喪いし光、嘆きの宮
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:8 G 32 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月07日〜11月17日
リプレイ公開日:2007年11月15日
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●オープニング
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ドーマン地下迷宮。
ドーマン領地下に広がる迷宮の事である。
「‥‥じいじ。出かけるのか」
一方こちら、パリ近郊の森の中。一軒の小屋の前で、エルフの少女がエルフの老人を見上げていた。
「いつまでも隠れているわけには行かん。前の報告も聞いただろう。あの場所で、何かが起こっている。それも、良くない何かだ。それを確かめなくては、『ダンジョン研究者』の名が廃るというもの」
「そんな名に価値があるのか。命が無くては意味がない」
「オデット、お前はまだ若い」
「じいじより若いのは当たり前だ。‥‥じいじが行くなら、私も行く」
「それはならん」
歳の割りに姿勢の良いエルフ、シメオンは、彼の孫娘を諌めた。
「若い者が早死にしてはならん。あの場所は、以前よりも遥かに危険になっている。かつての『地下帝国』のままでは無いのだ」
「じゃあ、冒険者を連れて行ってくれ」
「そうだな」
頷き、シメオンは僅かに目を細める。この孫娘の事は、大事に大事に育ててきた。幼い頃よりあちこちのダンジョンも含めた野外に連れて行っていた。彼女も祖父を倣い、研究者の道を歩んでいる。大切で可愛い孫娘‥‥。
「‥‥じいじ?」
「いや‥‥。ではオデット。くれぐれも外には出んようにな」
「分かった」
聡い孫娘は、しっかり頷く。
だが同時に思う。この孫娘を1人残すわけには行かない。だから死ぬわけには行かない。しかし大切な者は彼女1人ではない‥‥。置いて来た過去を思い、シメオンは空を仰いだ。
この歳になって尚、命を惜しむとは。
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そして、パリのギルドでシメオンは受付嬢と対峙していた。
「‥‥何であたしの列に並ぶわけ?」
依頼人に対して凄んでみせた受付嬢だったが、シメオンはそ知らぬ顔をしている。
「そういえば聞いていなかったな。何故お前が冒険者になったのか」
「『冒険者ギルド受付嬢』よ。そんな事より、依頼内容は何?」
高圧的に言われるが、シメオンは怒る事なく話し始めた。
「『ドーマン地下迷宮』に供をしてくれる者達を探している。あの地下迷宮で、人間を使って内部の拡張が行われていたと言ったな。真実ならば由々しき事態だ」
「‥‥すっごく今更で、そして全くあたしの情報を信用してないわけ?!」
「そうでは無い。だが自分の目で内部を確かめて見ないことにはな」
受付嬢は一瞬黙り込んだが、すぐに小さく口を開いた。
「あっ、そう。‥‥一応、すっごくちょ〜っとだけ、あんたの事心配してる人もいるんだから、あんま無茶しないでよね」
「そうか」
「あの地下迷宮の入り口付近には、パリから兵士とか騎士が派遣されたって聞いたわ。内部調査は行われているはずだけど、特別情報は入って来てないわね。‥‥あいつらがあんたに情報くれるとは限らないのよ? 入る許可をくれるかどうかも」
「それは、グリー村だけの話か?」
「‥‥そう、聞いてるけど?」
「入り口は幾つかある。入れないなら他から入るだけだが」
「でも、中を掘ってたのは、グリー村から入った先なのよ?」
「中で繋がってないって言ったのはあんたじゃない」
シメオンは軽く頷き、背負っていた袋の中から地図を取り出す。
「この辺りを掘っていたと言ったな。ならば確実にこちらと繋がっている可能性がある」
「‥‥そう」
「探索してみない事には確実な事は分からないが、ギルドに全く情報が来ていないという事は、お前達が迷宮に入って敵を倒して以来、特に変化が無いという事だろう。もしもモンスターなり現れて手に負えないとなれば、依頼がやってくるはずだからな」
「‥‥あんた、何か隠してるでしょ」
「隠し事を持っているのは、エルフも人間も変わらん。特に森を出たエルフはな」
笑って、シメオンはカウンターを離れた。
●
ドーマン地下迷宮。
かつて、地上にハーフエルフ至上主義の国を作ろうとしていた者達が居たと伝承にはある。彼らがその為に地下に広大な帝国を作り上げた、とも。その遺跡が『ドーマン地下迷宮』なのだ。
彼らは様々な野望を胸に、地上で戦いを繰り広げたらしい。だが結局野望叶わず、地下帝国は滅んだ。
現在、冒険者達に知らされている地下迷宮への入り口は3箇所。内2箇所はグリー村の裏山に。後1箇所は、かつて山賊共が根城にしていた跡地にある。今までに何回か探索は行われたが、全てを探索し終えてはいない。
中には様々な仕掛けがあり、かつてシメオンはその場所で命を狙われた事もある。又、ほとんどの仕掛けの先は明かされていない。シメオンは幾つかの謎を解いているのかもしれないが、冒険者達にはまだ多くの謎が謎のままだ。
全てを明かす事は出来ないだろう。だが、動かなければ謎は永遠に謎のままだ。
充分に注意して、探索をして欲しい。
●リプレイ本文
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「『エルフの扉』の向こうには何があったんですか?」
馬車に揺られながら、アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)が尋ねた。その傍らでシメオンが持っていた地図を写していたミカエル・テルセーロ(ea1674)も、興味深そうに顔を上げる。
「あれか‥‥。あれはドーマン領主の館の地下にあってな」
「そこ、後でアーシャと行くつもりの場所なんだけど‥‥」
思いも寄らぬ発言に、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)が呟いた。
「あれ。でも、『ハーフエルフの扉』は地下迷宮にあるんだろ? で、今回はハーフエルフも人間も3人以上いるし、その2つの扉の奥も行こうって話だよな?」
「『人間の扉』はここの地下ではまだ見つかっておらんな。奥まで行けば何かあるのかもしれんが」
頭の後ろに両手をやって組んでいたファイゼル・ヴァッファー(ea2554)は、答えを聞いて周りを見回す。
「どんだけ広いんだよ」
「それで‥‥『エルフの扉』はどうだったのですか?」
テッド・クラウス(ea8988)が再度話を戻し、シメオンは頷いた。
「領主から鍵を借りて行った先に、エルフの扉はあった」
「‥‥鍵って、これの事か?」
アーシャからあらかじめ借りてあったメダルを指で弾き、セイル・ファースト(eb8642)が尋ねる。
「いいや。領主が貸してくれたものだ。扉の奥は、古めかしい装飾品が並んでいた。『地下帝国』ではハーフエルフの次の位に位置したのがエルフだ。その次が人間だな。この2種族が居なければハーフエルフと言う存在は無い。人間のほうが位が低いのは、単純に数の問題だったかもしれんが」
「どっちにしても、蔑まれるのもアレだが、持ち上げられるのも微妙だな」
何となくしっくり来ないシャルウィード・ハミルトン(eb5413)の言葉に、御者を務めていた天津風美沙樹(eb5363)が笑う。
「シャルさんがハーフエルフという事自体がしっくり来ないかもしれませんわ」
「それどーいう意味だ」
「パラはどうでしたか?」
話を聞きながら地図作成に取り組んでいたミカエルがちょっと気になって尋ねた。
「パラとジャイアントは最下層だ。最もノルマンには土着のジャイアントがほとんど居ない。ジャイアントの扉があるかも怪しいものだが」
「最下層‥‥ですか。開けても碌な事にならなそうですね」
やがて馬車は分かれ道に着き、一旦止まる。ここで彼らは3手に分かれ、再び進み始めた。
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アーシャとレティシアは領主の館まで来ていた。
「すみません〜。コイン貰いにきました〜」
出て来た領主から苦笑されつつ古いメダルを受け取り、アーシャはそれをしげしげと見つめる。
「これ、何に使うんですか? 地下帝国に纏わる物って事は‥‥この金の腕輪もかしら」
セザールを捕らえて以来、全く『声』も聞こえなくなった。最早ただの装飾品であるそれを領主に見せるついでに、『鳥』と書いてあるのだと言う事も教える。他にも字は書かれてあるようなのだが、読めたのはそれだけだったのだと。
「この地に、『黄昏の曲』と装飾品は伝わっていないの?」
村を通り過ぎる間に見えた子供達の元気そうな姿に安堵し、レティシアも尋ねた。
「やれやれ‥‥その話をしたのは、エリザベートかな‥‥」
「いえ〜。聖女サマがエミールさんから」
「ちょっとアーシャ。素直に言いすぎ」
声を顰めてレティシアが注意するも、アーシャはえへへと笑って誤魔化す。
「どちらにしても、しょうがない子だ。私たちは遺産と呼んでいるが、装飾品もメダルと同じく13種類ある」
「あれ。エミールさんはコインって」
「古の貨幣である事に変わりはない。我々がこれをばらばらに管理しているのも、盗られない為だったが」
「誰が盗るの?」
「『地下帝国』の生き残り。『地下帝国』の再興を望んでいる者達だ」
アーシャの腕輪を手に取り、領主は頷いた。
「間違いない。これも『装飾品』の1つだな」
「えぇ〜‥‥でもこれ、いつの間にかバックパックに入ってたんですよ‥‥?」
手に入れた由来が由来だった為、アーシャは半信半疑だ。
「ここに書いてある文字は、ラテン語だ。かなり崩してある上に削れているから読みにくいとは思うが、『汝、上を見よ』とある」
「‥‥はい?」
ラテン語が読めるレティシアですら、とてもではないがそういう風には読めない。
「ラテン語を元にした文字とも言える。『地下帝国』で使っていた独自の言葉のようなものだな」
「あの‥‥じゃあ、この『鳥』って言うのは‥‥」
「それは後から削った文字だ。本来の物ではない」
えぇ〜とまだ言っているアーシャを置いておいて、領主はレティシアに向き直った。
「『黄昏の曲』はドーマンには無い。いや、あれを見た事は私も無いのだ」
「見るもの‥‥なの?」
「分からん。それが実在する物かどうかもな」
●
美沙樹とシャルウィードはグリー村に来ていた。
以前ここの近くにある入り口から迷宮に下りた時、皆で村人を救い出しオーガを倒して悪魔崇拝者を捕らえた。あの後彼らがどうしているのか、少々心配だったのである。2人はそっと遠くから村の中の様子を窺い、きちんと生活している風なのを確かめてから中に入った。
裏山には今も兵士達が詰めているらしく、村にも武装した者達が何人か歩いている。村人のほうを捕まえて様子を尋ねると、とりあえず平穏無事に過ごしていると答えが返ってきた。洞窟内部の情報は聞いていないが、兵士達に動きが無い事からとりあえず何も起こっていないらしい。
山賊拠点跡にグリー村行き組と領主館行き組がやって来て合流した時、既に居残り組はシメオンからもそれなりに情報を得ていた。
「『1つ目は空を飛ぶもの』‥‥か。この歌は貴族にのみ伝えられた歌だそうだ。それと同時に受け継がれたコイン‥‥無関係とは思えない」
セイルがまず話し始めるのは、一方的な情報入手ではなく、交渉の話。
「アンタは俺らより遥かに知識がある。だが、俺達もこうして物的なカードを揃えつつある。そろそろ‥‥お互いカードを伏せるよりは、オープンにしたほうがやりやすいと思わないか?」
「伏せていたかな?」
夕食の鍋をかき混ぜながら、シメオンは薄く笑う。
「俺にとって、この件は他人事じゃない。一番大切な奴が関わってる。だからどうあっても終わらせたい」
「終わりは始まりだと言うがね」
「そういう事じゃない。この場所で山賊を倒した時から‥‥続いている流れを断ち切りたい。ジャッシュの指輪‥‥あれから始まった」
「良かろう。皆も聞きなさい。私もまだ調査の途中‥‥それでも良いならば」
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1つの祝福の歌と黄昏の曲。13のコインと装飾品。
コインと装飾品はこの領地に関わる者達が1つずつ持ち、歌と曲は代々伝えられる。かつて『地下帝国』を滅ぼす事に貢献した一族がこの地を賜った。それ以前に地下迷宮の謎も手に入れていた彼らは、遺産を奪われないよう保管する。伝承が残れば狙う者が現れるだろう。危険は排除しなければならない。だから全ては隠された。
歌と曲は1つずつだ。2つは存在しない。コインと装飾品も14以上存在しない。それが存在するならば、後から作られたダミーだ。全ては今も、3領地の貴族達が持っているはずで、それを冒険者に預けるというのは尋常な事ではない。
「白いもの‥‥付近の神聖騎士団が全て白を冠するのと関係があるのでしょうか。古い物は‥‥遺物の事で、綺麗な物は装飾品でしょうか‥‥」
ミカエルは聞いた歌の分析をしている。
「継承されるものと言うのは、何かの鍵になっている事が多い。そして、意味がある物が多い。この歌に何か秘密があるのでは?」
「行ってみれば分かるだろ♪」
それもそうだ。机上の考えでは所詮謎は解けない。
翌日。皆は、ゆっくりと迷宮へと降りていった。
●
「おい。こっちにもエモノくれよ!」
「あらごめんなさい。倒してしまいましたわ」
「アンデッド斬らせろ〜っ」
シャルウィードが叫んだので、慌ててテッドが彼女を抑えた。
「何やってる」
「あ、いえ‥‥シャルウィードさんが狂化するかと思って‥‥」
「するか!」
かつて美沙樹やアーシャが下りてきた道を進むと確かにアンデッドは出て来たのだが、何せ過去にここを通った者達より遥かに強い実力を持った者達である。さくさくっと敵を倒してどんどん進む。
『ハーフエルフの扉』の所に辿り着き、レイスの横を通り過ぎて扉を開く。以前アーシャ達が来た事のある広間まで問題なく進むが、以前現れたゴーストは居ないようだ。
「傍、離れないで」
いざとなったらシメオンの盾になるつもりでいるレティシアの発言に苦笑しつつも、シメオンは専らミカエルを伴って調査を進めた。同じ火のウィザード同士、親近感でも沸いているのだろうか。
「なぁ。これ、ベッドか?」
小部屋で崩れていた金属は確かにベッドに近い形をしている。ファイゼルが鞭をしならせると、ベッドの上の埃が舞い上がった。
広間の隣も部屋だった。しばらくそうした部屋が幾つか連なって続き、廊下があって又部屋が続く。
「この全てに人が住んでいたのでしょうか」
テッドが呟いた。だが不気味なほど何も現れないまま彼らは行き止まりに着いてしまう。
そこの扉には、穴が開いていた。穴は丸く4つ。それへレティシアがメダルを入れると、綺麗に嵌まる。しかし手持ちにあるのは3枚だけだ。1度入れたメダルを再び取って、皆は別の道へと向かった。
広間から伸びていたもう1本の道は、すぐに行き止まる。だがそこにも丸い穴が3つ開いていた。今度は3枚のメダルを嵌めこむと、壁がほんの僅かに動く。その隙間に手を入れて動かすと壁は音を立てながら開いた。
「さて‥‥何が出るか‥‥」
ミカエルが小さく呟く。しばらく道は細かったが、やがて太い道と交差して前へと伸びる。その道に入った瞬間、音がした。複数の音。
「やったな、シャル。今度は数も多そうじゃねぇか?」
「やっと出番かよ」
皆が武器を構え、ミカエル、レティシア、シメオンを中央に据えて円を作る。道の両方から案の定出て来たスケルトンやレイスやらに、皆は斬りかかった。
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そこは祭壇だった。だが祀られているものは当然皆の神では無い。
「もしかして‥‥悪魔崇拝だったのでしょうか」
触れないようにしながら、テッドが周りを歩いてシメオンへと振り返った。
「死んだハーフエルフを祀っているのではないかな。彼らの王を」
「成程」
何かアイテムの1つや2つ落ちていないかと探すも見当たらない。
皆は道を戻って先ほどの細い道ではなく太い道を進んだ。『エルフの扉』も特に珍しい何かがあったわけではないのだと、迷宮に下りる前にシメオンが皆に告げた。種族用の居住区であり、地下帝国が滅んだ際に物は持ち運んでしまったのだろう。ここで死んだ沢山の者達の怨念が残っているものの、少なくとも『エルフの扉』周辺ではアンデッドさえ居なかったと言う。
道は進むと再びレイスが現れる。その扉に書いてあった文字を見て、シメオンが呟いた。
「『人間の扉』か‥‥」
扉の奥も、やはりアンデッドの群れだった。そのほとんどが原型も分からないようなレイスやゴーストだったが、彼らは一様に呟く。『王よ、救い給え』と。
門番であるレイスに対してはオーラテレパスやいろんな言葉で話しかけたりしたが、やはり反応はなかった。
「ここにも嵌めこむ扉がありますわ」
ハーフエルフの扉同様、幾つかの部屋が続いた奥に、それはあった。先ほどの扉で使ったメダルは回収済である。再び入れて進むといきなり壁が壊れていた。
「この穴‥‥続いてるけどどうする?」
ファイゼルがランタンで照らしながら覗き込む。だが崩れ具合からすると、向こう側から掘られたという風で。
「‥‥まだ‥‥掘っているのでしょうか」
思わずテッドが呟き、皆はその穴をくぐった。
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穴は幾つも掘られていた。それぞれが繋がっている先を確かめ、その道のどれもが種族の扉を抜けた先に繋がっている事が分かる。
「でも指揮してた悪魔崇拝者はもう居ないんだろ?」
「あれは一部だったんですよ、多分」
「悪魔崇拝者も、種族の扉の謎を明かしたいって事かもね」
時間をかけてひとつひとつを調べ、アンデッド以外の敵を警戒するものの、その気配はなかった。
やがて道はグリー村から伸びている洞窟へと繋がる。シメオンの地図が次々と埋まっていくのを見ながら、皆は更に奥へと進んだ。そして。
その扉には4つの穴があった。だがそれは、メダルとは明らかに大きさの違う、1つ1つの穴の大きさも形も違うものだった。
「それを入れるといい」
シメオンに言われ、アーシャが腕輪を外して合いそうな場所に嵌めこむ。それは4つの穴の内、一番上のものとぴったり合い、シメオンは頷いて扉の上に書かれた文字を読み上げた。
「『この先へ行く者は心せよ。神と王と力の眠る場所である』」
「何があるのですか?」
ミカエルの質問に、シメオンは再度文字を読み首を振る。
「こんな場所は初めてだ。この穴‥‥形からすると、どれもメダルを嵌めこむものではない。つまり、装飾品が4つ必要だという事だ。そんな扉は今まで見た事も無いし聞いたことも無いな」
「4つ‥‥」
皆はそれらをじっくりと見つめた。アーシャがはめ込んだ穴よりも大きいものは他には無い。
「これ‥‥指輪よね」
レティシアが自分の指輪を外して入れると、確かに形は合わないがサイズ的にはほぼ間違いが無いようだ。
「こっちもかしら」
美沙樹が指差し、じゃあとファイゼルも指輪をはめ込もうとする。
最後の穴はそれよりも一回り大きく、何がはめ込まれるのかしばらく皆で考え。
「装飾品なら‥‥ブローチかペンダント?」
「‥‥『呪われた装飾品』と同じ種類しか無いなら、多分ペンダントだ」
セイルがそれを見つめて呟いた。
「でもあれはローランが作ったアクセサリーですよね?」
「ローランはラティール領主の息子だろ。だったら自分も遺産は受け継いでて装飾品を持っててもおかしくない。奴が悪魔崇拝者でこれが目的なら、遺産に似た形のアクセサリーを作ってばら撒き、本物の遺産と交換する‥‥」
「この迷宮を掘り進める指示をしていたのは悪魔崇拝者ですから、それはあり得ますね。そうして全ての本物の遺産を手に入れ、この地下迷宮を暴いて‥‥。彼らはここに何があるか知っているのでしょうか」
ミカエルにも文字は読めなかった。それを見上げながらそっと呟く。
「ここは‥‥開けても良い扉なのでしょうか‥‥」
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シメオンが4つの穴に掘られている文字を読み、皆に告げた。
『汝、上を見よ』『汝、下を見よ』『汝、前を見よ』『汝、後ろを見よ』の4つ。その文字も実際に書き、読み解く特徴も書き込んでシメオンはそれを渡した。
その先に何が待ち受けているのか‥‥彼らにはまだ分からない。