【豚、ブタ、こぶた】エテルネル村謝肉祭

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 84 C

参加人数:6人

サポート参加人数:5人

冒険期間:10月19日〜10月27日

リプレイ公開日:2007年10月26日

●オープニング

 収穫祭。
 それは秋の実りを神に感謝する祭り。パリだけではなく各地で行われている。大きな町から小さな村まで、規模はよりどりみどり、内容も千差万別、独自の祭りを繰り広げる所もあれば、身内だけで慎ましく行われるところもある。
 そんな中、ある小さな村でも『収穫祭』が行われようとしていた。

 王城内での収穫祭が終わった日。
「私も歳を取った。最近疲れやすくなった事を感じるが、お前達はどうだ?」
 執務室に入った騎士達の上司が、突然皆に尋ねた。
「私は既に初老の域に入っておりますから、若い頃よりはやはり」
「そうですね‥‥。ですが、分隊長はまだお若いですよ。訓練の時も全く疲労を感じさせない動きをなさるではありませんか」
「そうそう。今日だって、しっかり働いた分の食事を取っておられたし」
 皆が頷く中、分隊長は椅子に座ってテーブルに片肘をつく。
「‥‥それなんだが‥‥」
「どうかなさいましたか?」
「ここの所、貴族の相手ばかりで疲れた。気疲れした。やはり戦場のほうが気は楽だ」
「確かに」
「私にはパリは華やか過ぎる。戦場に行きたいのだが」
「は?」
 収穫祭の時期に『戦場に行きたい』とは何事かと皆が注目する中、分隊長はいつに無く疲れた笑みを見せた。
「休暇も頂いている。自分の立場を忘れて、田舎でのんびりしたいと思うのだ」
 『のんびり』と『戦場』と『田舎』が繋がらず、皆が変な顔をする中、分隊長は生気を取り戻したかのように微笑する。
「実は、少し前の話になるが‥‥」

 時々パリの街に出て酒場やギルドを覗いている分隊長が、ある時その張り紙を見つけた。
『養豚出資者募集』。
 豚を飼う為の出資金を出せば、良い頃合にまるまる育ったであろう豚肉が届くらしい。『皆で出資して、豚を育てて幸せになろう』というフレーズは、彼女をいたく感心させた。話をよく聞いてみれば、復興途中の村を巻き込んで行われているとの事。村も少しは潤うし、出資した人は肉が届くし、その上。
「楽しそうだな」
 ノルマンの各地で『預言』による災いがもたらされた。災害によって家や畑や家族を失った者はどれだけいるのか。復興途中の村はどれだけあるか知れない。人々は収穫出来なかった畑を前に、今年の『収穫祭』を行おうとしている。その心の痛手はどれほどのものだろうか。
 だがその中にあって、『皆で幸せになろう』と希望を持って豚を育てている。その村の事は知らないが、壊れた家や畑を楽しく笑いながら修復している姿が想像出来た。普段の仕事の中で、人々の素顔を見る事はほとんど無い。被害に遭った町や村の数が分かっても、その中に住む人々の事は分からない。
「すまないが‥‥」
 普段着とは言え、分隊長が受付に並ぶわけには行かない。彼女は裏に回ってギルド員に声を掛けた。
「『養豚出資者募集』に書かれた村について、少し詳しく教えて貰えないか?」

「‥‥それで、まさか‥‥」
「出資してきた。美味しい豚が食べられる好機だ。逃す理由は無いだろう」
「‥‥分隊長なら、ご自身の領地で幾らでも豚くらい‥‥」
「私の領地では無い。ついでに遠い。やはり近場が新鮮で良いと思うが」
「‥‥それで、まさか『のんびり田舎で戦場暮らしがしたい』と言うのは‥‥」
「あぁ。そのエテルネル村に行ってみようと思う。ついでに付近で不穏な動きが無いか警戒をしてくると言えば、特に問題は無いだろう?」
 収穫祭の時期は、騎士達も自分の家や領地に交替で帰る事が多い。分隊長が休暇を取って家に帰る分には全く問題は無いし、『のんびりする』事を止める理由も無い。
 が。
「分隊長自らが、ご自身の領地と全く関係の無い小さな村にお1人で行かれると言うのはやはり‥‥」
「何しに来たのかと仰天されますよ」
「勿論秘密だ」
「‥‥いえ、秘密って‥‥」
「旅人に扮して行こうと思う。楽しみだな」
「‥‥」
 何時に無く楽しそうな分隊長に、分隊員達もそれ以上何も言う事が出来なかった。

 翌朝。冒険者ギルドに1人の騎士が訪れていた。
「は‥‥はわわわ‥‥」
 うっかり応対してしまったギルド員は、何故か固まっている。先日、目で威嚇されたからだが。
「まさかこんな短期間の内に、公では無い依頼を運ぶ事になるとはな」
 冷ややかな視線をギルド員に向けつつ、騎士は口を開いた。
 一応領主をなさっている方に、一言挨拶だけしておいたほうがいいだろうと分隊長に進言したものの、それでも部下の身としては心配である。大体、1人で行くという考えがおかしい。顔を知っている者が居た時、複数の人間が居れば誤魔化す事も出来るが、1人でどうやって誤魔化すつもりなのか。
「然る高貴な方の護衛をして頂きたい。くれぐれもその方の正体がばれぬよう、くれぐれもその方が暴走されぬよう、くれぐれもその方が村の貴重な食材を食い尽くさないよう、注意して監‥‥いや、護衛をしていただきたい。そして、目的地『エテルネル村』で滞在していただきたい。あの方は、どうやら村で慎ましい生活をしている人々の手伝いもしたいようだ。復興途中であるという話だから、家か畑の手伝いか、或いは冬を越す為の食材や薪を入手するつもりなのか、それとも‥‥そうだな。その村で収穫祭ならぬ『謝肉祭』が行われるという噂も聞いている。それに参加するのも良いだろう。最も、祭りに使える肉はまだ育っていないだろうが。‥‥村に行く設定はこうだ」
 男は古い地図を出しながら続けた。
「『豚出資者』が村に豚を見に行きたいと言っている。その護衛兼村復興人材として冒険者が共に行く。他の細かい事はまかせる。冒険者なら上手くやるだろうからな」

●今回の参加者

 ea3120 ロックフェラー・シュターゼン(40歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec3959 ロラン・オラージュ(26歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)/ リスター・ストーム(ea6536)/ スズカ・アークライト(eb8113)/ セイル・ファースト(eb8642)/ ライラ・マグニフィセント(eb9243

●リプレイ本文


 馬車には羊が3頭、農家から安く買い取った小麦の表皮(ふすま)袋や干藁、小麦袋に果物袋に魚の燻製が入った樽、若鶏の入った木箱が並んで、たちまちいっぱいになった。急遽イヴェットが2台目の馬車を用意し、そこにエルディン・アトワイト(ec0290)が買ってきた50本のワインと、20人前のパイ包み焼きを作ってきた見送り組ライラ作昼食と、同じく見送り組のリスターが自らの原始的勘の赴くままに選んだ雛達(雌割合は不明)が入った籠を入れ、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)が、見張り役として2台目の馬車に押し込まれた。元々馬車に乗るつもりだった彼は、その後何故か慣れない動物世話係をさせられる事になる。
 御者が足りないので、ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)が片方を務める事になった。もう片方は、冒険者の中では紅一点、リリー・ストーム(ea9927)が手綱を取る。マート・セレスティア(ea3852)は馬車の隣で空飛ぶ木臼に腰をかけ、残りの皆が馬に乗った所で、見送り達の中からセイルが声をかけた。
「土産よろしくな」
「えぇ、分かってるわ。あなた」
 今にも別れの接吻を交わしそうな2人に皆が注目している隙に、ファイゼルはイヴェットに手作り弁当を手渡している。野郎の手作りだけどと言いながら照れる彼だったが、むしろ彼女は弁当に興味津々だった。
 そうして賑やかな見送りを受けながら彼らはパリを出発した。


 見送りの中で唯一浮かない顔をしていたのはスズカだった。何でも身内がエテルネル村に嫁に行っているらしく、村の余裕が無い生活ぶりはよく聞いているらしい。それについては以前に村を訪問した事があるマートやヘラクレイオスも分かっている。最もマートの場合は。
「あのね、あのね、エテルネル村はね。これくらいの大きさで、動物がいっぱい居てね」
 体いっぱい使って村の説明をしつつも、村で食べられるであろうご馳走の事で頭がいっぱいになっていた。
 ともあれ、彼らは無事に村に到着する。

 エテルネル村は20数名で構成された小さな村だ。村というにはあまりに少ない人々で内6名が子供とあっては、様々な事が追いつかないのも無理は無い。度々冒険者達に協力を依頼してきた彼らだったが、今回は。
「村長殿、またお邪魔するわい。此方が、豚の出資をされたイヴ殿じゃ。養豚の様子を見ると共に、村の仕事を手伝いたいとおっしゃられての。謝肉祭まで宜しく頼む」
 馬車2台と馬達と木臼を迎えた村人達に、ヘラクレイオスが早速挨拶した。
「はい、お話は聞いています。ようこそいらっしゃいました。‥‥充分なもてなしも出来ず心苦しいですが、どうかのんびり滞在して行って下さい」
 デュカス村長は随分若い。だが彼がしっかり先の展望を見つめているから今のこの村があるのだろうと思わせた。
「宿の案内でもしましょか。冒険者の皆さんこっちですわ」
 ワンバという名の青年が、皆の一通りの挨拶の後、冒険者達を2軒の家へと連れて行ってくれる。男女別になっているので快適に過ごせるだろう。
「あ。僕は玄関近くに床を貰いますね」
 平均年齢の高い一行の中で実に若々しいロラン・オラージュ(ec3959)は、素早く狭い場所を確保していた。何せ全員が大先輩の方々。将来騎士になりたいと思う彼にとっては当然の行為である。
「働いたら汗かきましたわ。さ、イヴ。水浴びに行きましょうよ」
 馬車の荷物を全て降ろして村の貯蔵庫に入れさせて貰い、自分達の食事分と謝肉祭に捧げる分だと説明し、一通り村を回った所でリリーがイヴェットを誘った。騎士として接していたものの『今回は一般人として行くのだから』という事で、すっかり親しんだ喋り方をしている。
「いや、私は日が暮れてからでいい」
「イヴったら♪ 庶民はそんな危ない時間に水浴びなんてしないのよ?」
 というわけで、強制的にイヴェットを連行するリリー。
「神父さま〜。あそんで、あそんで〜」
「神父さま〜。どうかしたの?」
 そんなやり取りを間近で聞いていたエルディンは、子供達ににっこり微笑んだ。
「いいえ、何も」
 その微笑は完璧過ぎたが、子供達はその邪気(?)には気付かず楽しく『優しい神父様』と遊ぶのだった。


 羊は1頭だけ謝肉祭に使い、後の2頭は村に残すという事で、村人達は羊を鶏小屋の傍に移していた。豚用の立派な小屋を作ろうとしていたロックフェラーとヘラクレイオスは、羊用の小屋も村内に作って欲しいと頼まれる。村に着いて最初に『やって欲しい事』を村人達に聞いて回っていたロックフェラーは、皆にその結果を告げていた。豚は放し飼いだが羊は乳を搾る為、彼らの傍に置いておきたいらしい。
「イヴねえちゃん。あそこだよ!」
 マートはイヴェットを連れて豚放牧場に来ていた。柵の中でうろうろしている豚達に混ざって、ヘラクレイオスが地面を均している。
「ん〜? 何やってるの?」
「豚小屋作りじゃ」
「へぇ〜。頑張ってね! イヴねえちゃん、それでね。あの豚はアデラねえちゃんが預けている豚でね。おっきくなったらおいらに食べさせてくれるんだよ」
「それは楽しみだな」
「楽しみだよね」
 楽しそうに笑うマートだったが、実はそんな約束はしていない。
 一方。
「‥‥ここは持ちやすいように削るか‥‥」
 畑から出土した農具の刃に、ロックフェラーが柄を取り付けていた。木材は村に余分に保管してあるということでそれを貰い、職人魂を発揮しながら次々と農耕具を使える形にして行く。昔この村が火事になった時、村に置いてあったほとんどの物は焼けてしまったが、畑を掘り起こしている時にそれらの残骸が出てくるのだと言う。再び使えるように出来れば実に心強い。
 出来た農具はロランが笑顔で村人達の元まで運び入れた。青年と言える歳なのだが少年のように背が低く愛らしい笑顔に、おば様達は思わずナッツを駄賃にあげている。
「あ。パリで美味しい食事のレシピを聞いてきたんです。旬の作物を使った料理だそうですよ」
 パリを出る前にライラから聞いてきたレシピを取り出し、ロランは村人達に教えて回った。自分でも料理が出来るので手伝いたい旨も伝える。豊富な食材が揃うパリとは違うから、どこまでそれを活用できるかは分からないが。
「お嬢さん。何かお困りな事はございませんか?」
 そして聖職者エルディンは、一緒に遊んだ子供達の親と語らい相談を受けつつ過ごしていた。


 イヴェットの護衛ということで、専ら彼女を連れ回して一緒にご飯を食べる係のマートと、一見頼れるようだがお嬢様育ちなので農村生活の事はさっぱりなリリーの2人が専属についた。
「イヴ? 玉ねぎの採り方はそうじゃないわよ? こう‥‥ひねるのよ。野菜は3回ひねって取るのが普通よ」
 リリーの雑学は、時折嘘が含まれる。ついでに彼女は農作業には全く参加していない。指示を出すだけだ。
「そうか。リリーは物知りだな」
 そして時折騙されるイヴェット。何もかもがこんな調子である。そもそも2人で哨戒に行ったついでにキノコや木の実を採った時も。
「この茸は美味しいのよ」
「色がちょっと可笑しい気がするが」
「それがイイのよ」
 と言って持って帰って。
「‥‥リリーさん。これはちょっと危険な茸ですよ」
 とエルディンに言われたりするくらいだ。最も彼女は、自分達が選別出来ない事が分かっていて持って帰ってきている。
「食糧庫への打撃を抑えようと思ったのですわ」
「ふむ‥‥食料庫か」
 近くで仕事を終えてワインを飲んでいたヘラクレイオスが、ちらりとそちらを見た。正確には、席について嬉しそうに盛りだくさん食べているマートを。
「‥‥お小さいのに、どこに入っているんでしょう‥‥」
 今晩の食事を作ったロランが首を傾げる。
「まぁそれは‥‥あの人も同じか」
 台所用品を手入れしていたロックフェラーも、マートの前に座ったイヴェットを見た。彼女は楽しそうにマートと話しながら食事を始める。
「‥‥この光景。つい最近見た覚えがあります‥‥」
 用意してあった料理が見る見るうちに減っていくのを眺めながら、思わずロランが呟いた。


 謝肉祭と言えども、豚はまだ食べられるほどには太っていない。
「あんまり食べるとあの豚のようになるわよ」
 とリリーに突っ込まれたが、彼女なりに食べる量は抑えているらしい。
「戦場に出れなくなるのは困るな」
 太って困る理由の最初がそれなのだから、女性である前に騎士であると言う事なのだろう。
 ともあれ豚はまだ食べられないので、羊を神に捧げる事となる。実に簡単に分かりやすく神への祈りを済ませた後、エルディンはアデラがくれたという苗木や香草の世話を始めた。林檎と木苺はまだ実をつけてはいない。若木の世話をしながら農地に鍬を入れて、ぜいぜい言っていた。終いには雑草をぶちぶち抜く事だけに専念し始める。
 謝肉祭は始まったが、豚小屋と鶏小屋はまだ完成していなかった。仕上げに木の補強をしっかりして、中に持ってきた藁を少し入れる。その足でヘラクレイオスは気になっていた掘の様子を見に行っていた。以前は用水路として使っていたものを、村を守る為の掘と石塀として作り直したのだ。勿論村の外側部分だけである。見張り台は既に作られ、大体の石塀は完成しているようだ。もう少し高いほうが理想的だろうが、そこまで石材を運んで積むのは時間も手間もかかる。ヘラクレイオスは念入りに塀の石組みを確認しながら、堰き止めた水路なども見回った。
 ロックフェラーは一通り農具などの手入れが終わり、鶏の雛に餌をあげている。村内でも何となく動物の世話は続けていた。それらが終わると謝肉祭をする為に卓を外に出す準備である。テーブルに椅子、台、それから解体された羊と持ち運んだワインに魚の燻製、果実なども運び出して、特別に彼が磨き上げた大鍋を用意した。
「良い匂いがするな」
「うはぁっ‥‥イヴさん何時の間に?!」
 実は作業をしながら密かにイヴェットを見張っているつもりだったロックフェラーなのだが、リリーやマートが付いているし村滞在3日目にもなると油断もするものである。後ろを取られて仰天した。
「ごっはん♪ ごっはん♪」
 器を運びながら時折食材を眺めているのはマートだ。食事の準備は張り切って手伝っている。
 エルディンが許可を貰って取ってきた香草の数本も鍋に入れ、ロランが大鍋料理を開始した。
「冒険者は皆料理も出来るのだな。羨ましい」
 イヴェットに真正面から言われて、思わずぼとっと調理道具を地面に落としたりはしていたが。一方ぐつぐつ煮込まれている大鍋を見た村長デュカスは、2歩下がった。
「あ‥‥これは違うから大丈夫か‥‥」
 そして呟いた。

「酒は皆で楽しめば、より美味くなる物。ましてせっかくの謝肉祭じゃ。村の衆もワインを好きにやってくれい」
 台とテーブルには、次々と料理が並べられた。彼らが持ち込んだ物から作られたものもあったし、村人達が作った作物から出来上がった料理もあった。彼らの料理は実に質素だったが、皆は美味しく頂く。
「さ。主の恵みに乾杯じゃ!」
 勢い良くワインの入った器を掲げたヘラクレイオスに、皆もわっと杯を上げる。
「じゃ、『魅惑の踊り子』が踊りますわ〜」
 皆でワインをぶつけ合い、料理を手にとって歓談を始めると、リリーが見計らったように立ち上がって盛り上げ役として踊り始めた。豪奢な純白の装備で村にやって来た事で注目を集めていたリリーだったが、同じ純白でも思わず目を見張るような薄布で踊り始めた彼女に、純真なロランなどは真っ赤になってしまったほどだ。
「ほら〜。イヴも食べてばかりいないで、芸をしてみせてよ?」
 一通り踊って益々盛り上がった中で、リリーがイヴェットに手を差し出した。その後方で怪しげに隠れ場所をあちこち移動しているロックフェラーが見える。祭りの騒ぎにまぎれてイヴェットを監視しているつもりらしい。近くで静かにワインを飲んでいたエルディンは、イヴェットの杯にさりげなくワインを注ぎ足した。イヴェットの向かい側では、やっぱりマートが。
「美味しい〜美味しい〜」
 全てを平らげる勢いで食べている。
「踊りなら私も出来る。ただし、相手が要るが」
 誘われたイヴェットは笑みを浮かべ、リリーの手を実に優雅に取り、するりとその腰に手を回した。
「‥‥イヴ‥‥?」
「宮廷での踊りくらい、踊れるのだろう?」
 囁かれてリードされて、リリーは言われるままに踊り出す。
「ちょっと‥‥貴女、男性のパートを踊るの?」
「勿論」
 楽しそうなイヴェットに、リリーは少し考えた。まぁ相手は女性だし、夫を裏切る事にはならないだろう。お祭りだしこんなのもたまには。
「‥‥ロラン殿も誘ってみては?」
 やはり真っ赤になってそれを見ているロランに、エルディンが声を‥‥いや発破をかけた。
「え、え‥‥僕は、踊れませんし‥‥」
「若人よ。楽しめるうちに楽しめ。今日は祭りの日。少々の羽目は赦されよう」
 何本目かのワインを持って、ヘラクレイオスがどかっと彼らの隣に座った。
「うん。おいらすっごく楽しんでるよ!」
「そうじゃろうとも!」
「ロックフェラー殿も、いつまでもこそこそしてないでこっちへ来ては?」
 皆が同じ卓に座ったので、ロックフェラーも言われてやって来る。
「まぁでも楽しそうで良かったかな」
 勧められるままにワインを飲んで。
「貴方も誘って来ればいいのに」
 言われて噴き出した。
「エルディンさん、実は楽しんでますよね?」
「私は聖職者。聖職者とは、愛の伝道者ですからね」
 澄ました顔でそう言い、彼は笑みを浮かべた。


 謝肉祭はまだ続いていたが、彼らは村を離れる事になった。勿論イヴェットの休暇の関係で、である。
 2日の謝肉祭も終え、冒険者達は村人とすっかり打ち解けて仲良くなっていた。雛の餌と羊2頭は当初の予定通り、魚の燻製は余ったので置いていく事にする。ロックフェラーは最後の日も雛に餌をやっていた。
 村人達から採れたての野菜もお礼に貰い、彼らは村を離れることにする。
 イヴェットは家畜の世話を直接する事は無かったが、自分が出資した豚も見れたし村の生活も体験出来たし素朴な収穫祭も味わえたしという事で、充分満足したらしい。
「でも、踊りは女性用のものを覚えたほうがいいですわよ」
 別れ際にリリーに言われて苦笑はしていたが。
 そして冒険者達はギルドに報告に出向いた。豚は元気に育っていた事。村も復興が進んでいるようだという事。家畜も増えて備蓄はちょっと減ったかもしれないが、冬は充分越せるだろうという事。そして最後にイヴェットの言葉を伝える。
『大変な時に、快く明るく迎えてくれたエテルネル村の人々に感謝する。私個人の力は小さいが、何か困った事があったら力になろう』
 そして、この体験を支えてくれた冒険者達にも。
 感謝を。