民に救済の手を〜不用品売買〜
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月13日〜06月18日
リプレイ公開日:2007年06月22日
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●オープニング
シャトーティエリー領。
商業や娯楽の発展した町シャトーティエリーとレスローシェを中心とした栄えある領地である。だがこの2つの町以外に目立った町村は存在しない。長閑な田園風景と活気ある商業都市の両面を併せ持った場所なのだ。
「レスローシェ町長補佐役、アンソニー=タケナカだ」
シャトーティエリーの町中に、一際大きい城のような屋敷が建っていた。周りを堀で囲い、入り口には橋が架けられている。そしてその前には門番が2人立っていた。
「お勤めご苦労」
通行証など必要ない。その顔はシャトーティエリーの中でも有名だ。
「‥‥ふん、イギリス人が」
だが有名だから好かれているとも限らない。小声の悪態に、既に初老の域に入っている男は軽く目をやった。
「ただのイギリス人ではない。ジャパン系イギリス人だ」
余計悪い、という言葉は聞き流し、男は屋敷の中へと入って行った。
「お疲れ様。積荷の下ろしも手伝ったんだって? 少しは体を労わらないと」
「恐縮です。ミシェル様にも恙無く何よりです」
「私は変わらないよ。父は‥‥緩やかに沈んでいるけれども」
使用人がワインを注ぎ下がった所で、2人は軽くそれを目元まで上げた。
「シャトーティエリーと当家の繁栄を。領主の病が回復に向かう事を、神に祈する」
そこは、落ち着いた色合いの小さな部屋だった。多少豪華な椅子には落ち着いた金色の髪の男が座り、穏やかな眼差しで来客を見つめている。彼は、現在この領地を治める領主の息子だった。そして領主代行でもある。
「それにしても、エミールはまた今回も来ないのか? 全くあの放蕩息子は‥‥」
物憂げに肘掛に肘を突き額を押さえるミシェルに、来客のアンソニーは軽く胸に手をやった。
「申し訳ありません。見聞を広める為、諸地を回っておられまして‥‥」
「いいよ、アンソニー。あれが遊び回っているのは今に始まった事では無い。レスローシェを作り出した手腕は確かなのだから、もう少し私を手伝って貰えると有難いのだけれどね。‥‥ところで、今回の会合の件だが」
柔らかな物言いを僅かに冷たい調子に変える。アンソニーは姿勢を正し、領主代行を見つめた。
「預言が伝える災厄。運良く領内は大きな被害を出さなかったが、近隣諸領は何かと騒がしい。だがその余波なのか、モンスターが動き出しているという噂もある。先日もパリからブランシュ騎士団が来た際、危うく大きな被害を出す所だったようだが」
「パーヴァント村ですか」
「ハーフエルフの滅んだ村があった場所だ。いわく付きの場所とは言え、モンスターが集団で動いたという話は初めて聞く。領内ではな」
「復興戦争が終わってからは、初めてですな」
「対策が必要だ。金が要る」
ミシェルの言葉に、アンソニーも頷く。
「そろそろ次の災厄はパリではないかという噂だ。パリに人、物、金が集中する。各諸地は自らの力のみで抱える問題に対抗しなくてはならないだろう。我らも同じ事だ。だが同時に、我らの余力をパリに捧げる必要もあるだろう。ノルマンあってこその、所領だ」
「左様でございますな」
「貴族や商人に物を売ろうと思う。金は持っている者達から集めるのが常套だ。それらの金の一部をパリに送る。人員は裂けないからな」
「宝物庫を開くのでございますか?」
「それは無理だ。父の許可が無ければ」
「では」
「これは最初の手だ。次も考えている。金の次に送るのは物だな。だが同時に我らの領民も守る必要がある」
「何をお売りになるのです?」
「不必要な物、だ」
冒険者ギルドに依頼が来たのはその3日後の事だった。
依頼はシフール便で届けられ、依頼内容が書かれた羊皮紙と仲介料。丁寧に形を整えた木片が1枚入っていた。木片には紋章が刻まれている。
『冒険者の方々は、最新の具類をエチゴヤで手に入れておられるとか。人々の生活を守る為、斯様な権利を持つのは尤もな事です』
挨拶文の後に続いていた文章に、ギルド員は首を傾げた。
『しかし、それは必ずしも欲しい物を手に入れる事が出来る魔法の袋では無い、とも聞き及んでおります。時には不必要な物を手に入れ、倉庫の奥に仕舞いこむ事もあるのでしょう。今回我々がお願いしたい依頼は、人助けの一環とも言えます。冒険者の方々が持つ不用品を売っていただきたい。しかしその売り上げ金は、必要となる旅費や滞在費を除き、こちらに寄付をしていただきたい。その寄付金を使い、我々は我々の領民とパリの人々を守りたいと考えております』
「なんともまぁ‥‥ある意味身勝手な依頼だな‥‥。使用目的が不明じゃないか」
思わず呟いたギルド員だったが、大人しく続きを読むことにする。
『不用品の中には、貴族や大商人の目を引くような物もあるかもしれません。人の好みは人それぞれです。又、ささやかな品であれば、我らの領民が買う事もあるでしょう。勿論、シャトーティエリーを治める我々も、必要とあれば購入する事も有り得るでしょう。不用品の内容ですが、どこにでも売っているような物の販売は遠慮いただきます。ご自身の製作物は、売れなかった場合は全てこちらで回収致します。材料費等の補填は致しません。又、不用品の全てが売れるとは限らない事を、あらかじめご理解願います。
我々は直接の寄付は求めません。金も、物も、労働力もです。これらの販売における労働力の対価は、依頼報酬としてお支払い致します。又、当領地にお越しになる際は当家の舟をご利用下さい。同封の許可証をお持ちの上‥‥』
「これか‥‥」
紋章の刻まれた木片を眺め、ギルド員は1人頷く。
『冒険者の方々が来訪されると分かり次第、人が集まるよう大々的に伝令を飛ばします。販売場所は、シャトーティエリー広場となります。港で舟を降りましたら案内の者が参りますのでご安心下さい。では、皆様のお越しをお待ち致しております』
●リプレイ本文
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港には幾つもの商業船が停泊していた。
「ここは商業が発展した町なのですね‥‥。アイシャと2人で買い物する時間があればいいんですけど」
舟を降りながら、アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)はきょろきょろ辺りを見回す。
「あ、お姉。これ今回の服ですよ♪ お2人も着ません?」
アーシャにメイド服を渡しながら振り返ったのはアイシャ・オルテンシア(ec2418)。姓は違うがアーシャとは双子らしい。そして着用を勧められた2人は、尾上彬(eb8664)とヴィルジール・オベール(ec2965)。2人ともれっきとした男性だ。
「俺達が着たら、逆に客が引くんじゃないかね」
「そうじゃぞ。ドワーフメイドは笑えんぞ」
「そうですか。残念です」
町の中心に位置する広場では、露天の準備が進められていた。冒険者用の販売場所は広場の中ほどに広めに用意されている。4人はいろいろ説明を聞きながら、城のような領主の屋敷へと案内された。
1人1部屋の客間を用意され、来賓用の格式ある部屋とも違う場所で食事をご馳走になり、領主代行から来訪のお礼の言葉を貰って、彼らのシャトーティエリーでの初日は終わった。
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「は〜い、皆様! 今日はアーシャ&アイシャのお店にようこそ!」
翌日。広場の真ん中で華やかな声が飛んだ。メイド服に頭巾型帽子を被ったアイシャである。
「双子の美人姉妹がメイド姿で参上ですよ♪」
メイド服にウィンプルを被ったアーシャも販売物を並べながら楽しげに声を出した。屋敷でこの格好に着替えた2人だったが、アーシャはアイシャの姿を見て、『すごくかわいいじゃないの〜』と褒めちぎっている。自分と同じ顔なのに。
「尚、当店では女の子へのお触りは厳禁とさせて頂きまぁす。万が一オイタをするような方がいらしたら、手が滑っちゃうかもしれませんのでご注意を〜♪」
わらわらと集まってきていた客相手にメイスをぶんと一振りするアイシャ。もっと大きな武器なら迫力あったでしょうに。
「向こうは随分華やかじゃな。まぁワシは、いぶし銀のような仕事で客を引こうかの」
少し離れた所で店の準備‥‥というより作業台と座る為の台を用意していたヴィルジールの手に握られているのは、アーシャから借りた日本刀である。これを使ってパフォーマンスを見せようというのだ。彬の提案で一部の売り物は競売にかける事になった。アーシャの出す競売物はこの日本刀である為、宣伝にもなる。
一方彬は木板で何かを作っていた。横に長く継ぎ足して何かを墨で書いている。
「それ、何だい?」
通りかかった人に尋ねられて、彬は笑みを浮かべた。
「遊びの宣伝ですよ。もし知り合いに元気なちびっ子でも居たら、誘ってやってくれませんかね」
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『目いっぱいのサービス』を心がけて物を売り始めたアーシャとアイシャだったが、冷やかしも少なくない。又、手には取るが買わなかったりも多い。貴族や大商人はわざわざ広場で買い物したりしないものだから、客は庶民が多いのだ。家賃1ヶ月分にもなろうかという物を、悩みもせずに買う事は少ない。それでも恐らくこの町の住民は、それなりに豊かな生活を送っているのだろうと思われた。
「1年か2年前かな。商隊がジャパン物を大量に売りに来た事があってね。それからこの辺りじゃジャパン物が人気なんだよ」
真っ先に『気分はお金持ち』という売り文句のついた高級葉巻を買ってその場で味わっていた男が、2人と世間話をし始める。
「そうなんですか。本当はもっと東洋物を集めて売る予定だったんですけど、手違いで集まらなかったんですよ」
本当に残念そうに答えるアーシャ。実は彼女に日本刀を持ってきた呼太郎が、頼まれていた品を用意する手筈だったらしい。
「お姉ってば、詰めが甘いですねぇ」
「で、でもほら、幾つか用意はしてあるんですよ。このお酒とか!」
「俺はそんなに興味は無いんだけどね。でも冒険者はあちこち旅をするから珍しい物も持ってるだろ? そういうの好きな奴に声かけてくるよ。明日もやってるんだろ」
「はい。ありがとうございます!」
市を開くのは2日だけだが、その後も来る客との会話の中でも、初日は様子見が多いという話を聞かされた。早いもの勝ちなのだから良いものは先に来ないと無くなるだろうと思うのだが。
「商人はともかく貴族はさ。他の奴が買ったって噂を聞きつけて、そいつが買った時より高い値段でそいつから買ったりするからな」
急がずに、わざわざ高値で買ったりするらしい。
「あ、そうだ。明日は競売も開くんですよ。日本刀を出してるので、良かったら遊びに来て下さいね」
「私は大理石のチェスを出すんですよ♪」
美人(らしい)姉妹の見送りの言葉に、客は上機嫌に頷いた。
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「‥‥かつて激しい戦争があった‥‥」
日本刀を研ぎながら、ヴィルジールが重みのある声で語っている。
「ワシも戦いに巻き込まれ、危うく殺される所じゃった‥‥。じゃが! その時じゃった! 鬼のような形相をして迫ってくる侵略者共を蹴散らして、異国の装束を身に纏った剣士がワシらを救ってくれたのは!」
日本刀を研いでいる光景は普段見る機会が無い。わらわらと人が集まり、彼の言葉に耳を傾けていた。子供達も集まっているのは、彼のこの話が本日数度目の為に噂が広がり、それを聞きつけてきたからだ。
「その剣士の持っている武器‥‥。反身は何処までも美しく、白刃は磨かれた鏡のようじゃった‥‥。それからじゃ。ワシがこのノルマンで刀匠を始めたのは。いつかあの輝きを、ワシ自身の手で再現してみせると思っておるのじゃよ‥‥」
おぉ〜と声が上がる。
「おじちゃん。とーしょーってなぁに?」
目を輝かせて聞いていた子供の1人が尋ねた。
「刀鍛冶師の事じゃよ。さて、坊ちゃんは何か夢はあるかの?」
「うん! 僕、パリに行って王様に会ってみたいんだ!」
「そうかそうか。夢に期限はないぞ。いつまでも諦めんようにな」
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初日はほとんど売れずに終わった。『残ってたら明日売ってくれ』とか『知り合い呼んでくる』とかそういう話も多かったが、どちらにしても生活必需品では無く嗜好品や武具が中心なので、買えたら買うという程度でもあるのだろう。
そして2日目が始まった。
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「まぁ‥‥この方は存じておりますわよ」
彬の前で『ラーンス卿の肖像画(裏)』を見ている婦人は従者を何人か連れている。2日目の市には庶民以上に金を蓄えていそうな人達もやって来ていた。
「どうです。これは逸品。滅多に手に入りはしませんよ。注目すべきはこの褌!」
「でも、ねぇ‥‥。これがヨシュアス様でしたら幾ら出しても構わないのだけど」
ほぅと溜息をついて、ご婦人は去って行く。実はこの台詞を言って去った婦人は彼女が1人目では無い。ブランシュ騎士団団長ヨシュアス・レイン。ノルマンで最も人気のある人と言えば、この人を置いて他に無いのだ。
「ほぅ‥‥バルディッシュか。交差させて部屋に飾ると、良い味を出す武器だな」
「これは領主代行じゃないですか。わざわざお越し頂き」
やや大仰に出迎えて見せる。彬がここに来た狙いは、娯楽を振り撒き暗い世相を明るくする事と、もうひとつ。
「まぁ見回りを兼ねてね。人が集まると様々な事が起こる。私が回る事で抑止力が働く事もあるだろう」
以前、この領主代行と面会を望んだにも関わらず叶わなかった経緯があった。領主代行自らが出した依頼に乗れば、必ず繋ぎが取れると踏んだのである。
「正直、武器や防具は揃えておきたいところだ。だがこれは‥‥重過ぎるな」
「こちらの金剛杵はいかがです? 武器って言うほどのもんじゃありませんが」
しかしこれも領主代行は断った。実用品というより美術品である事は彬にも分かっているので、それ以上勧める事はしない。
そのまま領主代行は双子の店にも向かった。ここで『鎧の下も備えましょう』ギャンベソンを購入し、彼は屋敷へと帰って行った。
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「さて‥‥仕上がりましたぞ」
ヴィルジールは美しい光を放つ日本刀を手にし、皆によく見えるよう観客の周りを一周した。それから、あらかじめ持ってきておいたライト・シールドを取り出して作業台の上に置く。
「では、この切れ味をとくとご覧あれい!」
気合を入れ、刀をしっかり握って盾に向かって振り下ろす。皆が固唾を飲んで見守る中、しっかりと刃は盾を真っ二つにし、作業台に食い込んだ。
おぉ〜という感嘆の声に次いで喝采が上がり、ヴィルジールはそれに応えて手を上げる。
「まだオリジナルと言うには程遠くはありまするが、このヴィルジール。いつかこのノルマンに名を響かせる刀匠になって見せましょうぞ!」
再び喝采が上がった。このパフォーマンスによって日本刀の鋭さを称える噂がが市全体に広まり、人々の注目を更に集める事になったのは、言うまでもない。
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「あら、この鉄鞭は使用人を叩くのに良さそうねぇ」
「こっちのニードルホイップもありますよ〜」
「それは重いからいらないわ」
双子店にも金を持っていると思われる人々がやって来ていた。
「え? このナイフ高くないかい?」
「シーマンズナイフは、海の男が持つ、今一番海で流行の武器なのですよ」
「へぇ〜」
「‥‥買っていただけないんですか? ご主人さまぁ」
「よし、買おう」
アイシャが用意した物は武器が多い。しかしどれも庶民には手の届かない値段である。それを巧みな誘導で買わせる小悪魔。まぁ渋ったらお色気で、というだけだが。
「あら。この器‥‥」
1人の婦人が『ジャパンでは垂涎の逸品』唐物茶釜を手に取った。
「ジャパンの器は幾つか持ってるけれど、この模様は見たことがないわ」
「あ、それは華国からジャパンにやって来た物らしいですよ。ジャパンでは大人気なのです」
「何ですって」
横から割り込んできたのは別のご婦人だ。たちまち2人のご婦人の間で値が釣り上がる。
「金貨30枚で買いますわ」
「何ですって。私は40‥‥あら。手持ちが無いわ」
「子猫ちゃんに出来るという粉があるって聞いたのだけど?」
一先ず争いが終了した所で、これまた別の婦人がやって来た。
「はい。見た目を幼く変化できるのですよ」
「まぁまぁ。全部くださいな」
売れるときは立て続けに売れるものである。
「お姉。ほとんど売り物無くなっちゃいましたね」
ひと段落ついた所で、アイシャがアーシャの腕を引っ張った。
「あ、もうすぐ競売が始まりますよ」
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「さぁさぁ皆様お立会い! ご用とお急ぎのない方はゆっくり聞いておいで」
広場の中心に設置された台の上に乗り、彬が朗々とした声を辺りに響かせる。
「遠路山超え海越えて。手前ここに取りいだしたるは、ジャパンの名刹参れば寿命が10年は延びるってぇいう夢の郷、比叡のお山に納められてたって逸品だ!」
煙管片手に述べる口上は、ノルマン人には聞き慣れない言葉と抑揚だ。ぞろぞろと集まってきた人々は、ぽかんと口を開けてそれを聞いている。
だが、彬が金剛杵を皆に見えるように見せて回ると徐々に慣れ始めたらしい。競売が始まり値が掛けられるようになると、皆は実に楽しげな表情になって来ていた。
結局彬が持ってきた金剛杵、バルディッシュ、肖像画(裏)も全て提示した価格より若干上げて落札され、アイシャの大理石のチェスは手頃な価格、ヴィルジールのエクソシズム・コートはデビルの噂を皆耳にしているからだろうか。細かく価格が上がって行き、それなりの価格で売れた。そしてアーシャの日本刀に至っては、パリで売られている価格を超える額で売れたのである。
「さっきのヤツ、面白かったね。次何するの?」
競売が終わるや否や、子供達が彬に群がってきた。子供にとっては何もかもが珍しく、とても面白いものらしい。
「次はな。誰でも遊べる遊びだ。景品もあるぞ」
「え〜、ほんと? 友達連れてくるよ!」
彬の用意した遊びとは、ジャパンで行われている『狐・猟師・床屋』だ。2人が向かい合わせになって節に合わせて踊りながら、その言葉に合ったポーズを取って勝ち負けを競う。
元競売場所には、すぐにコツを憶えた子供達が群がって、楽しそうに遊びに興じるのだった。
優勝者には月道チケットを用意していた彬だったが、『食べ物のほうがいい!』と言われて屋台の食べ物を買わされたのは、彼にとってもきっと想定外の出来事だっただろう。
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市は日が沈む前に終了した。
全員分足した売上金は、金貨211枚。そこから様々な経費を削って残った額から1割をパリに送るのだと言う。
「残りの9割は何に使うんじゃ?」
ヴィルジールに問われて領主代行は、『物を作るのに使うのですよ』とにこやかに答えた。
その日はもう一泊泊まり、翌朝アーシャとアイシャは市に遊びに出かける。掘り出し物が無いか探しに行ったのだ。広場に出された市を見て回ると、『四葉のクローバー』の偽物(1枚無理矢理くっつけただけ)があったり、可愛いが2人には大きすぎる服があったりした。ハーフエルフの彼女達は今日も耳を隠していたが、そんな境遇を気にもせず明るくはしゃいでいる。
彬は領主代行と言葉を交わし、『いつでも遊びに来てくれればいい』という言葉を貰った。かなり軽い意味合いのものだが、口約束だけで忘れられてはいざと言う時に使えないので、簡単に紹介状を作ってもらう。
そして4人はシャトーティエリーを出、パリへと帰還した。
民への救済となるのか。この計画は始まったばかりである。