アナスタシアポイント〜制限付地下迷宮〜
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:7 G 21 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月02日〜07月10日
リプレイ公開日:2007年07月27日
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●オープニング
「久しぶりね。まさか貴方から連絡が来るなんて思わなかったわ」
パリ郊外の森の中に一軒の小屋があった。外には鎧を着た男が2人立っている。
「それで用って何なの?」
小屋の中にはエルフの男性と少女が居た。男性はエルフ年齢で70歳前後だろうか。少女は対して10代前半位に見える。
「最近気軽に外に出れなくなったのでな」
「それは良かったじゃない。もういい加減歳なんだし、大人しく家で研究してればいいのよ」
「頼みがあるのだ」
老エルフの言葉に、来訪者は僅かに眉を上げた。
「何? 前に騙された事、あたしは忘れてないわよ」
「あれは、お前さんが『どうしても迷宮を探索したい』と言ったからだろう。まだ研究の途中だった所を邪魔されたのだ」
「えぇ、そうでしょうね。迷宮の隠し出入り口の近くに、わざわざ小屋建てて住むくらいですからね」
「アナスタシア。じいじの話を聞いてやってくれないか。じいじは先行き長くないのだ」
2人の会話に少女が割って入る。その内容にさすがのアナスタシアも苦笑しながら、『分かったわよ』と頷いた。
「あんたの孫娘はある意味しっかりしてるわよね。それで、次はどの迷宮の話なわけ?」
老エルフの座る椅子の向かい側に座り、アナスタシアは足を組んだ。
「この小屋の地下に在る迷宮と元は同じだ。‥‥ドーマン領の地下に広がる迷宮。『地下帝国の迷宮』と呼んでいるがな」
「その話なら知ってるわ。地上と地下の両方を支配して国を作ろうとした奴らでしょ。でも‥‥伝承だと思ってたけど?」
「少なくとも、かつてあの地下で階級制度を作って暮らしていた者達が居たことは確かだ。ハーフエルフ至上主義のな。種族ごとに住居区が分かれ、その種族以外は奥に入れないようになっている扉が幾つかある。蜘蛛の巣のように四方八方に枝分かれした通路ばかりの場所もある」
「それで?」
「ドーマン領で現在入り口が確認されているのは2箇所だ。今までの調査の結果、その2箇所は地下で繋がっていない事が分かっている。だが‥‥最近、あの地下迷宮を不審な者達が徘徊しているらしい。現に、私は命を狙われた。悪魔崇拝者にな」
沈黙がしばらく続く。少女が分厚い本を持ってきて、近くのテーブルに広げた。
「今までにあの迷宮で出たモンスターのリストだ。扉の近くはアンデッドが多い。後は人型モンスターが住み着いていたりした」
「だが、先日私の助手を頼んだ冒険者の話では、村人を使って迷宮を掘り進めていたらしい。何者かは分からないが、あの迷宮に手を加えているという事は‥‥」
「考えられるのは2つよね」
開いているページに目を通し、アナスタシアは何気なく言う。
「1つ。その迷宮には奴らが欲しい物があるんだけど、簡単に手に入らないから人を使っている。2つ。その迷宮に奴らが住む為に部屋を拡充している」
「常識で考えれば1だろう。だが理由はともあれ悪魔崇拝者が動いているとなると、私も困る。研究に影響が出るからな。そもそも私の考えでは、あの地下迷宮の範囲は」
「まぁいいわよ。探索してきてあげる。ついでに村人達も助けてあげればいいんでしょ。で、大元を叩けば良しと」
「簡単に行けばいいがな」
「もう何度も潜ってるみたいだから、調査済みの地図はあるんでしょ。写させてもらうわよ」
数日後、冒険者ギルドで赤毛の30歳受付嬢を見た冒険者達は、目を丸くした。
「‥‥その格好は」
問われて軽く首を傾ける。
「あぁ、しばらく休み取ったのよ。パリでのあれこれも終わって一通り雑務も片付いたしね」
片付いていない事はバレバレだったが、アナスタシアは平然としている。
「だから、一緒にダンジョン潜ってもらえる? まぁあたしも鎧着たりしてるけど、戦うのは久しぶりだしちょっと自信ないの。だからあたしの事は戦力に入れないように。それからこの依頼は、あたしの趣味の一環でもあるから、結果次第でポイントを出すわ。ポイント表作ってきたのよ。後で見せるわね」
「本当に‥‥戦うんですか?」
「うるさいわね。後‥‥その迷宮を探索していた冒険者達は、貴方達より経験の浅い子達だったの。人数も3人とか4人でね。だからハンデつけたいのよね」
「‥‥危険かもしれない場所でハンデ、ですか」
「あんた達が持ってくる武器は全部預かるわ。ウィザードとかで武器持ってない人はどうしようかしらね‥‥。武器に近いものか、楽器か、何かにしようかな。戦闘職は武器全部ね。で、迷宮入る前に適当に配るから」
「‥‥は?」
「ファイターAさんのノーマルソードと、バードBさんのハープが入れ替わっちゃうかもしれないって事よ。適当に配るのが嫌なら、くじ引きにしましょうか。‥‥うん、それがいいかも。武器に番号札つけて、引いたくじの番号と同じ武器を持つ、っと。で、ウィザードがスピア持つ羽目になっても知らない、と」
「‥‥ダメでしょう、それは」
「1回戦闘が終わるごとに、くじ引きなおしてもいいわよ。自分の武器が手に入ったところで再度引き直す必要は無い、とかね」
「戦闘職は、一般的には武器は2本以上用意していますよ。余った分は貴女が担ぐんですよね? 重くて動けなくなりませんか」
「それもそうね」
言って、彼女はがちゃがちゃと鎧を外し始めた。
「じゃ、あたしは軽く行くわ。ちゃんと守ってね」
「いえ、そうじゃなくて」
「じゃ、そういう事で宜しくね」
●アナスタシアポイント景品一覧表(1度の依頼につき1種類1回のみ使用可能、景品引き換え後はポイント減)
2点 肩叩き券
4点 ワイン
6点 毛糸の靴下、毛糸の手袋、毛糸のマント、毛糸の敷物、毛糸の褌から1つ
10点 ピグマリオンリング、マジックプロテクションリング、火霊の指輪、ブラックリングから1つ
15点 武器:ライトソード、ラージクレイモア、セントクロスソード、ニードルホイップ、シルバースピア、シルバーダガー、シフールの礫から1つ
スクロール初級:ウインドレス、ファイヤーバード、リトルフライ、レジストファイヤー、クーリングから1つ
20点 トワイライト・マント、ウルの長靴、タートルシールド、ブリガンダイン、ヴァイキングヘルム、刺繍入りローブから1つ
●リプレイ本文
「‥‥要は得物に左右されず、いかなる時も臨機応変に対応せよって事ですかね」
「普段使わない武器とか手に出来て‥‥ファイターとして‥‥少し、やりがいがあるな‥‥」
「そうそう。よく分かってるじゃないの」
アウル・ファングオル(ea4465)、ウリエル・セグンド(ea1662)の意見は好意的解釈に過ぎる。アナスタシアが彼らをも下僕と呼ぶ日は近いかもしれない。
「アナスィ、人の馬の上でふんぞり返っている場合か」
本物の『げぼく』ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)は、楽がしたい様子のアナスタシアを愛馬の後ろに乗せて、いつもと変わらずどつかれている。
そんなのんびりしている場合かと、ラシュディア・バルトン(ea4107)、テッド・クラウス(ea8988)、天津風美沙樹(eb5363)、シャルウィード・ハミルトン(eb5413)は道を急いでいるが、緊張しようとしまいと掛かる時間に大差はない。
空を先行したアルフレッド・アーツ(ea2100)が、ドーマン領の領主がいる村が見えたと知らせてきたのはその時だ。
『三点 ウリエル
四点 テッド
六点 シャルウィード
九点 アルフレッド
十点 ファイゼル』
アナスタシアの趣味によるポイント制冒険で与えられるアナスタシアポイントは、現在ファイゼルの十点を頂点に結構な人数が保有している。アナスタシア作成の一覧表によれば、今回の関係者は三点から十点、いずれもポイント使用の希望はない。
もちろんそれどころではないからだ。
馬などの他、要らない荷物も預けて遺跡への入り口がある村に到着した一同は、目を疑った。人っ子一人いないという言葉があるが、まさにその通り。饐えた臭いがするので住人が留守にして相当経っているのが分かる荒れようだ。
「あなた、こんな様子だと知っていたの?」
美沙樹がこれ以上冷たい目つきは出来るかという剣呑さでアナスタシアを睨んだが、あいにくと睨まれたほうはけろりとしている。
「まさか全員連れて行っているとは思わないわよ。人質に年寄り子供を残してあるだろうから、見張りを締め上げるところから始めようかなと考えてたのに」
この『考えてた』は、今回の条件の武器交換のことだろう。
「ゲーム気分はよくないと思うんだが」
ラシュディアの愚痴も馬耳東風、アナスタシアは着々と皆の武器を取り上げている。条件ではアルフレッドはシフールなので免除だったが、当人が。
「一人だけ‥‥条件なしで‥他の人と同じ点をもらうのは‥‥ちょっと」
そう言って、アナスタシアに頭を撫でられている。押さえつけられているように見えなくもない。
「モンスターリストがあるなら見せてくれよ。毒持ちとかデビルは嫌だぜ」
「レイスは確実、他のアンデッドも可能性は高いけど、一番は悪魔崇拝者じゃないかしら」
シャルウィードにちょっと凄まれたが、やはり全然平気。それに感嘆したわけではなかろうが、テッドはアナスタシアが相当素晴らしい冒険者だったのかと想像している。根拠がなくても否定したい人は多そうだ。
だがそんな確認よりも。
「地図で多くの人が収容出来る場所を探してから動き出すのがよいと思います」
テッドの提案は建設的だった。確かに村一つの住人を連れ去るなら、分けて監視するとしてもそれなりの広さの場所は必要だ。
地図を読むのが得意なアルフレッドと、この洞窟に入ったことがある美沙樹が中心になって、幾つかの場所に目星をつけつつ、くじ引きをしてから洞窟内に入る。
洞窟や地下にある遺跡の内部は、時間の感覚が失われがちだ。緊張していると、余計に休息や食事が不規則になって、心身ともに衰弱する原因となる。
ランタンが六つ、油の瓶は七十余とそれだけで大量の荷物なのだが、手分けして運んでいるのは、シャルウィードが念押しした時間の計測に油の消費が関わってくるからだ。仮にも敵がいるところなので、全てのランタンに灯は入れないが、持つのはアナスタシアと、それから今のところは美沙樹とウリエルだった。
美沙樹がダガーofリターン、ウリエルがホーリーナックル、アルフレッドが疾風のレイピア、テッドがローズホイップ、ラシュディアがパリーイングダガー、アウルがノーマルソード、シャルウィードがクルスダガー『トロイツカヤ』、ファイゼルがファントムソード・アンデッドスレイヤー、ライトソードが余りでアナスタシアが持っている。シャルウィードの愛犬カゲは、条件から外されてクナイ。
ものの見事に全員自分の武器を手に出来ず、アウルとシャルウィード、ファイゼルが前衛に入ったので、ランタンが中間の美沙樹と、殿のウリエルになっていた。ラシュディアはアルフレッドの意見を入れて、中間位置に固定だ。今回魔法専任は彼だけである。
それからアナスタシアも真ん中に押し込んで、アルフレッドとテッドが後衛。
こうなると、全員考えていることはたいして変わらない。
「さくさく戦って、次のくじ引きに行くか」
シャルウィードの言う通りである。幸いにして、機会は随分とあった。
「地図によると、このあたりで以前にレイスが」
今回も出た。
「よし、任せろっ」
「アンデッドか、あの世に行きな」
ファイゼルとシャルウィードがざくざくと切り刻んだ。実体があるわけではないので、あくまで見た感じの印象だが、生身があればそういう表現が似合うだろう。
そうして、またくじ引き。
角を曲がると、オークがいた。
「‥‥怪しい。‥‥でも、まあいいか」
「戦わないと、生き残れないことですし」
ウリエルとアウルが、ほとんど悲鳴を上げさせずに喉笛や腹部を掻っ切った。方向音痴も極まったウリエルが前にいたのは、その角までの道がしばらく一本道だったからだ。
これでまたくじ引き。
一休みしようと、地図にある少し広い場所を目指したら、狭いところにスケルトンがいた。
「すまん、ここはちょっと役立たずだ」
「あら、らしゅ☆たんに期待してましたのに」
「僕が頑張ります」
ラシュディアが効果が散りそうな場所で魔法を断念し、美沙樹の言葉で沈んでいる。テッドは何が起きたかと思いながら、美沙樹と共にスケルトンをずんばらりん。
オーク、ジェル、またオーク、今度はオーガ。
「変ねえ、アンデッドが多いって聞いたのに違うじゃない」
こんなにオーガ族が出るなんてと、アナスタシアがぶつぶつ言うのは、
「村の人を‥‥捕まえた奴らかも」
アルフレッドが静めている。
この頃には、ようやく全員の手にそれぞれの武器が戻ったといいたいところだが、まだだ。
ラシュディアはライトソードを持ってふてくされているし、シャルウィードはローズホイップ、ウリエルが三度目のホーリーナックルで、戦力外宣言のアナスタシアの手元にファントムソード・アンデッドスレイヤー。最後のが一番宝の持ち腐れである。
すでにこの時点で一度食事を取り、油も六回目の交換を済ませて、目星をつけた場所の一つは確認した。あいにくとオーク達がいたところらしい。人の姿はない。
オークなどいると、連れ去られた村人の安否が気遣われる。背後にいるのは悪魔崇拝者だろうが、デビルを崇拝する連中が普通の人々の生活を気遣わないのは連れ去ったことで明白だ。怪我人が出ても、治療もしないだろう。
またここではないかと目星をつけた場所が近付いて、ラシュディアがブレスセンサーを使用する。今度は大当たりだった。
「六十はくだらないが、つまりは相当広いってことだな。地図より広いかもしれない」
「それだけ掘らせたってことね。許せないわ」
必要最低限の装備にしたアルフレッドが、暗闇に紛れて様子を確認に行く。彼が見てきたところでは、十数頭のオークが四十人くらいの男女を鞭打って働かせており、それを監督している七名ほどの男達がいるという。行方不明の村人にしては数が少なく、また年齢も若者と壮年だけなので、残りはどこかに閉じ込められているか、別の場所で働かされているのだろう。
ならば、オークは全て退治して、誘拐犯と思しき七人は出来るだけ捕まえ、他の村人と仲間の居場所を白状させる。一同の意見はなんの異論もなくすんなりとまとまった。くじ引きでこまめに休息していたのでまだ体力はあるが、さすがに戦闘を続けるのは限界が近付いている。ここで一気に始末をつけないと、出直しは今回利かない。
と話がついたところで、ラシュディアとシャルウィードが示し合わせたかのように、手にしていた武器を持ち主に返している。
「時間制限間近により、ルール無視の外道ファイトで行こう」
「怪我人出すより、ルール無視のほうがまし。ポイント引いていいから」
アルフレッドとアウルとテッドが、まさにその通りだとアナスタシアを取り成そうとするより先に、いつもは趣味全開のアナスタシアが頷いた。
「ま、今回は特例で認めてあげる。些細なルールより、村一つの恩人っていいわよね」
「アナスィ、その言いようは性格が悪すぎる」
「下僕、うるさい」
少し揉め事が発生したような気もするが、そのあたりは速やかに収束させて、アルフレッドとウリエルが出来るだけ広場の連中の目を掠めて、その奥の明かりを掲げた通路らしきところに近付くことから始めることになった。まずはウリエルのライトソードに、テッドがオーラパワーを掛けている。効果時間が短くても、念のために掛けておかないと危険だ。
二人が通路まで辿りつけば良し、その前に発見されたら、そこで残りの人々が突入することにした。なまじ広いので、オークまでの距離が遠い。最初の一撃はラシュディアに一任となる。出来れば数体まとめてなぎ倒して欲しいところだが、そこはその時の状況によりけり。疲労困憊している村人を巻き込まないほうが大切だった。
ローズホイップを預かったアナスタシアを最後尾において、六人がじりじりと先行する二人からの合図を待っていると、
「侵入者だ!」
向こう側の通路から出てきたと思しき八人目の声がした。ランタンを掲げているので、居場所がよく分かる。
ついでに、そのランタンの光を横切って隠す、インプの姿も良く見えた。今のところ一体。ウリエルが、問答無用でその一体に踊りかかっている。すでに魔法の効果時間はほとんどないので、
「「あたしがっ」」
ものの見事に唱和した美沙樹とシャルウィードが、そちらに向かった。
同時に、広場を雷光が横切る。悲鳴を上げた村人がてんでに伏せたり、うろたえて周囲を見回したりしていたが、
「伏せて、動かないで! 助けに来ました!」
アウルの大声に、次々と従った。一人二人、通路の奥に行こうとして、他の村人に止められている。
それからしばらくは、誰もが仲間の声も聞き取れないような騒ぎだった。
村人が作業していたところと、七人の男がいた場所、それから通路とその奥。そのあたりは明かりがふんだんに使われていたが、少し離れると暗い。明暗の差が激しいので、オークが逃げ惑うと不意に見失いそうになる。
ただ今回の八人のうち、オークと単身で争って、ひどく後れを取るような者はいなかった。ラシュディアも一瞬で魔法が完成でき、それが叶えば幾ら丈夫な相手でも相当深い傷になる。アルフレッドは与えられる傷は小さくても、飛んでいる限りは捕まることがない。他の六名は、余程のことがなければ多分力押しで勝てるだろう。
今回の余程のことは、村人を怪我させずに助けることだったが、幸いにして、七人の男はファイゼルとテッドの二人であっという間に無力化出来た。地下に潜っていたからか、それほど体力もないようだ。
ラシュディアの雷撃を喰らったオークは村人を人質にしようとしたり、あちこち逃げ惑って手間が掛かったが、アウルとウリエルが加わって、一体ずつ退治する。動けなくなればいいので、止めは後回しだ。
この間にインプを最初のレイスのようにざくざくと切り刻んだシャルウィードと美沙樹にアルフレッドが、奥の通路に飛び込んでいた。
「無茶する人達だな、まったく」
ファイゼルの言い分はもっともだが、誰も返事はしなかった。気絶からさめて、這って逃げようとした男の一人を、容赦なくアナスタシアが鞭打つ音がしただけで。
「さっさと奥に行きなさいよ。見ててあげるから」
村一つの恩人を目指す雇い主は、人使いが荒い。
最終的に、悪魔崇拝者と思われる男が十一人捕らえられ、オークなどが二十四体退治された。残りの村人は急ごしらえの檻に入れられていて、かえって巻き込まれて怪我もせず、人質にされることもなく、ほとんど怪我人なしで済んでいた。
ただ、面識がある美沙樹も戦った直後は返り血で血塗れの有様では、村人は話しかけられても恐慌状態で会話にならず、後からのこのこやってきたアナスタシアが話をまとめるという‥‥
「納得いかない」
冒険者は誰もが頷く一幕もあった。
「‥‥彼女らしい‥‥かも」
こちらもまた、頷ける一言である。
そんなことはあったが、ともかくも救い出した村人に洞窟内から回収したランタンを持たせ、油は皆の手持ちの分で補充してやり、アルフレッドと美沙樹が先頭、殿がウリエルとアウルで、他の人々が途中に入って手を貸しながら、外へと向かうことにした。半数くらいずつが連れて行きやすいのだが、冒険者側に手分けするほどの人数がいないので仕方がない。
デビルが悪魔崇拝者達を逃がしに来るかもしれないとは思ったが、彼らを引き摺っていく余力はないので固く縛って、転がしておく。無情だが迎えに行ったのは翌日で、すっかりやつれておとなしくなった十一人は、素直に冒険者達に引かれて洞窟を後にした。
「麗しい方のための作業だったのだ」
どこの『麗しい方』だか名前も言えない十一人は、頑なに目的はそれだったと繰り返した。名前は言わないのではなく、言えない。口振りからして女性なのだろうが、名前も教えてもらえない程度の下僕だったらしい。こちらもしかるべき場所に引き渡す。
そして、アナスタシアは他の八人と共に、八人のように働いていないが『村の恩人』になっていた。
ここでとやかく言ったら、誰かの鉄拳指導が入っていたことだろう。
「今回は結果がいいから、全員三ポイントね。ファイゼル十三点、アルフレッド十二点、シャルウィード九点、テッド七点、ウリエル六点、美沙樹、ラシュディア、アウルが三点ずつ」
パリに戻って、いつも通りに酒場で点数計算をして、一覧表も書き換えたアナスタシアは、ここでにんまりと笑った。
「今回は特別よ。次はちゃんとルール遵守でね。また何か面白いこと考えておくから」
このご時世によくもまあそんなことが言えるものだと皆が呆れることなど、当然アナスタシアにはどこ吹く風である。
その頭の中は、下僕はじめ、また皆に押し付ける無理難題が渦巻いているに違いない。
もう、誰も目を合わせようとはなかった。
(代筆:龍河流)