救うべきものは〜ちびブラ団(家)〜
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 95 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月11日〜11月18日
リプレイ公開日:2007年11月19日
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●オープニング
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長雨が、しとしとと降り続いていた。
男は、小屋の中で外を眺めている。逃げなければ‥‥。その強い思いだけを胸に、歩み続けていた気がする。だがもう体は動かない。寒さと痛みで全身が鉛のように重く、空腹と心の乾きが倦怠感を呼び起こす。
「神よ‥‥」
諦めれば終わる。逃げなければ繰り返す。だが、どこに‥‥?
男は降り続く雨を見つめた。正常に働かない頭で考える。それでも尚、これは神が与え給うた試練だと思う自分がいる。人を救わねばならぬと思う自分がいる。
その時、不意に扉がガタガタ音を立てた。隠れねばと身を起こしかけた所で、男は強い目まいを感じて倒れこむ。
「うひゃ〜。酷い雨っ」
「だから言っただろ! こんな所まで来るなって」
「ジルが遠出するって言ったんじゃん」
扉が開き、子供達の声が男の耳に入ってきた。男は倒れたまま思わず笑みを浮かべる。
「あれ? 人が倒れてるよ?」
「見りゃ分かるだろ」
「具合悪いのかな?」
「死んでるかも」
つんつん。近くにあった棒で男は突かれた。男はその会話に安堵する。平和で穏やかな暮らしをしている子供達だ。
「‥‥」
「‥‥このおっちゃん、何か言ってるぞ」
近付いてきた子供達に話しかけようと、男は起き上がる為に腕に力を入れたが、又すぐに倒れる。
「生きてる、生きてる」
「おい。大人呼んでこいよ!」
「分かった!」
ばたばたと子供達が走って行く音が聞こえた。自分は助かるのだろうか。男は僅かに目を見開き、自分を覗き込んでいる子供を見つめた。
「おっちゃん、神父なのか?」
問われて頷くと、子供は真剣な表情で頷き返す。
「分かった。俺らが助けてやる。だから死ぬなよ?」
子供は、男が片手に握っていたホーリーシンボルに手を当て、強い眼差しで男を見守った。
●
冒険者ギルドに、2つの依頼が入ってきた。
1つは、パリ近郊にある『家』の者が依頼人だ。家族を喪った子供達を育てているが、彼らは皆冒険者を目指している。『家』に住む2人の大人は元冒険者で、後ろ盾を失った子供達がどんな時代でも乗り越えられるようにと『家』を作った。
依頼人の名前はカルヴィン。白のクレリックで人としての礼儀や心を教える担当だが、何かと子供達に甘い。
『家』の子供達は、以前『悪魔崇拝者』達によって攫われた事があった。と言っても2人だけだが、今回は。
「全員で6人。パリから徒歩で3日ほど離れた村に、様々な修行も兼ねて子供達だけで1週間ほど滞在する予定でした」
カルヴィンが言う事には、子供達は3日前に滞在先の村の数人の者達と一緒に姿を消してしまったのだと言う。その数人の村人と言うのは、つい最近村に逃げ込んできた者達だったらしく、彼らの素性は知れない。
「少々無用心ですね」
「村の人達も彼らに同情して‥‥という事でした。と言うのも」
カルヴィンは声を潜める。
「‥‥『収容所』から脱走してきた人達だったそうです」
「『収容所』‥‥」
受付員には覚えがある。『ちびっ子ブランシュ騎士団』の子供達が、シスターと共に3つの依頼を出した。3箇所の収容所に行くという依頼だ。まだ結果がどうなったのかは知らされていない。
「‥‥ノストラダムスの狂信者達、ですか」
「恐らくは。‥‥村の人々の中にはノストラダムスを信じる者達も居たようで、彼らの境遇に同情して匿ったそうです。結果‥‥子供達は彼らに攫われた‥‥。人質とも取れるかもしれません。彼らが何かを要求してくるかもしれません。私は、狂信者達が全て悪いとは思いませんが、子供達を連れ出して行方を晦ましたのは事実です」
事情はどうであれ、それが事実だ。脱獄し子供達を攫った。それは罪だ。事情は捕らえた後に聞けば充分だろう。
受付員は頷いて、早速依頼書を作り始めた。
その日の午後。ギルドに男が2人入ってきた。
「すまないが、依頼を頼みたい。ノストラダムスについてだ」
受付員はその言葉に目を丸くする。
「ある村で、ノストラダムスが見つかったらしい。至急冒険者を集めてくれないか」
「‥‥見つかった‥‥?!」
思わず大声を上げてしまった受付員に、男達は首を振った。
「この噂が広がれば、きっとまたすぐに逃げ出す。何としてでも捕まえねば、再びノルマンは‥‥」
「はい、分かりました。しかしこの話は国のほうには‥‥」
「我々は地方の教会の者達だ。国のお偉い方々にお目通りが叶うはずもない。そもそも悠長に事を構えている時間は無い。すぐにでも出発しなくては。知らせるなら、君から伝えてもらえないか」
「分かりました」
男が伝えた村の名前は、カルヴィンが告げた『子供達が滞在していた村』と同じ名だった。
何かが動いている。受付員はそう感じる。
「では、早速依頼書をお作りします」
受付員は、2つの依頼を1つの依頼に纏めた。
依頼者達もそれでいいと告げる。カルヴィンから『子供達と狂信者達は行方を晦ました』と聞いた男達は、『ノストラダムスを見つけて共に逃げたに違いない』と悔しがった。そして、『子供達を助ける為にも一刻も早く足取りを追わねば』と先に村へ行っていると告げる。
彼らは、『有名な冒険者だと相手が気付いて逃げ出すかもしれないから』と名の知れ渡っていない者を求めた。
そして。
●
ブランシュ騎士団橙分隊執務室。
3人の騎士達が奥のテーブルを囲み、その席についている女性を見下ろしていた。
「‥‥ノストラダムスが見つかった、か」
「また偽者では?」
預言者ノストラダムスの行方が知れなくなって以来、度々あちこちで偽者が出て騒ぎになっている。
「だが行かないわけにはいくまい」
「誰が?」
橙分隊副分隊長が尋ねて、他の2人は嫌そうな顔をした。
「ここに回って来たんだから、橙分隊で、だろう」
「ノストラダムスの調査と探索に携わってたのはうちじゃないだろ。何で今頃うちに来るんだ?」
「黒も灰も緑も分隊長はパリを離れておられるそうだ。狂信者達も捕らえられている収容所の視察にな」
「‥‥成程。また、タイミングの良い話だ」
副分隊長が呟いたところで、黙っていた女性が口を開く。
「では、私が行くとしよう」
「えっ‥‥ちょっと待って下さいよ。分隊長には見合‥‥いえ、他のお仕事が」
「奴を逃すわけには行くまい。ギスラン、お前も来い。後、アルノーにも支度を」
「心得ました」
「何故、そんな一大事に副分隊長を連れて行かずに新人を連れて行くんですか、貴女は」
「新人を楽させるのは道理では無いだろう?」
「‥‥成程」
上司の過酷な指導を知っている彼らは、静かに頷いた。
●リプレイ本文
●
その洞窟は、切り立った崖の下にあった。
「おっちゃん、大丈夫か?」
ジルという名の少年が、男の手を引く。男はよろめきながらも小さく頷いた。
「では我々は薪を集めてくる。いいな? この洞窟を絶対に出るんじゃないぞ」
「分かってるって」
大人達が去って行くのを見送り、子供達は神父を名乗る男を座らせ周りを囲んだ。持ってきた毛布を掛け、自分達も包まって座る。
「寒いなぁ‥‥」
「我慢しなさいよ。分かってて付いてきたんだから。あたし達は」
ミミという名の少女が、年下の子供達を宥めた。子供達は概ねミミの指示には従っていたし、大人達に付いていくと決めたのがジルとミミであっても、特に反対もしなかった。彼らは将来の冒険者を目指す者。あらゆる体験をしてこそ、立派な冒険者となれるのである‥‥と信じている。
「すまないね‥‥。君達を巻き込んでしまった」
掠れた声で、男は子供達を見つめた。
「彼らにも、申し訳ない事をしたと思っている‥‥。けれども、何の罪も無い人々を巻き込むわけには‥‥いや、こうして逃げる事こそが多くの人に迷惑を掛けているのか‥‥」
「おっちゃん。疲れてる時はあんま考えんな。弱ってる時に決めた事はロクでもねぇってジョエルも言ってたしさ」
「そうだよ。自分を追い詰めたらダメなんだと思う」
アンリという名の少年が吸い込まれそうな丸い目で男を覗き込む。
「だから‥‥ね? 今は、休んで」
●
「あの村なんですね‥‥」
がたがた道を進む馬車の中から、そっとリーディア・カンツォーネ(ea1225)が顔を出した。粗末な防寒服に身を包み、一般人を装っている。その傍らに大人しく座っている犬、アネモネを笑顔でじっと見ているのは同様の格好をしたセタ(ec4009)。
「‥‥お行儀の良い子ですね」
「え‥‥そ、そうでしょうか。アネモネさん、褒められちゃいましたよ。良かったですね」
嬉しそうに愛犬に向かって報告したリーディアだったが、彼(彼女?)は澄ました表情で前を見るばかりだった。
「2人とも寒くない?!」
手綱を持ちながらアシャンティ・イントレピッド(ec2152)が振り返る。
「大丈夫です」
「鍛えてますからー」
「じゃ、少し飛ばすよ!」
「ひゃあっ」
ガタン。突如馬車が大きく揺れた。それを合図にしたかのように、馬車は速度を上げて村へと向かうのだった。
ノストラダムスを追っているという依頼人の男2人は、村での探索を大方終えていた。
諫早似鳥(ea7900)は韋駄天の草履で他の者達より先に村に着いている。その足で男達を探し、即座に見つけて近付いた。会話している2人がこちらに気付くまでの間に、彼女は男達を上から下まで眺める。筋肉質ではないが、鍛えているのは服の上からでも分かる。簡単な鎧にロングソード。この姿で村に入れば村人達も警戒するだろうというものだ。1人はマントを羽織っているが、飾り気1つなく実用品重視と言ったところか。その上。
(「教会関係者‥‥ね‥‥」)
思わず笑みが零れてしまう。教会に携わる者ならば立ち方ひとつでも品があるはずだ。礼儀作法を身につけているので、動きでそうと分かる。現にリーディアが一般人に扮したが、似鳥は見る者が見ればすぐバレると思ったものだ。
「依頼人の2人だね? あたいは似鳥。他の冒険者は後から来るんだ。攫われた子供達の性格や行動について、保護者に聞いてくるんだってさ」
声を掛けられて振り返った男達と言葉を交わす。話す内に似鳥は彼らの正体を大まかに掴んだ。手練の戦士。だが雇い主が居る。
男達と共に村の中を歩きながら、似鳥はパリでのアシャンティの言葉を思い出していた。
「だって怪しいよ。パリまで来たら、大教会のほうがギルドに行くより早いんだ」
ハーフエルフの耳を隠す為にスカーフを頭に巻きながら、アシャンティは皆に言った。
「会ってみないとまだ分からないけど‥‥話した時に考えてみたほうがいいのかもしれないけど。焦っているだけなのか、何か隠したい様子なのか」
「そうですね‥‥。地方の教会の者と言っても、ノストラダムスさんが見つかったという話になれば、司祭様達も動かないはずがありませんし」
リーディアもそう言っていた。何せ彼は今、最もノルマンで有名な大悪党。彼の本質がどうであれ、彼の預言がもたらした災厄はこの国を大きく脅かした。もし本物であれば。いや偽者であっても、その度に騎士団や神聖騎士団が動いているのだから、当然そちらへ駆け込むのが筋というものだろう。
似鳥は愛犬の小紋太を連れて村人の家を回る。子供達と狂信者を世話していた村人を探すのは、実に容易かった。男達が前もって散々村人達を脅したらしい。子供達と狂信者の匂いがついた物品を提出するよう言うと、彼らはあっさり出して来た。その匂いを嗅がせてついでにそれらも預かって、彼女は村の中央へと戻った。そこに丁度1台の馬車が来ている。
「お待たせしました」
真っ先に降りてきたセタが挨拶をして、一通り自己紹介が終わると皆は休む間もなく村を出た。
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前もってリーディアが似鳥に頼んで村人達に聞いてもらった話によると、消えた狂信者の数は5名。目立つ特徴は無いが、全員男でかつては漁師か猟師だったのではないかと推測された。村の作業を積極的に手伝ったりして好感が持てる風だったと言う。
「それはそうだろう。まずは村に溶け込むしかない」
依頼人達はそう言ったが、それ以前にリーディアは依頼人達が偽者ではないかと睨んでいた。というのも、会ってすぐに自分がクレリックである事を明かし、『貴方がたはどちらの教会に所属されているのですか?』と尋ねたからである。彼らは『ラティールの黒の教会の者です』と名乗ったが、商人ほどでは無いとしても教会情報網を馬鹿にしてはいけない。実に敬虔な白のクレリックである彼女は、素早くそれが嘘である事を察知した。
「あの場所の黒の教会は見る影も無く、信者を取り戻すのに必死でそれどころでは無いはずです」
「でも‥‥信者を取り戻す為にノストラダムスを自分達の手で! という考えはありませんか?」
「セタさん。とても悲しいお話なのですけれど、教会というのは名を広める必要があるのです。お金が要るんです」
「まぁ、本当に黒の教会から言われてやってきた剣の腕が立つファイターだったとしても、『ノストラダムスはうちの教会で捕まえた〜』って広めたいなら、やっぱり何か証拠となる物は持ってるよね。それも目立つようなやつ」
村を出る前に素早く会話し、皆は認識をひとつにした。
依頼人は信用できない、と。
村を出てしばらくの所で彼らは野宿する事になった。村に泊まらなかった理由は『奴らにボロを出させる為』であるらしい。
セタが再度村へ忍び行って、村人が村を出ることが無いか監視した。村の中に狂信者の協力者がいる可能性を考えてである。だが一晩張り込んでもその気配は無かった。
戻ってきたセタを乗せて、馬車は出発する。村人達から狂信者が出て行った方角を聞いてはいたが、脅していたとは言え真実を述べたとは限らない。その為、皆は子供達が何かメッセージを残していないか探った。だがそれらしい物は見当たらない。似鳥がぬかるみなどに残っている足跡から方角を割り出したり、愛犬に匂いを辿らせたりし、セタは時折背伸びしながら上空や遠くを見つめた。
「‥‥あの煙‥‥違いますか?」
注意して見つめていたセタが促せば、彼より目が良い似鳥には更にその地点の判断がつく。
そして彼らは切り立った崖の傍まで馬車を進めた。
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馬車は狭い道を進むことは出来ない。
途中で馬車を降り、皆は崖へと歩み寄った。似鳥とリーディアが物を布に包んで巻いた愛犬を放ち、帰ってくるのを待つ。
「人懐っこく振舞え。どこかに移動しようとしたら、服の裾を咥えて留まらせるんだよ」
そう言った似鳥だったが。
「そう言えばああいう犬って冒険者が持ってるのは見かけるけど、町には居ないよね。ジャパン犬?」
とアシャンティが尋ねたりしたので「あ」と気付いた。子供達も珍しがって大喜びするかもしれないが、狂信者達にとっても明らかに違和感のある犬なわけで。‥‥まぁ彼らに見つかったらという話だが。
「‥‥全員、無事で居てくれるといいのですが‥‥」
小太刀を両手で持ち、柄の先を額に当ててそっと祈りながら、セタが呟いた。
「マキリさん‥‥いざとなったら、宜しくお願いしますね‥‥」
愛刀の名を呟き目を上げると、同じようにどこか不安げなリーディアと目が合う。
「きっと大丈夫ですよ‥‥。依頼人さん達も、『俺達が捕まえてやるぜ』的な刺激を与えると子供達が危険ですから、細心の注意を払うよう、お願いしますね」
「分かっている」
依頼人達は憮然として言ったが、皆の行動を妨げるような動きはしなかった。
短いような長いような時間が過ぎ、日も沈みかけた頃、似鳥の愛犬が戻って来た。食糧や油が無くなっていて、急いで書いたような文字がスカーフに書かれている。
「『みんな、げんき。おじさんにひどいことしないなら、きょうりょくしたい』‥‥おじさん?」
「彼の事ですよね、きっと」
だがリーディアの愛犬が戻ってこない。彼らは立ち上がり、洞窟へと向かう為に森を出た。
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「その犬は何だ!」
男が叫んで手に持っていた棒を振り上げた。犬が唸り、子供達はそれを庇おうと男を睨みつける。
「何って‥‥決まってるだろ。心配した保護者達がしゃしゃり出るのは当たり前じゃん」
「今、手紙を隠したな?! それを見せろ。内容によっては納得してやる」
「読めるんだ、おっちゃん」
「‥‥はい」
ジルが後ろ手に隠していた布を素早く抜き取って、アンリが男に見せた。そこには、セタが頼んでカルヴィンとジョエルに書いてもらった子供達宛てのメッセージが綴られている。心配しているとか元気かとか連絡が欲しいとか、当たり障りのない保護者としての文面。
「他にもあるんじゃないか?!」
だが疑心暗鬼に捕らわれた男は、棒をアンリに向けて叫んだ。
「ぼく達は何も隠してない。それでもぼく達を叩くと言うなら、あなたを許さない」
「お前に何が出来る?!」
「‥‥もうやめなさい」
奥から、静かな声が流れてきた。
「争う事、戦う事、傷つけ合う事はやめて下さい。これ以上‥‥多くの人の命を失う事は‥‥」
●
洞窟の中からぼそぼそと声が聞こえてきた。洞窟の前には焚き火を消した跡があるが、こちらの気配に気付いてという風では無い。
似鳥が皆に目配せし、自分は越後屋印の扇子を出して忍び足で洞窟内へと入って春香の術を唱え、洞窟の奥へと扇子で扇いだ。彼女の足で近付くと、ランタンの灯を囲んでいる人達が見える距離まで来ても気付かれない。話をしていた大人達は次々と眠りについて倒れ、奥にいた子供達も地面に転がった。見える範囲の全員が倒れ伏したのを確認してから大人だけをロープで縛り上げる。
後から皆も注意深く入って来て、似鳥の作業を手伝った。リーディアは子供と愛犬が無事に眠っているのを確認してほっと胸を撫で下ろし、そして奥で倒れている男に目をやる。
「彼は本物‥‥でしょうか?」
そっと近付き、その手に握られているホーリーシンボルを見つめた。古いが磨かれたそれは‥‥彼が信仰を大切にしてきた証。
「起きて下さい‥‥」
揺り動かすと、男は目を覚ましてリーディアを見上げる。
「‥‥君は‥‥?」
「貴方は‥‥失礼ですが、お名前をお聞きしても宜しいでしょうか? 私はリーディアと申します」
「‥‥ノストラダムス‥‥」
「本物‥‥ですよね? 生きていてくださって‥‥良かったです。私は貴方を信仰の対象とする者ではありませんけれど‥‥それでも、もしこの子達を助けて下さったのなら‥‥感謝の言葉が尽きません」
座り込んでリーディアが告げると、男は僅かに笑った。
「そんな事を言って‥‥貴女の教会の人に叱られませんか?」
「大丈夫です。‥‥と思います。これは真摯な思いですから。‥‥あ、怪我をなさっているのですね。今、回復を‥‥」
言いかけて慌ててリカバーを唱えようとしたリーディアの後ろに影が出来た。
「その必要はない。この男は罪人だ」
依頼人達が冷たい目で男を見下ろしている。
「あのね。この人達を引き渡すなら、ちゃんと手順を踏んで話し合って事情を聞いた上で、国に対処をお願いするのが一番いいと思うんだけど」
今にも手を伸ばしそうな男達にアシャンティが告げた瞬間、男達は剣を抜いた。
「やっぱりそう来たか!」
1人の男の剣をかろうじて受け止め、彼女は叫ぶ。
「子供達をよろしく!」
だが男の動きを封じ込めようとする彼女の動きはあっけなくかわされた。セタが背後に回って装甲の薄い所を的確に突くとさすがに男も呻いたが、もう1人の男がノストラダムスを担いで素早く洞窟の外へと駆け出した。それへと似鳥のダーツが飛ぶ。それらは男の足を狙ったものだったが、1本だけ刺さったものの男はそのまま外へと逃げて行った。
「‥‥いい攻撃だ」
セタの2撃目はかわした男は、するりと皆の間を縫って逃げようとしてアシャンティの妨害を受け、それへと剣を振るって弾き返すと身を翻して洞窟を出て行く。
「アシャンティさん。今、リカバーします」
「そんな事より、あいつ追わなくていいの?」
「無理だね」
似鳥は洞窟の外へ行き、依頼人達が罠も張らずに去って行ったのを確認して戻って来た。
「そうですね‥‥。私達4人の力だけでは、私達の戦闘技術では‥‥」
それを認めるのは戦士ならばつらい事だろう。だが冒険者ならば引かなければならない時もある。セタも呟いて、小太刀を戻した。
そして皆は全員を起こし、ロープで縛った狂信者達は連れて出て、外でじっくり話す事にした。
●
皆が橙分隊3名と合流したのは翌朝の事だった。
橙分隊長に憧れているらしいアシャンティは目を丸くして喜んでいたが、事情を説明するにつれ橙分隊も内容の重要さに真剣な表情になって行く。リーディアがノストラダムスの物と思われる小さな聖書を手渡すと、彼らは更に複雑な表情を見せた。
ともあれ、ノストラダムスは冒険者達の目の前で攫われた。それが狂信者達の芝居だったならまだ救われる。だが。
「その者達‥‥何か身につけていませんでしたか? 例えば‥‥揃いの剣帯とか」
「付けてました」
素早くアシャンティが答えると、彼らは顔を見合わせる。
「もしもこれと同じ剣帯ならば‥‥悪魔崇拝者の一味です」
分隊長が出した漆黒の剣帯には、なにやら細かい呪言のようなものが書かれていた。黒地に白。アシャンティが頷くと、彼らは皆の仕事ぶりを労って、『出来れば一緒にパリまで狂信者も連れて来て欲しい』と告げた。
何かが終わり、何かが始まろうとしている‥‥。そんな予感を冒険者達に感じさせながら。