俺様天使隊〜仮面舞踏会潜入指令〜

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月22日〜11月27日

リプレイ公開日:2007年11月30日

●オープニング


 娯楽の町、レスローシェ。
 あらゆる娯楽が詰まった町と言われ、パリよりも物価が高い場所として有名である。多くの金持ち達が一度は行ってみたい場所として挙げ、金を持たない者達も一度はそこで豪遊したいと考える。その町を作り上げた男が、何より享楽に耽って様々な遊びを考えるのが大好きな道楽息子であったから、町は益々発展を遂げた‥‥白の教会の者達が目を剥くような方向へと。
 ともあれ、彼と彼に纏わる者達が作り上げた『遊び』は幾つかある。
 例えば『種族限定酒場』。店員が全員エルフだとかシフールだとかで、同種族のお客様にはワインを1杯サービスなど、お得感も入れている。パリにも出店している『華麗なる蝶亭』と『可憐なる蝶亭』は姉妹店で、それぞれ女性、男性のお客様をもてなす酒場だ。他にも『気高き薔薇組』や『艶やかな百合組』という名の、もっとマニアックな店もあったが、これにはレスローシェの長は関与していないらしい。
 レスローシェは人口の割りに酒場が異様に多い町で、そのほとんどが町の外から来た者向けに営業されており‥‥時には詐欺に近い手法で客を引き込む店もあった。レスローシェの『合法』は随分と緩やかなものであったから、泣かされた者も多い。
 その一例が、『賭け屋』だ。様々な事に対して金を賭ける。時には熱くなって自らの命を賭けようとする者もいるが、『金は戴いても命は貰うな』というのが『法』として定められている為、大概そういう客は追い出された。
 又‥‥そういった娯楽の一方で、レスローシェは熱心に人材の育成を努めている。
 娯楽に欠かせないバード達、或いはジプシー達の技を店員達に教え込む他、『ノルマン演芸ダンサーズ』や『花の杜歌唱隊』と言った道芸分野で活躍する者達で隊を結成させ、ノルマン中を廻らせたりもしている。他にも、『見せる為の戦い』を極めるべく、美しい型で剣を振るうよう指導する道場があったり、流行の最先端を行くべく裁縫専門の工房があったりもした。
 そういう、一見役に立たない物ばかりを成長させていく為には、当然莫大な資金が必要である。レスローシェがそれを成し得る理由‥‥。それは、町に住む貴族や大商人達である。
 世界中の酒を集めている貴族、猫の形をした物を集めまくっている収集家、あらゆる情報を収集しては売買している『情報屋本部』。密かに『エチゴヤ』に対抗しようとしていると噂の『エチゼンヤ』。そういう変わり所も含めて、この町に住む金持ちは少なくない。彼らが町の発展に貢献するからこそ、今のレスローシェがあった。

 という‥‥相変わらず長い前提を踏まえて。


「‥‥坊ちゃん。そこは明らかに窓です」
 20代後半になろうという男が、窓から縄はしごを垂らして今まさに足を掛けようとしていた。
「オルガ! お前何時の間に‥‥じゃなくて、さっき買い物に行かせただろ! ちゃんと買ってきたのかよ?!」
「自分の館から脱走しようとする方に、『ちゃんと』とは言われたくないです」
 一見男性に見えなくもないジャイアント女性は、その大きな体に似合わぬ静かな足取りで窓に近付き。
「うわっ! てめぇ、主人を持ち上げんな!」
 ひょいと男を持ち上げて室内へ落とした。
「しかも落とすか! 酷い奴だ! 悪魔のような奴だ! こういうのジャパンでは何って言うか知ってるか。『鬼の霍乱』と言ってだな」
「多分用法が違うと思います」
「‥‥お前は何でそんなに真面目なんだ?」
「坊ちゃんが不真面目だからです」
 そのまま強引に椅子に座らされ、男は大仰に溜息をつく。
「茶〜。茶くれよ、茶〜」
「では誰かに持って来させます」
「お前が行けよ〜」
「2階から逃亡を図る人を1人には出来ません」
「‥‥なぁ、オルガ‥‥」
 男はテーブルに山積みになっている彫板や羊皮紙やその他もろもろの物を見て、しみじみと呟いた。
「‥‥何で、俺はこんなに仕事が溜まってるんだ‥‥?」
 それについて、男より良く彼の事を知っている側近は即座に告げる。
「好奇心旺盛だからです」


 遊びと仕事を結びつけて何でもやってしまう男‥‥。それが、レスローシェの長、エミール・シャトーティルユである。彼はよく、自分の趣味を利用して仕事を‥‥いや、趣味を仕事に変換して遊びつつもそれらをこなしていた。彼に時々くっついて歩いているメイド服を着た自称『めーちゃん』なる娘は、無理矢理趣味を仕事と偽って行って自爆していたが、エミールはそこまで酷くはない。要は、仕事に遊び心を持ちたいのである。
 そんな彼が、1つの遊びを思いついた。
 『俺様天使隊』。エミール専属情報部隊と言えば聞こえはいいが、当初『小悪魔』と名付けようとしてオルガの愛の鞭を受け、仕方なく天使にした、という経緯がある辺り、やはり真面目にやっているようには見えない。
「‥‥『天使隊』‥‥久々に召集してみるか」
 だが何だかんだ言っても情報を入手して分析し、事態は前に進んではいる。
「というわけで、俺はパリに‥‥」
「ラティールはどうするのです? あの仕事が山積みでしょう」
「‥‥何であんな面倒なの‥‥引き受けちゃったのかなぁ‥‥俺‥‥」
「何故貴方は家ではそんなに怠惰なのでしょうね。外に見せる顔と違う事ったら」
「ん〜‥‥まぁ俺にはさ‥‥ほら、いろいろ便利な部下も多いし? そいつらと冒険者に任せとけば、万事解決、俺遊んでても大丈夫じゃね?」
「冒険者に伝えておきます」
「‥‥いや、それはちょっと」
「では仕事して下さい」
「はい‥‥」
 しょんぼりしながら、エミールは一枚の羊皮紙を手に取った。
「‥‥『ボードリエ家のパーティ』‥‥か。あそこのガキ共ってどんなんだっけ?」
「上から28、24、17歳の男子。全員貴方に勝るもと劣らぬ遊び人で結婚はしておらず、お父上のボードリエ子爵が嘆いておられるとか」
「‥‥成程。見合わせる為のパーティか‥‥。招待客の構成は分かるか?」
「調べておきます」
「よし。じゃ‥‥潜入調査だ。オルガ。『天使隊』を集めろ。ボードリエとバトンは癒着している。モナッサ修道院とバトンはこっちで抑えたが、ボードリエは手強い。簡単に尻尾は出さないだろうな。だったら、落とすしかない」
 実に楽しそうに笑って、エミールは窓の外を見つめる。
「本当に‥‥こういう企みって久々じゃないか?」


 『天使隊募集&集結せよ
 天使のように愛らしい魅力を持った女性(女性に見える男性でも可)を募集する。尚、この依頼書は極秘にギルド員から該当すると思われる冒険者に見せているものであり、決して他人に自分はこの依頼に参加するとか、『天使隊』であるとか名乗ってはならない。
 以下の事項に該当する者を、いつでも我々は歓迎する。

1、女性的魅力がある
2、情報収集や調査が得意だ
3、潜入調査に浪漫を感じる
4、目標物から会話の中で情報を引き出すのが楽しい
5、仲間内でのコンビネーションや情報交換を大切にしたい
6、どんな相手でも口説き落とす自信がある
7、パーティで目立つ自信、或いは全く目立たない自信がある
8、一芸に秀でている
9、調査に有用なスキルを持っている
10、楽しい事が好きだ

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2418 アイシャ・オルテンシア(24歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ヴェスル・アドミル(eb3984)/ レア・クラウス(eb8226

●リプレイ本文


 真紅の絨毯、動物の毛皮が掛けられた椅子、銀の燭台に灯るは薔薇の香り麗しきキャンドル。壁際でバードが音を奏でる中、フロアには良家子女達が集まっていた。使用人達に連れられ、華やかな衣装にマスカレード。
「これはこれは可愛らしいお嬢様。このような場所にお1人で?」
 ここはボードリエ子爵の息子達の為のパーティである。集まった女性達は皆、彼らが目的であると言っていい。勿論家の付き合いというものもあるが、女性達はライバルを蹴落とそうと静かに火花を散らしていた。
 そんな中。
「‥‥ターゲット視認。あれは相当遊び慣れてるな。‥‥大丈夫か?」
「私を誰と心得ておりますの‥‥? 私は『謎の貴婦人ローズ』ですわ☆ おーほっほっほっ」
「‥‥そうか。まぁ頑張れ」
 あくまで『謎のローズ』と言い張るリリー・ストーム(ea9927)に、ロックハート・トキワ(ea2389)は適当に返答した。その正体を知っているかは謎である。まぁもっと謎なのは彼の女装ぶりだろうが、実に堂々と壁際に立っている。
「さて‥‥と。セバスチャン、参りましょう!」
「はい、アーシャお嬢様」
 そこに新たな来客者達が現れた。使用人もマスカレードをしているが、なかなかの色男ぶりと見えて女性達の間からひそひそ声が上がる。
『アタシ、アーシャって言います♪ こういう席ははじめてなのでドキドキしていますが、みなさんやさしくしてくださいねっ』
 笑顔で貴族の倣いに則って女性‥‥アイシャ・オルテンシア(ec2418)はドレスの裾を手に取りつつボードリエ達に挨拶した。舌たらずなイギリス語を喋る貴族子女という設定なのだが、使用人役のセバスチャン、エイジ・シドリ(eb1875)がそれを。
「本日はお招きいただきありがとうございます。イギリスから来たばかりでノルマンの宮廷事情には不慣れでございますが、不手際がございましたら何卒ご容赦いただきたく存じます」
 と通訳した。
「イギリスか‥‥。懐かしい風を感じるね。後でじっくり話を聞かせて貰えないかな?」
『はい、もちろんです〜』
 早速お目当ての年上の『オジサマ』をゲットしたアイシャは、眩しいくらいの作り笑いを彼らに向ける。
 一方、冒頭の『可愛らしいお嬢様』扱いされた『女性』は。
「えぇ‥‥。食事やダンス、艶やかな皆様の衣装より‥‥誰かとお話をするのが好きで困っていたんです‥‥」
 恥ずかしそうに視線を逸らしながらそう答えた。てっきり『他の女性に同伴した子供』と思っていたらしい男は驚いたように目を見開いたが、すぐにそれを微笑に変える。
「では、私とお話しませんか? ふふ‥‥宜しければ、私の膝の上で」
「ひ、膝?!」
「冗談ですよ」
 笑われながら手を取られた女装者‥‥ミカエル・テルセーロ(ea1674)。よく異性と間違われるという特技の持ち主だが、化粧も衣装もばっちり女装とくれば、他の男性の目を惹いてしまってもおかしくないだろう。
 そんな5人の男女達が、今回のエミール謹製特殊情報隊、『俺様天使隊』のメンバーであった。


「くっ‥‥。泣き言は終わってからで‥‥」
 その前日。ミカエルは両手両膝を床について、ずーんと沈んでいた。以前、巫女服を強制装着させられそうになる調査依頼で危うく難を逃れた彼だったが、『巫女服着ないでいいなら』という希望は潰えた。基本はドレスにマスカレードの貴婦人。それが今回の依頼内容だからだ。
「うん‥‥。まぁ‥‥依頼だしな」
 女装が手っ取り早いだろうとあっさり意識を切り替えているのはロックハート。その脇であれこれ自分の荷物からドレスと仮面を引っ張り出しているのはアイシャ。
「ど・れ・に・し・よぉ・か・な〜♪」
 唯一の天使隊既存メンバーであるアイシャは、前回ターゲットを見事に落とした実績があった。嬉しそうなアイシャの前で、ミカエルがリリーに声をかける。
「‥‥あの、リ‥‥ローズさん。控えめなドレスを選んでいただけないでしょうか‥‥」
 何とか立ち直ったミカエルの傍に寄って、アイシャは肩を嬉しそうにぽんと叩いた。
「これ、お貸ししますよ〜。どうですか?」
 ひらりん。きらきら‥‥。
「えぇぇぇ‥‥これ‥‥ですか‥‥?」
「はい♪」
 満面の笑みに、内心泣きながらミカエルはそれを受け取る。
「そうそう。本名名乗っちゃ駄目ですよ? もし気に入られたら後が大変ですからね」
 前回本名を名乗って大変な目に遭ったアイシャはそのミスを反省し、今回は別の人の名前を借りようと思っている。それもどうかと思うが。
「大丈夫ですよ‥‥。僕は男ですし女性を差し置いて気に入られるなんてそんな事‥‥」
「おほほほほ。そんな暗い顔をしてはいけませんわ。相手を落とす気迫がなければ、依頼の成功はありませんわよ!」
 リリーはそう言って励まし(?)つつ、部屋の隅で椅子に座ってそれを眺めているエミールに近付いた。
「メンバーが男性とハーフエルフばかりで御免なさいね‥‥。でもそんなに気落ちなさらないで‥‥。後で慰めて差し上げますから‥‥」
 その膝にさりげなく座りながらご機嫌取りに誘惑する『謎の貴婦人』。
 今回リリーは誓いの指輪を大切に仕舞い、いつもと違う髪形と蠱惑的な化粧と偽名で依頼に参加していた。
「貴方が愛してくれた女は、数日間この世界から姿を消します‥‥」
 と言うわけでローズと名乗っているのだが。
「いやでもお前、リ」
「あら嫌ですわエミール様。人違いですわよ‥‥?」
 笑顔の背後にどす黒い殺気を放って沈黙させた。
「で‥‥。あんたも女装か?」
 適当に目立たないマスカレードと礼服を持ってきたロックハートだったが、エイジは黙々と作業をしている。それへ声を掛けると、彼は振り返った。
「‥‥」
「髭は白か黒か灰かどれがいいと思う」
「‥‥つけないという選択は」
「それもあるか」
 依頼を遂行するのに拘るのは良い事だ、うん。
 ロックハートは皆の様子を眺めながらそう思った。


 幼く見える化粧をリリーに施してもらったアイシャは、ターゲットの28歳長男と楽しくイギリス語で会話していた。使用人セバスチャンことエイジが脇に控えているが、『誠心誠意、お嬢様に仕えさせて頂いております』『お嬢様のお傍近くに控えるのが、私の役目でございます』などと言って忠心ぶりを振り撒いている。
『イギリスでは最近、どんな服や小物が流行っているんだい?』
『え〜と‥‥。あ。イギリス王室ごよーたしのお店でつくったドレスもってるので、明日きてきますね〜♪』
『それは楽しみだ』
『ほかに何か知りたいことありますか〜? アタシ、レミー様のためならがんばっちゃいます♪』
『そうだな‥‥。では、君達と同じ招待状でやって来た彼女‥‥。レジスがやけに気に入っているらしい彼女については?』
 問われて見ると、椅子に座ったミカエルと24歳次男レジスが楽しそうに話をしている所だった。
『えっとぉ‥‥おば様のお友達の子みたいですぅ‥‥。アタシも今日はじめてあいましたぁ』
 甘えるように言い、それからちらとエイジへ目を向ける。
『セバスチャン。あっち行ってて。‥‥んーとね‥‥邪魔』
『なっ‥‥何と言うおっしゃりよう‥‥。ですがアーシャお嬢様がそう仰るのでしたら、仕方がございません。全てはお嬢様の御心のままに』
 遠ざけられてエイジは会場内に潜んだ。室内全体を眺めながら、他の者達に何かあっても対応出来るよう、或いは連絡係となれるよう待機する。それが彼の役割でもあるのだ。だが。
「あら貴方、使用人の方ですわよね? あの子と一緒に来た」
 会場内に居る以上、彼を探す者には見つかってしまう。一緒に踊らないかと誘われ、エイジは仮面の下で微笑した。
「申し訳ございません、お嬢様。私にはアーシャお嬢様が居ります。アーシャお嬢様主催のパーティでございましたら、喜んでお相手を務めさせて頂いたのですが」
 使用人としての来客の持て成しを伝えつつ断るエイジに、残念そうに女性は去って行く。
 一方。

「あら‥‥。何だか酔ってきましたわ‥‥」
 17歳3男ラウルをターゲットに選んだリリーだったが、彼女は始めから場内の注目の的になっていた。露出の多いスカーレットドレスに大きな羽扇を持ち怪しくも素敵なマスカレードを身につけている。その上その肢体。
「僕とこんなに長い時間を持ってくれるなんて、嬉しいな。あぁ‥‥お酒は控えめにしたほうがいいね。今日はパーティ初日だし」
「そうですわね‥‥。ふふ‥‥お水をいただけます?」
 絡み付くような視線に思わず止まったラウルだったが、すぐににっこり笑って水を取りに行った。兄弟全員遊び人と聞いていたが、ラウルは自分の歳よりも更に幼い風を装っているように見える。そうやって年上女性の母性本能をくすぐる作戦なのだろう。だが攻略には時間をかけたいタイプらしく、水を持ってきた後は他愛もない話が続いた。
(「これは‥‥明日以降でじっくり落とすしかありませんわね‥‥」)
 笑顔で楽しげに話す相手を見つめながら、なかなかの強敵相手に薄暗い熱き炎が立ち昇るのを感じるリリーだった。


 翌日。
「それにしても、貴女は可愛いだけじゃない。素晴らしい知識と才能の持ち主なのですね‥‥」
 ミカエルは前日同様、レジスに口説かれていた。
「その黄金の髪は春の日の光のようだ。碧の瞳は新緑の芽吹きのように澄んでいる。それにその肌。貴女はこれほどまでに美しいというのに‥‥」
 そっと頬に手を当てられ、内心「ぎゃー」と叫びつつ僅かに身を引くミカエル。
「‥‥貴方の戯れを本気にする程‥‥愚かじゃありません」
 頬を赤く染めながら顔を逸らすミカエルに、レジスは更に身を乗り出した。
「私は本気です。毎日貴女のその憂いに満ちた恥じらいの横顔を見れるなら、すぐにでも神に結婚の許しを得たいほどに」
(「と‥‥鳥肌が!!」)
 容姿を褒められて恥ずかしくて死にそうな思いをしつつも、さすがに度が過ぎていて寒気が走る。
「あ、あの‥‥。私はまだ幼く、レジス様の生涯の伴侶に相応しいとも思えません‥‥」
「幼いからこそ美しく麗しいのです。貴女の美は、その教養とも相まって完成されている。今すぐにでも、貴女のご両親から許可を頂く為に飛び出したい気分なのですよ」
「‥‥では」
 おぞましさに逃げ出しそうな心を奮い立たせ、ミカエルは伏せ目がちに口を開いた。
「ひとつ、お願いがあるのですが‥‥」

 ロックハートは地味な礼服姿で館内を動いていた。極力目立たないよう動いていた彼がさりげなくパーティ会場を抜け出しても、どうやら気付かれなかったようだ。仮面だけは片付けて探索する。
(「ここか‥‥」)
 初日は警備状況確認と館内の部屋配置を確かめるだけだったが、やはり警備はそれなりに厳重なようだ。外から中に潜入するにはやはり招待客として堂々と行ったほうがいいだろう。ボードリエと息子達の部屋は、仲間達の中で聞きだせたものだけ場所を確認した。それから地下や書庫なども。さすがに礼服を着た状態では行動に限界があるので、いつ人が来るか知れない場所の探索は避けたい。
(「古いタイプの鍵だな‥‥」)
 施錠された書庫の鍵を開けて中に入り、本や羊皮紙の間に何か挟まっていないか、それら自体に何か書いていないか確認する。だがすぐに古い物ばかりの中に新しい羊皮紙を見つけて、彼はそれを手に取った。
(「これは何語だ‥‥。読めんな」)
 ざっと文字の通り写すが、正しいかどうかの自信は無い。
 次に彼が向かったのは地下のワイン倉だった。新しい樽が並ぶ中に、1つ古い樽がある。迷わずそこに向かって一応罠を警戒しつつ蓋を開く。
(「‥‥一気にきな臭くなったな‥‥」)
 素早くそこを離れながら、彼は尾行が無いかじっくり確認し、パーティ会場へと戻った。


 ロックハートが持ってきた羊皮紙はエイジが解読した。ラテン語なのだが、真ん中あたりに並ぶ言葉に覚えが無いらしい。
「特殊な名称だな」
 更にロックハートが言う事には。
「ワイン樽に‥‥かなり新しい男の死体が入ってた。」
「‥‥使用人が入れたのかも」
 ともあれ最後のパーティの日。決着はつけなければならない。
 アイシャはレミーが酔いつぶれるまで飲んでくれなかったどころか、逆に薦められたりした為に部屋の位置を確実に判断する事が出来なかった。甘え倒して小遣いをねだったりしつつ情報を得ようと思うのだが、それも上手く行かない。
『アタシ‥‥みりょくないのかなぁ‥‥』
『そのような事はございません。どんなアーシャお嬢様であっても、世界でお1人しか居ないアーシャお嬢様でございます。もしも私が使用人でなければ‥‥』
『え‥‥? いま、なんて言ったの‥‥?』
『いえ、お忘れ下さい‥‥。私は所詮使用人でございます故』
 などと彼の近くで演技をし始めると、やっとレミーは身を乗り出してきた。
「素晴らしいね、主従の愛。そんな君達にぴったりの物があるんだ‥‥。ひとつ、買わないかい?」
「何を‥‥でございますか?」
「『永遠の愛』」

「こ、これ‥‥この手紙が証拠になりますよね?!」
 何だかボロボロになりながらミカエルが宿屋に入ってきた。
「へぇ‥‥嬢ちゃん、その格好サマになってるな」
「茶化さないで下さい!」
「ローズがまだ来てないみたいだな」
 羊皮紙を再度解読していたエイジは、密かに会場の人気を集めていた事を知ってか知らずか、未だ礼服のままである。
「あぁ、あれなら大丈夫だろ。半端じゃないから」
 謎の感想を言いつつ、エミールは手紙に目を落とした。
「そっちの羊皮紙は、多分取引のリストだ。手紙は‥‥指輪?」
 中から指輪が転がり出る。
「闇ギルド『コーカサス』か‥‥」
 そこに描かれた紋章を眺め、エミールはにやりと笑った。
「大体読めてきた。で、そっちは?」
 促されてアイシャとエイジは顔を見合わせる。
「『永遠の愛』という名前の薬があるらしいです。ある場所に来たらあげると言われたのですが、切羽詰まったらお願いしますと言いました」
「長男は確実に攻略出来てなかったから止めたほうがいいだろ」
「‥‥あの死体についても調査を頼みたい。‥‥わざわざ樽に詰めてあるのは変だ‥‥。それから‥‥『魔と毒の森』の中に屋敷を持つ貴族について何か知っていたら教えて欲しい」
「それについては調べとく」
 ロックハートの頼みについては少し気になっていたらしいエミールは頷いた。
 そして概ね依頼人が満足の行く結果を残し、彼らは帰っていったのである。

 が。
「おーほっほっほっ。そろそろ話を聞かせてくれるかしら?」
「はい女王様。僕、何でも言う事聞きますぅ〜」
 びしぃびしぃと鞭がしなる音がラウルの自室から聞こえていた。
「ふふふ。夜は長いですわ。貴方は私の可愛いペット。たっぷり教えて貰うわよ?」
 豹変したリリーがその日‥‥凄い情報を入手したとかしなかったとか。