初めてのお使い?〜受付嬢?編〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 66 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月27日〜10月04日

リプレイ公開日:2007年10月06日

●オープニング


「あ。この買い物も頼める〜? 市場閉まっちゃう」
「俺も〜。何かスープの具になりそうな物、買ってきてよ」
 夕刻の冒険者ギルドの裏口近く。
 ギルド員達が、今まさに裏口から出ようとしている女性に声を飛ばしていた。
「‥‥あたしは、市場の裏にある店に用がある、って言っただけだけど?!」
「市場通るんでしょ。買ってきてよ〜」
「あんた達、あたしが私用で出かけると思ってるわけ?!」
「おもってる〜」
「おもってる〜」
「‥‥ちょっと裏に顔貸しなさい。あたしがどれだけ真面目に仕事をこなしてるのか、たっぷり教えてあげる」
「ここ、裏だし〜」
「ウラだし〜」
 まともに相手をするだけ無駄だと思ったのか。軽く一息吐いて、彼女は扉に手をかけた。
「それで、何買ってこればいいわけ?」
「やった。助かる〜」
「そういやアナスィはさ。パウンダー氏とはどうなったんだ?」
 何気なく問われて、扉を開けようとしていた彼女はぴたと動きを止める。
「ほら。最近来ないからさぁ」
「あたしが取引した件、あんたは知らないわけ?」
「噂には聞いてるけどさぁ。だってほら、アナスィもいいとし」
 どすっ。壁際に立っていたギルド員の脇に、ナイフが1本刺さった。
「‥‥何か言った?」
「‥‥いいえ」
「大体、あたしの事言う前に、ブランシュ騎士団のお偉いさん方を見てみなさいよ。見事に独身、見事に年増、見事に行き遅れてるじゃない」
「ブランシュ騎士団の方々はお忙しいじゃない。結婚してる暇ないのよ。あたしはオベル様狙いだからいいけどっ」
「あ〜。あたしはフラン様〜。ヨシュアス様に似てらっしゃるのにちょっと庶民的な感じがいいのよね〜」
「え〜。時代はおじ様でしょ。ギュスターヴ様とか素敵よね〜」
「ちょっとぉ。ラルフ様を忘れないでよぉ」
「ふふふ。私はシュバルツ様派よ!」
「ヨシュアス様はライバル多いからな〜」
「あれ。もうお1人ってどなただっけ?」
 わきゃわきゃといつの間にか女性ギルド員達が集まって、話に花を咲かせる。
「っていうかアナスィが言ってるの、1人限定だろ。ブランシュ騎士団なら幾らでも相手はいるだろうけどさぁ。元ファイターで凶暴なアナスィじゃ」
 どすどすっ。ギルド員の脇に、ナイフが2本刺さった。
「あたしは結婚出来ないんじゃないの。しないのよ!」
「‥‥はい」
「じゃ、行ってくるから」
 目と声で更に相手を脅して、アナスタシアは扉の外へと出た。


「おぉ、ご苦労さんじゃったの」
 市場の裏路地に、頭からすっぽりフードを被った1人の女性が店を出していた。店と言っても露天。女性と言っても年齢不詳のおばあ様だ。勿論、性別が分からないくらいおばあ様でも女性である事に変わりは無い。
「おぉ‥‥これは良い肖像画じゃのぅ‥‥。いつ見ても良い男じゃ‥‥」
「そりゃあ、このノルマンで常にトップを争う人気を誇る男性って話だし」
「勿論じゃ。‥‥ほれ。駄賃じゃよ」
 数枚の金貨を渡され、アナスタシアはそれを受け取り粗末な椅子に座った。
「さて。ではオババがお前さんの将来を占ってしんぜようかの‥‥」
「それは嬉しいけど、そろそろこの仕事辞めたら? 小銭稼ぐ必要も無いんじゃない?」
「ほっほっほっ。人の趣味をとやかく言わんで欲しいのぅ。年季の入った趣味じゃぞ。オババの余生の楽しみを邪魔するでない」
「‥‥どれだけ余生長いのよ‥‥」
 呟きながらも、アナスタシアは台の上に載せられた玉を見つめる。小さな玉だがよく磨かれており、僅かな光が反射していた。
「‥‥では、この袋の中から1つ石を選ぶと良い」
 言われて黙って小石を取り出し、占い師に渡す。
「ふむふむ。では次じゃ。次はこちらの袋から小石を‥‥おぉ?!」
「‥‥何? どうしたの?」
 突然声を上げた占い師に、アナスタシアは眉をひそめた。
「大変じゃ‥‥。この占い玉にヒビが入っておる‥‥」
「‥‥別に大した傷じゃないじゃない」
「駄目じゃ! 傷がついては使い物にならん。‥‥ふむ、困ったのぅ‥‥」
「‥‥いつも玉なんて見てた?」
「これは最終手段じゃ。占いでどうしても分からない時に、これを見て判断するのじゃよ」
「そんな玉で何が分かるわけ?」
 言いながらも、アナスタシアは表情のよく分からない占い師を見つめる。
「いろいろじゃよ。いろいろ‥‥。ふむ‥‥アナスタシア。いや、アントニナ。頼みがあるのじゃが」
「はいはい。その玉の代替品を探して来いって言うんでしょ」
「代替品のある場所は分かっておる。これがあった場所じゃからの。‥‥昔、偏屈ウィザードじじいが作った塔があっての」
「‥‥それ、旦那さんの事でしょ」
「まぁそうとも言うのぅ。そこでいろいろ研究しておったんじゃが‥‥その塔は地下迷宮とも繋がっておったらしくての。地下に鉱脈を発見したと言うておった。そこからこの玉は作ったものじゃ。恐らく、今もまだあの塔のどこか。或いは地下にあるはずなんじゃよ。こんな丸い形をしておるかは分からんが」
 白っぽい色をした玉を見つめ、アナスタシアは頷いた。
「じゃ、これ借りて行っていいわよね? 現物無いと確かめようも無いし」
「仕方ないのぅ‥‥。これが置いてあるだけでもハクが付くんじゃが」
「いいわよね?」
「ふむ。‥‥ところで駄賃じゃがの」
「貰える物は貰うけど、その塔の中に目ぼしい物があったら別に貰ってもいいのよね? もう居ないんでしょ? 偏屈おじいちゃんは」
「おるかもしれんし、おらんかもしれん。おったら挨拶くらいはしておくと良いぞ」
「居たら、これと同じ玉が欲しいってちゃんと言うわよ」
「ではまかせたぞ」

●今回の参加者

 ea0346 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea2554 ファイゼル・ヴァッファー(30歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3692 ジラルティーデ・ガブリエ(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

水之江 政清(eb9679)/ アシャンティ・イントレピッド(ec2152

●リプレイ本文


 その塔は、森の中に建っていた。
「場所が判然としない、地上が高く地下も深い建物に、形も分からぬものを探しに行く」
 アナスタシアが用意した馬車から降りたパトリアンナ・ケイジ(ea0346)がそれを見上げ、ふむと頷く。
「まるで人生みたいですなぁ」
「『山あり谷あり』という事かしら」
 くすと笑いながら天津風美沙樹(eb5363)が御者席から降りた。その隣に、ミカエル・テルセーロ(ea1674)もふわりと着地する。
「では、見つかって良かったですね。人生まで遭難したら大変ですから」
「その人生が、既に迷い道に踏み込んでいる男はどうした?」
 ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)が眩しそうに空を仰いだ。その後ろで一つ伸びをしたシャルウィード・ハミルトン(eb5413)は、空を見る事なく告げる。
「ま、いつもの事だろ。ペガサスから蹴落とされそうになってるんじゃないか?」
 言われて皆も見上げると。
 彼らより後方の頭上で、ペガサスがぐるぐる旋回していた。


 目的地がはっきりと分からないということで、ミカエルがバーニングマップを使い道筋をつけ、ファイゼルがペガサスに乗って上空から探す。その手筈で彼らはパリを出発したはずだった。
 馬車の中では、ジラルティーデが何故か占い師の容姿を聞いて似顔絵を描いていたし、美沙樹はパリを出る前にアナスタシアに頼んで、占い師から塔の主宛ての紹介状と依頼書を書いてもらっていた。当初は彼女のサポートにやって来たアシャンティにシフール便で運んでもらうつもりだったのだが、場所が明確ではない森の中の為、シフール便を使えなかったのである。
「でも、アナスタシアさんが占いとか信じるタイプだとは、意外でしたね」
 手馴れた動きで皆が野宿の準備をする中、地図を見ていたミカエルがアナスタシアに話しかけた。
「いやいや、占いは古今東西女性の心をわしづかみして離さない、最大級の魔法ですからなぁ」
 野生の生物(種類は秘密)を手早く調理しながら、パトリアンナは鍋の味加減を見ている。
「占いね‥‥」
 ごろんと横になって、シャルウィードは星を見上げた。あまり興味が無さそうな顔をしている。
「西洋の占いを体験してみたいですわね」
 そして、木皿を配っていた美沙樹が言った奥で。
「信じるかどうかは別問題よ。ところで『しもべ』。明日はそれに乗せて」
 彼らの依頼人アナスタシアが、木に繋がれている美しい白馬を指差して。
「な、何で俺の唯一の安息時間を奪うんだ!?」
 ペガサスの持ち主、ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)に叫ばれていた。
 と言う事で、『アナスタシアのしもべ』は悠々自適の空の旅を早々に失ってしまったのである。
「そーいや、前にアナスィにプロポーズしてきたあいつはどうしてんだ?」
 『しもべ』の口は、災いの元だ。翌日の飛行中に何度殴られたか知れない。
「あ、そだ。その時にアナスィが顔真っ赤にしてた忍者の森。今回来なくて残念だっ‥‥ぐほっ」
「ゼル‥‥? あんた、いい加減にしなさいよ‥‥」
「ぎゃーっ! 落ちる! マジで落ちるから!」
 と、『しもべ』が死に掛けている現場を、一行は塔の近くから生温かく見守っていたわけなのだった。
 ともあれ。


「たのも〜」
 ごんごん。扉を叩く。
 主が居るのであれば、やはり表から訪ねるのが常識だろうと、蓋のされていない窓を眺めつつ扉前に皆は集まっていた。
「やはり留守のようだな」
 ジラルティーデが扉に力を込めると、石扉は音を立てながらゆっくりと内側へと開いて行く。
「鍵も掛かっていないとは、無用心極まりないですな」
 本職パン屋だが実はレンジャーのパトリアンナが、真っ当な意見を述べた。
「暗いですわね。明かりを‥‥」
 中を窺いつつランタンに灯りを灯した美沙樹が、一瞬固まった。
「動く木?!」
 素早く戦闘態勢を取ると、既に動きつつあったそれは、後退した一行を追うようにして塔の外に出て来る。
「ウッドゴーレムだな‥‥」
 シャルウィードが呟き、皆は手に持っていたランタンの火を見つめた。
「燃やすか?」
「留守番でしょうけどね、きっと」
「燃やして塔の主が怒らなければいいが」
「普通に倒しても一緒だろ」
 というわけで。さくっと彼らは倒木を行い、再び塔の中を覗き込んで。
 一様にげんなりした。
「偏屈爺さんって言うだけあるよな」
「樹人隊でも作るのかしら」
 塔の1階は、まるで専用倉庫であるかのように、ずらりとウッドゴーレムで埋まっていたのである。


 この6人プラス1人が居れば、ウッドゴーレムの1体や2体は敵では無い。燃やしても良いわけだし楽な事この上ないだろうが、塔の中に何体も居るのを倒すとなると燃やすのは非常に危険である。
「敵の巣窟だったら、遠慮はしませんがね」
 ミカエルを守るように隊形を作りながら、皆は襲い掛かってくるウッドゴーレムと対峙した。
「火を点けて、扉を閉めてしまえば終わるのでしょうけれど‥‥」
「人が住んでいるかもしれない塔だ。地道に倒すのが‥‥一番だろうな」
 1対1なら負ける事は無い。ただ、7人とウッドゴーレム達が戦うにはかなり狭い塔の中なので。
「いってぇ! こら、シャル! 体当たりすんな!」
「あんたの槍のほ〜が危ないだろーが! 外行け、外!」
 混沌としていた。
 そうして、味方からの不慮の事故攻撃を受けつつ、皆がようやく全てのゴーレムを倒したところで、ほぼ出番が無かったミカエルが気付く。
「アナスタシアさん?」
 いつの間にやら、依頼人が忽然と姿を消していた。
 が、当然彼女の事をある程度熟知している一行は、不慮の怪我で倒れてるとか、どこかに攫われたのではないかとかは考えない。
「1人で行動しないで下さいね? アナスタシアさん?」
 素早く隊列を作って階段を上った先で、皆は依頼人を発見した。すぐさま、背中に花のような炎を背負ってミカエルがにっこり微笑む。
「お転婆な女性も魅力的ではありますが、女性が1人で行動は危険ですよ」
 言いながら、パトリアンナは辺りに干してある『もの』に興味津々だ。
「ここは‥‥お爺様の研究部屋かしら」
 2階は随分乱雑としていた。テーブルや棚が置かれているものの、その上には山のように羊皮紙や何かの『素材』が置かれ、無造作に本が落ちている。
「あ。この本‥‥『ダンジョン老の迷宮手ほどき』ですよ! こっちは『モンスター全書復刻』‥‥? 何を復刻したんでしょう‥‥」
 思わず、落ちている本を順番に拾って中を開いてしまうミカエル。普段は慎重な彼だが、知識の宝庫には弱い。
「主に会うまでは、無闇に物には触れないほうがいいな」
 ジラルティーデが忠告を投げかけるのは、やはり自分の留守中に部屋を荒らされては良い気持ちがしないからだ。何より彼はナイトである。
「白い玉も無いみたいだしな」
 シャルウィードは、武器や防具の類が無いのであまり興味が無い。
 結局、3階、4階と上ってみたが、3階は寝室代わり。4階は屋上になっていて、何かの皮がずらりと並べられているだけだった。どうやら日干しされているらしい。
 一行は1階に戻り、ウッドゴーレムを脇に移動させながら、床を入念に調査した。やがて隅のほうに扉を見つけ、彼らは警戒しつつも地下へと下りる。


「そういえば、さっき怪我したんじゃない?」
 暗い地下通路は、意外と狭い。特に天井が低く、ジラルティーデは頭を下げて歩かなくてはならなかった。
 そんな中、アナスタシアがふと皮袋に入った何かを取り出す。
「まぁカスリ傷くらいは」
「体当たり食らったからな〜」
「これ、持ってきたの。飲みなさいよ」
 すいと差し出され、シャルウィードは無言でそれを美沙樹に手渡した。それだけで、相手の呼吸や仕草で異変を感じ取れるほどに付き合いも長くなった美沙樹は察する。
「あたしは大丈夫ですわ」
「これはなかなかの逸品な臭いがしますな。僕は遠慮しときますが」
「僕も怪我していませんから」
「俺も必要ないな」
 隊の前方から順に、パトリアンナ、ミカエル、ジラルティーデと皮袋は渡って、最後にファイゼルの元へ‥‥。
「何だ? ポーションか?」
 彼は場の空気に気付かずそれを飲み干し。
「‥‥」
 何食わぬ顔で進む一行は、しばらく無言でいるファイゼルの心中を思いやった。
「この迷宮は、40歩進むと4方に道が分かれる仕組みになっている。その内1方向は必ず行き止まりになり、残る3方向を40歩進んだ先の4方の道は、先ほど行き止まりになった方角の道は必ず続いている仕組みだ。絵にするとかなり複雑になるな」
 ジラルティーデの迷宮分析によると、一見自然物のように見せかけて作られている迷宮だが、明らかに人の手によって造られた物ではないかと言う。
「だが人が造ったものならば、必ず途中で途切れるはずだ。完成品であるならば、美術的な形で」
「そうですわね‥‥」
 たいまつの先に銅鏡をかけ、それを使って角の向こうの様子を探る美沙樹だったが、銅鏡はそもそもはっきり対象を映し出すだけの輝きを持っていない。ましてや暗い地下の事。それでも敵の影だけでもおぼろげに見えればと思っているのだが。
「もうだめだ! 吐く!」
 突然の後方からの悲鳴に驚いて、うっかり鏡を落としていた。
「吐くなら離れたところでやれよ〜」
 シャルウィードの応援(?)を受けて、ファイゼルが戦線離脱。割れた鏡をしょんぼり見つめつつ、美沙樹は次の銅鏡をバックパックから取り出していた。
「バイブレーションセンサーも引っかかりませんね」
 進んでも角ばかりがあるだけで、モンスターも何も出てこない。
 いい加減、皆の疲労は頂点に達していた。


 油の消費量で時間を計りつつ、地下に篭ること丸2日。
 地下迷宮マップを作り出し、行けるところは全て進み、モンスターにも人にも会わずに細くて狭い通路を進んでいた一行は、ふらふらになりながら地上へと戻ってきていた。
「‥‥体が痛い‥‥」
 ジラルティーデは勿論の事、ファイゼルも頭の先を天井に擦る他、場所によっては皆が頭を下げなくては進めない場所もあり‥‥。そういう意味で疲れていないのはミカエルくらいだっただろう。こういう時は小さいのが便利だ。
 とりあえず塔の前にテントを張り、皆は2日ぶりに大の字になって寝ることが出来た。勿論見張りは交代で行う。
 ファイゼルが2日前に飲まされたポーションらしきものは、塔の2階に置いてあったものらしい。もしも劇毒だったらアナスタシアはどう責任を取るつもりだったのだろうか。
「結局、占い玉は無かったな。今回のメンバーなら面倒な事は大概任せられそうだから、楽できるかと思ったんだけどな」
「シャルは、戦闘が無くて疲れたんですわね」
「出来る仲間の存在はありがたいって事さ」
 翌朝、パトリアンナが2日ぶりの鍋を作っていた。何か妙な臭いがするが‥‥。
「‥‥」
 その臭いに覚えがあったシャルウィードだったが、結局皆と共に平らげる。
「今日の鍋は、クセがあったな」
「はっはっはっ。それは当然ですよ。何せ、塔の中にあった○○の○○とか、○○○の」
「ぎゃ〜、んなもん入れるなあああ!」
「パトリアンナさん‥‥。盗ってきたんですね‥‥?」
「人聞きの悪い。きちんと許可を取ってきましたとも」
「‥‥許可?」
「誰の?」
「勿論、塔の主の人ですよ」


 塔の主は。
 明け方、4階から塔の中に入ったのだと言う。
「どこかで見た顔だな」
 改めて、一行は表の扉を叩いて中に入れてもらった。主は美沙樹を見て首を傾げ、最後に入ってきたアナスタシアを見て変な顔になった。
「よくここが分かったものだ」
「まさかあんただったとはね」
「知り合いか?」
 問われてアナスタシアは説明する。趣味でポイントと引き換えにダンジョンなどに冒険者を連れて遊びに行っているアナスタシアだが、初めてその依頼をだすきっかけとなった迷宮を教えてくれたのが‥‥目の前に居る塔の主、シメオンなのだと。
「なんか腹立って来た‥‥。後の交渉、まかせていい?」
 言うなり、占い玉をミカエルに押し付けてアナスタシアはどすどすと階段を下りて行った。
 仕方なく、偏屈爺さんの相手が得意なミカエルとジラルティーデが彼と話を始める。順番が逆になった為、あらかじめジラルティーデが独自で考えていた策はそのまま使う事が出来なくなったが、そこはたくみに話を進めて。
「こういう玉を捜しているんですが」
 占い玉を見せた。
「あぁ‥‥あれから頼まれてきたのか」
 主は素直に頷く。偏屈爺さんと聞いていた一行は、比較的あっさりしている目の前の主に少なからず拍子抜けした。
「とっくに鉱脈は採掘され尽くしてな。そもそも、あれに鉱脈の話をしたのは50年以上昔だ」
「‥‥じゃあ、もう新しい玉は作れないのかしら‥‥?」
 多少他の者よりシメオンの事を知っている美沙樹が、不安げに尋ねる。
「いいや、それよりも小振りにはなるが、玉は取ってある。持っていくがいい」
 あっさり許可され、ついでに『もう要らないからこれを彼女に渡してやってくれ』とお土産を持たされ、一行は塔を出た。出た所で待っていたアナスタシアに土産を渡し、何だか今ひとつ分からないままに馬車に乗り込む。
「‥‥つまり、知り合い同士だと気付かずに塔に来た、と」
「そうね。期待して損した」
 アナスタシアはどこか不機嫌だ。
 そうして、馬車はパリに到着した。


 塔の地下にあった迷宮は、元々あったものにシメオンが手を加えたものだったらしい。ダンジョン研究者として、ダンジョンの近くに居を構えて調査をするのは当然の事であるらしく、そこに塔を作った理由も、ダンジョンを調べやすいようにとの事だったらしい。そのダンジョン自体はもう調査は終わっていて、現在は年に数回しか来ないということだった。
「おぉ‥‥こんなにたくさんの冒険者さんが行ってくれたのかえ? ありがたや、ありがたや」
 そのまま玉を持って占い師の所へやって来た一行は、占い師に労いの言葉をかけてもらい、ついでだから占いやっていくか? と誘われた。アナスタシアの占い結果が気になる者もいただろうが、占い結果は観客がいる所で言うものではないらしい。
「まぁ、占いがやりたかったらいつでも来るがええぞ。道に迷うた時、新たな道を見つけたい時、ただの気分転換でもな」

 ちなみにアナスタシアが占ってもらった結果は‥‥。
『待ち人来る』であるらしい。