補給物資
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 48 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月03日〜11月09日
リプレイ公開日:2006年11月08日
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●オープニング
この季節の朝晩は、かなり寒い。
足元を凍りつくような風が通り過ぎる中、両手に軽く息を吹きかけながら、冒険者ギルドの受付嬢が足早にギルドへと向かっていた。今日は、一段と冷え込んでいる。この透けるような青空の所為なのかと、恨めしそうに空を見上げた彼女の視界に、不意に何かが飛び込んできた。それは、自らの身を抱えるようにしながら、速くない速度で落ちてくる・・・・
「シフール?!」
慌ててそれへと手を伸ばし、受け止めた。だが、その身体はすっかり冷え切っている。
「ちょっと、貴方。しっかりして!」
声を掛けつつ、頬を軽く叩く。僅かに身動きするが、このままでは危険かもしれない。彼女は素早くそのシフールに襟飾りを巻きつけ、近くの酒場へと急いだ。身体を湯で温めれば、何とかなるかもしれない。
「・・・・おね・・・・」
「今は喋らなくていいわ。後から聞きます」
意識を何とか取り戻したのか、シフールは微かに目を開いた。
「・・・・いそ・・が・・ない・・と・・」
掠れた声で喘ぐ。その声を聞きながら、受付嬢は酒場の戸を開いた。
「依頼の内容は簡単です」
その日の午後。大遅刻をした受付嬢は、何食わぬ顔で冒険者達と向かい合っていた。
「ここから徒歩で4日ほど行った所に、山賊達の拠点があります。その山賊達と戦っている兵士達に、食糧や武器などを調達するのが今回の仕事です。元々、その辺りの領主が山賊の活動に困って、自らの兵士を派遣したのですが、予想を上回る規模の山賊団だったらしく、既に1ヶ月以上、山賊達の拠点付近に陣取ったままだそうです」
そのまま、彼女は淡々と話を続ける。
「彼らの備蓄は尽きかけています。しかし、山賊達は兵士達の陣の近くにも罠を張り、それを外しに来た者を狙って攻撃したりする為、なかなか人員を割けません。そこで、1人のシフールが、増援を求めて領主の館方面へ向かおうとしたのですが、既にそこへ通じる道は山賊達に封鎖されていたようです。相手は弓も多く持っていましたから、そのシフールは仕方なく、パリまでやってきたということです」
そして、そこで一息ついて、彼女は冒険者達を見回した。
「元より、領主に仕える兵士達の中でも選りすぐりの者達が派遣されていた、ということ。どちらにしても、領主側の援軍は、当てにならないと。・・パリには冒険者達も沢山いますし、増援を頼むのに相応しいと言えるでしょう。しかし、まずは今居る彼らに、食糧や武器を渡さなくてはなりません。そして、時間もありません。馬車も積荷も既に用意しました。物資を渡した後は、その馬車に乗って帰ってきてもらって構いません」
カウンターに隠れて見えない両手を握り締めて、彼女は低く告げる。
「この依頼を受けるならば、今日中にパリを出てください。・・・・急いで」
●リプレイ本文
●出発前
集合場所では、準備万端な馬車と1人のシフールが待っていた。
「リン=レンです。宜しくお願いします」
防寒着の上から人間用の襟巻きを被ったまま、お辞儀をする。
「それで、スラッシュさんは何をしているのですか?葉巻くわえたまま」
十野間 修(eb4840)は、既に馬車に乗り込んで幌の内側に木の板をあてがっているスラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)に声をかけた。
「馬車を補強してんだよ。時間があれば骨組みとか扉とかもやりてぇけどな」
「火事は起こさないで下さいね。本末転倒ですから」
言って修は荷物を馬車の片隅に置き、マントと毛布を馬に掛ける。
「それで、御者はいるのか?」
その逆側ではパネブ・センネフェル(ea8063)がリンに尋ねつつ、同じように荷物を馬車に載せようとしていた。
「はい。今回の依頼は急で4人の方しか集まりませんでしたから、お願いしてきました。多分もうすぐ来るかと」
「ごきげんよう。お待たせしました」
最後にパール・エスタナトレーヒ(eb5314)がぱたぱたと飛んできて皆に礼をし、馬車の上に降りる。
そして修の応援に駆けつけた明王院月与は、その日の昼食用にと持ってきたパンを修に渡し。
「みんな、気をつけてね」
と手を振った。
そして一行はパリを出発した。
●道中
馬車は長閑な田園風景の中、進んでいた。
馬車の前を行くのはパネブ。辺りに注意を配りながら異変が無いかを察知するため、機敏に動いている。
逆に、後方から左手を守るのがスラッシュ。パネブの死角を補う場所だ。そして修は馬車の右側。パールは日中は馬車の中で毛布を丸めて休んでいる。彼女は夜に強いので、夜間の見張りとして働く予定になっていた。
「リン。山賊と兵士達の現状はどうなってる?」
兵士達の伝令係であるリンも、幌の中で休みつつ後方に変化が無いかを見ているようだった。自然スラッシュと目が合い、問われる。
「膠着状態です。兵士の皆さんは腕は立つのですが、罠とか仕掛けには弱くて正直山の中では不利で。でも山賊達よりは強いですから、山賊達も攻めては来ないんです。本当は援軍とか呼びたいのですけれど、領主様のお屋敷に行くまでの道には山賊の見張り台とかも沢山あって‥‥」
結果、このままだと食糧や水などが不足して大変なことになるという所まで、追い詰められてしまったらしい。
「パリ側から山へと上る道に、見張り台などは無いのですか?」
修が尋ねると、リンは頷いた。
「1つだけ見つけましたが、僕がパリに行く時は誰もいませんでした。人よりも罠に頼っているのかもしれません」
「妨害系よりも、通達系の罠ってことか」
「どちらにしても用心ですね」
薄目を開けてパールが呟き、リンも頷いた。
その後、スラッシュから兵士達の人柄や様子を聞かれたリンは嬉しそうに、だが心配そうに彼らのことを語り、それを聞いたスラッシュの士気を高めたりもしたが、その日は何事も無く夕暮れを迎えることになった。
目的の山からは程遠いが、他の盗賊や獣などを警戒する必要もあって、彼らは街道から少し離れた目立たない場所に馬車を止め夜営の支度を始める。パネブとパールは相談して、焚き火を目立たないようカモフラージュ。修は、自分の武器や盾を寝ている時も隠すために、矢避けに馬に掛けておいた毛布を取って準備した。スラッシュは馬と御者をねぎらいつつ、買ってきた食べ物を振る舞う。
そうして彼らが夜営の準備を万端に整えた頃、長い夜が始まった。
●夜襲
「そろそろ交代だ」
3日目の夜。前日までの2夜と同じようにパールが見張りをしていると、背後から低い声がした。
「まだ大丈夫ですよ。今日はいよいよ山登りです。しっかり休んで下さい」
「俺は充分に休んだ。嬢ちゃんこそ昼間に備えたほうがいいぞ」
防寒着に包まりながら警備しているパールの元へ、音も無くパネブが近寄る。
これまでの2日もパールが夜警はすると言ったのだが、皆が交代を申し出、結局短時間だけ交代するという形を取っていた。パールにしてみれば、日中は自らの足や羽で動くことなく休めるのだから夜間の仕事は、という思いだっただろう。しかしそこで張り合っても仕方が無いので、素直にその提案は受け入れていたのだが。
「でも、パネブさんには山の罠を探ったり外したりという、重要な仕事がありますか‥‥」
不意に、パネブが素早く指で一文字描き、パールは口を閉ざした。それは『注意せよ』という合図。
パールは素早く馬車の下をくぐって、寝ている修とスラッシュの身体に手を置き軽く叩く。2人が起き上がって武器を手にした時には、既にパネブは矢をしっかりとつがえていた。
盾を構えた修の目にも、確かに森の中から出てくる複数の人影が見えている。だが、スラッシュとパールは夜目が利かない。不穏な気配を感じたか身体を起こしたリンに、修は素早く近くにあった松明を手渡した。リンは臆せずそれに火を点け掲げ。
周囲は闇から仄明るい世界へと一転する。
シュッと風を切る音と共に、矢が2本放たれた。確実にそれは迫り来る者共の中心を貫き、うめき声が上がる。
「敵は6人です」
「やっと来やがったか」
修は空いているほうの手で印を結んだ。松明の光で、敵の足元には影が出来ている。その脇をスラッシュがすり抜けた。同時に修のシャドウボムが、最も敵が密集している場所で爆発を起こす。数人がその衝撃で倒れこんだところへ、スラッシュの剣が飛び込んだ。まるで風のように敵をなぎ倒し、その猛撃に耐えることが出来る者は無く次々と倒れ伏す。
「1人、逃げます!」
修の声に後を追おうとしたスラッシュの脇を、鋭い音と共に矢が掠めた。目の前で敵は背中に矢を負ってよろめく。
「‥‥出番、ありませんでしたね〜‥‥」
そうして後方では。パールが魔法を撃つ機会も無く、両手をにぎにぎしていた。
敵の全てに止めを刺して、彼らは早々にその場を後にすることにした。
リンが彼らの服装や持ち物を確認して、敵である山賊の一味に違いないと告げたのだ。仲間が戻って来ないとなれば、敵も警戒するだろう。そうと知れる前に進んだほうが良いという判断だった。
そして彼らは遂に、敵の庭とも言える山を上り始める。
●疾走
パリから伸びる街道は山よりも手前で二手に分かれ、1本は領主の館がある村を通り、もう1本は目的地の山付近を通る。しかしその細い街道を通る旅人は少なく、ましてや商隊が通ることは滅多に無い。よって山賊達はその分かれ道の手前か、領主の館方面に向かう道に罠を仕掛けることが多いということだった。
一行は夜明けと共に山を上り始めたが、確かに人の気配は感じ取れない。
彼らは出来る限り音を立てないよう気をつけながら、先を急ぐ。だが、前を行くパネブの足が止まった。
「罠だ」
素早く辺りを見回し、注意深く罠を踏まないように動きながら茂みなどを探る。
「手伝いましょうか」
修もそれを察知し声を掛けるが、パネブはすぐに目的物を発見してナイフで糸を切った。
「何だ、また鳴物か」
引っかかると音が鳴る仕組みになっている罠を外すパネブを視界の隅に入れつつ、スラッシュは木の上を眺めた。修は盾を持ち辺りを警戒する。罠のある辺りには敵が潜んでいるものだという認識が、彼らにはある。最もパネブは。
(「罠を抜けた後のほうが危ないだろうがな‥‥」)
自分ならどう罠を仕掛けるか考えつつ、内心呟いていた。
「皆の予想では、弓兵がもっと待機していると思ってたのですけれど」
昨夜の襲撃でも弓を持った者はいなかった。そして今も見当たらない。そんなパールの呟きにリンも頷いた。
「多分、山の向こう側に居るのだと思います。まさかパリから来るなんて思ってなかったでしょうから」
領主の館がある側を警戒しているということだ。だから、障害系よりも連絡系の罠が多いということか。
「あそこに見えるのが、皆の陣です」
細い煙が上っていて、テントらしき物も幾つか見える。そこまでそう距離は無いだろう。そのままかろうじて馬車が通れるくらいの山道を進み、やがて少し開けた場所へと出た。
「見張り台だ」
「急ぎましょう」
シフール1人が通るくらいならば見つからなかったかもしれないが、馬車を見逃してもらえるくらい甘くはないだろう。覚悟を決めて、視界の通る場所へと踏み込む。
「見つかった!」
真っ先に敵の動きに気付いたのはパネブ。
「止まるな! 殺られるぜ!」
驚いて手綱を引こうとした御者にスラッシュが叫び、彼らは森の中に再び駆け込んだ。と同時に、見張り台から矢が飛んできて近くの木に刺さる。
「弓兵を確認しますか」
走る馬上からパールが声を掛けた。だが修は首を振る。
「ここが正念場です。敵が出たら魔法で」
「それもそうですね」
一行の後ろから敵が追ってくるのが見えた。それでも彼らの持ち場は変わらない。敵が自分達の進行を遮るまでは、物資を届けることの方が先決だ。
その時、彼らの目の前に陣を囲う木の杭が見えた。
「行きましょう!」
パールがリンを促し、2人は陣地目掛けて加速する。互いの距離を開け木の間を縫うようにして飛び、陣地へと飛び込んだ。
「物資を届けに来ました!」
パールの声に、杭にもたれていた男が姿勢を正す。
「でも山賊が追ってきています。援護をお願いします!」
●任務完了、そして
無事、一行は目的地である兵士達の陣に到着した。
「リンのガッツのお陰ってところか」
水と食糧を真っ先に弱っている兵士達に分け、後の物資を所定のテント内に運び終えた頃には、既に日は傾き始めていた。兵士達に感謝されながらも彼らは帰ろうとしたが、引き止められて共に火を囲んでいる。
「そんな。皆さんがきちんと準備も計画も行って、細かな注意を払って下さったからです。それに、きちんと役割分担なさっていて、おまけに凄く強くて」
「そりゃ冒険者だからな。修羅場だってくぐってるだろうさ」
感動に水を差すような兵士の発言に、リンは相手をぽかりと殴った。
「とにかくリンには、もう一度パリに戻ってもらわないとな」
「まだ忘れ物でも?」
修の問いに、リンは首を振り。
「物資は揃ったので、今度は人を」
葉巻を吸いながら、買い込んだ甘い保存食を分けていたスラッシュが笑った。
「ま、必要だったら呼んでくれ。いい葉巻をくれりゃどこへでもいくぜ」
「じゃ、今度は領主様にお願いして、葉巻も用意してもらわないと」
リンも笑う。パネブもワインを振る舞い、パールはリンを巻き込んで踊り、彼らを和ませた。
そして馬車は再び山を下りた。
最後の戦いを、始める為に。