山賊殲滅作戦

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 78 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月14日〜11月20日

リプレイ公開日:2006年11月19日

●オープニング

「もうすぐ冬になる」
 焚き火に枝を投じ、武装した男が呟いた。
「物資は揃った。しかし、このまま一気に押し潰すには、元より人が足りん」
 向かい側で火に手をかざしていた男も、深く被った鉄兜の下、小さく息を吐く。
「冬に入る前に‥・・。いや、そろそろ、決着を付けねば」
「リン=レンにまかせるより他あるまい」
 テントの中から出てきた男が、近くの地面に刺してあった槍を手にした。
 一同は、日が昇り薄っすらと青みがかって来た空を見つめる。
 決戦の時は近い。

「僕はリン=レン。こっちは、レイ=レン。僕の弟です」
「よろしく」
 2人のシフールが、ちょこんと冒険者ギルドのシフール用椅子に腰掛けていた。
「早速ですけど、話を始めていいですか?」
 礼儀正しくお辞儀をしてから、リン=レンはバックパックを机の上へ置いた。その中から一枚の羊皮紙を取り出し、テーブルへと広げる。それは、シフール用に少々小さめの絵ではあったが、どこかの地図のようだった。
「僕は、とある領主様の家で働いている者です。1ヶ月以上前、前々から領内で暴れまわっている山賊共を討伐するため、兵士達が出向きました。領主様が抱える者の中でも腕利きの者達ばかりです」
 地図の一点を指差しながら、リン=レンは説明を続けた。
「しかし、思うよりも山賊の数は多く、しかもきちんと統率されており、非常に苦戦を強いられることとなりました。1対1、2対1でも負ける相手ではないのですが、その山は彼らの庭のようなもの。兵士達が陣を張った場所付近も、領主様の館へ向かう道へも、各地に罠が張られ、なかなか奴らの拠点を叩くことが出来ないでいました。そうこうするうちに1ヶ月が経ってしまい、物資が尽きそうになったりもしたのですが、冒険者の皆さんに助けて頂いて、その危機は回避されました。ですが、もう随分と秋も深まりました。今、動かなければ、このままずるずると長引き、冬になってしまうかと思われます」
 そして、地図のあちこちのメモ書きを指しながら、一同の顔を覗き込む。
「僕が以前に調べた罠の場所や、山賊の配置を示したメモです。レイ=レンが、領主様の館から増援と共に駆けつけ、気を引きます。その隙に、陣を張って待機をしている兵士の皆さんと合流して、一気に山賊の拠点を叩いてください。兵士の皆さんは、貴方がた位か、それ以上の腕の持ち主ですが、罠などを外したりするのは少々苦手としています。発見出来ず罠にかかった人もいるくらいですから。魔法を使える人も1人しかいません。でも、剣や槍の腕は確かだと思います」
 隣に座るレイ=レンも頷いた。 
「弓を使える人は多くありませんが、何人かいます。ですが、敵は弓を使う者も多いようです。しかし、1人1人は強くありません。一部を除けば、貴方がたよりも弱いと思います。ですが数が多い。くれぐれも、油断なさらないでください。僕も途中までは行きますが・・戦うことは出来ませんから」
 そして、2人のシフールは再度、深々とお辞儀をする。
「どうか、山賊退治にご協力ください。宜しくお願いします」

●今回の参加者

 ea8063 パネブ・センネフェル(58歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)
 eb5486 スラッシュ・ザ・スレイヤー(38歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8226 レア・クラウス(19歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

カルル・ゲラー(eb3530

●リプレイ本文

●合流前
 一同が仕事の話を聞いてから3日後。
 町の門前に、内側を木材で強化された幌を被った馬車。そして1人のシフールが待っていた。
「お待たせ」
 レア・クラウス(eb8226)が重そうに歩いて来て、挨拶をする。
「増援部隊との打ち合わせは、以上で問題なかったかな」
「はい。大丈夫だと思います」
 今回の依頼人リンと話をしているのは、アリスティド・メシアン(eb3084)。勿論、この日が2度目の顔合わせではない。一同はこの3日間で今回の作戦を練り、増援部隊への依頼事項も含めて綿密な計画を立てようとしていた。これらの打ち合わせ内容は細かい指示も含めて、リンの弟レイが領主宅へ持ち帰っているはずだ。

「ま、乗りかかった船ってヤツか」
「さぁて、リン。極上の葉巻は用意してあるんだろうな?」
 パネブ・センネフェル(ea8063)とスラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)。そして。
「ごきげんよう。今回も宜しくお願いしますね」
 パール・エスタナトレーヒ(eb5314)も合わせた3人は、先日物資を運び兵士達の命を救った恩人でもある。3日前、彼らの姿を見たリンは大喜びで飛び回っていたが、その後集まった冒険者達も含めた作戦会議に、すぐに真剣な表情となった。
「増援組には、野営する時の灯の数を増やして広く展開したり、テントや馬車に見える物を大量に作って実際の何倍の戦力があるかの様に見せ掛けて、牽制して頂きたいわね」
 天津風美沙樹(eb5363)の提案にアリスティドも同意して、彼らにランタンを多く持たせ、こちらはランタンの灯りを隠す事を述べる。だがリンは、兵士の多くは夜目が効かず、夜間は山賊のほうが有利なので日中に襲撃する予定である事。よって、ランタン作戦はかなり離れた所で行う事になるだろうと告げた。
 だが、元々増援隊は囮役である。それで充分だろうと一同は頷いた。

 馬の手綱をアーシャ・ペンドラゴン(eb6702)が持ち、スラッシュの手伝いに来ていたカルルの愛らしい見送りを背に、馬車はパリを出発した。

 一行は、以前物資を積んだ馬車が進んだ道と同じ順路を辿る。だが以前遭遇した山賊共の襲撃や、道を阻む罠も無い。そのまま彼らは陣近くまで進んだ。
「この辺りに小高い丘とかない?」
 地図を見ながらレアが問う。テレスコープを使って兵士達の居場所を的確に探ろうと思ったのだ。
「兵士さん達の居る所は変わってないですから、大丈夫ですよ」
 リンは笑って答え、それならとレアも敢えて実行はしなかった。代わりになるように、パールが時折上空に上がって下方を確認する。眼下に広がる山の中からは2箇所、煙が昇っているのが見えた。1つは兵士達の陣。そしてもう1つは。
 その後、誰も居ない見張り台の近くを抜け、何事も無く兵士達の陣に一行は到着した。

 だが。
 そんな彼らを、少し離れた茂みの中から4つの目が見つめていた。

●合流
 兵士達は既に準備万端で待機しており、一行を喜び迎え入れた。
「剣にささげたこの身、人々の盾となりましょう」
 ナイトであるアーシャの言葉と笑みに、兵士達も頷く。彼らは冒険者がどういう物なのか分かっているようだった。女だろうが子供だろうが小さかろうが全く気にしていない。
「攻め込むのは、明日になるわね」
 元々そのつもりだが、増援隊と息の合った行動を取れるのかどうか。やや不安になりながら美沙樹は空を見上げた。狼煙の合図をする事で敵に動きを悟られるわけには行かない。よって、太陽の位置でそれぞれの行動を取り決めていたのだが。
「晴れるといいですね〜‥‥」
 横からパールが飛んできて、同じように西日を見つめる。
「僕の風読みによれば、ほぼ間違いは無いと思うけれど、どうかな」
「そうね。あたしも読んでみる」
 その後方で、アリスティドとレアが明日の天候を探り。
「ヘヴィな戦いになりそうだぜ‥‥」
 そんな中、とりあえず木の幹にもたれかかって、スラッシュは葉巻を堪能していた。
 ついでにその木の逆側ではバネブがペットに餌をやっていたが、それは誰にも発見されなかった。

「そうか。やはり来たか」
 ローブを身につけた男が、報告を受けて呟く。
「まさか物資同様、外地から援軍を頼むとは」
「数はこっちが多い。やっちまおうぜ」
 彼らは低く笑い、頷き合った。

●出陣
 早朝、陣に数人の兵士を配し、彼らはその場を後にした。
 そこには冒険者達の荷物があったし、兵士達の物資も少なからず残っている。最悪、退却せねばならなくなった時の事を考えると、背水の陣で挑むわけには行かない。
 彼らは菱形に陣形を組み、アーシャとスラッシュが左右の外側に立ち、アリスティド、レア、パールが中央部分へ。美沙樹、パネブがその前方を行く形となった。しかし20人を超える大所帯である。あまり密になり過ぎないよう、しかし離れすぎないよう注意して進む。
「これで幾つ目かしら‥‥」
 美沙樹は印を付けられている場所を見て、小さく溜息をつく。彼女のやや先を行っているパネブが発見した罠に印を付けたり、或いは外したりしているのだが、予想通り数が多い。うんざりするほどだ。
「これは面倒だから回避する、と‥‥」
 彼女も印を付けながら、辺りに気を配った。罠が2重3重になっている可能性があるからだ。1人なら引っかからなくても、大人数だと誰かがかかるかもしれない。ましてや兵士達はこの方面には疎いのだから、尚更時間がかかる。
 それでも注意深くパネブと美沙樹は罠を見つけて行った。
 一方、陣形組。パールは、アリスティドの服にぺとっとくっついていた。飛べないわけではないが重いのだ。しかし時折よたよたと上空へ飛んでは敵の位置を確認する。レアも安全を確認された木に登って、テレスコープで様子を窺った。
「どうです?」
 アーシャに尋ねられ、パールは増援隊の方向へ向かっている敵が10人程居ることを告げた。レアも、準備をして出て行く山賊の姿を何人も目撃したが。
「変だな。今ひとつ反応が鈍い気がする」
 動きを聞いたアリスティドは眉をひそめた。
「こちらは大所帯ですからね〜。ばれたのかもしれません」
 パールの言葉に、スラッシュも頷く。
「だとしたら、相手に時間を与えるのは不利じゃねぇか?」
「行きましょう」
 盾を心持ち身体の中央を守るように持ち直し、アーシャは顎を引いた。

 罠を解除するよりも、出来る限り回避する事でより早く進めるよう、彼らは方針を転換した。度々、パールやレアが相手の様子を窺い、その都度増援隊との兼ね合いを考えながら、進んで行く。
 やがて日は西に傾き始め、日没まで後2時間程という所で。遂に彼らは敵の拠点へと到着した。

●突撃
 パネブは真っ先に見張り台へと矢を射かけ、その上へと駆け上がった。敵の拠点は2階建て。周囲に見張り台は4箇所ある。そこから仲間に攻撃を仕掛けられるのは避けたい。
「ここまで敵が出なかったというのも、嫌な感じね」
 美沙樹は、自分の重藤弓を持って他の見張り台を占拠している兵士を確認し、用心深く武器を構える。と同時に、不意に建物の扉と窓が開いた。そして。
「待ち伏せかっ」
 一斉に矢が放たれた。とっさに彼らは盾を構えそれを防ぐが、盾の無い美沙樹には全てを避けきることは出来ない。
「これを」
 素早くアリスティドが近寄り、彼女にリカバーポーションを渡した。だがそれも束の間、次の矢を番える敵の姿が見え。
「詰めて!」
 彼らは盾を構えつつ、一気に建物の中へと押し入った。
 辺りはたちまち乱戦となり、味方同士が孤立しないよう、コンビネーション技を使いながら戦う中。
「後ろからの攻撃なんざ、通用しねえよっ」
 1人猛烈に戦うアーシャの姿があった。
「ハーフエルフめぇっ」
 叫びながら、誰かが倒される。
「1人は危ないですよっ」
 何とかパールがある程度の距離まで近付いて、付近の敵にビカムワースを撃ち込んだ。
「おい、頭領はどこだ!」
 本当は斥候でもいれば捕らえていろいろ聞き出す予定だったのだが、全く出会う事が無かった為、スラッシュは左手で敵を斬り倒しつつ怒鳴る。その神業のような動きに、敵は恐れを成して今にも逃げ出しそうだったが、その内の1人を捕まえて脅す。
「上じゃないかしら」
 その背を守るように美沙樹は動き、敵の動きを牽制した。
「石が‥‥」
 兵士達の間からスリングを撃っていたレアは、1度も敵に当たらないまま全てのスリング石を飛ばし尽くして途方に暮れつつ、近くに何か落ちていないか探しては、兵士にその都度かばわれていた。
 明らかに劣勢と思われた兵士と冒険者達だったが、山賊の数は目に見えて減って行く。勿論無傷では有り得ないが、力の差は歴然だった。
 そしてアリスティドは、『山賊の首領』を指定してムーンアローを唱えていた。その軌跡はまっすぐに上階目指して飛んで行くかと思われたが、奥へ向かって飛び消え失せる。
「奥へ!」
 彼らは即座に動き出した。追ってくる敵もいたが、最早相手にならない。
「ヴィーだ」
 走りながらスラッシュがアリスティドに告げる。先ほど脅して聞いた、首領の名前だった。奥の扉を開き、すぐさまムーンアローを撃ち込むと。それは一番奥に居た男に当たった。
「ヤツかぁっ」
 アーシャが真っ先に飛び出し、敵は浮き足立った。それへ、皆次々と斬撃を撃ち込む。慌てて弓を構えた者を真っ先に魔法で戦意喪失させたパールがふと窓の外を見ると、パネブの走る姿が見えた。無事だったかと安堵しつつ、再び近くの敵へと向き直る。
 程なく、その部屋に居た者達は全て捕縛された。格好や態度で山賊の幹部だと思う者は見張り、首領を皆は取り囲んだ。
「これで幹部は全部なのかしら」
「そうだ」
 首領は大柄な態度で頷き、ふと辺りを見回した。
「おい、ジャッシュはどうした」
 その問いに対する返事は無い。
 一同は、そのやり取りに顔を見合わせた。

●そして
 パネブは走っていた。最初に放った一矢が、相手の腕に刺さったままなのが見える。
 建物の裏から1人出てきたローブの男。間違いなく怪しいと踏み、彼は追ってきていた。だが、そろそろ味方から離れすぎる距離だ。戻るかと足を止めた時、相手の男が振り返った。
 その手に握られた、十字架が付いた短剣が見えた瞬間、彼は危険を察知し飛び退く。
 それを見て男は低く笑い、そのまま森の中へと身を翻した。

 こうして、山賊団は壊滅した。
 だが。
 終わる事は、何かが始まる事でもあったのだ。