民に救済の手を〜製造〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 84 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月26日〜07月04日

リプレイ公開日:2007年07月21日

●オープニング

 シャトーティエリー領。
 先日、冒険者達による不用品を売る市が開かれた事が領地内では記憶に新しい。一緒になって市を開いた商人達も居たが、冒険者達が開いた市の売り上げは全てシャトーティエリー領に寄付されるとあって、評判も良かった。
 冒険者達が売った不用品の売り上げも上々で、領主は早速その一部をパリへと送ったと言う。
 そして。

「次は『物』だな」
 領主の住まう屋敷内の一室で、領主代行ミシェルが口を開いた。
「あの時の市で売買を行っていた商人達からも、通常より多い税を貰っている。思ったよりも予算は割けそうだが」
「左様でございますか。それで如何ほどでしょう」
「金貨100枚だ」
「軽い剣でしたら100本作れますな」
 ミシェルの向かい側に座っているのは、、シャトーティエリー領の双璧の片方を担う町、レスローシェの町長補佐役アンソニーである。
「さて、どの手順から買い付ける?」
 それに対してミシェルは低く呟いた。使用人が入って来て、追加のワインを注いでから再び去って行くのを見送った後、アンソニーは軽く頷く。
「時間と労力を取るかどうかでございますが」
「時間はそれほど無いな。少なくとも‥‥来月半ばには送りたい」
「人力はいかがでございますか」
「数は揃っている。質もそれなりだ。だが作業手順、計画書。それらを充分効率良く回せる人材は‥‥居ないが」
「では、冒険者に。彼らの中にはノルマン随一の職人もいると聞き及びます」
「一流の職人が一流の後継者を作るのは極めて難しい。職人は往々にして、自らの事しか考えられないものだ。無論、卓越した技術は借りたいが、これは個人の作業ではない。全体を統括出来る者が欲しい」
「ミシェル様はお動きにはなられないのですか?」
 問われて領主代行は軽く笑った。
「全体の動きは確かに私が監視すべき所だが、実際に現場を統括するのは私向きの仕事ではない」
「心得ました。では、冒険者ギルドにはそのように伝えておきましょう」
 
 数日後、冒険者ギルドに手紙を持った使者が到着した。
 挨拶文の後に続く内容が細かく綴ってあるがどうも読みにくい。ギルド員は何度か読み直した後、依頼用に箇条書きで写し始めた。


『シャトーティエリー領、シャトーティエリーに出向き、あらゆる製造を手伝ってくれる職人を募集している。
作成する物は以下の通り。
・武器、防具など戦闘時に使用する物。鉄、革、木製品は問わない
・日用品。例えば避難民に対して鍋やナイフを贈るなど
・衣類。テントや毛布も含む。基本的に古着を縫い合わせる
・その他実用品
・食品は不必要

必要とする人材
・鍛冶、木工、石工、革などの工作系技術を持っている者
・木こり
・山岳に対する土地勘を持つ者
・鉱物知識を持つ者
・人の教育に長けた者
・多くの人を統率し動かすカリスマ性と統率力に長けた者
・その他、様々な場面で動くことが出来、手伝いや補助が出来る多様性のある者

 最も必要としている作成物は武器と防具。
 これらを作成する為に多くの職人や作業員が現地に待機している。山で鉱物を掘り、森で木を切り、それらの運搬も始まっている。シャトーティエリーには町専用の大きな工房があり、武器は主にそこで作られる。防具は各防具職人の工房での作成となる。
 鉱石から不純物を除いたり、丸太を加工しやすい木板にしたり、皮をなめしたり、毛から毛糸を作ったりする初期工程。
 倉庫に保管された原材料を各工房へ運ぶ、又、出来上がった作成物を運ぶ運搬係。
 それらの工程のひとつを監督し、効率よく作業させ、職人達の調子にも目を配る者。

 必要なのは、全工程が上手く動くこと。一つだけが早くても意味は無い。
 そして、これらの流れを冒険者達が去った後も持続できるような教育を望む。

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5868 オリバー・ハンセン(34歳・♂・ウィザード・ドワーフ・フランク王国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec3146 レオン・マクスウェル(21歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 鉱山、木材の切り出し現場に加工場、防具の職人の工房にそのギルド、武器職人の巨大工房など‥‥一通り見て回ったミカエル・テルセーロ(ea1674)、アクテ・シュラウヴェル(ea4137)、玄間北斗(eb2905)の三人は、別々のことにそれぞれ満足していた。
 ミカエルは人手が十分にあり、案内役の目配りが行き届いているのか、皆がおおむね協力的であったことで、作業の効率は悪くないと踏んでいる。
 アクテは何より武器の大きな工房を見、その一連の行程が順序良く回っているだろうと予測してかなり満足していた。取れる鉱石の質も、その満足には寄与しているだろう。
 北斗は自分達が冒険者や異国人、見た目の年齢などで侮られることがなく、一安心だ。もちろん上のお声掛かりとはいえ警戒めいたものはあるが、反発は買わずに済んでいる。
 彼らが任されたのは、武器、防具、日用品、衣服の作成と修繕を行いつつ、全体の効率がよい方法を編み出し、備蓄を可能にすること。もちろん作業を命じられた職人達とて、仕事をより良くすることに文句はないが。
「最近色々と事件が起きているのは、よく知っていると思うのだ。それで領内の守りを固めるのに、品物が必要とされているのだ。数も急いで揃えないといけないのだ」
「巡り巡ってご自分とご家族のためです。よりよいものを作りやすいようにお手伝いするので、よろしくお願いします」
 北斗とミカエルが明るく、丁寧に、職人達の自尊心を立てる物言いをしたので、顔合わせと全体の予算配分を決めるための会合に出てきた各ギルドの代表達は彼らの力量を認めたようだ。
 アクテはあまり愛想が良くないが、たまたま鉱山での目利きがよく出来たことをそちらからの代表が知っていて、一言添えてくれた。
 ミカエルが全体統括の担当の一人に入り、北斗は調整と交渉、状況報告の様子を見て、アクテは武器関係に入ることが代表達にも了承されて、本格的な作業が始まった。

 アクテは武器の工房に入ったが、なにしろ作業日程は五日程度。往復の時間をセブンリーグブーツで短縮したとはいえ、その後あちこち巡ったので、結局五日に少し足りない。
「ここの鉱石は質がよいですし、精製も大掛かりな割に良質の物を作る素地が出来ています。でも武器を作るとなると」
 軽めの武器が喜ばれるとは聞いたが、両刃剣をさてどれだけ作れるものか。一本だけ飛び抜けて質が良い物を作っても、依頼の意図とは合わない。けれども程々の物を複数、やっつけ仕事のように作るのは職人として出来かねる。
 これは困った、日程にもう少し余裕が出るかと思ったのにと頭の中では考えつつ、アクテは忙しく手を動かしていた。やっているのは、広い工房の作業場ごとに置かれている道具類の確認だ。何があるか、ではなく、何がどういう状態で準備されていて、その行程での作業に十分な量が確保されているか、である。道具が悪くても、足りなくても、作業は効率よくなど進まない。
 かなり早くにそれらを調べ上げ、工房の代表に足りないものを揃えるように進言すると、工房にいる全員が常に働いている訳ではないから予算は武器作成につぎ込んだほうがいいのではないかと首を傾げられた。職人も交代で休むので、人数分なくても今まで足りていた訳だ。
「この先何が起きるか分からないので、特に武器を作るようにと命じられたのです。もしも全員身を粉にして働かねばならない時に至って、道具がないなど言えますか」
 道具は職人の腕も同然。きっぱりと言い切ったアクテに、もちろん腕のよい親方でもある代表も共感するところがあったのだろう。確かにそんな恥さらしは出来ないと、何人か親方仲間を集めて相談に入った。多分予算の振り分けを考えているに違いない。
 武器屋も営むアクテにも興味深い内容ではあるが、あいにくと彼女はここのギルドの者ではない。しゃしゃり出れば嫌がられると察して、今度こそ剣の作成に取りかかることにした。材料と場所は使用の許可を貰ってある。道具は当然のように、自分のものを持参していた。見習いの少年達が興味津々、作業に取り掛かる彼女の様子を見守っている。
「手が空いているのなら、手伝ってください。親方に断りが必要なら、私がお願いしましょう」
 職人のギルドは自分達の技術をよそからの職人に見られることを厭うことが多いが、アクテは自分の技術を知られることにはおおらかだ。そうすれば、相手もいずれ同様にしてくれると考えてもいるからだが。
 腕力のなさは技術とヒートハンドも使うことで埋め合わせているアクテの仕事振りは、見習いよりもまず親方達に注視されることになった。

 北斗はあちこちに点在する現場の人々との交渉、というより、いかに効率よく働いてもらうかの説明と説得に多くの時間を費やしていた。どこの現場も、今まで積み上げてきたやり方というものがある。頭ごなしにあれこれ指示したところで嫌がられるし、せっかく関係が良好に始まったものを壊してしまうことになりかねない。
 だから北斗は、どこの現場に行っても会う人ごとに気配りをして、辛そうな作業は時間が許す限り自分も手伝い、その苦労に日々取り組む姿勢を素直に褒めた。特に鉱山や木材の伐採は、経験がない者はいるだけ危ないからと本格的な作業には加われなくても、ちょっとした荷物運びを率先して行い、その上でミカエルとも相談した改善点を提示する。
 ただ口だけ出すより、相手の懐に飛び込んで油断させてから自分の意志を通すと言えば、ある意味忍びの心得の一つだ。どこに行っても、怪しまれずに集団に溶け込むことも、彼の技量のうちである。
「ミカエルさんか? パラだから子供みたいに見えるけど、あの人は以前に鉱毒で皆が苦しんでいた場所で人助けの取りまとめをした人なのだ。気は優しいし、頭もいいのだ」
 パラだということを差し引いても、見た目がとても可愛らしいミカエルは、やはり現場で働く男達には頼りなく見えるらしい。頭がいいだけで、作業の辛さを理解しない、ただ働けという『お嬢ちゃん』では困るとぼやかれて、北斗は待ってましたと用意しておいて口上を噛み砕いて説明した。嘘ではないので、口も滑らかだ。でもうそ臭く聞こえないように、今まさに思い出しましたという速度で喋る。
 色々と気を使う場面はあったが、一番最初に代表達に『領内の守りを固めるための用意』と言ったのが、思った以上に功を奏したらしい。これで武器と防具だけ作られたら、領民の守りはどうなると疑心暗鬼に陥ったかもしれないが、領主などが他にも気を配っていると感じられれば安心だと北斗は世間話のついでに聞かされた。忘れず後の二人にも教えてやらねばと、頭に叩き込む。
「おいらも、来る時に若造が偉そうに〜なんて言われたら困ると思っていたのだぁ。でもここの人達は親切で安心したのだ」
「その変な話し方を聞くと、意地悪するのもさ」
 図体はでかいが子供みたいだと、ミカエルお嬢ちゃんやアクテ姫とは別の意味で自分が周囲に受け入れられていたと知った北斗は、いいような、残念なような気持ちになったが‥‥口調は結局変わらない。

 初日からしてそうだったし、いつものことなので気にしないことにしたのだが、ミカエルは毎日何人もから若い娘と間違えられていた。パリでは若い娘も皆こんなに勉強するのかと、真顔で問い掛けられたこともある。作業進行の計画立案と確認、それから作業が停滞したときの対応策を考えて、現場を知る人々の意見を加えて書面にしようとあれこれ準備していた時だ。相手は防具作りを任された職人達の代表である。
 もちろん彼は間違いをやんわりと、相手に失礼がないように訂正するのだが、それでなくても小柄なので、からかいたくなる親方の一人二人はいる。彼らはミカエルをお嬢ちゃん、アクテを姫、北斗を侍と呼んでいた。ジャパン人は侍だと、誰かが言ったものらしい。
 言っても直してくれないので、ミカエルは二日目で早くも諦め気味だった。
 それより早く仕事を進めて、自分達が帰った後にもここの人々が苦労しないようになどと考えて、真剣に取り組んでしまう態度はよいが、他のことにまで時間を割いている暇がないというか‥‥
「炊き出しの皆さんに、衣類の繕いをお願いしました。人手が少し不足しますが、給金の都合があるので、他の予算も検討してから募集をするかどうか考えましょう」
 当初は予算を武器と防具で四割ずつ、日用品と衣類に一割ずつ回す案が出ていたが、古着の繕いや仕立て直しを専門にする職人は少ないというか、多くは古着屋と主婦の領分だ。人手が十分に確保出来ていない。
 また武器工房で予定外の出費があったり、防具工房で作業に遅れが出たり、仕事があると聞いてやってくる者がいたりと、お金は予想外に飛んでいくし、雑務は増える一方だ。こうしたことに慣れない親方達は、早くも音を上げている。
「遅れている工房の分は、まず理由を確かめましょう。納期に無理がないか、仕事量がどこかに集中していないか、そういう確認が大切です。これはお仕事をご存知の皆さんでないと分かりませんし、いい対策も練れません」
 細々とした手続きの順番に筋道をつけ、遅れた時の報告は徹底させるように罰則より先に計画の不備がないか確かめることを念押しする。個人からの仕事を請けているなら一つの工房の問題でも、これだけの大量発注は町のギルド全体の信用が関わってくる。
 信用と経験は今あるものを高めていきましょうと、ミカエルに拳を握って言われた代表達は、慣れない仕事も懸命にやる覚悟を決めたようだ。
 彼が用意した疲労回復に効く香草茶を啜りつつ、大分虚脱していたようではあったが。

 冒険者三名が、全員顔を揃えることもない慌しい日程が終わった時、ミカエルと北斗は依頼内容はこれでおおむね達成できたはずと顔を見合わせて安堵の吐息を漏らしていた。
 けれどもアクテは、珍しく不機嫌をあらわにしている。
「鉄の精製現場を見る暇がありませんでした」
 あいにくとミカエルにはアクテの不機嫌の理由が今ひとつ分からなかったが、北斗は察した。鉄の精製は色々な技術を要するので、なかなか見せてもらえるものではない。そこまでの信頼を得たのに、アクテは時間がなくなったことを彼女なりに残念がっているのだ。
 ただ。
「鉱石の見分け方も助言できず、剣も思ったほど作れず、皆さんの仕事振りも半数しか見られませんでした」
 あまりに残念そうなので、ミカエルも慰める言葉がない。
 三人をわざわざ見送りに来てくれた人々も、もう少しいられたら良かったのにと、それは別れを残念がってくれた。それぞれの品物の目標数は当然まだ用意できないが、短期間で最高の物を仕上げて見せると胸を張りながら。
 それを見たいと思うのは、アクテだけではない。

(代筆:龍河流)