冒険者の平和な日常を体験してみよう!
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■ショートシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月08日〜11月11日
リプレイ公開日:2006年11月16日
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●オープニング
木枯らしが吹く宵始め。冬の到来を予感させる季節に、藍と灰が混ざり合う空模様。
「さむっ・・さむさむっ・・」
勢い良く酒場の扉を開け、同じ速度でそれを閉めて一息つく娘がいた。毛皮のマント、毛糸の手袋、毛糸の靴下、マフラーに、全身防寒着。唯一帽子だけが、違う材質のようである。帽子に挿した白い羽が揺れた。
「えっと・・スープ・・温かいのください・・」
震えながらカウンターに座り、震える手で器を手にする。そうしながらも彼女は店内を眺め。
「はっ・・け〜ん・・」
震える声でそう呟いた。
「すみません。冒険者の皆さんですよね?」
数十分後。冒険者達が座っている卓に、ずるずるとカウンターの椅子を引っ張り置いて、先ほど凍えそうな表情だったのが嘘みたいな晴れやかな笑顔で、彼女はそこに割り込んでいた。
「私、ヨーシアと言います。将来、旅行記などを書きながら旅をしたいなぁ、と考えているんですけど、しばらくは、冒険者の皆さんについて書いて行きたいなぁ、と思ってます。そこで、皆さんにご協力いただきたいと思って」
羊皮紙とペンを取り出し、彼女はそれをテーブルに広げる。
「半月くらい前にも、パリでは有名な方も含めて、協力していただいたんです。その時は、今までで一番心に残っている冒険の話を・・あ、そうだ。まだ貼ってあるかも」
いそいそと立ち上がり、酒場内を壁伝いにぐるぐるした後戻ってきて。
「・・もう剥がされてたです・・・・」
がっくりと肩を落としたが。
「えと、つまり、皆さんにご協力いただいた内容なんかを、私が読み物として書いて、それを酒場に貼ってもらってたんです。それで、次に貼らせてもらう分は、ぜひ、あなた方の話を」
すぐに立ち直って、生き生きとした表情を見せた。
内容は簡単だ。
「冒険者の皆さんって、人助けしたり、命がけで戦ったり、時には悪事を防いだり、いろいろ大変だと思うんです。でも、依頼が無いときとかってどうされてます? 自分の家でのんびり? ペットとお遊び? 酒場に入り浸り? それとも、やっぱり真面目に訓練とか? 強くてカッコいい冒険者さんの素顔を書いてみたいのです。というわけで」
彼女は1人頷いて、一同を見回した。
「皆さんに密着して、日常生活を一緒に体験したいと思います! 良かったら、貴方の日常を、私に見せてもらえませんか?」
目を輝かせて目的を告げると、ヨーシアは座ったままお辞儀をした。
●リプレイ本文
『冒険者の日常ってどんなもの?』
●1人目〜お休みは無いの?
「すみません〜。遅れましたぁ‥‥」
全身を過剰すぎる防寒着に包んだ娘がばたばたと走ってきて止まり、荒く息をした。
「遅刻とは感心せんな」
「すみません。今日から冒険者さんの話を聞けるんだと思ったら寝れなくなって‥‥」
「これが皆の日程書だ。この順番で回ることに不都合があれば言ってもらいたい」
ガスコンティ・ゲオルギウス(ea4819)は寒空の中、平然とした表情で羊皮紙を手渡した。それをヨーシアは震える手で受け取る。そのままガスコンティが酒場の扉を開き、2人は朝の酒場へと入った。
『冒険者の皆さんだって、朝も晩も冒険一色! というわけではないんです。じゃあ冒険をお休みの日は何をしているのでしょう? その疑問を解く為に、今回は皆さんの生活にお邪魔することと致しましょう』
「私は、遊歴修行というものをしたことがなくてな」
ヨーシアの差し出した古ワインを飲みながら、ガスコンティは静かに話し始める。
「だから旅に出て、冒険者として鍛えなおしているという訳だよ」
『始めにお邪魔したのは、ガスコンティ・ゲオルギウスさん。凍るような寒さの朝でも、防寒着無しの男ぶりです。さすがはナイト。鍛え方が違いますね!』
「そうして各地を巡り、様々な風土を知り文化を知れば、おのずと自分の為、家族の為、祖国の為になろう」
「そうですね〜‥‥」
自分は温かいスープを飲みながら、ヨーシアは自分よりもぐんと高いガスコンティを見上げた。
「それで、お休みの日は何をしてるですか?」
「無論、冒険者となったからといって‥‥む、休み?」
「冒険が無い日です」
「私に休日などは無い。全ての経験が糧となろう」
『彼は私に人生の話を語って下さいました。冒険者たる者、休みの日でも日々修行! だそうです。かっこいいですね!』
●2人目〜ウィンドウショッピング
「旅の途中なので、家に招待出来ないのが残念ですけれど」
エチゴヤ前。昼時の明るい太陽の光を受けて、ネム・シルファ(eb4902)の銀髪が明るく輝いた。
「どこにご自宅が?」
「ジャパンです。ジャパンに来たその時は、お料理をご馳走しますからね!」
「わ〜‥楽しみです」
『次はネム・シルファさん。銀髪の綺麗なバードさんです。早速、冒険の準備を見せて下さるということで、エチゴヤにお邪魔しました』
ネムは保存食と油を1つずつ買い足し、オークションを確認する。
「今日は何も出てないですねー」
「オークションって、いつも見てるです?」
「いつもじゃないですけど、掘り出し物が無いかはよくチェックしてますよ♪」
『冒険には、そうやって手に入れた掘り出し物も持って行くとか。激選する目を養うのも、冒険には必要なことなんでしょうね!』
ネムの為にユーフィールドが用意してくれたパリの地図を持って、2人は商店街から広場へ向かって歩き出した。ネムは方向音痴、ヨーシアはパリに不慣れとあって、地図を見ながらでも危なっかしい。途中の古品店に寄ってみたり、屋台で煮込み魚のスープを食べたりしつつ、2人は取り留めの無い話をしては笑い合った。
『買い物に散歩に歌と料理。私達と同じような生活でありながら、違う視点でそれを見せてくれたネムさんでした』
●3人目〜釣り人?
2日目朝。
「おはようだね。気分転換にやっている、漁にでも連れて行くのだね」
寒そうに宿から出てきたヨーシアを、ウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)が出迎えた。
『早朝、ウィルフレッド・オゥコナーさんが舟へ案内してくれました。冒険が無い時は代書屋をやっている彼女ですが、その仕事ぶりは見せて貰えないとのこと。知的な雰囲気のウィザードさんです』
震えるヨーシアに毛布3枚重ねを施すと、舟はパリを出発した。そのままゆるゆるとセーヌ川を下って行く。
「魚釣りですか〜。舟から釣るのは初めてです」
「狙いは、魚がある程度群れで居て、なおかつ浅めの所に居る所だね。その辺は親方が見つけてくれるのだよね」
「なるほど」
鼻から上だけを毛布から出して、ヨーシアは水面をきょろきょろと見回した。しかしそれにしても。舟の中には釣り道具らしき物は見当たらない。
「あの〜‥‥。まさか、川に飛び込んで魚を捕るとかじゃないですよね?」
「違うのだね。まぁ、見ているといいんだね」
『さすが冒険者。道具無しに魚を釣ると言います。私の小さな胸は、期待で爆発しそうでした。その時です!』
舟を動かしていた親方が、ウィルフレッドに何やら合図を送る。彼女は頷いて、魚影が複数見える辺りへと向き直った。そして。
「さあ、行くよ! ライトニングサンダーボルト!」
『魔法です! 何と私は間近で魔法を見てしまったのでした。そして、水面にはぷかぷかと‥‥』
「はわ〜‥‥」
辺りで腹を見せて浮いている魚を、ヨーシアは呆けた顔で見やった。
「親方、今日も大漁だね」
それをせっせと舟へと写している船主に声をかけながら、ウィルフレッドは満足そうにヨーシアへと目を向ける。
「魚は全部親方の物だね。欲しかったら、1匹位なら頼んでみるのだね」
「あ、お気遣いなく。凄い物見せてもらいましたし!」
『おっとりした感じのウィルフレッドさんでしたが、意外と豪快な気分転換方法でした。これも、冒険者だからこそ出来ることなのかもしれませんね』
●4、5人目〜コラボレーション
船着場では、マリー・プラウム(ea7842)が待ち構えていた。
「本当は、最初から皆の所を案内して回ろうと思っていたんだけどね」
「ガスコンティさんから、予定書を貰ってしまいましたからねぇ。それで、何を見せていただけるんですか?」
「ヨーシアさんもバードでしょう? 芸で稼いでいる人は、昼間は広場に集まるのよ」
『マリー・プラウムさんは、可愛いバードさん。シフール用の竪琴を抱える姿は愛らしく、とても様になっています。彼女は私を広場に案内してくれました』
天気が良いからか、広場は多くの人で賑わっていた。その中で、手を振る娘が見える。
「こんにちは、ヨーシアさん」
「‥‥寒くないです?」
ヨーシアに問われ、レア・クラウス(eb8226)は笑いながら頷いた。
「私はここで踊って生計を立ててるの。踊りは見映えも大事なのよ」
「あ、じゃあこれを」
薄着のレアに、ヨーシアは身につけていた毛皮のマントを着せる。それを見ながら、マリーは竪琴を爪弾いた。
「私だけの作品もいいけど、出会った仲間達と1つの作品を作りだすのも素敵な事よ。例えば、レアさんの踊りに合わせて竪琴を奏でたりね」
『レア・クラウスさんは、ジプシーの踊り子さん。エルフには珍しいのではないでしょうか?明るい性格に負けない位の薄着に、プロの仕事を感じさせます』
「ネムさんと一緒に吟遊活動するのも楽しいのよ。今日は来てないみたいだけど」
「じゃあ、お2人のお仕事ぶりを見せてください!」
ヨーシアに言われ、2人は周囲の人々にもお辞儀をした。ぱらぱらと拍手の音が聞こえてくる。
マリーの小さな竪琴から澄んだ音を流れた。それに合わせる様に軽やかな動きでレアが踊る。レアの踊りはまだ未熟と言えたが、それでもその初々しさと豊かな響きを奏でるマリーの演奏が妙に調和して、人々を魅了していた。
「他にも子供相手に各地の冒険談を聞かせたり、即興の話や曲を作ってみたりしているのよ。結構人気なの」
「お〜、それはいいですね」
「私も聞かれたら、他の町の話とかしてるの。依頼とか受けたわけじゃないのに、あちこちふらふらしてるから」
2人の話にヨーシアも目を輝かせる。
「そうですよね。伝える、楽しませるって大事ですよね!」
『それから、お2人は様々な話をしてくれました。暴れん坊なお客さんには魔法を使って逃げてもらったり、いろいろ苦労もあるようですけれど、船に居た移動商人さんの素敵な髪型で盛り上がったりもしました。‥‥え、どんな髪型って?それは内緒です。船によく乗っておられるそうですから、一度体験してみるのもいいかもしれませんよ』
「他の人の話も聞いてみたいな。勉強になるかもしれないし」
「そうね。皆の自然体をこっそり観察するのも大切よ」
一通り話終わった後、2人はヨーシアに同行してみたいと告げた。
「でも、もう後お1人だけですよ? それに明日の予定ですし」
それでも構わないと言うのでヨーシアは頷き、翌日の集合時間の打ち合わせを始めようと膝を詰めたその時。
「ごめんなさい〜。遅れましたー」
極度の方向音痴であるネムが、思いもしなかった方角から走って来て手を振った。彼女たちは顔を見合わせて笑い出迎えて、3人の共演は夕方まで続いた。
●6人目〜暖かい生活
その家は、冒険者街の奥にあった。
「こんにちは‥ようこそいらっしゃいました」
マリーとレアを連れたヨーシアは、利賀桐 まくる(ea5297)に案内されて彼女の自宅へと上がりこんだ。先日友人のミィナも掃除をしてくれたと、こざっぱりした室内だ。
『最後にお邪魔したのは、利賀桐・まくるさん。ジャパンの忍者さんです。忍者って何をするお仕事なのでしょう。そっちに興味津々ですが、今回はご自宅での生活を見せていただけるとのこと。冒険者さんの家はどうなっているのでしょうか。胸が高鳴ります』
「掃除、洗濯、料理‥一通りやっています‥‥」
一行は部屋の中へと進み、まくるが料理の準備をしつつ空いた手で壁の飾りを直してしている様を、ヨーシアは感心したように見つめた。
「冒険者さんって、家事は誰かにおまかせかと思ってました」
「今は、外で冒険しないので‥‥」
「あれ。じゃあ、何やってるんですか?」
「小さなお手伝いとか‥‥。後は、大体家事です」
慣れた手つきで家事を進めて行くまくるを、ヨーシアは腑に落ちない様子で観察する。
「もしかして、家事依頼専門です?」
「いいえ‥‥その、ボクは‥結婚してるので‥‥」
そう囁くように言って、まくるは恥ずかしそうに笑った。
『そう。冒険者さんだって、いつまでも現役ではないのです。自分の幸せを追いながらも、少しでも困っている人の助けになることを手伝って行く。それはある意味、私達皆の理想の形と言えるかもしれません。私はそれを今回学ぶ事が出来ました。
これを読む皆さんに、少しでも何かが伝わることを祈って。 ヨーシア=リーリス』