぁ。後1軒」
「えぇ〜?」
 彼はノルマン式パーティのメニューをほとんど知らなかったのである。しかしゲルマン語があまり読めない為、メモを貰っても意味が無い。そこで、酒場を巡ってレシピを聞いて回っているのだった。
「これで、『懐かしくないけど美味しい』ノルマンっぽいパーティ料理が出来ますね」
「えぇ?! ノルマンっぽいって、ノルマン料理を聞いていたんじゃ‥‥」
「これでもかとアレンジを加えてこその料理人ですよ。ただその通り作ったんじゃ面白くないですからね♪」

●予行練習
「ジャパンの歌? 短歌とかかしら」
「どんな歌ですか?」
 エフェリア・シドリ(ec1862)に尋ねられ、美沙樹は考え込んでいた。後ろには三味線を持ったコルリスが立っている。
 ジャパン風のパーティにしようという事で皆は動いており、バードとして未熟なエフェリアは、早速練習を開始しようとしていたのだった。
「合わせて踊りますか?」
 そこへサーラ・カトレア(ea4078)もやって来て、3人は余興の計画を立て始める。余興といえば。
「ん〜‥‥お姉さん役は、ラビットのクレイ君にしてもらって‥‥」
 人形使いアフィマ・クレス(ea5242)の舞台でもある。彼女は町のあちこちを回って、ブランシュ騎士団についてのコメントを聞いて回っていた。それを元に、多少大げさにしつつも寸劇を見せようと言うのである。
「ミンヨウ‥‥に楽器は使わない‥‥。きんちょうしますね」
「でも簡単みたいですよ」
「このリズムで踊るのは難しいですね」
 ジャパンの歌にノルマンで流行の歌などを混ぜて行こうと言うことになり、3人は練習を開始した。

●会場設営
「どうですか、これ」
「‥‥よく分かりませんが、何でしょう?」
「絵です!」
 心なしか胸を反らして、アーシャは誇らしげに一枚の紙をサーラに見せた。
 『ジャパン風』に見えない事も無い会場の飾りつけの中に、アーシャが描いた謎の絵が飾られようとしている。彼女いわく。
「ジャパンの絵です! ちゃんと墨と筆で描いたんですよ。こう、うねうね〜と描くのがジャパン風なのです!」
「そうですか。でも‥‥」
 子供のいたずら描きみたいですよねとは言えず、サーラは微妙な笑顔を見せた。
「ではこれは、トコノマに」
 『床の間』と書かれた場所に掛け軸風に貼り付ける。そして、その上に置いてあった金の大仏を持ち上げ、テーブルの真ん中に置いた。
「ここに置くのですか?」
 同じく壁などに飾り付けをしていたコルリスが、不思議そうにそれを見つめる。そこは食事をするテーブルなのだ。
「この周りに料理を並べてはいかがでしょう」
「有効活用ですね」
「仏像、かざりますね」
 台を持ってきて背伸びしつつ、大仏の頭に花輪をのせるエフェリア。
「服を着せるといいかもしれません」
「じゃあ、セレストさんに余った布無いか、聞いてきますね」
 何故か大仏装飾になってしまい、皆がばたばた動き始めた中で。
「‥‥それは違うと思いますが‥‥」
 1人、ジャパンの知識を煉淡から時間をかけて聞いていたコルリスが、困ったように花輪をのせた大仏を見つめた。

●料理準備
 着々と準備が進む中、厨房内では妙な事になっていた。
「パトリアンナさんにお菓子をお願いしようと思ったのだけど‥‥入れないの?」
 セレストが、厨房の片隅に固まっている人に声をかける。奥のほうには、生地を叩く音とパン焼きレンジャーの真剣な横顔が。彼の近くには、『寄るな』と書かれた板が貼ってある。
「何事?」
「集中しないと良いパンが作れないみたいです」
 パトリアンナの手伝いもしていたアーシャが答え、既に頼まれていた作業を不慣れな手つきで再開した。
「そう。じゃあ、少し隣借りるわね」
 セレストの着物縫製も佳境である。時間が足りないかもしれないから菓子はパトリアンナに頼もうとやって来たのだが、自分でやるしかないだろう。
「手伝いますよ」
「そうね。じゃあお願い」
 頷いて、セレストは材料を取り出した。

●着付け
 パーティは昼過ぎから。昼食と片付け時間を考慮し、最適な時間を設定して主催者に伝える。
「ライラさん。紐を取って」
 パーティの主役は、それより少し早い時間にやって来た。ジャパンの服を着るのは結構時間がかかる。しかも全員が不慣れと来れば。
「‥‥苦しいです」
「締めすぎたかしら。ライラさん、後ろを持って」
「今度は少し緩いのさね」
「でも緩めておかないと、食事も満足に取れないわね」
 と、あちこちの体裁を整えつつ調整をしていくのだった。
 その後、アニエスが作った下駄で3歩歩いて躓く。転倒こそしなかったが。
「ジャパン人というのは、随分窮屈な生活を送っているな」
 帯に剣を差したり背中にかつごうとして止められ、渋々ナイフを胸元に入れて会場に出て来た彼女だったが、大きな拍手で迎えられて微笑んだ。セレストが作った花を模した髪飾とライラが提供したかんざしが、結い上げられた黒髪に映えている。
「じゃ、お誕生日パーティの開始ね」
 アフィマが人形片手に前に出ると同時に、飲物と軽い前菜が運ばれてきた。

●誕生日会
 アフィマが進行役を務める誕生日パーティが始まった。
 サーラの踊り、エフェリアの歌がコルリスの伴奏で披露され、ジャパン風らしい歌と踊りも三味線の音にのって皆を盛り上がらせる。そもそも会場を見るなり、イヴェットの着物姿を見るなり、ジャパン風歌と踊りを見るなり、最も大喜びしていたのは主催者フィルマンだった。自分の趣味が全てに生かされていて大満足だったらしい。
 しかし主役は。
「お姉さん、あまり楽しくない?」
 おとなしく座っているイヴェットに近付き、アフィマが尋ねた。
「いや、面白いとは思うが、この仏像がテーブルの真ん中にあるというのは‥‥何かの嫌がらせか?」
「え?」
 何せ気に入らなくて(正確には嫌がらせだと思って)返却したぐらいだ。ここぞとばかりに目立っている仏像を苦々しく思うのも尤もな事だろう。
「でも‥‥うん、仏像はね。中をくり抜いて身につけると最強の鎧になるとか‥‥ね。ダールマ・アーマーという名前になるらしいよ」
「ダールマ・アーマー‥‥」
「そうですよ〜。ジャパンでは、どこの家でも飾っているラッキーアイテムなのです」
 横からアーシャもやって来て、変な仏像知識を上乗せした。
「他のジャパン知識だと‥‥さっきサーラお姉さん達が踊っていたジャパンの踊りのほかにね。カブキという踊りがあって、蕪の木を持って踊るんだよ」
「蕪の‥‥木? 蕪は木に生る物だったか?」
「さぁ〜‥‥ジャパンじゃ木に出来るんじゃないかな」
 信じるから、変な知識を植えつけないように!
 ともあれ、アフィマも舞台に戻って寸劇を開始した。木彫りのウサギをイヴェットに見立て、大量の蟲を追い払ったり、手品を使って。
『イヴェットお姉さん、ちょっと食べすぎだよ〜』
 人形のアーシェンに突っ込ませつつ、次々と皿を積み重ねて行く。そうやって笑いも取りつつ、町の人達のコメントなども紹介した。老若男女問わず憧れです、というのが実際集めてきたコメントだったが、中には「ヨン様の近くに女がいるなんてキーッ」というものもあったので、それは除外している。そして最後は皆の希望である事などを告げながら、寸劇は終了した。
「ちょっと堅苦しかったかなぁ‥‥」
 だが相手はブランシュ騎士団分隊長である。それくらいが丁度良かったのだろう。イヴェットも満足したらしく、笑顔を見せた。

「遅れましたが、改めまして。お誕生日おめでとうございます」
 コルリスが木彫りの置物をイヴェットに差し出した。調達してもらった木材で作成した、なかなか立派な品である。大きさも手頃で、棚に飾るのにぴったりだ。
「ありがとう。貴女は、ナイトなのに楽器や木工が得意なのか。良い趣味を持っているな」
「お褒めに預かり光栄です」
「人の盾になるだけではなく、人の心を癒すことも出来る。素晴らしい騎士だな」
「あ。あたしからもこれ」
 アフィマも花を差し出す。
「せっかく5月だし、スズランを。あなたに幸せがありますように、ね♪」
「この歳になって、こんな可愛い花を貰えるとは思わなかったな。ありがとう」
 少し照れたように受け取り、彼女は近くで給仕を務めていたライラにそれを見せた。
「悪いが、これをどうにか形にして貰えないか」
「頭に飾るというのはどうだろうか?」
 落ちないよう、かんざしなどの間で止めるようにして花を一輪、髪に飾り付ける。
「驚いた。イヴェット卿はジャパン物がよく似合うのさね」
 ライラにも褒められ、彼女は困ったように笑みを浮かべた。

「傍に、いらっしゃらないの?」
 主催者フィルマンの前に、セレストがゴブレットを置いた。
「女性に給仕させてしまいましたね。申し訳ない」
「いいえ。あたし達はそれが仕事よ? それよりも、『一番傍の位置に居続ける』というのは‥‥ふふ、並大抵の努力では難しいのでしょうねぇ、クレティエ卿?」
 微笑を浮かべるセレストに、彼女の為に席を引いてからフィルマンは苦笑を浮かべる。
「何か含んだ言い方に聞こえますが」
「笑顔が見たいから、会を開いたのでしょう?」
「誤解していると申し訳ないので言っておきますが。私と分隊長は上司と部下であり、それ以上でもそれ以下でもありませんよ。‥‥社交界で変な噂を流されては困りますからね」
 未亡人である彼女が貴族の社交界に姿を見せているかは定かではないが。フィルマンはそう言って釘を刺した。
「でも、イヴェット様には勿論だけど‥‥何より貴方にとって良い思い出に。そして戦う活力となるよう、お祈りさせて頂戴ね」

●パーティが終わり
「仏像、結局あげなかったんですか?」
 イヴェットが帰った後、残って片付けの手伝いをしているフィルマンにアーシャが声をかけた。仏像は、変わらずテーブルの真ん中に鎮座している。
「古いものはいいです。これは、どれくらい古いのですか?」
 花輪に謎の服を着た仏像を見ながら、エフェリアもフィルマンに尋ねた。
「どれくらいかなぁ‥‥。そんなに古くはないかな」
「古くなくても、なんとなくきょうみあります。いろいろ楽しそうです」
「君はいい子だな」
 ぽんと頭に手を置き、嬉しそうにフィルマンは彼女を見下ろす。
「いい子‥‥。でも、プレゼントされたら、私だったらうれしいかもしれません」
「じゃ、これは駄目だけど‥‥今度、何か贈るよ」
「いけませんよぉ? 女の子と気軽に約束したら、知りませんよぉ?」
 厨房から顔を出したパトリアンナが、にやりと笑みを浮かべた。さりげなく地獄耳である。
「そうだなぁ。そうかもね。あ、最高級ゲテモノ料理長、今日は裏方ありがとう。美味しかったよ」
「いえいえ。それが私の仕事ですから♪」
 また厨房に顔を引っ込めたパトリアンナの残像を見送り、フィルマンはエフェリアに笑顔を向けた。
「何か探しとくよ。将来が楽しみだな、君は」
「はい。でもお気になさらずです」
「‥‥クレティエ卿は少女趣味があるのね〜‥‥」
 しかし敵は広間内にいた。セレストが口を開くと。
「嘘! あたしまずい? 子供に見えて狙われたらどうしよう?!」
 アフィマが素早くそれに乗った。
「エフェリアさん、近寄ったらダメですよ!」
 急いでアーシャがエフェリアを引っ張って確保。
「‥‥私はハーフエルフですし差別が良くない事は分かっていますが、歳が離れすぎていると思います‥‥」
 コルリスが控え目に意見を述べた。
「ん? どうかしたのさね?」
「何かあったのですか?」
 厨房と広間を行き来していたライラとサーラだけが事態を飲み込めず、皆を見回す。
「あまり嬉しくない噂だなぁ、それは」
 大変な事態に、大仰にフィルマンは溜息をついた。
 だが、彼はその事態さえ楽しんでいたようだった。このパーティを誰よりも喜び満足したのは、主催者の彼だったのだろう。
 彼も又、大きなプレゼントを冒険者達から貰ったのである。