銀花亭 ―今を送り、来を迎える

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月29日〜01月03日

リプレイ公開日:2005年01月06日

●オープニング

 パリは下町にある銀花亭。
 そこは、冒険者ギルドのある界隈からは離れた場所にある酒場。

「あら、マスター‥‥私の居ない間に楽しそうな事してたのね。私も一緒に楽しみたかったわ」
 おっとりと艶冶に微笑むのは銀花亭お抱えの歌姫・ミランダ。
 ミランダが言っているのは、先日店主が冒険者達に助けを願って店の営業を支えてもらっていた時の事だ。
 店主自身は、苦りきった笑みでその言葉を聞いている。
 ギルドに思わず依頼に駆け込んでしまうほど、店主自身は困り果てていた時の事なのである。
 そのおかげで結果的に店主の料理の品目は増え、店を閉めるどころか、売上は落ち込む事無く営業できたのだが。
「もう少し人を増やしてもいいのかもしれないわねぇ。お店の」
 そんな会話をしながらも。
 銀花亭に近隣の酒場や食事処の店主が集まり卓を囲んでいた。
 随分あちこち磨き上げる事が出来た銀花亭を羨んで、年の瀬に近隣の店々でも同様に綺麗にしてみようか、という話が持ち上がったらしい。
「いや、掃除で冒険者ってのは‥‥」
 どうなんだろう、と銀花亭の店主は思ったが、自分自身がしてもらっちゃっているもんだからそれ以上言えずにいる。
「依頼するだけしてみて、協力してくれる冒険者がいてくれればお願いしてみればいいんじゃない?
 季節が季節だから、仕事後にそのまま一緒に年の瀬の宴会をしても楽しいでしょうし」
「ね?」とにっこりミランダに促され、近隣の店主たちの視線に圧され、銀花亭の店主はギルドへ依頼に赴くのだった。


●今回の参加者

 ea1656 インヒ・ムン(28歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea2276 ティラ・ノクトーン(24歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea2848 紅 茜(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5506 シュヴァーン・ツァーン(25歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea7273 イザベラ・ストラーダ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8250 シャミー・フロイス(21歳・♀・神聖騎士・シフール・イスパニア王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9855 ヒサメ・アルナイル(17歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●年の瀬のお掃除タイム
 かくして、冒険者に大掃除を頼むという無謀にも思える依頼を請け負ってくれた冒険者10人が集まった。
 依頼した店主達は、本当に来てくれた冒険者達を前に嬉しそうな顔も居れば、幾分不安げな顔もいて悲喜交々な様子。
 先んじて銀花亭に着き、依頼された掃除先の店舗を確認していたルメリア・アドミナル(ea8594)に、インヒ・ムン(ea1656)がぽろんと琵琶を弾きつつ告げる。
「お待たせだね♪ 配置も決めてきたよ♪」
「‥‥確認した限り、大丈夫だと想います。この依頼が今年最後の依頼になりそうですわね、気合を入れて頑張りますわ」
 これにて冒険者達は勢ぞろい。店舗ごとの分担を決めた彼ら。
「さぁ大掃除、みんな頑張ろう〜♪ ‥‥けど、冒険者に大掃除を依頼するなんて、豪気な人達がいるんだね」
「そうね、それだけこの間の冒険者さん達が素敵なお仕事をしてくれた証拠じゃないかしら?」
 依頼に応じてくれた冒険者達の中に見知ったティラ・ノクトーン(ea2276)やシュヴァーン・ツァーン(ea5506)を見つけたミランダは、ティラの言葉に微笑みながらそう応じる。
 銀花亭の主人とミランダの笑顔に見送られ‥‥改めて、店主達を交え担当ごとに冒険者達は分かれたのだった。


●食事処‥‥まずは1件目
 どちらかといえば持ち帰りの品が中心で、店内で食べる事も出来ますよという風情の女主人の切り盛りする、他の2店に比べ少々手狭な感のする料理店。
 こちらは、シュヴァーンと紅 茜(ea2848)の担当。
 家事の心得もあり、調理の得意な茜の指示に従いながら、女主人とシュヴァーンはてきぱきと卒なく掃除をこなしていった。
 比較的、日頃から清掃されている店内。思い切ってこんな機会でもなければ出来無いところまで‥‥と磨き始める。
「さて、地道にしっかりまいりましょう」
 おっとり微笑むシュヴァーンに「やっぱり魔法でちょちょいなんてのはないんだねぇ」と笑いながら袖をまくる女主人。
「なかなか難しいかもしれませんね」
 と長い髪を作業しやすく束ねたシュヴァーンは、女主人と共に、掃除の基本『高いところから』、億劫がらず丁寧に1つずつ荷を避けて埃をはたき、棚を拭いていく。
 茜はといえば‥‥料理店のある意味主役、厨房を。
 水周り、火周りは、水垢や油汚れで先行き不安。
「‥‥うーん、仕方ない、かな。‥‥さぁ!がんばっていきましょお!」
 ある程度の汚れは覚悟の上。腕をまくり、気合を入れて。大丈夫、今年はまだあと3日ある♪


●酒場‥‥ここで2件目
 銀花亭と同じくらいの広さの酒場。こちらも小さな舞台があり‥‥まれにミランダもこの店で歌う事があるらしいが。
 こちらの担当は、クリス・ラインハルト(ea2004)、シャミー・フロイス(ea8250)、ティラの3人。家事の得手なシャミーがいるとはいえ、3人組中シフールが2人。
 少々クリスの負担が大きいかもしれないけれど、そこはそれ。
 クリスは上手く酒場の男手を頼ってテーブル等を動かし、シャミーの指示に従い酒場を掃き清めていく。
 掃除の基本は『上から下』、掃く時は目にそって。
 そしてシフールの2人組、体躯は小さいけれどその分小回りが効くのが利点。
 高い窓を拭いたり、高いところのすす払いをしたり。
「おっそうじ、おっそうじ、楽しいな〜♪ ピカピカ、キュッキュッ♪」
 楽しげなティラの口ずさむ歌に誘われれば、掃除の手も進むもの。そんなティラの歌はちょっぴり呪歌込じりだったのかもしれない。
 シャミーは、高いところの掃除から洗い物までと忙しく。グラスの縁に水滴も残さぬよう磨き上げる。
 まだまだ依頼は始まったばかり♪


●料理店‥‥3件目
「ということで♪、一緒に頑張ろうね♪」
 インヒの笑顔に、笑んで頷く井伊 貴政(ea8384)。
 銀花亭と同じくらいの大きさの料理店。舞台がない分、こちらの方が席数は多い。
 こちらの担当は、インヒ、貴政、ルメリアの3人。
 家事に長けた顔ぶれは居ないが、料理に関しては得手とする顔と知識に長けた顔‥‥大人3人の組み合わせは、多少の困難もきっと大丈夫♪
 何よりそんな3人の組み合わせは依頼した側が見ていて安心して従えるというもの。
 冒険者の力量に見目は関係ないとはいえ、一般人には、体躯の小さな者や幼い者よりも安心さは変わってくる。
 インヒは、食器類をしまう戸棚周りから。貴政は、得手とする厨房周り、そしてルメリアは店舗内の高い照明周りやテーブルや椅子といったところを料理店の店員に頼み上手く手をまわしながら分担し、すすめていった。
 てきぱきとすすめるインヒは「この際だから」と調味料の在庫チェック等も行い、
 調理場周りの掃除から始めた貴政は、のんびりと「期待には応えたいですね〜」と時間の許す限り器具を磨き始める。
 得た知識をそのまま実践とはなかなか上手くいかぬもの‥‥「拭き掃除の基本はこうですわね」と、ルメリアも悪戦苦闘しながらも『掃除の基本』に従いすすめていった。
 時間はまだまだ、もうちょっと♪


●酒屋‥‥これにて依頼された店舗は最後
 文字通り酒屋。店先は広くない、けれど店の中は、奥は‥‥半ば倉庫のような様相で。
 そんな酒屋の担当は、ヒサメ・アルナイル(ea9855)とイザベラ・ストラーダ(ea7273)の2人。
 仲間たちの中で1番家事に詳しいヒサメが、酒屋を担当したのはよい采配だったのかもしれない。
「‥‥随分とまあ難敵じゃねーの?」
「依頼だし、やるしかないでしょ?」
 並ぶ酒棚を見上げ呟かれる言葉は、内容ほど悲壮な響きもなく。イザベラの応えにヒサメは肩をすくめ。
「ま、精々頑張らせて貰おうじゃん」
 掃除に当たり、作業をしやすくといってバンダナで特徴的なその耳を隠し酒屋を訪れたヒサメ。その配慮はやはり、パリの街で不要な騒ぎを避けるに必要なもので。
 男ながらに家事に長けたヒサメの指示の元、イザベラと酒場の主人は大掃除を始めるのだった。
 勘と学問の上の知識であたろうとするイザベラに、ヒサメのツッコミ。
「掃除の基本は高い場所からだっての。大掃除なら普段やらねぇトコとかもやらねーとな」
 言いながら、彼自身はミミクリーで腕を文字通り伸ばし、常ならば届き難い箇所などをはたき拭きあげている。
 知識と実践は中々両立しないもので‥‥むう、とはたきを手に、それでも依頼なのだから、とイザベラは上から順に埃を落していった。
「こんな重いものレディに持たせるなんて正気?」
 酒が詰まった樽等、時折イザベラは動かすに厳しいものなどもあるのだが、そこもそれ。
 扱いに慣れた店主や、何より男手であるヒサメも手伝い、端から酒屋を磨き上げていくのだった。
 さて、掃除の期日は年の最後の日だが‥‥。


●掃除の仕上げ。
「あと一番大事なのは店の顔、看板じゃん? これは徹底的に磨いとかねえとな」
 というヒサメの提案に、下ろせる看板は洗い磨き、外せぬものはティラやシャミーが、シフールの羽根を生かしふわり舞い上がり清める。
「綺麗になったね!」
「お疲れさまだね♪」
 すっきりした笑顔で、綺麗になった店を見上げるクリスに笑顔のインヒ。皆思い思いに、この3日の苦労を振り返った。
 貴政と共に掃除道具を片付けてきたヒサメが、勢ぞろいした一同にちょっぴり呆れ。
「‥最後の仕上げ忘れてるだろ? 作業の汚れを落とすべし。‥これで完璧、な?」
「そうそう、彼の言う通り。3日間お疲れ様。疲れたでしょう? 作業や色々落ち着いたら銀花亭にいらっしゃいな」
 華やかな笑みを含んだ声は、ミランダのもの。
 お疲れ様の年越し宴‥‥ある意味、本番はこれからなのだろう♪


●れっつ宴会
 宴会について、報酬は手伝った店からの現物支給で一緒に楽しもうというクリスからの申し入れ。
 それには店主達も中々首を縦に振らなかった。報酬との兼ね合いが折り合わなかったというべきか。
「クリスから話は聞いたが、あたしらも商売をしている身だしね。依頼として綺麗にしてもらったんだ、これはこれさね」
 けれど、クリスも引かなかった。彼女としても吟遊詩人の意地がある。短くは無い交渉時間の結果、互いに半々で譲歩する。
 その分も盛り上げるぞ、とクリス達のやる気を可燃させることにもなったのだけれど。

「パーティの進行はクリスにお任せで♪」
 差し入れの料理を持ち込み、宴に相応しい掃除の装いとは異なる華麗な衣装に身を包み、インヒが軽やかに低く響く琵琶をかき鳴らす。
「今年も、もう終わりですわね。新しき年に向かって乾杯」
 というルメリアの言葉に発し、杯を掲げる声があちこちであがる。
「それではわたくしが前座をつとめさせていただきますわね」
 シュヴァーンが手にするのは、普段彼女が愛用している竪琴ではなく琵琶。
「わたくしもまだ慣れた訳ではありませんが、そのあたりは珍しさをもってご容赦頂ければ幸いです」
 そう謙遜するものの、吟遊に長けた彼女の事‥‥宴の始まりの時間に合った落ち着いた曲を奏で始めた。
 インヒも合わせるように奏で始め、2種の異国の楽器の音が銀花亭に響き渡る。
 いつしか店内は、空席が僅か程。

 茜が手ずから焼いたパン、インヒのパスタ、貴政やヒサメが厨房で腕をふるう料理に、銀花亭の主人手製の大雑把料理。
 そして冒険者達が依頼を受けた料理店や、食事処の差し入れも並べば宴のテーブルは賑やかで。
 無論、酒屋の差入もあって酒も十分に振舞われている。

 店内には、シュヴァーンとインヒの琵琶の音に、ティラがオカリナを奏でのせる。
 クリスの横笛の音が軽やかに重なる音の響きに、ルメリアや銀花亭にいる客達の手拍子が拍子をあわせた。
 そんな上手達の演奏が溢れれば、店内の盛り上がりも年越しを前に喧騒は高らかに。
 賑わいを楽しそうに、舞台に近い席で眺めていたミランダの前へ、ティラがふわり舞い降りて。
「良い演奏があれば、当然歌姫さんの歌も聞きたいよね? ミランダさん、お願いできないかな〜?」
「あら。これだけの歌上手なお姫様達に囲まれたら、流石に私も照れるわね」
 けれど、これは年の瀬の宴。一夜限りの素敵な歌い手と共に舞台に上がれるのはないかも‥‥とティラを誘い、舞台でシュヴァーンらと共にミランダもその甘やかな声を聞かせるのだった。

 かくして宴は、絶好調。年の瀬前に燃えつきかねない勢いで。
 そんな勢いと共に、舞台の上も交代し‥‥登場したのは『ショコラガールズ』の面々。
 シャミー、イザベラ、茜の3人である。茜の用意した衣装に身を包み、銀花亭の舞台を完全占拠だ。
 ショコラガールズはパリの公園をホームグラウンドにする美少女(?)アイドルユニット‥‥そんなうたい文句で登場した3人を店内の客達は歓声をもって出迎えた。
「みんな〜こ〜んばんわ〜!!『ショコラガールズ』は今日も元気全開だよ!!よ〜し年越しから新年までの舞台いっくよ〜!!」
 イザベラの口上に、口笛が吹き鳴る。
 派手なリズムの彼女達のオリジナルの楽曲。
 シャミーの歌に、イザベラが合わせ踊る。
 そんな賑やかな舞台に茜も誘われるようにうずうずと。
「いいんですか? 踊っちゃいますよぉ?」
「もうじき年もあけるんだ、楽しいのが1番さね!」
 客の一人が茜を促し踊りをねだる。
 音楽に合わせ体が動く、それは楽しげな人々の気持ちを賑やかに盛り上げる音を彼女らが興じられているという事。
 楽しむ笑顔は何より笑みを誘うものだから。『ショコラガールズ』の舞台は、新年明けてからが本番っ♪


 一方、厨房では男3人、細々と働いていた。
 銀花亭の店主と貴政、そして客の前に出る事を厭ったヒサメの3人である。
「貴政がまた来てくれて嬉しい限りだな。俺の腕もあがったかみてってくれよ」
「お元気そうで何よりですね〜。ああ、だけど時間が合ったら年越し蕎麦でも作りたかったんですけどね〜」
 請負う貴政は、苦笑交じりに。
「年越し蕎麦?」
 ヒサメの問い掛けに貴政は「故郷の習慣」と説明した。
 小麦粉ならばまだしも‥‥麺汁に適した材料も難しく。貴政にとって代替品で作る事は容易いのだが。
 何よりは皆にも試して貰いたい気持ちが1番だったのだけれど。
「まあ、年が明けたら餅つきも良いかもしれませんね」
「ジャパンには、面白そうな習慣がたくさんありそうだな」
 異国には聞きなれない言葉や風習がたくさんある。共にパリという異国で新年を迎える彼らは賑わう店内に笑みを零し。
「野郎が顔つきあわせて辛気くせぇな‥‥ほら、表の連中にゃ内緒でとっときの酒あけてやるから」
「いいですね〜」のほほんと応じる貴政に「雪でも降りゃ気分出ていいんだけどな」とヒサメ。
 たまさか注文に追われつつも、宴を彼らなりに楽しむのだろう。


「来年はオカリナ以外にも扱える楽器を増やしたいな。人の楽器は持ち運べないのが難点だもん、シフールも大変だよ」
 微苦笑を浮かべるティラに、ミランダが包みを1つ差し出した。
 小首を傾げるティラに、ミランダは「封を開けるのは、新年になったらね」と片目をつぶって見せた。
「もうすぐ、年が明けます。皆さん、用意はいいですか?」
 クリスの高らかな声が響き。それに合せて客達の楽しげな声が重なり。インヒの琵琶の音が更に周囲を盛り上げる。
 年が明けた事を告げる鐘の音が、皆の祝いの声と共に辺りに響く。
「今年も宜しくだよー♪」

――A HAPPY NEW YEAR 1000!