【収穫祭】師匠と娘〜収穫祭の花嫁〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月24日〜11月01日

リプレイ公開日:2007年11月02日

●オープニング

 その村は、3方向を山に囲まれていた。
 村の名はルー村。鍛冶や採掘業が盛んな村である。
「1つ目は、白い物〜」
 村人は全員ドワーフ。子供のようにちょこまかと村内を走り回っている。
「2つ目は、服になるもの〜」
 人の間を荷馬車がゆっくり進んで行った。水の入った瓶が幾つも載っている。
「3つ目は、古い物〜」
 煙が上がる工房の横に別の荷馬車が止まり、村人が軽快な動きで薪を下ろした。
「4つ目は、何か綺麗な‥‥あ、父ちゃん。お帰り〜」
 歌を歌っていた子供達が立ち上がり、馬車から降りたドワーフに駆け寄る。
「ねぇねぇ、どうだった?」
「パリは楽しかった?」
「パリのご飯、美味しかった?」
「おぉ。今回はパリには行っておらんのじゃ。ちょっと領主様の所まで行っておっただけじゃよ」
「な〜んだ」
 子供達はがっかりしたような声を上げたが、すぐに彼らの父親の周りにまとわりつく。
「ねぇねぇ、領主様と何をお話したの?」
「ねーちゃんの話?」
「領主様、来るの?」
「勿論だとも」
 笑顔を子供達に向けながら、彼は大きく頷いた。
「パリに連絡もしたのじゃ。きっと‥‥楽しい人達が来ると思うのじゃ」

 同じ頃。
 パリの冒険者ギルドでは、ギルド員が頭を悩ませていた。
「ん〜‥‥あ、あ‥‥あい‥‥よ‥‥よぶ、かな‥‥」
 ギルド宛に送られてきた手紙が解読出来ず、彼は朝からこうして格闘しているのだ。
「いや、待てよ。これは‥‥そうか。『挨拶は、いつも元気に!』」
「違うだろ」
 後ろから苦笑されてギルド員は顔をしかめる。
「そんな事言ってもなぁ‥‥。これを読むのはかなり厳しいぞ?」
「それ、何処から来た、誰からの手紙なんだ?」
 問われてギルド員は少し考えた。
「あぁ‥‥確か、ドーマン領ルー村の宝飾職人、ドミル氏だったかな」
「それなら多分話はこうだろ。『娘の結婚式があるから、周知して欲しい』。これだ」
「冒険者ギルドで周知?」
「依頼を出した事もあるお人だし、パリでも一時装飾品の注文を受けて作っていた。ギルドから協力をお願いした事もある。冒険者とも親交があるようだが読み書きは出来ないお人だから、個別に連絡を取る事も出来ないんだろう。それにしても‥‥本当に読めないな、これは」
「だろう?」
 もう1人のギルド員は、手紙を手にとってしばし考え込んだ。
「そう言えば、ドミル氏が製作物を売りに言っている商家があったな。恐らくそこにも手紙が行っているはずだ。訊いてみるか」

 このギルド員が、ドミルの為に動くのには訳があった。
 かつて、彼の家族が住む村の付近にブリザードドラゴンが出るという事件があった時、ドミルが冒険者と共に、一時住民が避難する為の洞窟を探したのだ。春になってからは住民達は再び自分達の村に戻り、壊されている場所は修復し、何とかこの秋の収穫祭に収穫物を神に捧げる事が出来るほどには実りを実感する事も出来たのである。洞窟の中は冬は暖かく、そこに避難する事で助かった命もあったと言う。
 その後、村の者達が6月に結婚する事になった時も、ドミルに指輪作成を依頼した。彼はその時にはもう、パリでもそれなりに良い腕を持つ宝飾職人として名が広まっており注文も相次いではいたが、喜んで指輪を作ってくれたのだ。
 そんな彼の娘が結婚する事になったという話は聞いていた。それも‥‥6月の話だ。7月に結婚するから急いで指輪を作らないと、という話だった。だが、娘の夫となるドワーフは大工であり、村周辺だけに留まらず領地内の家を建てて回るような活動的な男だった。預言による災害があちこちで発生し、他の領地にまで足を運んだ事もある。そんな彼が、弟子達を連れてパリまでどうしてもと言って出かけたのが7月に入ってからの事だった。ドミルの娘は、夫となる男が自分の命も顧みずに出かけていく事を応援し、素直に男を待った。
 その男とは、このギルド員も一度だけ会った事がある。家を建て直す為の資材が要ると言って、周辺で便宜を図れる所は無いかと訊きに来た事があったのだ。彼らは木こりも同時に生業にしていたから、領主の許可を貰えばそれで済む。ギルド員はその為に便宜を図ってやったのだった。
 パリでも収穫祭が始まり、男と弟子達も村に帰ったと聞いている。
 ならば、やっと始まるのだろう。少し遅れてしまったが‥‥2人の結婚式が。

『冒険者の皆さんへ
 ドーマン領ルー村に住む、宝飾職人ドミル氏の娘さんが、収穫祭も兼ねて村で結婚式を挙げるそうです。村では収穫祭の準備と共に結婚式の準備も行っています。娘さんの夫となるドワーフは、近くのヴェル村から来るとの事。ルー村のドワーフ達は皆、賑やかで楽しい事は大好きな陽気な人々です。盛大にお祝いをし、一緒に楽しめる方は、遊びに行かれてはいかがでしょうか』

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6999 アルンチムグ・トゥムルバータル(24歳・♀・ナイト・ドワーフ・モンゴル王国)
 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb1789 森羅 雪乃丞(38歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3781 アレックス・ミンツ(46歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

セレスト・グラン・クリュ(eb3537)/ 天津風 美沙樹(eb5363)/ ポーラ・モンテクッコリ(eb6508

●リプレイ本文

 さぁ、歌えや踊れ。潰れるまで飲み明かせ。今日は楽しい祝いの宴だ!


 かたこと馬車は揺れていた。晴れ渡った空の下、歌が森に流れて行く。
「そうね。ドワーフの結婚式については話しておくわね」
 ナオミ・ファラーノ(ea7372)が、馬車に乗っていた者達に話し始めた。
「おぉ、それは助かりますぞ。私は師匠以外に親しいドワーフの方がおりませんので」
 馬車の御者を務めているケイ・ロードライト(ea2499)が、興味深そうに声を上げる。
「ギルド内では女性ドワーフを見た事が無いという人も多いでしょうしね」
「そやな。最初に花嫁の髪と髭を褒めてやらなあかんで? うちの三つ編みお下げと三つ編み髭を見てみぃ。立派やろ?」
「あの‥‥触っても良いのですか?」
 蒙古馬で馬車と並走していたアルンチムグ・トゥムルバータル(ea6999)が胸を張ると、鳳双樹(eb8121)が思わずそう尋ねた。
「親し無いと嫌がられるで?」
「そうですよね」
「で、お嬢さんは何を?」
 微笑みながら話を聞いていたシェアト・レフロージュ(ea3869)に、森羅雪乃丞(eb1789)が訊く。『何』とは、彼女がパリで買ってきた布や糸の事だ。
「ふふ‥‥双樹ちゃんとお花を作ろうかと思って」
「美人2人が作れば、さぞ綺麗な花が出来るだろうな」
「あの村か?」
 遠くに煙が上がっているのが見え、アレックス・ミンツ(eb3781)が目を細める。
「あれが師匠の住む『ルー村』ですか‥‥」
 感慨深げにケイが呟いた。

 1人別行動をしていたライラ・マグニフィセント(eb9243)は、ポーラから聖別された布と祝福されたスカーフを貰っていた。ドミルの事を知っているポーラからの祝いの言葉も貰い、その足でジュールの家に向かう。祝福を彼の師であるベルトランに頼んだ彼女は、収穫祭で2日程休みを取っていたその少年にまず礼を告げ、シェアトからの手紙を渡した。少年もドミルの結婚式を楽しみにしていたので、伝言と少年から渡された贈り物を預かる。
「最近、橙分隊のパーティに参加したのさね」
 近況も述べると彼は非常に喜んだ。
 そして彼女は馬車組に追いつけるよう、馬に飛び乗った。


 ルー村は、既に宴真っ盛りだった。
 ドワーフサイズの家々は花や葉や枝で作った飾りで彩られ、あちこちには『ようこそルー村へ』と書かれた看板が置かれていた。村で使われている荷馬車もこの時ばかりは華やかだ。子供達が干し藁を敷き、沢山の花や実で飾りつけしているのが見える。
「あれは‥‥花婿と花嫁が乗る馬車かしらね」
 ナオミがそれを見て呟いた。
 馬車は両脇に畑が広がる道を通り村内へと入って行く。そんな彼らにわらわらとドワーフ達が集まって来た。
「おう、話は聞いとるぞ。ベック家の祝いに来た奴らじゃな」
 豊かな黒髭を蓄えた男が、彼らへ両手を広げる。
「ようこそ、ルー村へ。長旅は疲れたじゃろう。さ。酒にしようや」
 ひょいと1人のドワーフが御者席に上がって手綱を取った。そのまま一行をやや大きめの家へと連れて行く。その道すがら、村人達は興味深そうに駆け寄って来ては挨拶して去って行った。
「あ。ドミル師匠ですぞ!」
 家の前にはドミルが待っていて、彼らに手を振っている。馬車と馬を下りた一行に、ドミルは嬉しそうに挨拶をした。
「こんなにたくさんの人が来てくれて嬉しいのじゃ。わしはドミル。花嫁の父親なのじゃ」
 その横にはドミルの妻や子供達も居る。ケイは『不肖の弟子ですが‥‥』と彼らに挨拶し、村を見回した。
「長閑で良い村ですなぁ」
「存分に楽しんで行って欲しいのじゃ!」
「酒でございますか! 負けませんぞ」
 
 アルンチムグとナオミは、専ら村のドワーフ達に声をかけられた。7割方が男性で、その大半が『嫁に来ないか』だったが。
「あたしは旦那様がいるもの」
 ナオミはあっさり断った。アルンチムグは誘われれば飲み食いに参加し、村の広場でよく彼女の故郷の話をした。ルー村のドワーフ達は、ノルマンのあちこちに修行の旅に出る事はあっても、他の国の事は全く知らない。日に日に彼女の周りには人だかりが出来た。大草原に散開して暮らす生活。家族の話。彼らの風習。同じドワーフでも住む場所が違えば様々な事が変わってくる。
「酒と宴会好きは一緒やな」
 夜になれば、満天の星空が見渡す限りの草原の頭上に広がった。その天の下、彼らは歌い、踊る。楽器と独特の発声を効かせて、その音は草原中に響き渡って行く。
「私も‥‥故郷に帰りたくなりました」
 いつの間にか話を聞いていた双樹が、笑って溜息をついた。
 アレックスは村内を回っていた。鍛冶の村でもあるルー村は、収穫祭の時期は仕事もお休みである。だが村人に許可を取って工房などを見せて貰い、その細工物に目を見張った。
「この宝石は?」
「そりゃドミルが細工したもんだ」
 ドミルは宝飾職人。武器や防具が作れないわけではないが、それらに細工をするのも仕事だ。この村ではそういう共同作業も少なくないらしい。
「皆で作ったほうが楽しいしな」
「成程」
 ゆったり見回っていると、子供達に声をかけられた。
「ねぇねぇ、おじちゃんにはどうしてお髭がないの?」
「ん? 髭か‥‥」
「いつ生えてくるの?」
「村の人達のようには残念ながら生えないな。俺は人間だ」
「にんげんにはお髭がないの?」
「いや‥‥」
 一方、こういった質問は他の皆もされていた。勿論男女問わず。
「ドーマンの領主殿は確か人間で髭も生えていなかったと思うが‥‥」
 何となく記憶にある姿を元にライラは告げたが、そもそも村にドワーフ以外が来る事のほうが珍しいらしい。
 その領主の娘が村人達に教えたと言う『祝いの歌』は、村のあちこちで聞く事が出来た。
「その歌は初めて聞きます。宜しければ、教えていただけませんか? 一緒に歌いたいですし‥‥」
 シェアトが尋ねると、彼らは喜んで教えてくれた。花嫁が嫁ぐ際に持って行くと幸せになれる4つの物を歌っている。
 彼女はその歌を他の者達にも教えた。明るく弾むようなリズムの歌なので歌いやすい。
 ナオミは花嫁の元へ度々通っていた。自作のブローチを、ドレスに合わせて貸そうと言うのである。
「そう。色は黄色なのね。じゃあ、同じ色は避けてアーモンドにしましょうか」
「その意匠は、パパも昔良く作っていたの。懐かしいわ」
「喜んで貰えて嬉しいわね。‥‥ある村の風習だけど、こういうのがあるのよ。『幸せな夫婦生活を送る者から借りた物を婚姻の際に身につけると、貸した者の幸せが伝染する』。良かったら、ウチの幸せもお裾分けさせて貰おうと思って」
「ナオミさんの旦那様かぁ‥‥。きっと、素敵な目と髭の方なんでしょうね」
「ふふ‥‥」


 ライラが持って来たスカーフに、皆は祝福の気持ちを込めて1針ずつ刺繍を縫いこんだ。
 彼女はメダルとラブ・ノットを組み合わせて上からスカーフを包んで縫い、それを中心にして刺繍を織り込んでいる。道中も、そして村でも。
「あら。ライラさんは、まだ頑張っていらっしゃいますね」
 数本の花を束ねて持ってきた双樹が声をかける。
「おや、双樹殿のそれは‥‥シェアト姉と作った花かな?」
「はい。シェアトお姉ちゃんの持っている見本を見ながらですけど‥‥結構難しくて。でももうすぐ全部出来ると思います」
「あたしも切り上げるかね。凝り過ぎると‥‥朝になるさね」
 一方まだ頑張っていたシェアトは、『聖夜の雪』と呼ばれる花の造花を見ながら花びらを挿し込んでいた。
「‥‥エルネストさん‥‥」
 思わず声が漏れて我に返ったところで、1人のドワーフと目が合った。
「エルフのエルネストを、あんた知ってるのかい?」
「えっ‥‥?」
 思いも掛けない場所で問われて、シェアトは言葉に詰まる。
「花を探してずっと旅してるんだって言ってたよ。何年か前に来て1ヶ月くらい居たけど、今頃花は見つかったんかねぇ‥‥」
「‥‥見つかったと思います」
 微笑みが浮かんだ。長い間遠回りしていたように見えた2人の男女の事を。彼女は静かに想った。

 そして彼らが結婚式に向けて準備を進めている中。
「師匠! この感触は間違いありませんぞ!」
「おぉ、じっくり脇から掘るのじゃ!」
 師弟は何故か裏の山で採掘に勤しんでいた。


 結婚式当日。
 雪乃丞は花嫁と花婿の元を訪れていた。
「月の女神のような御髪を持つ花嫁と、美しき花嫁を射止めた勇敢な花婿お2人。出来たらボクに貴方がたの未来を見せていただけませんか?」
 占いをしようと言う彼に2人も喜ぶ。花婿はこの村のドワーフ達と比べると堅い性格の持ち主だったが、花嫁の事をよく思いやっていた。
「花嫁さん、お手を‥‥」
 柔らかい口調で言い、そっとその手を取る。
「素敵な手相をお持ちですね」
「手相?」
「えぇ。手は小さな星空です。掌にその方の人生が凝縮されているとも言われています。では、旦那様と共にタロットに手を置いて‥‥」
 札の上に重ねて手を置いた2人を見つめ、雪乃丞は穏やかに微笑む。
「‥‥見えましたよ、明るく暖かな日差しのイメージ。お2人は幸せになる事でしょう。‥‥お幸せに」

 結婚式は村の広場で行われた。
 ルー村にはクレリックが居ないので、ヴェル村から村人達と共に神父もやって来ていた。
 ドワーフの数が倍増すれば村内は益々賑やかだ。結婚式は粛々と行われるかと思っていた者達は、主役達の脇から祝いの言葉を投げかけ過ぎて神父の声がかき消される様に驚いた。だが神父も気にしてはいない。指輪が渡され誓いの言葉を述べると、すぐさま2人には酒が渡された。
「こん酒のよーに、新婚生活が甘ぅなるようにな」
 蜜酒『ラグディス』を2人に贈ったアルンチムグは、笑いながら花婿の肩を叩き飛ばす。
 シェアトと双樹は、造花に薔薇の匂いを香らせて贈り、ライラはブルースカーフを手渡した。
 それから後は、いつ終わるとも知れない宴会の始まりである。

「ほほぅ。これは上質の貴腐ワインですな」
「シェリーキャンリーゼだ。まだあるから持って来よう」
「まぁまぁ。まずは一杯飲め。話はそれからだ、兄弟」
 鍛冶師である事が知れたアレックスは、同じドワーフ鍛冶師達から兄弟と呼ばれている。酒を飲むと無口になってしまう為、彼らのペースに合わせて飲むと場の空気が冷えるのではないかと心配した彼だったが、実際そうなったアレックスに。
「お〜、それでこの前、名酒を見つけたのよ!」
 彼の肩など叩きつつ、誰が聞いてる聞いていない関係なく話続ける村人達だった。
「私はエチゴヤで購入したワインとベルモットですぞ〜。ささ、皆さん空けて下され」
 ケイはドワーフ達の間に入って器を叩いている。
「これはパリの西で取れた新酒で、なかなかの美味。こっちは」
「おぉ、気が効くのじゃ!」
「いろんな酒があると楽しいのぅ」
 ケイの予想通り酒の品評会にもなったが、どの酒も美味い! という結論で終わった。
「あ〜、勿体無いわね〜。あたしの旦那様も連れて来れば良かったわ!」
 ナオミやアルンチムグも当然酒を持参してきている。それを皆に注いで回りながら、ナオミは声を出した。
「全くだ。あんたほどの女の旦那だ。さぞ豪胆で呑みっぷりがいいんだろうねぇ」
「勿論よ♪ あら、この新酒のワイン美味しいわね。こっちの熟成ワインは‥‥こっちも最高の味だわねっ」

 酒が一通り回れば、今度は歌や踊りが始まり出す。陽気に杯をぶつけ合い、くるくる2人で回る踊りだ。
 アルンチムグがモンゴルの踊りだと言って、杯を頭の上に載せて踊り出した。幾つも重ねて踊る宴会用のものらしい。たちまち村人達も真似を始めては頭から器を落とし、大笑があちこちで沸き起こる。
 シェアトはアルンチムグの踊りに合わせて竪琴を奏で、アルンチムグの横笛に合わせて小鳥の囀りのような声で歌を歌った。楽しい歌、優しい歌、陽気な歌。2人の周りで村人達も真似して踊り、奏者達にも酒を振舞う。
「う〜ん‥‥いや、うちのさぁ‥‥カミさんはさぁ‥‥マジで‥‥ほんと、ま・じ・で。かわい〜わけよ‥‥」
 かなり早い段階で酔っ払った雪乃丞の相手をしているのはライラだ。
「具体的には、どういう所が良かったのさね?」
「え〜? そんなのぜ・ん・ぶ! うひゃ〜ひゃはは〜。あ〜‥‥俺、ほんと幸せだぁ‥‥」
 テーブルに突っ伏した彼に苦笑しつつ、ライラは男を眺める。
「ライラさん。お隣宜しいですか?」
 ひょっこり現れた双樹も頬が赤い。手には小さな木の実が乗っていた。
「それはどうしたのさね?」
「村の子達に貰いました。あ。赤ちゃんも抱かせてもらったんですよ! すっごく可愛くて‥‥ぷにぷにしてて」
 ほわ〜という表情の双樹。
「‥‥ライラさんは‥‥何か良い事、ありました?」
「皆の惚気話は楽しいな」
「はい!」
「シェアト姉も‥‥何を見ているのか、顔でわかってしまうな」
 2人の視線が、ぼーっとしているシェアトに注がれる。彼女の視線の先は、ドレスを着て酒を飲んで楽しそうにしている花嫁だ。
「シェアトお姉ちゃんも早くドレスが着たいですか?」
「えっ‥‥」
「心ここにあらずという顔をしていたのさね」
「そ、そんな‥‥私はそんなの‥‥まだ‥‥」
 つんと突かれて、シェアトは赤面した。
「その‥‥キラキラしていて素敵だなぁ、って‥‥」
「お姉ちゃんもキラキラしてますよ」
 笑って双樹が空を見上げる。藍の空に広がり始めた星が、見守るように瞬き始めた。


 結婚式は2日続いた。
 ナオミは2人の為にレリーフを作り始め、アレックスは鍛冶師達に連れ回されつつ酒に付き合わされた。歌は絶える事なく村中を包みこみ、朝から晩まで続く賑やかな騒ぎ声に睡眠不足になる者も多かった。
「ケイ。今回は嬉しかったのじゃ」
 程よい倦怠感に包まれつつ、彼らが村を出る日がやって来た。
 皆は村の収穫物を貰い、村人達に見送られる。
「双樹さんも嬉しかったのじゃ。穴掘りに興味を持って貰えるだけでわし、生きてて良かったと思うのじゃ」
「私達も嬉しいですぞ。師匠と娘さんと、それから家族とドワーフの皆さんと。巡り会えて楽しく同じ時を過ごせた事は、私の宝物ですからな」
「次に来る時には、もっと酒を鍛えるのじゃ!」
 師弟は互いに笑い、別れを惜しんだ。
 馬車が動き始める。頭痛でくたばりつつ雪乃丞は遠くなっていく村を眺めた。
「‥‥やっぱ、結婚はいいなぁ‥‥。何度してもいいもんだよな」
「あら。今の奥さんはどうするの?」
 結婚式中、雪乃丞の惚気話を皆は聞かされている。ナオミが悪戯するように笑んだ。
「な、なな何言ってんだ。その‥‥今のカミさんとに決まってるだろ。何度でもさ‥‥アイツの綺麗な」
「おっと虫が」
 べしっとアレックスに叩かれて叫んだ雪乃丞に、皆は声を上げて笑う。

 人の幸せは伝わって行く。
 波紋のように揺らめきながら。
 貴方の道にもそれは、広がって行くのだ。