【繊細な指】王様守護

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月29日〜06月03日

リプレイ公開日:2007年06月08日

●オープニング

 その人は、その日優雅に午後を満喫していた。
「この香草茶は、なかなかの味だな。お前もどうだ?」
「いえ、私は結構です」
「じいやは何時も頑固だなぁ」
 微笑しながら言って、その人は茶を味わう。
「陛下。聖霊降臨祭の件ですが」
 頃合を見計らって、その人の後ろに控えていた男が静かに声をかけた。
「厄介な事態が予想されます。それに伴い、少々近衛を増員する事になるかと思われますが、窮屈などとおっしゃらず降臨祭にお臨み下さい」
「分かった」
 椅子から立ち上がり、その人はその人専用の休憩室を後にする。勿論護衛達も後に続いた。

 冒険者ギルド。
 聖霊降臨祭はギルドとは無関係のはずなのだが、何故か多忙なギルド内である。
「は? 護衛? また?」
 そんな中、1人のギルド員は、半ば苛立った様子で同僚に問い返した。いや、問い返したというよりも『これ以上同じ内容の仕事増やすなよ』という圧力である。
「何だよ、護衛。護衛。護衛って。って言うか、俺も忙しいの。依頼書なら他の奴に回せよ」
「でもこれ、正式な書状だぞ」
 『正式な書状』とやらを渡されたギルド員は、そこに記された紋章を見て固まった。
「こー言うのは‥‥ギルド長に渡せよなぁ‥‥」
「ギルド長がお前に書かせろって」
「どう書くんだよ‥‥。要人警備か?」
「王様護りたい人募集でいいんじゃ?」
「そんな軽いの駄目だろ‥‥。っていうか、もうちょっと早目にこういう事は言えって話だよなぁ‥‥。30日まで日が無いだろ」
「30日だけ守ればいいからだろ?」
「でもなぁ‥‥」
 文句を言いながら、ギルド員は頭を悩ませる。まさか、堂々と『王様守護隊募集』などとは書けないだろう。冒険者ギルドに出入りする者に万が一見られたら‥‥。見られたからってどうというわけでも無いのだが‥‥何かと最近物騒である。それに一般人がそれを読んでしまっていらぬ不安を抱えないかという懸念もあった。
「どうするかな‥‥」
 ギルド員は、ギルド員なりに悩みがある。依頼書を書くというのは、彼らにとって大きな仕事のひとつだ。最も、文字の角度まで気にして書くような者は彼くらいしか居ないかもしれないが。
「よし。上級要人護衛にしよう。」
「‥‥それも微妙じゃない?」
 突っ込まれたものの彼は気にせず、何かをぶつぶつ言いながらその場を後にするのだった。

●今回の参加者

 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 eb2363 ラスティ・コンバラリア(31歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7876 マクシーム・ボスホロフ(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec1264 ヴェレッタ・レミントン(32歳・♀・神聖騎士・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 デビルって、どこから来て、どこへ行くのでしょうね。

 ぽぴー。ぴきー。
 教会の外には美しく整えられた花壇があった。その傍に座り、マリス・エストレリータ(ea7246)がオカリナを吹いている。その音色は格別に美しく、通る人の足を止めさせていた。
「ラスティさん。詳細な予定表を貰ってきました。それからこれが、当日聖堂内に入る方々の名前です」
 穏やかな音色を耳にしながら念入りに教会の外を調べていたラスティ・コンバラリア(eb2363)は、ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)の声に振り返る。
「ありがとうございます。あ、修道服はありましたか?」
「はい。用意して下さるそうです」
 聖霊降臨祭当日に着込み、周囲に溶け込む事で護衛をスムーズに行おうと言うのだ。
「では、後で予定表は皆で確認しましょう」
「あ、ラスティさん、ジュヌヴィエーヴさん。近衛の方から護衛配置の話を聞いてきました。それからこれを」
 2人の間にやって来たリディエール・アンティロープ(eb5977)は、スクロールをラスティに手渡す。
「お借りします」
「あ。皆さん集まってますね。これ、こっそり読みませんか?」
 兜で耳を隠したアーシャ・ペンドラゴン(eb6702)もやって来て、皆に『悪魔学概論』を見せた。さり気なくマリスも傍に来てそれを覗き込む。
「‥‥ミステリーじゃな!」
「違いますよ〜。一応神学書です」
「それにしてもパリはこれが初めてとなるが‥‥こちらもなかなか物騒なようだな」
 何時の間にやって来たのか、上から写本を眺めていたマクシーム・ボスホロフ(eb7876)がそれをひょいと手に取る。
「デビルか‥‥」
「出るでしょうか‥‥」
「さぁな。だが最大の注意を払う必要はある」
「そうさね。‥‥イヴェット卿とシェアト姉に顔向け出来るよう、頑張ろう」
 自分に言い聞かせるように呟くライラ・マグニフィセント(eb9243)にアーシャも頷いた。
「そうですね。頑張りましょう」
「近衛の方がおっしゃっていましたけれども、今回この仕事は、ブランシュ騎士団橙分隊と合同で行うつもりだったようですよ。急な用が出来てそのほとんどはパリを離れていらっしゃるとか」
 リディエールの言葉が聞こえでもしたのか、皆の前にブランシュ騎士団の略装を纏った騎士達が3人近付いてきた。
「冒険者の皆さんですね。お仲間が呼んでますよ。何でも皆さんを我々が審査するとか。面白い事を考える人達だ」

 面白いことを考えた人ヴェレッタ・レミントン(ec1264)は、魔法も使いつつ冒険者達の調査を最初にして欲しいと伝えたのだった。いわく。
「冒険者の中にも問題のある者がいないとは言えない。冒険者を陛下の護衛に付ける事は、相応のリスクも発生するという事だ」
 何せ護衛対象はノルマン国王である。十二分に注意しろという話なのだが、彼女の思惑はその後にあった。つまり、聖霊降臨祭に参加する者達にもこの類の調査を行って欲しい、という事である。預言に則って当日に敵がやって来るならば、参列者の中に紛れ込んでいる可能性もあるのだから。
「あの‥‥私はハーフエルフなんです。あ、でも狂化してもご迷惑にはならないと思うんですけど、王様にも教えたほうがいいのでしょうか?」
「いや‥‥陛下に申し上げる必要は無いんじゃないかな」
 実際にご迷惑になるかどうかは分からないが、アーシャの発言に騎士達は苦笑しつつもそう返した。
「そうですね。興奮して狂化しないように心がけます!」
 ともあれ全員が魔法に引っかかることも無かったので、彼らは再び打ち合わせと調査を開始した。
 打ち合わせと下見と調査は念入りに。それは皆が思っている事である。当日に大きな不安を抱えたくなかったので、教会内外に不審点が無いかどうか、何か仕掛けがされていないかなどを調べ、城近くの酒場や空き家などに不審者が居ないかどうかも確認した。事前に準備出来る時間は一日だけだったが、皆は分担しててきぱきとそれらを行う。
 時折マリスのぴぽー音に心洗われつつも、そうしてミサ前日の夜は更けていった。

「宜しく頼むよ」
 聖霊降臨祭当日。
 冒険者達は他の近衛騎士達と共に、城内で国王ウィリアム3世から声をかけられていた。
「全身全霊を込めて、お守り致します」
 穏やかに微笑しつつラスティが挨拶をする。滅多に会う機会の無い国王だ。きちんと挨拶はしておきたい。尤もこの国王は。
「教会の外では農業祭が行われておりますが、そちらに足をお運びになりませんよう」
 とブランシュ騎士団団長に釘を刺されるくらいお忍びが好きな人物である。
 ともあれ皆は、教会に向けて歩き始めた。マリスがぱたぱたと飛ぶ以外は、きちんと定められた護衛位置に付いての移動である。
「そう言えば、不審な物は発見したのか?」
 夜遅くと朝早くにも何かトラップが無いか探していたライラに、ヴェレッタが小声で尋ねた。
「いや、何も無かったのさね」
「今日は人の出入りが激しい‥‥。気をつけなければなりませんね」
 教会の外ではしゃいでいる人達を遠目に見ながら、リディエールも呟いた。楽しげな人達が少し羨ましい。
 結局、城近辺の酒場などに不審者が潜んでいるかどうかは分からなかった。時間が足りないというのもあっただろう。だが農業祭に出入りする人物の全てに魔法をかけて正体を確かめるわけには行かないので、どうしても教会に、それも聖堂に入る人物だけを対象に調査という事になってくる。しかし、聖堂内に入る参列者は身分の高い者が多く、魔法を使うという事はそれだけで疑っているという事になり、嫌悪感を持たれる可能性もあり‥‥。
「非常事態なので仕方が無い‥‥と参列者の方が思っていただければ良いのですが」
 聖堂内に常時入る事を許されているのはジュヌヴィエーブとヴェレッタだけだ。後は基本的には聖堂の外で警備する事になる。魔法で潔白が証明されているのだが、教会の意向らしい。
 一行は表では無く城内と繋がる扉から中に入った。そして、横手の扉から国王は聖堂内へと入っていく。閉ざされた扉を確認し、聖堂の外に残った者達は自分の持ち場へと動き始めた。

 変化があったのは昼前だった。教会の表の扉付近が騒がしい。
『何かありましたか?』
 聖堂正面扉前に待機しているリディエールに、ラスティがテレパシーを使って尋ねた。
『沢山の人が抗議に来ています。今のところは抑えられているようですが‥‥』
 リディエールの前方で兵士達が一般人と押し合いになっている。ラスティは状況を詳しく聞いた後、テレパシーで範囲内の仲間にその事を伝えて行った。
(「私が暗殺者なら‥‥」)
 ゆっくりもみ合う人々に近付きながら、マクシームは辺りを見回した。既に、デモの可能性がある事は近衛達に告げている。教会の外で起こった事ならば、それを告げに来た騎士や教会の者が怪しい可能性がある。それらの者に変装し、混乱に乗じて襲撃可能な位置まで入り込む事が出来るかもしれないからだ。聖堂の表の扉が開くことは無いから、もしも来るならば横手の扉になる。どちらにせよ、ミサが始まった後から教会内に入ろうとする者は怪しいと彼は見ていた。
『不審な音がしましたぞ。たくさんいるようですな』
 聖堂内の高い所でぱたぱた飛んでいたマリスにも、その騒ぎは聞こえているようだった。
『中に誰か‥‥新しく入ってきた人はいましたか?』
『まだおりませんな。中は粛々ムードですじゃ』
「どうします‥‥? あれ、止めに行ったほうがいいんじゃないでしょうか」
 テレパシーの会話が飛び交う中、アーシャが騒動の元を覗き込んだ。
「そうさね。もしも暴徒化して聖堂まで入ってきたら‥‥」
「危険ですね」
「集団の中に暗殺者がいる可能性もある。この騒ぎに乗じて別の場所から入ってくる事も充分考えられる」
 マクシームが注意を促した所で、護衛騎士の1人が近付いてきた。
「貴方達は護衛に専念して下さい。人々の相手は我々が」

 ジュヌヴィエーヴはミサの前にワインに毒が入っていないかの確認もひとつひとつ行っていた。ディテクトアンデットに引っかかる者や場所が無いかも確かめた。他の者たちも皆、徹底的に調査をしている。だがミサ前に引っかかる点は無かった。ただ1つ気になる点があるとすれば、司教の私室だ。その場所だけは入れない。外への抜け道があるのではないかという噂もある。だから仲間には司教の部屋にも注意するよう告げてはあった。
 ふと目を横へ向けると、少し離れた所にヴェレッタの姿が見える。やや緊張した面持ちだ。そしてその後方に居る国王は、平然とした表情で椅子に座り、外の騒ぎも気に留めていないように見えた。
 ミサは中断される事無く続いている。ジュヌヴィエーブはミサに集中しながらも、心穏やかではいられなかった。

「こちらへ」
 それはミサが終わるか終わらないかという頃合に起こった。
 突然教会の表扉付近で、人々が倒れ始めたのだ。誰かが押した事で誰かが倒れ、一気になだれたのだろう。悲鳴や怒声が幾重にもなって飛ぶ中、冒険者達は救出を手伝おうと動いたが、すぐに聖堂の横手の扉が開いたのでそれを断念した。倒れて下敷きになっている人達は心配だが、彼らの仕事は国王の命を守る事だ。
「急いでください」
 教会を城へと繋がる扉から出、安全な場所へ向かって移動する。まだ農業祭は続いていて、楽しそうな人々が視界に入った。だがその刹那。
「しねぇぇ!」
 離れた茂みの中から、不意に男が1人ナイフを持って飛びかかって来た。
「1人?!」
「いえ、デビルが近くに!」
 素早く指輪を確認してラスティが叫ぶ。蝶がゆっくりと揺れていた。
「上ですじゃ!」
 屋根の上で身を屈め、弓を引いている男の姿を見つけたのは飛んでいるマリス。誰も盾は持っていない。ラスティがスリングを構えて撃ったと同時に、矢が真っ直ぐ飛んできた。とっさにアーシャとライラが前に出てそれを武器で落とそうとしたが、叶わずアーシャの腕に刺さる。
「こんのぉ〜! てめぇ、下りてきやがれ!」
 瞬時に怒りで狂化したアーシャだったが、相手はマリスのスリープで眠らされた後だった。最初に出て来たナイフの男は、既にマクシームに取り押さえられている。
「デビルはそこです!」
 デティクトアンデットをかけたジュヌヴィエーヴが指した先には、大きな柱。
「近くに居るデビルにムーンアローじゃ」
 光の矢が飛んで行った先で、変な声と共に何かが飛び出してきた。
「グレムリンか」
 出て来た所目掛けて、スリングとリディエールのウォーターボムが飛んでいく。ジュヌヴィエーヴは既に国王にレジストデビルをかけていたが、別の何かがデティクトアンデットの効果内に入ったのを感じ、振り返った。
「もう一体!」
 突然、彼らの背後にグレムリンが現れた。姿を消して近付いてきていたのだ。そしてそのまま真っ直ぐ国王へと向かって行って‥‥。
「くっ!」
 攻撃をかわされた。そこへマクシームのダガーが飛んできて首元に刺さり、グレムリンはぎゃあぎゃあ騒ぐ。
「これで終わりさね!」
 ライラの鮮やかなスマッシュが決まってグレムリンは虫の息になった。
「陛下、怪我は無いだろうか?」
「弱いデビルで良かったな」
 近付いたライラに国王は小声で返す。
「それは良かった。ところで‥‥」
 屋根の上に寝転がっている敵を上に上がって捕らえ、アーシャの傷をリカバーで回復する。矢に毒が塗っていないか気を揉んだが、その心配は無いようだった。2人の男は捕らえられ、2匹のデビルは虫の息。ほかに襲撃の気配はない。
「‥‥ヴェレッタ殿の姿が見えないな」
「そこでフードを被っておられる」
 言われてフードを被った男を見た時、視界の端で国王がヴェレッタへと変化した。
「ミミクリーだよ」
 全員にこの計画を彼女が話したのかどうかは定かでは無い。ミミクリーを使って国王に化け敵の目を欺く為に武器を携帯していなかった彼女である。命がけの作戦だ。
 ともあれ捕らえた者達を皆は見下ろしながら、国王の傍で注意深く辺りを見回す。
「陛下をお連れしたら、この者達に話を聞く必要がありますね」
「デビルはどうする」
 相談を始めた瞬間、グレムリンの片方が僅かに身動きした。姿を消されては困る。マクシームのダガーが迷いなく飛んだ。
「アガ‥‥ト様‥‥!」
 くぐもった声だけを残して、デビルは死んだ。

 結局捕らえられた男達は雇われただけだと説明した。彼らを雇ったのは人間だったらしいがデビルが2匹も出たのだ。恐らく悪魔崇拝者だったのだろう。
「他の方達は無事でしょうか」
「心配ですな」
 もしも国王が本命だったならば、この程度の襲撃だとは考えにくい。恐らくこちらは囮。
 敵の真の目的は‥‥。