期間限定の相棒と恋人達

■ショートシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月08日〜02月13日

リプレイ公開日:2008年02月17日

●オープニング

 2月と言えばバレンタインデーだと、その日男は皆に告げた。
「橙分隊主催で開催しないか?」
「嫌だ」
 即刻切り捨てられた男は、大仰に溜息をついて見せる。
「たまには騎士自らが日頃の感謝を込めてパーティを催さないと、支持率が落ちるぞ」
「『分隊支持率』の調査の仕方には異議がある。責任者にも言ったが、あれは」
「それよりそんな物を調査する方向に進めた奴に多大な問題が無いか」
 説得したい事と別方向に話題が逸れてしまい、男は難しい顔をした。その顔の5割くらいの理由が、『調査を進めた奴』本人だからと言う事もあって。
「まぁそれはさておき。真面目な話、これは『分隊長に恋人作ろう作戦』の一端だ。正確には、『恋人作る気持ちにさせよう計画』だ。ご本人は『結婚してもいいかな』と思っているようだが、あの方が実際に自分で選ぶとなれば、見事当選出来る男など数えるほどしか居ないだろう。『誰でもいい』とは口で言っているが、そうして選んだ男と枯れ果てた結婚生活を送って欲しいとは、我々の誰もが思わないはずだ」
 うんうんと頷く一同。
「それでも冒険者達と交流する内に、少しは男に対して丸い態度を取るようになられた。これは実に良い傾向だ。かつての男に対する残虐非‥‥いや、冷徹なまでの仕打‥‥いや‥‥実に見事な指導ぶりは並みではなかった。これが和らいだだけでも充分成果はあった」
 うんうんと大きく頷いているのは、橙分隊の初期分隊員だ。
「しかし、ここでその流れを止めてはならない。このまま分隊長の態度を良い方向に導かなくては。この計画は、分隊長の幸せを願っての事。決して、我々の未来と安寧を求めての事ではない。そうだな?」
 一部が曖昧に。一部がにやりと笑う。
「よし。では、橙分隊主催『バレンタインデーパーティ』の開催の計画を始める」
「ちょっと待て」
 そこへ、横からエルフの男が口を出した。
「お前、本当はかなり浮かれてるだろ」
「浮かれてる? そんな馬鹿な」
「だったらその浮かれた被り物を取れ。視覚的に迷惑だ」
 言われて男はしかめ面を作って見せる。だが渋々その着ぐるみを脱いだ。実に柔和な顔をした大仏様の着ぐるみは、他の分隊員からすると実に迷惑な事に、某緑分隊の御方からいただいた物であるらしい。それを良い事に、『頂き物は有難く使わせて頂かなくては』とか『冬に着ぐるみはパリの常識だ』などと事あるごとに発言しては、橙分隊の執務室で着用している。
「どちらにしても、昨年の分隊長結婚計画には不参加だったお前が今頃そんな事を言うのは、他に理由あっての事だな?」
 エルフの男は腕組みして、元大仏男を冷たい目で見つめた。
「他に理由? 何の事だね」
「まぁいい。お前はその格好で参加決定だ。その防寒着をここで着るくらいなのだから、お前にとっての礼服なんだろう。文句はないな?」
「‥‥せめて埴輪の被り物で」
「よく分からんから却下だ。お前は全身、その『ジャパンの何か』の格好で参加。でなければ開催は認めない」
「‥‥分かった」
 そんな2人の会話を室内の半分くらいの者達は哀れんで聞いていたが、割って入らずに見守る。この橙分隊には、副分隊長よりも権力のある者達がいる。その中の1人がこのギスランだ。まぁ副分隊長自体が、自らの分隊内での位置付けを『雑用係』と言っているくらいなのだから、その力の無さは見て取れるが。
 そんなわけで元大仏男改め副分隊長フィルマンは、バレンタインデーを祝うパーティを催す為、動き始めたのである。

 バレンタインデーパーティ開催のお知らせは、冒険者ギルドにも届けられた。
 尚、これは依頼ではない。だが分隊長の未来を明るくする為に、こっそり仕掛けをしてもいいかなと書かれてあった。
 どちらにせよこれは純粋に楽しんで貰う為のパーティのはずである。一般的なこの季節のパーティは、まず『バレンタインパートナー』を決める。これは主に籤やゲームで決定するのだが、相手は老若男女問わない。本当の恋人同士である必要も、友人同士である必要も無い。そしてここで決定したパートナー同士で祭りやパーティに参加するのである。一緒にゲームするのも踊るのも楽しむのも一緒というわけだ。又、この季節は占いなども盛んである。勿論本当の恋人同士が贈り物を贈りあう事もあるだろう。意中の相手を木板に書いて大切に保管しておくと、恋が実るとも言われている。
 ともあれこの時に決まったパートナーと1年間仲良くすると良い事があるらしい。
 橙分隊の狙いはこれだった。

 つまり。
 橙分隊長に異性でそこそこ若い人間の男をパートナーとしてくっつけて、『仲良くしておくと戦場での幸運にも恵まれますよ』と唆せば1年間仲良くしてくれるだろう。そこから発展‥‥或いは発展しなくても、そこから何かが広がるかも‥‥という作戦である。勿論橙分隊長の結婚まで見据えているのだが、分隊員としては本人の意に適わない相手と結婚しては欲しくない。
「相手が居なければ‥‥あの方を呼ぶという手もありますな」
 後方で1人、橙分隊最年長のマルセルが呟いた。
 その恋は終わった恋。だが彼はその件を知っていた者として未練がある。もしかしたら‥‥その期待もあって。
「分隊のほうには私から連絡を入れましょう。何かとお忙しい方でしょうが」
「くどいと怒りを買うぞ、マルセル」
「承知の上でございます」

●今回の参加者

 ea2554 ファイゼル・ヴァッファー(30歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2955 カイオン・ボーダフォン(33歳・♂・バード・人間・ビザンチン帝国)
 eb5486 スラッシュ・ザ・スレイヤー(38歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec3959 ロラン・オラージュ(26歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

呂 明信(ec2902

●リプレイ本文


 その酒場は、城の近くにあった。
「ようこそ。橙の宮へ」
 扉を開けてくれるのは銀髪のエルフ、ギスラン。その手前で騎士の礼を見せるのは、まだ年若いアルノーだ。
「お久しぶりです、ライラさん」
 彼はライラ・マグニフィセント(eb9243)の前で跪き漆黒のマントの裾に口付ける。彼女がドレスを着て来なかったからとは言え、女性に対してする作法ではない。
「アルノー。貴婦人に対してそれはどうなんだ?」
 奥からぺたぺたと何かがやって来た。
「今の貴方に言われたくないと思うわ」
 ユリゼ・ファルアート(ea3502)が突っ込んだ相手は、およそ騎士がお客様を迎える格好では無かった。まるごと大仏を着用し、背中に埴輪の置物を背負っている。
「フィルマンさんですよね?」
 念の為アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)が尋ねると、大仏は大仰に頷いた。
「さすがフィルマンさんは、パーティの事を分かってる! やっぱパーティと言えばこれが紳士の正しい服飾。ジェントルメンですな〜」
 皆が微妙な顔をする中、最後にぴょんぴょん飛びながら入ってきたキノコが、大袈裟に頭を揺らす。そのまま勢い余ってつるっとコケた。
「あの‥‥大丈夫ですか?」
 そんなカイオン・ボーダフォン(eb2955)に手を差し出してやるロラン・オラージュ(ec3959)の隣で、ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)はお目当ての人物を探して目を動かし‥‥。
「よっ、イヴェット!」
 明るく元気に挨拶した。周囲の温度を2度ほど冷やしながらも彼は楽しげに彼女に近付いていく。
「楽しめるといいな。籤で当たった時は宜しく」
「学習能力の無い男だな」
 しかし開口一番切り捨てられた。
「呼び捨てにするなと2度言いましたね? 3度目は‥‥右腕と左腕。どちらを犠牲にしますか?」
「あう〜‥‥み、右は武器持つからひ、左‥‥」
「おいおい、イヴェットさん。せっかくのパーティを流血沙汰にするのか? 冒険者の軽口なんざ慣れてるだろ? 楽しもうじゃねぇか」
 心の中で溢れんばかりの涙を流しているファイゼルの肩をぽんと叩き、スラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)が助け舟を出す。
「では、早速籤を引いて下さいー」
 大仏が呼び、皆は籤を引いた。

●ユリゼのパートナー
「あ、僕です」
 ユリゼの前にやって来たのはアルノー。スラッシュに化粧を施して貰った上での男装姿のユリゼとアルノーの組み合わせと言うのは、どこか初々しかった。
「ごめんなさいね、ライラさん」
「いや、気にしないでいいのさね」
 思わず苦笑したライラに謝ったのはユリゼだったが、少し困った顔をしているのはアルノーだ。
 籤は冒険者達の意見により、イヴェットの相手を小細工で決めるのではなく、純粋に分隊と冒険者とでパートナーになれるようにしようという事になっている。冒険者のほうの人数が多いので1組だけは冒険者同士になるが、冒険者7人の内4人は男なのだから、きっと橙分隊長と当たるのは男だろうという希望的観測もあった。
「あのね。良い機会だから、ダンスの男性パートとか立ち振る舞いを教えて貰いたいなと思ってるんだけど」
「‥‥分隊長のように、女性と踊る機会があるのですか?」
 アルノーは実に不思議そうな顔をする。自分よりも年上の男性なのにその箱入り風が可笑しくて、ユリゼはくすりと笑った。
「えぇ。いろいろね。だって私、『王子様』だし」
「王子様?」
 更に目を丸くしたアルノーに、ユリゼは説明をする。とある女の子の王子様としてもっと『王子度』を高めたいのだと。
「‥‥大変失礼な物言いかもしれませんが、ジーザス教徒としては」
「あ、それは大丈夫。可愛い妹を護ってあげたい姉という風に解釈して貰える?」
 純朴な騎士様だなぁと思うのは、彼が「そういう事でしたら」と素直に彼女の望みを叶えてくれたからだ。そのまま上品な音楽を聴きながら、彼女はアルノーから所作を習った。

●スラッシュのパートナー
 誰しも男は皆、紅一点のイヴェットが相手のほうがいいなぁと思っただろう。隣人愛であるバレンタインパートナーだが、それでも異性のほうが楽しいに違いない。
「あら。マルセル様ったら緊張してるのかしら〜?」
 眼帯に黒衣の男が高い声を出してにやりと笑った。
「‥‥いや。私の人生の中で、あまり関わった事が無い人種なのでな‥‥」
 橙分隊最年長がこのパーティに参加している理由は自分の為ではない。だからと言って、さすがにこの組み合わせは想像していなかったのだろう。
「だったらいい機会じゃねぇか。楽しもうぜ?」
 しかし軽く言ってスラッシュは楽師達のもとへと向かった。
「ビートの早いヤツ頼む」
 そんな注文を受けた楽師達は困ったようだったが、「ノリのイイやつ」と追加注文まで受けて泣く泣く頑張る。
「よし。踊ろうぜ、じいさ‥‥じゃねぇよな。マルセルさんよ」
「私はまだ50歳手前だ。老人扱いは止めてもらおう」
「じゃ、これ踊れるか? 音に合わせてな」
「踊ればいいのだろう」
 楽しげなスラッシュに負けじとマルセルも体を動かし始めた。宮廷での踊りしか知らない彼の動きは何やらおかしい。
「‥‥あんな楽しそうなマルセルは初めて見たな」
 と分隊長が誤解するくらい、彼らは競い合うようにして踊っていた。

●アーシャのパートナー
「‥‥ハーフエルフか」
 何度も言われ続けている言葉だが、楽しく過ごしたい場で言われるのは堪える。
「‥‥ハーフエルフはダメですか?」
 両手をきゅっと合わせ、うるうる上目遣いで相手を見上げるアーシャ。どうせなら楽しく仲良くしたい。だからこその泣き落とし。
「俺はエルフの女性以外に興味は無い」
 しかしざくっと一刀両断された。
「まぁ、お前はハーフエルフの中では可愛いほうだとは思うがな」
「えぇっ‥‥本当ですか?!」
 ぱあっと笑顔になったアーシャに、ギスランは不敵な笑みを浮かべる。
「顔だけな。筋肉質の女とダンスをするのは荷が重い」
「ひどぉい〜」
 しかしその後もアーシャはギスランにイジメられ続けた。まるごとキタリスを着ようとすれば「女を捨てるんだな」と言われ、
「おいしいですぅ‥‥。団員さん達は、いつもこんなに美味しいものを食べているのですか〜?」
 と食事に感動すれば、
「食いすぎると太るぞ。デブのハーフエルフほど醜いものはないな」
 と容赦なく虚仮にされた。
「‥‥うわぁん‥‥イヴェットさん〜」
 半分冗談、半分本気でイヴェットに泣きついたアーシャには。
「何て卑怯な手を」
 と、自分の言動を棚に上げて言う始末。
「‥‥ギスラン。女性を泣かすと‥‥分かっているな?」
「泣かしていません。これは隣人愛です。愛には鞭も必要なのですよ」
「嘘です〜っ。鞭ばっかりのくせに〜っ」
 これで1年間仲良く出来るのか。先行き不安な2人だった。

●ライラのパートナー
「相手が貴女で光栄です。1年間、宜しく」
 にっこり笑って分隊長はライラに飲み物を差し出した。
「うわぁぁー」
 とか後方で嘆き声が聞こえた気がしたが、気にしない事にする。
「こちらこそ宜しくなのさね。この贈物を気に入って貰えると嬉しいのだが」
 銀のバックルを手に取り、イヴェットは微笑んだ。
「ありがとう。重宝させて貰います。私からはこれを」
 そう言うイヴェットの手には何も無い。代わりに近くに籠が置いてあった。
「お裾分けになりますが、とても美味しかったですよ。良い豚肉です」
「それは助かるのさね。店で使わせてもらって‥‥何の料理にしようか」
「お店は繁盛していますか?」
 楽しげに話す2人を、様々な感情織り交ざる複数の視線が見つめている。分隊員達の野望は潰えてしまったし、「相手は男よりは女のほうがいいけどっ」と叫ぶ某人物だってやはりじぇらしーを感じていたわけだし。
 パートナーに渡すプレゼント以外にもライラは複数人分の菓子を作ってきていた。アーシャがギスランに渡したのも同じ物である。その他に、ライラが特別に指輪を入れたお菓子も作ってきていた。11個ある中で2個だけ当たりだが、見事手に入れたのはマルセルとアルノーだ。
「酒に強くなれという事ですね」
 とアルノーは笑って見せた。
「ダンスの心得ですか」
 女性パートについてライラはイヴェットに尋ねてみる。
「あまり得意ではありませんが、私で良ければ」
 そう答えて、イヴェットは姉のような目で微笑んだ。

●ファイゼルのパートナー
 手を差し出したのは、大仏の体に埴輪頭の着ぐるみ男だった。
「何故だぁああああ!」
「まぁまぁ。これでも付けて悲しみを紛らわし給え」
 にこやかに埴輪大仏はファイゼルに贈り物を差し出す。それはレースを重ね合わせて出来た‥‥。
「女物だろ! これ!」
「ははは。よく似合うと思うけどなぁ。何て言ったって君はぱりき」
「待て。ちょっと待て」
 ずざざとフィルマンを端に連れて行き、ファイゼルは声を潜めた。
「その話、イヴェットは知らない‥‥よな?」
「さぁ。子供好きな人ですからね。王城関係者でも参列した者は居たようですし?」
 ずーんと沈み込むファイゼルを笑顔で励ましながら、フィルマンは彼をダンスに誘う。いつかイヴェットと踊る為に男パートの踊りを教えて貰えないかと言う彼に、フィルマンは非常に良い笑顔で頷いた。

●あぶれた2人
「‥‥カイオンさん。そろそろその防寒着、脱いだらどうでしょう」
 キノコにハニワ仮面を付けたカイオンは、ロランから貰ったマフラーをぐるぐる巻きにしていた。まだまだ寒い日が続くからという心を籠めて用意したもので、使用法も間違っていないわけだが、何となく変な感じがするのは気のせいだろうか。
「キノコで通すつもりだったんだけどなぁ。バレンタインパートナーが言うなら仕方ないなぁ。1年間パートナーだもんなぁ」
「い、いえ‥‥その格好が好きならそれで‥‥」
 でもキノコじゃ踊れないだろうし動くのも大変だろうとロランは気を使ったわけだが。
「無念でありますが〜、脱皮するであります〜。隊長殿〜」
 仮面を取り、キノコを脱ぎ脱ぎしつつもカイオンはうるうるとした目でロランを見つめた。
「あ‥‥あの‥‥?」
 そこには、実に愛らしいドレスを着て長い髪を付けた女装男の姿が。
「カイオンさん、その姿は‥‥」
「カイオンは実は女の子だったのですぅ〜」
 目をしばしばさせながら裏声で話すカイオンに、ロランは何となく何かを感じた。だが、箱入り息子のロランには、残念ながらその正体までは分からない。
「は‥‥女の子‥‥ですか‥‥?」
「カイオンはぁ〜、実は、ロランさんのことがぁ〜、好きだったのですぅ〜」
 自分よりでかい女装男に告白されて動きが止まるロラン。
「あ、あのでも。カイオンさんは女性じゃなかったような‥‥」
「ひどいですぅ〜。ロランさんのばか〜」
 うるうるしながら、カイオンは竪琴をじゃかじゃか弾き始めた。とりあえず面白そうだから騙してみたカイオンだったが、可哀想なロランはまだ思考停止している。このまま『女の子』と言い張って騙しておくのも楽しいかなと思いつつ、カイオンは楽器を奏でるのだった。

●先は‥‥
 そして、4日間のパーティが終わった。
 それぞれ贈り物を交換し、踊り、ゲームをし、占いをする。尚、占い結果はファイゼルが「今年は良くない。悪魔に気をつけなさい」。ユリゼが「今年は運気が下がる。婚約破棄可能性有り」。スラッシュが「今年の仕事運は絶好調」。ロランの鳥占いは「結婚相手は堕落した人」。とかく不吉な占い結果が出やすいので、占い師はマルセルに睨まれていた。
「フィルマンさん! まるごとで戦いましょう。私、あの頃よりもずっと強くなりましたよ」
 5日目。アーシャがフィルマンを模擬戦に誘った。まるごとを着たまま戦うという遊びでもあるが、もこもこと動きながら真剣に武器を振るう姿は見ている者からすると微笑ましいを通り越して笑ってしまう。
「これ、御守りも兼ねてるのだけど」
 そんな彼らを見ながら、ライラはアルノーにブラッドリングを手渡した。アルノーはお礼に香り袋を渡す。
「今度、このようなパーティでお会いする時は‥‥ドレスを着てもらえませんか。赦されるならば貴女のパートナーを務めたいですから」
「イヴェット殿に少しダンスを教えて貰ったのさね。いつか‥‥踊れると良いな」
 一方、イヴェットの傍にはわらわらと人が群がった。アーシャはイヴェットに食べ物を贈り、それからフィルマンにペットの埴輪を贈った。大喜びしたフィルマンは早速背中に背負って、埴輪に殴られている。
「ボク、イヴェット様達のような騎士に憧れているんです」
 橙分隊員達の好みの食べ物を使った菓子をそれぞれに贈った後、ロランはイヴェットにもそれを手渡して告げた。
「今はまだまだだと思いますが、いつかボクでもブランシュ騎士団に入る事が出来るでしょうか?」
「家柄も実力の内。実際の実力だけではなく、どこか騎士か貴族の家に養子に行くほうがいいだろうな」
 そこへスラッシュもやって来て近くに座る。
「聞いた話によりゃあ、『与えられても返す物がない』とかほざいちゃってるそうじゃねぇか」
 又、蒸し返す気かという顔をしたイヴェットに、彼は口紅を渡す。
「愛す相手がいるってだけで、相手にとっちゃこれ以上の事ぁねぇんだ。それにあんたが相手を愛するってのもすげぇ贈り物じゃねぇのか? そもそもやる前からウダウダ言ってんじゃねぇっての」
「しかしな」
「勇気出して誰か誘ってみちゃどうだい? ちなみに俺は絶賛受付中だからな」
「えっ‥‥。スラッシュさん、そうなんですか‥‥?」
 驚くロランににやりと笑い、スラッシュは手を挙げた。
「お、ファイゼルもこっち来いよ」
「何か今、受付中という声が聞こえた気がするが‥‥」
 言いながらもファイゼルは大人しく座る。
「な、楽しめたか? 今回のパーティ」
「えぇ。いろいろと」
「じゃあいいか。いろいろ‥‥俺も思うんだけど、楽しかったならいいや」
「感謝はしてるんですよ」
 イヴェットは少し笑い、皆を見回した。

「‥‥埴輪で大仏で橙分隊長の副隊長だったとはね‥‥」
 離れた所で、ユリゼはフィルマンとワインを傾けていた。
「何でだろ。私はこんなに平凡なのに‥‥」
「平凡な子なんて居ないけどね」
 言われてまるごと装備を脱いだフィルマンは、ユリゼへ向かって笑みを浮かべている。
「んー、驚いたのよ。唯のナンパな変人かと思ってたのに。勢いに乗せられそうで悔しかったけど‥‥」
「けど?」
「今の時間は‥‥好き、かな」
「私は、君が同じ場所に居てくれた事が何より嬉しかったかな。今の時間も勿論、この5日の時の全てが」
 お守りを渡して脱兎の如く逃げ出そうとしていたユリゼは、フィルマンに返す手でドレスを掴まされた。そして髪に髪留めを。
「王子様も悪くないけど、今度はこれがいい。夜に咲く星のような花を見てみたいと思うのは、私の我が儘かな?」