愛しき我が子

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月09日〜12月14日

リプレイ公開日:2004年12月20日

●オープニング

●けもののこころ
 熊一頭を仕留める事ができれば、一家が一冬暮らすに十分な蓄えになる。
 肉は塩漬けや干す事で食料となり、毛皮は売る事が出来た。
 熊の血は絞り薬草を交え、どろどろになるまで煮詰め丸めれば、血の足りない女子供の薬にもなる。
 熊は丸一匹余す事無く恵みとなった。
 だが、狩人達は見境なく狩るわけではなく。
『子連れには手を出さない』
 それが近隣の村の狩人の不文律となっていた。
 乱獲が過ぎれば、数を減じることになり。それは、いずれ自分たちの首をしめることになるからだ。
 
 だが、先日誰かがその旋を破ったらしい。
 仔熊の死体が、木に吊るされていたそうだ。
 木に吊るされて‥‥というのは、自然でカなく死んだわけではない…人の手を介している事を示す異常さだ。
 
 狩人が子熊の死体を見つけて以降、猛り狂ったように山をうろつく大きな熊がいるという。
 手負いのために、暴れているのか‥‥そこまで確認はできず。
 危険を承知で山に登るか、自衛に村に残るかで、狩人達の対応も別れているらしい。


●ひとのこころ
 ある村から冒険者ギルドヘ依頼に訪れた母親2人が、冒険者達に懇願していた。
 母親たちの顔色は良くない。落ち着きも無く、誰とも無く訴え出ている。

「‥‥子供が帰ってこないんです‥‥。探してください」
 遊びに出かけた子供が2人、戻らないらしい。
 他の子供達に訊ねたところ、帰らない子供達は、どうやら村の大人達に内緒で山へ出かけたらしい。
 山は、森の恵みを得るには格好の場所だが、この季節、冬眠前の熊が開歩する場所でもある。
 そのため、村ではごの時期に子供たちが山へ立ち入る事を禁じていた。
 じき寒さの訪れる頃…、日の差す昼はともかく夜の山はとても冷えこむ。
 子供が何日も彷徨っていられる所ではない。
 村の男のほとんどは、収穫を終え…祭りも終わり、実入りの無い村での冬を避け、出稼ぎに出てしまう時期で、狩りを生業とする男手が数人いるにはいるが、心もとなく。
 冒険者を頼るべくギルドに訪れたという。


●こどものこころ
 おそらく、子供の事…踏み入ったとしても、夏の間入る事が許される村に面した斜面側のどこかだろうという母親の言葉。
「‥‥一刻も早く子供をみつけてください、お願いします」
 我が子を案じる余り、ろくに休養もとれないのだろう‥‥。
 血の気の無い青ざめた顔色の母親たちが深く頭を下げるのだった。

●今回の参加者

 ea2276 ティラ・ノクトーン(24歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea7401 アム・ネリア(29歳・♀・クレリック・シフール・ノルマン王国)
 ea7893 アムルタート・マルファス(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8602 ギム・ガジェット(31歳・♂・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 ea8936 メロディ・ブルー(22歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9190 ルーツィア・ミルト(29歳・♀・クレリック・パラ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「あらゆる事態を想定しないとな‥‥」
 バルディッシュ・ドゴール(ea5243)の言葉には重みがあった。この依頼、冬の山での事である。
 その先こそ口にしないものの、考えられる対応と手段は持ち込むべきであった。
「子供を助ける為に頑張らないと‥‥」
 メロディ・ブルー(ea8936)自身も、子を持つ母親であるゆえに帰らぬ子供を案じる気持ちは何より理解できる。
「ええ。お母様もさぞ心配でしょう‥‥一刻も早く安心させてあげたいです」
 小さく頷くルーツィア・ミルト(ea9190)。
 既に過ぎた時間を思えば余り時間も掛けられないだろうというのが冒険者達の結論だった。


 闇雲に探すよりは‥‥と、ティラ・ノクトーン(ea2276)やバルディッシュ、ルーツィアは村の子供達の元を尋ねていた。
「どこにいったか心当たりはないか?」
 あからさまな『大人』であるバルディッシュの問いかけに子供達は口篭もる様子を見せた。
 その様子に『やはり何か知っている』と直感する彼ら。
 が、そこは畳み掛けるように問い詰める事はしない。
「大人の人には秘密にしておくから、おねーちゃんに教えてくれないかな?」
 『尋問』ではなく、ティラの『お願いの質問』。それは子供の自尊心を傷つける事の無い形。
 やがて、不承不承といった感で、1番年長にみえる少年が口を開いた。
「‥‥多分、あそこじゃないのかなぁ」
「うん、子熊みてみたいっていってたし。あそこなら隠れて探すのに便利だし」
 少しずつ、打ち明けてくれる子供達にルーツィアは、丁寧に礼を述べる。
「俺達が見つけた子供だけの隠れ家だから大人には絶対内緒だからね?」
 バルディッシュを横目に見上げながらこっそり、重大な秘密を打ち明けるように村の子供が教えてくれたのは、子供や体躯の小さなティラであれば入れるような場所だった。


 先を急いだ者達は、村で話を聞こうと立ち寄るティラ達と別れ、母親から聞いた村に面した斜面を探し始めていた。
 アム・ネリア(ea7401)は、木々の上までふわりと舞い上がり、高いところから子供達の名前を呼びかけ探す。
 同様にアムルタート・マルファス(ea7893)もレビテーションを用い、高い位置から森の様子を観察する。
 飛び回るアムに対し、水平に移動の出来無いアムルタートは、逆にいえば動かぬがゆえに探索の基点とする事が出来た。
 地上から探す仲間に対し、鳥達や、木々の揺れ等何らかの変化があればアムを通し仲間との情報を交わす。
 けれど、アムルタートの3メートルの高さは常緑樹の木立に遮られれば、視界は広がらず。
 また、空から呼びかけるアムも同様で、落葉樹の隙間から見える範囲だけでは中々成果はあがらなかった。
 手掛かりを得ないのは、地上から探すギム・ガジェット(ea8602)や李 風龍(ea5808)達も同様で。
 子供が興味を持つような明るい曲を選び、横笛を吹きながら進むメロディだったが‥‥途中、遭遇するのは野兎等の小動物ばかり。
 焦る心を抑え、斜面を麓からしらみつぶしに探すしかなかった。

「熊は種類にもよるが、大体2頭、まれに3頭ずつ産むらしい」
 風龍が、狩人にも確認した確かな情報だ。メロディが、考え込むように笛を手に弄りながらこぼす。
「でも、それなら‥‥子熊が殺されて熊が殺気だってるのは確かだろうけど、明確に『仇討ち』なんて熊は考えないと思うから‥‥逆に、吊るされてたのが1匹となると、残る1匹の子熊はどうしたんだろう?」
「まさかとは思うが‥‥帰らない子供達の目的次第だろうが、一緒にいるのかもしれないな」
 ギムの言葉は、皆辿り付いた結論と同じ物だった。
 かさり、枯葉を踏み入る音が響く。ギムが油断なく担いだウォーアクスの柄を握り直し音のする方をみれば、木立ちを分け入り彼らに合流果たしたのは、ローブの裾を捌き上空から舞い降りたアムルタートだった。
「‥‥ティラ様達が、手掛かりを得てきてくださったみたいです」
 先行組と合流出来るよう、真上で目印に、とアムが待っていてくれているらしい。


「‥‥これは、確かに隠れ家だな」
 感心したようなバルディッシュの呟きに風龍も頷く。ジャイアントである彼の体躯ではもぐりこむことは難しいだろう。
 子供達の隠れ家は、大樹の根元に造られた自然の隠れ家‥‥木の洞であった。
 身軽なティラ達、シフールの者がランタンで照らされた暗い洞の中に舞い降り呼びかける。
 やがて、洞から顔を出したのは‥‥彼らが探していた子供達、エナとシリス。
 そして、もこもことした毛並みも愛らしい子熊だった。
「まさか、本当にいるとはな‥‥」
「‥‥ごめんなさいっ」
 見つけられた事を驚くより、大人に見つかり叱られるという気持ちの方が強かったのか、ギムの嘆息交じりの呟きにシリスが謝る。
 けれど、シリスより小さなエナは、謝るよりも子熊の方から離れようとしなかった。
「おじちゃん達、この子を殺しにきたの?」
「‥‥違う。私達は依頼でキミ達を探しにきた冒険者だ」
 『殺す』という物騒な言葉にはっと息を呑むアム。
 バルディッシュの『探しに来た』という言葉にエナはようやく冒険者達と目を合せた。
「もう1匹の子熊を見たのですか?」
 小さく頷くエナ。やがて、シリスが少しずつ事の経緯を話し始めた。
「‥‥だめだって知ってたけど、エナがどうしても見たいっていうから。それでこっそり山に来たら」
 吊るされていた子熊を見てしまった。 そして、その近くで生きている子熊を見つけこのままではこの子も殺されてしまう、と子熊を抱えるように隠れ家の洞へ逃げてきたという。
 幸い昼に食べようとこっそり持ってきた弁当と水で一晩やり過ごしたらしいが‥‥
「‥‥どうしていいかわかんなくて。エナは帰らないっていうし」
 ある程度、皆で話し合ってきた予想とそう違わない結果に顔を見合わせる冒険者達。
 風龍が、エナに視線を合せるよう膝をつき話し掛けた。
「母熊がその子を探しているみたいでな、帰してやらないか?」
「この子のお母さん、生きてるの?」
 彼の言葉に、エナとシリスは顔を見合わせた。


 音を用いる事。
 彼らが用いた行動は的確だった。
 先行して山に入った者たちの行動は、結果的に熊との遭遇を減らすものとなったからだ。
 子供達がいれば、呼びかける声や自然物では発生しえない笛の音などは獣ではない探索の手と言う事が判る。
 まして、村の狩人や大人達が単に探しに探しに来たのであれば『音楽』等は用いないだろう。
 そして、それらは熊に限らず野生の動物達へ人が踏み入るアピールとなる。
 元々、村に面した斜面には余り熊と遭遇する事はないらしい。
 刺激する事がなければ無用な争いは避けられるはずなのである‥‥普段であれば。


―グルルルル‥‥

 低く怒気を孕んだ唸り声が響く。
「‥‥間の悪い」
 どうみても友好的な雰囲気ではない。母熊は巨体だった。
 後ろ足で立ち上がり両腕を広げ、冒険者達‥‥目の前に立つ全ての者を威嚇するように睥睨する。
 咄嗟にアクスを構えるギムにかかる制止の声。
「だめですっ! 子供を返せばきっと」
「‥‥‥‥‥‥っ」
 熊の放つ負の感情に、メロディもクレイモアの柄に手を掛けそうになった。
 ナイトとして的確な反応‥‥けれど。ざわり、己が髪が、血がざわめくのを感じる。
 ‥‥狂化の可能性は、彼女自身わきまえていた。けれど、子供の前では‥‥、子供達の安堵の表情が、自分に向けられるものだけ怯えや蔑みに変わってしまうかもしれない。
 そして、出来れば母熊は生かし子熊と共に山へ帰そうと話していたのだ。狂化した後は‥‥?
「ちっ」
 零れた舌打ちは誰の物か。
「貴女の無念わからないわけではありませんがここは引いてもらえませんか?」
 獣に言葉が通じるなどと、アムルタート自身も思ってはいない。けれど、そう言い募ってしまうほどの様相だった。
 熊には矢が数本刺さっていた。矢羽の部分が折れているのは、熊が取り除こうと折ったのか、それとも彷徨う道程で折れたものなのか。
 毛並みは荒れ、怪我をしていたのだろう個所には凝り固まった血が毛にこびり付いていた。
 冒険者達の予想は当っていたのだろう。
 母熊の様子に『子供の身の安全が優先』と割り切るしかないのか‥‥そんな時、ふわり、母熊の頭上に舞い降りる存在があった。

 どさり、重い音を立て母熊は地に倒れ伏した。
 「‥‥効いて良かった‥‥」
 肩で息をつく。母熊の倒れた傍に舞い降りたのは‥‥ティラだった。

 ティラのスリープの効果により眠りに落ちた母熊の怪我は、眠る間に風龍やアムの手により癒されていた。
 その間に、子熊を母熊の元へかえすべきだとティラやルーツィア、冒険者達に説得される子供達。
 結局、子供達を決心させたのは、冒険者がここへ来た理由だった。
 自分達と同じく、心配する母親がいるのであれば、と。
「子供を心配しない親はいないと思うよ」
 そう、自分達を見つけてくれたティラの言葉にエナはこくりと頷いた。
「大丈夫かな?」
「お母様とご一緒でしたら大丈夫ですよ」
 アムルタートが微笑み促し、母熊を見る。子供達は、彼女の視線を追うように眠る母熊と、母熊の元へ戻りたそうにむずがる子熊を見比べ‥‥やがて、
「‥‥もうお母さんから離れちゃだめだよ」
 エナとシリスは、別れを惜しむようにぎゅっと子熊を抱きしめ、けれど腕からそっと離すと子熊は母熊の元へ駆け寄った。


 万が一に備え、傍にはギムがすぐに動けるように控え、子供達は遠ざけてから眠る母熊を風龍が起こした。
 皆が見守る中、目覚めた母熊は‥‥。
 真っ先に己が顔を舐める子供を見つけ、怒りよりも先に母親の顔を見せた。
 痛まぬ体を疑問に思う事も、さ迷い歩いた数日の苦労も目の前にいる我が子の姿を見れば全てが吹き飛んでしまう事なのだろう。
 ギム達は、熊の母子を刺激しないようそっと後じさり距離をおき、離れた場所にいる仲間達の元へ合流した。
「‥‥良かった、のだろうな」
「そうですね」
 ギムの呟きをルーツィアが肯定し。
 仲睦まじく森の奥、山の中へと消えゆく母子の姿を見送ってから冒険者達も山をおり始めた。
「もう、黙って森に入っては駄目よ」
 道中のアムルタートの言葉に素直に頷いたのは、子熊に自分を重ね母を思い出したからだろうか。


 自分より小さなエナを庇い、気の張った日を過ごしたシリスは自分で思った以上に疲れていたのだろう。
 子供達なりの事の顛末を見届け、気がゆるんだのか。
 探しに来てくれた冒険者の庇護の下、疲れ果て意識を失ったシリスをバルディッシュは背に負ってやり、エナは風龍が背負った。背にある温もりは、無事子供達を保護できた何よりの証である。
 皆が山を降り麓近くまで来ると、メロディは仲間の背で眠る子供達の頭をなで別れを告げた。
 子供達の寝顔は、種族が違えど笑みをもたらすには十分で。
「無事で良かったね。もうお母さん達を心配させるようなことしてはだめだよ」
 ハーフエルフである彼女は、同じ冒険者達ならばともかく、このような山間の村落では、それとわかったときに大きな混乱が容易に想像できるからだ。
 メロディに見送られ、一行は子供達を伴い村へ帰還する。
 村人の用意してくれていた温かな食事が、彼らを迎えてくれたのだった。

 明けて翌日。
 村の生活は常と変わる事無い営みに戻り。元気な姿を見せたエナとシリス、その母親らが冒険者達を見送る。
 子供達が『食べ物をくれたお礼に』とティラへ渡した香り袋は優しい森の香り溢れるものだった。
 無用な殺生をする事無く、無事遂げられた依頼に風龍は安堵の息をついた。軽んじていい命などないのだから。
 冬の良く晴れた空の下、ルーツィアが祈る‥‥天へ、人の心へ、自然と森の恵みが失われる事のなきよう届く事を願って。