正義戦隊巫女恋者M恋する乙女を倒すのです

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月21日〜06月26日

リプレイ公開日:2007年07月04日

●オープニング


「ふふふ‥‥目覚めたようね」
 あれ? ここどこですか? って、何か体が動かないんですけど!
「ベッドごとロープでぐるぐる巻きにしたから、ベッドと一緒じゃないと動けないわよ」
 ええええ。何をしてくれるんですか! というか貴方誰!
「私? 私の事は『長官』とお呼びなさい。貴方は今日から『正義戦隊』の一員となるのです」
 正義! 正義を名乗るなら、このロープを外してくださいよ!
「ダメです。まだ改造が終わっていません」
 ちょっと。改造って何?! 改造って何なの?!
「では、『正義戦隊』の説明をしましょう。一度しか言わないからちゃんと聞くように」
 だから、改造の内容を説明してくださいよ。
「『正義戦隊』とは、ご近所などの平和を守る為、日夜戦う正義の味方の事です。貴方には強制的にその一員となって貰います。『正義戦隊』の敵は、ご近所の平和を乱す悪の集団もしくは個人です。この世には、様々な悪が転がっています。このノルマンには巨悪も幾つかあるでしょう。預言が呟く災厄など巨悪もいいところです。しかーし。我々の敵は、そんなお話にならない敵ではありません。人々はそうでなくても小さな悪に毎日困惑しています。ですから、我々はご近所の皆さんの平和を守る為! その小さな悪を木っ端微塵にしてやって絶滅させる使命を帯び、日夜戦わなくてはいけないのです!」
 ご近所って‥‥どの辺ですか?
「ご近所はご近所です。というわけで貴方達。この人に改造を施してちょうだい」
 え、ちょっと。何するんですか! きゃ〜たすけて〜。
「‥‥よろしい。なかなか似合ってますよ」
 何か着物を着せられた‥‥。これは‥‥ジャパン生まれの巫女服というやつでわ‥‥。でも‥‥ノルマンなら女装だとは思われないに違いない。うん、きっとそうに違いない。普通のジャパン服だと思われるに‥‥。
「では、今回のターゲットについて話しましょう。情報が外部に漏れては困るので資料は用意しません。1回で聞いて憶えるように」
 メモしたいんですけど‥‥。
「ダメです。秘密漏洩の罪でお仕置き部屋行きですよ」
 何、その嫌な響きの部屋。
「今回のターゲットは、女子ばかりで構成された悪の組織、『フラレ隊』です」
 ‥‥?
「『フラレ隊』は、日夜自分達の好みの男子を追い掛け回し、或いは占いに使うのだと言って彼らに襲い掛かって髪を抜いて持ち去る、恐ろしい組織です。自分の血を混ぜた料理を好きな相手に無理矢理食べさせ、気絶するくらい不味い手料理を贈るなど迷惑極まりない行動を行い、好きな相手をとことん追跡、監視するなど日常生活をも脅かす。これは大変な脅威です! 放っておいては大変な事になるでしょう」
 ‥‥本当にそんな事してる組織があるんですか?
「あります。小さな悪はあちこちにあるのです。では、組織員の詳しい情報を伝えます。きちんと憶えるように」


『フラレ隊ナンバー1 リンナ 推定年齢15歳 人間 恋する乙女は命がけ
好きな相手には猪突猛進。抱きつき癖がある。一度その癖の為に馬車に轢かれそうになった事有り』

『フラレ隊ナンバー2 ラーラ 推定年齢18歳 人間 恋する乙女は恐怖症
好きな相手に対して悲観的な妄想ばかりする為に、それを振り切ろうと恐ろしい行動に出る。危険人物』

『フラレ隊ナンバー3 ルース 推定年齢13歳 エルフ 恋する乙女は料理好き
好きな相手に無理矢理手料理を食べさせるが、再起不能に陥れる魔の少女』

『フラレ隊ナンバー4 レイナ 推定年齢16歳 ハーフエルフ 恋する乙女は呪い好き
好きな相手の髪を抜いたり、自分の血が入った料理を食べさせたりする。狂化する為凶暴。尤も危険人物』

『フラレ隊ナンバー5 ローチェ 推定年齢20歳 人間 恋する乙女は少年マニア
好きな相手が10歳未満の少年限定。いつも後ろから後を尾けている。童顔でも10歳以上かどうか判断出来るらしい』

『フラレ隊ナンバー6 アケミ 推定年齢謎 人間 恋する乙女は188cm
好きな相手にはとことん尽くす。他の5人と比べて一番害が少ないが顔が怖い。筋肉質なのが悩みの種』


「以上よ」
 あの‥‥最後の人が一番怖い気がするんですけど‥‥。乙女なんですか‥‥?
「乙女よ。元々冒険者でファイターだったらしいけど」
 いやぁあああ!
「目的はひとつ。『フラレ隊』の壊滅! いい? 情けなんて掛けちゃダメです。やるなら徹底的に完膚無きまでに叩きのめすべし! 相手を諭して改心させようなんて甘っちょろい事やってたんじゃ、いつまで経ってもご近所の平和は取り戻せないわ! むしろ姑息なまでに罠を仕掛け、相手を陥れて勝利すべし!」
 ‥‥でも相手は一般人の、しかも女性ですよね(1人除いて)。そこまでやる必要は無いと‥‥。
「甘い! 甘いわよ、アマチョロバドフ!」
 それ誰!
「全てはご近所の平和を守る為なの。つらくても頑張るのよ。ご近所の未来の為に! さぁ、分かったら行きなさい。今日から貴方は、『正義戦隊 巫女恋者M』なんですから!」

●『正義戦隊 巫女恋者M』の規則
『巫女服とマスカレード着用必須。両者共無い場合は支給される』
『巫女服は活動の度に支給されるが、終わったらちゃんと返してね。ネコババはダメだよ』
『隊員は、呼び出しの際は速やかに集合する事。集合場所は現在不確定』
『呼び出しは冒険者ギルドにて行う。隊員は定期的にギルドの貼り出しを確認する事』
『長官の命令には絶対に従うこと』
『見せ場では、堂々と名乗りを上げ、ポーズを取る事。その際戦隊服(巫女服とマスカレード)を着用していなかった場合、戦闘後に洩れなくお仕置き部屋行き』
『敵に負けたらお仕置きです』

●今回の参加者

 ea2554 ファイゼル・ヴァッファー(30歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1789 森羅 雪乃梢 expires(38歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ エルディン・アトワイト(ec0290

●リプレイ本文

 正義‥‥それは愛する祖国の為
 友情‥‥それは麗しのご近所の為
 愛‥‥それは共に居並ぶ仲間の為

 さぁ。今こそ人々を救う喜びに立ちなさい。
 正義戦隊、巫女恋者Mよ!

●隊員紹介
「愛より恋のほうがいいかしら‥‥」
 マスカレードを付けたメイド服の娘が、看板に書かれた文字を眺めて頬に手を当てた。
「ところで皆の改造は終わりました?」
「1人が異常なまでに抵抗しておりましたので、少々手を加えておきました」
「ご苦労様です」
 黒服の男を労い、彼女は目にも鮮やかな袴を穿いて歩いてきた者達へと目を向ける。
「よく似合ってるわよ、黒巫女フィア」
「なぁ! どうやったらこんな濃いメンバーを拉致できるんだっ?!」
 黒袴に全員共通の白単衣。髪にかんざしを挿されたファイゼル・ヴァッファー(ea2554)が真っ先に叫んだ。
「濃いかしら? 巫女ブルー」
「どうでしょう? とりあえず、ジャパンの舞を習うつもりですけど」
 青袴に派手なファンタスティックマスカレードを付けたアーシャ・ペンドラゴン(eb6702)は、後方を振り返る。
「そう。ところで貴女はその名前でいいのね? 白巫女シュネー」
「えぇ。私たちは正体不明の巫女恋者。決して本名で呼び合っちゃ駄目なのよ」
 白袴に白単衣。流れる髪は雪の白。真剣にそう告げたのはシュネー・エーデルハイト(eb8175)。
「まぁいいけど。でも、その色の袴はどうかと思うのよね、黄巫女‥‥名前は?」
「な、名前はっ‥‥その場のノリで考えるっ! それに黄色は今ジャパンで流行りなんだぜ」
 そう言って苦しい言い訳を自分の脳に刻み込んだのは、黄袴に黄菊をあしらったかんざしを挿した森羅雪乃丞(eb1789)。
「見せ場で名前を言わない時は‥‥分かってるわよね? それで、貴女はどうしてそんなに体格いいの? 桃巫女アルティメット」
「豊満な魅力と言って欲しいですわ」
 桃袴の巫女装束だが、今にもはちきれてしまわんばかりだ。それもそのはず。巫女装束の下に鎧を着ているのはリリー・ストーム(ea9927)くらいだろう。
「‥‥で、激しく暴れて抵抗したのは貴方ね? 巫女レッド」
「やぁ! おれ『巫女レッド』。『せいぎせんたいみこれんじゃーますかれーど』の『りーだー』なんだ。きょうも『あい』と『ゆうじょう』をたてにして、わるいやつらをぼっこぼこさ!」
 カタコトのゲルマン語で喋りながら、赤袴を着た男セイル・ファースト(eb8642)は輝ける笑顔を見せた。
「‥‥」
 そんなセイルに皆が注目する中、自称『長官』のメイド服娘は。
「自己暗示術が過ぎたかしら‥‥」
 1人、呟くのだった。

●対ラーラ
「あぁ‥‥私ダメだわ‥‥」
 突然、道端で女が倒れこんだ。
「あの人がセーヌ川に飛び込む‥‥あぁ、私も飛び込みたい‥‥でも泳げない可哀相な私‥‥」
 地面に突っ伏して、女はその身を嘆いている。
「‥‥あれがラーラか。どーすっかな‥‥」
 そんな彼女を、曲がり角から半分顔を出してファイゼルが見守っていた。その背にロープで槍と借り物巫女装束を括り付けている。
「集まったところで一気に畳み掛けるか、それとも‥‥」
「あぁ! あの人が海まで流されてしまう! 舟でも追いつかないなんて! ひどいわ、あんまりよ!」
 女は叫びながら首を振った。
「‥‥」
 ファイゼルはちらと女装装備を見やって、再び女へと目を戻す。
「俺、美形だけど女顔じゃないしな〜。声だって無理あるしな〜。まだ女装しなくていいよな‥‥?」
 自分にそう言い聞かせ、慌てて誰か見張りがいないか辺りを見回した。彼は、自分の挙動を見張られているような束縛感を感じている。しもべ体質というものが身に染み付いてしまっているらしい。
 そんな彼の前方で、女はおいおい泣くのだった。

●対ローチェ
「あれね」
 全身白に水色のマスカレードを付けたシュネーは、前方で怪しい動きをしている女を見張っていた。
「相手は‥‥8歳くらいかしら。健全とは言いがたいわね‥‥」
 壁から顔だけ出して、母親らしき人物と歩いている少年を見つめている女。
「しかもこれで3人目ね‥‥。もっと一途に恋をするべきよ‥‥」
 ふふと薄く笑いながら、シュネーは素早く女の背後を取った。
「大丈夫‥‥。愛は無敵なら、私が健全にしてあげる‥‥」
 突然後方から聞こえてきた声に、女は短い悲鳴を上げる。それを見て、シュネーは優しげな微笑を浮かべた。
「健全‥‥。要は、貴女も10歳以下になれば問題ないわよね?」
「あっ‥‥あなた、いきなり何なの‥‥?」
「私? 私は巫女シュネー。貴女のような不健全な人を更正させる者よ」
「ふけ‥‥私の何が悪いと言うの?!」
「悪くないわ。だから‥‥」
 不意に表情を消し、冷たく鋭利な刃物で切り裂くような静かな殺気を放つ。
「生まれ変わって愛し合いなさい」

●対レイナ
 その日、青色の袴を穿いたアーシャはせっせと‥‥穴を掘っていた。
「エルディンさんに巫女の舞と役者の決めポーズを教えてもらったんだもの。練習したし、完璧ですよ、ね!」
 ギルド前で怪しげな踊りを踊っているハーフエルフが居ると密かに話題になっていたアーシャだったが、そんな事は気にしない。
「酒場情報によると、そろそろレイナさんはこの辺りを通るはず‥‥」
 急いで穴を隠すように藁を置き、いそいそと隠れるアーシャ。そこへ。
「あ・の・や・ろ・ぉ〜ゆ〜るしませんわよ〜」
 髪が逆立ったハーフエルフが小走りに走ってきた。
「‥‥もう狂化してるし‥‥」
「ジャパンみやげのごすんくぎ〜みておられませ〜」
 手に釘を持って走ってきた狂化娘は。そのまま穴にずぼっと嵌まった。
「かかりましたね! 見よ、必殺の『巫女巫女ブラックホール』!」
 上半身だけでもがいている娘の前に飛び出して、教わった『巫女の舞』とやらを披露するアーシャ。
「きーっ! あんた何なの!」
 近付いてみると目は赤くなっていない。首を傾げたアーシャの前で、ざばっと娘は穴から這い上がった。
「ゆ〜るしませんわよ〜」
「きゃ〜」
 ざかざかと追ってくる娘から、さささと逃げるアーシャ。そのまま撒いて、素早く木の陰に隠れた。
「このごすんくぎでさしてやりますわ〜」
 うろうろと探す娘の後ろに忍び寄り。
「『巫女巫女ニークラッシュ』!」
 娘の膝の裏側に自分の膝を当て、かくんと敵の体を沈めた。
「おのれぇ〜。こそくなまねを〜」
「きゃ〜」
 そしてしばらく追いかけっこは続くのだった。

●対アケミ
 真紅のドレス、マスカレード、そして口には麗しき薔薇。
「何かお悩みのようね。私は謎の美女仮面よ♪ 相談に乗ってあげる」
 薔薇吹雪を舞わせながらリリーはヲトメの隣に座った。
「恋の悩みかしら? 百戦錬磨の私にお・ま・か・せ♪」
「おねぇさまぁ〜。あたし、すっごく困っちゃってぇ」
 ヲトメは話し相手を得て、自分の恋の悩みをぺらぺらと話し始める。それに頷きながらびぢょ仮面は一通りのアドバイスを行い。
「キエフならジャイアントとでも結婚できるそうよ〜。海を渡る事をお勧めしますわ♪」
 ウインクしてその場を去って行った。
「おねぇさま‥‥」
 それをきらきら見送るヲトメだったが‥‥。
「私、貴方の魅力の虜になってしまいそう」
 ヲトメの意中の相手だけに留まらず、他のターゲット達の意中の相手まで次々と話術と誘惑テクニックで陥落していくリリーだった。人妻恐るべし。

●対ルース
「らんらら〜ん♪ 今日は美味しいおひるごは〜ん」
 とある家。エルフの少女が楽しげに昼食を作っていた。
「‥‥たーげっと、発見」
 その窓の隙間から。巫女服に赤いマスカレードを付けた怪しげな男が様子を窺っている。 
「あの人に〜。ステキなごはんができました〜♪」
「待てぃ!!」
 ばんと木の窓を開き颯爽と飛び込もうとした男は、見事に裾を踏んづけて倒れた。
「‥‥へ‥‥変な人が!!」
「変な人じゃない! 俺の名は、『愛』と『勇気』の味方、人呼んで巫女レッド!」
「やっぱり変な人だ!!」
「えぇい、それを食わせろ!」
 巫女レッドセイルは、テーブルに並んでいる皿にフォークを突っ込んだ。
「まっずぅうう!! これが料理だと?! ふざけるな!」
 一口食し、熱き魂そのままに巫女レッドは叫ぶ。
「こんなもの残飯にもおとるぜ! 全ては貴様の愛情不足! 分かったか? 分からない?! なら味見でもしてからでなおせぇええ!!」
 がしゃ〜ん。テーブルを力にまかせて引っくり返し、巫女レッドは不味い物を食べた叫びを暑苦しくこだまさせ続けた。
「もう一度言うぞ? こんなものは残飯以下! つまり! お前の愛など残飯以下だと言うことだぁああ!!」

●対リンナ
 黄色は街中でもそれなりに目立つ色である。しかし雪乃丞はその格好で1人の娘を追跡していた。
「これは俺の趣味じゃない‥‥シュミじゃないぞ‥‥」
 人の目を集めながら思わず呟くと。
「きゃ〜っ! ヒル様ぁ〜っ!」
 娘が突然走り出した。
「うわ、ど真ん中走るか?!」
 案の定、向こうから馬車がやって来るのが見え、雪乃丞は娘の前に飛び出した。
「あぶなぐほっ!」
 ひゅる〜‥‥ぼとっ。
「きゃ〜っ! しっかりして、知らない人!」
 轢かれそうになった娘を抱えて跳んだ雪乃丞は、見事に馬車の端に当たって飛ばされていた。助けられた娘が慌ててその体を揺する。
「ふっ‥‥。貴女の恋の勢いに‥‥僕は心奪われてしまいました‥‥」
 娘に支えられて上半身を起こし、その頬に手を添えると、娘は真っ赤になって両手を離した。
「貴女の心にっ‥‥(ゴン)‥‥僕の姿を‥‥」
 支えを失って再度頭を地面にぶつけつつ、雪乃丞は娘へと手を伸ばす。
「焼き付けたい‥‥」
 頭からだらだら血を流しながら、雪乃丞は蕩けそうな微笑を浮かべた。
「あのっ‥‥あたし、あなたのこと‥‥。あら?」
 そのナンパ術に嵌まった娘がうっとりしながら彼の手を取るが。
 雪乃丞は既に気絶していた。

●遅刻
「尊い犠牲だったわ‥‥」
 6人の娘(?)が集まる酒場前に、5人の巫女(?)が立っていた。
「まさか、黄巫女を運ぼうとしたリンナと一緒にもう一度轢かれるなんて‥‥」
「黄巫女‥‥。お前の仇は必ず俺達が討つぜ!」
 言いながら頬が緩んでしまうファイゼル。
「そうね‥‥必ず」
 薄っすらと笑うシュネー。
「じゃあ、突撃だ!」
「待てぇ!」
 酒場の扉を開けようとした5人の後ろで、黄袴が風になびいて揺れた。
「死んでねぇし! 教会で治してもらったじゃん!」
「『ナンパ変態』さんは休養を取っていただいても構わないですわよ?」
 真面目な顔でリリーが言い、雪乃丞は慌てて自分の頬に触れる。そこには墨で達筆に『ナンパ変態』と書かれていた。
「こ、これは気にするな! ‥‥って、もう突撃してるし!」
 既に4人までが酒場に乗り込んでいるのを見て、慌てて後に続こうとした雪乃丞の後ろから。
「‥‥頑張れよっ」
 ちょっと他人事では無かったファイゼルが、ぽむと肩を叩いた。

●決戦
「美しさこそ正義! よって貴方達を悪とみなしますわっ! 愛と美の化身、桃巫女アルティメット、華麗に参上♪」
「やってきました青い彗星。悪者退治は巫女ブルーにお任せよ」
「世の中に悪の栄えた試しなし!(中略)巫女レッド、ここに推参! さぁ! 君も秘密基地で俺と握手!」
「いい女が俺を呼ぶ‥‥ナンパしろと俺を呼ぶ。黄巫女‥‥ナンパ。ここに参上!」
「雪が白いのは色を忘れてしまったから‥‥。人知れぬ謎の巫女戦士、巫女シュネー。貴女の色も‥‥失くしてあげる‥‥」
 巫女装束にマスカレードと頭に飾りの者達の口上に、酒場内の者達は呆然と彼らを見つめた。
「まぁつまり。巫女恋者M! 略してミレムの黒き巫女! 闇を切り裂く黒き槍のフィアが被害者に代わって成敗する!」
 ファイゼルが名乗り、槍を回してから床に柄を打ち据える。
 そして彼らは、しくしく泣いたり騒いだりしている6人の元へと‥‥。
「あああ! あんたは!」
「あぁ、素敵な人‥‥」
 1人喜ぶリンナに、雪乃丞は静かに首を振った。
「僕は実は‥‥口に出すのもおぞましいほど女装趣味があるんです‥‥」
「そ、そんな‥‥酷い!」
「ゆ〜るしませんわよ〜」
「『私だって恋する乙女よ! 巫女巫女チャージング』!」
 赤い瞳で立ち上がったレイナに、アーシャの素手チャージングが炸裂した。大したダメージではないが。
「『巫女中指一本拳人中打ち』」
 ぺちっ。
「『巫女拳底眼窩潰し』」
 ぺちっ。
「巫女‥‥」
 一方シュネーは冷気を漂わせてローチェに弱攻撃を仕掛けつつ‥‥台詞を忘れてメモを見た。
「『危険人物法第3例により、貴方がたをロープでぐるぐる巻きにします』」
 ファイゼルが座り込んだ敵を素早くロープで巻いて行った。ラーラにはロープで巻いた後くるんと逆回りに勢いよく戻して倒してみたり、
「泳ぐ‥‥泳ぐ‥‥ざっぱ〜ん‥‥あはははは〜‥‥夏の海はたのし〜な〜」
 妄想三昧のラーラの後ろから楽しそうな事を呟いてみたりした。
 そして、あっけなく敵は全員捕らわれの身に‥‥
「よくやったわね。正義戦隊、巫女恋者M!」
 なりそうな所でメイド服長官が現れた。実はリリーが密かに
「貴女が美味しいタイミングで登場すれば、子供の憧れを一心に受けますわ」
 と吹き込んでいたのである。
「でも、まだ完全に捕らえる事は出来ていません! 長官、お力をお貸しくださいませね」
 にっこり笑ってリリーは。
 ひょいと長官を持ち上げた。
「そ〜れ」
 ぽいっと長官をアーシャに投げる。
「巫女恋者M究極合体技ですね!」
 ぽいっ。
「『ファイナル・エグゼクティブ・バスター』だっけか?」
 ぽいっ。ファイゼルは雪乃丞に投げる。
「うあ、重っ」
 ぽいっ。
「『巫女ホーリーパニッシャー』‥‥」
 シュネーが呟きセイルにぽいっ。
「皆の友情と。そして! 俺達のラブラブパワーを! この愛を知らない可哀相なやつらにぶつけようぜ! アルティメット!」
「任せて。あ・な・た♪ とりゃー」
 あまり気合の入っていない声で、再度長官を受け取ったリリーは軽くスマッシュバーストを‥‥。
「きゃ〜っ」
 既に目が回りきっている長官を武器に見立てて、繰り出した。
 ばきばきとテーブルが壊れて、まだ椅子に座っていた娘が慌てて壁際へと逃げる。
「はい。パス」
 そのままアーシャに再び投げようとしたリリーの手元で、長官がつるっと滑った。
「‥‥あら?」
 ひゅる〜と長官は弧を描いて飛んで行き、酒場の入り口でぺしゃと潰れる。
「‥‥」
 酒場の中の人々が遠巻きに眺める中。
「尊い犠牲で、悪(長官)は滅びましたわ‥‥。平和は守られたのです」
 リリーが静かにそう告げた。

●次回予告
 セイルにかかった暗示を解いてもらい、皆は巫女戦隊から解放された。
 だが。悪はまだまだ潜んでいる!
 ありがとう、巫女戦隊M。
 そして頑張れ、新たなる戦士達!