ラティール再興計画〜治安を回復せよ〜
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 94 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月03日〜07月11日
リプレイ公開日:2007年07月27日
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●オープニング
「久しぶりに顔を出して、いきなり頼み事とはね」
シャトーティエリー領、シャトーティエリー。領主の城のような屋敷がある町である。
「近所の火事をどう消すか、様子を見ていたけどな。むしろゆっくり滅んで行ってるように見えるぜ、親父のようにな」
「‥‥お前‥‥その口から発せられる言葉は、災いと呪いだけか?」
「事実だろ。どんなに祈っても凄腕の薬師に見せても治らない。暗い部屋で寝たきりだ」
屋敷の中にあるその部屋は、領主の家族以外入る事の出来ない場所だった。古い装飾品が品良く飾られているが、どこか暗鬱とした空気が漂っている。部屋の中は薄暗く、昼間でも蝋燭が必要だった。
「父上の事は‥‥私も気懸かりだ。気に病んでいる。原因が分からないだけに‥‥。母上も気鬱で深く沈んでおられる。お前も少しは母上に話をして差し上げたらどうだ」
「出来の悪い息子の話なんて聞く人じゃないだろ。‥‥とにかく、本題に入る」
椅子に座る2人の男は一見似てはいないものの、兄弟と言われれば納得出来るような顔立ちをしていた。共に金の髪を持つが、落ち着いた色の兄と明るい色の弟は、それだけで内面の性格も表しているように思える。
「今、ラティール領には領主が居ない。正式に次の領主を立てるとなるとパリに出向いて来なきゃならんだろうが、まだ正式には罷免されていない‥‥だよな?」
「していないな。書面上は、あの地の領主はまだあの男だ」
頷く兄を見据え、弟は話を続けた。
「だったらしばらくはそのほうが都合がいい。兄貴が静観してるのも、変な面倒事を背負いたくなかったからだろ。でもな、ラティールは属領だ。子供の不始末が親に降りかかるのに時間がかかると思うか?」
「叔父上にも話は聞こうと思っていた所だ。私は領主では無く領主代行。広く人の意見も聞き集めなければ、この若輩者に何が出来ようか」
「建前なんてどーでもいいんだよ。とにかく、兄貴が動かないなら俺が動く。金や人間を貸して貰えたら一番ありがたいけど、そうは行かないんだろ」
「お前に貸したら、それを回収するのに膨大な時間と労力がかかるからな」
「けっ。ちゃんと回収しただろうが」
「レスローシェとラティールでは規模が違う。損得だけを考えるならば、得になる事はほとんど無いだろう。名前は貸してもいいが‥‥」
「名前と印だけ借りて俺にいい事あるかよ。親父の名前は借りてもな」
「領主の名を名乗る事は許さない。全ては各々の独断である事。決して父上の名は汚さぬよう努めろと言ったはずだ」
苦虫を潰したような顔になっていた弟は、それ以上悪態をつかず頷く。
「じゃ、そういう事だ。後でタケナカに言って書類は持たせる」
「計画書も提出するように」
「うるせぇ。出しゃあいいんだろ。決まったら知らせる」
蹴るくらいの勢いで椅子から立ち上がり、荒々しく扉を開けて去っていく弟を見送り、兄は薄く笑みを浮かべた。
「やれやれ‥‥困った弟だ‥‥」
「‥‥あのヤロー、何が『気に病んでる』だ。ふざけんな」
一方、絨毯が敷かれた廊下を音が鳴るくらいの勢いで進んでいた弟は、廊下を曲がった所で控えていた従者達にぶつかりそうになり、慌てて飛びのいた。
「お前ら、もうちょっと下がっとけよ」
「ゆっくりして行かれないのですか?」
「行くかよ、こんな家。それより‥‥伝令だ。あちこちに散らばってる老いぼれ呼び出せ。懸案が出来た。至急集まれ、ってな。それから‥‥ギルドだ」
早足で進みながら、一行は屋敷の外へと出て行く。
「鍛冶ギルド、商人ギルドでございますか?」
「そいつらは連絡だけしとけ。まだ中身が決まってない。冒険者ギルドだよ。パリの。あいつらは、人を守るのだけは上手いからな」
「‥‥知りませんよ、そんな事言って‥‥。あそこのギルドマスター出てきたら‥‥」
「あんな堅物女知るか。って言うか聞こえてたら地獄耳すぎだろ。冒険者ギルドには、てきとーな強さの冒険者を見繕っとけって言えよ。後は‥‥」
「後は?」
「どんだけ、ラティールに武器を持って戦う奴がいるかだよな‥‥」
呟き、男は港に停泊していた舟に乗り込んだ。
●リプレイ本文
ラティールの街に、近くの村で暴動発生の知らせが届いたのと、聖女再来の噂が巡ってきたのは同日だった。
「兵士が四十五人。全員連れて行くわけにはいかないだろう」
「十人くらい置いてけばいいんじゃねえの。それに俺とあんたと、嫁さんは顔を広めるわけにいかねえから‥‥少ねーなー」
予想以上にひどい状態に、セイル・ファースト(eb8642)とジェイス・レイクフィールド(ea3783)は借り出せた兵士と自分達の中で動ける人数を確かめて、渋面を作った。
「あら、そこはそれ。その村にも聖女出現でしょ」
「私もご一緒します。怪我人も出たら大変ですし」
セイルの嫁さんことリリー・ストーム(ea9927)と、神聖騎士のサクラ・フリューゲル(eb8317)も暴動鎮圧に乗り出すつもりだが、ただ力任せに全員殴り倒せばいい訳ではないから人手が十分とは言えない。
殴り倒して言うことを聞かせるのは簡単だ。だがそれで不満をくすぶらせれば、また何かの形でそれが噴出してくる。死傷者多数など、論外だ。
「あたいも一緒に行くよ。ポーラ達は、色々やってから追いかけてきてよ」
神楽鈴(ea8407)が背伸びしながら、自分も暴動を治める側に回ると言い出した。本来ジェイスとセイル、リリー以外は、教会を拠点とした炊き出しを進めることで人心の安定を図る予定だったのだが、計画は出だしからつまずいていた。腕に覚えがある者は、一通りまず暴動を治めるために動くことになっている。
名指しされたクレリックのポーラ・モンテクッコリ(eb6508)とバードのレティシア・シャンテヒルト(ea6215)、アリスティド・メシアン(eb3084)の三人も、暴徒を前にすくむことなどないが、人が暴れれば怪我人が出て、村の生活は不自由な方向に更に傾いていくことになる。ラティールの教会から紹介状なりを貰って救護活動をする体裁を整え、必要になるだろう品物を揃えてとなれば、兵力共に動くのは無理だ。
なにより。
「これを放置したら、他の村の人も見捨てられたって思っちゃうよ」
「変な噂ばかりが届くから、疑心暗鬼になるのでしょうけど」
「出来るだけ早く追いかけますから」
暴動が他に広がらないうちに、鎮めなくてはならない。
ラティールの街に現われた聖女は、『人の心の乱れがもっとも恐ろしく、神がお嘆きになる出来事を引き起こすのです』と集まった人々に告げ、暴動を治めるべく村のある方向へ空飛ぶ獣に乗って向かった。
以前にも現われた事があるこの聖女が、リリーが扮しているものだと知れば、『罰当たり』と罵る聖職者も多数いるだろうが、同行している聖職者のポーラとサクラは二人とも。
「お会いしたことがない方を、どうこう言うなど出来ません」
と口を揃えていた。
ラティール領全体の治安が悪くなっているとはいえ、暴動が起きた村はその中でも極め付きだった。元々村の有力者間で利権を巡って揉め事があったのか、領主の悪魔崇拝の噂が広まったのに続いて、互いに襲撃しあうような事件が頻発していたらしい。それが高じて、村内全域で暴動になっているのだ。
「考えようによっては、規模が大きい喧嘩だね。その暴力に方向性がついて、教会や他の村を攻撃し始めると手の施しようがないけど」
鈴の分析は冷静だが、同じ村の中でそんなことをして、今後どう生活するのかというところに頭が回らない連中が相手である。暴動に関係していない村人は教会に逃げ込んでいると、逃げ出してきた村人から伝えられているが、その間に家の中を荒らされている可能性が高い。
「がつんと一発食らわせて、しばらくは悪いこと出来ないように思い知らせねえと、後が大変だぜ」
借りた兵士三十名余りを率いるジェイスは、渋面が続いている。一応一団の先頭にはサクラをつけてあるが、神聖騎士といっても戦うより奉仕活動のほうが得意そうな若い娘なので、傭兵でもあるジェイスが実際の指揮官だ。
もう二人の、いかにも先頭切って戦えそうなセイルとリリーは、聖女降臨の下準備で先行していた。彼らが問題の村に到着したら、すぐに姿を見せるだろう。
と予定していたが、直前でセイルが合流した。
「ちょうど教会の裏手にいい丘があったからな。こっちの旗が見えたら出てくる手筈だ」
「さあ、皆さん、我々には聖女様も付いてますからね。困っている人を助けましょう!」
もちろん聖女様のからくりは兵士にも内緒だ。彼らにも心底驚いてもらえば、より効果が増すというものである。
そういうことに加わっているサクラは、『聖女様のしもべですよ。素敵ですね』とにぱっと笑っていた。
そうして。
今まさに二つの勢力が激突せんとしていたところに割り込み、シャトーティエリー領の意向で派遣された兵士だと名乗ったにも関わらず、村の有力者達は予想通りに聞く耳を持たなかった。幾ら領主間では上下の関係にあっても、自分達と関係ないというわけだ。
そのあたりの理屈はさておいても、本格的な武装をしている人々を前にそんなことを言うのだから、判断力が鈍っているのは間違いない。やられたらやり返すが、日常的になっている様子だ。
ただし、そんな勢いも上空から落ちる影を見てまでは、維持できなかった。
「隣人と争うなど、ジーザスが聞いたらどれほど嘆くことか。今すぐ悔い改めなければ、天罰が下りますよ」
グリフォンはモンスターと分類する者が多いが、騎乗する生き物としても相当に優秀で勇壮、見目も良い。初めて見る村人には、乗っている女性が只人には見えなかっただろう。
「最近ラティールには、あまりの乱れように天から聖女が遣わされたって評判でな。その前でお役目果たさずじゃ、神様にお願い事が出来なくなるな」
神の威光を振りかざしたセイルが、妙に得意気だったのはおそらく皆の気のせいではない。
「天意は我らにあり! 武器を収めねば、手加減せぬぞ!」
身体に見合わぬ声を上げたのは鈴で、聖女の出現に気を抜かれた兵士達が我に返って一斉に武器を構えた。この際鈴がジャパン人であろうが、見た目通りの少女だろうが、自分達の力の効果的な使い方を心得ていることに間違いはない。音を立てて抜かれ、陽光に煌く刃を前にした村人は、明らかに気圧されていた。
暴動とはいえ、持っているのは棒がほとんど。農具は振り回すには向かないし、敵対勢力の家を叩き壊したりしている分には刃物は要らなかったのだろう。兵士達はともかく、四人の冒険者が慣れた様子で刃物を構える姿に、すでに大半が及び腰だ。
それでも躍りかかって来た相手は、ジェイスが一撃で地に伏した。わざわざ刃を突きたてるまでもなく、手首を返して柄で打ち据えている。
「曇った目を良く開いて、辺りを見なさい。自分の村を壊したのは、領主でもデビルでもなく、お前達です。悔い改めるときが早ければ早いほど、神の救いも早く訪れるでしょう」
それでも暴れるなら、デビルがどうこう言う前にしもべに捕らえられて、まずは人の世の処罰を味わえと、後半に行くにつれてどうも恐ろしい聖女の言葉にすぐに従った者は少ないが、手加減無用と振る舞ったセイルやジェイス、鈴の力量もあって、重傷者は出さずに武装解除は終了した。
「こんなことをしていたから、食べ物が入ってこなくて余計に辛くなったのでしょう? もうすぐ教会から品物が届きますからね、ちゃんと待っててください」
教会に逃げ込んでいた人々にシャトーティエリーからの救援が来ると告げ、礼拝堂の扉を暴徒に打ち壊されないように気を張っていた神父の代わりに、サクラが皆に『神様は見ている』と言い聞かせていた。
実際に食料を乗せた荷馬車が到着したのは、それから程なくだった。
最初に暴動と出くわしたものの、その規模が拡大する前に一度は解決したことで、シャトーティエリー領からの支援があるという話は少しずつ広まっていった。現実にはシャトーティエリー領の正式な派遣ではなく、個人からの依頼なので、誰がよこしたかということは冒険者も語らないが、そこまで気にする者はいないようだ。
なによりも効果的だったのは、ポーラが地域の教会から協力を取りつけた炊き出しである。実際に目の前に助けの手があると、まだ見捨てられていないと実感が湧くものらしい。食料品は流通が滞っていたラティールに入る前に、冒険者達の出資で買い込んだものだが、それの出所が勘違いされてもポーラも、同様に炊き出しに協力しているアリスティドやレティシアもわざわざ事実は教えない。
代わりに何度もデビルと対峙した事がある冒険者として、ポーラやアリスティドはデビルとの取引がどれほど恐ろしいものかを伝えていた。
本当に領地と領民を生贄にする契約だったら、ラティールにはとうにパリから討伐の兵が訪れる地獄絵図が展開されているだろうこと。またそんな契約は、人の身にはほとんど不可能なこと。
「ましてや事実であれば、神はわざわざ使いを寄越さず、この地を焼き滅ぼすことを選ぶでしょう。やけになって人の道を踏み外せば、煉獄に落とされてしまいますよ」
炊き出しが始まるたびに、協力を求めるついでに家々を一軒ずつ回って、吟遊詩人らしく通る声で語るアリスティドに、まずは子供達がまとわりついた。彼自身の武勇伝を聞きたがる子供達に、それよりもっとすごい話と聞かせるのが、ラティールに現われる聖女のことだ。聖女から祝福を授けられた勇者が、今は近くに現われる盗賊を倒しに行っているとも。
そんな話を聞いて元気付く子供達とは別に、食料の高騰で食事に事欠く大人達が集まった炊き出しの場では、レティシアがやや覚束ない手付きで野菜を切りながら言う。
「私も家で畑仕事をしていた時にね、代官がやな奴で本当に苦しい思いをしたんだよね。だから、そういうことはしないって、特に小さい子の前では絶対って思ってるのよ」
善悪の区別も付かない子供に、悪いことをしてもいいなんて憶えさせるわけにはいかない。色々思うとおりに行かないことが、今現在の彼女にもあるのだが、一番大事な事は曲げられない。
そういう意思を感じたのか、それとも力仕事をする兵士を冗談で笑わせつつ、住民にも心配りをするレティシアが、鍋の残りを見て自分の分は他の半分しか取らなかったのを案外と多くの人が見ていたのか、忙しく動いている冒険者達の代わりに作業をする人々が少しずつ出てきていた。
こうした様々な手配をして、各町村では有力者との折衝も行い、更にそれぞれの地域の様子をこまめに見て回ったポーラは、それらをまとめて書簡にする前に一つ手を打っていた。場所はラティールの幾つかの商家で、同行するのは鈴とサクラと商人ギルドの代表、それから街の有力者数人だ。
それだけの人を集めた割に、こっそりと相手を訪ねたのは、状況が知れるとそれこそ商家の打ち壊しに発展する可能性を考慮してだ。治安の悪化により流通の停滞で、品物を小出しにして値段の吊り上げをしている商人を追及しようというのだから。
「セーラ様に見られて、なんら恥ずべきところがないとおっしゃるのならそれでよろしいでしょう。せっかくですから聖女様にご報告してはいかが?」
教会でも人により懐疑的だが、ラティールの片隅に降り立った聖女が彫像と化して留まり、そこで祈ると天に届くと噂されるようになっていた。実際に物見遊山で訪ね、無礼を働いた者は実体化した聖女に叩きのめされ改心したところが目撃されて、教会同様に人が訪れているらしい。
値の吊り上げをしていないなら、一緒にそこに行こうとクレリックに言われるのは、相当な心理的圧迫だろう。これで倉庫を開き、適正な価格で売ることに同意しなかった者はいない。
「この状況ですから、以前とまったく同じ価格が無理なのは承知しています。そこは各ギルドの皆様で、一刻も早い活発な商売が出来る状況を取り戻すのにご尽力いただきませんとね」
多少儲けてもいいけれど、人の足元を見る商売は許されないと、世俗を知らない聖職者では言えないことを口にしたポーラは、面白くなさそうな顔はされても、恨まれるほどの事はなかった。恨んで何かした挙げ句、告発されて、最近まで続いていた処刑場への列に自分が加わるのは真っ平だと考え直しただけかもしれないが。
町村と領地の外とを結ぶ街道に出ていた狼藉者が、セイルとジェイスの指揮で少数の兵士により捕縛され、処刑されるかという周囲の予想を裏切って、これまでの騒動で壊れた共用の施設の修復工事に従事させられることになった。それとて、石を投げ、罵る者がいなくなったわけではないので甘い処分ではないが、処刑を見物して哂うようなささくれ、刹那的で退廃した雰囲気は大分落ち着いている。
だが、どれほどレティシアやアリスティドが言葉を掛け、行動で示しても、領主の悪評を払拭するには至らなかったし、互いを監視しあうような気配は濃厚に残っている。
「今は助けが来ていると思い、力も見せ付けられて、程々に食が満たされたので、少しおとなしくなっただけね。これが悪いといえる勢力があれば、それを潰せば後は楽なのだけど、全体に積み上がった不信感は、また時間を置いて出てくる可能性が高いわよ」
ポーラの見たてたことは他の人々も感じていたが、長期に渡ってラティールに関われるほどの依頼も受けていないし、なにより依頼期間を過ぎても勝手をする権限はない。気付いたことは逐一報告しあい、全てまとめてシャトーティエリーの領主代行とその弟に渡るように手配を済ませた。
後は、リリーが用意した彫像をこれまで祈りを聞いていた場所に据えて、『もっとも危険な時期が過ぎたので、ここに分身を置いていく。祈りはどこにいても聞く』と言い置き、ラテン語の書き置きも残しておいて、ラティールを去ることが出来る。もちろんリリーは代筆を頼んで、一人先に姿を消した。
だがアリスティドだけは、もう一箇所寄る所があった。あまりに多忙を極めた上、人目を集めていたのでなかなか立ち寄れなかったが。
「お元気そうで何よりだ」
「またラティールのために動いてくださって、ありがとうございます」
今だ名前だけはラティール領主の父親を持つエリザベートは、以前に比べて、目に力があった。立ち居振る舞いにも凛としたところが見える。
「根を詰めすぎて、目を傷めたりしないようにな」
外に出ることは叶わないからか、部屋には古着が積まれていた。綻びを繕いながら、目立つ場所は模様に見えるような縫い目を施したそれは、古着ながら傷んでいた様には見えない。
自分が出来ることを少しずつでもやろうと思うと、アリスティドに微笑んだ表情にはまだ強がっているところも感じられたが‥‥
ラティールにも他人を思いやる心が失われてはいないと思わせてくれる、ここ数日で何度も見た表情と同じだった。
(代筆:龍河流)